弾突バトル!フリックス・アレイ第25話

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 第25話「希望へ向かう涙」
  
  
 
 遠山カップ決勝戦。
 バンとザキの戦いは、熾烈を極めた。
 
「ブラックホールディメンション!!」
 ザキの放ったシェイドスピナーの猛回転が竜巻を巻き起こし、その竜巻に吸い寄せられたドライブヴィクターがシェイドスピナーに激突する。
 バキィィ!!!
 ボディが砕ける断末魔を上げながら、ドライブヴィクターは吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。
「うわあああああああ!!!!」
 バンも竜巻に吹き飛ばされて、尻餅をついた。
「ぐっ」
 痛みに顔を顰めながらも、自分の隣に落ちたドライブヴィクターに視線を移した。
「ヴィクター……!」
 バンは、無残な姿になったドライブヴィクターを慌てて拾い上げた。
 ドライブヴィクターは、原形をとどめないほどにボロボロになっていた。
「そ、そんな……!」
 バンの瞳が見開かれる。
 信じられない。でも、その悲壮は間違いなく現実のものだった。
 
『な、なんとぉぉ!!シェイドスピナーの強烈な一撃によってドライブヴィクターは大破!再起不能になってしまったぁ!!
大激戦だった遠山カップだったが、決勝第3バトルを待たずして、決着がついてしまったぞぉ!!』
 
 呆然とする頭に、バトルフリッカーコウの耳障りな叫び声が響く。
 状況の整理がつかない。
 一体、今、何がどうなっているんだ……?
 
「あっけなかったなぁ」
 ザキが鼻で笑いながら言った。
 その言葉は聞こえたが、今のバンは顔を上げることが出来なかった。
「……けっ」
 反応のないバンに興味が失せたのか、ザキはそのまま何も言わなかった。
 
 その様子を見ていたリサや剛志達。
「バン、そんな……」
 リサはいたたまれないように、キュッと服の裾を掴んだ。
「ザキ、恐ろしい奴じゃ……!」
「ドライブヴィクターが、壊されるなんて……!」
 剛志とレイジもザキのパワーに戦慄した。
 
『遠山カップ優勝は!前評判も高かったスクールの秘密兵器!ザキ君に決定だぁぁぁ!!!』
 バトルフリッカーコウの実況とともに歓声が沸きあがった。
 しかし、バンにとってその声達はまるで対岸の火事の野次馬のざわめきのようにしか聞こえなかった。 
「……」
 会場が盛り上がる中、バンはただ、砕けたドライブヴィクターを色の無くなった瞳で見つめ続けた……。
 
 そして、観客席の陰ではMr.アレイがひっそりとバトルを見ていた。 
(恐れていた事が起こってしまったか……だが、問題はない。次の段階への準備は整っている!
あとはお前次第だ、段田バン。決して立ち止まるな!) 
 Mr.アレイは、会場内で沈んでいるバンに心の中で喝を入れた。
  
 
 遠山カップの翌日から数日間、バンは体調不良を理由に学校を休んでいた。
 遠山カップの様子を見たフリッカー達はバンの体調不良の原因がドライブヴィクターが壊れたためだと察していた。
 しかし、大事なフリックスが破壊されてしまった悲しみは想像を絶するものだから、どう接するべきか分からず、仲間たちはバンの見舞いにもいけず、ただ心配する事しか出来ずにいた。
 
 そんな放課後のいつもの公園で、オサムとマナブが一緒に遊んでいた。
「バンの奴、全然学校に出てこないなぁ」
 オサムが、つまらなそうに、それでいて心配そうに呟いた。
「ショックが、抜けてないんだ。大事なドライブヴィクターをあんな風に破壊されたんだから」
「だよなぁ。俺だって、同じ目にあったら一か月は寝込んじまうよ」
 オサムとマナブは神妙な顔つきで自分のフリックスを見つめた。
 もし、あの場にいたのが自分だったら……そう思ったら恐ろしくなる。
 愛機を壊される恐怖と哀しみなんて、想像したくもない。
「バン……くそっ!俺達友達なのに、何もする事が出来ないのか!」
 オサムは悔しそうにフィールドを叩いた。
「俺に、何してくれるんだ?」
 その時、オサムのすぐ傍で、良く知った声が聞こえてきた。
「だから、バンに……ってバンっ!?」
 オサムとマナブのすぐ横に、バンとリサが立っていた。
「よっ、久しぶりぃ!」
 バンは異様なほどの笑顔で片手をあげて挨拶をした。
 その様子に、オサムとマナブはポカンと口を開いた。
「なんだよなんだよ!せっかく久しぶりに会ったのにボケッした顔して、失礼な奴らだな」
 バンが憤慨したように言うと、一足先に我に返ったマナブが慌てて声を出した。
「あ、ご、ごめん!バン、もう体調は大丈夫なのかい?」
「おう!このとーり、元気回復だぜ!!」
 バンはドンッと胸を叩いた。
「そ、そっか、それは、よかった……」
 戸惑いながらも返事をしたマナブは、バンの隣にいるリサの表情に気付いた。
 リサの表情は少し暗い。それは、本来ならバンがしているはずだと思っていた表情だった。
「……」
「いやぁ、遠山カップでちょっと張り切り過ぎちゃったみたいでさ!大会終わった瞬間知恵熱出しちまったぜ!はっはっは!」
 後頭部を掻きながらバンは馬鹿笑いする。
 その明るさは、どこか不自然さがあった。
「バン、お前その、本当に大丈夫なのか……?」
 少し遅れて我に返ったオサムが恐る恐る問いかけた。
「おう。だから知恵熱だって言ってんじゃん!2,3日眠ればバッチリだぜ!」
「いや、そう言う事じゃなくてさ」
 オサムは視線をそらしながら、気まずそうに言う。
「ドライブヴィクター、壊されちまったじゃねぇか。それは、どうなんだよ……?」
 その言葉を聞いた瞬間、笑っていたバンの表情が消え、表情に感情がなくなった。
「ちょ、オサム!」
 さすがにそれは失言だろうとマナブが諌めた。
「あ、わり……!」
 慌てて謝るオサムに、バンは怒るでも悲しむでもなく言った。
「気にするなよ。別にオサムがドライブヴィクターを壊したわけじゃないし」
「バン……。だけど、あのザキって奴ひでぇよな。ドライブヴィクターを破壊するなんて」
 オサムが怒りの矛先をザキに向けるようにすると、バンは首を横に振った。
「ザキだって悪くねぇよ」
「え?」
「ドライブヴィクターが壊れたのは、俺のせいだ。俺が無茶な戦い方ばっかしてたから。自業自得なんだから、誰かを怒ったり、悲しんだりするって、なんか変だろ?」
 そう言ったバンの表情は、異様に晴れ晴れとしており、感情が読み取れなかった。
「……」
 そんな風にハッキリと言われては、これ以上二人は何も言えなかった。
 
「んな事より、久々にバトルしようぜ!もうずっとしてないからウズウズしてんだ!」
「え?でも、バン……」
 ドライブヴィクターはもうないのに……。
「へっへっへ!これが俺の新しい相棒、プロトアレイDXだ!!」
 と、バンが取り出したのは、最近新発売した市販品のプロトアレイDXだった。
「そ、それってこないだ出たばっかの……!」
「おう!お小遣い前借して買っちゃった!」
「確かそれって、最新型のシャーシが付属してるやつだよね?」
 マナブが言った。
「ああ。えっとなんだっけ?『ワンウェイシャーシ』だったかな。なんか、攻撃重視だって言うから選んだんだ」
「ワンウェイシャーシ。前方に進む時は低い摩擦抵抗でスピードが出るけど、後ろに下がる時だけ摩擦抵抗が強くなる。つまり、リコイルを受けづらくなってるから、相手に衝撃をダイレクトにぶつける事が出来るシャーシなんだ」
「へぇ、なんか凄そうじゃん!バンにピッタリのフリックスだな!!」
 マナブの説明に、オサムが絶賛した。
「へへっ。こいつを、ドライブヴィクターに負けないくらいの相棒にしてダントツ一番を目指すぜ!!」
 バンはドライブヴィクターへの想いを振り切って、新たな一歩を進もうとしていたのだ。
 その姿を見て、二人は今度こそ本当に安心した。
「そっか!よーし、バトルしようぜ!」
「うん、新しく使うフリックスのテストバトルしなきゃね!」
「頼むぜ!リサもやるよな?」
 と、今まで一言もしゃべらなかったリサにも話を振った。
「う、うん……」
 リサはうつむき加減で小さく返事をした。
 
 フィールド上に四体のフリックスが乱雑に置かれている。
「それじゃ行くぜ!」
 オサムがフリックスをシュートして、フレイムウェイバーを狙う。
 フレイムウェイバーはオサムのシュートをスラリと受け流した。
「うがぁぁ!!」
「オサムは力み過ぎだよ」
 マナブは苦笑しながら言った。
「よし、次は俺のターンだな!」
 バンがプロトアレイDXを構える。
「いっけぇぇ!!」
 渾身の力でシュートする。
 のだが、全く見当違いの方向にブッ飛んでしまい、あっさり自滅してしまった。
「あ……」
 地面に落ちたプロトアレイDXを見て、バンは呆然とした。
「バン……」
 リサが悲しそうにつぶやく。
「ま、まぁしゃーねーよ!まだ使って間もないフリックスなんだから」
「そうだよ、これから慣れていけばいいって!」
 オサムとマナブが必死にフォローを入れる。
「お、おう。そうだよな!」
 バンが気を取り直して、プロトアレイDXを拾いに駆け出した。
 ガッ!
「あっ!」
 心ここに非ずで駆け出したためか、バンは小石に躓いて転んでしまった。
「ぐっ!」
「バン、大丈夫!?」
 三人が慌ててバンの傍に駆け寄る。
「あ、あぁ……ははは、失敗しちまった」
 コロン……。
 その時、バンのポケットから何かが零れ落ちた。
 それは、継ぎ接ぎだらけだが、テーピングや接着剤でなんとか原形をとどめるくらいに修理されたドライブヴィクターだった。
「バン、これ……」
「あぁ。へへっ、なんとか直そうとはしたんだけど難しくてさ……」
 バンは取り繕うように口元を緩ませながら言った。
 そして、ドサッと地面に座り込んで空を仰いだ。
「情けねぇなぁ……ドライブヴィクターの修理も出来なくて。結局諦めて別のフリックスを手に入れたのに、使いこなせなくて……俺は、どうすりゃいいんだよ……」
 その口調は軽かったが、言葉の裏に大きな悲しみと悔しさが秘められていた。
「バン……」
 それを悟った三人は、唇をかみしめながら、それでも声をかける事が出来なかった。
「って、嘆いてる場合じゃねぇもんな!俺は、何が何でも戦い続けなきゃなんねぇんだ!俺のせいでドライブヴィクターが壊れちまったんだからな、せめて、戦い続けねぇと申し訳が立たねぇ……!
じゃなきゃ、ドライブヴィクターが安心して休めねぇもんな。俺は、こんな所で立ち止まらねぇぞ……!泣いてる暇なんかねぇんだ!!」
 バンは、拳を握りしめ、涙を必死に堪えながら言葉を紡いでいった。
「バン」
 フワッと、空を仰いでいたバンの視線が何かに覆われた。
「え、リサ……?」
 リサが、バンを抱きしめたのだった。
「な、なにすんだよ」
「バンは、どうして悲しんじゃいけないの?」
 抱きしめながら、リサは淡々と問いかけた。
「え……?」
「悲しくないの?ドライブヴィクターが壊れても、バンは平気なの?」
「そ、それは……でも、悪いのは俺なんだから、俺に、悲しむ資格は……」
「そんなの、いらないんじゃないかな」
「っ……!」
「強がらなくていい。ドライブヴィクターだって、そんなの望んでない」
「だ、けど、俺は、前に進み続けなきゃ……」
「前に進むのは、少し立ち止まってからでも遅くないよ。バンは、それが許されるくらいにはドライブヴィクターと絆を深めてきたはずだよ」
「……」
 リサに優しく諭されながら、バンは脳裏にドライブヴィクターとの想い出を浮かべた。
 
 初めてMr.アレイにドライブヴィクターを託された事。
 使いこなすために必死で特訓した事。
 数々のライバル達との激闘……。
 
 そのすべてが、まるで走馬灯のように鮮明に浮かんでは消えていく。
「う……く……!」
 消えて行った記憶が、今度は想いとなって、胸の奥から湧き上がってきた。
「あ……ぐぅ……!」
 それが、嗚咽に代わり、喉が震え、知らずに瞳から滴が零れた。
「あぁ……あああ……!うわああああああああ!!!!」
 バンはリサの胸に顔をうずめて箍が外れたように大声で泣き喚いた。
  
「ドライブヴィクター……!俺、やっぱりお前じゃなきゃダメだ!お前がいないと、戦えない……!戦えないんだ!!!
ごめん、ごめんよ!俺のせいなのに、俺は、お、れは……く、わああああああああ!!!!!」
 
 感情ばかりが優先して、何かを言いたいはずなのにそれはまともな言葉にはならない。
 それでも、バンは心の奥に我慢していた感情をブチまけ続けた。
 
 数分後。
 感情を吐き出して、ようやく落ち着いたバンは、リサから離れた。
「……」
 泣きつかれたからか、少し息を整えている。
「落ち着いた?」
「うん。ごめん、リサ。ちょっとスッキリした」
 そう言ったバンの顔はグチャグチャだったが、どこか憑き物が落ちたような表情をしていた。
「よかった」
 そして、バンは再びボロボロのドライブヴィクターに視線を移して語りかけた。
「ごめんな、ドライブヴィクター。今度こそ俺、立ち上がるから!お前がいなくても、立派に戦えるんだって所を見ててくれよな」
 そう、決意を改めた時だった。
 
「ヴィクターは蘇る!」
 頭上から、良く知った男の声が降ってきた。
「なにっ!?」
 バッと見上げると、近くの木の枝でMr.アレイが腕組みをして仁王立ちしていた。
「Mr.アレイ……!」
 Mr.アレイはバンと目が合うと気を飛び下りた。
「だが、全てはお前次第だ」
 着地し、再びバンの目を見据えてMr.アレイは言った。
「ヴィクターはよみがえる……俺、次第……?」
 状況が掴めず、バンはただMr.アレイの言葉を反復するのだった。
 
 
 
      つづく
 
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