小説」カテゴリーアーカイブ

人造昆虫カブトボーグ 続編二次創作 第10話

第10話「カガミの死闘」

司会「第1回戦第5試合のカガミ選手VSヨシト選手の戦いは、当初の予想に反して一方的な展開だぁ!」

カガミ「くっ!」
ヨシト「ぐへへ・・やれぇ!ブラッディサタン!!」
 ガッ!ガッ!!
 しょっぱなからシャイニングフォースを発動させたサタンオオカブトが、カガミのニューギラファを攻め立てていた。
 ただでさえ突破力の高いドリルにシャイニングフォースのスピードが加わり、反撃が出来ないのだ。
カガミ「耐えろ!ギラファ!」
 ギラファはスタビポール型のグローアップパーツを装備しているので、防御力が高く、なんとか耐えている。
 しかし、シャイニングフォースの前には防戦一方にならざるを得ない。
ヨシト「ぐへ、お前シャイニングフォース使えなかったっけ?」
カガミ「っ!」

 カガミの戦い方に少し疑問を感じたコータ。
コータ「カガミの奴、なんでシャイニングフォースを使わないんだろう?そうすれば互角に戦えるのに。」
ドルヴィー「使いたくないのさ、カガミは。」
 いつの間にか、コータ達のところにドルヴィーとマリノがやってきた。
リュート「どういうことだ?」
ドルヴィー「カガミが使っていたシャイニングフォースは、あくまで黄金カブトの力を借りてのもの。自分の力じゃない。」
マリノ「あなた達に負けてから、カガミはすごく反省したの。二度と同じ過ちは繰り返さないって。だから・・・。」
リュート「シャイニングフォースを封印したってことか。」

続きを読む

人造昆虫カブトボーグ 続編二次創作 第9話

第9話「コータVS青の騎士」

 

司会「第一回戦第4試合!コータ選手vsヨウタ選手の戦いが始まりました!!」

コータ「いけー!ライデン!」
ヨウタ「ゆけっ!ブルーナイト!!」
 コータのカブトムシと、ヨウタのブルマイスターツヤクワガタがリング中央めがけて突進する。
 ガッ!
 中央でぶつかり、お互いに弾かれる。
コータ「っ!」
ヨウタ「むっ!」
司会「おおっと!お互いに投げで攻めたが、互角だったのか弾かれた!」

コータ「だったら、掴め!ライデン!」
 キュイイイイン!!
 今度は、角を相手に引っ掛けようとするライデン。
 ガッ!
 しかし、ブルマイスターについている剣に阻まれてしまう。
ヨウタ「ブルマイスター!!」
 ガッ!
 そして、剣によりライデンの角が弾かれる。
コータ「くそっ!」
 ギャッ!
 態勢を立て直し、今度は押し出そうと突進する。
ヨウタ「こちらもゆくぞ!」
 ブルマイスターもライデンと同じように突進する。
 ガッ!ガガガガガ!!
 再び中央でぶつかり、互いに押し合う。
 しかし、押し出す力も互角なのか、押し合ったまま動かない。
コータ「頑張れライデン!」
ヨウタ「ブルマイスター!!」

続きを読む

人造昆虫カブトボーグ 続編二次創作 第8話

 

第8話「一回戦!新たな強敵」

 

司会「さぁ、ついに始まりました、決勝トーナメント!第1試合は、ダイチ選手vsゴダイ選手!
防御型のネオリッキーと、オールレンジ攻撃型のファイブホーンの激しい戦いです!!」

ゴダイ「いけぇ!ファイブホーン!!」
 ゴダイの使っているカブトボーグはGシリーズのゴホンヅノカブト。
 通常の五本の角に、さらに多彩な角が装備されている。
ダイチ「耐えろ!ネオリッキー!!」
 ガッガッ!
 ファイブホーンが角を巧みにつかってネオリッキーをアタックする。
 しかし、ネオリッキーは防御型アーマーで耐えている。
司会「果敢に攻めるファイブホーンだが、ネオリッキーはそのほとんどを耐えています!ダメージは少ない!」

ゴダイ「だが、0ではない・・・。それに、耐久率は優秀だが、転倒防止はそれほどでもない!」
 ガッ!
 ファイブホーンの角がネオリッキーを引っ掛ける。
ダイチ「しまった!」
 自由を奪われてしまうネオリッキー。
ゴダイ「このままリングアウトだ!」
ダイチ「振りほどけ!!」
 ガガガ、バキィ!
 ネオリッキーは、ヘラクレスとしてのパワーを見せ、振りほどく。
ゴダイ「なに、なんてパワーだ!」
ダイチ「リッキーの能力は、耐久力だけじゃないんだ!」
 ガッ!
 ネオリッキーがファイブホーンを持ち上げ、そのまま倒した。
司会「決まったぁ!ネオリッキーが強力なパワーでファイブホーンを横倒し!」

続きを読む

人造昆虫カブトボーグ 続編二次創作 第7話

 

第7話「激闘再び!夏武闘祭り」

 

 壮絶な戦いの末、初出場のコータとライデンが勝利した前回の夏武闘祭り。
 そしてその一年後、今年もまたカブトで熱い夏がやってきた・・・!

司会「今年もやってまいりました!カブトボーグの熱き祭典、夏武闘祭り!」
 会場に響く司会の聲。
司会「今回は、エントリー者全員による予選で絞られた16名によるトーナメント方式で進められます。
予選は、16箇所に設置された巨大リング上でのバトルロイヤル!各ブロックで最後の一人になった人だけが決勝へ進めます!」

 既に予選はスタートしているようだ。
 会場のあちこちで、カブトボーグの走行音や激突音が聞こえてくる。

続きを読む

ミニ四駆小説『疾風の貴公子』(2007年3月執筆)

 某年某日。
 ここは、ヨーロッパ一の自動車大国『ドイツ』。
 この国のとある場所に設立されているミニ四駆スタジアム。

 そこでは、10台ほどのマシンのモーター音と溢れんばかりの歓声に包まれていた。

『さぁ、ミニ四駆GPヨーロッパ選手権決勝戦も、いよいよ終盤に差し掛かりました!!』

続きを読む

【小説】膝枕

『膝枕って膝枕って言うより太もも枕じゃね?でも太もも枕って言いづらいからやっぱり膝枕で良いやっていうお話』
 
 
 とある6月の夕方。
 麗らかな初夏の夕日を浴びながら、二人の男女が並んで歩いていた。
 その男の方……つまり俺の名前は、極村原河トモヤ。
 今俺は、先週付き合い始めた同級生のマナミちゃんと一緒に下校しているのだ。
 マナミちゃんはとてもかわいらしい女の子だ。
 どのように可愛らしいかは、描写するのも面倒なくらい可愛いのだ。
 ほら、頭の中に可愛い女の子を思い描いてごらん?
 描いたね?つまり、それがマナミちゃんと言う事だ。
 告白したのは俺のほうだが、実はマナミちゃんも前々から俺のことが好きだったと言うミラクル。
 まさに、世界中からアイラブユーって言われてるような出来事だったね、あれは。
 ただ、マナミちゃんは可愛いのだが、少々甘えん坊な所があるというか、所構わずべたべたしてくる所が玉に瑕と言うか恥ずかしかったりする。
 まぁ、そこも可愛いんだけどね。ぐへへへへ。
 
「ねぇ、トモちゃ~ん。公園よってこうよ~」
 早速、マナミが猫なで声で甘えてきた。
 まぁ、それも仕方ないだろう。
 俺達の家は学校から近い。普通に下校してはすぐに二人の時間が終わってしまう。
 少しでも長く二人の時間を過ごしたいのならば寄り道するしかない。
 え、家に帰ってから二人でどこかに出かければいいだと?
 バカヤロウ!デートは二十歳になってから!!まだ中学二年生の俺達には早すぎる!!
 
「そうだな」
 俺はマナミの提案に苦笑しながら答えた。
 
 二人で公園のベンチに座る。
 公園は、子連れ親子で賑わっていたが、それほど人はいなかった。
 
「6月も半ばだけど、まだまだ涼しいね~」
 大きく伸びをするマナミを横目に、俺は欠伸まじりに生返事した。
「あぁ。丁度いい気温だ」
 時折吹くそよ風が心地良い。
 俺とマナミは何を話すでもなく、まったりとする。なんとも落ち着く。家でダラダラするのもいいが、外でダラダラするのも悪くは無い。大事なのはどこにいるかではなく『ダラダラしているかどうか』なのではないかと、最近になって気付き始めていた。
「ふぁ~あ」
 あくびまじりで喋ってたせいか、本当に大きなあくびが出てしまった。
 まぁ、隣にいるのはマナミなので、別に気にする事はないだろう。もし、隣にいるのがパジョラムだった日には……あぁ、想像するのも恐ろしい!
「トモちゃん、寝不足?」
 マナミが小首をかしげながら覗き込んできた。
「んや、そういうわけじゃないが。こう、絶妙に心地よい気温の中でダラダラしていると、無性に睡魔が襲ってくるのさ」
 マナミの声は癒し系だ。聞いていると、いい感じにトロンとしてきた。このままスムーズに眠りにつくのも悪くは無いかもしれないな。
 あっ!ここで俺は重大な事を思い出した。
(枕が無い!)
 そう、察しの通り、俺は枕がなければ夜の闇を貪る事すら出来ない男なのだ。
「くそぅ……」
 悔しい。たったこれだけの事で、スムーズに高まった睡魔を再び心の奥底にしまいこまなければならないなんて。
 勿体無い!!
「と、トモちゃん……」
 俺が一世一代の悔しさを味わっていると、マナミがなんか遠慮がちに声をかけてきたのが聞こえてきた。
「何?」
 俺は、極力無表情を装いながら、マナミの方を向いた。本当は枕がなくて凄く悔しいのだが、それを顔に出さない俺は凄く大人だと思った。
「トモちゃん。膝枕、しようか?」
 ぬおっ!
 俺は、思わず吹き出してしまった。何を吹き出したかについてはこの際言及しないで貰いたい。
「い、今なんと……!」
 あぁ、始まったよマナミの悪い癖が!!
 今日は比較的自重してるみたいだったからすっかり油断してたぜ。
「ほ、ほら!今日はもう少しゆっくりしててもいいし、枕が無しだとトモちゃん、寝られないでしょ?だから……」
 むぅ、確かにマナミの言う事には一理ある。
 枕が無いと眠れないのは道理だ。恥ずかしいのだが……まぁ、膝くらいならいいか。
「ふむ、じゃぁお言葉に甘えようかな」
 勝手知ったる彼女の膝。ここは遠慮せずに枕として利用させてもらおう。ヘルモンじゃないし。
 俺は、後頭部をマナミの膝目掛けて振り下ろした。
 ゴツンッ!!
「ひゃぅ!」
「あいたっ!!」
 俺の後頭部は、マナミの膝に直撃し、軽い打撃系のダメージを受けてしまった。
 後頭部は硬い。硬いと言うことは、それだけ衝撃をモロに受けてしまうと言うことだ。
「はぅぅ……」
「うぅ……」
 それぞれ、ダメージを受けた箇所を摩る。
「もう、何するのよトモちゃ~ん……」
 涙目で非難してくるマナミだが、文句言いたいのは俺の方だ。
「だって、膝枕してくれるって言ったジャマイカ!!」
「頭置く場所が違うでしょ~!もっと上の方!」
 言って、マナミは膝から自分の体よりの箇所をポンポンと手で叩いた。
 ミニスカートからスラリと伸びた白いお肉が目に付く。
 ごくりと生唾を飲んでしまった。あぁお腹すいた。
「って、そこ太ももじゃん!膝枕じゃないよ!!」
「さっきトモちゃんが頭ぶつけた場所だって、膝枕じゃなくて膝頭枕になっちゃうよ?」
「っ!?」
 確かに、そうだ。俺がしようとしたこともまた、膝枕ではない。膝頭枕だ。間違っていたのは、俺の方だったのだ。
「確かに、俺が間違っていたかもしれない。でも、膝頭ならともかく太ももに頭を乗せるというのは……」
 端的に言えば恥ずかしい。膝頭なら恥ずかしくなかったんだけどな。
「ほらぁ、遠慮しないの~♪」
 早くも膝に受けたダメージから回復したマナミはニコニコしながら俺の頭をグイグイと強引に自分の太ももへと引き寄せていく。
 後頭部のダメージが完全に癒えてない俺は、抗う術を失い、そのまま吸い寄せられるようにその発育の良い太ももへ頭を乗せてしまった。
「うぅ」
 俺は涙目になりながらもマナミの太ももの感触を楽しんだ。
 あぁ、なんて柔らかいんだ。スカート越しに、マナミの体温を感じる。
 例えて言うなら、ウォーターベッド。いや、俺ウォーターベッドで寝た事無いけど。多分、こんな感じなんだろうな。ふわふわっとしてぽよぽよっとして。
 あぁ、ウォーターベッド欲しいなぁ。高いんだろうなぁ。俺のお小遣いじゃ買えないだろうなぁ。
 今度ウォーターベッド強盗でもしようかな?
 でも、そんな事をしたらマナミが悲しむかもしれない。そんな事は絶対に出来ない。ウルトラの誓いにかけて!
「ふふふ♪」
 なんか、上から妙に楽しげに息が漏れてるのが聞こえるのですが。
 ゴソゴソ。
 俺は、少し頭の位置を変えてみた。
「あぁぁぁんぅぅぅ……」
 今度は、なんだか扇情的な息が漏れてきたぞ?!くすぐったいのか!?
「……」
 なんとなく、動けなくなってしまった。
 せっかくの睡魔も、変に緊張してしまったせいでどこかへ吹き飛んでしまった。
 もう眠くないよ。だから枕いらないよ。
 でも、今更辞めてとは言えない。
 
 あぁ、でもなんか視線感じるよ!視線感じるよ!!!
 太ももの感触楽しんでる余裕なんかないよ!なんか俺変態みたいだよ!!
「ママ~、あそこのお兄ちゃん大きいのに甘えん坊さんだよ~」
 噴水の方で、6歳くらいの男の子が俺の方を指差しながら母親に話しかけている。
「シッ!見ちゃいけません!!」
 母親の方は、男の子の目を両手で隠し、俺の方を一睨みしてからそそくさとその場を去っていった。
 その目は『うちの子になんてもんを見せるのよ!!このバカップルどもが!!』と言う非難が込められていた。
 やっぱこれまずいよ!早急にやめさせるべきだよ!!
 俺は、勇気を出して頭を浮かした。もうこんな事はやめるべきだ。
 しかし、上方向から正体不明の圧力がかかり、俺の頭は再び太ももにフィットしてしまう。
 え、嘘……?
 マナミが、浮かしてきた俺の頭を、手で押さえつけていたのだ。
 その手は、未だ離れない。心なしか、徐々に力が篭ってる。
 確かに大した力ではないが、そこから伝わるマナミの想いが俺の力を根こそぎ奪ってしまう。
 なんだかんだで、俺はマナミに弱いのだ。
「ね~んね~ん、ころぉりぃ~よぉ~、おこ~ろぉ~りぃよぉ~♪」
 静かにマナミの子守唄が聞こえてきた。
「トモちゃんはぁ、良い子だぁ~、ねんね~しぃなぁ~♪」
 抵抗するばかりでいつまで経っても寝ない俺を大人しくするためのものだろうか。その歌声は澄み切っており、下手したらそのまま眠ってしまいそうになる。
 とは言え、ずっとこのままでいるわけにも行かない。
 俺は再度頭を浮かそうと試みる。が、マナミに押さえつけられてそれが出来ない。
 グッ……俺は、いつまでこうしていればいいのだ?
 
 『永遠』
 
 この二文字が、俺の頭に浮かんで、消えた。
 永遠って言葉は時間の意味じゃなくて、何かを証明するための心の強さの事って、何かの歌で言っていた気がする。オンドゥル
 そうか、だから俺は、動かない星を探して自分の印に立ち、変わらないため変わる事をこれでも受け入れなければならない! オンドゥル
 俺は、なんとかこの状況を打破するため、ソッと目を閉じて思案する事にした。 オンドゥル
 目を閉じると、たくさん叶えたい夢があふれ出してきた。
 ……あぁ、俺ウルトラマンになりたいなぁ。
 っと、今はそんな事を考えている時じゃない!
 目の前に広がるたくさんの夢の中から、俺は今叶えるべき夢を見つけ出す。
 『さっさとこの状況を打破したい』
 これこそが、今叶えたい夢だ。よかった、ちゃんと夢として存在していて。
 そうか、夢……!夢って事はつまり、願いって事。
 願いならば流れ星に願えば叶うんだ!
 あ、でも夜まで待たなきゃいけないじゃん。それに、いつ流れ星が流れるかも分からないし……
 このアイディアは、デッドエンドだ。
 くッ!
 人知れず唇をかみ締める俺を、一縷の風が吹き抜けた。
「風が出てきたね~。トモちゃん、寒くない?」
 その言葉を聞いて、俺はついに良いアイディアを思いついた!
「……もう眠っちゃったかな?」
 目を瞑り、何も応えないでいる俺をそう解釈したマナミは、微笑みながら俺の頬をソッと撫でた。別にダジャレではない。
 そして、俺が思いついた良いアイディアとは
 
『北風と太陽大作戦!!』
 
 北風と太陽とは、古い童話だ。内容を要約すると、風属性の攻撃より、灼熱属性の攻撃の方が威力が高いよねってお話です。
 つまり、今までは強引に力付くでマナミの太ももから逃れようとしてきた。
 しかし、それじゃ押さえつけられるだけだ。押さえつけられたら俺は抗えない。
 だったら、マナミが自ら俺を離してくれるように仕向ければいいのだ。
「ん……」
 俺は、ゆっくりと目を開いた。
「マナミィ……」
 そして。精一杯甘ったるい声を出してみる。うげぇ、気持ちわりぃ
「あ、トモちゃん、起きちゃった?」
「ん……マナミの膝枕、気持ち良いな……」
「え、えへへ~♪もう、突然何言い出すの~?」
 マナミはニタニタ笑いながら、俺の頭を撫でてくる。こうかはばつぐんだったようだ。
 よし、続けていくぜ!
「マナミって。柔らかくてあったかい……」
 サワサワと、マナミの太ももを摩ったりしてみる。
「ひゃぅ……!もう、トモちゃんのエッチ」
 よし、今だ!!
 俺は、マナミの太もものお肉をつまんだ。
「ぁぅっ!」
 だから、そんな声出すなって!
 いや、怯んでる場合じゃない!
「や、やっぱり……大分お肉がついてきたからかなぁ……?」
 俺は、恐る恐るその禁断のセリフを吐いてみた。
 ピシィ……!
 その瞬間、辺りの気温が一気に10℃くらい下がったような気がした。
「……」
 俺は、肌寒さを感じつつ、そっと頭を浮かしてみる。
 すると、さっきまで困難だったそれが嘘のように簡単に起き上がることが出来た。
 やった!ついにやったのだ!!
 俺はこの『膝枕は恥ずかしい地獄』から抜け出す事が出来たのだ!!
 地獄から抜け出した俺は、心の中で快哉を叫んだ。
「トモちゃん」
 心の中で小躍りをしていた俺は、マナミの無機質な声を聞き、固まる。
「は、はい」
 何故か、背筋をピンと伸ばしてしまう。
 マナミを見ると、先ほどと同じように笑顔を見せていた。しかし、その背景にはドス黒いオーラのようなものが沸き立っている。
「……」
 どうやら、本当の地獄はこれから始まろうとしているようだ。
 だが、俺はそれでも後悔さえ隠して歩けるよ。
 だって、某有名なアニソンだって言ってるじゃないか。
 
 『避けて通れない苦しみや痛み乗り越え、僕ら行くんだ!』
 
 って、だから俺は、戦ってイケる!君(パジョラム)となら!
 
 そんなわけで俺はマナミの次の言葉を待った。
「ふぁ~あ、私も眠くなってきちゃったな~」
 わざとらしく欠伸をするマナミ。本当に嘘が下手な人だ。しかし、今はそれどころではない。
「さて、お返しにトモちゃんに膝枕。してもらっちゃおうかなぁ~?」
「うげっ!?」
 な、なんですと!?
「いいよね、トモちゃん♪」
 笑顔の裏に影を潜めているマナミの言葉を拒否る事など、今の俺には出来るはずも無く……。
 そういえば、聞いた事がある。
 膝枕は、される側よりする側の方がずっと恥ずかしいんだと言う事を。
 
 
 ……俺は、目の前が真っ暗になった。
 
 
     END
 
 
  

 

 




【ホラー小説】赤い中古車

昔、某所にアップしたものを再掲載



『赤い中古車』
 
 
 6月中旬、午後8時36分。
 土砂降りの雨の中、とある峠道を一台の赤いセダンが水しぶきを吹き上げながら、猛スピードで走っていた。
 峠特有のワインディングセクションを、車体を揺らしながら駆け抜けていく。時折、タイヤの強烈なスリップ音が鳴り響き、ドリフトに近いコーナーワークになる。
 どう見ても危なっかしい素人の走りなのだが、車のペースは落ちる事無く、更に加速していった。
 
「くそ……!」
 運転しているのは、30代半ばほどの男だった。
 ワイパーで拭っても拭っても水滴で曇っていくフロントガラスを睨みつけながら、ハンドルを握る手に力を入れている。
「速く……もっと速く走れよ……!」
 一人悪態をつく男の頬は、仄かに赤く染まっている。アルコールが入っているのだ。
 どんなに集中しても、時折フッと意識が飛びかけてしまう
「……なんで、こんな時に限って……!」
 男は、数時間前の自分の行動を悔いて……いや、むしろ恨んでいた。
 
 
 男の名前は、山本コウタ。自営業で電気工事士をしているナイスミドルだ。
 今日は、仕事がいつもより早く終ったので、従業員と一緒に居酒屋に飲みに行っていた。
 仕事終わりの安心感も手伝って酒を飲むペースは早く、1時間としないうちにすっかり出来上がってしまった。
 しかしそんな時、コウタのケータイが唐突に鳴り響いた。
「ちっ、いい気分だったのに……。はい、山本電気事業部ですが」
 宴を邪魔されてやや不機嫌そうに電話出るコウタだが、その着信主を確認してすぐに改まった。
「あ、山田様……!どうされましたか?」
 山田とは、山本電気事業部のお得意様だ。
 自営業でやや客足に困っている山本としては、なんとしてでも手放したくない大事な客だ。
 山本は、頭を振って酔いの気分を無理矢理振り払って、電話に集中した。
「あ、さようでございますか……はい、はい、分かりました。すぐに向かいます!」
 話の内容は、以前工事した山田家の電気配線が切れ掛かっており、その修理の依頼だった。
 仕事の時間外だし、断っても良かったのだが。山本は信頼を得るために、これを受けた。
 
 山田の家は、ここから街中を通って、およそ10kmほど場所にある。
 車を使えばすぐに辿り着ける距離だ。
 一人暮らしなので帰りが遅くなっても構わない山本は、酔いを醒ましてから帰るつもりだったので、車を持ってきていた。
 これは、都合がいい。
 
「ちょっと、出てくる」
 山本は、従業員達に事情を説明して立ち上がった。
「でも社長、結構飲んでるでしょ……」
「最近、検問とか多いし、まずいんじゃ……」
 反対する従業員達に山本は
「大丈夫だって。少し酔いを醒ましてから行くから。じゃ、金は置いとくから皆は楽しんでてくれ」
 そう言って、強引に店を出た。
 
 梅雨なので、外は雨が降っていた。土砂降りだ。
 飲酒の上に雨の中と言う悪条件の中走行しなければならないという事に頭が痛かったが、それでも山本の足は駐車場へと向かっていた。
 
 有料駐車場の中においてある愛車の赤セダンに乗り込み、山本は一息つく。
 すぐにでも出発したいのは山々なのだが、飲酒運転は怖い。
 30分くらいは休んだほうがいいかもしれない、とそう思った時、再びケータイが鳴った。
「もしもし……」
 山田から『いつ来られるか?』と言う催促の電話だった。
 小心者の山本にとって、それは引き金だった。
 意を決して、キーを差し込む。
 エンジンの音を聞くと、不思議と頭の中が透き通り、酔いもさめたような気になった。
「案外、いけるかもな」
 そうたかを括って、サイドブレーキを下ろした。
 
 町の中を、慎重に走る。ここで事故ったら洒落にならない。
 いつも以上に交通ルールをキッチリと守りながら、安全運転を心がけた。
 ひょっとしたら、多少飲酒した方が交通安全守られるんじゃないかとも思ったけど、なんかそれは本末転倒だ。
 途中、後ろからクラクションを鳴らされたりもしたが、気にしてる場合じゃない。むしろ、目覚ましに丁度良かった。
 しかし、しばらく走った所で、山本にとって最も遭遇したくないものを目撃してしまった。
「やべ……マジかよ……」
 検問だ。
 ケーサツが、一台一台車を止めて、飲酒チェックしちゃってる。
 このまままっすぐ進めば山田さんとこまですぐいけるのに……。
「仕方ない」
 バカ正直に飲酒チェックを受けるわけには行かなかった。
 少し遠回りになるが、道を外れて峠の方を回っていっても山田家に辿り着ける。
 しかも、あそこは人通りも車の通りも少ない。多少飛ばしても他人を巻き込む事故にはならないはずだ。
 そう考えて、山本の乗るセダンは、検問をしている場所のひとつ前の交差点を曲がった。
 
 ……。
 ………。
 
「ふぅ……」
 カーブを切り抜けるたびに、山本はため息をついていた。
 飲酒、雨、ワインディングの上に猛スピードのややドリフト走行と言うギリギリの走りをしているのだ。
 いくら第三者がいないからとはいえ、自分が事故ってしまう可能性は高い。
「しっかりしろ。もうすぐだ。もうすぐ山道も終わる。そうすれば……」
 そう、あともう少し。あと2,3回カーブを抜ければ、それで……!
 ずっと緊張の糸を張りっぱなしだったからか。少しだけ、気が緩んだ。
 そのときだった。
 視界に、人影が飛び込んできた。
 ライトが、女性のシルエットを形作る。
「あ……!」
 と、声を上げた瞬間にはもう遅かった。
 反射的に急ブレーキをかけたのが仇となり、車は耳障りな凄まじい音を立てながらスリップする。
 ライトに照らされた女性の顔が、迫ってくる。
 スローモーションのように、その顔が疑問から驚愕へと変化していく様子が見て取れた。
 ドンッ!
 と言う小さな衝撃とともに、その人影が大きく吹っ飛ぶ。
 
「……」
 やっちまった……。
 真っ白になりそうな頭を奮い立たせて、山本はゆっくりと車から降りた。
 そして、雨に濡れるのも構わず、はねてしまった女性の姿を探す。
「いない……?」
 しかし、女性の姿はどこにも見当たらなかった。
 消えた……?
 しかし、はねた女性のものであろう血痕が、路面やフロントバンパーにこびり付いていた。
 その血も、雨に流れて薄くなっているのだが……。
 だから、これは何かの見間違いなんじゃないかと言う気にもなってきた。
 周りに誰もいない。
 目撃者どころか、被害者すらも消えたのだ。
 血痕があるからなんだ。そんなものはすぐに雨で流れる。
 フロントバンパーは少し凹んでしまったが、このくらい誰も怪しまない。
 
 だから。
 だから。
 このまま、なかった事にしてもいいんじゃないだろうか?
 これは何かの間違いなのだから。
 
 でも、現実はそんなに甘くなかった。
 
「うぅ……」
 土砂降りの雨音の中、何故か、その声はハッキリと聞こえた。
「……」
 そう、暗くて気付かなかったのだ。
 女性がいた場所の、その延長線上。
 女性が、吹っ飛ばされたであろうその先。
 そこは……カーブになっていて、まっすぐ突っ込めば、下の道へと落ちてしまうのだ。
 
 山本は恐る恐る、その崖を覗き込んだ。
 いた!!
 崖は、思っていたより低く、3mほど下に別の道が見えた。
 そして、そこに頭から血を流した女性が、苦しそうに呻いていた。
 体を九の字に曲げて倒れ、ゆっくりと首を回してこちらを見上げてきた……。
「ぁ……」
 言葉が出なかった。
 その、女性の目は、事故を起こした自分に対する怒りや憎しみは一切無く、純粋に助けを求めるものだったから。
 でも、助けられない。
 ここで助けたら、もう後戻りは出来なくなる。
 
 だけど……!
 
 自分のせいでこんな事になったのに。
 そんな自分に対して恨みもせず、ただ純粋に助けを求めているのに……。
 そんな彼女を見捨てると言うのだ。
 
 罪悪感に押し潰されそうになる。
 
 でも、でも……!
 目撃者はいない。彼女はもう虫の息だ。ほっとけばすぐに死ぬ。
 自分にお咎めは無い!
 なかった事に出来る!
 罪も無くなる!
 なかった事に出来る!
 仮に生きていたとして、この土砂降りの中顔がハッキリ見えているはずが無い。バレるわけがない!
 なかった事に出来る!
 
「っ!!」
 山本は、踵を返した。
 そして、セダンに乗り込んでそのまま走り去った。
 女性の目は、ずっと走り去る車を追っていた……。
 
 
 ……。
 ………。
 
 8月上旬。日曜の昼下がり。
 極村原河家の長男、極村原河翔太は居間のソファに寝そべり、テレビを眺めていた。
 テレビからは、ニュースキャスターの淡々とした朗読が流れている。
 
『6月15日に三芳峠山中にて起こったひき逃げ事件の被害者の身元が判明しました。
被害者は、吉本加奈子さん(18)。当日、買い物帰りに峠の道を歩いていたところ、カーブ付近にて乗用車にはねられた模様です。
目撃者はおらず、加害者の身元は未だに不明です』
 
「酷いことするもんだよなぁ……」
 翔太は、煎餅を齧りながらぼやく。
 地元の大学に受かり、免許も取り、ようやく車を買ってもらう事になった翔太としては、とても他人事とは思えないニュースだった。
 事故を起こす事自体良くないが、そのあと逃げるのはモット良くない。
 せめて自首するべきだ。
「あんたも加害者になるかもしれない立場になるんだから、ちゃんと気をつけなさいよ」
 キッチンの方から、母親が話しかけてきた。
「嫌だからね。事故で死んだり、殺したりするのは」
「分かってるよ。気をつける」
 母親のお小言ほどウザイものは無い。
 翔太は適当に流した。
「それはそうと、今日は前予約してた中古車が来る日じゃなかったっけ?お店にいかなくていいの?」
「あ、そうだった!」
 そうそう、今日は車もらえる日だったのだ。
 
 免許を取った翌日、早速近くの中古車ショップに足を運んだのだが、すぐに良い車が見つかった。
 それは、真っ赤なセダンだった。値段もそこそこ安かった。
 少しフロントバンパーが凹んでて、黒い染みみたいなのがついているのだが、気にするほどじゃない。
 翔太は即座に予約を入れ、それがついに今日手に入るのだ。
 
「じゃ、行って来ます!ちょっと、ドライブしてこようと思うから帰りは遅くなる」
「気をつけるんよ」
「分かってる!」
 そう言って、意気揚々と出かけた。
 
 中古車ショップにて、担当の人に長々と保険とかその他諸々の説明を受けたり、契約書を交わしたりして、ようやく愛車に乗ることができた。
「よし、行くぞ……!」
 早速キーを差し込んで、捻った。
 ブロロロロ!!
 と、エンジンが回る音が鳴る。
 キャー……。
「ん?」
 その、エンジン音の中に、少し高い女性の声のようなものが混じった気がした。
「……」
 耳を澄ます。
 聞こえるのはエンジン音だけだ。
「気のせいか」
 そう思い直して、サイドブレーキを解除する。
 ギアをドライブにして、ゆっくりとブレーキを離した。
「おぉ……!」
 初めて愛車を動かした事に軽く感動する。
 そのまま、公道に出た。
 少し不安もあったのだが、意外とすんなり乗りこなせそうだ。
 翔太はそのまましばらく町の中を走行する事にした。
 
「結構慣れてきたなー」
 夢中になって運転していると、いつの間にか日は傾き、夕暮れ時になっていた。
 町の中での走行は、もうやりつくした感がある。
 だけど、まだなんか物足りない。
 家に帰る前にもうちょっと、何かしたいと言う気分になった。それはきっと、夕日がそうさせているのだと思う。
「よし」
 翔太は、町を外れ、あの峠道へと車を走らせた。
 あそこは、それなりにスリルもあるし、対向車が少ないから、普通に走行する分には町の中を走るよりも安全だ。
 昼間見たニュースが少し気になったが、それでも今の自分にはあの場所が一番適しているように思えた。
 
 峠道のワインディングを気持ちよく走らせる。
「~♪」
 自然と鼻歌が漏れた。
 峠は一本道な上、適度にカーブがあり、自分の好きなスピードで走れるのでただ走るだけなら町の中を走るよりもずっと楽しい気分になるのだ。
 そのときだった。
 
 ――……けて
 
 ふいに、高い女性の声が聞こえたような気がした。
「え?」
 反射的に振り返ってみるが、車には自分しか乗っていない。
 小石か何かを跳ねて、それが女性の声に聞こえただけかもしれない。
 そう思って前を向くと……
 
 ――ど…して……げるの……
 
「は?」
 
 さっきよりも、より強い声で聞こえた。
 
 ――ねぇ、助けてよ……あなたのせいなのに、どうして逃げるの?
 
 ハッキリと、聞こえた!
「な、なんだ?!」
 慌ててあたりを見回すのだが、何も誰もいない。
 だけど、だけど声が……!
 
 ガッ!!
 突如、左肩を何者かが物凄い力で掴んできた。
「っ!」
 恐る恐る、左へと首を回してみると……。
 そこには、青白い顔をした女が……後部座席から翔太の肩を掴んでいた。
 目が合う。
 悲しげで、だけどどこか何かを楽しんでいるような、そんな瞳だった。
 長い髪はびっしょりと濡れていて、それが首筋に絡み付いてきて、こそばゆかった。
「ひ……ひゃああああああ!!!」
 翔太はパニックになって、ハンドルを持つ手をメチャクチャに動かし、その女を振り払おうとした。
 だけど、その力は強く、なかなか振り払えない!
 
「く、っそぉぉ!!!」
 渾身の力を振り絞って、なんとか、女の手を振りほどく。
 その時、女はニタリと口元を歪ませて、消えた……。
「……?」
 安堵と疑問が同時に頭に浮かんだ。
 その直後だった。
 バンッ!!
 軽い衝撃が、車体を襲った。
 エアバックが発動するほどではなかったが、翔太は反射的にブレーキを踏んだ。
 けたたましい音を立てて、車が止まる。
 
「あ……!」
 何事かと前方を見たとき、翔太は目を疑った。
「う……そ……!」
 女子高生が……車の前で、血を流して倒れているのだ。
 翔太は慌てて車から降りて、女子高生の傍に駆け寄る。
「す、すみません!!大丈夫ですか!?」
 大丈夫なわけが無いが、そんな事冷静に考えている余裕は無かった。
 女子高生の首を抱えて、その姿を見る。
「……」
 思わず、吐き気を催して口元を押さえた。
 
 この女子高生は、もう人間じゃない。
 四肢があらぬ方向に曲がり、首も折れている。
 出血も酷く、息もしていない……。
 
「……」
 翔太は、女子高生から離れ、周りを見渡した。
 
 ……誰も、いない。
 
 誰も見てない。
 この子は助からない。
 そうだ。大丈夫だよ。大丈夫。
 黙ってれば、誰も気付かない。
 だから……だから……。
 
 翔太は、車に戻ろうと後ずさった。
 そのときだった。
 人としての形を失った女子高生の目が、カッと見開き、その口がゆっくりと動いた。
 
『今度は、ちゃんと自首してね……』
 
 
 
     完
 
 
 
 

 

 

続きを読む

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション最終話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
☆☆☆前回のあらすじ☆☆☆
 
 
 ほにゃらか中学校。
 
「なぁなぁ郷田山~!」
「ググレカス」
「俺まだ何も言ってないよ!?」
 
 
☆☆☆あらすじ終了☆☆☆
 
 
 
最終話「君の微笑みに抱かれて ホールド・スリーピング・ホッピング」
 
 
 
 
「う、うぅ……ん……」
 土砂が焦げる臭いが鼻につき、僕は目を開いた。
 目の前に広がるのは、雲ひとつない真っ青な空。
 背中には、ゴツゴツと砂利が当たっていて少し痛みがある。
 周りには、木々が生い茂っており、ここが人気の少ない近所の山道だと言う事を悟った。
 
「僕……は……」
 状況を把握するために上半身を起こそうとすると、激痛が走った。
「ぐっ!」
 全身が、まるで動く事を拒絶しているかのごとく軋んでいる。
 感覚としては筋肉痛の時の痛みに近いが、痛みの大きさは段違いだ。
「うぅ……」
 とは言え、ソッと動けばなんとか痛みを感じずに済みそうだ。
 僕は、痛みに気を使いながら上半身を起こした。
 
「……」
 視界が高くなるだけで、状況把握能力は飛躍的に向上した。
 
 そう、ここは、自宅から病院に行くまでに通る、人気の少ない山道。
 そして、僕は、姉ちゃんを病院に連れて行くために、嵐の中、ストームランサーを漕いで……そして……。
 
「っ!ストームランサー!!」
 
 そうだ!あの時、勢いに任せて韋駄天・ホッピングを繰り出したいせで、雷に打たれたんだった!!
 何故か僕は無事だったけど、大切な愛機のストームランサーは……!
 
 僕は、必死で辺りを見回し、愛機の姿を見つけて、慌てて駆け寄って、愛機の安否を確認する。
 
「よかった……無傷だ」
 ストームランサーは、所々焦げてはいるが、大事には至らなかったようだ。
 
「うぅ…ん……」
 その時、傍らで女性の声が聞こえた。
 ハッとしてその方を向く。
「姉ちゃん!」
 忘れてた!
 姉ちゃんは不治の病に侵されていて、それで病院まで連れて行こうとする途中に雷に打たれたんだ!!
 
 僕は慌てて駆け寄って、姉ちゃんを抱きかかえた。
「姉ちゃん!姉ちゃん!!!」
 姉ちゃんは、虚ろな瞳で僕を見つめてくる。
 その瞳の輝きは、弱弱しく、今にも消えてしまいそうだった。
「……」
 僕は唇をかみ締めた。
 
 僅かな可能性にかけて、全身全霊でMTBを走らせたというのに
 結局、結局間に合わなかったのだ。
 
 
 僕は、姉ちゃんを、救えなかった……
 
 
「ぐぐ……!」
 許せない。
 姉ちゃんの反対を押し切って
 自分の勝手な判断で、姉ちゃんの命を奪ってしまった
 
 僕は、姉ちゃんを、殺したも同然なんだ……!
 
「あれ?」
 僕が自分自身への怒りに打ちひしがれていると、姉ちゃんがなんとも間抜けな聲をあげてきた。
「???」
「動いてる……私の心臓、動いてるよ!」
 
 思考が、上手く働かない。
 
 動いてる?心臓が?
 
 そんな、バカな。
 だって、姉ちゃんは、不治の病で、しかも雷に打たれたのに
 もう、死んでるはずなのに……。
 
 お前はゾンビか!!
 
 と言う突っ込みが喉まででかかったが、さすがにそれは失礼だと思って飲み込んだ。
 
「ゆうくん!私、生きてる!!もう、病気も治ったみたいよ!!」
「えええええええええ!!!!」
 
 何その超展開。
 頭おかしいんじゃねぇか?
 
「よくやったな、ユウジ!!」
 僕が、状況を上手く把握できずにいると、頭上から大人の男の声が聞こえてきた。
 顔を上げると、そこには、半裸で髭もじゃの男が立っていた。
 
「お、オヤジ!!」
 そう、そいつは、極村原河ショウ……僕の父親だった。
 何故、こんな所に……?
 
「不思議そうな顔してるな」
 そりゃ、そうだよ。
 何故、こんな所に……。
 
「ふっ、簡単な事だ。車に乗っていれば雷が落ちても車のボディが電流を受け流すと言うのは周知だろう?
それと同じ原理だ。MTBのフレームは、雷を受け流す!!」
 いや、そこじゃなくてさ。
 
「そして、MTBによって弱まった電流が、アイの患部へと働きかけ、不治の病を治してしまったんだ!!」
 だから、そこじゃなく……って、えええええええ!!!!
 
「そんなバカな!!!」
 ありえるのか、そんな事が!?
 僕が頭を抱えていると、ソッと姉ちゃんが僕の頬に手を添えてきた。
「ありがとう、ゆうくん……」
「姉ちゃん……」
 僕は、その手を握り締めた。
 温かい。これは、姉ちゃんの中に流れる血液の温度だ。
 
 そうさ。ありえるかどうかなんて、問題じゃないんだ。
 今、この瞬間に姉ちゃんが生きていてくれている。
 それだけで、十分じゃないか。
 
「よかった……本当によかった……!」
 僕は姉ちゃんを抱きしめて、静かに涙を流した。
「ゆうくん……」
 
「まさに、奇跡だ……!」
 
「それは違うぞ、ユウジ!」
「え?」
「これは、奇跡などではない!!」
 オヤジは、穏かな、それでいて凛とした声で言う。
「これは、お前のMTBに賭ける想いが起こした、幻だ!!」
 
「僕の、MTBに賭ける想いが……」
 そうか……そうだったのか……!
 
「今まで、本当によく頑張ったな。我が息子よ……」
「オヤジ……」
 僕は立ち上がり、オヤジと向き合った。
 
 今までずっと、僕を置き去りにしてきた男。
 今までずっと、恨み続けていた相手。
 今までずっと、対面したいと願っていた敵。
 
 僕は、ついに、同じ土俵へと上がったのだ。
 
「フッ。MTBライダーの顔になってきたな、ユウジ」
「御託はいい!……他に言うべき事があるだろ」
 オヤジは、一瞬だけ口元を釣り上げると、ゆっくりと口を開いた。
 
「そうだな。今こそ全てを話そう。何故、俺がお前を養子として引き取ったのか。
そして、何故今までお前を一人ぼっちにさせてきたのか。その、全てをな」
 
 いよいよ、全てが分かる時が来た。
 恐れたりはしない。
 真実はきっと、僕の味方をしてくれると信じてる!
 
「俺は、MTBライダーとして世界中のMTBの大会を総なめにしてきた。
そんな俺の事を人はいつしか『爆闘アタッカー』と呼ぶようになっていた。
だが、そんな俺にもいずれは老いが来る。体の衰えには抗えない。
そうなってしまえば、俺の『爆闘アタッカー』の称号も、いずれは過去のものになってしまうだろう……」
 
「……」
 そう語る父の顔は、どこか寂しげであった。
 
「そこで俺は、結婚し、子供を作り、俺の跡を継がせようと企んだ。
だが、生まれてきたのは、女の子だった……。
フッ、初めての子だ。最高に嬉しかったさ。だが、やはり野望は捨て切れなかった」
 なんとなく、話が見えてきたぞ。
「そこで、さまざまな孤児院を渡り歩き、MTBライダーとしての素質がありそうな子供を探し回った。
そして、ようやく見つけたのが、ユウジ。お前だった」
「それで、僕を養子に……」
 
「だが、まだ障害は残っていた」
「え?」
 
「お前が、俺の予想以上に、マザコンで、シスコンだったからだ!!」
「!?」
 確かに、僕は、お母さんが大好きで……姉ちゃんが、大好きだった……。
「お前にはMTBの素質があったし、MTBも好きだったんだろう。だが、それ以上にマザコンで、シスコンだった!!」
 そんなに繰り返さないでくれよ!!(涙)
 
「妻が亡くなった時の、お前の落ち込みようは、見るに耐えなかった。
毎日のように引きこもり、MTBの練習もしなくなった。
このままでは、お前はだめになる。だからこそ俺は、アイを連れて世界を飛び立った。
そして、そのついでにMTBによる世界征服を企んだのだ!」
 
「そうか……そうだったのか……僕を、MTBライダーとして強くするために、オヤジと姉ちゃんは……」
 
「そう、全ては爆闘アタッカーの系譜のために。
人はコレを、『爆闘アタッカーショウによる、第二世代への教育!!』略して『爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション』と言うのだ!!」
 
「っ!!!」
 
 まさか、タイトルにそんな意味があったなんて……!
 
「そして、今こそその教育は終わった。
お前は、MTBライダーとして立派に成長し、そしてアイの病までMTBの力で完治させてしまった!
お前こそ、『爆闘アタッカー』の称号を受け継ぐに相応しい!
今日からお前は、『爆闘アタッカーユウジ』を名乗れ!!」
 
「オヤジ……」
 
「おめでとう、ゆうくん」
 
「姉ちゃん……」
 
 この人達は、こんなにも僕の事を想っていてくれてたなんて……。
 感動のあまりちょちょぎれる涙を拳で拭い去り、僕は顔を上げた。
 
「よーし!!」
 そして、倒れているストームランサーを起こし、跨った。
「いっくぜえええええええ!!!」
 
 気合いを込めて、ペダルを漕ぐ。
 
「轟けぇぇ!!!ストォォーームランサァァァーーー!!!!」
 ストームランサーが青き光に包まれる。
 
「僕の心のようにぃぃ!!青く、激しく、吹き荒れろぉぉぉぉーーーーー!!!!!」
 
 
 雨上がりの空に浮かぶ虹の向こうへ、僕とストームランサーは走り続けた。
 真の栄光を目指して……!
 
 
 人はコレを『俺達の戦いはこれからだ!! ユージン先生の次回作にご期待ください』と、言うのだ!!
 
 
 
 
        完
 
 
 
 
    
新小説予告!!
 
 
最強の男に与えられる『爆闘』の称号。
今、新たなる『爆闘伝説』が始まる!!
 
炎の拳を胸に秘める男、極村原河フブキ!
極寒の地にこそ、体温を上昇させるヒントがあると豪語する彼の前に立ちはだかるライバル達!
そう、今こそ、フブキによるフブキのための、切なき恋の物語が幕を開けたがっていた!
 
 
 新小説!『爆闘ファイターシュウ!!も~っとキュート☆』
 
ビークル・セット!ゴー・ファイトォ!!
 
 
  
  

 

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第7話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第7話「好き嫌いは許さない!フルーティ・アボカド・スパイシー」
 
 
 
☆☆☆前回までのあらすじ!!!☆☆☆
 
 前の話を見れば分かる。
 
☆☆☆あらすじ終了☆☆☆
 
 
 ほにゃらか中学校、2年の教室。
「なぁ、郷田山」
 とある昼休み。珍しく権兵衛が郷田山に声をかけた。
「あによ?」
 まるで汚物でも見るかのような目つきで権兵衛に視線を向ける郷田山。
「シュークリームとゴーヤチャンプルーを同時に食したら口の中が大変な事になったんだが、どうすればいい?」
「ゆすげ」
 
 
 極村原河家。アイの部屋。
 なんか倒れちゃったアイが、ベッドに横たわっている。
 
「姉ちゃん……」
 僕は、ベッドの横に座り、姉ちゃんの手を握った。
 その手は柔らかく、仄かに熱を帯びていた。
 姉ちゃんは、静かに、まるで死人のように眠っている。
 ただ、熱で赤く染まった頬と苦しそうな寝息だけが、唯一生気を感じさせた。
「どういう、事なんだ?」
 小さく呟く。
 
 この様子は、尋常じゃない。ちょっとした風邪だとか、そんなレベルじゃない。
 それなのに、今まで全然そんな体調を崩すような素振りを見せなかった。
 健康そのものに見えたのに。
  
 まさか、今まで無理してた?
 体調悪いのに、無理して……。
 でも、ちょっと体調崩してたなら、正直に言えば、僕だって……。
 
「……ゆうくん…………」
 小さく、姉ちゃんの口が動き、僕の名前が呟かれた。
「え?」
 それに反応して聞き返すのだが、それ以上は寝息しか聞こえてこない。
「……寝言、か」
 僕は、フッと力を抜いて姉ちゃんの手を離した。
「そろそろ、温くなってきたな」
 そして、姉ちゃんの額に置かれた濡れタオルを手にとって立ち上がった。
 部屋の外へ出ようとしたのだが、ずっと座っていたため足元が覚束ない。
「うおっ!」
 平衡感覚を失った僕は、扉の横にある本棚に額をぶつけてしまった。
 何冊か、本が床に落ちる。
「いつつ……」
 僕は額を押えてしゃがみ込む。
 すると、視線の先に床に落ちて開いた、ノートのようなものが目に映った。
「これは……」
 手に取ってみる。
 どうやら、それは日記のようだった。
「……」
 姉とは言え、人の日記を読むのはいくない。
 僕は、当然のように、自然の流れでそれを棚に戻そうとした。
 が、その手が止まる。
 視界に、日記帳の中身が偶然映ったのだ。
 その、中に、幾度と無く僕の名前が書いてあったから。
 僕は、吸い込まれるように、その日記に目を通してしまった。
 
 日付は、あいつが僕の家に来る1週間ほど前から始まっていた。
 
 
『今まで日記をつけた事のなかった私ですが。
本日より、私の生きてきた証を記す事にします。
 
今日、私はお医者様に不治の病を宣告されました。
もって後数日だそうです。
詳しい病名は、私には分かりません。
突然の事で、俄かには信じられません。
ですが、私の体の異変は、私自身が一番良く感じていました。
なので、詳しい病名など分からなくても、私が助からない事は、きっと間違いないのでしょう
 
死へと近づいているという実感はまだありません。
だから、恐怖も何も感じないのですが……。
たった一つだけ、望みが出来ました』
 
 最初の日記は、そこで終わっていた。
 
「不治の、病……だって?」
 驚いて、ベッドにいる姉を見る。
 確かに、今の姉の様子を見れば納得は出来る。
 でも、このうちに来てから昨日までの姉からは、そんな素振りは全くなかった……。
 
 僕は、日記の続きに目を通した。
 
『今日、私は初めて親不孝をしました。
私は幼い頃から父とともに世界を旅してきました。父の目標を達成するため、その支えのために。
ですが、日本にはずっと一人で置いてきぼりにしていた弟が居ます。
小さい頃からずっと可愛がっていた弟……ゆうくん。
医者から不治の病を告げられた時から、私は彼の事がずっと気がかりになっていました。
もう二度と会えなくなるかもしれない。
最後の時が来るまでに、ゆうくんに会いたい。
 
いいえ、最後の時は、ゆうくんと一緒にいたい。
 
でも、それは世界を旅し続けなければならない父の元にはいられなくなると言う事。
もう、会えなくなるのに、私は父から離れることを望んでしまった。
 
きっと、私は世界一の親不孝者です』
 
 
「……」
 これが、姉ちゃんがこの家に戻ってきた理由。
 僕と、一緒にいたいがために……。
 
『父に、日本に戻りたいと告げた。
少し渋っていたけれど、意外とあっさり承諾してくれた。
そして、手早く飛行機の手配までしてくれた。
 
ごめんなさい、お父さん。私は、あなたの娘で本当によかった。
 
私の中の異変が大きくなっていくのを感じる。
でも、不思議と怖くなかった。
大丈夫。ゆうくんに会えるんだから。
最後の時まで、ゆうくんと一緒に過ごせるなら。
私は、今の人生を後悔しない』
 
 次からは、この家に戻ってきてからの事になった。
 
『懐かしい我が家に帰ってきました。
でも、ゆうくんからは嫌われちゃってるみたい。
 
……当然だよね。ずっと寂しい想いさせてきたんだから。
 
ごめんね、悪いお姉ちゃんだったね。
でも、私はゆうくんの事大好きだよ』
 
『私は、自分がこんなにもわがままで自分勝手な人間だったとは、知りませんでした。
ゆうくんは、私の事を嫌おうとしています。
悪いのは私なんだから、それは甘んじて受けなければならない。
 
それでも、私は、どんなに嫌われても良いから、ゆうくんと一緒にいようと思います。
小さい頃と同じように、抱きしめてあげて。
お料理作ってあげて。
一緒にお風呂入って。
一緒に、おねんねして。
 
ゆうくんはきっと、全部嫌がるだろうけど
少しの間だけだから……許してください』
 
「それで、なのか……」
 僕が、どんなに酷い事を言っても、まるで気にせずに僕に構ってきたのは。
 僕に好かれる事よりも、少しでも長く一緒にいたかったからで……。
 
『今日、ゆうくんの通う中学校に転入しました。
突然の転入で手続きは大変だったみたいだけど、お父さんの名前を出したら意外とすんなり入れました。
お父さん、MTBで世界征服を企んでるって言うのは、伊達じゃなかったみたい。
 
これで、少しでも長い時間ゆうくんと一緒にいられる。
私の中の異変は、どんどん大きくなっていくけど。
私は今とても幸せだよ。
 
でも、やっぱり嫌われたままなのは……辛いな。
お姉ちゃんって、呼んで欲しいな』
 
 日記は、そこで終わっていた。
 良く見ると、最後のページには所々、水滴が落ちて乾いたような、そんな後がある。
 これは、あの夜に見たような、涙、なのか?
 
「……」
 全部読み終わり、僕は日記を閉じた。
 その時、背後から視線を感じて僕は振り向いた。
「姉ちゃん」
 いつの間に起きていたのか、姉ちゃんが上半身を起こして、いたずらっ子を見つけた母親のような顔でこちらを見ていた。
「こぉら。人の日記を勝手に読むのは、プライバシーの侵害だぞ」
「……ごめん」
 僕は目を伏せて、小さく謝った。
「まぁ、ゆうくんなら、見られてもいっか」
 姉ちゃんは、軽い口調でそう呟くと、再び上半身を倒した。
「姉ちゃん、あの……!」
 僕の言葉を遮るように、姉ちゃんが口を開く。
「ごめんね、今まで黙ってて」
「ちがっ!そんなのどうでもいい!!」
 
 それよりも、そんな事よりも……!
 
「ごめん!僕、姉ちゃんの気持ち全然考えないで!自分の事ばっかり考えてて!酷いことばっかり言ってきて!ごめん!!ほんとに、ごめん……!!」
 涙を流しながら、僕はひたすらに我武者羅に謝った。
 こんな事を言っても、償いになるわけじゃない。
 だけど、僕は許せなかった。今までの自分が。
 出来る事なら、過去に戻って、自分をぶん殴ってやりたかった。
 
「ゆうくん」
 涙で震える僕に、姉ちゃんが優しく囁いた。
「おいで」
 誘われるがままに、僕はベッドの横に行く。
 すると、姉ちゃんは上半身を起こして、僕を抱き寄せた。
「どうしてゆうくんが謝るの?」
「……」
「ゆうくんは、何も悪くないでしょ。ゆうくんはただ、自分の居場所を守ろうとしただけ。それを勝手に侵そうとしたのは、私なんだから。
それよりも、ありがとう。私と一緒にいてくれて、ありがとう」
「姉ちゃ……!」
 
 僕は、姉ちゃんの匂いに包まれながら、静かに咽び泣いた。
 
 
 あれからどれだけの時間が経っただろうか。
 泣きやんだ僕は、さっきまでのポジションに戻り
 姉ちゃんも、仰向けになっているものの、眠れないのか天を仰いでいる。
 互いに起きているのだが、話す事もなく、静寂の中時間だけが過ぎていく。
 
「ちょっと、汗かいちゃったかな」
 ふと、姉ちゃんが呟いた。
「あ、あぁ。着替え、持ってくるよ」
 僕は、部屋の隅にあるタンスに手をかけた。
 
 上着と、ズボンと、それから……。
 
「うっ……」
 タンスの、一番下の段を開けて、僕は硬直した。
 僕の目の前には、色とりどりの、その、とても柔らかそうな……。
 って、何考えてんだ!今それどころじゃないだろ!!
 い、一番重要なものなんだから、用意しなきゃ、いけないんだから!
 だから、これは必要な行為なんだ。
 
「ゆうくん、変な事考えてない?」
「あ、アホな事言うな!!」
 僕は、ムンズッと乱暴にそれを掴み、上着とかと一緒にベッドの上に置く。
 
「ほい、とりあえずコレでいいよな?」
「うん」
 姉ちゃんは着替えを受け取った。
「……」
 にも関わらず、うつむいたまま、動こうとしない。
「??」
 首をかしげていると、姉ちゃんが恥ずかしそうに呟いた。
「あっち、向いてて……」
「あっ!」
 迂闊だった!
 僕は慌てて反対方向を向く。
 ってか、当たり前の事じゃないか!
 いっつも過剰にスキンシップされてたから、姉ちゃんに対してそういう感覚が薄れてたんだ。
 
 っつーか、散々ベタベタしてたくせに、何今更恥ずかしがってんだよ!
 こっちまで照れちまうだろうが!
 
「……」
 背後から、衣擦れの音と吐息が聞こえてくる。
 
 こ、これは生殺し状態って奴か?
 今、もし、うっかり振り向きでもしたら、そこには……!
 あぁ、いかんいかん!そんな事考えちゃダメだって!
 悪霊退散悪霊退散!煩悩よ、消え去れ!ぷよぷよするな!!
 
「ゆ、ゆうくん……」
 姉ちゃんが、遠慮がちに声をかけてきた。
「なんだ?もう、終わりか」
 振り返ろうとする僕に、姉ちゃんは慌てて言う。
「待って!」
「うおっと!」
 まだだったらしい。僕は、慌てて首を元に戻す。
「その……手伝って」
「へ?」
「熱で、上手く着替えられない、から……手伝って」
「んなっ……!」
 って、それじゃわざわざそっぽ向いた意味ねぇじゃん!!
 
「ば、バカな事言うな!いくらなんでも、出来るかよ……!」
「だ、大丈夫。下着は、つけた、から……」
 息遣いが荒くなっている。
 こりゃ、あーだこーだ言ってる場合じゃないかもな。
 
 僕は、意を決して振り返った。
「……」
 目の前には、上着を羽織ったものの、ボタンを付けられずにいる姉の姿があった。
 空いた上着から覗く白い下着。履きかけのズボン。
 紅潮した体は、恐らく熱のせいだけではないのだろう。
 
 僕は、姉ちゃんの体をなるべく見ないよう気をつけながら、それらを着せていく。
 
 熱いと息が頬に掛かる。
 手に、柔らかな肌の感触が伝わる。
 
「姉ちゃん……」
 
 あぁ、僕は、気付いてしまった。
 今まで僕が、頑なにこの人を『姉』と認めようとしなかった本当の訳を。
 
 
 
 僕は、この人を……。
 
  
 
 好きになってしまったのかもしれない。
 
 
「アイ……」
 僕は、誰にも聞かれないように小さく、その名を呟いた。
 
 
 
 なんとか着替えも終わり。再び部屋の中に静寂が戻った。
「姉ちゃん」
 今度静寂を破ったのは、僕だった。
 
 僕は、この人が好きだ。
 そして、それを自覚した時から、僕の中で一つの決断が生まれていた。
「姉ちゃん、病院に行こう」
「え?」
 姉ちゃんは、目を見開いた。
「このままここでこうしていても、ただ死を待つだけだよ。何にもならない!」
「それは、病院に行ったって同じだよ。私の病気はもう治らない」
 
「でも!そんなのやってみなくちゃ分からないだろ!!それに、治すことが出来なくても、少しでも寿命を延ばしたりとか、そういう事が出来るかも……!」
 
「ゆうくん。私はね、少しでも長く生きるよりも、少しでも長くゆうくんと一緒にいたいの。今病院に行ったら、例え寿命を延ばしたとしてもゆうくんと一緒にいられる時間はグンと短くなってしまうかもしれない。私は、死ぬよりもその方が怖い」
 姉ちゃんの気持ちは、分かる。
 そして、姉ちゃんが、生きる事よりも、僕との時間を選んでくれた事は、凄く、凄く嬉しい。
 
「だけど、だけどっ!僕は、姉ちゃんに生きていて欲しいんだ!!少しでも長くじゃない!!ずっとずっと、姉ちゃんと一緒にいたいんだ!!!
だから、例え僅かしかなくても、そのための可能性を、諦めたくないんだ!!」
 これは、僕のわがままだ。
 姉ちゃんのためじゃない。
 僕のために、姉ちゃんに生きて欲しいと願う。
 こんなの、聞き入れてもらえるわけがない。
 
「もう、しょうがないな」
 だけど、姉ちゃんは。
「最後くらい、弟のわがままを聞いてあげないと。お姉ちゃん失格だもんね」
 すんなりと、僕の希望を受け入れてくれた。
 
 
 僕は、受話器を取って、近くの大きな病院に電話をかけた。
 すぐにでも救急車に来てもらうためだ。
 
 受話器越しに聞こえる呼び出し音をこんなにもどかしく感じたことは、今まで無かった。
 5回ほど電子音を聞いた後、新人看護婦っぽい女性の声が聞こえた。
『もしもしぃ、病院ですがぁ?』
「も、もしもし!すみません、急患なんです!すぐに救急車の手配を……!」
『えぇ~、っていうかぁ。外嵐だしぃ。車出すの無理くね?」
「え?」
 看護婦の言葉に、僕は窓から外を見た。
 
「うそ……」
 さっきまで晴れていたと想ってたのに、いつの間にか、外は暴風雨に見舞われていた。
 
『ってなわけでぇ、こっちの安全が保障出来ないので救急車は出せません。
っていうか、診てもらいたいんだったら、そっちから来るのが礼儀じゃね?』
 それだけ言うと、電話が切れた。
 
「くそっ!」
 僕は乱暴に受話器を叩きつけた。
「どうすれば……」
 外は暴風雨。
 救急車にも来てもらえない。
 このまま、諦めるしかないのか……!
 
「っ!」
 その時、僕の脳裏にある言葉が浮かんだ。
 
 “一生懸命手入れして、一生懸命練習して。こいつは、僕の相棒なんだ”
 
 それは、かつて、僕が権兵衛に対して言った言葉。
 そうだ。救急車が無くても、僕には最高の相棒がいるじゃないか!
 
 僕は、玄関から合羽を二着取り出すと急いで姉ちゃんの部屋に戻った。
 
「姉ちゃん、これ、着てくれ」
「合羽?」
「ごめん、少しの間。我慢してて欲しい」
「……」
 姉ちゃんは、素直に僕の言葉を受け入れてくれた。
 
 
「ダッシュ・セット!韋駄天・ゴー!!」
 
「うおおおおおおお!!!」
 暴風雨の中を、ストームランサーに跨り、爆走する。
 後ろの荷台には合羽を着た姉ちゃんが乗せられている。
 病院までの道のりは、決して近くはない。
 だけど、ストームランサーなら、きっと辿り着ける!!
 
「ゆうくん……」
「しっかり捕まっててくれよ、姉ちゃん!」
 降り注ぐ暴雨を受けながら、僕は懸命にペダルを漕ぎ続ける。
 この暴風雨の中、人を乗せて走るのはかなりキツイ。
 それでも僕は、全ての力を振り絞り、病院目指して走り続けた。
 
 
「はぁ、はぁ……!」
 さすがに息が切れてきた。
 足も、痺れて、力が入らない。
 
 ズギャーーーン!!
 目の前に閃光が走り、轟音が鳴り響く。
 近くで雷が落ちたようだ。
 
 だがっ!そんなものに怯むわけにはいかない。
 
「ゆうくん、もういいよ。戻ろう。このままじゃ、ゆうくんが……!」
「僕は、大丈夫だ!だい、じょうぶ!!こんなとこで、終わってられるかぁ!!」
 気合いを込めて、全ての力を足に注ぎこむ。
 
「うおおおおおお!!!!!」
 目の前の雫を全て吹き飛ばすほどの気合いを込めて、僕は咆哮した。
 
「絶対に諦めない!!諦めてたまるかぁぁあああああ!!!!」
 
 再び、鳴り響く轟音。
 しかし、今の僕の耳には届かない。
 
「轟けぇ!!ストォーームランサァァァァ!!!!」
 なぜなら、あんな雷の轟音なんかよりも。
 僕のストームランサーの咆哮の方が、遥かにデカイからだ!!
 
「僕の心のように!青く激しく、吹き荒れろぉぉぉおおおおおぉぉおおおお!!!!!」
 僕は、今こそ全身のバネを限界まで圧縮させた。
 
「韋駄天・ホッピング!!!!」
 
 そして、最大限の反発力で、宙を舞った!
 このまま病院まで、ぶっ飛んでやる!!!
 
 しかし、無情にも再び閃光が走る。
 しかも、その雷は韋駄天ホッピングによって天高く舞ったストームランサーに矛先を向けていた。
 
 
 ズガギャギャーーーーン!!!
 
「ぐああああああああああああ!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!」

 
 雷は、見事に僕たちに直撃してしまった。
 
 
 
    次回
 
「数多の衝突があった。
数多の激突があった。
そして、数多の追突が、僕らを襲う。
 
次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd最終話『君の微笑みに抱かれて ホールド・スリーピング・ホッピング』
 
熱き闘志を!ダッシュ・セット!!」
 

 
  

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第6話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第6話「サルとの戦い!モンキー・コング・チンパンジー!」
 
 
 
 
 夕食と入浴を済ませ、僕は我が自室でプライベートタイムを過ごしていた。
 
「ふん……!ふん……!」
 
「ふぅ……」
 
「う~ん、やっぱなんか物足りないな」
 僕は、自分の部屋で奮闘していたのだが、何かが足りないと感じていた。
 そう、一人では限界があるのだ。物足りないのだ!
 しかし、今は一人ではない。一人では物足りなくても、二人なら物足りる!!
 ここは、少し癪だが。
「あいつを使うか」
 こう言う時に有効利用しないと。何のために居候させてるか分からないもんな。
 
 僕は部屋の扉をあけ、居間に向かってあいつを呼んだ。
 
「おーー……!」
「呼んだ?」
 
「い……って、おわぁ!?」
 いきなり背後からあいつの声が聞こえて、思わずその場で尻餅をついた。
「てめっ!完全に呼ぶ前から現れんな!ってか、どこから現れた!!」
「ふっふっふ、お姉ちゃんを甘く見ちゃダメですぜ」
 
 甘く見たつもりは無いのだが……しかし、どうやって背後から?
 
「で、何の用なの?」
「え、そんだけ!?なんで甘く見ちゃダメなのか言えよ!!」
 
「なんで甘く見ちゃダメなのか聞く前に、自分の用件を言うのが礼儀だって、お姉ちゃんから教わらなかったの?」
「うっ……」
 それは、確かにそうだが。
 
「じゃ、時間が勿体無いから用件を手短に言うぞ」
「うんうん!」
 何故にそんな目を輝かせる。
 そんなに面白い依頼じゃないぞ。
 
「お前、僕に乗れ」
 僕は、簡潔に、分かりやすく、要望を伝えた。
 だと言うのに、こいつは目を見開いて、マジマジと僕を見つめてきた。
 
「ほ、本気……?」
「あぁ。いいから乗れ」
 言って、僕はうつぶせに倒れた。
「えぇぇえええぇぇ!しかもバック!?」
「早くしろ」
 うつ伏せになったままと言うのはなかなか息苦しいものだ。
 
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて」
 あいつが、何故か遠慮がちに僕の背中に覆いかぶさってきた。
「って、違うわボケェ!!」
「え、違うの?」
  
「あのなぁ……僕はこれから腕立て伏せをするから、それで上に乗って欲しいって言ってんの!」
「あぁ、そうなの」
 ようやく僕の意図を汲んでくれたらしい。
 
 そう、僕はさっきまで腕立て伏せをしていたのだ。
 なぜなら、MTBを上手く操作するためには腕の力が必要不可欠だからだ!
 しかし、ただ腕立て伏せするだけでは物足りなかった。だから重りが欲しかったのだ。
 
 そんなわけであいつは、腕立て伏せしやすいよう馬乗りになってくれた。
「よしいくぞう!」
 
 僕は早速腕立て伏せを再開した。
 背中に重量物を乗っけているので、それなりに負担になるはずだ。
 
「……15……18……14……37……」
 
 そして、50回をカウントした所で、僕は手を止めた。
 
「もういいよ」
「うん」
 あいつを下ろす。
「どう?鍛えられた??」
「う~ん……正直、微妙だ」
 僕は正直に答えた。
「えぇ!?お姉ちゃん、役に立てなかったの!?」
「あぁ。お前軽すぎ。体重50kg無いだろ。そんなんじゃ重りとしては成り立たないな」
 僕の言葉にショックを受けたのか、あいつは慌てて弁解しようとする。
「で、でもでも!重りとしては成り立たなくても、お姉ちゃんとしては……!」
「だから、認めてないって言ってんだろうが。しつけぇなぁ……」
 いい加減このやり取りも飽きてきたぞ。
 ここらでハッキリと言ってやらねばなるまい。
「同じ事を言うのはコレで最後だからな。
お前は、ただの、重りにならない女だ!」
 ズバッと言ってやった。
 女って奴は甘やかすと付け上がるからな。
 
「……」
 さすがにコレは効いたのか、項垂れてしまう。
 が、すぐに顔を上げた。
「その二人称だと、なんか姉弟って言うより夫婦みたいだよね♪」
「なっ……!」
 凄まじい開き直りをされてしまった。
「ねっ、あなた♪」
 言って、僕の肩に傾れかかってきた。
 
「ギエピーーーーーーー!!!!!!」
 
 僕は、今まで大きな過ちを犯していたのかもしれない。
 
 その後、『あなたあなた』と引っ付いてくるあいつを引っぺがしてなんとか放り出す事に成功した僕は、再び一人の時間を楽しんだ。
「ふぅ、全くあいつときたら……」
 どうしてこう、しつこく僕に構ってくるのかさっぱり分からない。
 あれだけ、強く拒否してるのに。酷いことだって、いっぱい言ってきたのに。
 
「ま、そういう性格なんだろうさ」
 他人から何と言われようと自分の好きな事を貫く。
 よく言えば一途。悪く言えばKY。
 まぁ、そんな感じなのだろう。
 深く気にする事は無い。
 
「いや、気にするべきか。このままズルズルしてたらあいつを追い出せないじゃないか」
 それは、マズイ。非常にまずい。
 このまま、あいつがこの家にいる事が当たり前になったら、僕は……!
 もう、あんな思いをするのは、厭だ。
 
「なんとか、しないとなぁ……」
 とは言え、あいつに強引な手段は通用しないだろうし。
 
「ふぁ……」
 
 いろいろ考えたら、急に眠気が襲ってきた。
「ん~、そろそろ寝るか」
 大きく伸びをする。
「っと、その前に」
 僕はおもむろに立ち上がり、部屋を出た。
 
「おトイレおトイレっと」
 寝る前にはおしっこをするものだ。
 僕は、自室を出てトイレへと続く廊下を歩く。
 ペタペタと、足の裏に冷たい廊下の感触がなんとなく気持ちいい。
 
 その時だった。
 ふと、どこからか女のすすり泣く声が聞こえてきた。
「っ!」
 僕は一瞬、硬直し、立ち止まった。
「……」
 息を殺し、耳を澄ます。
 
 おいおいおいおい冗談じゃないよ!
 家の中だってのに、幽霊さんですか!?
 うぅ、なんまいだぶつ!なんまいだぶつ!!
 
 僕は、頭の中でお経を唱えながら、声の出所を探った。
 
「?」
 それは、あっさりと見つかった。
 僕の部屋からトイレまでの道のりにある、あいつの部屋。
 その扉が、少しだけ開いており、そこから明かりと声が漏れていたのだ。
「……」
 僕は、なんとなく扉の隙間に視線を向けた。
 意外な事に、たったそれだけで部屋の中がよく見えた。
「っ!」
 その光景を見たとき、僕は再び硬直した。
 
 あいつの部屋で、あいつが……泣いていた。
 口に手を当て、声を必死で押し殺そうとして、それでも指の隙間から嗚咽が漏れている。
 瞳は、流すまいと堪えた涙が溜まっていているのか、部屋の蛍光灯に反射して輝いていた。
 
「……」
 わけが、分からない……。
 
 なんでだよ。
 だって、お前はいつも笑ってたじゃないか。
 なんで、泣いてんだよ。
 意味が分からねぇよ。
 お前は、何があっても無条件に笑ってられる人間じゃないのか?
 
 いや、そんな人間、いるわけないじゃないか。
 そんな、当たり前の事、僕が一番よく知ってるじゃないか。
 でも、じゃあその涙の理由はなんだ?
 
 ……いや、分かってるはずだ。
 でも、認めてしまったら、僕は……!
 
「……」
 僕は、視線を逸らし、足早にその場を去った。
 
 
 そして翌日。
 僕はいつものように、MTBとともに権兵衛との待ち合わせ場所にやってきた。
「よぉ、ユウジ。今日はちょっと遅かったな」
 既に待っていた権兵衛が、僕の姿を見つけると片手を上げてきた。
「あぁ」
 僕は、上の空で返事をした。
 そんな僕の様子に、権兵衛は敏感に反応する。
「どうした?」
「いや……」
 なんとなく、今日は、バトルって気分じゃない。
 
「今日はさ、バトルは中止して、歩いていかないか?」
 なんで、そんな提案したのか、自分でもよく分からない。
 しかし、権兵衛はすんなりとその申し出を受け入れてくれた。
「……そうだな」
 その口調には、何かを察しているような、そんな雰囲気が見え隠れしていた。
 
 学校までの道のりを、僕らは無言でMTBをついて歩いていた。
 いつもなら高速で流れる景色を、ゆっくり眺めながら歩くのが少し新鮮だ。
「あのさ……」
 なんともなしに、僕は口を開いた。
「ん?」
「えっと」
 話を切り出したのはいいが、何を言えばいいのか思いつかない。
「鬼の目にも涙……いや、違うか。おたふくの目にも?うん?」
 ヤバイ、何言ってんだかさっぱり分からない。
 あのまま黙っておけばよかった。
 
「お姉さんの事か?」
 
 要領の得ない話し方をしたにも関わらず、権兵衛はあっさりと核心をついてきた。
 それが、なんとなくムカついた。
 
「だから!認めてないって言ってんじゃねぇか!!なんで皆いっつも僕の意見は無視するんだよ!!!いい加減にしろ!!!」
 叫んで、後悔した。
 何マジでキレてんだよ、情けない。
 気まずくなって、僕は視線を逸らした。
 
 しかし、権兵衛は意外と冷静な口調で静かに言った。
「ユウジ。誰だって、実の弟や妹にそんな風に拒否され続けたら、いい気分はしないと思うぜ」
「……」
 分かってる。
 でも、だからって、僕が悪いわけじゃ……!
「お前の気持ちだって分かる。別にお前が悪いって言ってるわけじゃないし。誰もお前を責めようなんて思ってないさ」
「だったら……」
 なんで、泣く必要があるんだよ!
 ずっと笑ってろよ!平気な顔してろよ!
 あんなの見ちまったら、まるで、僕が悪いみたいじゃないか……!
 
 昨日の夜の、あの光景を思い出して思わず唇を噛んだ。
 そんな僕の様子に、権兵衛は小さく息を吐く。
「お前はさ、自分の感情に囚われすぎてて、相手の本質が見えてないだけなんだ」
 権兵衛の言葉が、耳に痛い。
 だけど、その音を遮る事は出来なかった。
「確かにあの人は、ちょっと強引でやりすぎな所もある。でも、あの行動の殆どがお前を思っての事ばかりだ。そこに、何か見返りを求められた事があるか?」
「……」
 権兵衛に言われるまま、あいつの今日までの行動を思い返してみる。
 そう、あいつの今までの行動は、全部僕のための事ばかりだ。
 見返りなんて何一つ求めない。
 
 いや、たった一つ。あいつが僕に対して求めてきたことがあった。
 僕が、頑なに拒否し続けてきた事。
 その、たった一つにさえも応えてやらなかった僕に対して、それでも、変わらずに尽くしてくれた。
 
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
 僕は、投げやりに呟いた。
 
 あいつの望みどおりにしてやればいいってのか?
 でも、僕は頼んだわけじゃないんだぞ?
 なのに、僕は僕の気持ちよりもあいつの気持ちを優先しなきゃいけないってのか?
 全部、僕が間違っているから?
 そんなの理不尽すぎるだろ。
 
「さあな」
 僕の質問に対しての返答は、無責任なものだった。
「おい」
「最初に言っただろ。誰もお前が間違ってるとは言ってない。
仮にお前の判断が間違っていたとして、周りに正しいと言われた行動をしたとしても。
そこにお前の信念がなけりゃ、何の意味もない」
 
 権兵衛の言う事は、よく分からない。
「大事なのは周りにとって正しいかどうかじゃない。お前がどう思って行動したかだ。
お前は、お前が正しいと思うことをしろ。それが答えだ」
「だったら……!」
 最初から答えは決まってる。
 今までと同じ事を……!
 
「少なくとも、悩んでるって時点で、今までの考えは正しいとは言えないだろうがな」
「っ!?」
 僕は再び、思考の迷路へと堕ちていった。
 権兵衛に相談したのは、よかったのか、悪かったのか……。
 
 どうでもいいが、なんでこいつはこんなに偉そうなんだよ。
 
 
 今日の学校生活も、あいつに干渉されまくりで、しっちゃかめっちゃかだった。
 でも、なんとなく気分が乗らず、僕は強い態度に出る事もなく状況に流されていった。
 そんな僕の態度に、あいつもテンションが上がらなかったのか、それほど派手なアピールはしてこなかった。
 
 そして、放課後。
 僕は、権兵衛と一緒にゲーセンに寄り道してから帰路についた。
 朝はあれだけシリアスだった権兵衛だが、このときにはもういつものノリに戻っていた。
 
「ただいま」
 ボソッと呟いて、扉を開いた。
 靴を脱いで、重い足取りで居間に向かう。
 
「あ、ゆうくんおかえり~。遅かったじゃない」
「え」
 言われて、時計を見て気付いた。
 時計の針は、6時13分を刺していた。
「ゲーセンに、夢中になりすぎてて、時間に気付かなかったみたいだ」
「も~、寄り道しないでまっすぐ帰らなきゃダメだよ」
「しょうがないだろ。男には、ダチとの付き合いってものがあるんだ」
「全く……ほら、早く手洗ってらっしゃい。もうご飯出来てるよ」
 台所から漂ってくるいい匂いに、空腹だった事を認識した。
「うん」
 僕は素直に言われたとおりにした。
 
 
 今日の夕食の献立は、カツ丼だった。
 それもタダのカツ丼じゃない。
 肉の厚さが、尋常じゃないのだ。これは、10センチはあるか?
 だと言うのに、中まで火が十分に通っており、衣はサクサクだ。
 これは恐らく、最初は強火でサッと揚げ、その後に弱火でじっくりと揚げる『二度揚げ』と言う技術を使っているに違いない。
 確かにこれなら、分厚い肉でも丁度いい具合に上げる事ができ、分厚いがゆえに最高の肉汁を楽しむことが出来る。
 しかし、その手間も並大抵のものじゃない。
 学校に通いながら出来るような料理じゃないはずなのに。
 あいつは、それをさもなんでもない事のようにやってのけている。
 
「……」
 それだけじゃない。
 周りを見ても、チリ一つ落ちていない。
 掃除も行き届いていて、洗濯物も取り込んである。
 僕に構うために学校に通って、それでもやる事はキッチリやっている。
 
「ゆうくん……おいしくなかった?」
 考え事しててしかめっ面になっていたからか、あいつが不安そうな顔で覗き込んできた。
「あ、いや……凄く、美味しいよ。ありがとう」
 別に、誰もためでもない。ただ、嘘をつきたくなかったから僕は素直に褒めた。
「えへへ~。それじゃあ美味しいご飯を作ったお姉ちゃんに、ご褒美が欲しいな♪」
「ほ、褒美って……」
 僕は少したじろいだ。
 何言われるか分かったもんじゃないからだ。
 
 しかし、あいつの願いは、驚く程ささやかなもので。
 驚くほど、分かりきっていたものだった。
 
「一度でいいから、私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな……?」
 少し遠慮がちに、その願いを口にした。
「……」
 ほんと、バカバカしい。
 たかだかそんな事のために、こんな手の込んだことをしてきたってのかよ。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 カバカバしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 
 でも、一番バカなのは……。
 
「あ、あぁ……」
 
 そんなささやかな願いさえも聞き入れようとしなかった。
 
「いつも、ありがとう……」
 
 僕、自身じゃないのか?
 
「姉さん」
 
 
「……」
 
「……」
 
 その言葉を口にした途端、二人の間に沈黙が流れた。
 
 僕としては、てっきりいつものテンションで抱きついてくるのかとばかり思っていたから身構えていたのだが。
 予想に反し、あいつは呆然とした顔つきで、固まっていた。
 まるで、悪魔に蝋人形にされてしまったかのように、微動だにしない。
 
「お、おい……?」
 少し心配になって声をかけてみた。
「あ」
 あいつの目から、ツーッと一筋の雫が頬を伝って、落ちた。
 昨日の夜でも、流れなかった、雫が、流れた。
「あれ?」
 自分の身に何が起こっているのか把握できてないのか、狼狽しながら流れ出る涙を拭う。
 しかし、涙はとめどなくとめどなく流れ続ける。
「ど、どうしたんだろう、私」
 拭っても、拭っても、止まらない。
「は、ははは。ごめんね、お姉ちゃんおかしいね」
 取り繕うための笑い声も、涙で震えている。
 
 
 
 僕は
 
 僕は……
 
 僕は、ゆっくりと抱き寄せ
 
 その涙を
 
 そっと拭った。
 
「ゆう、くん……?」
 泣き腫らして真っ赤になった目で僕を見上げてくる。
 僕は、その瞳に吸い込まれるように、見つめ続けた。
 
 言葉が、出ない。
 何を喋っても、きっと、何かが壊れてしまいそうで。
 そのまま、何も言えず、少しも動けずにいた。
 
「ゆうくん……あのね」
 ふと、こいつは神妙な顔つきになった。
 意を決して、何かを告白しようとしてるような、そんな気がした。
 
 僕は、黙って続きを聞こうとした。
 が、続かなかった。
 瞳から精彩が消え。
 抱きとめていた体に、フッと力が抜けた。
 
「え……!?」
 
 一瞬、何が起きたか分からなかった。
 
 でも、本能的に何かを察知したのか。
 僕は、無我夢中で叫んだ。
  
 
「お姉ちゃん!!」
 
 今までずっと拒絶してきたその言葉は、驚くほどあっさりと発せられた。
 
 
 
 
     次回
 
「ミナサンノスキナモノハ、ナンデスカー?
オー、オニク、ハンバーグ、オムライス?トテモトテーモ、オイシソウデース!
バット!デモ、オヤサイモチャントタベナイト、ダーメダメネー!
 
次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd『好き嫌いは許さない!フルーティ・アボカド・スパイシー』
 
熱き闘志を、ダッシュ・セット!!」