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弾突バトル!フリックス・アレイ 第34話

第34話「リサの焦り 悪魔のささやき」
 
 
 突如猛威を振るい始めたスクール生たちによるフリックス破壊活動。
 それを脅威に感じたバン達は協力して闘う事にしたのだ。
 
 とあるデパートの屋上。
 『フリックス体験会』と看板が掲げられており、いくつもテーブルが並んでいる。
 そこではフリックスを初めて触る子供たちを中心にワイワイと楽しげな喧噪に包まれていたのだが。
 目つきの悪い三人の少年達の乱入によってその声は悲鳴に変わる。
 
「うわぁ、もうやめてよ!!」
 テーブルを挟んで、小さな子が泣きわめく。
 そんな子の機体に狙いを定め、目つきの悪い少年が口元を緩ませた。
「うるせぇ!これがバトルってもんなんだ……それを教えてやるってんだからありがたく思え!」
 自分勝手な理屈をわめきながら、悪少年がシュートをしようとした瞬間……!
「待ちやがれぇぇぇ!!!」
 どこからともなく怒声と青い機体が飛んできた。
 
 バンッ!!
 青い機体は悪少年がシュートしようとした機体を弾き飛ばした。
「な、なにしやがる!!」
 悪少年は反射的に、青い機体が飛んできた方向へ身体を向けた。
 そこに立っていたのは、バン、剛志、レイジ、リサの四人だった。
 バンは、壁に反射して戻ってきたディフィートヴィクターをキャッチすると、悪少年三人組を指さして啖呵を切った。
「やいやい!こんな初心者相手にロクでもない事しやがって!!」
 バンに続いて、剛志が仁王立ちして叫ぶ。
「そんなにバトルがしたいんなら、ワシらが相手になってやるじゃ!!」
 すると、悪少年達はバン達の行動に何か覚えがあるのか、多少たじろいだ。
「げっ、もしかしてこいつらが連絡網に書いてあった……」
「俺たちスクール生の邪魔をしてる凄腕のフリッカーか!」
「でも、なんで俺達がここにいる事が分かっちまったんだ!?まだなんもしてねぇのに、情報早すぎだろ!!」
 悪少年達が口々に言うと、レイジが胸を張って答えた。 
「ふふふ、この僕、藤堂家の情報網をなめてもらっちゃ困るよ!」
「っ!」
 悪少年達はしばらく顔を見合わせていたが、覚悟を決めたのかバン達へガンを飛ばした。
「ちっ、しょうがねぇ!こうなったらてめぇらから先に血祭りにあげてやる!」
「こんなザコどもでポイント稼ぐより、お前ら倒した方が配点高いしな!」
「スクールでの訓練の成果を見せてやる!」
 悪少年三人が機体を構え、それぞれ別のテーブルにつく。
「おっしゃ!行くぜ!」
「おう!」
「うん!」
 バン、剛志、レイジは、それぞれテーブルについた……あれ。
「……私は」
 人数が余ってしまい、リサは手持無沙汰になってしまった。
 それに気づいた三人はバツの悪そうな顔をする。
「あ、わりぃリサ。余っちまった」
「まぁ、お前さんは戦わずに済むならスクール生と関わらん方がええじゃろ」
「ここは、新型機の僕たちに任せて!」
 次々に言いくるめられ、リサは反論できなかった。
「……うん」
 リサは不満げにうなずくと、皆のバトルを観戦する事にした。
 
 バンのバトル。
 まず先にマインセットする。
 バンはマインを活用する戦い方はしないので、フィールドの端にセット。
 対戦相手の悪少年もフィールドの端にマインをセットした。
「一発で決めてやるぜ!!」
 二人がフィールドの角に機体を置いてシュートを構える。
 
「「アクティブシュート!!」」
 
 バシュッ!!!
 やや相手寄りのフィールド中央で二機が激突する。
 ヴィクターの方が打撃力が強いのだが、若干狙いが逸れていたため、力の方向が横に逸れて半回転しながら、左右に分かれた。
「くっそぉ!飛ばせなかった!!」
「あ、っぶねぇ……なんとか急所外した」
 しかし、スタート位置からより進んでいるのは当然ヴィクターだ。
「へへっ、でも先攻は俺だぜ!これで決めてやるぜ!!」
 バンはヴィクターの向きを変えて、相手機体へ狙いを定める。
 相手機体から場外までの距離はかなり離れているが、ヴィクターから相手機体までの距離はさほど離れていない。
 そして、相手機体は直角な横っ腹を晒している。力を受け流される心配はなさそうだ。
「いっけぇ!!!」
 バンは力いっぱいヴィクターをシュートした。
 バキィ!!
 ヴィクターの剣が相手機体のドテッ腹にヒットする。
「うわあああああ!!!!」
 ぶつかった瞬間にバネで伸びた剣によって、場外までスッ飛ばされてしまった。
「く、くそぉ……!」
「よっしゃ!あと1だ!!」
 相手はフリップアウトによって2ダメージ受けてしまった。
 
 そして仕切り直しのアクティブシュートだ。
「まともにぶつかってたら負ける……!」
「いくぜ!」
「「アクティブシュート!!」」
 
 バシュッ!!!
 悪少年はバンのパワーシュートを恐れて、軌道を逸らした。
「あぁ、力み過ぎた!!!」
 しかし、プレッシャーに負けたのか、力加減をミスってしまいそのまま場外してしまった。
 一方のヴィクターは対角線の角……つまり、相手のスタート位置でフロントの剣を外へ突き出しながらもなんとか落ちずに耐えていた。
「あっぶねぇ……!けど、俺の勝ちだぜ!」
 相手は自滅によって1ダメージ。合計3ダメージ受けたので敗北だ。
 
 一方剛志の試合。
 
「「アクティブシュート!!」」
 
 バキィ!!!
「あぁ!!」
 グランドギガの強烈な一撃がアクティブのぶつかり合いで相手を場外まで弾き飛ばす。
「どうじゃぁ!!グランドギガの力は!」
「くっ、だったら次は躱してやる……!」
 まともにぶつかってたらマズいと判断したのか、仕切り直しの際、グランドギガとぶつからないような位置取りで狙いを定めた。
 
「「アクティブシュート!!」」
 
「これでどうだ!!」
「甘いわっ!!」
 バキィィ!!!
 軌道をずらしたはずなのに、グランドギガの攻撃はヒットした。
「そ、そんなぁ……!」
「わしのグランドギガの二砲ハンマーからは簡単に逃げられんぞ!!」
「く、くそぉ!」
 
 再びアクティブシュート。
 今度も中央で激突するが、場外はさせられなかった。
 しかし、先攻は当然グランドギガだ。
 相手からの距離は遠く、その相手を場外させられる距離もそこそこあった。
 さすがのグランドギガでも一撃で場外させるのは難しそうだ。
「いくぞ、グランドギガ!!」
 バキィ!!
 が、マインが良い位置にあったため、相手機体を弾き飛ばして、マインにぶつけた。
 これで相手のHPは0だ。
 
 そしてお次はレイジの試合。
 
「「アクティブシュート!!」」
 二機のフリックスが同時に放たれる。 
「ファントムレイダー!!」
 中央で激突した瞬間、ファントムレイダーは相手機体を乗り上げて飛び上がった。
「なにぃ!?」
 ぶつかって減速する事を想定してシュートしたのか、ファントムレイダーの思わぬ回避によって自滅してしまった。
「うぐぐ、くそぉ……!」
 そして仕切り直しのアクティブ。
 今度は慎重に撃ったために自滅はしないものの、その分距離が稼げなかった。
「僕が先攻だね」
「くっ!」
「いけっ!」
 ファントムレイダーは、相手機体を乗り越えてその先にあるマインにヒットする。
 これで相手のHPは残り1だ。
「っざけやがって!!」
 相手のターン。ファントムレイダーの近くにマインがあるため、反撃でマインヒットを決めた。
 しかし、この時点で1ダメ与えた所でもう勝機はない。
「畜生……!」
「これで、決めるぞ!ファントムレイダー!!!」
 ファントムレイダーのシュートによってあっさりマインヒット。
 レイジの勝利だ。
 
 三つのバトルが全て終了。
 バン達の圧勝だ。
「くっそぉ、覚えてろよ!!」
 お決まりのセリフを吐きながら、スクールの悪い少年達は去って行った。
 
「へっへーん!俺達がいる限り、もう悪い事は出来ないぜ!!」
 悪少年たちの後姿を見ながら、バンは胸を張った。
「僕たちの勝ちだね、剛志!」
「おう、手ごたえのない相手じゃったな」
 互いに勝利をたたえ合うバン達だったが。
 リサは少し離れた所でその様子を寂し気に眺めていた。
「……」
 
 
 そして翌日。
 放課後にバン達はいつもの公園に集まっていた。
 
「今日は今のとこ事件は起きてないみたいだけど、スクールの奴らとの戦いに備えて、俺達もガンガン鍛えとかないとな!」
「じゃな!特訓あるのみじゃ!!」
 
 と言うわけで、今日は四人集まって特訓をするようだ。
 
 フィールドの四角で四人が機体を構える。
 
「「「「アクティブシュート!!!」」」」
 
 四つの機体が同時にはなたれ、中央で激突する。
 
 バーーーーン!!!
 実力伯仲……と思いきや、赤い機体が衝撃に耐えきれずに早々と場外した。
 
「ああ……!」
「フレイムウェイバー、自滅だね」
 アクティブシュート時の場外は自滅扱いとなる。自滅は1ダメージだ。
「くぅぅ!さっすが新型のグランドギガとファントムレイダーだぜ!ぶつかった時の衝撃がジンジン来るぜ!!」
「はっはっは!まだまだこんなもんじゃないぞ!!」
 場外したリサは気にせず、バン達は盛り上がっている。
「……」
 とりあえず、仕切り直しだ。
 
「「「「アクティブシュート!!!」」」」
 
「っ!」
 バキィ!!!
 今度はリサは若干軌道をずらし、直撃を避けた。
 しかし、そのせいでターンの順番は最後になってしまった。
 
「まずは、僕の番だね!」
 乗り上げ形状でディフィートヴィクターの突進を飛び越えたファントムレイダーが一番進んでいた。
「いけっ!」
 バシュッ!!
 ファントムレイダーはマインにぶつかったあとフレイムウェイバーにヒットした。
「あっ!」
「よしっ!」
「フレイムウェイバーに1ダメージじゃな!」
「……!」
 リサは悔しそうに顔をゆがませる。
 が、試合はまだ続行だ。
「次は俺の番だぜ!!」
 バンがディフィートヴィクターをグランドギガに照準を合わせてシュートを放った。
「いっけぇぇ!!」
 勢いよくブッ飛んで行く。
 その軌道の途中、フレイムウェイバーがあって、ついでにかすったのだが、バンの眼中にはグランドギガしかなかった。
 
 バーーーン!!
 グランドギガはディフィートヴィクターのアタックを受けて大きく弾かれるものの、場外には至らなかった。
「げぇ、耐えやがった……!」
「さすがバンじゃ、なかなかの攻撃じゃのぅ!じゃが、こんな位置からグランドギガをフリップアウトさせようなんて甘いわ!」
「ちぇ、行けると思ったのになぁ」
 
 ボンッ!
 バンが悔しがっていると、不意にマインヒットした音が聞こえた。
「ありゃ?」
 観ると、バンが弾き飛ばしたフレイムウェイバーがマインに当たっていたようだ。
「あ、リサマインヒットしてたのか。ラッキー!」
 まるでリサの事など気にしていないかのような、ついでの喜び。
 それにリサは、胸の奥で痛みを感じた。
「じゃあ、フレイムウェイバーはHP0で撃沈だね」
 レイジがそういうと、リサは俯いたままフレイムウェイバーを手に取った。
「……」
「おーし、続き続き!」
「次はワシのターンじゃ!覚悟しとれよ、バン!」
「無理無理!お前の位置からの方がフリップアウトは難しいじゃねぇか!!」
 
 敗北したリサを放っておいて盛り上がるバン達。
 リサは、まるで対岸の火事のように無言でそれを眺めていた。
「……!」
 そして、奥歯をかみしめると、そのまま踵を返してトボトボと公園を出て行った。
 
 行く当てがあるわけではなかった。
 ただ感情に任せた行動であることも自覚していた。
 それでも、今更あの場に戻ろうという気は起きなかった。
 一人になりたかったのだろうか。
 それとも、呼び止めて欲しかったのだろうか。気付いてほしかったのだろうか。
 そんな事も分からないまま、リサはただ公園とは逆の方向をただ歩いていた。
 
 住宅地を抜け、大通りに出ようとしたところで、後ろから温厚そうな少年の声に呼び止められた。
「あのー、少しよろしいですか?」
「(びくっ)!」
 思わぬ所で声をかけられてしまい、反射的に身体がビクッと強張ってしまった。
「あぁ、すみません。驚かせるつもりはなかったのですが……」
 そんなリサの様子を察したのか、声の主は申し訳なさそうに謝ってきた。
 リサはその無害そうな声音に少し落ち着き、振り向いた。
 そこには、長身で優しそうな表情をした少年がいた。歳はリサと同じくらいだろうか。穏やかな表情は落ち着いた大人びた雰囲気を漂わせている。
「いえ。私に、何か用ですか……?」
 リサは少し警戒しながら控えめに答えた。
「申し遅れました。私、豊臣イツキと言います。フリックスの研究者なのですが……あなた、遠山リサさんですよね?」
「……なんで私の名前を」
 リサの警戒は解けない。
 イツキはそれを察した上で胡散臭いくらいの人の良い笑みを浮かべた。
「あなたは有名人ですからね。今話題の遠山フリッカーズスクールの長、遠山段治郎の孫娘にして、最強のフリッカー。その圧倒的テクニックの前には何人たりとも敵わない」
「……」
「ですが、最近は戦績が良くない」
「っ!」
「おっと、これは失礼。フリックスの大会は逐一チェックしているものですから。しかし、以前のあなたならどんな大会でも優勝していたはずが、最近は優勝を逃しているのは純然たる事実」
「それは……」
「気を悪くしたのならすみません。何もあなたを貶そうとしているのではありません。むしろ逆です。あなたが素晴らしいフリッカーと言う事に変わりはない。誰もあなたには敵わない。これも、いえ、これこそが真実です」
「だけど」
 実際に戦績が振るわないと言ったのはイツキの方だ。その疑問を口にする前に答えが提示された。
「条件が同じならば、ですけどね」
「条件……?」
 意味深なその言葉に、リサは首を傾げた。
「……ここではなんです。場所を変えましょうか」
 そういって、イツキは歩き出した。リサは少し躊躇しながらもその後をついていった。
 
 二人は近所の小さな広場にやってきた。そこの屋根付きの休憩所の椅子に並んで腰掛ける。
「では、単刀直入に本題に入りましょうか。あなたが勝てない原因、それは簡単です。機体性能の差」
「機体、性能……」
 言われて、リサは思わずフレイムウェイバーを取り出して眺めた。
「えぇ。フレイムウェイバーは決して弱いフリックスではありません。が、最近猛威を振るっている機体に対しては明らかに力不足です」
「っ!」
 リサは、ディフィートヴィクター、グランドギガ、ファントムレイダーの性能を頭に浮かべて、悔し気にうつむいた。
「自覚はあるようですね」
「……」
 リサは答えなかった。だが、沈黙は肯定しているようなものだ。 
「そこで、私があなた用に開発した新しいフリックスがあります。これを使えば、かつてのようにあなたは最強のフリッカーへ舞い戻る事が出来るでしょう」
 そう言って、イツキは懐からゴツい見た目のフリックスを取り出してリサの目の前に置いた。
「どうして、これを私に?」
 リサはそれを受け取らず、視線をフリックスに向けたままイツキへ問いかけた。
「許せないからですよ。強いフリッカーが、たかだか機体性能差だけで埋もれてしまうと言う事が」
 イツキの考えは分かった。それでもリサの態度は煮え切らない。
「だけど、私には……」
 手の中にあるフレイムウェイバーに視線を移す。
「心配ありません。その機体は見た目こそ大きく違いますが、フレイムウェイバーの特性を元に作り上げたものです。あなたの手にもすぐ馴染むはず」
「……」
 そうは言うものの、弱いと言うだけで簡単に愛機を乗り換えていいものなのか……これまで一緒に戦ってきたフレイムウェイバーを……。
「試しに使ってみて、そのフリックスが使い物にならなければ、またフレイムウェイバーに変えれば良い。何も損する事はありませんよ?それに……」
 イツキは声のトーンを落として、リサの耳元でささやいた。
「このままでは、段田バンはいずれあなたをライバルとしてみなくなるでしょうね」
「っ!」
 そういわれた瞬間、リサは反射的に差し出されたフリックスを手に取った。
 それをみて、イツキは満足げにほくそ笑んだ。
 
 そして一方の、バン達が戦っている公園。
 
「いっくぜぇ!ブースター・インパクトォォォ!!!」
 バンの必殺技、ブースターインパクトが炸裂し、グランドギガとファントムレイダーを二機同時にフリップアウトした。
「おっしゃあ!俺の勝ちぃ!!」
「くぅぅ、相変わらずの攻撃力じゃ……!」
「うぅ、さすがに耐え切れなかった」
 グランドギガとファントムレイダーを拾いながら、剛志とレイジは肩を落とした。
「へへへっ、でもグランドギガもファントムレイダーもめちゃくちゃ強かったぜ。俺達ならどんだけスクール生が暴れても問題ないな!」
「じゃな!」
「うん!」
「……って、そういやリサは?」
 ここでようやくバンはリサが不在な事に気付いた。
「そういえば、フレイムウェイバーが撃沈してから姿みてないのぅ」
「トイレにでも行ったのかな?」
 しかし、この公園にトイレはない。近くのコンビニにでも行ったのだろうか。
「ったくリサの奴。一人で勝手にフラフラして不用心だな……」
 悪態を付きながら、バンが公園の外へ行こうとしたら、リサが公園へ入ってきた。
「っと、リサ……なんだよどこ行ってたんだよ。一人でフラフラしたらダメだろぉ」
 リサへ文句を言いながら近づいたバンは、その雰囲気の違いに口を閉じた。
「バン……」
 リサは俯きながら口を開いた。
「ど、どうしたんだよ?」
「私と、戦って……」
「へ?」
「私と、戦え!!!」
 リサは、顔を上げてバンをにらみつけると、イツキにもらったフリックスを突きつけた。
「お、お前、そのフリックスは……?」
 リサの気迫にたじろぎながらも、バンは疑問を口にした。
「戦え!!!!」
 有無を言わさぬその迫力にバンの疑問はかき消される。
「あ、あぁ……分かった。勝負だぜ!」
 何を言っても無駄だろう。バンは気を引き締めてリサの勝負を受けた。
 
 戸惑いながら、バンはフィールドに付いて、リサと対峙する。
「なんじゃ、リサの奴急にどうしたんじゃ?」
「なんか、様子が違うね……」
 
「いくぜ!」
 バンとリサが機体を構える。
「「アクティブ・シュート!!」」
 バシュッ!!
 互いにぶつかり合うような軌道でシュートする。
「いっけぇぇぇ!!!」
 バーーーーン!!
 両機、フィールドの中央で激突する。
「くっ!すげぇパワーだ……!」
「あのパワー、ほんとにリサなのか?!」
「フレイムウェイバーじゃ絶対に出せない力だ……!」
 リサとは思えない攻撃力にバン達は驚愕した。
 しかし、シュートの結果はディフィートヴィクターの方が若干進んでいた。
「バンの先攻……だけど、凄い力……」
 リサ自身もイツキから託されたフリックスの力に驚いている。
「すっげぇぜリサ!でもこれで決めてやる!!」
 バンは目の前のリサのフリックス目掛けて猛シュートを放った。
「いっけぇ!!」
 しかし、リサのフリックスはバンの攻撃の力を逸らし、耐えきった。
「なに!?」
「あのバンのシュートを耐えきったじゃと!?」
「防御力も凄い……!」
 次はリサの番だ。
 ディフィート目掛けてシュートを放つ。
「いけっ!」
 バキィ!!
 そこそこの威力でディフィートはフッ飛ぶ。
「くっ!」
 フリップアウトには至らなかったものの、マインにぶつかってしまった。
「アクティブシュートはまぐれじゃなかったって事か。だったら俺も!!」
 バシュッ!!
 お返しにと、バンもリサのフリックスを弾いてマインヒットする。
 
 これで互いにHPは2だ。
「さすが、バン……!」
「へへ、でもすげぇリサ!いつの間にこんな強く……ってか、そんなフリックスどこで手に入れたんだよ?」
「そ、それは……」
「それに、フレイムウェイバーはどうしたんだよ?」
 フレイムウェイバーの事は聞かれたくなかった。だからそれを掻き消すように強く叫んだ。
「……私はっ!」
 リサのターンだ。
 力を籠めてシュートする。
「バンにっ、勝つために!!」
 バキィ!!!
 ディフィートヴィクターはリサの攻撃を受けてまたもマインヒットしてしまった。
「くっ!」
 これでHPは1。このままダメージレースを続けていては勝てない。
「フレイムウェイバーじゃ勝てないから……この機体なら、バンに勝てるから!だから、私は……私は……!」
 弁解にも近いその返事を聞いて、バンの表情が険しくなった。
「なんだよ、それ……!」
 次はバンのターンだ。
 バンはゆっくりとディフィートヴィクターの向きを変える。
「それじゃ、俺に勝つためだけに、フレイムウェイバーを使わないってのかよ……!」
「……」
 リサは何も言えずに顔をそむける。
「フレイムウェイバーは、ずっと一緒に戦ってきた相棒じゃなかったのかよ!勝てないってだけで、簡単に乗り換えられちゃうのかよ!」
「バンには分からないよ!!」
 バンに責められ、リサは悲痛に叫んだ。
「ヴィクターのまま、強くなれたバンには……分からないよ……!」
「俺は!強いからヴィクターを使ってんじゃねぇ!ヴィクターと一緒だから強くなれたんだ!!リサだってそうだろ!フレイムウェイバーと一緒に強くなってきたんじゃねぇのかよ!そんな簡単に乗り換えて、それで勝って、ほんとに勝ったって胸張れんのかよ!!」
 バンは気合いを入れて、シュートの構えをとった。
「俺は、こんなリサに勝ちたかったんじゃねぇ!!だから絶対に勝つ!勝って、俺のライバルを取り戻す!!!」
「え……」
「フリップスペル!デスペレーションリバース発動!!」

 デスペレーションリバース……視界を遮ってシュートする代わりに自滅してもシュートした位置へ戻せる。フリップアウトやマインヒットは有効。使用後、バリケードを出すとゾーンに置く。
 自滅が無効になるので力の限りシュートする事が出来るパワーファイター向けのスペルだ。

 バンの目の周りに闇の瘴気が立ち込める。これで視界が奪われるようだ。

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弾突バトル!フリックス・アレイ 第33話

第33話「ステージを駆ける閃光!」
  
 
 突如公園に現れた織田ユウタ。
 そんなユウタへ、新型フリックスを引っ提げた剛志とレイジがリベンジマッチを申し込んだ。
 
「君達相手なら、二人がかりでも楽勝だよ」
「ずいぶんと舐められたもんじゃな……とは言え、このまま普通に2VS1じゃワシらが納得いかん」
「だからこうしよう。HPは僕と剛志二人で共有して3点。僕と剛志、どちらがダメージを受けてもHPは減るし、同時にダメージ受ければその分ダメージは増えるよ。
そして、ターンは僕と剛志で共通って事でどうかな?」
 レイジがそう提案するとユウタは不敵に笑った。
「へぇ、じゃあ同時にフリップアウトさせれば、一気に4ダメージで即死だね」
 それに対して、剛志は挑発的に返す。
「出来ればな?」
「あはは。まぁ君たちがそれでいいなら僕は構わないよ!どちらにしても壊しちゃうんだし!」HPもダメージも関係ないよ!
 笑いながらそう言って、ユウタは公園端に設置されているフィールドについた。
 ユウタを一睨みしたのち、剛志とレイジもフィールドの反対側についた。
 
「剛志、レイジ!負けんなよ!」
 バンが声援を飛ばす。
「……大丈夫かな」
 その隣のリサは心配そうにつぶやいた。
「へっ、剛志とレイジが二人がかりで戦うんだぜ!負けるわけねぇ!」
「でも、一見二人で戦う方が有利に思えるけど。このルールだと、的が増えてるのと同じだから」
「へ?どういう事だ?」
「アクティブバトルは、1ターン中、1台のフリックスに何回マインがヒットしても1ダメージなのは変わらないし。フリップアウトさせても、2ダメージしか与えられない」
 例え、剛志とレイジのターンは共有しているので、同時にマインをヒットさせても、1ダメージは1ダメージ。
 そして、フリップアウトさせた場合も2ダメージに変化はない。
 せめてターンが分かれていれば、二人連続でダメージを与える事が出来るのだが……。
「反対に相手は、同時に二人にダメージを与えた場合、その分ダメージは加算される」
 ユウタが剛志とレイジ両方にマインをヒットさせれば、ダメージは加算されて2ダメージになる。
 片方にマインをヒット、片方をフリップアウトさせれば、一気に3ダメージ与える事になり、その時点で試合終了だ。
「物理的な力なら二機で攻めた方が分有利だけど、一旦攻め込まれたら一気にHPを減らされちゃう」
「マジかよ……!でも、って事は攻められなきゃいいって事だろ!あいつらなら問題ないぜ!!」
 そもそもこのルールは剛志とレイジが提案した事だ。
 2VS1と言う状況でフリッカーとしてのプライドを守るためと言うのもあるだろうが、勝機が無ければわざわざ不利になる条件は提示しない。
 
 そんな話をしている間に、剛志たちはマインをセットしてアクティブシュートの構えに入っていた。
 
「「「3、2、1、アクティブシュート!!!」」」
 
 3体のフリックスがフィールド中央で激突。そして中央に集められていたマインも一気にはじけ飛んであらぬ方向へ飛んでいく。
 
 バーーーーン!!!
 直接激突したのは、グランドギガとタイダルボア。ファントムレイダーは船のように相手に乗り上げるような形状を利用して飛び上がった。
 その結果、ファントムレイダーが最もスタート位置から離れている。
「先攻は……ファントムレイダーか!」
「ファントムレイダー……ミラージュレイダーよりも洗練されてる……」
 リサは興味深げにファントムレイダーを観る。
 
「そ、そんな……!」
 ユウタは驚愕して目を見開いた。
 それは、先攻を取られたからではない。
 タイダルボアとグランドギガが、ほぼ同じ位置で止まっていたからだ。
 前回は、あっさり弾き飛ばせたはずなのに。

「言ったじゃろう、パワーアップしとるとな!」
 ユウタの驚愕の意味を察した剛志がニッと笑う。
「い、良いから早く撃てばいいでしょ!」
 ユウタはふてくされるように言った。
 ターンはチームごとで、二人ともシュートし終わればターン終了。剛志とレイジはどの順番でどんなタイミングで撃っても自由だ。
 
「じゃ、ワシから行くぞレイジ!」
「うん!」
「はぁぁぁぁ!!砕け、グランドギガ!!!」
 グランドギガの近距離シュートが、タイダルボアの真正面にヒットし、そのまま押し出していく。
「こ、堪えろ!タイダルボア!!!」
 ユウタも負けじと防御力を上げていくが、グランドギガの勢いは凄まじく、押されていく。
 
「すっげぇぜ剛志!ハンマーギガの時よりめちゃくちゃパワーアップしてる!!」
「うん!これならいけるかも……!」
 バンとリサが歓声を上げる。
 
 しかし、どうにかフィールド端で耐えきった。
「ふ、ふぅ……あはは。正面からぶつけたのは失敗だったね!ブレーキシステムは防御にも使えるんだよ!」
「ほう。じゃが、ファントムレイダーのアタックには耐えられるかな?」
「次は僕の番だよ!」
 レイジがファントムレイダーのシュート準備を始める。
「君の攻撃力は大した事なかったからね!この位置じゃマインも使えないし、これに耐えて、次のターンは君をフッ飛ばしてあげるよ!」
「それは、耐えてから言うんじゃな!」
「いけっ!ファントムレイダー!!」
 レイジのファントムレイダーがフィールド端にいるタイダルボアへ真正面から突っ込んでいく。
「ブレーキシステム発動!耐えるんだタイダルボア!!」
 
 ガッ!!
 ファントムレイダーのシュートがヒットする。
 それは大した勢いではなかった。
「この程度……!」
 しかし、タイダルボアはフワッと浮き上がり、ゆっくりとフィールドの外へ弾かれてしまった。
「そ、そんな!なんで?」
 ユウタはびっくりして、ファントムレイダーをよく見てみる。
「か、形が変わってる……!」
 ファントムレイダーは、先ほどまでの乗り上げ形状とは反対に、掬い上げるような形状になっていた。
「僕のファントムレイダーは、フロントとサイドのカウルをひっくり返して、乗り上げと掬い上げの両方を使いこなせるのさ!」
「自慢のブレーキシステムも、地面についてなかったら意味ないからの!!」
 どんなに弱い攻撃でも、踏ん張りが効かない状態でフィールド端で受けてしまえば場外してしまうのは仕方ないだろう。
 
「やった!」
「これでユウタのHPは1だ!剛志、レイジ!このまま決めてやれぇ!!」
 観客のバンとリサも快哉を叫ぶ。
 
「そんな……この僕が押されてるなんて……!」
 思わぬ劣勢に、ユウタは冷や汗を流す。
「うっ、嘘だ!こんなの嘘だ!!」
 ユウタは目をキツく瞑って頭を振ると、タイダルボアを拾った。
 場外したので、再びマインをセットし直してアクティブシュートから仕切り直しだ。
 
「僕の本当の力、見せてあげるよ……!」
 タイダルボアをスタート位置にセットしながら、ユウタは剛志とレイジを睨み付ける。
「気を付けろよ、レイジ。奴の雰囲気はさっきと違うぞ」
「うん。次はマインヒットを狙おう。僕と剛志で連携すれば出来るよ」
「そうじゃな。もう無理にフリップアウト狙う必要はないからな」
 ユウタのHPは残り1なので、マインをヒットさせればそれで終わりだ。
 
「許さないよ……この僕を本気にさせた事、後悔させてあげる……!このアクティブシュートで二機ともブッ壊してやる!!」
 今までにない気合いで、指に力を込めた。
「いくぞっ!!」
 
「「「アクティブシュート!!」」」
 
 バシュッ!!!
 スタート合図とともに三人がフィールド中央へ向かって自機を放つ。
 
 その時だった。
「行くんだな、ベノムエロシオン!」
 バシュッ!
 どこからか、一台の緑色をしたフリックスが飛んできてフィールド中央へ鎮座した。
「「「なにっ!?」」」
 驚く三人がそれへ反応する間もなく、三機が同時にそのフリックスへぶつかった。
 
 ガッ!
 三体のフリックスは突如現れた緑色のフリックスへめり込み、その運動エネルギーを全て吸収されて止まってしまった。
「そんなっ……!」
「なんじゃ、こいつは……!」
 いきなり現れたフリックスへ驚きを隠せない剛志とレイジ。
「あ、あのフリックスは!!」
 バンはそのフリックスに見覚えがあった。
 その場にいた全員が状況を整理するより先に、気色の悪い笑い声が聞こえてくる。
「デュフッ!このバトルはここまでなんだなぁ」
 声がした方を見ると、そこにいたのは徳川ゲンゴだった。
 
「ゲ、ゲンゴ……!どういうつもり!?」
 ユウタがゲンゴへ怒りをあらわにして睨み付けるが、ゲンゴは意に返さずに口を開く。
「ユウタ。そろそろスクールの定例会議の時間なんだな。遅刻すれば減点されるんだな」
「え?」
 ゲンゴに言われるまま、ユウタはおもむろに公園に備えられている柱時計を見上げた。
「あぁ!マズイ!!もうこんな時間なのか!!!」
 時刻を確認すると、ユウタは血相を変えて慌ててタイダルボアを回収した。
「デュフッ、分かったら早く行くんだな」
 ゲンゴはそれだけ言うと、ユウタを置いてトコトコと歩いて行った。
「あわわ、待ってよゲンゴ!!」
 ユウタも急いでその後を追いかけていく。
「あ、待ちやがれ!逃げるなんて卑怯だぞ!!」
 我に返ったバンが、駆けていくユウタへ叫ぶ。
「ふ、ふんだ!今日の所は見逃してあげる!感謝するんだね!!」
 ユウタはそう捨て台詞を残して去って行った。
 
「……なんだ、あいつ。勝手な事言いやがって!」
 せっかく剛志たちがリードしていたのに、バトルを中断して逃げていったユウタへ、バンは悪態をついた。
「まっ、奴らの破壊活動は中断できたんじゃ。それだけでもええじゃろ」
 剛志は気にしていないようだ。
「うん。それに新型機のテストも出来たしね!」
 レイジも今回のバトルで収穫はあったようで、ユウタを逃がした事に関してはもう不問にするつもりのようだ。
「お前らがそういうならいいけどよ」
 当人が気にしてないなら、バンはこれ以上何も言えない。
「だけど、さっきのあの緑色のフリックスは一体なんだったんだろう」
「ワシら3人のシュートを受けてもビクともせんかった。なんちゅう防御力じゃ」
「俺も、前にあいつと会った事があるんだ。まともにバトルした事はねぇけど、ディフィートヴィクターの攻撃も受け止めやがった……」
「あのゲンゴってフリッカーは、ベノムエロシオンって言ってた……どんな機能なんだろう……」
 一同考え込むが、情報が少なすぎて何もわからない。
「まぁ、あいつともいつか戦うだろうし、対策はその時に考えるしかねぇか」
「うん。そうだね。それに、グランドギガとファントムレイダーも凄かったし」
 リサが興味深げに二つのフリックスを見つめる。
「そうじゃろう!なんせ、レイジが藤堂家の総力を結集して開発したんじゃからな!」
 剛志が胸を張って、リサへグランドギガを見せる。
「……これって、バンのディフィートヴィクターと似てる」
「うん。この二機は、バンのディフィートヴィクターを徹底的に分析して、ミラージュレイダーとハンマーギガにフィードバックして設計したんだ」
「ディフィートヴィクターの……」
 それを聞いて、リサは少し複雑な表情で視線を落とし、手の中にあるフレイムウェイバーを見つめた。
「な、なんだよ!勝手にパクるなよ!!」
 自分の機体の能力をライバルに奪われてしまったような気分になって、バンが文句を言う。
「フリックスバトルは開発の段階から始まってるからね!機体開発は情報戦。機能を隠さない方が悪いんだよ」
 レイジがいけしゃあしゃあと言う。
「ぐぐ……!」
「はっはっは!まぁ、そうケチくさい事を言うなぃ。ワシらはなにも、お前らと敵対するつもりでこいつを作ったわけじゃないんじゃからな」
「え、どゆこと?」
 剛志とレイジは、敵と言うほどではないが、フリックスバトルにおいてはライバルだ。決して味方と言うわけではない。
 剛志の言葉が理解できず、バンは首を傾げた。
「バン、リサ。お前たち二人に提案がある」
 剛志は改まって真面目な表情で言った。
「なんだよ?」
「提案って?」
「ワシらとお前たちは、フリックスバトルではライバルじゃ。大会での借りはいずれ返すつもりではおる。そのためにも、本来なら互いに手の内は明かさないように大会まで接触は避けた方がええ。じゃが、ここは一旦休戦協定を結ばんか?」
「きゅうせんきょうてい?」
 バンがたどたどしく繰り返すと、リサが補足してくれた。
「休戦協定。敵同士が一旦戦いを休止して、協力し合う事だよ」
「う、うるせっ!意味くらい知ってらぁ!!」
 バンは顔を真っ赤にして喚くが、リサはそれを無視して剛志達と話を進める。
「つまり、最近のスクールの破壊活動を阻止するために私たちと協力するって事?」
「そうじゃ。やはりお前らの所でもスクールの魔の手が伸びておったようじゃな。嬉しくはないが、話が早くて助かる。お前たちにとっても、奴らの破壊活動は黙ってみておれんはずじゃ」
「そりゃ、まぁそうだけど……」
「僕達がバラバラになるよりも、一ヶ所に固まって一致団結した方が戦力になると思うんだ!」
「でも、一ヶ所に固まってると、広い範囲に対応できなくなるんじゃ……」
 リサが遠慮がちにレイジの言葉へ反論する。
「その点は問題ないぞ。藤堂家の情報網と機動力は甘くみん方がええ」
「うん。何か事件が発生すれば、リアルタイムでその情報が僕の元へ来るようにしてあるんだ。そしてすぐに藤堂家のスーパーカーを手配して現場へ急行できるようにもね!」
「つまり、皆で固まった方がええというよりも、レイジの所に固まった方がええって事じゃな」
「なるほどなぁ。でも、お前らって住んでる町が違うじゃん。俺達引っ越しなんて出来ねぇぞ」
 さすがにフリックスの事で親に引っ越しを頼む事は、バンの家庭事情的には難しい。
「その点は問題ない。引っ越すのはワシらじゃ!」
「近くのマンションを買ったから、僕と剛志はそこに住む事にしたんだ。これから案内するよ」
 レイジはさも当然のように言う。
「マ、マンションって、そんな簡単に買えるのか……?」
 バンが戦々恐々と呟くと、レイジは苦笑いした。
「簡単じゃないよ。親からお小遣い2ヶ月分も前借して、やっと買えたんだから」
「お、おう……」
 さすがのレイジも即座にマンションを買うのには苦労したようだが、それでも2ヶ月分の小遣いでどうにかなってしまったのか。
 ちょっと金銭感覚が狂ってしまいそうだった。
 
 そして、一方のユウタとゲンゴは、スクールまでの道のりを慌てて走っていた。
「あ~も~、間に合うかなぁ~!ゲンゴももうちょっと早く教えてよね!!」
「デュフッ!せっかく教えたのにその言いぐさは酷いんだな」
「わ、悪かったよ!う~、でも惜しいなぁ。あとちょっとであの新型をボコボコに出来たのに~!!」
 ユウタが息を切らしながら悔しそうに言うと、ゲンゴは真顔になって呟いた。
「あのバトル。オデが止めなかったらユウタが負けてたんだな」
 ゲンゴの声は小さかったが、ユウタの耳にはしっかり届いたようで。ユウタはムッとして反論した。
「そ、そんな事ないよ!あと1ターン続いてたら僕が……!!」
「どちらにしても、あのまま続けてたら遅刻確定だったんだな」
「そ、それはそうだけど……!!」
 ユウタは納得できず、悔しそうに歯ぎしりをつづけた。
 
「……あの四人は油断できそうにないんだな」
 悔しそうに唸るユウタをよそに、ゲンゴは意味深に思案していた。
 
 
 
 
        つづく
 
 次回予告
 
「藤堂家の力ってすげー!これさえあれば、いつどこでどれだけスクールの奴らが悪さしても問題ないぜ!
俺達でスクールの奴らをブッ倒そうぜ!な、剛志、レイジ、リサ!……って、あれ、リサ?なんかお前、様子が変だぞ?
 
 次回!『リサの焦り 悪魔のささやき』
 
次回も俺がダントツ一番!!」
 
 
 
 

  

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弾突バトル!フリックス・アレイ 第32話

第32話「共同戦線 剛志とレイジ!」
  
  
 
 山籠もりの特訓の末、レイジは自分の持っている力の使い道を見出した。
 そして、剛志とレイジは新型フリックスを開発するためのプロジェクトをスタートした!
 
「これが、これまでに藤堂家が得たフリックスの研究データ」
 レイジがカチャカチャとキーボードを叩くと、壁に備え付けられている巨大なモニターに様々なフリックスの画像が表示される。
「おぉ、すごいのぅ……!これだけあれば百人力じゃ!」
「あとは、これをどうフィードバックさせるかだね。この研究所は、機械工学、航空力学、化学工業、電気、情報、生物学、量子力学……いろんな分野の設備が整ってあるから、何でもできるよ」
「おおぅ、よく分からんが心強いな……。そういえば、本来やるはずじゃった実験はなんじゃったんじゃ?ワシらがフリックスを開発する事が役に立つんかのぅ?」
「量子力学。調べてみたけど、どうやらフリップスペルもこの分野が関わっているらしい」
 フリップスペルは言語によって因果を捻じ曲げて概念を生み出す呪文のようなもの。その特殊性ゆえに量子力学といった学問と相性がいいのだろう
「ほぅ、フリップスペルと同じか。と言う事はフリックスに関係する事か?」
 フリップスペルと言えばフリックス。それと同じ分野と言う事は、今回行われるはずだった実験もフリックスに関係する事かと思われたが。
「ちょっと違うみたい。ふろんてぃあ?って所からの依頼で、量子力学を使って、人間と物質をシンクロさせる事でアセンションを促して更なる進化を~とかなんとか……」
「なんだか難しそうじゃのう。本当にワシらのフリックス開発が、代わりになるんか?」
「多分大丈夫、理論上フリックスでも代わりになるはずだから。それを応用して最強のフリックスを作る事が出来れば、本来の研究の代替にもなるよ」
「まさに一石二鳥っちゅー事じゃな。で、ワシはどうすればええ?こう見えても、ワシは頭を使う事は苦手じゃぞ」
 自慢げに言う剛志だが、こいつは見たまんまそういうタイプだ。
「剛志は、出来上がった試作機でテストシュートをして、剛志の全力シュートに耐えきれるものでなきゃ意味は無いから」
「おう、任せろい!!」
 剛志は胸を叩いて頷いた。
 次にレイジは集まってくれた技術者たちへ指揮を執る。
「それから、情報処理班はこれまでに集めた研究データをハンマーギガとミラージュレイダーにフィードバックする上での最適化をして!」
 
「了解しました!」
 
「機械工学チームは、そのデータを基に機体を形作って!」
 
「うっす!」
 
「航空力学チームは、機械工学チームの作った形状の空力特性をチェックして!」
 
「はい!」
 
「化学工業チームは、前に提案した新素材の生成を!」
 
「カーボンとアルミハニカムの超薄型コンポジット素材ですね、至急取り掛かります!!」
 
「量子力学チームは、出来上がったフリックスと僕らのシンクロ率を高めるための解析をお願い!」
 
「……」
 量子力学チームは黙ってうなずいた。
 
 そして、全てのチームが作業に取り掛かった。
 
「ハンマーギガとミラージュレイダーを、更にパワーアップさせるうえでの最適なデータは……」
「これなんかどうでしょう?」
 情報処理チームが画像データをレイジに見せる。
「これは、ディフィートヴィクター……」
「この構造を従来の機体へフィードバックすると……」
 カチャカチャとキーボードが叩かれ、モニター上でディフィートヴィクターとハンマーギガ&ミラージュレイダーが融合するような映像が映し出され、徐々に形が整えられる。
「っ!!」
 それは、従来のハンマーギガ、ミラージュレイダーよりも遥かに洗練されたデザインだった。
「よし、とりあえず一旦このデータを形にしよう」
 レイジが目で促すと、機械工学チームが頷いた。
「了解、ぼっちゃん!」
 手際の良い作業で、あっという間に二つのフリックスが出来上がる。
 そして、早速風洞実験を行う。
「空力は問題ない?」
「大丈夫です」
 航空力学の人は眼鏡を光らせながら頷いた。
「よし、剛志、お願い!」
 レイジは二つのフリックスを剛志に渡す。
 
「任せろぃ!!」
 剛志はそれを受け取り、思いっきりシュートする。
 しかし……バゴォォ!と強烈な音を立てて、フリックスは砕けてしまった。
「あ、しまった!すまん!!」
 壊してしまった事に慌てて剛志は謝る。
「ううん。壊れる位強く撃たなきゃ意味ないから。もう一度、剛性をチェックしてやり直しだ!!」
 
 また同じ工程を繰り返してフリックスが形作られる。
 
「よし、行くぞ!」
 剛志がテストシュートする。
 バゴォォ!!
 今度は見事剛志のシュートに耐えきった。
「やったぞ、成功じゃ!!」
 顔をほころばせる剛志だが、レイジは真剣な表情を崩さない。
「量子力学チーム、今のシュートは?」
「フリックスとフリッカーの相性、36%……シンクロしきってはいません」
「失敗か……」
 レイジが落胆する。
「ダメなのか?十分な性能じゃが……」
「うん。物が出来ても、それは僕達のフリックスにはならない」
「そうか……」
「もう少し、従来の愛機と形状を似せれば使いやすくなるかも」
 
 データを改良し、再びフリックスを作り上げる。
 
「いくぞ!」
 ドゴオオオ!と剛志がテストシュートする。
「今のは?」
「38%……まだまだですね」
「くっ、もう一回!」
 
 再び繰り返す。
「はぁぁぁ!!」
 ドゴオオオ!!!
「今のは?」
「35%……下がりましたね」
「ぐっ!」
 
 何度も、何度も繰り返すが、最後の量子力学の部門で躓いてしまう。
「はぁ、はぁ……上手くいかんもんじゃな」
 さすがの剛志も疲れてきている。
「なんでだろう?全て上手くいってるはずなのに、肝心のここがクリアできないんじゃ……!」
 レイジは悔しそうにうつむく。
「なぁ、レイジ。ちょっと気になったんじゃが」
「え?」
「そもそも、なんでその、量子力学とやらが必要なんじゃ?」
「それは、この研究施設を使う条件の一つでもあったし。新型を開発する上で、プラスになりそうだから……」
「そうじゃったな。質問の仕方が悪かった。そもそも量子力学とはなんじゃ?それがどうフリックスのプラスになると考えたんじゃ?」
 剛志からの初歩的な質問に、レイジはちょっと考えてから答える。
「え、それは……。量子力学って言うのは、凄く小さな分子の物理運動の事で、あまりにミクロの世界だから普通の物理学が通じなくて。例えば、普通は物質に干渉する事が無い観るって行動が物理的な影響を……」
「すまん、もっと噛み砕いてくれんか」
「あ、ごめん。つまり、フリックスの性能に僕らの想いをプラスするためのものなんだ」
「なるほどな。ワシらの気持ち……」
 そうつぶやき、剛志は懐から砕けたハンマーギガを取り出した。
「じゃったら、こいつを新型ハンマーギガのパーツとして使ってくれんか?」
 それを聞いて、レイジは慌てて首を振った。
「え、だ、ダメだよ!今作ってる新型は素材から違うし、そもそもその素材が脆かったからタイダルボアの攻撃に耐えられなかったんだし」
「レイジ。矛盾に気づいとるか?」
「え?」
「最後の、量子りきなんちゃらってのは、ワシらの想いが大事じゃと言ったな。じゃが、今作っとる新型フリックスは、性能だけなら優れとるが、どうにも気持ちが乗らんのじゃ。こいつは、ワシのものじゃないとそう感じる」
「剛志の、ものじゃない……」
「ハンマーギガとは長い付き合いじゃからな。自分で初めて手作りしたフリックスじゃ。勝てないから、壊れたからと言って、そう簡単には割り切れん」
「だ、だけど……」
「お前も同じなんじゃないか?いくら元にしてるとは言え、ミラージュレイダーを手放せるのか?」
「……」
 そういわれて、レイジもそっと壊れたミラージュレイダーを取り出した。
「ううん……心の中でしょうがないって割り切ろうと思っても、やっぱり出来ない」
「ワシらの中に未練がある限り、何度やっても無駄じゃ。じゃったら、その未練ごと新型機へブチ込むしかないじゃろ!」
 未練を吹っ切るのではなく、未練も全てひっくるめて新型機へ導入する。
 フリックスと心を通わせるためには、もうこの手段しかない。
「……うん、そうだね。やってみよう」
 レイジは静かにうなずき、その案をメンバーたちに伝えた。
 
 性能だけで考えれば明らかなマイナス要素。最初は誰もが驚き、反対したが、レイジの説得で開発が再開する。
 
 そして、ついに完成した……!
 
「これが、ワシらの新たな相棒か!」
「うん」
「レイジ、お前も一緒にテストシュートせい」
 剛志は、二機のうちの一つをレイジに渡す。
「うん!」
 
 そして、二人はフィールドを挟んで対峙した。
 
「いくぞ!3.2.1……」
 
「「アクティブシュート!!」」
 
 二人の声が重なり、同時にシュートが放たれる。
 
 そして、フィールド中央で激突し弾かれて、フリックスは二人の手元に戻った。
 
「よし、これでどうじゃ!!」
「これなら、どうかな!?」
 剛志とレイジが量子力学チームへ顔を向ける。
 
「機体シンクロ率…99,999999999%。成功ですね」
 それを聞いて、剛志とレイジの顔はほころんだ。
 
「「やったぁぁ!!!」」
 
 ……。
 ………。
 
 そして、翌日。バン達の住んでいる町では……。
 
「オサムとマナブの奴、大丈夫かなぁ」
 いつもの公園で、バンとリサ、そしてその他大勢の子供達が集まっていた。
 が、そこにオサムとマナブの姿が無い。
「学校も休んでたし、見舞いに行っても元気ないままだったし」
「しょうがないよ。フリックスを壊されたんだもん。そう簡単には立ち直れないよ」
「まぁな。俺だってそうだったし……」
 ドライブヴィクターが壊された時の事を思い出す。
 ショックから立ち直るには、自分の力でどうにかするしかない。他人にどうこう出来る問題ではないのだ。
「あいつらのためにも、せめてスクールの奴らをブッ倒さねぇとな!仇は俺が討ってやる……!」
 バンに出来る事と言えばそれくらいしかないだろう。
 グッと拳に力を込めて決意を固めたその時だった。
「へぇ~、誰をブッ倒すんだってぇ?」
 幼い少年の声が近付いてきた。
「え?」
 その方向をみると、そこにいたのは声と同様に幼い少年、織田ユウタが立っていた。
「誰だお前!」
 バンはユウタを観るのは初めてだった。
「あはは!初めましてだね。僕は織田ユウタ!スクールの特待生だよ☆」
 ユウタがニパッと笑いながら答える。
「スクールの……!って事は、お前も人のフリックス壊しまくってるって事か!」
「まぁね。でも皆手ごたえが無さ過ぎてつまらなかったんだ。ハンマーギガとミラージュレイダーも期待外れだったし」
「え?」
 その言葉を聞いて、バンとリサが驚愕する。
「まさかお前、剛志とレイジを襲ったのか……!」
「うん。元タッグバトルチャンピオンだって言うから期待したんだけど、ちょっと拍子抜けだったかな」
 屈託のない顏で、しゃべる言葉はえげつない。
「て、てめぇ……!」
「あ、そういえば、あの二人と知り合いなんだっけ?まぁいいや。今日はゲンゴがこの間仕留め損ねた君たちを壊すために来たんだ☆全くゲンゴってば、好きな番組の留守録忘れるなんてドジだよね~」
「ゴチャゴチャうるせぇ!あのゲンゴの仲間ってんなら容赦しねぇ!剛志とレイジの仇も討ってやる!!」
「バン、落ち着いて」
 頭に血が上りそうになるバンを、リサが諌める。
「あぁ、分かってる。ハンマーギガやミラージュレイダーを倒した相手だ、油断は出来ねぇ」
 バンは慎重になりながらも、ディフィートを握る手に力を込めた。
 
「それじゃ、始めるよ。相手は段田バンと遠山リサの二人でいい?」
「え?2対1かよ……そりゃいくらなんでも……」
「僕は構わないよ~。その方が手っ取り早いし」
「だけどなぁ」
 2対1で勝っても全く嬉しくない。そんなバトルに意味は無いと渋るバンだが……。
「バン、今は競技に拘ってる場合じゃないよ。どんな手段でも、勝って追い返さなきゃ」
「あ、あぁ……!」
 これは競技ではなく戦い、強さを比べる事よりも相手を倒す事の方が大事だ。リサにそう促され、バンがその条件を飲もうとした時だった。
「その勝負、ワシらに譲ってくれんか?」
 良く知った声が聞こえてきた。
「お、お前ら……!」
 そこに現れたのは剛志とレイジだった。
 
「ワシらはそいつに借りがあるんでな」
 剛志がユウタを指さす。
「あれぇ?僕がここにいるってよく分かったねぇ」
「藤堂家の情報網を使えばこんなの簡単だよ」
「ふーん。でも君たちのフリックスは壊したはずじゃ……」
 ユウタが言い切る前に、剛志とレイジが新型フリックスを見せつけた。
「それは……!」
 
「これがワシの新たな相棒、グランドギガ!!」
 グランドギガは、フロントのハンマーが二つに増えており、更に強そうになっていた。
「僕のはファントムレイダー!」
 ファントムレイダーは、ミラージュレイダーとは逆に前と左右の三方位が下へ潜りこむような形状になっていて、受け流し性能が高そうだ。
 
「新しい、フリックス……?」
「へぇ、懲りずに新しいの用意してきたんだ。いいよ、二人纏めて相手してあげる。この二人相手なら楽勝だし、得点が増えてラッキーだよ☆」
 ユウタは屈託のない笑顔でそう言った。
 
「あの時と同じじゃと思ったら、大間違いじゃぞ」
「強くなった僕達を見せてあげる!」
 バトルは、剛志&レイジVSユウタの様相となり
 両者ともに険しい表情でにらみ合った。
  
 
 
 
       つづく
 
 次回予告
 
「新型フリックスを引っ提げた剛志&レイジコンビと織田ユウタのリベンジマッチが始まった!
剛志、レイジ、絶対負けんなよ!新型機の性能を見せてやれ!!
 
 次回!『ステージを駆ける閃光!』
 
次回も俺がダントツ一番!!」
 
 

  

 

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弾突バトル!フリックス・アレイ 第31話

第31話「剛志&レイジ 友情の大特訓!」
  
  
 
 徳川ゲンゴと名乗るフリッカーがホビーショップに屯する子供達のフリックスを破壊してしまった。
 立ち向かったオサムとマナブだが、二人のフリックスも破壊され……。
 バンが到着した時には時すでに遅し、フリックスの残骸が散らばる地獄絵図となっていた。
 
「くそっ、あの野郎……!」
 ゲンゴをブッ倒す事が出来ずに取り逃がしてしまったバンは悔しげにテーブルを叩く。
「バン……あいつは、スクールの特待生って言ってた。Mr.アレイが言ってた奴かな?他にも、こんな奴がいるのかな……」
 フリックスを破壊された悲しみを堪えながら、マナブはバンに聞いた。
「分からねぇ……けどあいつはここに来る前に公園でもフリックスを破壊してやがった……くそっ!ふざけた事しやがって!!」
「……」
「バン、落ち着いて」
 体が震えるほどに拳を握りしめるバンをリサが諌める。
「これが、落ち着いてられっかよ!ディフィートの攻撃も通じねぇし、なんなんだよあいつは!」
「……」
「バン、こういう時こそ冷静にならなきゃ」
「リサは平気なのかよ!あんな奴が現れて!」
「平気じゃないよ、でも……」
「あぁもうちくしょう!!!」
「バンっ!」
 スッ……とリサがバンの頭に手を添えてなでなでした。
「なっ、ななななにすんだよ!!」
 びっくりしたバンが手を払いのけて後ずさる。
「落ち着いた?」
「おちつ……びっくりしたわっ!……けどまぁ、ちょっとは頭冷えた」
 思考が別の方向へブッ飛んだおかげで、ゲンゴへの怒りが多少収まったのだろう。バンは落ち着きを取り戻したようだ。
「そうだよな。ここで怒っててもしょうがないもんな」
 バンはいつもの悪い癖を恥じ、その照れ隠しをするように頭をガシガシ掻いた。
「うん」
 それを見たリサは安堵の表情をした。
「あれ、そういやオサムの奴、さっきっから黙りこくってるけど、どうしたんだ?」
 そういえば、さっきからオサムはずっと黙っている。
 気にかかったバンがオサムの肩に手を置くと、オサムはそのまま力が抜けて倒れてしまった。
「おわぁぁ!大丈夫かオサム!!」
 慌ててオサムの肩を抱えて揺さぶるが、返事が無い。
「気絶、してる……」
 オサムの目は見開かれたまま、瞳孔まで開いていた。
「無理も、無いよ。大事なフリックスが壊されたんだから……僕だって……」
 マナブも、言葉が喉に詰まっている。
「ごめ、ちょっと僕……!」
 言い切る前に、マナブは歯を食いしばって、黙ったまま店を出ていった。
「マナブ……」
 これ以上ここにいたら泣いてしまうと判断したのだろう、マナブは涙を流す前に撤退したようだ。
 そんなマナブへかける言葉も思い浮かばず、バンとリサはその後ろ姿を眺め続けた。
 
 
 一方、剛志の住んでいる山小屋では……。
 濡れタオルを目元に乗せられ、横になっている剛志をレイジが看病していた。
 
「……ん」
 タオルを再び濡らそうと、レイジがタオルを取ったところで剛志が目を開いた。
「剛志っ!気が付いたんだね!!」
 レイジが顔をほころばせる。それを見た剛志は、ゆっくりと言葉を発した。
「レイジか……すまんな、迷惑をかけたようじゃ」
「ううん。僕のほうこそ、剛志に守ってもらってばかりで、何も出来なかった……!」
「何も出来なかったのは、ワシも同じじゃ。全く歯が立たんかった、あのフリックスに」
 前回、織田ユウタとタイダルボアに剛志とレイジはボロボロにされてしまった。
「レイジが倒れたワシをここまで運んだのか?重かったじゃろう……」
「介抱してくれたのは平井だよ。僕もあの後気絶したから、一緒にここまで運んでくれたみたい……」
 平井とはレイジのボディガードの事だ。
 よく見ると部屋の隅でジッと立っている。
「そうか。手間をかけてしまったな、平井さん。礼を言うぞ」
 剛志が部屋の隅の平井へ視線を移して礼を言うと、平井は軽く頷いた。
「僕は、結局何もできない……」
 レイジがポソッと呟いたのだが、剛志は上手く聞き取れなかった。
「ん、なんか言ったか?」
 聞き返すと、レイジは慌てて首を振った。
「ううん、なんでもない」
「そうか。……よ、っと」
 剛志がゆっくりと上半身を起こす。
「だ、大丈夫?」
「おお、これだけ休めば全快じゃ。それに、ジッとしとるわけにはいかんからな」
「え?」
 剛志の言葉の意味が分からず、レイジは首を傾げた。
「あれだけなすすべなくボコボコにされたんじゃ。借りは必ず返さんといかん。じゃがそれ以上に、あんな危険なフリッカーを野放しにするわけにはいかん。
特訓して、次こそ倒すんじゃ!」
「そんな、危険だよ!もう関わらない方が良いよ!!」
「じゃから特訓するんじゃ!今は負けていても、次は必ず勝つ!それがフリッカーってもんじゃろ!!」
「それは、そうだけど……」
 それだけ言うと剛志は立ち上がった。
「世話になったな、平井さん。今度お礼に熊鍋でもご馳走するぞ」
 平井へ会釈して、剛志は小屋を出ようとする。平井は密かに『それは遠慮します』と言っていた。
「待って、剛志!」
 そんな剛志をレイジは呼び止めた。
「なんじゃ?お前も傷が癒えてないじゃろう、早く帰って治療をした方が……」
「僕も、剛志と一緒に特訓する!」
 レイジは真っ直ぐな瞳で剛志を観ながら言った。
「な、なんじゃと?」
「僕も悔しいんだ!何も出来なかったことが!!だから、強くなりたい!!」
 剛志は真剣な表情でレイジを観た。
 レイジの言葉に嘘もいい加減な気持ちも無いようだが……。
「ワシは、遊び半分の生半可な特訓をするつもりはない。覚悟はあるか?」
 剛志が問うとレイジは強く頷いた。
 それを見た剛志は、それ以上何も言わず小屋を出ていく。
 レイジもその後に続こうとすると、同時に平井も動いた。
 ボディガードとして、危険な行動をさせられないと判断したのだろう。
「平井は家に戻って。ここからは僕一人で大丈夫だから」
 そんな平井へ、レイジは淡々と告げた。
「しかし……!」
「いいから!これは、命令だよ」
 平井とレイジ、立場はレイジの方が上だ。そんなレイジの命令とあらば、引き下がらざるを得ない。
「……でしたら、私は小屋へ残ります。特訓の邪魔は致しません。何かあればすぐに連絡をください。それが最大限の譲歩です」
 さすがにボディガードとしての仕事を放棄するわけにはいかないらしい。特訓へはついていかないが、近い場所で待機するようだ。
「分かった。それでいいよ」
 平井の意見を受け入れ、レイジは剛志の後を追った。
 
 
 ……そして、剛志とレイジの特訓が始まった。
 
「はっ、ほっ、ぬぅ!!」
 剛志とレイジは、そびえ立つ崖をひたすらに登っていた。
「つ、剛志ぃ~!なんでいきなり崖登りなの~!!」
 剛志よりも遥か下で、レイジが涙目になりながら登っていた。
「フリックスバトルに勝つには、まずは身体を徹底的に鍛えんとな!クライミングは全身運動じゃ!バランスよく筋力が鍛えられるんじゃよ!!」
 そう豪語する剛志の腰にはロープが巻き付けられており、それはレイジの腰へ繋がっている。
 一応命綱のつもりらしい。
「そ、そうなのかなぁ……」
「それに、これを登った先に丁度いい特訓スポットがあるんじゃ!!」
「う、うん……」
 レイジは恐る恐る下を観る。
 高い……さきほどまで自分たちがいた場所が、遠く小さく映っている。
「ひぃ!」
「下を見るな!上だけを見るんじゃ!!それとも、もう帰るか?」
「だ、大丈夫!こわくなんか、怖くなんかない!!」
 レイジは気合いを入れ直し、グッと力を込めて岩のコブを掴もうとする。
「はっ、レイジダメじゃ!そこは脆い!!」
「え?」
 剛志が気付いた時には遅かった、レイジが掴んだコブはボコッと砕け、身体が傾いていく。
「う、あ……!」
「ぬ、おおおおお!!!!」
 剛志は力を込めてロープを引っ張り、レイジの姿勢を元に戻した。
「大丈夫か、レイジ!」
「あ、うん……ありがとう……」
「なに!これもいい特訓じゃ!!」
 顔を歪め、脂汗を掻きながらも、剛志は気丈に笑って見せた。
(やっぱり、剛志は強いな……)
 
 だが、しばらくすると剛志は立ち往生していた。
 この先の崖には掴まれそうな凹凸が無かったのだ。
「どうしよう、剛志?」
「なに、大したことは無い」
 剛志は予備のフリックスを取り出して、それをロープに巻き付けた。
「いけっ!!」
 バシュッ!!
 ロープを巻き付けられたフリックスをシュートし、崖の上にある木へめり込ませた。
「よし、これで登れるぞ!!」
「うん!」
 
 そして、二人は苦労しながらもどうにか崖を登り切った。
「はぁ、はぁ、はぁ……!」
 レイジは、いくら息を吸っても足りないようで、仰向けに倒れて出鱈目に息を吸い続けている。
「よし、行くぞレイジ」
 そんなレイジへ、剛志は厳しい表情で立ち上がる事を促す。
「え、もう……?」
 休み足りないレイジは意外そうな顔をするが、剛志の厳しい表情は崩れない。
「言ったじゃろう、生半可な事をするつもりはないと。何、これから行く場所は、せめて水分補給くらいは出来る」
 そういって、剛志が案内した場所は……。
 
 轟々と大量の水流が地面へと叩き落ちている滝壺だった。
 剛志は屈み、片手で水を掬って一口啜る。
「ふぅ、生き返るようじゃ」
「……」
 レイジもそれに倣って恐る恐る水を口にした。
「おいしい……」
「じゃろ?さぁ、次の修行じゃ!」
 言って、剛志は轟音を立てながら落ちる滝を指さした。
「ま、まさか……!」
 言うが早いか、剛志は水に浸かって滝へと歩いていく。
「お前も早く来い!修行と言えば、滝行じゃ!!」
「やっぱり~!!!」
 
 そんな感じで特訓は続き、そろそろ夕方になってきた。
 
「はぁ、はぁ……!」
「ふぅ、そろそろ飯にするか。レイジ、薪を拾いにいくぞ」
「え、小屋に戻らないの?」
「こんな時間に戻ってたら、暗くなるからな。ここで野宿した方が安全じゃ」
「ひぃ……」
 剛志に連れられてレイジは薪を集めた。
 
 二人はとりあえず雨が降っても大丈夫そうな大きめな樹の下でたき火をかこった。
「でも剛志、ご飯は……?」
「おう、ちょっと待っとれ……」
 そういって、剛志はフリックスを構えて草むらをジッと見つめる。
「そこじゃっ!!」
 ガッ!!
 と素早く草むらへフリックスを打ち込んだ。
 バゴォォ!!
 確かな手ごたえを感じ、剛志は手を伸ばした。
「おお!!上物が取れたぞ!!」
 その手には、トカゲと蛇がうねうね動いていた。
「う、うわあああ!!!」
 それを見たレイジが腰を抜かして叫んだ。
「どうした?」
「つ、つよし、も、もしかして、それ、それ……!」
「おう、すぐに捌いちゃるから待っとれ」
 そういって、剛志は木の幹を睨み付け、手に持った蛇やトカゲを振りかざす。
「はぁぁぁ!!!」
 そして、蛇とトカゲの頭を木の幹へ叩きつけた。
「ひぃぃ!!」
 バチーーーン!と気持ちの良い音が鳴ったと思ったら、先ほどまでうねうね動いていた蛇とトカゲはぴたりと動きを止めた。絶命したようだ。
「よし、あとは……」
 動かなくなった蛇とトカゲを地面に置いて、今度は手ごろな石を拾って叩き割る。
 すると、石はナイフのように鋭くなった。
「まぁ、十分じゃな」
 そして、手早くトカゲの腹へ即席ナイフを突き立てる。
 ナイフが腹へ突き刺さり、そこから血が垂れる。剛志は構わずに力を込めて線を描くようにナイフを動かす。
 腹が開いたら内臓を取り出し、皮を剥いで、食べられる肉の部分を切り落としていく。
 
 トカゲが終わったら次は蛇も同様に捌いていった。
 
「まっ、こんなもんじゃろ」
 あっという間に、トカゲと蛇はその原型を失い、『食肉』へと形を変えた。
 そして、素早く木の枝に刺して、たき火で炙っていく。
 すると、すぐに焼けた肉の香ばしいにおいが漂ってきた。
「おっ、良い具合に焼けてきたのう」
 舌なめずりをしながら、剛志が豪快にその肉にかぶりつく。
「うん、美味い!この山で採れるトカゲの肉は絶品じゃな!!」
「……」
 そんな剛志の様子を、レイジはおっかなびっくり観ている。
「レイジ、ボーっとしとらんでお前も食え。腹へっとんじゃろ」
「で、でも……」
 目の前の肉はおいしそうだ。しかし、それが肉へと変えるまでの過程を見ている。
 生々しく動いていた爬虫類が、息絶え、そして捌かれていく過程を……。
 腹を切られ、血が抜かれ、内臓を抉り出され、皮を剥がれ……。
 それが脳裏に焼き付いてしまい、どうにも食欲がわかない。
「……」
 グゥゥゥ……。
 静かにレイジの腹が鳴った。食欲がわかなくても、空腹には耐えられないようだ。
 レイジは意を決して(胃だけに)剛志から串を受け取って一口かぶりつく。
「おいしい……チキンだ」
 思わず、そんな言葉が漏れた。
 それを聞いて、剛志は嬉しそうに笑った。
「がっはっはっは!!確かに、鶏肉に似てるかもしれんな!!!」
 一線を越えたおかげか、レイジからためらいが消えて、肉をどんどんがっついていった。
 
 食事を終えた二人は、大木を背もたれにして脱力している。
「ふぅ、食った食った……うっぷ」
「おいしかったぁ……。すごいなぁ剛志は、何でもできて」
 満たされたお腹をさすりながら、レイジは感慨深げにつぶやいた。
「そうか?」
「うん。僕にできない事を何でもできるし、いつも助けてもらってる」
「何を言うとるか。そんなのお互いさまじゃろ。レイジにはレイジにしかないものがある。両親を亡くして一文無しになったワシがこうして暮らせとるのも、レイジのおかげじゃぞ」
「こんな山の一つや二つ、剛志が僕にしてくれた事と比べれば何もあげてないのと同じだよ。それに僕としては、屋敷で暮らしてもらってもよかったんだけど」
「がっはっは。ワシにはここの暮らしの方が性にあっとるからな!とにかく、ワシはレイジに感謝しとるってこった!」
 あっけらかんと笑う剛志だが、レイジの顔は晴れない。
「それも、僕の力じゃない。お金があるのも土地を持ってるのも、全部親の力だから……僕は、ただ与えてもらってるだけ」
 その言葉を聞いて、剛志は笑うのをやめて、真剣な表情になった。
「お前、まだそんな事気にしとんのか?」
「……」
「前にも言ったじゃろう。人にないものを持っている事は、悪い事じゃない。それが例え他人から与えられたものであってもじゃ。大事なのは、それをどう使うかじゃろ?」
「っ!」
 その時、レイジの脳裏にある情景が浮かんだ。
 
 “やーい!お前の父ちゃんお金持ち~!!”
 
 それは、5年前の夏。まだレイジが小学低学年の頃だった。
 通っている小学校のグラウンドで、レイジが複数人の同級生たちに囲まれて罵倒されていた。
「お前、ちょっと金持ちだからって生意気なんだよ!」
「毎日毎日お車で送ってもらってよ!」
「そのくせ、ケチくさいよなぁ!俺達にもちょっとくらい金よこしてくれてもいいじゃねぇかよ!!」
 同級生の一人がレイジを小突くと、レイジはしりもちをついた。
「で、でも、お父さんから誰かにお金を貸しちゃいけないって……」
「はぁ?そこがムカつくんだよ!!金持ちで良い思いしてるくせに、友達には全然金出さないなんて、お前なんの役にも立たないじゃねぇか!!」
「そうだそうだ!この役立たず!」
「「役立たず!役立たず!!」
 一人が罵倒すれば、それが一人、また一人へと連鎖し、集団の力となる。
 
 異物は排除される。
 それが例え優れている存在であっても。
 自分たち集団にとって益になるものでなければ、容赦はしない。
 子供の国の残酷なルールだった。
 
 その中で、レイジは泣きじゃくりながら何の抵抗も出来ずにいた。
「なにやっとるんじゃお前らはぁ!!」
 そこへ、小学生にしては異様に野太い声が響き渡った。
 いじめっ子集団はその声が聞こえた方向へ視線を送る。
 そこにいたのは幼き頃の剛志だった。
「一人に寄ってたかって卑怯な奴らじゃ!そんなに一人をいじめたいなら、ワシをいじめんかい!!」
 剛志が堂々とした態度で迫ると、集団はたじろいでしまう。
 所詮は弱者しか攻撃できない人間の集まりだ。数が集まろうと、強者には敵わない。
「げっ、こいつは相手が悪いな」
「逃げるぞ……!」
 蜘蛛の子を散らすように集団は駆けていく。
「へーーんだ!お前なんかの相手してたら貧乏が移るぜ!!」
 捨て台詞を残して、集団は去って行った。
 
「大丈夫か、レイジ?」
 剛志はレイジへ手を差し伸べる。
「ありがとう、剛志……僕なんかのために」
 泣きながらレイジはその手を取って立ち上がった。
「もう泣き止まんかい。あいつらの言う事なんか気にするな」
「でも、僕なんか、役立たずだし。お金なんか持っててもしょうがないし」
「しょうがなくなんかないじゃろ!持ってる物があるのは、それだけで凄いんじゃ!ワシはお金は無いが、体力だけは自信があるからの!それだけは自分でも凄いと思っとる!!
その代わりに、お前はお金って言う力を持ってるって事じゃ!」
 剛志は自慢げに胸を張った
「だけど、お金だって、お父さんがくれるだけだし。僕の力じゃ……」
「その金で何を買うかを決めるのは、お前の力じゃ!」
「え?」
「親に言われた事を守って、あいつらに金を渡さないと判断したのはお前の力じゃ。次は何に使うかを考えればええ」
「剛志……」
 
 ……。
 ………。
 
「がぁ~~~ぐお~~!!!」
 隣から聞こえるいびきで、レイジはハッと我に返った。
(昔の夢を見てたのか……)
 レイジはゆっくりと気持ちよさそうに眠っている剛志を眺める。
(与えられたものをどう使うか考える……それが、僕の力)
 レイジは無意識に拳を握りしめた。
(だったら、僕は……!)
 
 
 翌朝。
 チュンチュンと小鳥のさえずる音が聞こえてくる。
「剛志、起きて!朝だよ!」
 レイジが横たわる剛志を揺さぶる。
「ん……もう朝か?」
 眠気眼を擦りながら、剛志は大きく伸びをした。
「行こう剛志!山を下りるんだ」
 それを聞いて、剛志は完全に目が覚めた。
「は?何言っとるんじゃお前は、もうギブアップか?」
「そうじゃないよ!僕は今度こそ、僕の力で戦うんだ!剛志、君と一緒に!!」
 そう答えたレイジの顔は決意に満ちていた。
「……なんか分からんが、特訓の成果はあったようじゃな」
 そう確信した剛志はレイジに言われた通りに立ち上がった。
「ええじゃろう。お前の考えに乗ってやる」
 剛志はニカッと笑った。
 
 そして数時間後。
 剛志とレイジは、藤堂家の所有する巨大な研究施設の中に入った。
「はぁ~すごいのぅ。こんな研究所まで持っとったんか」
「普段は、いろんな企業から依頼される研究のために使っていて僕ですら入れないんだけど」
「なに?じゃあ、ワシらが使うのはまずいんじゃないのか?」
「もちろん、タダじゃすまないよ。今日だって、大事な実験の予定をズラしてもらったんだから」
「ええのか?」
「その代わり、僕達がこれから開発するもののデータが、その実験で得られるデータの代わりになればいい。
それだけ有益な事をすれば向こうだって文句は言えない。そういう条件で貸してもらったんだ」
 そう答えたレイジの顔はたくましかった。
「強くなったな、レイジ。で、これからワシらがやる事は、その大事な実験に匹敵するような事なのか?」
「分からない。けど、成功さえすれば問題は無いはず」
「なるほど」
「莫大な資金を駆使して手に入れた、様々なデータ。そして、設備、人材、その全てを使って、僕と剛志の新たなフリックスを作るんだ」
「面白い!ハンマーギガとミラージュレイダーを超えるフリックスか!ワシとレイジの力なら、必ず作れるぞ!」
「うん!!」
  
 
 
 
         つづく
 
 次回予告
 
「俺達の前に現れた新たなスクール生、織田ユウタ!こいつもフリックスを破壊するだって!?
くっそぉ!これ以上スクールの好きにはさせないぜ!!俺がブッ倒してやる!
しかし、立ち向かおうとした俺の前に新型フリックスを引っ提げて、あの二人が現れた!!
 
 次回!『共同戦線 剛志とレイジ!』
 
次回も俺が、ダントツ一番!!」
 
 
 

 

 

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弾突バトル!フリックス・アレイ 第30話

第30話「フリックス破壊魔出没!」
  
  
 
 Mr.アレイからヴィクターを託された事の真実を聞かされた日から二日後の放課後。
 バン、オサム、マナブの三人は並んで帰路についていた。
 
「それにしてもさぁ、俺達が生きてるこの時間って有限なんだよな」
 オサムがなんともなしに口を開く。
「だな。やっぱり一日一日を大切に過ごさなきゃな!」
 バンもそれに賛同する。
「なんか、まるでビジネスマンみたいなやり取りだね。僕達はまだ小学生。だからもっとフレキシブルなシンキングでいいんじゃない?」
 マナブは苦笑しながら言った。
 
「あ、そうそう。そいえば今日って新しいシュートポイントの発売日だったよな!ちょっとホビーショップよってかねぇ?」
「オサム、寄り道は良くないよ」
「なんだよ、硬い事言うなよマナブ。なぁ、バン」
 マナブに反対されてオサムはバンに賛同を得ようとするが。
「あ、悪い。リサが家で待ってるから、すぐ帰らなきゃ。ホビーショップ行くなら一旦帰ってからリサと行くぜ」
「なんだよノリ悪ぃなぁ。んじゃ、俺は一人で行くからな!」
 そういって、オサムは駆け出して行った。
「あ、オサム!!……まったく、しょうがないなぁ」
 止めるのも間に合わず、マナブはあきれながらため息をついた。
「それにしても新しいパーツの発売日かぁ。楽しみだぜ!マナブ、俺達も早く帰ってホビーショップ行こうぜ!!」
 そういって、バンの足取りは速くなる。
「あ、う、うん」
 釣られるようにマナブも早足で家までの道のりを急いだ。
 
 
 そして数分後、バンは自宅へ帰り、リサを連れてホビーショップまでの道のりを歩いていた。
「今度発売されるシュートポイントは『ダウンフォースポイント』って言うみたいだね」
 リサが広告を見ながらつぶやいた。
「どんなパーツなんだ?」
「坂みたいに斜めになってるシュートポイントで、撃つときに機体に下へ力がかかるようになってるみたい。だから、安定したシュートが撃てるんだって」
「へぇ、なんか凄そうだなぁ」
「シュートパワーが強ければ強いほど機体を安定させる事が出来るみたいだから、バンにはピッタリかも」
「そうなのか?じゃあ楽しみだな!そいつがあればディフィートヴィクターはますます無敵だぜ。にひひひひ」
 懐から取り出したディフィートヴィクターを眺めながら、バンは気持ち悪い笑みを浮かべた。
 
「おーーーい、バンくーーん!!」
 そこへ、一人の少年が片手を上げながらバンの所まで駆け寄ってきた。
「あ、お前は3年2組の田中健太郎!1年後輩だけど、いつもの公園でよく会うからそこそこ俺と仲の良いお前が、そんなに息を切らして駆け寄ってきてどうしたんだよ?」
 凄い説明台詞だ。
「た、大変なんだ!すぐに公園に来てよ!!」
「え、でも俺達これからホビーショップに新しいパーツを……」
「それどころじゃないんだよ!公園で遊んでたら、気持ち悪い男が現れて僕らのフリックスを壊しちゃったんだ!」
「なんだって!まさか、またスクールの奴らか!!」
 それを聞くなり、バン達は公園へ駆け出した。
 
 いつもの公園は凄惨な状況だった。
 遊んでいたであろう子供達はみな壊れたフリックスを手にして泣きじゃくっている。
「ひ、ひでぇ……んで、こんな事した野郎はどこだ……?」
「さっきまでいたんだけど、もういないみたい……」
 3年2組の田中健太郎は辺りを見回しながら言った。
「くそっ!ひでぇ事しやがって!ぜってぇ俺がブッ倒してやる!!」
 怒りに拳を振るわせるバンの肩にリサが手を置いた。
「バン、落ち着いて。私たちが歩いてた場所から公園まで、そんなに距離は無いから。犯人もそう遠くへは行ってないはず」
「そうだな。すぐに追いかけてとっ捕まえてやる!」
 血気盛んなバンをリサは諌める。
「まずは情報収集が先」
 そういって、リサは泣きじゃくる少年達へ目線を合わせて語りかけた。
「きみ、大丈夫?一体誰にやられたの?」
「ぐす……わかんない人……太ってて変な笑い方して、凄く怖かった……」
 しゃっくりを抑えながら、少年はとぎれとぎれに話してくれた。
「リサ、そんな奴スクールにいたか?」
「ううん。私は知らない。バンも?」
「ああ……って事はもしかして、Mr.アレイが言ってた、新しいスクール生って事か?」
「可能性は高いね。……ねぇ、その人はどこに行ったか分かるかな?」
 リサは再び優しげに少年に話しかけた。
「……あっちに、歩いてった」
 少年が指さした方向には、覚えがあった。
「あの方向で、フリックスに関係のある場所って言ったら、ホビーショップじゃねぇか!」
「ありがとう。その怖い人は私達が絶対やっつけてあげるからね」
 リサが優しく言うと、少年はコクリと頷いた。
「よし、行こうぜリサ!」
「うん」
 バンとリサはホビーショップへ向けて駆けて行った。
 
 一方のホビーショップでは
 ニタニタ笑う太った男とオサム&マナブがフィールドを挟んで対峙していた。
「んだなぁ、お前達、弱すぎなんだなぁ」
 口をくちゃくちゃさせながら、そのキモイ男は言う。
「はぁ、はぁ……こいつ、強い……!」
 オサムが太った男のフリックスを見据えながら息を切らしている。その男のフリックスは逆光でよく見えない。
「オサム、やっぱりバンが来るまで待ってた方がよかったんじゃ」
「何言ってんだ!俺達だってフリッカーなんだ!こんな奴に好き勝手されてるのに、ビビッてられるかよ!」
「オサム……」
「マナブも根性入れろ!二人がかりなら倒せる!!」
「う、うん」
 オサムとマナブは敵機めがけて同時にシュートした。
「「いっけええええええ!!!!」」
 
 バーーーーーン!!!
 二機のフリックスがキモイ男のフリックスへ見事命中する。
 二機分のパワーだ。さすがに一溜りもないはず
「や、やったか……?」
 やったかはやってない。
 キモイ男のフリックスは二機分のパワーを受け止めて、なお微動だにしなかった。
「そ、そんな……!」
「完璧に当たったはずなのに」
 驚愕する二人へ、キモイ男はニタァと口の端を吊り上げた。
「今度は、オデのターンなんだなぁ!」
 キモイ男がフリックスへ手をかける。
 そして。
 
 ベチャアァァァ!!!
 妙な感触とともに、キモイ男のフリックスはオサムとマナブのフリックスを密着させたまま、フィールド上の障害物へ押し付けた。
 バギィィィ!!
 圧力でボディをつぶされながら、射出される二つのフリックスはそのままフリップマインにヒットしてしまった。
「あぁ、そんなぁ……!」
 この攻撃によって、オサムとマナブのHPは0になり、更にフリックスもかなり破損させられてしまった。
 
「デュフフッ!オデの勝ちなんだなぁ!!でも、これだけじゃ終わらないんだなぁ」
 キモイ男は、既にHPが0になったオサムとマナブのフリックスめがけてシュートの構えを取った。死体蹴りのつもりだ。
「な、まだやるのか!?」
「俺達のHPは0だぞ!」
 
「関係ないんだなぁ。相手のフリックスを完全にブッ壊すまでオデのバトルは終わらないんだぁ!!」
 ドンッ!
 再び放たれるキモイ男のフリックス。
「「う、うわあああああ!!!」」
 オサムとマナブの叫び声と同時に、どこからか青いフリックスが飛んできた。
 
 ガッ!!
 そのフリックスはキモイ男フリックスの攻撃を受け止めて、オサムとマナブのフリックスを守った。
「いい加減にしやがれぇ!!」
「誰なんだなぁ、邪魔する奴は……!」
 青いフリックスの飛んできた方向へ、キモイ男は振り向いた。
「バ、バン……!」
 そこにはバンとリサが立っていた。
「段田バンに遠山リサ……やっと来てくれたんだなぁ。公園にもここにもいなくて、イライラしてたんだなぁ」
 キモイ男はニタァと笑う。
「お前か!公園で皆のフリックスをブッ壊したのは!!」
「大正解なんだな。オデの名前は徳川ゲンゴ。最近遠山フリッカーズスクールに特待生として入ったんだなぁ。授業の一環で、町中のフリックスを壊して回ってるんだな。壊せば壊すほど上のクラスに行けるんだな」
「て、てめぇ……そんな理由で……!」
「止めたければバトルに勝てばいいんだな」
「あぁ、言われなくても勝ってやるぜ!お前なんか、俺がブッ飛ばしてやる!」
 頭に血が上るバンだが、リサがそれを止める。
「バン、油断しないで。この人、かなり強い」
「え?」
 リサに言われて、バンは改めてフィールド上のディフィートをみた。
「こいつ、ディフィートの攻撃をまともに受けてんのにビクともしてねぇ……!」
「そんな軟な攻撃じゃ、オデは倒せないんだなぁ。お前はここで終わりだ」
「ふざけんなっ!俺の本当のパワー、見せてやるぜ!!」
 バンはディフィートヴィクターを拾った。
 
 そして、ゲンゴとバンはフィールドを挟んで対峙する。
 
「いくぜ!3・2・1……!」
 
 アクティブシュートッ!と言おうとした瞬間、どこからかピピピピピ!とアラーム音が鳴り響いた。
「な、なんだぁ?」
 面喰っていると、ゲンゴが慌てて懐からケータイを取り出した。
「ふごっ!もうこんな時間なんだな!魔法少女キューティプリンティアの再放送が始まっちゃうんだな!!」
 そういって、ゲンゴはフリックスをしまって帰り支度をし始めた。
「お、おい!」
 バンが止める間もなく、ゲンゴは店を出ていこうとする。
「デュフッ!段田バン、今回はティアたんに救われたんだな!でも、次はこうはいかないんだな!!」
 そう捨て台詞を残して、ゲンゴは去って行った。
 
「な、なんだったんだ、あいつ……。って、それよりも、大丈夫か二人とも!」
 バンは慌ててオサムとマナブのフリックスをみるが、無残に壊されていた。
「いや、これじゃ、もう戦えねぇ……」
「ここまで壊されたら修復も難しいよ」
「くそっ!あの野郎……!」
 バンは拳をフィールドに叩きつけた。
「……」
 リサは、その姿を痛々しく見つめていた。
 
 丁度その頃。
 山小屋の前でまき割りをしている剛志の元へレイジがボディガードと共にやってきた。
「やぁ剛志!遊びにきたよっ!」
 レイジの姿を確認した剛志は手を止めて汗を拭った。
「おぉ、レイジか!よく来たのぉ!!」
「へへへ、今日は剛志にお土産があるんだ!今日発売したばかりの新パーツなんだけどね……」
 レイジが意気揚々とバッグから新パーツを取り出そうとしたその時だった。
「っ!レイジ、伏せろ!!」
「えっ!」
 いきなり剛志に怒鳴られてビクッとしたレイジは、身体を縮こませた。
「ぼっちゃま!」
 ボディガードがすばやくレイジに覆いかぶさって倒れる。
 その頭上へ、剛志がハンマーギガを放つ。
 すると、同時にどこからか水色のフリックスが飛んできてレイジの頭上で激突した。
 
 バーーーーーン!!
 
 凄まじい衝撃音を上げながら二つの機体は弾かれ、ハンマーギガは剛志の手の元へ。
 水色のフリックスは近くの茂みへ飛んでいった。
「ぼっちゃま、お怪我はございませんか!」
 覆いかぶさったボディガードはサングラス越しからも分かる鬼気迫る表情でレイジへ問うた。
「う、うん……ありがとう、二人とも」
 レイジは面喰いながらも二人へお礼を言うが、剛志の緊張はまだ解かれていない。
「誰じゃ!こそこそせんと出てこんかい!!!」
 剛志がその茂みへ怒鳴ると、ガサガサとした音ともに背丈の小さい少年が笑いながら現れた。
「あははは、ごめんねー。ほんの挨拶のつもりだったんだけど、ちょっと驚かせすぎちゃったかな?」
 後頭部へ手を当てながら、少年は全く悪ぶれもせずに言う。
「挨拶じゃとぉ?子供のおいたにしては、度が過ぎとるんじゃないか?お前一体何者じゃ!」
 剛志は少年に対して険しい表情を崩さない。
「僕の名前は織田ユウタ。フリックスが大好きで、最近遠山フリッカーズスクールに入学したんだぁ!」
 ニコニコと話す少年だが、『遠山フリッカーズスクール』と言う単語に、剛志とレイジは警戒を強めた
「スクールじゃとぉ……!」
「つ、剛志……!」
 レイジが立ち上がり、剛志へ寄り添うように近付いた。
「うん、それでね!フリックスを壊せば壊すほど上のクラスに上がれるって言われて、しかもそれが大会で上位入賞するような有名なフリッカーであるほど得点が高いみたいなんだ!
だから、二人のフリックス壊させてよ」
 ニパッ☆と笑いながら、エグい事を言ってくる。
「言うに事欠いて、ワシらのフリックスを壊すじゃとぉ……!」
「あ、怖いなら逃げても良いよ。その分他の人達のフリックスを壊して点数を稼ぐからさ」
 その言葉は、いっぱしのフリッカーにとって十分すぎる挑発だった。
「誰が逃げるかぁ!いいじゃろう、悪ガキに礼儀を教えてやる!」
「つ、剛志ぃ……」
 レイジは完全にビビッているのか、震えながら剛志を見上げている。
「レイジ、お前は後ろに隠れとれ。ワシにもしもの事があったら、あとは頼む」
「剛志、そんな、嫌だよ……!一緒に逃げようよ!」
「アホ言うな!このクソガキに好き勝手言われて、引っ込めるか。それに、ワシらが戦わねば、スクールが他所で何をするか分からん!」
 剛志が言うと、ユウタものんきな口調で煽る。
「そうそう!ようは勝てばいいんだよ!得点も稼げずに負けちゃったら、僕も退学させられちゃうからさ。そうなったらもう誰かのフリックスを破壊する意味はなくなるし。君たちが戦う意味は十分にあるよ!」
「御託は良い!とっとと始めるぞ!!」
 
 そして、二人は山小屋の前に設置してあるフィールドについた。
 
「いくぞ!3・2・1・・・・アクティブシュート!!」
 
 バシュッ!!
 二人が同時にフリックスをシュートする。
「砕け!ハンマーギガ!!」
「いっけぇ、タイダルボア!!」
 
 二つのフリックスは、スピードも威力もほぼ互角だ。
 バーーーーーン!!!
 フィールド中央で激突する。
 しかし、タイダルボアは激突した所でピタッと止まったのに対して、ハンマーギガは大きく弾かれてしまい、フィールドの端ギリギリで止まってしまった。
「なっ!!」
「やったっ!僕が先攻だね!」
「(バカな……さっき空中で激突した時は、互角だったはず……なのに、この差なんじゃ!?)」
 ハンマーギガはフィールドギリギリだ。いかに防御が固いハンマーギガとは言え、ちょっとでもつつけばすぐに場外してしまうだろう。
「いっくぞぉぉ!!!ブッ飛ばせぇ、タイダルボアァァァ!!!」
 ちょっとつつけば良いだけなのに、ユウタはフィールド端のハンマーギガめがけて思いっきりシュートを撃った。
 
 バシュウウウウウウ!!!!!
 勢いよくハンマーギガへフッ飛んでいくタイダルボア。
 
「えっ!なんであんな勢いよく……!」
「同時場外で自滅扱いになるぞ!」
 この勢いではハンマーギガを場外させても、同時に自分も場外してしまう。
 同時場外は撃ったフリックスだけが自滅扱いとなり、1ダメージ受ける。
 誰もがそう思った。
 
 だが。
 
 バキィィ!!!
 タイダルボアがハンマーギガにヒットし、ハンマーギガは大きく飛ばされて場外する。
 しかし、タイダルボアはピタッとその場に止まっていた。
「ぐあああああああああああ!!!!」
 そして、飛ばされたハンマーギガはボディを砕かれながら剛志の腹部にヒットした。
「つ、剛志ぃぃぃ!!!」
「ぐぅぅぅ……!!!」
 腹を抑えながら脂汗をかく剛志。
「ば、バカな……あの勢いで自滅しないじゃと……!」
「僕のタイダルボアを甘く観ないでよね。それより、HP減らすまでもなかったね。もうそのフリックスは使えないよ」
 無残にも砕かれたハンマーギガを見て、ユウタは冷たく言い放った。
「ぐぐ……!」
 痛みと悔しさでうつむく剛志の代わりに、レイジが凄まじい形相でユウタを睨み付けた。
「き、き、きさまぁぁぁぁ!!!!」
「うわっ、ビックリしたぁ……。なぁんだ。ただの弱虫かと思ったけど、割とやる気あるんじゃん」
「よくも、よくも剛志をぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 喉を潰さんばかりの叫び声を上げながら、ミラージュレイダーを突き付ける。
「あはは、いいよ。君を代わりにバトルの続きをしてあげる。仇を討てるといいね。がんばって☆」
 ユウタはおちょくるように、笑顔で言ってくる。
「潰すっ!潰す潰す潰す!!!!!」
「ぼ、坊ちゃま落ち着いてください!!」
 ボディガードがレイジを止めようとするのだが
「うるさい!!」
 レイジはボディガードの手を跳ね除けて、フィールドについた。
 
「あはは、いっくよぉ!3・2・1・アクティブシュート!!」
 
 
「うわああああああいっけっぇぇぇぇミラージュレイダー!!!」
「ブチ壊しちゃえ、タイダルボアッ!」
 
 バシュッ、バーーーーーン!!! 
 
 フィールド中央でぶつかるフリックス。だが、ミラージュレイダーはたった一撃でタイダルボアに破壊されてしまった。
「っ!」
「あはっ、すごい気合いだねぇ。でも、フリックスの方が持たなかったみたい☆」
「……あ、ぐ……!」
 そして、気力を使い果たしたレイジは、そのまま気を失い、崩れ落ちてしまった。
「ぼっちゃま!ぼっちゃまああああ!!!」
 ボディガードが慌てて介抱し、声をかけるもののレイジは返事をしない。
 
「あはっ、やった!僕の勝ちだ!あはははは、やっぱりフリックスバトルは楽しいや!あははははは!!」
 凄惨な状況を作り出しておきながら、ユウタは無邪気に笑い続けていた。
 
 
 
 
 
         つづく
 
 次回予告
 
「突如現れた新たなスクール生に俺達は苦戦を強いられる事になってしまった。しかも仲間達のフリックスがどんどん破壊されちまう!
くそっ!これ以上あいつらの好き勝手にはさせねぇぞ!
そんな時、剛志とレイジは織田ユウタへリベンジするために二人で山に籠って猛特訓を始めた!
 
次回!『剛志&レイジ 友情の大特訓!』
 
次回も俺がダントツ一番!!」
 
 

 




弾突バトル!フリックス・アレイ 第29話

弾突バトル!フリックス・アレイ

第29話「伊江羅博士脱走!ヴィクターに込められた願い」
  
  
  
 
 
 
 フリップスペルが提示された大会が終わった数日後。
 世間のフリックスではフリップスペルがもう馴染んでいた。
 
「「「3・2・1・アクティブシュート!!」」」
 
 バン達が通っている公園でも、子供達のアクティブシュートの掛け声が響き渡っている。
 
「いっけぇ、ディフィートヴィクター!!ライトニングラッシュだ!!」
 バキィィ!!
 ディフィートヴィクターが連続攻撃ででオサムのフリックスを弾き飛ばした。
「ぐわぁぁぁ!!!なんってパワーだ……!」
「へっへーん!俺とやり合おうなんて無理無理!!なんたって俺は、前回のフリックス大会の優勝者なんだからな、なっはっは!!」
 どうやら、バンはあの大会を優勝したらしい。
 悔しがるオサムへ、バンは偉そうに高笑いする。
「バン、調子乗すぎ……」
 リサはジト目でバンを嗜めようとするが、バンは聞く耳持たない。
「何かな?前回3位のリサ君?」
「別にバンに負けたわけじゃないし」
 リサは、バンに当たる前に準々決勝で剛志と当たり、惜しくも敗北したのだ。旧ルールに慣れている状態では、戦術があまり変化しないフリップアウト重視の方が有利だったらしい。
「へぇ?だったら、今ここでやってもいいんだぜ!」
 バンはムカつく表情で挑発してきた。
「むっ!」
 それを見てリサはムッとし、その挑発を受けた。
 
 フィールドを挟んで二人が対峙する。
 
「恥かく前に逃げるなら今のうちだぜ、リサ!」
 完全に調子に乗ってるバンは更に挑発してくる。
「バンの方こそ!」
 リサも頭に血が上っているようだ。それでいて、バトルに対しては集中している。
 
「それじゃ、いくよ!」
 マナブがバトル開始の合図をする。
「3・2・1……アクティブシュート!!」
 
「いっけぇ!ディフィートヴィクター!!」
 バンはいつものように力任せにヴィクターを撃った。
「この、軌道でっ!!」
 対するリサは冷静にバンのシュートする方向を見極め、若干ズレた方向へフレイムウェイバーをシュートしていた。
 
「いぃ!?」
 勢いよくブッ飛んだ二つのフリックスは接触する事なく、すれ違う。
 フレイムウェイバーは途中で止まり、ぶつかる事前提で思いっきり撃ったバンのディフィートヴィクターはそのままの勢いで場外してしまった。
 
「ディフィートヴィクター場外!えっと、アクティブシュートでの場外は自滅扱いだから、ディフィートヴィクターに1ダメージ与えて、両者仕切り直し!」
 マナブが今の起こった結果を判定する。
 そして、二人は再びスタート位置にフリックスをつけた。
「くっそぉ、逃げるなんてズルいぞ、リサ!これじゃフリップスペル使う暇がないだろ!!」
 せっかく正面衝突が出来るのに、それをしなかったリサへ不満をぶつけるバンだが。
「使えるからこそ使わせずに勝つのも戦術だよ」
「ぐぐ……!」
 リサに論破されて、バンは言葉を詰まらせた。
 
「それじゃ行くよ!3・2・1・アクティブシュート!!」
 マナブの合図で二人が同時にシュートする。
(だったらこっちもリサのシュートを予想して、ぶつけてやる!)
 バシュッ!!
 バンも考えて撃ったが、リサの方が一枚上手だったらしく、方向はズレている。
「くっそぉ!!止まれヴィクター!!」
 考えて撃ったおかげか、多少威力が加減されていたのでフィールド端より割と手前でヴィクターは止まった。
「ふぃ~、セーフ……」
 フィールド端手前で止まったヴィクター。しかし、フレイムウェイバーは更にフィールド端ギリギリで止まっていた。
 
「えっと、進んだ距離はウェイバーの方が長いから、リサちゃんが先攻!」
 
「やったっ!」
「なに!?」
 最初からぶつかり合わず、チキンレースするつもりでシュートした故の効果だろう。
「でも、その距離じゃフリップアウトできないぜ!」
 ウェイバーからヴィクターまではかなり距離がある。更にヴィクターをフリップアウトさせるにもそこそこ弾かないといけない。
 マインヒットしたとしたとしても、まだバンのHPには余裕がある。
「フリップスペル!ブレイズバレット!!」
 ブレイズバレット。3秒以内にシュートし、マインが2個以上干渉してマインヒットした場合、2ダメージ与えられる。
 バーーン!!
 通常のマインヒットの二倍のダメージを受けてしまい、ヴィクターは撃沈した。

「リサちゃんの無傷の完全勝利だ!」
 せめて、一矢報いたかったところだが、結局1ダメージも与えられずにバンは負けてしまった。
 
「うがああああ!!!負けたー!優勝者の俺がーーー!!!」
 負けどころか、完敗してしまったバンは頭を抱えて叫ぶ。
「やったっ」
 リサは小さく顔をほころばせた。
「それにしても、ライトニングラッシュがあるからパワー重視が圧倒的に有利だと思ったけど、フリップマインを使った戦略が深いね……」
 マナブは先ほどのバトルを思い返しながら感心している。
「確かに、スペルによってはマインダメージの威力が上がるから、上手く使えばどんなに硬い相手でも倒せちまうもんな」
「その分、かなりのテクニックと作戦が必要になるけどね……」
 と、マナブとオサムが話している間にショックから回復したのか、バンは再びリサに向き直った。
「ええい!もう一回勝負だ、リサ!!」
 唾を飛ばす勢いで意気込んでリサを指さした。
 しかし、そのリサの向こう側、公園の入り口の方に見知った人物が目に入り、バンはハッとした。
「あれ?」
 目を凝らしてよく見ると、そこにいたのはMr.アレイだった。
 だが、その姿はまるで何者かに襲われたみたいにボロボロで、息は絶え絶え、どうにか歩けているという感じだった。
「Mr.アレイ……?」
 バンが呟くと、皆がその方へ向いた。
 すると、Mr.アレイも虚ろな瞳をバンへ向ける。
「段田……バン……」
 そう、弱々しく呟いたのち、Mr.アレイはフッと力が抜けてうつぶせに倒れこんだ。
「あ、おい!」
 反射的に、バン達はMr.アレイの元へ駆け寄った。
「大丈夫かよ!!」
 バンはその倒れた体を抱えようとする。すると、Mr.アレイの仮面がズリ落ちて素顔があらわになった。
「こ、こいつは……!」
 そこに現れた顔は、バンやリサの良く知っている顔だった。
「伊江羅、博士……?」
 そう、Mr.アレイの仮面の下に隠されていたのは、前にスクールに侵入した時にバンの妨害をしたフリックスの開発者だった。
「こいつが、Mr.アレイ?でも、なんで……」
 Mr.アレイはバンにヴィクターを託したり、何度も助けてくれた人物だ。
 それが、バンと敵対するスクールの技術者……頭の中で疑問が尽きない。
「バン、それよりも」
 疑問で身体が固まったバンへリサが声をかける。
「あ、あぁそうだな」
 その言葉に我に返った。そうだ、今は疑問点を考えるより先にやる事がある。
 
 バン達は伊江羅博士を木陰のベンチに運び、濡れタオルを額に置いた。
 しばらくして、伊江羅博士がうっすらと目を開け、ゆっくりと上半身を起こした。
「……」
 まだ意識ははっきりとしないのか、焦点の定まっていない目でうつむいている。
「大丈夫か?とりあえず、これ飲めよ」
 バンはさっき買ってきたばかりのMAXコーヒーを伊江羅へ手渡した。消耗した体力を回復させるには甘いものが一番だ。
 伊江羅はそれを受け取ると一口すすってから、改めてバン達の方へ視線を移した。
「……恩に着る」
 ボソッと、感情のない口調で礼を言われた。
「んな事より、どういう事なんだよ?どういう事ってか、えっと、何から聞けばいいんだぁ!?」
 疑問点があまりにも多すぎてこんがらがっているバンに変わって、リサが口を開いた。
「伊江羅博士、あなたはスクールの技術者でした。そんなあなたがどうしてここへ?一から説明してもらえますか?」
「そうだそうだ!全部教えろ!!」
 リサに問い詰められ、伊江羅はフッと口元を緩ませた。
「今更隠し通す気はない。ここへ来たのも、すべてを明かすためだからな」
 その態度を見て、バンも思考が整理できたのか、疑問を口にする。
「全てをって……大体、お前の目的はなんなんだよ!俺達の敵の癖に、なんでお前がMr.アレイなんだよ!」
「すべては、あいつを救うためだ……」
「あいつ?」
 そうして、伊江羅は語り始めた。
「俺には、フリッカーの弟がいる。そいつは誰よりも貪欲に強さを求めるフリッカーだ。
どんな強敵に打ち勝とうと、どんな大きな大会で優勝しようと、決して満足する事無く己を磨き、鍛え続ける……。まるで、何かに追われているかのように。
そんなあいつのために俺は、より強いフリックスを開発してきた。だが、あいつの求める強さは俺の想像をはるかに超えていた。
素人の設備で作るフリックス、素人が使用できる施設での特訓では、すぐに限界が訪れ、袋小路になってしまうのは時間の問題だった。
そこで俺は1年前、遠山フリッカーズスクールに技術者として就職し、弟も生徒として入学した」
「スクールの生徒に……」
 もしかしたら会った事があるのかもしれないと思い、リサは呟いた。が、それを察した伊江羅が否定する。
「いや、その頃には既にお前はスクールの最上位クラスにいたからな。恐らく会った事は無いはずだ。あいつが練習生として在籍していたのはほんの数ヶ月程度だからな」
「え?」
「なんだよ?強くなりたいとか言っときながら、すぐ辞めたのか?根性ないな」
 バンが茶々を入れる。
「そうではない。弟は、日々のスクールの訓練に不満を感じていた。施設も、在籍しているすべてのフリッカー達も自分をより強くするレベルのものじゃないと即座に見抜いていたのだ。
その事を察した校長の段治郎は、私にとある計画を持ち掛けてきた」
「とある計画?」
「フリッカー強制進化装置……強制的にフリッカーの能力を底上げするための装置だ」
「能力の底上げ!?」
「なんか胡散臭いな……」
「理論上は可能だ。だが安全性を保証するためのデータがまだ揃っていない段階だった。俺はその計画には反対した。だが……」
 伊江羅は憎々しげな表情になる。
「弟さんの方が、賛同したって事ですか?」
 マナブが言うと、伊江羅は頷いた。
「弟はその計画に心酔し、そして俺達の生殺与奪の権利は既に段治郎の手に握られていた。全てが手遅れだったのだ。
そして私は、その装置を作り、弟の身を委ねた……それがどれだけ危険な事か承知していながらな」
 伊江羅は自嘲気味に笑った。
「って、それ犯罪なんじゃ!?警察には……!」
 マナブが常識的な事を言うが。
「無駄だ。装置は特殊な物質を使っている、肉体に証拠は残らない。そしてスクールのバックには警察との繋がりもあるからな。もみ消される事は目に見えている」
「そんな……」
「でも、特殊な物質って?」
「アクティブパワーだ」
 その言葉を聞き、バン達は目を見開いた。
「フリップスペルの元になった奴か……!」
「そうだ。元々アクティブパワーとは、遠山段治郎が自分の生徒達だけを有利するために開発した物質だ。スクールをフリックス界最強の存在にするためにな」
 それでフリップスペルの効果は競技バランスに革命を起こすほど強力なものばかりだったのだ。
「だが、それも誤算が生じた。スクールのトップクラスの生徒に支給されるはずのアクティブパワーだが強力すぎて普通の生徒では使えるものがいなかった」
 
 
「これではスクール生だけを有利にするために作られたアクティブパワーの意味がなくなる。そこで段治郎は、アクティブパワーを受けても耐えられる人材を探した。スクール最強のフリッカーとしてフリックス界の頂点に立たせられる人材をな」
「まさか、それって…!」
「ザキ。俺の弟は、伊江羅ザキだ」
「っ!」
 衝撃の告白に、バン達は息をのんだ。
「この事態を重く見た俺は、密かに研究をつづけ、アクティブパワーの効果を安全に全てのフリッカーへ与えられるようにフリップスペルを開発した。
これでスクール生や一部のフリッカーだけが、ザキだけが極端に有利になる状況は防げた。だが、少々派手に動き過ぎたようだ。段治郎に感づかれ、それからはこのザマだ」
 伊江羅はボロボロになった自分の体を見下ろして軽く笑う。
「ちょ、ちょっと待てよ!じゃあ、あんたはずっとザキをスクールから救うために行動してたって事か!?でも、なんで俺にドライブヴィクターをくれたんだよ!!」
「お前に、ザキを倒してもらうためだ」
「俺に……?」
 伊江羅の言葉の真意をつかみかねて、バンは聞き返した。
「俺が、あいつを倒して、それで救われるのか?」
「ザキの強さへの強迫観念。それは今更どうあっても変えることは不可能だろう。だが、その強迫観念からの逃げ道を強制進化装置に依存してる状態を続けさせるわけにはいかない。
あいつよりも強いフリッカーが現れれば。より己を強くするライバルさえ現れれば、装置に頼る事もなくなる」
 ザキが強さを求めて装置に頼るのは、自分を高めてくれるほどの強さをもった相手がいないからだ。
 だが、もしも、装置を使って強くなってもなお、倒せない相手が現れたとしたら……ザキにとって装置はアテにならないものになる。
 そのライバルとのバトルこそが、自分を強くしてくれるための近道になるのだから。
 
「だから俺は、シェイドスピナーに唯一対抗できる性能を持ったフリックスを開発し、それを使いこなせるフリッカーを探した。それがお前だ、段田バン」
 伊江羅は睨み付けるほどの鋭い眼光でバンをみた。
「お、俺が、ザキを……」
 思い出されるザキのバトル。圧倒的な破壊力で全てのフリッカー達を恐怖のどん底へ落としてきた、あのバトル。
 ドライブヴィクターも、あいつによって破壊されてしまった。それを思い出し、バンは無意識に体が震えていた。
「な、なんだよそれ!それじゃあバンを利用してたって事かよ!!」
 オサムがバンに変わって怒りをあらわにする。
「……謝る気はない。お前が望んで力を手に入れた事に変わりはないからな。今更逃げることは出来ないはずだ」
「か、勝手な事言うな!バン、すぐヴィクターを返そうぜ!!こんな奴の言うとおりになんかならない方が良いって!」
 そういうオサムだが、バンはグッと拳を握りしめて言った。
「へんっ、謝る必要なんかないぜ!俺は元々ダントツ一番目指してんだ!だったら、ザキだってブッ倒さなきゃいけない相手!誰に頼まれなくたって、勝つのは俺だ!!」
 そう豪語するバンは既に震えが止まっており、確かな決意がみなぎっていた。
「バン……」
「それに、俺は感謝してんだ。どんな理由でも俺とヴィクターを出会わせてくれた。こいつはもう俺にとってかけがえのない相棒なんだ。今更返してなんかやらねぇよ!」
 それを聞いて、伊江羅は安心したように小さく頬を緩ませ、そして立ち上がった。
「お、おい……!」
「もう大丈夫だ。世話になったな」
 ブッきらぼうにそう言うと、ゆっくりと歩いていく。
 が、数歩進んだ所で立ち止まり、振り返りもせずに言った。
「一つ、忠告しておく。遠山カップの成果でスクールの名は全国に広まった。それによって、多数の優秀なフリッカー達がスクールの門下に下った。これが何を意味するか、分かるな?」
 それを聞いても、バンは臆する事無く言った。
「だったら全員倒して、俺がダントツ一番だ!」
「そうか」
 そして今度こそ、伊江羅は歩き出していった。
 
 
 
       つづく
 
 次回予告
 
「大変だ!町でフリックスが次々に破壊される事件が発生した!!これもスクールの連中の仕業か!
早速調査に乗り出した俺達だが、そこで出会ったのは凄まじい力を持った新たなフリッカーだった!!
 
 次回!『フリックス破壊魔出没!』
 
次回も俺がダントツ一番!!」
 
 

 

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弾突バトル!フリックス・アレイ第27話

第27話「甦れヴィクター!Mr.アレイ最後の試練!!」
  
  
 
 
 ヴィクター復活をかけて、Mr.アレイの誘いでとある廃ビルの中へ入ったバン達。
 そこでは、フリックスを使ったさまざまな試練が用意されていた。
 第1の試練、第2の試練を突破したバンは、さらに上の階へ進み、第3の試練にチャレンジしていた。
 
「いっけぇ!」
 バンは数メートル先に設置されているターゲットへ向かってフリックスを放った。
 バンの指力を受けてフリックスが真っ直ぐに滑っていく。
 ターゲットまでの道のりは幅2㎝程度の細い板でつながっており、そこから外れれば床に落ちてしまう。
 
「くっ!」
 勢いよくブッ飛んでいったフリックスだが、徐々に軌道がそれてしまい、ついにバランスを崩して板から落ちてしまった。
「あぁ、くそっ!失敗したっ!!」
 力なく地面に伏したフリックスを見たバンはうがーーーと頭を抱えて唸った。
「全然狙いが定まってない……」
 リサは諦観めいた顔でため息をつきながらフリックスを拾ってバンへ手渡した。
「バンは元々、パワーシューターだからこういう精密シュートは向かないんだよなぁ」
「リサちゃんの方が向いてるんだろうけど、他の人がやったんじゃ試練にならないしね」
 オサムとマナブも呆れ気味にバンとリサを交互に見ながら言った。
「あったりまえだ!これは俺がクリアしなきゃ意味ねぇんだ!くっそぉ、やってやるぞぉ……!」
 バンは諦めじと再びフリックスをスタート位置において構えた。
「あ、待ってバン。これを使ってみたら?」
 そういって、リサは青色のパーツをバンへ差し出した。
「こいつは、さっきの試練で手に入れたパーツ……」
「多分、形状からリアにつけるパーツっぽいよね」
 そのパーツをマジマジと見つめながらマナブが言う。
「っても、何か特別な機能があるように見えないしなぁ」
「でも、少しでもヴィクターに近づくんだから付けるだけ付けてみればいいんじゃないか?」
 オサムにそういわれ、バンはうなずいた。
「まぁ、そうだな。ヴィクターに近付くのは良い事だ」
 何も解決しそうにないが、とりあえずリアパーツを交換した。
 
 そして再びチャレンジ。
「頼むぜ……いっけぇ!!」
 ドンッ!!
 バンが力強くシュートする。その時、明らかにさっきとは違う手ごたえを感じた。
「っ!(指にフィットする!?)」
 そのシュートを受けたフリックスは軌道を変える事なく見事ターゲットを撃破した。
 バチコーーーン!!
「おっしゃぁ!」
「やったね、バン!」
 試練の成功を見て口々に快哉を叫ぶ一同だが、オサムが一つ疑問を呟いた。
「でも、なんで急に成功したんだ?ヴィクターのパーツだからってだけじゃ納得いかないぜ」
「いや、むしろヴィクターのパーツだからだろうね。リアパーツはシュート時に指に当たる部分だから、精密なシュートを打つにはやっぱり慣れてるパーツの方が良いんだ」
 マナブがその疑問に答えると、バンもその答えに納得したのか頷いた。
「そっか。そういや、なんかすごい撃ちやすかったんだよな……。へへっ、なんかちょっとずつヴィクターが帰ってきてくれてるみたいだ」
 バンは嬉しそうに口元を緩めた。
「あ、バン。あそこ……!」
 リサが床の一部分を指差した。
 そこには小さな穴が開いており、またもプラスチックの欠片が入っていた。
「おっ、今度のパーツはこれか!」
 バンがさっそくそれを拾う。今度のパーツは、細長い棒のようなパーツで、左右反転したものが二つ入っていた。
「今度は二つ入ってる」
「左右反転してる形状……もしかして、横につけるんじゃないかな?」
 マナブの言う通り、そのパーツは横についているパーツとサイズ的にも同じだった。
「よし!」
 バンはさっそく分解してパーツを付けた。
「おぉ、ピッタリだ!さっすがマナブ、よくわかったな!」
「まぁ、左右対称に二つのパーツなら、普通は横につけるだろうしね」
 マナブは自慢するでもなく言った。
「でも、今度はどんな効果なんだろうな?」
「何でもいいぜ!次の場所に行くぞ!」
 バンは次なる試練へと足を進めた。
 
 次の階にあったのは、少々大きめのフィールドだった。
 今までと同じようにフィールドの端にスタート位置、その反対側にターゲットが置かれてあるが、そこまでの間にはいくつもの紐で吊るされた丸太が振り子のように揺れて行く手を阻んでいる。
「な、なんだこりゃ!?」
「すごい、大掛かりな仕掛けだね……!」
「こりゃ、一筋縄じゃいかないぜ!?」
 その大掛かりな装置に、一同は一瞬たじろいでしまった。
「バン、大丈夫?」
 リサが心配そうにバンを見るが、バンはすぐに気を引き締めてフリックスをスタート位置に置いた。
「このくらい、どうって事ないぜ!俺には、ヴィクターがついてんだ!」
 勇ましくそう返事をしたバンは、さっそくフリックスをシュートした。
「頼むぜ!いっけぇぇぇ!!」
 バシュッ!!!
 フリックスが左右に揺れる丸太の隙間を掻い潜るながら突進する。
「やった、いけるぜバン!」
「うん、タイミングはバッチリだ!」
 どんどんターゲットへ迫っていくバンのフリックスだが……。
「あ、ダメ!」
 最後の丸太だけ微妙にタイミングがズラされていたのか、ちょうどフリックスの横腹へぶつかろうとしていた。
「やべぇ、バン!避けろ!!」
「いや、無理でしょ(汗)」
 自走機能のないおはじきがシュートの途中で任意的に軌道を変える事は出来ない。
 と、そうこうしているうちに、丸太は今にもフリックスの横っ腹をブチ殴ろうとしている。このままでは吹っ飛ばされる。
「ヴィクター……耐えろぉぉ!!」
 ガッ!!
 ついに、丸太がフリックスへヒットした。
 バーーーン!!
 しかし、吹っ飛ばされたのは丸太の方だった。フリックスはぶつかってきた丸太を返り討ちにしたのだ。
「う、うそだろ……!」
「まさか、あのサイドパーツの効果……?」
「ううん。きっと今まで手に入れてきたヴィクターのパーツ一つ一つが、バンの想いに答えたんだ」
 そして、フリックスは見事ターゲットを撃破した。
「おっしゃぁ、やったぜ!!!」
 腕を振り上げる勢いで大ジャンプする。
 着地すると、先ほど撃ったスタート位置からゆっくりと箱がせり上がってきた。
「おっ!今度のパーツはこれか!」
 箱の中に入っていたパーツを取り出す。
 そのパーツは、車のライトみたいに黄色く目のようなものが描かれたパーツだった。
「なんだか、顔みたいだね」
「ああ。でもこの顔、懐かしいぜ……」
 バンは慈しむ表情で、最後のパーツをフリックスに組み込んだ。
 すると、そのフリックスの形は、まさにヴィクターを進化させたような力強い形状になった。
 その姿は神々しく、まるで不思議な力を宿しているかのように光り輝いてみえた。
「こ、これが、新しいヴィクターか!?」
「すごい、こんなフリックス、見たことがない……!」
 その輝きに、オサムとマナブは少し後ずさった。
「やったね、バン」
「ああ。ついに完成したんだ……俺の、新しいヴィクター……ディフィートヴィクターが!」
 ギュッとバンはディフィートヴィクターを強く抱きしめた。
「バン……?」
 リサがバンの顔を覗き込むと、バンは目を強く瞑り、涙を堪えているように見えた。
「おかえり、ヴィクター……!もう絶対、お前を離さないからな……!」
 涙で震えそうな声で、バンはしっかりとヴィクターに語り掛けていた。
「バン……」
 そんなバンを、リサは優しい瞳で見つめた。
「あ、そうだ」
 と、バンが何か思いついたように懐から何か取り出した。
「バン、それって」
 それは、バンがヴィクターの代わりに購入したフリックスだった。
「ああ。こいつも、ちょっとの間だったけど俺のフリックスだったからな」
 そういって、バンはそのフリックスのシャーシをヴィクターに組み込んだ。
「お前も、俺と一緒に戦ってくれ」
 壊れたヴィクターの代わりとは言え、自分のフリックスに変わりはない。ヴィクターが蘇ったからと言って、お役御免にするのは嫌だったのだ。
「全く、バンらしいぜ」
「うん。これで一件落着なのかな」
 
 その時だった。天井からMr.アレイの声が響く。
『随分と時間がかかったが、ようやく完成したようだな』
 その声を聴いて、バン達は顔を見上げた。
「Mr.アレイ!」
 
『ふん。感動の再会にはまだ早い。最後の試練が残っている。屋上へ来るがいい』
 バンの気持ちなどおかまいなしに、Mr.アレイの口調は冷たい。
「な、なんだよ!ディフィートヴィクターは完成したってのに、まだ何かやんのかよ!?」
 戸惑いながら反抗するバンに、Mr.アレイは淡々と告げる。
『新たなヴィクターは完成はしたが、それだけだ。お前自身が完成していない』
「俺、自身……?」
 言われた意味が分からず、バンはMr.アレイの言葉を反復した。
『無理に来る必要はない。二度と手放したくなければ、そいつ持って逃げ帰っても構わん。ヴィクターのフリッカーとして自信がないのならな』
 煮え切らないバンに、Mr.アレイは追い打ちをかけた。
 こんな風に言われれば後には引けない。
「だ、誰が行かないっつったよ!俺はヴィクターを信じてんだ!!お前が何を考えていようが、ヴィクターとはもう離れない!!」
 啖呵を切って屋上へ通ずる階段へ向かうバンをマナブがとめた。
「ちょ、バン!そう簡単に挑発に乗らない方が……!」
 マナブに言われ、バンは振り返った。が、その顔は啖呵を切った割には落ち着いていた。
「挑発されなくたって、俺は行くぜ。じゃなきゃ、なんかヴィクターが本当に帰ってきてくれる気がしないんだ」
「バン……」
 ちょっと意外な反応に、マナブは言葉が出なかった。
「うん、そうだね。バン、ここは行くべきだよ」
 リサは静かにバンを後押しした。
「だな!ここまで来たらもう行くっきゃないな!」
 オサムもリサに続いて賛成のようだ。
「……まぁ、バンが冷静なら、止める理由はないよ」
 マナブも、バンの態度を見て考えを改めたようだ。
「おう!」
 バンはそんな皆に力強く返事した。
 
 屋上は風が強く、汗ばんだ体には心地よかった。
 古いコンクリートの路面。その中央にフリックスのフィールドが設置されており、その反対側でMr.アレイが腕組をし、マントを風に靡かせながら立っていた。
「待たせたな、Mr.アレイ!」
 Mr.アレイと目が合うと、バンは不敵に笑いながら言った。
「……悪くない目だ」
 そんなバンを見て、Mr,アレイはぽそりと呟いた。
「?」
 予想外なMr.アレイの態度にバンは首をかしげるが、そんなことはおかまいなしにMr.アレイは口を開いた。
「では、最後の試練を始める。……その前に、返してもらうぞ」
 Mr.アレイがそういうと、バンの懐がポォ……と輝きだし、そこからさきほどまで使っていたフリックスのパーツが飛び出した。
「うわぁ、なんだぁ!?」
 そのパーツはMr.アレイの手に届く。
「こいつは元々俺のものだからな」
 そういって、Mr.アレイはパーツを組み立ててフリックスを作り上げた。
「最後の試練、ルールは簡単だ。この俺とフリックスバトルをしろ。このプロトアレイFXを倒せば、新型ヴィクターはお前のものだ」
「へっ、やっぱそういう展開かよ!」
 前にも似たような事はあった。十分予想の範疇だ。
 バンは慌てる事無くフィールドについた。
「バン、気を付けてね」
「ああ!絶対に負けねぇ!」
 バンVSMr.アレイのバトル開始だ。
 
 まずはアクティブシュートで順番決めだ!
 バンが先手を取った。
「へっ、一気にフリップアウトさせてやるぜ!!」
 バンは前方にいるプロトアレイFX目掛けてディフィートヴィクターをシュートした。
 ガッ!
 強い当たり。マインヒットは出来たものの、重心がずれていたのか、ヴィクターとプロトアレイは左右にV字に移動し、停止した。
 プロトアレイはややフィールドの端に近付いているが、ヴィクターはフィールド端からは遠い。
「その程度か?」
「くっ!ブッ飛ばせたと思ったのに……!」
 感じた手応えに結果が伴っていなかったのか、バンは悔しそうな顔をする。
「あれぇ?今のすげぇパワーが出てたのに、あのプロトアレイFXっての防御力がすごいのかぁ?」
 見た目のパワーに反して結果が伴わなかったことに対して、オサムは疑問を口にした。
「いや、多分プロトアレイFXの防御力はそんなに高くないはずだけど……」
 マナブも、今の状況の原因がわからないようだ。
「ヴィクターが、強すぎるのかも……」
 リサが、ポソッと呟いた。
「え?」
「今のヴィクターは確かにヴィクターなんだけど、でもドライブヴィクターじゃない。だから……」
「そうか……!」
 リサの要領を得ない言葉を聞いて、マナブは何かを察したようだ。
 そして、そんな会話をしている間にもバトルは進む。
 次はMr.アレイのターンだ。
「ふっ、甘いな。新しいヴィクターを手にしてもその程度か」
「くっ!」
「今度はこちらからいくぞ!」
 Mr.アレイがプロトアレイの向きを調節する。
 ディフィートヴィクターからはやや距離が離れているが、それでも狙えない距離ではない。
「はぁぁ!!」
 ドンッ!!
 Mr.アレイのシュートでブッ飛んできたプロトアレイが見事ヴィクターに激突する。
 当たり所が良かったのか、プロトアレイはそのままその場にピタリと止まり、ヴィクターだけがぶつかられた方へと飛ばされる。
「堪えろ!ディフィートヴィクター!!!」
 バンの願いが通じたのか、それともプロトアレイの攻撃力がそれほどでもなかったおかげか、ディフィートヴィクターはフリップアウトせずにストップした。
「くっそぉ……!だったら今度は必殺技だ!!」

 バシュウウウウウウウ!!!
 ブースターインパクトを繰り出すバンだが、上手く攻撃力が伝わらない。

「必殺技に頼って力押しか。その程度ではディフィートヴィクターは使いこなせん!!」
 ドンッ!!
 Mr.アレイのアタック。フリップアウトされるほどの大きな攻撃ではないが、それでも徐々にバンが追いつめられている。
「くそっ」
 バンのターンだが、状況は芳しくない。
 位置的に、さっきのシュートを考えるとこの一撃でフリップアウトを狙えるとは思えない。
 そして、上手くこの場を移動しなければ次のターンでこっちがやられてしまう可能性もある。
「ディフィートヴィクター……俺は、お前にふさわしくないのか……?」
 ヴィクターを構えながらも、なかなかシュートが打てず、バンはヴィクターへ悲痛に語り掛けた。
「バン!自分を信じて!!」
 その時、リサがバンへ声をかけた。
「リサ……」
「バンはヴィクターのフリッカーだよ!他の誰でもなく、バンだけが!」
「俺だけが、ヴィクターのフリッカー……」
「そして、今のヴィクターともっと向き合って!!」
「今の、ヴィクター……」
 リサに言われるがまま、バンはヴィクターの姿を凝視する。
「バン、ディフィートヴィクターはドライブヴィクターとは違うフリックスなんだ!パワーも攻撃力もドライブヴィクターよりも格段に上がってる!でも、だから強すぎてパワーが相手に上手く伝わってなかったんだ!」
 マナブの声がバンに届く。
 それを聞いたバンは、ハッとした。
「力が強すぎて……そうか。だからあの時プロトアレイをふっ飛ばせなかったのか」
 その言葉は、バンにとって最大のヒントだった。
 力が強すぎて力が伝わらない。だったら、やることは一つだ。
「頼むぜ、ヴィクター」
 バンはそうつぶやくと、すぅ……と息を吐いて全身の力を抜いた。
 力が強すぎて空回りするのなら、無駄な力を省くしかない。
 そして、バンはキッと狙いを定めて構えた。
「何かを掴んだようだな。さぁ、ぶつけてみろ!」
 そんなバンの様子を見て、Mr.アレイは満足げに微笑すると両手を広げてバンのシュートを受ける体勢をとった。
「いっけぇぇ!!」
 ドンッ!!
 それは、力強さと落ち着きの両方を兼ね備えたシュートだった。
 ディフィートヴィクターは寸分の狂いもなく、真っ直ぐにプロトアレイへ向かってスッ飛んでいく。
 バキィィィ!!!
 それは見事プロトアレイの重心を捉えた。そして、しばらく押し込んだ後にフロントの剣先が伸びてプロトアレイを弾き飛ばす。
「むっ!!」
 バシュウウウウウ!!!!
 ものすごい勢いでプロトアレイがフィールド端へと飛ばされていく。
 ガッ!!
 しかし、どうにかフィールド端の手前で踏みとどまった。
「かぁ~、おっしぃ!!でも、次で決めてやるぜぇ!」
 勝負は決まらなかったものの、この位置はかなり良い。プロトアレイFXの攻撃力でこの位置からヴィクターを狙ったところで大した挽回はできないはずだ。
 下手に逃げようものなら、それこそ今のバンとディフィートヴィクターの餌食になるだけ。
 だが、Mr.アレイは追いつめられているというのに不敵に笑った。
「見事だ。だが、甘い。ここで勝負を決めておくべきだった」
「なんだとっ!こんだけ追いつめられてんのに、よく言うぜ!」
「ああ。かなり追いつめられてしまった。だが、どうせならあともう一歩追いつめておくべきだったな」
「ど、どういう意味だ……?!」
「ふっ」
 Mr.アレイのシュート。ヴィクターの剣先にヒットするとものすごい勢いでヴィクターが飛ばされてマインヒットしてしまった。
「なに!?」
「攻撃力は諸刃の剣。逆に敵に利用される事もある」
「く、くそっ!」

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弾突バトル!フリックス・アレイ第26話

第26話「復活ヴィクター!その名はディフィート!!」
  
  
  
 
 
「ヴィクターは蘇る!だが、全てはお前次第だ」
 公園でバトルをしていたバン達の前に現れたMr.アレイはそう言った。
「ヴィクターはよみがえる……俺、次第……?」
 状況が掴めず、バンはただMr.アレイの言葉を反復するのだった。
 すると、Mr.アレイは何も言わずに踵を返して歩いていく。
「あ、おい!」
 いつもだったら去る時は一瞬で消える癖に、今日のその歩みは遅く、声をかける余裕があった。
「ついてこい」
 Mr.アレイは歩みを止めずにそれだけ言った。
「……」
 どうするべきか判断がつかず、バンはすぐには動けなかった。
「どうする?」
 オサムが問いかける。
「わかんねぇ。けど、またヴィクターと戦えるなら俺は、なんでもするぜ!」
 バンは覚悟を決めて駆け出し、Mr.アレイの後ろについていった。
 オサム達も顔を見合わせてバンの後に続いた。
「なんだよ、お前らまで来なくていいのに」
「良いじゃねぇか。乗りかかった舟だよ」
「それに、本当に信用していいのか気になるしね……」
 マナブは少し疑念を込めた目でMr.アレイの後姿を見つめた。
「そうか?気にしすぎだろ、なぁリサ」
「え、う~ん……」
 急に話を振られて、リサは言葉に窮した。
「何にしても、バンは危なっかしいから」
 リサがそういうと、オサムは腹を抱えて笑った。
「はっはっは!違いない!」
「確かに」
 マナブもプッと吹きだした。
「な、なんだよ……!」
 みんなの様子にバンが振り向きながら憤慨すると、ドンッと背中にぶつかった。
「って!」
 見ると、いつの間にかMr.アレイが立ち止まっていたのか、バンはその背中にぶつかっていた。
「ついたぞ」
 Mr.アレイはぶつかったバンを気にする事無く、目の前にある廃ビルを指した。
 錆びた壁に割れた窓ガラス、そこから見える中は瓦礫が散らばっている。
 周りに人気はない。
 随分と長く歩いていたようだ。都市部を離れて、町はずれの丘の上に来ていた。
 その中にただ一つ聳え立っている廃ビルは、異様な迫力があった。
「ここって……?」
「スクールが以前支部として運営していたビルだ。今は潰れて管理もされていないが、土地の権利はスクールが所有したままだ」
 それだけ言うと、アレイはその中へ足を踏み入れていく。
「ちょ、ちょっと待てよ!勝手に入って大丈夫なのか!?」
 その背中へバンが声をかけると、アレイは立ち止まって振り返りもせずに言った。
「さっきお前は『前に進み続ける』と言ったな?」
 それは、リサに泣きつく前に無理にでも自分を奮い立たせるために言ったセリフだ。
「あ、あぁ……」
 無理をしていたとはいえ、あの言葉が本心であることに変わりはない。
 バンは戸惑いつつも頷いた。
「ならば進み続けろ。その先にヴィクターが待っている」
「ヴィクターが……!」
 その言葉を聞いて、バンの瞳に輝きが灯った。
 理解は出来なくとも、本能が身体を奮い立たせるのだ。
「……!」
 バンは無意識に拳を握りしめた。
「……受け取れ!」
 そんなバンへ、Mr.アレイはシュッ!と裏拳のフォームである物体を投げつけた。
「うおっ!」
 面喰いながらもそれをキャッチする。
「これって……フリックス?」
 それは、灰色の見たことがないフリックスだった。
「ちょっと待てよ。もしかして、これがヴィクターってのか?全然似てねぇけど……」
「違うな。そいつはヴィクターとは何ら関係ないフリックスだ」
 バンの問いに、Mr.アレイはそっけなく答えた。
「なっ!なんだよ!やっぱりヴィクターはなくなったから代わりの奴使えって言うのか!?冗談じゃねぇ!!」
 バンは、渡されたフリックスを返そうと突き出すが、Mr.アレイはそれを躱すように歩き出す。
「おろっと!」
 腕が空振りして、バンはよろけた。
「言ったはずだ。進み続けろと。進み続けなければ、そこにヴィクターは無い」
 歩きながらそれだけ言うと、Mr.アレイはバッ!と飛び出し、ビルの中へ消えて姿が見えなくなった。
「あ、おい!……くそっ、相変わらずすばしっこいなぁ……!」
「見えなくなっちゃった……」
 オサムとマナブもMr.アレイの素早さに目を瞬かせている。
「くっそぉMr.アレイの奴。こんなフリックス渡しやがって、どうしろってんだよ!」
 バンは恨めし気に手に持ったフリックスをにらみつける。
「バン、行こう」
 そこへ、先ほどまで黙っていたリサがバンを促して前へ歩き出す。
「リ、リサ……」
 少し前に出てからリサは立ち止まり、振り返った。
「前に進み続ける……。きっとMr.アレイの後を辿れば、答えが見えるはず。そのフリックスは、そのための武器だよ」
「……」
 真剣な顔でいうリサを見て、バンも頭を落ち着かせた。
「そうだな。リサの言う通りだ。立ち止まってる場合じゃねぇよな!」
 バンは顔を上げて歩き出した。
 それを見たリサは嬉しそうな顔をしてバンの横に並び歩き出す。
「あ、おい待ってくれよぉ!」
 オサムとマナブも慌ててその後についていった。
 
 外から見た以上に、ビルの内部は荒れ果てていた。
 壁はボロボロに崩れ、窓は半端に割れていて、その破片が乱雑に散らばっていて、足を踏みしめるたびにパキッ!パキッ!と何かが折れる音がする。
「えらい、荒れてるなぁ……」
「廃墟になってから、何十年も経ってるみたいだ」
 バン達は足をくじきそうになりながらも慎重に進んでいく。
「リサ、気を付けろよ」
 足を取られて進みづらそうにしているリサへ、バンが手を差し伸べた。
「う、うん。ありがとう」
 リサは小さく礼を言いながらその手を取る。
 この動作でバンとリサはオサムとマナブから少し遅れてしまった。
「あっ!」
 と、前に出たオサムたちが小さく声を上げた。
「どうしたんだ?」
「見ろよ、あれ……」
「へ?」
 オサムが指差した先には、上の階へと昇る階段があった。
 が、その階段へ続く道は鉄格子によって塞がれている。
「この区画はもう粗方探索したし、あとは上に上がるしかないと思うんだけど……」
「これじゃ、もう階段使えないじゃん!」
「エレベーターが可動してるとも思えないしなぁ……」
 八方塞がりになり、バン達は肩を落とす。
「あれ?」
 が、リサが視界の端に何かが見えたようで、そこに反応する。
「どうした?」
 バン達もそれに気づいてリサの方を見ると、リサは鉄格子の横に設置されている台を指差した。
「これって、フリックスのフィールド?」
「ほ、ほんとだ!」
 しかもその台の上には、ご丁寧にシュートラインとボウリングのような10本のピンが立てられていた。
「これ、フリップボウリングか……?」
 
 フリップボウリング。数センチ先に立てられたピンを、フリックスを使って倒すという基本的な一人遊び競技だ。
 
「どういう事なんだろう?こんなところにフリップボウリングの舞台装置があるなんて……」
 マナブが首をかしげる。
「なんだかよくわからねぇけど、こいつを使ってこれをクリアすりゃいいって事だろ!」
 バンが意気揚々とMr.アレイに渡された灰色のフリックスを台にセットした。
「だったら楽勝だぜ!フリップボウリングは得意中の得意だ!!」
「ま、まぁ、そうなんだろうけどな……」
「短絡的だなぁ」
「でも、ほかに考えられる事がないし、試してみる価値はあるかも」
「そういう事!いっくぜぇ!!」
 バンは灰色のフリックスを指で弾いた。
 しかし、狙いが逸れてしまい、ピンに掠りもせずに場外してしまった。
「いぃ!?」
「バン、ダメだよ!それはヴィクターじゃないだから……」
 リサが窘める。バンが失敗した原因はヴィクターのつもりで撃ったからだと瞬時に判断したのだ。
「そ、そうだった……」
 バンは頭をかきながら落ちたフリックスを拾って台に戻した。
「ごめんな、今はお前と戦ってんだもんな。ヴィクターの戦い方を押し付けたらダメだよな」
 バンは灰色のフリックスに短く謝り、そして狙いを定めた。
「でも、ヴィクター程じゃないけど、このフリックスもかなりパワーがある……力を抑える必要はなさそうだ!」
 あとはベクトルを少し変えるだけ!
 バンはシュートポイントの中心からやや外れたところを指で弾いた。
「いっけぇぇぇぇ!!!!!」
 バシュウウウウウウウ!!!
 フリックスが回転しながらピンへフッ飛んでいく。
「スピンシュート!?」
 マナブが驚きの声を上げた。
「ドライブヴィクターはストレートシュートが強かったけど、こいつはスピンも出来そうだったからさ!!」
 バキィィ!!!!
 スピンしながらピンへぶつかり、全てのピンが弾け飛んだ。
「おっしゃぁ!!」
 それを見て、バンはガッツポーズをした。
「やったね、バン!」
「これでクリアか?!」
 リサとオサムも喜ぶのだが、マナブは怪訝な顔をする。
「それで、クリアしたからどうなるんだろう?」
 もっともな疑問だ。
 しかし、その直後に地鳴りがして階段を塞いでいたシャッターがゆっくりと上がって行った。
「あ、これで先へ進めるぞ!」
「やっぱり、各階にこう言う競技が用意してあって、それをクリアしながら先に進んでいくシステムなのか」
「そういう事なら話は早いぜ!よーし、二階へ行くぞ!!」
 Mr.アレイの提示した試練を理解したバンは早速階段へと足を進めた。
「あ、ちょっと待ってバン!」
 そんなバンへ、リサが呼び止める。
「なんだよ?」
 駈け出そうと踏み出した右足をそのままに、バンは振り向いた。
「これ……!」
 と、リサは先ほどバンがフリップボウリングをした台を指差した。
 それを見ると、台の真ん中にポッカリと穴が開いており、そこに何かのパーツがあった。
「なんだ、これ?」
 バンはその穴から小さなパーツのような塊を手に取る。
 それは白色で、鋭い剣先のようなパーツだった。
「フリックス、か?」
「いや、いくらなんでも小さすぎるし……何かのパーツかな?」
 オサムとマナブも興味深げにバンの手にあるパーツを覗き込む。
「白い、剣みたいだ……」
 手に持ったパーツを眺めながら、バンは思わず呟いた。
(剣……?)
 自分の無意識の呟きに、バンは何かが心に引っ掛かった。
「まっ、でもとにかく先に行けるんだから進もうぜ!」
 しばらく考えていたが、オサムの一言で一同顔を上げた。
「そうだね。そのパーツの事もまだよくわからないし」
 マナブもその意見に同意する。
「あ、あぁ!そうだな!おっしゃ、行くぜ!!」
 バンは気合いを入れなおして階段へと駆け出し、一同はその後に続いた。
 
 二階フロアは、一階と比べれば幾分キレイだが、殺風景な部屋だった。
 そして一階と同様、上の階へと続く階段は鉄柵で封鎖されており、部屋の中央にはフリックスのステージと思われる台が置いてあった。
 
「次はあのステージをクリアすればいいんだな!」
 バン達が中央のステージへ集まる。
 そこには、スタート位置を示すと思われる白い線と、中央に2Lペットボトル並の大きさの鉄のピンが置いてあった。
 
「次もフリップボウリングかな?」
「だけど、今度のターゲットは半端じゃない重さだぞ……!」
 マナブとオサムが戦々恐々と言った声を上げる。
「けっ、パワーなら負けねぇぜ!このくらいダントツでぶっ飛ばしてやる!!」
 バンは怖気づくことなくフリックスをスタート位置にセットして、狙いを定める。
「いっくぜぇぇ!!!」
 バシュッ!!
 ピン目掛けてかなりの威力でシュートする。
 が、フリックスはピンの中心を的確にとらえたにも関わらず、ピンは多少振動しただけでビクともしなかった。
「くっ!」
 バンは一瞬顔を顰め、反動で落ちたフリックスを拾った。
「くっそぉ……!」
「ウソだろ、バンのパワーでもビクともしないなんて」
「あのピン、かなりの重量だね」
「いや、俺のパワーが足りなかっただけだ!今度は本気で行くぜっ!!」
 再びフリックスをセットする。
 そして、スゥ……と息を吐いて力を抜き、ゆっくりと腕を引いた。
「いくぜ……ブースターインパクトォォォ!!!」
 腕を突き出しながらの必殺技、ブースターインパクトさく裂!
 先ほどとは比べ物にならないすさまじい勢いでフリックスがカッ飛んでいく!

 バゴォォォ!!!
 ピンとの激突の瞬間、耳をつんざくような音が鳴り響く。
 フリックスはその反動で場外、そしてピンはぐらぐらと揺れ、そして……止まった。
 
「ああああああ、くそっ!これでもダメかよ!!」
 バンは頭を抱えて叫んだ。
 切り札である必殺技を使っても課題をクリアできないとなると、もう打つ手がない。
「あのピンは重すぎるよ」
「完全に無理ゲーじゃねぇか……」
 マナブとオサムは諦めモードで肩を落とす。
「ちくしょう!俺はまだあきらめねぇぞ……!」
 バンは鼻息を荒くしながら再びフリックスをセットする。
「バン……!」
 そんなバンへ、リサが目を見開きながら声をかけた。
「どうした?」
「そ、それ……!」
 リサはバンのポケットが光り輝いていることに気付き、指差した。
「なんだぁ!?」
 ポケットから取り出したのは、先ほど手に入れたパーツだ。
「こいつを、使えって事か……?」
 このタイミングで都合よく反応を示したそのパーツを見て、バンは直感的にそう思った。
「でも、使うって言ってもどうやって?見た感じ、シャーシでもボディでもなさそうだけど……」
 マナブの言う通り、このパーツは従来のフリックスに使えるようなものとは思えない。
「う~ん、この形。どこかで見た事あるような……」
 バンは繁々とパーツを眺める。
「この剣先をぶつけられたら、強そうなのに」
 リサは何気なくぽそっと言った。
 その言葉を聞いて、バンはハッとして自分が使っているフリックスを見た。
「……!」
 フリックスとパーツを交互に見る。そして、ある考えに思い至った。
「まさか」
 そう呟くと、バンは徐にフリックスのシャーシを外した。
 すると、カションッ!とボディの裏から細いピンが外れ、ロックを失ったようにボディが何分割かに分かれてバラバラになった。
「ボディが……!」
「壊れたぁ!?」
 オサムが素っ頓狂な声を出すと、マナブが落ち着いた声で言った。
「いや、と言うより分解したんだ。そうか!このフリックスはボディを分割出来るんだ!」
「バン、知ってたの?」
「なんとなくさ。このパーツの形が、ドライブヴィクターの剣の部分に似てたから、もしかしたらって思ったんだ」
 言いながら、バンは手に入れたパーツを組み込んで再びフリックスを組み上げた。
 フロント部分だけは、ヴィクターのような鋭い剣の形状になっている。
 
「これなら行けそうだぜ!!」
 再びフリックスをセットしてピンを狙う。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
 バシュウウウウウウ!!!!
 
 渾身のシュートで、フリックスがピンへ向かってブッ飛ぶ。 
  
 バゴオオオオオオ!!!!
 
 ピンにぶつかった瞬間、剣先が勢いよく伸びてピンを弾いた。
「なんだぁ!?」
「パーツが、伸びた……!」
 
 バキィィ!!!
 反動でフリックスがバンの手元まで戻る。
 そして、ピンは……ぐらぐらと何回か揺れ、そして……!
 
 ドォォォォン!!!
 ゆっくりと倒れた。
 
「やったぜぇぇ!!!」
 それを見届けたバンは、大きく飛び上がりガッツポーズした。
「す、すごい!あのパーツは、ぶつかった反動で剣先が飛び出すギミックが仕込んであるのか!それであんな破壊力を……!」
「やったね、バン!」
「すっげぇぜ、お前!!」
 みんなが口々に歓声を上げる。
 
「へへへっ、こいつのおかげだぜ!なんか、こいつを付けてから、ちょっとだけ扱いやすくなってきたって言うかさ。ほんと、すげぇやこのパーツ!」
 バンが顔を綻ばせながら機体を掲げる。
「……ディフィート」
 それを見たマナブが、呟いた。
「へ?なんだそれ?」
「あ、いや、そのパーツの裏にDefeatって書いてあるからさ」
 良く見ると、確かに小さく英単語が書いてあった。
「ふーん、どういう意味なんだ?」
「確か、『打ち負かす』とかそういう意味じゃなかったっけ?」
 マナブは最近塾で習ったばかりの知識を探りながら答えた。
「そっか打ち負かすか……よーし、決めた!それだ!それにするぞ!!」
 いきなり、バンが叫び出した。
「どうしたの、バン?」
 リサに聞かれて、バンは快活に答えた。
「新しいヴィクターの名前だよ!」
「気が早いなぁ」
 オサムが呆れながら言う。
「良いだろ、別に!」
「ディフィートかぁ。ヴィクターが『勝利者』って意味だから、新しいヴィクターの名前にはピッタリだね」
 マナブは苦笑しながらも賛成する。
「だろ?よーし、待ってろよディフィートヴィクター!俺は絶対に、お前にたどり着いてやるぜ!!!」
 バンはフリックスを掲げて、次なる試練へ向けて気合いを入れた。
 
 
 
 
           つづく
 
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弾突バトル!フリックス・アレイ第25話


 第25話「希望へ向かう涙」
  
  
 
 遠山カップ決勝戦。
 バンとザキの戦いは、熾烈を極めた。
 
「ブラックホールディメンション!!」
 ザキの放ったシェイドスピナーの猛回転が竜巻を巻き起こし、その竜巻に吸い寄せられたドライブヴィクターがシェイドスピナーに激突する。
 バキィィ!!!
 ボディが砕ける断末魔を上げながら、ドライブヴィクターは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
「うわあああああああ!!!!」
 バンも竜巻に吹き飛ばされて、尻餅をついた。
「ぐっ」
 痛みに顔を顰めながらも、自分の隣に落ちたドライブヴィクターに視線を移した。
「ヴィクター……!」
 バンは、無残な姿になったドライブヴィクターを慌てて拾い上げた。
 ドライブヴィクターは、原形をとどめないほどにボロボロになっていた。
「そ、そんな……!」
 バンの瞳が見開かれる。
 信じられない。でも、その悲壮は間違いなく現実のものだった。
 
『な、なんとぉぉ!!シェイドスピナーの強烈な一撃によってドライブヴィクターは大破!再起不能になってしまったぁ!!
大激戦だった遠山カップだったが、決勝第3バトルを待たずして、決着がついてしまったぞぉ!!』
 
 呆然とする頭に、バトルフリッカーコウの耳障りな叫び声が響く。
 状況の整理がつかない。
 一体、今、何がどうなっているんだ……?
 
「あっけなかったなぁ」
 ザキが鼻で笑いながら言った。
 その言葉は聞こえたが、今のバンは顔を上げることが出来なかった。
「……けっ」
 反応のないバンに興味が失せたのか、ザキはそのまま何も言わなかった。
 
 その様子を見ていたリサや剛志達。
「バン、そんな……」
 リサはいたたまれないように、キュッと服の裾を掴んだ。
「ザキ、恐ろしい奴じゃ……!」
「ドライブヴィクターが、壊されるなんて……!」
 剛志とレイジもザキのパワーに戦慄した。
 
『遠山カップ優勝は!前評判も高かったスクールの秘密兵器!ザキ君に決定だぁぁぁ!!!』
 バトルフリッカーコウの実況とともに歓声が沸きあがった。
 しかし、バンにとってその声達はまるで対岸の火事の野次馬のざわめきのようにしか聞こえなかった。 
「……」
 会場が盛り上がる中、バンはただ、砕けたドライブヴィクターを色の無くなった瞳で見つめ続けた……。
 
 そして、観客席の陰ではMr.アレイがひっそりとバトルを見ていた。 
(恐れていた事が起こってしまったか……だが、問題はない。次の段階への準備は整っている!
あとはお前次第だ、段田バン。決して立ち止まるな!) 
 Mr.アレイは、会場内で沈んでいるバンに心の中で喝を入れた。
  
 
 遠山カップの翌日から数日間、バンは体調不良を理由に学校を休んでいた。
 遠山カップの様子を見たフリッカー達はバンの体調不良の原因がドライブヴィクターが壊れたためだと察していた。
 しかし、大事なフリックスが破壊されてしまった悲しみは想像を絶するものだから、どう接するべきか分からず、仲間たちはバンの見舞いにもいけず、ただ心配する事しか出来ずにいた。
 
 そんな放課後のいつもの公園で、オサムとマナブが一緒に遊んでいた。
「バンの奴、全然学校に出てこないなぁ」
 オサムが、つまらなそうに、それでいて心配そうに呟いた。
「ショックが、抜けてないんだ。大事なドライブヴィクターをあんな風に破壊されたんだから」
「だよなぁ。俺だって、同じ目にあったら一か月は寝込んじまうよ」
 オサムとマナブは神妙な顔つきで自分のフリックスを見つめた。
 もし、あの場にいたのが自分だったら……そう思ったら恐ろしくなる。
 愛機を壊される恐怖と哀しみなんて、想像したくもない。
「バン……くそっ!俺達友達なのに、何もする事が出来ないのか!」
 オサムは悔しそうにフィールドを叩いた。
「俺に、何してくれるんだ?」
 その時、オサムのすぐ傍で、良く知った声が聞こえてきた。
「だから、バンに……ってバンっ!?」
 オサムとマナブのすぐ横に、バンとリサが立っていた。
「よっ、久しぶりぃ!」
 バンは異様なほどの笑顔で片手をあげて挨拶をした。
 その様子に、オサムとマナブはポカンと口を開いた。
「なんだよなんだよ!せっかく久しぶりに会ったのにボケッした顔して、失礼な奴らだな」
 バンが憤慨したように言うと、一足先に我に返ったマナブが慌てて声を出した。
「あ、ご、ごめん!バン、もう体調は大丈夫なのかい?」
「おう!このとーり、元気回復だぜ!!」
 バンはドンッと胸を叩いた。
「そ、そっか、それは、よかった……」
 戸惑いながらも返事をしたマナブは、バンの隣にいるリサの表情に気付いた。
 リサの表情は少し暗い。それは、本来ならバンがしているはずだと思っていた表情だった。
「……」
「いやぁ、遠山カップでちょっと張り切り過ぎちゃったみたいでさ!大会終わった瞬間知恵熱出しちまったぜ!はっはっは!」
 後頭部を掻きながらバンは馬鹿笑いする。
 その明るさは、どこか不自然さがあった。
「バン、お前その、本当に大丈夫なのか……?」
 少し遅れて我に返ったオサムが恐る恐る問いかけた。
「おう。だから知恵熱だって言ってんじゃん!2,3日眠ればバッチリだぜ!」
「いや、そう言う事じゃなくてさ」
 オサムは視線をそらしながら、気まずそうに言う。
「ドライブヴィクター、壊されちまったじゃねぇか。それは、どうなんだよ……?」
 その言葉を聞いた瞬間、笑っていたバンの表情が消え、表情に感情がなくなった。
「ちょ、オサム!」
 さすがにそれは失言だろうとマナブが諌めた。
「あ、わり……!」
 慌てて謝るオサムに、バンは怒るでも悲しむでもなく言った。
「気にするなよ。別にオサムがドライブヴィクターを壊したわけじゃないし」
「バン……。だけど、あのザキって奴ひでぇよな。ドライブヴィクターを破壊するなんて」
 オサムが怒りの矛先をザキに向けるようにすると、バンは首を横に振った。
「ザキだって悪くねぇよ」
「え?」
「ドライブヴィクターが壊れたのは、俺のせいだ。俺が無茶な戦い方ばっかしてたから。自業自得なんだから、誰かを怒ったり、悲しんだりするって、なんか変だろ?」
 そう言ったバンの表情は、異様に晴れ晴れとしており、感情が読み取れなかった。
「……」
 そんな風にハッキリと言われては、これ以上二人は何も言えなかった。
 
「んな事より、久々にバトルしようぜ!もうずっとしてないからウズウズしてんだ!」
「え?でも、バン……」
 ドライブヴィクターはもうないのに……。
「へっへっへ!これが俺の新しい相棒、プロトアレイDXだ!!」
 と、バンが取り出したのは、最近新発売した市販品のプロトアレイDXだった。
「そ、それってこないだ出たばっかの……!」
「おう!お小遣い前借して買っちゃった!」
「確かそれって、最新型のシャーシが付属してるやつだよね?」
 マナブが言った。
「ああ。えっとなんだっけ?『ワンウェイシャーシ』だったかな。なんか、攻撃重視だって言うから選んだんだ」
「ワンウェイシャーシ。前方に進む時は低い摩擦抵抗でスピードが出るけど、後ろに下がる時だけ摩擦抵抗が強くなる。つまり、リコイルを受けづらくなってるから、相手に衝撃をダイレクトにぶつける事が出来るシャーシなんだ」
「へぇ、なんか凄そうじゃん!バンにピッタリのフリックスだな!!」
 マナブの説明に、オサムが絶賛した。
「へへっ。こいつを、ドライブヴィクターに負けないくらいの相棒にしてダントツ一番を目指すぜ!!」
 バンはドライブヴィクターへの想いを振り切って、新たな一歩を進もうとしていたのだ。
 その姿を見て、二人は今度こそ本当に安心した。
「そっか!よーし、バトルしようぜ!」
「うん、新しく使うフリックスのテストバトルしなきゃね!」
「頼むぜ!リサもやるよな?」
 と、今まで一言もしゃべらなかったリサにも話を振った。
「う、うん……」
 リサはうつむき加減で小さく返事をした。
 
 フィールド上に四体のフリックスが乱雑に置かれている。
「それじゃ行くぜ!」
 オサムがフリックスをシュートして、フレイムウェイバーを狙う。
 フレイムウェイバーはオサムのシュートをスラリと受け流した。
「うがぁぁ!!」
「オサムは力み過ぎだよ」
 マナブは苦笑しながら言った。
「よし、次は俺のターンだな!」
 バンがプロトアレイDXを構える。
「いっけぇぇ!!」
 渾身の力でシュートする。
 のだが、全く見当違いの方向にブッ飛んでしまい、あっさり自滅してしまった。
「あ……」
 地面に落ちたプロトアレイDXを見て、バンは呆然とした。
「バン……」
 リサが悲しそうにつぶやく。
「ま、まぁしゃーねーよ!まだ使って間もないフリックスなんだから」
「そうだよ、これから慣れていけばいいって!」
 オサムとマナブが必死にフォローを入れる。
「お、おう。そうだよな!」
 バンが気を取り直して、プロトアレイDXを拾いに駆け出した。
 ガッ!
「あっ!」
 心ここに非ずで駆け出したためか、バンは小石に躓いて転んでしまった。
「ぐっ!」
「バン、大丈夫!?」
 三人が慌ててバンの傍に駆け寄る。
「あ、あぁ……ははは、失敗しちまった」
 コロン……。
 その時、バンのポケットから何かが零れ落ちた。
 それは、継ぎ接ぎだらけだが、テーピングや接着剤でなんとか原形をとどめるくらいに修理されたドライブヴィクターだった。
「バン、これ……」
「あぁ。へへっ、なんとか直そうとはしたんだけど難しくてさ……」
 バンは取り繕うように口元を緩ませながら言った。
 そして、ドサッと地面に座り込んで空を仰いだ。
「情けねぇなぁ……ドライブヴィクターの修理も出来なくて。結局諦めて別のフリックスを手に入れたのに、使いこなせなくて……俺は、どうすりゃいいんだよ……」
 その口調は軽かったが、言葉の裏に大きな悲しみと悔しさが秘められていた。
「バン……」
 それを悟った三人は、唇をかみしめながら、それでも声をかける事が出来なかった。
「って、嘆いてる場合じゃねぇもんな!俺は、何が何でも戦い続けなきゃなんねぇんだ!俺のせいでドライブヴィクターが壊れちまったんだからな、せめて、戦い続けねぇと申し訳が立たねぇ……!
じゃなきゃ、ドライブヴィクターが安心して休めねぇもんな。俺は、こんな所で立ち止まらねぇぞ……!泣いてる暇なんかねぇんだ!!」
 バンは、拳を握りしめ、涙を必死に堪えながら言葉を紡いでいった。
「バン」
 フワッと、空を仰いでいたバンの視線が何かに覆われた。
「え、リサ……?」
 リサが、バンを抱きしめたのだった。
「な、なにすんだよ」
「バンは、どうして悲しんじゃいけないの?」
 抱きしめながら、リサは淡々と問いかけた。
「え……?」
「悲しくないの?ドライブヴィクターが壊れても、バンは平気なの?」
「そ、それは……でも、悪いのは俺なんだから、俺に、悲しむ資格は……」
「そんなの、いらないんじゃないかな」
「っ……!」
「強がらなくていい。ドライブヴィクターだって、そんなの望んでない」
「だ、けど、俺は、前に進み続けなきゃ……」
「前に進むのは、少し立ち止まってからでも遅くないよ。バンは、それが許されるくらいにはドライブヴィクターと絆を深めてきたはずだよ」
「……」
 リサに優しく諭されながら、バンは脳裏にドライブヴィクターとの想い出を浮かべた。
 
 初めてMr.アレイにドライブヴィクターを託された事。
 使いこなすために必死で特訓した事。
 数々のライバル達との激闘……。
 
 そのすべてが、まるで走馬灯のように鮮明に浮かんでは消えていく。
「う……く……!」
 消えて行った記憶が、今度は想いとなって、胸の奥から湧き上がってきた。
「あ……ぐぅ……!」
 それが、嗚咽に代わり、喉が震え、知らずに瞳から滴が零れた。
「あぁ……あああ……!うわああああああああ!!!!」
 バンはリサの胸に顔をうずめて箍が外れたように大声で泣き喚いた。
  
「ドライブヴィクター……!俺、やっぱりお前じゃなきゃダメだ!お前がいないと、戦えない……!戦えないんだ!!!
ごめん、ごめんよ!俺のせいなのに、俺は、お、れは……く、わああああああああ!!!!!」
 
 感情ばかりが優先して、何かを言いたいはずなのにそれはまともな言葉にはならない。
 それでも、バンは心の奥に我慢していた感情をブチまけ続けた。
 
 数分後。
 感情を吐き出して、ようやく落ち着いたバンは、リサから離れた。
「……」
 泣きつかれたからか、少し息を整えている。
「落ち着いた?」
「うん。ごめん、リサ。ちょっとスッキリした」
 そう言ったバンの顔はグチャグチャだったが、どこか憑き物が落ちたような表情をしていた。
「よかった」
 そして、バンは再びボロボロのドライブヴィクターに視線を移して語りかけた。
「ごめんな、ドライブヴィクター。今度こそ俺、立ち上がるから!お前がいなくても、立派に戦えるんだって所を見ててくれよな」
 そう、決意を改めた時だった。
 
「ヴィクターは蘇る!」
 頭上から、良く知った男の声が降ってきた。
「なにっ!?」
 バッと見上げると、近くの木の枝でMr.アレイが腕組みをして仁王立ちしていた。
「Mr.アレイ……!」
 Mr.アレイはバンと目が合うと気を飛び下りた。
「だが、全てはお前次第だ」
 着地し、再びバンの目を見据えてMr.アレイは言った。
「ヴィクターはよみがえる……俺、次第……?」
 状況が掴めず、バンはただMr.アレイの言葉を反復するのだった。
 
 
 
      つづく
 
 次回予告



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弾突バトル!フリックス・アレイ 第24話

第24話「悪夢の決勝戦!ドライブヴィクター魂のシュート!!」
  

遠山カップ会場。
バンとレイジの試合が終わり、Bブロックの準決勝の試合が行われていた。

『さぁ、白熱の遠山カップもあと2試合を残すのみとなった!
次に行われるのは、準決勝第二試合!ザキ君VS川田史郎君だ!!のおっと!ザキ君は、スクールが誇る最強のフリッカー。そして川田史郎君はスクール最高クラスに所属しているフリッカーだ!
これは、スクール生同士の頂上決戦となるのか!?』
 ザキと史郎がフィールドの前に立った。
「スクールの切り札だかなんだかしらないが。Sクラスの誇りにかけて、僕は君を倒す!」
史郎は凛とした表情でザキと対峙した。
「けっ、次元が違うんだよ」
ザキは、そんな史郎を鼻で笑うようにして吐き捨てた。

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