弾突バトル!フリックス・アレイ第26話

Pocket

第26話「復活ヴィクター!その名はディフィート!!」
  
  
  
 
 
「ヴィクターは蘇る!だが、全てはお前次第だ」
 公園でバトルをしていたバン達の前に現れたMr.アレイはそう言った。
「ヴィクターはよみがえる……俺、次第……?」
 状況が掴めず、バンはただMr.アレイの言葉を反復するのだった。
 すると、Mr.アレイは何も言わずに踵を返して歩いていく。
「あ、おい!」
 いつもだったら去る時は一瞬で消える癖に、今日のその歩みは遅く、声をかける余裕があった。
「ついてこい」
 Mr.アレイは歩みを止めずにそれだけ言った。
「……」
 どうするべきか判断がつかず、バンはすぐには動けなかった。
「どうする?」
 オサムが問いかける。
「わかんねぇ。けど、またヴィクターと戦えるなら俺は、なんでもするぜ!」
 バンは覚悟を決めて駆け出し、Mr.アレイの後ろについていった。
 オサム達も顔を見合わせてバンの後に続いた。
「なんだよ、お前らまで来なくていいのに」
「良いじゃねぇか。乗りかかった舟だよ」
「それに、本当に信用していいのか気になるしね……」
 マナブは少し疑念を込めた目でMr.アレイの後姿を見つめた。
「そうか?気にしすぎだろ、なぁリサ」
「え、う~ん……」
 急に話を振られて、リサは言葉に窮した。
「何にしても、バンは危なっかしいから」
 リサがそういうと、オサムは腹を抱えて笑った。
「はっはっは!違いない!」
「確かに」
 マナブもプッと吹きだした。
「な、なんだよ……!」
 みんなの様子にバンが振り向きながら憤慨すると、ドンッと背中にぶつかった。
「って!」
 見ると、いつの間にかMr.アレイが立ち止まっていたのか、バンはその背中にぶつかっていた。
「ついたぞ」
 Mr.アレイはぶつかったバンを気にする事無く、目の前にある廃ビルを指した。
 錆びた壁に割れた窓ガラス、そこから見える中は瓦礫が散らばっている。
 周りに人気はない。
 随分と長く歩いていたようだ。都市部を離れて、町はずれの丘の上に来ていた。
 その中にただ一つ聳え立っている廃ビルは、異様な迫力があった。
「ここって……?」
「スクールが以前支部として運営していたビルだ。今は潰れて管理もされていないが、土地の権利はスクールが所有したままだ」
 それだけ言うと、アレイはその中へ足を踏み入れていく。
「ちょ、ちょっと待てよ!勝手に入って大丈夫なのか!?」
 その背中へバンが声をかけると、アレイは立ち止まって振り返りもせずに言った。
「さっきお前は『前に進み続ける』と言ったな?」
 それは、リサに泣きつく前に無理にでも自分を奮い立たせるために言ったセリフだ。
「あ、あぁ……」
 無理をしていたとはいえ、あの言葉が本心であることに変わりはない。
 バンは戸惑いつつも頷いた。
「ならば進み続けろ。その先にヴィクターが待っている」
「ヴィクターが……!」
 その言葉を聞いて、バンの瞳に輝きが灯った。
 理解は出来なくとも、本能が身体を奮い立たせるのだ。
「……!」
 バンは無意識に拳を握りしめた。
「……受け取れ!」
 そんなバンへ、Mr.アレイはシュッ!と裏拳のフォームである物体を投げつけた。
「うおっ!」
 面喰いながらもそれをキャッチする。
「これって……フリックス?」
 それは、灰色の見たことがないフリックスだった。
「ちょっと待てよ。もしかして、これがヴィクターってのか?全然似てねぇけど……」
「違うな。そいつはヴィクターとは何ら関係ないフリックスだ」
 バンの問いに、Mr.アレイはそっけなく答えた。
「なっ!なんだよ!やっぱりヴィクターはなくなったから代わりの奴使えって言うのか!?冗談じゃねぇ!!」
 バンは、渡されたフリックスを返そうと突き出すが、Mr.アレイはそれを躱すように歩き出す。
「おろっと!」
 腕が空振りして、バンはよろけた。
「言ったはずだ。進み続けろと。進み続けなければ、そこにヴィクターは無い」
 歩きながらそれだけ言うと、Mr.アレイはバッ!と飛び出し、ビルの中へ消えて姿が見えなくなった。
「あ、おい!……くそっ、相変わらずすばしっこいなぁ……!」
「見えなくなっちゃった……」
 オサムとマナブもMr.アレイの素早さに目を瞬かせている。
「くっそぉMr.アレイの奴。こんなフリックス渡しやがって、どうしろってんだよ!」
 バンは恨めし気に手に持ったフリックスをにらみつける。
「バン、行こう」
 そこへ、先ほどまで黙っていたリサがバンを促して前へ歩き出す。
「リ、リサ……」
 少し前に出てからリサは立ち止まり、振り返った。
「前に進み続ける……。きっとMr.アレイの後を辿れば、答えが見えるはず。そのフリックスは、そのための武器だよ」
「……」
 真剣な顔でいうリサを見て、バンも頭を落ち着かせた。
「そうだな。リサの言う通りだ。立ち止まってる場合じゃねぇよな!」
 バンは顔を上げて歩き出した。
 それを見たリサは嬉しそうな顔をしてバンの横に並び歩き出す。
「あ、おい待ってくれよぉ!」
 オサムとマナブも慌ててその後についていった。
 
 外から見た以上に、ビルの内部は荒れ果てていた。
 壁はボロボロに崩れ、窓は半端に割れていて、その破片が乱雑に散らばっていて、足を踏みしめるたびにパキッ!パキッ!と何かが折れる音がする。
「えらい、荒れてるなぁ……」
「廃墟になってから、何十年も経ってるみたいだ」
 バン達は足をくじきそうになりながらも慎重に進んでいく。
「リサ、気を付けろよ」
 足を取られて進みづらそうにしているリサへ、バンが手を差し伸べた。
「う、うん。ありがとう」
 リサは小さく礼を言いながらその手を取る。
 この動作でバンとリサはオサムとマナブから少し遅れてしまった。
「あっ!」
 と、前に出たオサムたちが小さく声を上げた。
「どうしたんだ?」
「見ろよ、あれ……」
「へ?」
 オサムが指差した先には、上の階へと昇る階段があった。
 が、その階段へ続く道は鉄格子によって塞がれている。
「この区画はもう粗方探索したし、あとは上に上がるしかないと思うんだけど……」
「これじゃ、もう階段使えないじゃん!」
「エレベーターが可動してるとも思えないしなぁ……」
 八方塞がりになり、バン達は肩を落とす。
「あれ?」
 が、リサが視界の端に何かが見えたようで、そこに反応する。
「どうした?」
 バン達もそれに気づいてリサの方を見ると、リサは鉄格子の横に設置されている台を指差した。
「これって、フリックスのフィールド?」
「ほ、ほんとだ!」
 しかもその台の上には、ご丁寧にシュートラインとボウリングのような10本のピンが立てられていた。
「これ、フリップボウリングか……?」
 
 フリップボウリング。数センチ先に立てられたピンを、フリックスを使って倒すという基本的な一人遊び競技だ。
 
「どういう事なんだろう?こんなところにフリップボウリングの舞台装置があるなんて……」
 マナブが首をかしげる。
「なんだかよくわからねぇけど、こいつを使ってこれをクリアすりゃいいって事だろ!」
 バンが意気揚々とMr.アレイに渡された灰色のフリックスを台にセットした。
「だったら楽勝だぜ!フリップボウリングは得意中の得意だ!!」
「ま、まぁ、そうなんだろうけどな……」
「短絡的だなぁ」
「でも、ほかに考えられる事がないし、試してみる価値はあるかも」
「そういう事!いっくぜぇ!!」
 バンは灰色のフリックスを指で弾いた。
 しかし、狙いが逸れてしまい、ピンに掠りもせずに場外してしまった。
「いぃ!?」
「バン、ダメだよ!それはヴィクターじゃないだから……」
 リサが窘める。バンが失敗した原因はヴィクターのつもりで撃ったからだと瞬時に判断したのだ。
「そ、そうだった……」
 バンは頭をかきながら落ちたフリックスを拾って台に戻した。
「ごめんな、今はお前と戦ってんだもんな。ヴィクターの戦い方を押し付けたらダメだよな」
 バンは灰色のフリックスに短く謝り、そして狙いを定めた。
「でも、ヴィクター程じゃないけど、このフリックスもかなりパワーがある……力を抑える必要はなさそうだ!」
 あとはベクトルを少し変えるだけ!
 バンはシュートポイントの中心からやや外れたところを指で弾いた。
「いっけぇぇぇぇ!!!!!」
 バシュウウウウウウウ!!!
 フリックスが回転しながらピンへフッ飛んでいく。
「スピンシュート!?」
 マナブが驚きの声を上げた。
「ドライブヴィクターはストレートシュートが強かったけど、こいつはスピンも出来そうだったからさ!!」
 バキィィ!!!!
 スピンしながらピンへぶつかり、全てのピンが弾け飛んだ。
「おっしゃぁ!!」
 それを見て、バンはガッツポーズをした。
「やったね、バン!」
「これでクリアか?!」
 リサとオサムも喜ぶのだが、マナブは怪訝な顔をする。
「それで、クリアしたからどうなるんだろう?」
 もっともな疑問だ。
 しかし、その直後に地鳴りがして階段を塞いでいたシャッターがゆっくりと上がって行った。
「あ、これで先へ進めるぞ!」
「やっぱり、各階にこう言う競技が用意してあって、それをクリアしながら先に進んでいくシステムなのか」
「そういう事なら話は早いぜ!よーし、二階へ行くぞ!!」
 Mr.アレイの提示した試練を理解したバンは早速階段へと足を進めた。
「あ、ちょっと待ってバン!」
 そんなバンへ、リサが呼び止める。
「なんだよ?」
 駈け出そうと踏み出した右足をそのままに、バンは振り向いた。
「これ……!」
 と、リサは先ほどバンがフリップボウリングをした台を指差した。
 それを見ると、台の真ん中にポッカリと穴が開いており、そこに何かのパーツがあった。
「なんだ、これ?」
 バンはその穴から小さなパーツのような塊を手に取る。
 それは白色で、鋭い剣先のようなパーツだった。
「フリックス、か?」
「いや、いくらなんでも小さすぎるし……何かのパーツかな?」
 オサムとマナブも興味深げにバンの手にあるパーツを覗き込む。
「白い、剣みたいだ……」
 手に持ったパーツを眺めながら、バンは思わず呟いた。
(剣……?)
 自分の無意識の呟きに、バンは何かが心に引っ掛かった。
「まっ、でもとにかく先に行けるんだから進もうぜ!」
 しばらく考えていたが、オサムの一言で一同顔を上げた。
「そうだね。そのパーツの事もまだよくわからないし」
 マナブもその意見に同意する。
「あ、あぁ!そうだな!おっしゃ、行くぜ!!」
 バンは気合いを入れなおして階段へと駆け出し、一同はその後に続いた。
 
 二階フロアは、一階と比べれば幾分キレイだが、殺風景な部屋だった。
 そして一階と同様、上の階へと続く階段は鉄柵で封鎖されており、部屋の中央にはフリックスのステージと思われる台が置いてあった。
 
「次はあのステージをクリアすればいいんだな!」
 バン達が中央のステージへ集まる。
 そこには、スタート位置を示すと思われる白い線と、中央に2Lペットボトル並の大きさの鉄のピンが置いてあった。
 
「次もフリップボウリングかな?」
「だけど、今度のターゲットは半端じゃない重さだぞ……!」
 マナブとオサムが戦々恐々と言った声を上げる。
「けっ、パワーなら負けねぇぜ!このくらいダントツでぶっ飛ばしてやる!!」
 バンは怖気づくことなくフリックスをスタート位置にセットして、狙いを定める。
「いっくぜぇぇ!!!」
 バシュッ!!
 ピン目掛けてかなりの威力でシュートする。
 が、フリックスはピンの中心を的確にとらえたにも関わらず、ピンは多少振動しただけでビクともしなかった。
「くっ!」
 バンは一瞬顔を顰め、反動で落ちたフリックスを拾った。
「くっそぉ……!」
「ウソだろ、バンのパワーでもビクともしないなんて」
「あのピン、かなりの重量だね」
「いや、俺のパワーが足りなかっただけだ!今度は本気で行くぜっ!!」
 再びフリックスをセットする。
 そして、スゥ……と息を吐いて力を抜き、ゆっくりと腕を引いた。
「いくぜ……ブースターインパクトォォォ!!!」
 腕を突き出しながらの必殺技、ブースターインパクトさく裂!
 先ほどとは比べ物にならないすさまじい勢いでフリックスがカッ飛んでいく!

 バゴォォォ!!!
 ピンとの激突の瞬間、耳をつんざくような音が鳴り響く。
 フリックスはその反動で場外、そしてピンはぐらぐらと揺れ、そして……止まった。
 
「ああああああ、くそっ!これでもダメかよ!!」
 バンは頭を抱えて叫んだ。
 切り札である必殺技を使っても課題をクリアできないとなると、もう打つ手がない。
「あのピンは重すぎるよ」
「完全に無理ゲーじゃねぇか……」
 マナブとオサムは諦めモードで肩を落とす。
「ちくしょう!俺はまだあきらめねぇぞ……!」
 バンは鼻息を荒くしながら再びフリックスをセットする。
「バン……!」
 そんなバンへ、リサが目を見開きながら声をかけた。
「どうした?」
「そ、それ……!」
 リサはバンのポケットが光り輝いていることに気付き、指差した。
「なんだぁ!?」
 ポケットから取り出したのは、先ほど手に入れたパーツだ。
「こいつを、使えって事か……?」
 このタイミングで都合よく反応を示したそのパーツを見て、バンは直感的にそう思った。
「でも、使うって言ってもどうやって?見た感じ、シャーシでもボディでもなさそうだけど……」
 マナブの言う通り、このパーツは従来のフリックスに使えるようなものとは思えない。
「う~ん、この形。どこかで見た事あるような……」
 バンは繁々とパーツを眺める。
「この剣先をぶつけられたら、強そうなのに」
 リサは何気なくぽそっと言った。
 その言葉を聞いて、バンはハッとして自分が使っているフリックスを見た。
「……!」
 フリックスとパーツを交互に見る。そして、ある考えに思い至った。
「まさか」
 そう呟くと、バンは徐にフリックスのシャーシを外した。
 すると、カションッ!とボディの裏から細いピンが外れ、ロックを失ったようにボディが何分割かに分かれてバラバラになった。
「ボディが……!」
「壊れたぁ!?」
 オサムが素っ頓狂な声を出すと、マナブが落ち着いた声で言った。
「いや、と言うより分解したんだ。そうか!このフリックスはボディを分割出来るんだ!」
「バン、知ってたの?」
「なんとなくさ。このパーツの形が、ドライブヴィクターの剣の部分に似てたから、もしかしたらって思ったんだ」
 言いながら、バンは手に入れたパーツを組み込んで再びフリックスを組み上げた。
 フロント部分だけは、ヴィクターのような鋭い剣の形状になっている。
 
「これなら行けそうだぜ!!」
 再びフリックスをセットしてピンを狙う。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
 バシュウウウウウウ!!!!
 
 渾身のシュートで、フリックスがピンへ向かってブッ飛ぶ。 
  
 バゴオオオオオオ!!!!
 
 ピンにぶつかった瞬間、剣先が勢いよく伸びてピンを弾いた。
「なんだぁ!?」
「パーツが、伸びた……!」
 
 バキィィ!!!
 反動でフリックスがバンの手元まで戻る。
 そして、ピンは……ぐらぐらと何回か揺れ、そして……!
 
 ドォォォォン!!!
 ゆっくりと倒れた。
 
「やったぜぇぇ!!!」
 それを見届けたバンは、大きく飛び上がりガッツポーズした。
「す、すごい!あのパーツは、ぶつかった反動で剣先が飛び出すギミックが仕込んであるのか!それであんな破壊力を……!」
「やったね、バン!」
「すっげぇぜ、お前!!」
 みんなが口々に歓声を上げる。
 
「へへへっ、こいつのおかげだぜ!なんか、こいつを付けてから、ちょっとだけ扱いやすくなってきたって言うかさ。ほんと、すげぇやこのパーツ!」
 バンが顔を綻ばせながら機体を掲げる。
「……ディフィート」
 それを見たマナブが、呟いた。
「へ?なんだそれ?」
「あ、いや、そのパーツの裏にDefeatって書いてあるからさ」
 良く見ると、確かに小さく英単語が書いてあった。
「ふーん、どういう意味なんだ?」
「確か、『打ち負かす』とかそういう意味じゃなかったっけ?」
 マナブは最近塾で習ったばかりの知識を探りながら答えた。
「そっか打ち負かすか……よーし、決めた!それだ!それにするぞ!!」
 いきなり、バンが叫び出した。
「どうしたの、バン?」
 リサに聞かれて、バンは快活に答えた。
「新しいヴィクターの名前だよ!」
「気が早いなぁ」
 オサムが呆れながら言う。
「良いだろ、別に!」
「ディフィートかぁ。ヴィクターが『勝利者』って意味だから、新しいヴィクターの名前にはピッタリだね」
 マナブは苦笑しながらも賛成する。
「だろ?よーし、待ってろよディフィートヴィクター!俺は絶対に、お前にたどり着いてやるぜ!!!」
 バンはフリックスを掲げて、次なる試練へ向けて気合いを入れた。
 
 
 
 
           つづく
 
 次回予告
 





 

 




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)