弾突バトル!フリックス・アレイ 第32話

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第32話「共同戦線 剛志とレイジ!」
  
  
 
 山籠もりの特訓の末、レイジは自分の持っている力の使い道を見出した。
 そして、剛志とレイジは新型フリックスを開発するためのプロジェクトをスタートした!
 
「これが、これまでに藤堂家が得たフリックスの研究データ」
 レイジがカチャカチャとキーボードを叩くと、壁に備え付けられている巨大なモニターに様々なフリックスの画像が表示される。
「おぉ、すごいのぅ……!これだけあれば百人力じゃ!」
「あとは、これをどうフィードバックさせるかだね。この研究所は、機械工学、航空力学、化学工業、電気、情報、生物学、量子力学……いろんな分野の設備が整ってあるから、何でもできるよ」
「おおぅ、よく分からんが心強いな……。そういえば、本来やるはずじゃった実験はなんじゃったんじゃ?ワシらがフリックスを開発する事が役に立つんかのぅ?」
「量子力学。調べてみたけど、どうやらフリップスペルもこの分野が関わっているらしい」
 フリップスペルは言語によって因果を捻じ曲げて概念を生み出す呪文のようなもの。その特殊性ゆえに量子力学といった学問と相性がいいのだろう
「ほぅ、フリップスペルと同じか。と言う事はフリックスに関係する事か?」
 フリップスペルと言えばフリックス。それと同じ分野と言う事は、今回行われるはずだった実験もフリックスに関係する事かと思われたが。
「ちょっと違うみたい。ふろんてぃあ?って所からの依頼で、量子力学を使って、人間と物質をシンクロさせる事でアセンションを促して更なる進化を~とかなんとか……」
「なんだか難しそうじゃのう。本当にワシらのフリックス開発が、代わりになるんか?」
「多分大丈夫、理論上フリックスでも代わりになるはずだから。それを応用して最強のフリックスを作る事が出来れば、本来の研究の代替にもなるよ」
「まさに一石二鳥っちゅー事じゃな。で、ワシはどうすればええ?こう見えても、ワシは頭を使う事は苦手じゃぞ」
 自慢げに言う剛志だが、こいつは見たまんまそういうタイプだ。
「剛志は、出来上がった試作機でテストシュートをして、剛志の全力シュートに耐えきれるものでなきゃ意味は無いから」
「おう、任せろい!!」
 剛志は胸を叩いて頷いた。
 次にレイジは集まってくれた技術者たちへ指揮を執る。
「それから、情報処理班はこれまでに集めた研究データをハンマーギガとミラージュレイダーにフィードバックする上での最適化をして!」
 
「了解しました!」
 
「機械工学チームは、そのデータを基に機体を形作って!」
 
「うっす!」
 
「航空力学チームは、機械工学チームの作った形状の空力特性をチェックして!」
 
「はい!」
 
「化学工業チームは、前に提案した新素材の生成を!」
 
「カーボンとアルミハニカムの超薄型コンポジット素材ですね、至急取り掛かります!!」
 
「量子力学チームは、出来上がったフリックスと僕らのシンクロ率を高めるための解析をお願い!」
 
「……」
 量子力学チームは黙ってうなずいた。
 
 そして、全てのチームが作業に取り掛かった。
 
「ハンマーギガとミラージュレイダーを、更にパワーアップさせるうえでの最適なデータは……」
「これなんかどうでしょう?」
 情報処理チームが画像データをレイジに見せる。
「これは、ディフィートヴィクター……」
「この構造を従来の機体へフィードバックすると……」
 カチャカチャとキーボードが叩かれ、モニター上でディフィートヴィクターとハンマーギガ&ミラージュレイダーが融合するような映像が映し出され、徐々に形が整えられる。
「っ!!」
 それは、従来のハンマーギガ、ミラージュレイダーよりも遥かに洗練されたデザインだった。
「よし、とりあえず一旦このデータを形にしよう」
 レイジが目で促すと、機械工学チームが頷いた。
「了解、ぼっちゃん!」
 手際の良い作業で、あっという間に二つのフリックスが出来上がる。
 そして、早速風洞実験を行う。
「空力は問題ない?」
「大丈夫です」
 航空力学の人は眼鏡を光らせながら頷いた。
「よし、剛志、お願い!」
 レイジは二つのフリックスを剛志に渡す。
 
「任せろぃ!!」
 剛志はそれを受け取り、思いっきりシュートする。
 しかし……バゴォォ!と強烈な音を立てて、フリックスは砕けてしまった。
「あ、しまった!すまん!!」
 壊してしまった事に慌てて剛志は謝る。
「ううん。壊れる位強く撃たなきゃ意味ないから。もう一度、剛性をチェックしてやり直しだ!!」
 
 また同じ工程を繰り返してフリックスが形作られる。
 
「よし、行くぞ!」
 剛志がテストシュートする。
 バゴォォ!!
 今度は見事剛志のシュートに耐えきった。
「やったぞ、成功じゃ!!」
 顔をほころばせる剛志だが、レイジは真剣な表情を崩さない。
「量子力学チーム、今のシュートは?」
「フリックスとフリッカーの相性、36%……シンクロしきってはいません」
「失敗か……」
 レイジが落胆する。
「ダメなのか?十分な性能じゃが……」
「うん。物が出来ても、それは僕達のフリックスにはならない」
「そうか……」
「もう少し、従来の愛機と形状を似せれば使いやすくなるかも」
 
 データを改良し、再びフリックスを作り上げる。
 
「いくぞ!」
 ドゴオオオ!と剛志がテストシュートする。
「今のは?」
「38%……まだまだですね」
「くっ、もう一回!」
 
 再び繰り返す。
「はぁぁぁ!!」
 ドゴオオオ!!!
「今のは?」
「35%……下がりましたね」
「ぐっ!」
 
 何度も、何度も繰り返すが、最後の量子力学の部門で躓いてしまう。
「はぁ、はぁ……上手くいかんもんじゃな」
 さすがの剛志も疲れてきている。
「なんでだろう?全て上手くいってるはずなのに、肝心のここがクリアできないんじゃ……!」
 レイジは悔しそうにうつむく。
「なぁ、レイジ。ちょっと気になったんじゃが」
「え?」
「そもそも、なんでその、量子力学とやらが必要なんじゃ?」
「それは、この研究施設を使う条件の一つでもあったし。新型を開発する上で、プラスになりそうだから……」
「そうじゃったな。質問の仕方が悪かった。そもそも量子力学とはなんじゃ?それがどうフリックスのプラスになると考えたんじゃ?」
 剛志からの初歩的な質問に、レイジはちょっと考えてから答える。
「え、それは……。量子力学って言うのは、凄く小さな分子の物理運動の事で、あまりにミクロの世界だから普通の物理学が通じなくて。例えば、普通は物質に干渉する事が無い観るって行動が物理的な影響を……」
「すまん、もっと噛み砕いてくれんか」
「あ、ごめん。つまり、フリックスの性能に僕らの想いをプラスするためのものなんだ」
「なるほどな。ワシらの気持ち……」
 そうつぶやき、剛志は懐から砕けたハンマーギガを取り出した。
「じゃったら、こいつを新型ハンマーギガのパーツとして使ってくれんか?」
 それを聞いて、レイジは慌てて首を振った。
「え、だ、ダメだよ!今作ってる新型は素材から違うし、そもそもその素材が脆かったからタイダルボアの攻撃に耐えられなかったんだし」
「レイジ。矛盾に気づいとるか?」
「え?」
「最後の、量子りきなんちゃらってのは、ワシらの想いが大事じゃと言ったな。じゃが、今作っとる新型フリックスは、性能だけなら優れとるが、どうにも気持ちが乗らんのじゃ。こいつは、ワシのものじゃないとそう感じる」
「剛志の、ものじゃない……」
「ハンマーギガとは長い付き合いじゃからな。自分で初めて手作りしたフリックスじゃ。勝てないから、壊れたからと言って、そう簡単には割り切れん」
「だ、だけど……」
「お前も同じなんじゃないか?いくら元にしてるとは言え、ミラージュレイダーを手放せるのか?」
「……」
 そういわれて、レイジもそっと壊れたミラージュレイダーを取り出した。
「ううん……心の中でしょうがないって割り切ろうと思っても、やっぱり出来ない」
「ワシらの中に未練がある限り、何度やっても無駄じゃ。じゃったら、その未練ごと新型機へブチ込むしかないじゃろ!」
 未練を吹っ切るのではなく、未練も全てひっくるめて新型機へ導入する。
 フリックスと心を通わせるためには、もうこの手段しかない。
「……うん、そうだね。やってみよう」
 レイジは静かにうなずき、その案をメンバーたちに伝えた。
 
 性能だけで考えれば明らかなマイナス要素。最初は誰もが驚き、反対したが、レイジの説得で開発が再開する。
 
 そして、ついに完成した……!
 
「これが、ワシらの新たな相棒か!」
「うん」
「レイジ、お前も一緒にテストシュートせい」
 剛志は、二機のうちの一つをレイジに渡す。
「うん!」
 
 そして、二人はフィールドを挟んで対峙した。
 
「いくぞ!3.2.1……」
 
「「アクティブシュート!!」」
 
 二人の声が重なり、同時にシュートが放たれる。
 
 そして、フィールド中央で激突し弾かれて、フリックスは二人の手元に戻った。
 
「よし、これでどうじゃ!!」
「これなら、どうかな!?」
 剛志とレイジが量子力学チームへ顔を向ける。
 
「機体シンクロ率…99,999999999%。成功ですね」
 それを聞いて、剛志とレイジの顔はほころんだ。
 
「「やったぁぁ!!!」」
 
 ……。
 ………。
 
 そして、翌日。バン達の住んでいる町では……。
 
「オサムとマナブの奴、大丈夫かなぁ」
 いつもの公園で、バンとリサ、そしてその他大勢の子供達が集まっていた。
 が、そこにオサムとマナブの姿が無い。
「学校も休んでたし、見舞いに行っても元気ないままだったし」
「しょうがないよ。フリックスを壊されたんだもん。そう簡単には立ち直れないよ」
「まぁな。俺だってそうだったし……」
 ドライブヴィクターが壊された時の事を思い出す。
 ショックから立ち直るには、自分の力でどうにかするしかない。他人にどうこう出来る問題ではないのだ。
「あいつらのためにも、せめてスクールの奴らをブッ倒さねぇとな!仇は俺が討ってやる……!」
 バンに出来る事と言えばそれくらいしかないだろう。
 グッと拳に力を込めて決意を固めたその時だった。
「へぇ~、誰をブッ倒すんだってぇ?」
 幼い少年の声が近付いてきた。
「え?」
 その方向をみると、そこにいたのは声と同様に幼い少年、織田ユウタが立っていた。
「誰だお前!」
 バンはユウタを観るのは初めてだった。
「あはは!初めましてだね。僕は織田ユウタ!スクールの特待生だよ☆」
 ユウタがニパッと笑いながら答える。
「スクールの……!って事は、お前も人のフリックス壊しまくってるって事か!」
「まぁね。でも皆手ごたえが無さ過ぎてつまらなかったんだ。ハンマーギガとミラージュレイダーも期待外れだったし」
「え?」
 その言葉を聞いて、バンとリサが驚愕する。
「まさかお前、剛志とレイジを襲ったのか……!」
「うん。元タッグバトルチャンピオンだって言うから期待したんだけど、ちょっと拍子抜けだったかな」
 屈託のない顏で、しゃべる言葉はえげつない。
「て、てめぇ……!」
「あ、そういえば、あの二人と知り合いなんだっけ?まぁいいや。今日はゲンゴがこの間仕留め損ねた君たちを壊すために来たんだ☆全くゲンゴってば、好きな番組の留守録忘れるなんてドジだよね~」
「ゴチャゴチャうるせぇ!あのゲンゴの仲間ってんなら容赦しねぇ!剛志とレイジの仇も討ってやる!!」
「バン、落ち着いて」
 頭に血が上りそうになるバンを、リサが諌める。
「あぁ、分かってる。ハンマーギガやミラージュレイダーを倒した相手だ、油断は出来ねぇ」
 バンは慎重になりながらも、ディフィートを握る手に力を込めた。
 
「それじゃ、始めるよ。相手は段田バンと遠山リサの二人でいい?」
「え?2対1かよ……そりゃいくらなんでも……」
「僕は構わないよ~。その方が手っ取り早いし」
「だけどなぁ」
 2対1で勝っても全く嬉しくない。そんなバトルに意味は無いと渋るバンだが……。
「バン、今は競技に拘ってる場合じゃないよ。どんな手段でも、勝って追い返さなきゃ」
「あ、あぁ……!」
 これは競技ではなく戦い、強さを比べる事よりも相手を倒す事の方が大事だ。リサにそう促され、バンがその条件を飲もうとした時だった。
「その勝負、ワシらに譲ってくれんか?」
 良く知った声が聞こえてきた。
「お、お前ら……!」
 そこに現れたのは剛志とレイジだった。
 
「ワシらはそいつに借りがあるんでな」
 剛志がユウタを指さす。
「あれぇ?僕がここにいるってよく分かったねぇ」
「藤堂家の情報網を使えばこんなの簡単だよ」
「ふーん。でも君たちのフリックスは壊したはずじゃ……」
 ユウタが言い切る前に、剛志とレイジが新型フリックスを見せつけた。
「それは……!」
 
「これがワシの新たな相棒、グランドギガ!!」
 グランドギガは、フロントのハンマーが二つに増えており、更に強そうになっていた。
「僕のはファントムレイダー!」
 ファントムレイダーは、ミラージュレイダーとは逆に前と左右の三方位が下へ潜りこむような形状になっていて、受け流し性能が高そうだ。
 
「新しい、フリックス……?」
「へぇ、懲りずに新しいの用意してきたんだ。いいよ、二人纏めて相手してあげる。この二人相手なら楽勝だし、得点が増えてラッキーだよ☆」
 ユウタは屈託のない笑顔でそう言った。
 
「あの時と同じじゃと思ったら、大間違いじゃぞ」
「強くなった僕達を見せてあげる!」
 バトルは、剛志&レイジVSユウタの様相となり
 両者ともに険しい表情でにらみ合った。
  
 
 
 
       つづく
 
 次回予告
 
「新型フリックスを引っ提げた剛志&レイジコンビと織田ユウタのリベンジマッチが始まった!
剛志、レイジ、絶対負けんなよ!新型機の性能を見せてやれ!!
 
 次回!『ステージを駆ける閃光!』
 
次回も俺がダントツ一番!!」
 
 

  

 




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