弾突バトル!フリックス・アレイ
第29話「伊江羅博士脱走!ヴィクターに込められた願い」
フリップスペルが提示された大会が終わった数日後。
世間のフリックスではフリップスペルがもう馴染んでいた。
「「「3・2・1・アクティブシュート!!」」」
バン達が通っている公園でも、子供達のアクティブシュートの掛け声が響き渡っている。
「いっけぇ、ディフィートヴィクター!!ライトニングラッシュだ!!」
バキィィ!!
ディフィートヴィクターが連続攻撃ででオサムのフリックスを弾き飛ばした。
「ぐわぁぁぁ!!!なんってパワーだ……!」
「へっへーん!俺とやり合おうなんて無理無理!!なんたって俺は、前回のフリックス大会の優勝者なんだからな、なっはっは!!」
どうやら、バンはあの大会を優勝したらしい。
悔しがるオサムへ、バンは偉そうに高笑いする。
「バン、調子乗すぎ……」
リサはジト目でバンを嗜めようとするが、バンは聞く耳持たない。
「何かな?前回3位のリサ君?」
「別にバンに負けたわけじゃないし」
リサは、バンに当たる前に準々決勝で剛志と当たり、惜しくも敗北したのだ。旧ルールに慣れている状態では、戦術があまり変化しないフリップアウト重視の方が有利だったらしい。
「へぇ?だったら、今ここでやってもいいんだぜ!」
バンはムカつく表情で挑発してきた。
「むっ!」
それを見てリサはムッとし、その挑発を受けた。
フィールドを挟んで二人が対峙する。
「恥かく前に逃げるなら今のうちだぜ、リサ!」
完全に調子に乗ってるバンは更に挑発してくる。
「バンの方こそ!」
リサも頭に血が上っているようだ。それでいて、バトルに対しては集中している。
「それじゃ、いくよ!」
マナブがバトル開始の合図をする。
「3・2・1……アクティブシュート!!」
「いっけぇ!ディフィートヴィクター!!」
バンはいつものように力任せにヴィクターを撃った。
「この、軌道でっ!!」
対するリサは冷静にバンのシュートする方向を見極め、若干ズレた方向へフレイムウェイバーをシュートしていた。
「いぃ!?」
勢いよくブッ飛んだ二つのフリックスは接触する事なく、すれ違う。
フレイムウェイバーは途中で止まり、ぶつかる事前提で思いっきり撃ったバンのディフィートヴィクターはそのままの勢いで場外してしまった。
「ディフィートヴィクター場外!えっと、アクティブシュートでの場外は自滅扱いだから、ディフィートヴィクターに1ダメージ与えて、両者仕切り直し!」
マナブが今の起こった結果を判定する。
そして、二人は再びスタート位置にフリックスをつけた。
「くっそぉ、逃げるなんてズルいぞ、リサ!これじゃフリップスペル使う暇がないだろ!!」
せっかく正面衝突が出来るのに、それをしなかったリサへ不満をぶつけるバンだが。
「使えるからこそ使わせずに勝つのも戦術だよ」
「ぐぐ……!」
リサに論破されて、バンは言葉を詰まらせた。
「それじゃ行くよ!3・2・1・アクティブシュート!!」
マナブの合図で二人が同時にシュートする。
(だったらこっちもリサのシュートを予想して、ぶつけてやる!)
バシュッ!!
バンも考えて撃ったが、リサの方が一枚上手だったらしく、方向はズレている。
「くっそぉ!!止まれヴィクター!!」
考えて撃ったおかげか、多少威力が加減されていたのでフィールド端より割と手前でヴィクターは止まった。
「ふぃ~、セーフ……」
フィールド端手前で止まったヴィクター。しかし、フレイムウェイバーは更にフィールド端ギリギリで止まっていた。
「えっと、進んだ距離はウェイバーの方が長いから、リサちゃんが先攻!」
「やったっ!」
「なに!?」
最初からぶつかり合わず、チキンレースするつもりでシュートした故の効果だろう。
「でも、その距離じゃフリップアウトできないぜ!」
ウェイバーからヴィクターまではかなり距離がある。更にヴィクターをフリップアウトさせるにもそこそこ弾かないといけない。
マインヒットしたとしたとしても、まだバンのHPには余裕がある。
「フリップスペル!ブレイズバレット!!」
ブレイズバレット。3秒以内にシュートし、マインが2個以上干渉してマインヒットした場合、2ダメージ与えられる。
バーーン!!
通常のマインヒットの二倍のダメージを受けてしまい、ヴィクターは撃沈した。
「リサちゃんの無傷の完全勝利だ!」
せめて、一矢報いたかったところだが、結局1ダメージも与えられずにバンは負けてしまった。
「うがああああ!!!負けたー!優勝者の俺がーーー!!!」
負けどころか、完敗してしまったバンは頭を抱えて叫ぶ。
「やったっ」
リサは小さく顔をほころばせた。
「それにしても、ライトニングラッシュがあるからパワー重視が圧倒的に有利だと思ったけど、フリップマインを使った戦略が深いね……」
マナブは先ほどのバトルを思い返しながら感心している。
「確かに、スペルによってはマインダメージの威力が上がるから、上手く使えばどんなに硬い相手でも倒せちまうもんな」
「その分、かなりのテクニックと作戦が必要になるけどね……」
と、マナブとオサムが話している間にショックから回復したのか、バンは再びリサに向き直った。
「ええい!もう一回勝負だ、リサ!!」
唾を飛ばす勢いで意気込んでリサを指さした。
しかし、そのリサの向こう側、公園の入り口の方に見知った人物が目に入り、バンはハッとした。
「あれ?」
目を凝らしてよく見ると、そこにいたのはMr.アレイだった。
だが、その姿はまるで何者かに襲われたみたいにボロボロで、息は絶え絶え、どうにか歩けているという感じだった。
「Mr.アレイ……?」
バンが呟くと、皆がその方へ向いた。
すると、Mr.アレイも虚ろな瞳をバンへ向ける。
「段田……バン……」
そう、弱々しく呟いたのち、Mr.アレイはフッと力が抜けてうつぶせに倒れこんだ。
「あ、おい!」
反射的に、バン達はMr.アレイの元へ駆け寄った。
「大丈夫かよ!!」
バンはその倒れた体を抱えようとする。すると、Mr.アレイの仮面がズリ落ちて素顔があらわになった。
「こ、こいつは……!」
そこに現れた顔は、バンやリサの良く知っている顔だった。
「伊江羅、博士……?」
そう、Mr.アレイの仮面の下に隠されていたのは、前にスクールに侵入した時にバンの妨害をしたフリックスの開発者だった。
「こいつが、Mr.アレイ?でも、なんで……」
Mr.アレイはバンにヴィクターを託したり、何度も助けてくれた人物だ。
それが、バンと敵対するスクールの技術者……頭の中で疑問が尽きない。
「バン、それよりも」
疑問で身体が固まったバンへリサが声をかける。
「あ、あぁそうだな」
その言葉に我に返った。そうだ、今は疑問点を考えるより先にやる事がある。
バン達は伊江羅博士を木陰のベンチに運び、濡れタオルを額に置いた。
しばらくして、伊江羅博士がうっすらと目を開け、ゆっくりと上半身を起こした。
「……」
まだ意識ははっきりとしないのか、焦点の定まっていない目でうつむいている。
「大丈夫か?とりあえず、これ飲めよ」
バンはさっき買ってきたばかりのMAXコーヒーを伊江羅へ手渡した。消耗した体力を回復させるには甘いものが一番だ。
伊江羅はそれを受け取ると一口すすってから、改めてバン達の方へ視線を移した。
「……恩に着る」
ボソッと、感情のない口調で礼を言われた。
「んな事より、どういう事なんだよ?どういう事ってか、えっと、何から聞けばいいんだぁ!?」
疑問点があまりにも多すぎてこんがらがっているバンに変わって、リサが口を開いた。
「伊江羅博士、あなたはスクールの技術者でした。そんなあなたがどうしてここへ?一から説明してもらえますか?」
「そうだそうだ!全部教えろ!!」
リサに問い詰められ、伊江羅はフッと口元を緩ませた。
「今更隠し通す気はない。ここへ来たのも、すべてを明かすためだからな」
その態度を見て、バンも思考が整理できたのか、疑問を口にする。
「全てをって……大体、お前の目的はなんなんだよ!俺達の敵の癖に、なんでお前がMr.アレイなんだよ!」
「すべては、あいつを救うためだ……」
「あいつ?」
そうして、伊江羅は語り始めた。
「俺には、フリッカーの弟がいる。そいつは誰よりも貪欲に強さを求めるフリッカーだ。
どんな強敵に打ち勝とうと、どんな大きな大会で優勝しようと、決して満足する事無く己を磨き、鍛え続ける……。まるで、何かに追われているかのように。
そんなあいつのために俺は、より強いフリックスを開発してきた。だが、あいつの求める強さは俺の想像をはるかに超えていた。
素人の設備で作るフリックス、素人が使用できる施設での特訓では、すぐに限界が訪れ、袋小路になってしまうのは時間の問題だった。
そこで俺は1年前、遠山フリッカーズスクールに技術者として就職し、弟も生徒として入学した」
「スクールの生徒に……」
もしかしたら会った事があるのかもしれないと思い、リサは呟いた。が、それを察した伊江羅が否定する。
「いや、その頃には既にお前はスクールの最上位クラスにいたからな。恐らく会った事は無いはずだ。あいつが練習生として在籍していたのはほんの数ヶ月程度だからな」
「え?」
「なんだよ?強くなりたいとか言っときながら、すぐ辞めたのか?根性ないな」
バンが茶々を入れる。
「そうではない。弟は、日々のスクールの訓練に不満を感じていた。施設も、在籍しているすべてのフリッカー達も自分をより強くするレベルのものじゃないと即座に見抜いていたのだ。
その事を察した校長の段治郎は、私にとある計画を持ち掛けてきた」
「とある計画?」
「フリッカー強制進化装置……強制的にフリッカーの能力を底上げするための装置だ」
「能力の底上げ!?」
「なんか胡散臭いな……」
「理論上は可能だ。だが安全性を保証するためのデータがまだ揃っていない段階だった。俺はその計画には反対した。だが……」
伊江羅は憎々しげな表情になる。
「弟さんの方が、賛同したって事ですか?」
マナブが言うと、伊江羅は頷いた。
「弟はその計画に心酔し、そして俺達の生殺与奪の権利は既に段治郎の手に握られていた。全てが手遅れだったのだ。
そして私は、その装置を作り、弟の身を委ねた……それがどれだけ危険な事か承知していながらな」
伊江羅は自嘲気味に笑った。
「って、それ犯罪なんじゃ!?警察には……!」
マナブが常識的な事を言うが。
「無駄だ。装置は特殊な物質を使っている、肉体に証拠は残らない。そしてスクールのバックには警察との繋がりもあるからな。もみ消される事は目に見えている」
「そんな……」
「でも、特殊な物質って?」
「アクティブパワーだ」
その言葉を聞き、バン達は目を見開いた。
「フリップスペルの元になった奴か……!」
「そうだ。元々アクティブパワーとは、遠山段治郎が自分の生徒達だけを有利するために開発した物質だ。スクールをフリックス界最強の存在にするためにな」
それでフリップスペルの効果は競技バランスに革命を起こすほど強力なものばかりだったのだ。
「だが、それも誤算が生じた。スクールのトップクラスの生徒に支給されるはずのアクティブパワーだが強力すぎて普通の生徒では使えるものがいなかった」
「これではスクール生だけを有利にするために作られたアクティブパワーの意味がなくなる。そこで段治郎は、アクティブパワーを受けても耐えられる人材を探した。スクール最強のフリッカーとしてフリックス界の頂点に立たせられる人材をな」
「まさか、それって…!」
「ザキ。俺の弟は、伊江羅ザキだ」
「っ!」
衝撃の告白に、バン達は息をのんだ。
「この事態を重く見た俺は、密かに研究をつづけ、アクティブパワーの効果を安全に全てのフリッカーへ与えられるようにフリップスペルを開発した。
これでスクール生や一部のフリッカーだけが、ザキだけが極端に有利になる状況は防げた。だが、少々派手に動き過ぎたようだ。段治郎に感づかれ、それからはこのザマだ」
伊江羅はボロボロになった自分の体を見下ろして軽く笑う。
「ちょ、ちょっと待てよ!じゃあ、あんたはずっとザキをスクールから救うために行動してたって事か!?でも、なんで俺にドライブヴィクターをくれたんだよ!!」
「お前に、ザキを倒してもらうためだ」
「俺に……?」
伊江羅の言葉の真意をつかみかねて、バンは聞き返した。
「俺が、あいつを倒して、それで救われるのか?」
「ザキの強さへの強迫観念。それは今更どうあっても変えることは不可能だろう。だが、その強迫観念からの逃げ道を強制進化装置に依存してる状態を続けさせるわけにはいかない。
あいつよりも強いフリッカーが現れれば。より己を強くするライバルさえ現れれば、装置に頼る事もなくなる」
ザキが強さを求めて装置に頼るのは、自分を高めてくれるほどの強さをもった相手がいないからだ。
だが、もしも、装置を使って強くなってもなお、倒せない相手が現れたとしたら……ザキにとって装置はアテにならないものになる。
そのライバルとのバトルこそが、自分を強くしてくれるための近道になるのだから。
「だから俺は、シェイドスピナーに唯一対抗できる性能を持ったフリックスを開発し、それを使いこなせるフリッカーを探した。それがお前だ、段田バン」
伊江羅は睨み付けるほどの鋭い眼光でバンをみた。
「お、俺が、ザキを……」
思い出されるザキのバトル。圧倒的な破壊力で全てのフリッカー達を恐怖のどん底へ落としてきた、あのバトル。
ドライブヴィクターも、あいつによって破壊されてしまった。それを思い出し、バンは無意識に体が震えていた。
「な、なんだよそれ!それじゃあバンを利用してたって事かよ!!」
オサムがバンに変わって怒りをあらわにする。
「……謝る気はない。お前が望んで力を手に入れた事に変わりはないからな。今更逃げることは出来ないはずだ」
「か、勝手な事言うな!バン、すぐヴィクターを返そうぜ!!こんな奴の言うとおりになんかならない方が良いって!」
そういうオサムだが、バンはグッと拳を握りしめて言った。
「へんっ、謝る必要なんかないぜ!俺は元々ダントツ一番目指してんだ!だったら、ザキだってブッ倒さなきゃいけない相手!誰に頼まれなくたって、勝つのは俺だ!!」
そう豪語するバンは既に震えが止まっており、確かな決意がみなぎっていた。
「バン……」
「それに、俺は感謝してんだ。どんな理由でも俺とヴィクターを出会わせてくれた。こいつはもう俺にとってかけがえのない相棒なんだ。今更返してなんかやらねぇよ!」
それを聞いて、伊江羅は安心したように小さく頬を緩ませ、そして立ち上がった。
「お、おい……!」
「もう大丈夫だ。世話になったな」
ブッきらぼうにそう言うと、ゆっくりと歩いていく。
が、数歩進んだ所で立ち止まり、振り返りもせずに言った。
「一つ、忠告しておく。遠山カップの成果でスクールの名は全国に広まった。それによって、多数の優秀なフリッカー達がスクールの門下に下った。これが何を意味するか、分かるな?」
それを聞いても、バンは臆する事無く言った。
「だったら全員倒して、俺がダントツ一番だ!」
「そうか」
そして今度こそ、伊江羅は歩き出していった。
つづく
次回予告
「大変だ!町でフリックスが次々に破壊される事件が発生した!!これもスクールの連中の仕業か!
早速調査に乗り出した俺達だが、そこで出会ったのは凄まじい力を持った新たなフリッカーだった!!
次回!『フリックス破壊魔出没!』
次回も俺がダントツ一番!!」
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