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爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション最終話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
☆☆☆前回のあらすじ☆☆☆
 
 
 ほにゃらか中学校。
 
「なぁなぁ郷田山~!」
「ググレカス」
「俺まだ何も言ってないよ!?」
 
 
☆☆☆あらすじ終了☆☆☆
 
 
 
最終話「君の微笑みに抱かれて ホールド・スリーピング・ホッピング」
 
 
 
 
「う、うぅ……ん……」
 土砂が焦げる臭いが鼻につき、僕は目を開いた。
 目の前に広がるのは、雲ひとつない真っ青な空。
 背中には、ゴツゴツと砂利が当たっていて少し痛みがある。
 周りには、木々が生い茂っており、ここが人気の少ない近所の山道だと言う事を悟った。
 
「僕……は……」
 状況を把握するために上半身を起こそうとすると、激痛が走った。
「ぐっ!」
 全身が、まるで動く事を拒絶しているかのごとく軋んでいる。
 感覚としては筋肉痛の時の痛みに近いが、痛みの大きさは段違いだ。
「うぅ……」
 とは言え、ソッと動けばなんとか痛みを感じずに済みそうだ。
 僕は、痛みに気を使いながら上半身を起こした。
 
「……」
 視界が高くなるだけで、状況把握能力は飛躍的に向上した。
 
 そう、ここは、自宅から病院に行くまでに通る、人気の少ない山道。
 そして、僕は、姉ちゃんを病院に連れて行くために、嵐の中、ストームランサーを漕いで……そして……。
 
「っ!ストームランサー!!」
 
 そうだ!あの時、勢いに任せて韋駄天・ホッピングを繰り出したいせで、雷に打たれたんだった!!
 何故か僕は無事だったけど、大切な愛機のストームランサーは……!
 
 僕は、必死で辺りを見回し、愛機の姿を見つけて、慌てて駆け寄って、愛機の安否を確認する。
 
「よかった……無傷だ」
 ストームランサーは、所々焦げてはいるが、大事には至らなかったようだ。
 
「うぅ…ん……」
 その時、傍らで女性の声が聞こえた。
 ハッとしてその方を向く。
「姉ちゃん!」
 忘れてた!
 姉ちゃんは不治の病に侵されていて、それで病院まで連れて行こうとする途中に雷に打たれたんだ!!
 
 僕は慌てて駆け寄って、姉ちゃんを抱きかかえた。
「姉ちゃん!姉ちゃん!!!」
 姉ちゃんは、虚ろな瞳で僕を見つめてくる。
 その瞳の輝きは、弱弱しく、今にも消えてしまいそうだった。
「……」
 僕は唇をかみ締めた。
 
 僅かな可能性にかけて、全身全霊でMTBを走らせたというのに
 結局、結局間に合わなかったのだ。
 
 
 僕は、姉ちゃんを、救えなかった……
 
 
「ぐぐ……!」
 許せない。
 姉ちゃんの反対を押し切って
 自分の勝手な判断で、姉ちゃんの命を奪ってしまった
 
 僕は、姉ちゃんを、殺したも同然なんだ……!
 
「あれ?」
 僕が自分自身への怒りに打ちひしがれていると、姉ちゃんがなんとも間抜けな聲をあげてきた。
「???」
「動いてる……私の心臓、動いてるよ!」
 
 思考が、上手く働かない。
 
 動いてる?心臓が?
 
 そんな、バカな。
 だって、姉ちゃんは、不治の病で、しかも雷に打たれたのに
 もう、死んでるはずなのに……。
 
 お前はゾンビか!!
 
 と言う突っ込みが喉まででかかったが、さすがにそれは失礼だと思って飲み込んだ。
 
「ゆうくん!私、生きてる!!もう、病気も治ったみたいよ!!」
「えええええええええ!!!!」
 
 何その超展開。
 頭おかしいんじゃねぇか?
 
「よくやったな、ユウジ!!」
 僕が、状況を上手く把握できずにいると、頭上から大人の男の声が聞こえてきた。
 顔を上げると、そこには、半裸で髭もじゃの男が立っていた。
 
「お、オヤジ!!」
 そう、そいつは、極村原河ショウ……僕の父親だった。
 何故、こんな所に……?
 
「不思議そうな顔してるな」
 そりゃ、そうだよ。
 何故、こんな所に……。
 
「ふっ、簡単な事だ。車に乗っていれば雷が落ちても車のボディが電流を受け流すと言うのは周知だろう?
それと同じ原理だ。MTBのフレームは、雷を受け流す!!」
 いや、そこじゃなくてさ。
 
「そして、MTBによって弱まった電流が、アイの患部へと働きかけ、不治の病を治してしまったんだ!!」
 だから、そこじゃなく……って、えええええええ!!!!
 
「そんなバカな!!!」
 ありえるのか、そんな事が!?
 僕が頭を抱えていると、ソッと姉ちゃんが僕の頬に手を添えてきた。
「ありがとう、ゆうくん……」
「姉ちゃん……」
 僕は、その手を握り締めた。
 温かい。これは、姉ちゃんの中に流れる血液の温度だ。
 
 そうさ。ありえるかどうかなんて、問題じゃないんだ。
 今、この瞬間に姉ちゃんが生きていてくれている。
 それだけで、十分じゃないか。
 
「よかった……本当によかった……!」
 僕は姉ちゃんを抱きしめて、静かに涙を流した。
「ゆうくん……」
 
「まさに、奇跡だ……!」
 
「それは違うぞ、ユウジ!」
「え?」
「これは、奇跡などではない!!」
 オヤジは、穏かな、それでいて凛とした声で言う。
「これは、お前のMTBに賭ける想いが起こした、幻だ!!」
 
「僕の、MTBに賭ける想いが……」
 そうか……そうだったのか……!
 
「今まで、本当によく頑張ったな。我が息子よ……」
「オヤジ……」
 僕は立ち上がり、オヤジと向き合った。
 
 今までずっと、僕を置き去りにしてきた男。
 今までずっと、恨み続けていた相手。
 今までずっと、対面したいと願っていた敵。
 
 僕は、ついに、同じ土俵へと上がったのだ。
 
「フッ。MTBライダーの顔になってきたな、ユウジ」
「御託はいい!……他に言うべき事があるだろ」
 オヤジは、一瞬だけ口元を釣り上げると、ゆっくりと口を開いた。
 
「そうだな。今こそ全てを話そう。何故、俺がお前を養子として引き取ったのか。
そして、何故今までお前を一人ぼっちにさせてきたのか。その、全てをな」
 
 いよいよ、全てが分かる時が来た。
 恐れたりはしない。
 真実はきっと、僕の味方をしてくれると信じてる!
 
「俺は、MTBライダーとして世界中のMTBの大会を総なめにしてきた。
そんな俺の事を人はいつしか『爆闘アタッカー』と呼ぶようになっていた。
だが、そんな俺にもいずれは老いが来る。体の衰えには抗えない。
そうなってしまえば、俺の『爆闘アタッカー』の称号も、いずれは過去のものになってしまうだろう……」
 
「……」
 そう語る父の顔は、どこか寂しげであった。
 
「そこで俺は、結婚し、子供を作り、俺の跡を継がせようと企んだ。
だが、生まれてきたのは、女の子だった……。
フッ、初めての子だ。最高に嬉しかったさ。だが、やはり野望は捨て切れなかった」
 なんとなく、話が見えてきたぞ。
「そこで、さまざまな孤児院を渡り歩き、MTBライダーとしての素質がありそうな子供を探し回った。
そして、ようやく見つけたのが、ユウジ。お前だった」
「それで、僕を養子に……」
 
「だが、まだ障害は残っていた」
「え?」
 
「お前が、俺の予想以上に、マザコンで、シスコンだったからだ!!」
「!?」
 確かに、僕は、お母さんが大好きで……姉ちゃんが、大好きだった……。
「お前にはMTBの素質があったし、MTBも好きだったんだろう。だが、それ以上にマザコンで、シスコンだった!!」
 そんなに繰り返さないでくれよ!!(涙)
 
「妻が亡くなった時の、お前の落ち込みようは、見るに耐えなかった。
毎日のように引きこもり、MTBの練習もしなくなった。
このままでは、お前はだめになる。だからこそ俺は、アイを連れて世界を飛び立った。
そして、そのついでにMTBによる世界征服を企んだのだ!」
 
「そうか……そうだったのか……僕を、MTBライダーとして強くするために、オヤジと姉ちゃんは……」
 
「そう、全ては爆闘アタッカーの系譜のために。
人はコレを、『爆闘アタッカーショウによる、第二世代への教育!!』略して『爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション』と言うのだ!!」
 
「っ!!!」
 
 まさか、タイトルにそんな意味があったなんて……!
 
「そして、今こそその教育は終わった。
お前は、MTBライダーとして立派に成長し、そしてアイの病までMTBの力で完治させてしまった!
お前こそ、『爆闘アタッカー』の称号を受け継ぐに相応しい!
今日からお前は、『爆闘アタッカーユウジ』を名乗れ!!」
 
「オヤジ……」
 
「おめでとう、ゆうくん」
 
「姉ちゃん……」
 
 この人達は、こんなにも僕の事を想っていてくれてたなんて……。
 感動のあまりちょちょぎれる涙を拳で拭い去り、僕は顔を上げた。
 
「よーし!!」
 そして、倒れているストームランサーを起こし、跨った。
「いっくぜえええええええ!!!」
 
 気合いを込めて、ペダルを漕ぐ。
 
「轟けぇぇ!!!ストォォーームランサァァァーーー!!!!」
 ストームランサーが青き光に包まれる。
 
「僕の心のようにぃぃ!!青く、激しく、吹き荒れろぉぉぉぉーーーーー!!!!!」
 
 
 雨上がりの空に浮かぶ虹の向こうへ、僕とストームランサーは走り続けた。
 真の栄光を目指して……!
 
 
 人はコレを『俺達の戦いはこれからだ!! ユージン先生の次回作にご期待ください』と、言うのだ!!
 
 
 
 
        完
 
 
 
 
    
新小説予告!!
 
 
最強の男に与えられる『爆闘』の称号。
今、新たなる『爆闘伝説』が始まる!!
 
炎の拳を胸に秘める男、極村原河フブキ!
極寒の地にこそ、体温を上昇させるヒントがあると豪語する彼の前に立ちはだかるライバル達!
そう、今こそ、フブキによるフブキのための、切なき恋の物語が幕を開けたがっていた!
 
 
 新小説!『爆闘ファイターシュウ!!も~っとキュート☆』
 
ビークル・セット!ゴー・ファイトォ!!
 
 
  
  

 

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第7話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第7話「好き嫌いは許さない!フルーティ・アボカド・スパイシー」
 
 
 
☆☆☆前回までのあらすじ!!!☆☆☆
 
 前の話を見れば分かる。
 
☆☆☆あらすじ終了☆☆☆
 
 
 ほにゃらか中学校、2年の教室。
「なぁ、郷田山」
 とある昼休み。珍しく権兵衛が郷田山に声をかけた。
「あによ?」
 まるで汚物でも見るかのような目つきで権兵衛に視線を向ける郷田山。
「シュークリームとゴーヤチャンプルーを同時に食したら口の中が大変な事になったんだが、どうすればいい?」
「ゆすげ」
 
 
 極村原河家。アイの部屋。
 なんか倒れちゃったアイが、ベッドに横たわっている。
 
「姉ちゃん……」
 僕は、ベッドの横に座り、姉ちゃんの手を握った。
 その手は柔らかく、仄かに熱を帯びていた。
 姉ちゃんは、静かに、まるで死人のように眠っている。
 ただ、熱で赤く染まった頬と苦しそうな寝息だけが、唯一生気を感じさせた。
「どういう、事なんだ?」
 小さく呟く。
 
 この様子は、尋常じゃない。ちょっとした風邪だとか、そんなレベルじゃない。
 それなのに、今まで全然そんな体調を崩すような素振りを見せなかった。
 健康そのものに見えたのに。
  
 まさか、今まで無理してた?
 体調悪いのに、無理して……。
 でも、ちょっと体調崩してたなら、正直に言えば、僕だって……。
 
「……ゆうくん…………」
 小さく、姉ちゃんの口が動き、僕の名前が呟かれた。
「え?」
 それに反応して聞き返すのだが、それ以上は寝息しか聞こえてこない。
「……寝言、か」
 僕は、フッと力を抜いて姉ちゃんの手を離した。
「そろそろ、温くなってきたな」
 そして、姉ちゃんの額に置かれた濡れタオルを手にとって立ち上がった。
 部屋の外へ出ようとしたのだが、ずっと座っていたため足元が覚束ない。
「うおっ!」
 平衡感覚を失った僕は、扉の横にある本棚に額をぶつけてしまった。
 何冊か、本が床に落ちる。
「いつつ……」
 僕は額を押えてしゃがみ込む。
 すると、視線の先に床に落ちて開いた、ノートのようなものが目に映った。
「これは……」
 手に取ってみる。
 どうやら、それは日記のようだった。
「……」
 姉とは言え、人の日記を読むのはいくない。
 僕は、当然のように、自然の流れでそれを棚に戻そうとした。
 が、その手が止まる。
 視界に、日記帳の中身が偶然映ったのだ。
 その、中に、幾度と無く僕の名前が書いてあったから。
 僕は、吸い込まれるように、その日記に目を通してしまった。
 
 日付は、あいつが僕の家に来る1週間ほど前から始まっていた。
 
 
『今まで日記をつけた事のなかった私ですが。
本日より、私の生きてきた証を記す事にします。
 
今日、私はお医者様に不治の病を宣告されました。
もって後数日だそうです。
詳しい病名は、私には分かりません。
突然の事で、俄かには信じられません。
ですが、私の体の異変は、私自身が一番良く感じていました。
なので、詳しい病名など分からなくても、私が助からない事は、きっと間違いないのでしょう
 
死へと近づいているという実感はまだありません。
だから、恐怖も何も感じないのですが……。
たった一つだけ、望みが出来ました』
 
 最初の日記は、そこで終わっていた。
 
「不治の、病……だって?」
 驚いて、ベッドにいる姉を見る。
 確かに、今の姉の様子を見れば納得は出来る。
 でも、このうちに来てから昨日までの姉からは、そんな素振りは全くなかった……。
 
 僕は、日記の続きに目を通した。
 
『今日、私は初めて親不孝をしました。
私は幼い頃から父とともに世界を旅してきました。父の目標を達成するため、その支えのために。
ですが、日本にはずっと一人で置いてきぼりにしていた弟が居ます。
小さい頃からずっと可愛がっていた弟……ゆうくん。
医者から不治の病を告げられた時から、私は彼の事がずっと気がかりになっていました。
もう二度と会えなくなるかもしれない。
最後の時が来るまでに、ゆうくんに会いたい。
 
いいえ、最後の時は、ゆうくんと一緒にいたい。
 
でも、それは世界を旅し続けなければならない父の元にはいられなくなると言う事。
もう、会えなくなるのに、私は父から離れることを望んでしまった。
 
きっと、私は世界一の親不孝者です』
 
 
「……」
 これが、姉ちゃんがこの家に戻ってきた理由。
 僕と、一緒にいたいがために……。
 
『父に、日本に戻りたいと告げた。
少し渋っていたけれど、意外とあっさり承諾してくれた。
そして、手早く飛行機の手配までしてくれた。
 
ごめんなさい、お父さん。私は、あなたの娘で本当によかった。
 
私の中の異変が大きくなっていくのを感じる。
でも、不思議と怖くなかった。
大丈夫。ゆうくんに会えるんだから。
最後の時まで、ゆうくんと一緒に過ごせるなら。
私は、今の人生を後悔しない』
 
 次からは、この家に戻ってきてからの事になった。
 
『懐かしい我が家に帰ってきました。
でも、ゆうくんからは嫌われちゃってるみたい。
 
……当然だよね。ずっと寂しい想いさせてきたんだから。
 
ごめんね、悪いお姉ちゃんだったね。
でも、私はゆうくんの事大好きだよ』
 
『私は、自分がこんなにもわがままで自分勝手な人間だったとは、知りませんでした。
ゆうくんは、私の事を嫌おうとしています。
悪いのは私なんだから、それは甘んじて受けなければならない。
 
それでも、私は、どんなに嫌われても良いから、ゆうくんと一緒にいようと思います。
小さい頃と同じように、抱きしめてあげて。
お料理作ってあげて。
一緒にお風呂入って。
一緒に、おねんねして。
 
ゆうくんはきっと、全部嫌がるだろうけど
少しの間だけだから……許してください』
 
「それで、なのか……」
 僕が、どんなに酷い事を言っても、まるで気にせずに僕に構ってきたのは。
 僕に好かれる事よりも、少しでも長く一緒にいたかったからで……。
 
『今日、ゆうくんの通う中学校に転入しました。
突然の転入で手続きは大変だったみたいだけど、お父さんの名前を出したら意外とすんなり入れました。
お父さん、MTBで世界征服を企んでるって言うのは、伊達じゃなかったみたい。
 
これで、少しでも長い時間ゆうくんと一緒にいられる。
私の中の異変は、どんどん大きくなっていくけど。
私は今とても幸せだよ。
 
でも、やっぱり嫌われたままなのは……辛いな。
お姉ちゃんって、呼んで欲しいな』
 
 日記は、そこで終わっていた。
 良く見ると、最後のページには所々、水滴が落ちて乾いたような、そんな後がある。
 これは、あの夜に見たような、涙、なのか?
 
「……」
 全部読み終わり、僕は日記を閉じた。
 その時、背後から視線を感じて僕は振り向いた。
「姉ちゃん」
 いつの間に起きていたのか、姉ちゃんが上半身を起こして、いたずらっ子を見つけた母親のような顔でこちらを見ていた。
「こぉら。人の日記を勝手に読むのは、プライバシーの侵害だぞ」
「……ごめん」
 僕は目を伏せて、小さく謝った。
「まぁ、ゆうくんなら、見られてもいっか」
 姉ちゃんは、軽い口調でそう呟くと、再び上半身を倒した。
「姉ちゃん、あの……!」
 僕の言葉を遮るように、姉ちゃんが口を開く。
「ごめんね、今まで黙ってて」
「ちがっ!そんなのどうでもいい!!」
 
 それよりも、そんな事よりも……!
 
「ごめん!僕、姉ちゃんの気持ち全然考えないで!自分の事ばっかり考えてて!酷いことばっかり言ってきて!ごめん!!ほんとに、ごめん……!!」
 涙を流しながら、僕はひたすらに我武者羅に謝った。
 こんな事を言っても、償いになるわけじゃない。
 だけど、僕は許せなかった。今までの自分が。
 出来る事なら、過去に戻って、自分をぶん殴ってやりたかった。
 
「ゆうくん」
 涙で震える僕に、姉ちゃんが優しく囁いた。
「おいで」
 誘われるがままに、僕はベッドの横に行く。
 すると、姉ちゃんは上半身を起こして、僕を抱き寄せた。
「どうしてゆうくんが謝るの?」
「……」
「ゆうくんは、何も悪くないでしょ。ゆうくんはただ、自分の居場所を守ろうとしただけ。それを勝手に侵そうとしたのは、私なんだから。
それよりも、ありがとう。私と一緒にいてくれて、ありがとう」
「姉ちゃ……!」
 
 僕は、姉ちゃんの匂いに包まれながら、静かに咽び泣いた。
 
 
 あれからどれだけの時間が経っただろうか。
 泣きやんだ僕は、さっきまでのポジションに戻り
 姉ちゃんも、仰向けになっているものの、眠れないのか天を仰いでいる。
 互いに起きているのだが、話す事もなく、静寂の中時間だけが過ぎていく。
 
「ちょっと、汗かいちゃったかな」
 ふと、姉ちゃんが呟いた。
「あ、あぁ。着替え、持ってくるよ」
 僕は、部屋の隅にあるタンスに手をかけた。
 
 上着と、ズボンと、それから……。
 
「うっ……」
 タンスの、一番下の段を開けて、僕は硬直した。
 僕の目の前には、色とりどりの、その、とても柔らかそうな……。
 って、何考えてんだ!今それどころじゃないだろ!!
 い、一番重要なものなんだから、用意しなきゃ、いけないんだから!
 だから、これは必要な行為なんだ。
 
「ゆうくん、変な事考えてない?」
「あ、アホな事言うな!!」
 僕は、ムンズッと乱暴にそれを掴み、上着とかと一緒にベッドの上に置く。
 
「ほい、とりあえずコレでいいよな?」
「うん」
 姉ちゃんは着替えを受け取った。
「……」
 にも関わらず、うつむいたまま、動こうとしない。
「??」
 首をかしげていると、姉ちゃんが恥ずかしそうに呟いた。
「あっち、向いてて……」
「あっ!」
 迂闊だった!
 僕は慌てて反対方向を向く。
 ってか、当たり前の事じゃないか!
 いっつも過剰にスキンシップされてたから、姉ちゃんに対してそういう感覚が薄れてたんだ。
 
 っつーか、散々ベタベタしてたくせに、何今更恥ずかしがってんだよ!
 こっちまで照れちまうだろうが!
 
「……」
 背後から、衣擦れの音と吐息が聞こえてくる。
 
 こ、これは生殺し状態って奴か?
 今、もし、うっかり振り向きでもしたら、そこには……!
 あぁ、いかんいかん!そんな事考えちゃダメだって!
 悪霊退散悪霊退散!煩悩よ、消え去れ!ぷよぷよするな!!
 
「ゆ、ゆうくん……」
 姉ちゃんが、遠慮がちに声をかけてきた。
「なんだ?もう、終わりか」
 振り返ろうとする僕に、姉ちゃんは慌てて言う。
「待って!」
「うおっと!」
 まだだったらしい。僕は、慌てて首を元に戻す。
「その……手伝って」
「へ?」
「熱で、上手く着替えられない、から……手伝って」
「んなっ……!」
 って、それじゃわざわざそっぽ向いた意味ねぇじゃん!!
 
「ば、バカな事言うな!いくらなんでも、出来るかよ……!」
「だ、大丈夫。下着は、つけた、から……」
 息遣いが荒くなっている。
 こりゃ、あーだこーだ言ってる場合じゃないかもな。
 
 僕は、意を決して振り返った。
「……」
 目の前には、上着を羽織ったものの、ボタンを付けられずにいる姉の姿があった。
 空いた上着から覗く白い下着。履きかけのズボン。
 紅潮した体は、恐らく熱のせいだけではないのだろう。
 
 僕は、姉ちゃんの体をなるべく見ないよう気をつけながら、それらを着せていく。
 
 熱いと息が頬に掛かる。
 手に、柔らかな肌の感触が伝わる。
 
「姉ちゃん……」
 
 あぁ、僕は、気付いてしまった。
 今まで僕が、頑なにこの人を『姉』と認めようとしなかった本当の訳を。
 
 
 
 僕は、この人を……。
 
  
 
 好きになってしまったのかもしれない。
 
 
「アイ……」
 僕は、誰にも聞かれないように小さく、その名を呟いた。
 
 
 
 なんとか着替えも終わり。再び部屋の中に静寂が戻った。
「姉ちゃん」
 今度静寂を破ったのは、僕だった。
 
 僕は、この人が好きだ。
 そして、それを自覚した時から、僕の中で一つの決断が生まれていた。
「姉ちゃん、病院に行こう」
「え?」
 姉ちゃんは、目を見開いた。
「このままここでこうしていても、ただ死を待つだけだよ。何にもならない!」
「それは、病院に行ったって同じだよ。私の病気はもう治らない」
 
「でも!そんなのやってみなくちゃ分からないだろ!!それに、治すことが出来なくても、少しでも寿命を延ばしたりとか、そういう事が出来るかも……!」
 
「ゆうくん。私はね、少しでも長く生きるよりも、少しでも長くゆうくんと一緒にいたいの。今病院に行ったら、例え寿命を延ばしたとしてもゆうくんと一緒にいられる時間はグンと短くなってしまうかもしれない。私は、死ぬよりもその方が怖い」
 姉ちゃんの気持ちは、分かる。
 そして、姉ちゃんが、生きる事よりも、僕との時間を選んでくれた事は、凄く、凄く嬉しい。
 
「だけど、だけどっ!僕は、姉ちゃんに生きていて欲しいんだ!!少しでも長くじゃない!!ずっとずっと、姉ちゃんと一緒にいたいんだ!!!
だから、例え僅かしかなくても、そのための可能性を、諦めたくないんだ!!」
 これは、僕のわがままだ。
 姉ちゃんのためじゃない。
 僕のために、姉ちゃんに生きて欲しいと願う。
 こんなの、聞き入れてもらえるわけがない。
 
「もう、しょうがないな」
 だけど、姉ちゃんは。
「最後くらい、弟のわがままを聞いてあげないと。お姉ちゃん失格だもんね」
 すんなりと、僕の希望を受け入れてくれた。
 
 
 僕は、受話器を取って、近くの大きな病院に電話をかけた。
 すぐにでも救急車に来てもらうためだ。
 
 受話器越しに聞こえる呼び出し音をこんなにもどかしく感じたことは、今まで無かった。
 5回ほど電子音を聞いた後、新人看護婦っぽい女性の声が聞こえた。
『もしもしぃ、病院ですがぁ?』
「も、もしもし!すみません、急患なんです!すぐに救急車の手配を……!」
『えぇ~、っていうかぁ。外嵐だしぃ。車出すの無理くね?」
「え?」
 看護婦の言葉に、僕は窓から外を見た。
 
「うそ……」
 さっきまで晴れていたと想ってたのに、いつの間にか、外は暴風雨に見舞われていた。
 
『ってなわけでぇ、こっちの安全が保障出来ないので救急車は出せません。
っていうか、診てもらいたいんだったら、そっちから来るのが礼儀じゃね?』
 それだけ言うと、電話が切れた。
 
「くそっ!」
 僕は乱暴に受話器を叩きつけた。
「どうすれば……」
 外は暴風雨。
 救急車にも来てもらえない。
 このまま、諦めるしかないのか……!
 
「っ!」
 その時、僕の脳裏にある言葉が浮かんだ。
 
 “一生懸命手入れして、一生懸命練習して。こいつは、僕の相棒なんだ”
 
 それは、かつて、僕が権兵衛に対して言った言葉。
 そうだ。救急車が無くても、僕には最高の相棒がいるじゃないか!
 
 僕は、玄関から合羽を二着取り出すと急いで姉ちゃんの部屋に戻った。
 
「姉ちゃん、これ、着てくれ」
「合羽?」
「ごめん、少しの間。我慢してて欲しい」
「……」
 姉ちゃんは、素直に僕の言葉を受け入れてくれた。
 
 
「ダッシュ・セット!韋駄天・ゴー!!」
 
「うおおおおおおお!!!」
 暴風雨の中を、ストームランサーに跨り、爆走する。
 後ろの荷台には合羽を着た姉ちゃんが乗せられている。
 病院までの道のりは、決して近くはない。
 だけど、ストームランサーなら、きっと辿り着ける!!
 
「ゆうくん……」
「しっかり捕まっててくれよ、姉ちゃん!」
 降り注ぐ暴雨を受けながら、僕は懸命にペダルを漕ぎ続ける。
 この暴風雨の中、人を乗せて走るのはかなりキツイ。
 それでも僕は、全ての力を振り絞り、病院目指して走り続けた。
 
 
「はぁ、はぁ……!」
 さすがに息が切れてきた。
 足も、痺れて、力が入らない。
 
 ズギャーーーン!!
 目の前に閃光が走り、轟音が鳴り響く。
 近くで雷が落ちたようだ。
 
 だがっ!そんなものに怯むわけにはいかない。
 
「ゆうくん、もういいよ。戻ろう。このままじゃ、ゆうくんが……!」
「僕は、大丈夫だ!だい、じょうぶ!!こんなとこで、終わってられるかぁ!!」
 気合いを込めて、全ての力を足に注ぎこむ。
 
「うおおおおおお!!!!!」
 目の前の雫を全て吹き飛ばすほどの気合いを込めて、僕は咆哮した。
 
「絶対に諦めない!!諦めてたまるかぁぁあああああ!!!!」
 
 再び、鳴り響く轟音。
 しかし、今の僕の耳には届かない。
 
「轟けぇ!!ストォーームランサァァァァ!!!!」
 なぜなら、あんな雷の轟音なんかよりも。
 僕のストームランサーの咆哮の方が、遥かにデカイからだ!!
 
「僕の心のように!青く激しく、吹き荒れろぉぉぉおおおおおぉぉおおおお!!!!!」
 僕は、今こそ全身のバネを限界まで圧縮させた。
 
「韋駄天・ホッピング!!!!」
 
 そして、最大限の反発力で、宙を舞った!
 このまま病院まで、ぶっ飛んでやる!!!
 
 しかし、無情にも再び閃光が走る。
 しかも、その雷は韋駄天ホッピングによって天高く舞ったストームランサーに矛先を向けていた。
 
 
 ズガギャギャーーーーン!!!
 
「ぐああああああああああああ!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!」

 
 雷は、見事に僕たちに直撃してしまった。
 
 
 
    次回
 
「数多の衝突があった。
数多の激突があった。
そして、数多の追突が、僕らを襲う。
 
次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd最終話『君の微笑みに抱かれて ホールド・スリーピング・ホッピング』
 
熱き闘志を!ダッシュ・セット!!」
 

 
  

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第6話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第6話「サルとの戦い!モンキー・コング・チンパンジー!」
 
 
 
 
 夕食と入浴を済ませ、僕は我が自室でプライベートタイムを過ごしていた。
 
「ふん……!ふん……!」
 
「ふぅ……」
 
「う~ん、やっぱなんか物足りないな」
 僕は、自分の部屋で奮闘していたのだが、何かが足りないと感じていた。
 そう、一人では限界があるのだ。物足りないのだ!
 しかし、今は一人ではない。一人では物足りなくても、二人なら物足りる!!
 ここは、少し癪だが。
「あいつを使うか」
 こう言う時に有効利用しないと。何のために居候させてるか分からないもんな。
 
 僕は部屋の扉をあけ、居間に向かってあいつを呼んだ。
 
「おーー……!」
「呼んだ?」
 
「い……って、おわぁ!?」
 いきなり背後からあいつの声が聞こえて、思わずその場で尻餅をついた。
「てめっ!完全に呼ぶ前から現れんな!ってか、どこから現れた!!」
「ふっふっふ、お姉ちゃんを甘く見ちゃダメですぜ」
 
 甘く見たつもりは無いのだが……しかし、どうやって背後から?
 
「で、何の用なの?」
「え、そんだけ!?なんで甘く見ちゃダメなのか言えよ!!」
 
「なんで甘く見ちゃダメなのか聞く前に、自分の用件を言うのが礼儀だって、お姉ちゃんから教わらなかったの?」
「うっ……」
 それは、確かにそうだが。
 
「じゃ、時間が勿体無いから用件を手短に言うぞ」
「うんうん!」
 何故にそんな目を輝かせる。
 そんなに面白い依頼じゃないぞ。
 
「お前、僕に乗れ」
 僕は、簡潔に、分かりやすく、要望を伝えた。
 だと言うのに、こいつは目を見開いて、マジマジと僕を見つめてきた。
 
「ほ、本気……?」
「あぁ。いいから乗れ」
 言って、僕はうつぶせに倒れた。
「えぇぇえええぇぇ!しかもバック!?」
「早くしろ」
 うつ伏せになったままと言うのはなかなか息苦しいものだ。
 
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて」
 あいつが、何故か遠慮がちに僕の背中に覆いかぶさってきた。
「って、違うわボケェ!!」
「え、違うの?」
  
「あのなぁ……僕はこれから腕立て伏せをするから、それで上に乗って欲しいって言ってんの!」
「あぁ、そうなの」
 ようやく僕の意図を汲んでくれたらしい。
 
 そう、僕はさっきまで腕立て伏せをしていたのだ。
 なぜなら、MTBを上手く操作するためには腕の力が必要不可欠だからだ!
 しかし、ただ腕立て伏せするだけでは物足りなかった。だから重りが欲しかったのだ。
 
 そんなわけであいつは、腕立て伏せしやすいよう馬乗りになってくれた。
「よしいくぞう!」
 
 僕は早速腕立て伏せを再開した。
 背中に重量物を乗っけているので、それなりに負担になるはずだ。
 
「……15……18……14……37……」
 
 そして、50回をカウントした所で、僕は手を止めた。
 
「もういいよ」
「うん」
 あいつを下ろす。
「どう?鍛えられた??」
「う~ん……正直、微妙だ」
 僕は正直に答えた。
「えぇ!?お姉ちゃん、役に立てなかったの!?」
「あぁ。お前軽すぎ。体重50kg無いだろ。そんなんじゃ重りとしては成り立たないな」
 僕の言葉にショックを受けたのか、あいつは慌てて弁解しようとする。
「で、でもでも!重りとしては成り立たなくても、お姉ちゃんとしては……!」
「だから、認めてないって言ってんだろうが。しつけぇなぁ……」
 いい加減このやり取りも飽きてきたぞ。
 ここらでハッキリと言ってやらねばなるまい。
「同じ事を言うのはコレで最後だからな。
お前は、ただの、重りにならない女だ!」
 ズバッと言ってやった。
 女って奴は甘やかすと付け上がるからな。
 
「……」
 さすがにコレは効いたのか、項垂れてしまう。
 が、すぐに顔を上げた。
「その二人称だと、なんか姉弟って言うより夫婦みたいだよね♪」
「なっ……!」
 凄まじい開き直りをされてしまった。
「ねっ、あなた♪」
 言って、僕の肩に傾れかかってきた。
 
「ギエピーーーーーーー!!!!!!」
 
 僕は、今まで大きな過ちを犯していたのかもしれない。
 
 その後、『あなたあなた』と引っ付いてくるあいつを引っぺがしてなんとか放り出す事に成功した僕は、再び一人の時間を楽しんだ。
「ふぅ、全くあいつときたら……」
 どうしてこう、しつこく僕に構ってくるのかさっぱり分からない。
 あれだけ、強く拒否してるのに。酷いことだって、いっぱい言ってきたのに。
 
「ま、そういう性格なんだろうさ」
 他人から何と言われようと自分の好きな事を貫く。
 よく言えば一途。悪く言えばKY。
 まぁ、そんな感じなのだろう。
 深く気にする事は無い。
 
「いや、気にするべきか。このままズルズルしてたらあいつを追い出せないじゃないか」
 それは、マズイ。非常にまずい。
 このまま、あいつがこの家にいる事が当たり前になったら、僕は……!
 もう、あんな思いをするのは、厭だ。
 
「なんとか、しないとなぁ……」
 とは言え、あいつに強引な手段は通用しないだろうし。
 
「ふぁ……」
 
 いろいろ考えたら、急に眠気が襲ってきた。
「ん~、そろそろ寝るか」
 大きく伸びをする。
「っと、その前に」
 僕はおもむろに立ち上がり、部屋を出た。
 
「おトイレおトイレっと」
 寝る前にはおしっこをするものだ。
 僕は、自室を出てトイレへと続く廊下を歩く。
 ペタペタと、足の裏に冷たい廊下の感触がなんとなく気持ちいい。
 
 その時だった。
 ふと、どこからか女のすすり泣く声が聞こえてきた。
「っ!」
 僕は一瞬、硬直し、立ち止まった。
「……」
 息を殺し、耳を澄ます。
 
 おいおいおいおい冗談じゃないよ!
 家の中だってのに、幽霊さんですか!?
 うぅ、なんまいだぶつ!なんまいだぶつ!!
 
 僕は、頭の中でお経を唱えながら、声の出所を探った。
 
「?」
 それは、あっさりと見つかった。
 僕の部屋からトイレまでの道のりにある、あいつの部屋。
 その扉が、少しだけ開いており、そこから明かりと声が漏れていたのだ。
「……」
 僕は、なんとなく扉の隙間に視線を向けた。
 意外な事に、たったそれだけで部屋の中がよく見えた。
「っ!」
 その光景を見たとき、僕は再び硬直した。
 
 あいつの部屋で、あいつが……泣いていた。
 口に手を当て、声を必死で押し殺そうとして、それでも指の隙間から嗚咽が漏れている。
 瞳は、流すまいと堪えた涙が溜まっていているのか、部屋の蛍光灯に反射して輝いていた。
 
「……」
 わけが、分からない……。
 
 なんでだよ。
 だって、お前はいつも笑ってたじゃないか。
 なんで、泣いてんだよ。
 意味が分からねぇよ。
 お前は、何があっても無条件に笑ってられる人間じゃないのか?
 
 いや、そんな人間、いるわけないじゃないか。
 そんな、当たり前の事、僕が一番よく知ってるじゃないか。
 でも、じゃあその涙の理由はなんだ?
 
 ……いや、分かってるはずだ。
 でも、認めてしまったら、僕は……!
 
「……」
 僕は、視線を逸らし、足早にその場を去った。
 
 
 そして翌日。
 僕はいつものように、MTBとともに権兵衛との待ち合わせ場所にやってきた。
「よぉ、ユウジ。今日はちょっと遅かったな」
 既に待っていた権兵衛が、僕の姿を見つけると片手を上げてきた。
「あぁ」
 僕は、上の空で返事をした。
 そんな僕の様子に、権兵衛は敏感に反応する。
「どうした?」
「いや……」
 なんとなく、今日は、バトルって気分じゃない。
 
「今日はさ、バトルは中止して、歩いていかないか?」
 なんで、そんな提案したのか、自分でもよく分からない。
 しかし、権兵衛はすんなりとその申し出を受け入れてくれた。
「……そうだな」
 その口調には、何かを察しているような、そんな雰囲気が見え隠れしていた。
 
 学校までの道のりを、僕らは無言でMTBをついて歩いていた。
 いつもなら高速で流れる景色を、ゆっくり眺めながら歩くのが少し新鮮だ。
「あのさ……」
 なんともなしに、僕は口を開いた。
「ん?」
「えっと」
 話を切り出したのはいいが、何を言えばいいのか思いつかない。
「鬼の目にも涙……いや、違うか。おたふくの目にも?うん?」
 ヤバイ、何言ってんだかさっぱり分からない。
 あのまま黙っておけばよかった。
 
「お姉さんの事か?」
 
 要領の得ない話し方をしたにも関わらず、権兵衛はあっさりと核心をついてきた。
 それが、なんとなくムカついた。
 
「だから!認めてないって言ってんじゃねぇか!!なんで皆いっつも僕の意見は無視するんだよ!!!いい加減にしろ!!!」
 叫んで、後悔した。
 何マジでキレてんだよ、情けない。
 気まずくなって、僕は視線を逸らした。
 
 しかし、権兵衛は意外と冷静な口調で静かに言った。
「ユウジ。誰だって、実の弟や妹にそんな風に拒否され続けたら、いい気分はしないと思うぜ」
「……」
 分かってる。
 でも、だからって、僕が悪いわけじゃ……!
「お前の気持ちだって分かる。別にお前が悪いって言ってるわけじゃないし。誰もお前を責めようなんて思ってないさ」
「だったら……」
 なんで、泣く必要があるんだよ!
 ずっと笑ってろよ!平気な顔してろよ!
 あんなの見ちまったら、まるで、僕が悪いみたいじゃないか……!
 
 昨日の夜の、あの光景を思い出して思わず唇を噛んだ。
 そんな僕の様子に、権兵衛は小さく息を吐く。
「お前はさ、自分の感情に囚われすぎてて、相手の本質が見えてないだけなんだ」
 権兵衛の言葉が、耳に痛い。
 だけど、その音を遮る事は出来なかった。
「確かにあの人は、ちょっと強引でやりすぎな所もある。でも、あの行動の殆どがお前を思っての事ばかりだ。そこに、何か見返りを求められた事があるか?」
「……」
 権兵衛に言われるまま、あいつの今日までの行動を思い返してみる。
 そう、あいつの今までの行動は、全部僕のための事ばかりだ。
 見返りなんて何一つ求めない。
 
 いや、たった一つ。あいつが僕に対して求めてきたことがあった。
 僕が、頑なに拒否し続けてきた事。
 その、たった一つにさえも応えてやらなかった僕に対して、それでも、変わらずに尽くしてくれた。
 
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
 僕は、投げやりに呟いた。
 
 あいつの望みどおりにしてやればいいってのか?
 でも、僕は頼んだわけじゃないんだぞ?
 なのに、僕は僕の気持ちよりもあいつの気持ちを優先しなきゃいけないってのか?
 全部、僕が間違っているから?
 そんなの理不尽すぎるだろ。
 
「さあな」
 僕の質問に対しての返答は、無責任なものだった。
「おい」
「最初に言っただろ。誰もお前が間違ってるとは言ってない。
仮にお前の判断が間違っていたとして、周りに正しいと言われた行動をしたとしても。
そこにお前の信念がなけりゃ、何の意味もない」
 
 権兵衛の言う事は、よく分からない。
「大事なのは周りにとって正しいかどうかじゃない。お前がどう思って行動したかだ。
お前は、お前が正しいと思うことをしろ。それが答えだ」
「だったら……!」
 最初から答えは決まってる。
 今までと同じ事を……!
 
「少なくとも、悩んでるって時点で、今までの考えは正しいとは言えないだろうがな」
「っ!?」
 僕は再び、思考の迷路へと堕ちていった。
 権兵衛に相談したのは、よかったのか、悪かったのか……。
 
 どうでもいいが、なんでこいつはこんなに偉そうなんだよ。
 
 
 今日の学校生活も、あいつに干渉されまくりで、しっちゃかめっちゃかだった。
 でも、なんとなく気分が乗らず、僕は強い態度に出る事もなく状況に流されていった。
 そんな僕の態度に、あいつもテンションが上がらなかったのか、それほど派手なアピールはしてこなかった。
 
 そして、放課後。
 僕は、権兵衛と一緒にゲーセンに寄り道してから帰路についた。
 朝はあれだけシリアスだった権兵衛だが、このときにはもういつものノリに戻っていた。
 
「ただいま」
 ボソッと呟いて、扉を開いた。
 靴を脱いで、重い足取りで居間に向かう。
 
「あ、ゆうくんおかえり~。遅かったじゃない」
「え」
 言われて、時計を見て気付いた。
 時計の針は、6時13分を刺していた。
「ゲーセンに、夢中になりすぎてて、時間に気付かなかったみたいだ」
「も~、寄り道しないでまっすぐ帰らなきゃダメだよ」
「しょうがないだろ。男には、ダチとの付き合いってものがあるんだ」
「全く……ほら、早く手洗ってらっしゃい。もうご飯出来てるよ」
 台所から漂ってくるいい匂いに、空腹だった事を認識した。
「うん」
 僕は素直に言われたとおりにした。
 
 
 今日の夕食の献立は、カツ丼だった。
 それもタダのカツ丼じゃない。
 肉の厚さが、尋常じゃないのだ。これは、10センチはあるか?
 だと言うのに、中まで火が十分に通っており、衣はサクサクだ。
 これは恐らく、最初は強火でサッと揚げ、その後に弱火でじっくりと揚げる『二度揚げ』と言う技術を使っているに違いない。
 確かにこれなら、分厚い肉でも丁度いい具合に上げる事ができ、分厚いがゆえに最高の肉汁を楽しむことが出来る。
 しかし、その手間も並大抵のものじゃない。
 学校に通いながら出来るような料理じゃないはずなのに。
 あいつは、それをさもなんでもない事のようにやってのけている。
 
「……」
 それだけじゃない。
 周りを見ても、チリ一つ落ちていない。
 掃除も行き届いていて、洗濯物も取り込んである。
 僕に構うために学校に通って、それでもやる事はキッチリやっている。
 
「ゆうくん……おいしくなかった?」
 考え事しててしかめっ面になっていたからか、あいつが不安そうな顔で覗き込んできた。
「あ、いや……凄く、美味しいよ。ありがとう」
 別に、誰もためでもない。ただ、嘘をつきたくなかったから僕は素直に褒めた。
「えへへ~。それじゃあ美味しいご飯を作ったお姉ちゃんに、ご褒美が欲しいな♪」
「ほ、褒美って……」
 僕は少したじろいだ。
 何言われるか分かったもんじゃないからだ。
 
 しかし、あいつの願いは、驚く程ささやかなもので。
 驚くほど、分かりきっていたものだった。
 
「一度でいいから、私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな……?」
 少し遠慮がちに、その願いを口にした。
「……」
 ほんと、バカバカしい。
 たかだかそんな事のために、こんな手の込んだことをしてきたってのかよ。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 カバカバしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 
 でも、一番バカなのは……。
 
「あ、あぁ……」
 
 そんなささやかな願いさえも聞き入れようとしなかった。
 
「いつも、ありがとう……」
 
 僕、自身じゃないのか?
 
「姉さん」
 
 
「……」
 
「……」
 
 その言葉を口にした途端、二人の間に沈黙が流れた。
 
 僕としては、てっきりいつものテンションで抱きついてくるのかとばかり思っていたから身構えていたのだが。
 予想に反し、あいつは呆然とした顔つきで、固まっていた。
 まるで、悪魔に蝋人形にされてしまったかのように、微動だにしない。
 
「お、おい……?」
 少し心配になって声をかけてみた。
「あ」
 あいつの目から、ツーッと一筋の雫が頬を伝って、落ちた。
 昨日の夜でも、流れなかった、雫が、流れた。
「あれ?」
 自分の身に何が起こっているのか把握できてないのか、狼狽しながら流れ出る涙を拭う。
 しかし、涙はとめどなくとめどなく流れ続ける。
「ど、どうしたんだろう、私」
 拭っても、拭っても、止まらない。
「は、ははは。ごめんね、お姉ちゃんおかしいね」
 取り繕うための笑い声も、涙で震えている。
 
 
 
 僕は
 
 僕は……
 
 僕は、ゆっくりと抱き寄せ
 
 その涙を
 
 そっと拭った。
 
「ゆう、くん……?」
 泣き腫らして真っ赤になった目で僕を見上げてくる。
 僕は、その瞳に吸い込まれるように、見つめ続けた。
 
 言葉が、出ない。
 何を喋っても、きっと、何かが壊れてしまいそうで。
 そのまま、何も言えず、少しも動けずにいた。
 
「ゆうくん……あのね」
 ふと、こいつは神妙な顔つきになった。
 意を決して、何かを告白しようとしてるような、そんな気がした。
 
 僕は、黙って続きを聞こうとした。
 が、続かなかった。
 瞳から精彩が消え。
 抱きとめていた体に、フッと力が抜けた。
 
「え……!?」
 
 一瞬、何が起きたか分からなかった。
 
 でも、本能的に何かを察知したのか。
 僕は、無我夢中で叫んだ。
  
 
「お姉ちゃん!!」
 
 今までずっと拒絶してきたその言葉は、驚くほどあっさりと発せられた。
 
 
 
 
     次回
 
「ミナサンノスキナモノハ、ナンデスカー?
オー、オニク、ハンバーグ、オムライス?トテモトテーモ、オイシソウデース!
バット!デモ、オヤサイモチャントタベナイト、ダーメダメネー!
 
次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd『好き嫌いは許さない!フルーティ・アボカド・スパイシー』
 
熱き闘志を、ダッシュ・セット!!」
 
 
  

 

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第5話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第5話「真実の涙!トゥルー・ティアーズ・カミング」
 
 
 
 
 夕食後。あいつが沸かしてくれた湯に漬かりながら、僕はふと疑問を抱いた。
「そういや、なんであいつはいきなりこの家に戻ってきたんだろう?」
 今まで、あいつに対する憎しみの感情が強くてそこまで考える余裕がなかったが
 あいつが来てから数日。少しは気持ちも落ち着いてきたところで、ふと抱いて当たり前の疑問がようやく浮かんできたのだ。
 確かに、『オヤジに様子を見るように頼まれた』みたいな事言ってた気もするが、何故今更?
「ん~、まっいいか」
 いくら考えても答えなんて出るはずがない。あとであいつに聞いてみればいいやと開き直り、今は風呂を楽しむ事にした。
 僕は手足を伸ばしながら、フゥとため息をつく。
 とても良い湯だ。心の底からポカポカと温まる。
「あいつが来てから、精神的に疲れたけど。やっぱ風呂は落ち着くじぇ」
 ちょっと行儀が悪いかなと思いつつも、誰もいないからいいじゃないかと、僕は顔の半分を湯の中に埋めて、ぶくぶくと息を吐いた。
 目の前にいくつもの気泡が生まれては消えていく。
 まるで、カニさんになった気分だ。
 なんだか楽しくなったので、そのまま歌を歌った。
 
「カーニー♪カーニー♪たらば~がに~♪たらばじゃなくなったら~ズワイ~ガニ~♪だけど~ぼくは~どっちも好きさ~♪」
 
 題名「はさみ・オブ・シザース」
 作詞・極村原河ユウジ
 作曲・極村原河ユウジ
 歌・極村原河ユウジ
 
 目指せ!オリオン1985位!!
 
「カーニー♪カーニー♪ぼく~らの~か~~~に~~~~~♪」
 
 丁度128番まで唄い終えた時、湯煙越しに人影が映った。
「ゆうくん、お湯加減どう?」
 扉の向こう側から、あいつのくぐもった声が聞こえる。
 
「おぉ、丁度いいぞ~」
 僕は少しのぼせていて、のほほんとした口調で答えた。
 
「そっか、よかった……」
 それから、声が聞こえなくなった。
 扉の向こうのシルエットがごそごそと動き出す。
 耳を澄ますと、布擦れの音が聞こえてきた。
 
 まさか、まさか……!
 
「ちょ……!」
 危険を察知した頃にはもう遅かった。
 扉が厳かに開かれ、バスタオル一枚だけで前を隠したあいつがにこやかに入ってきた。
「お邪魔しまー……」
「バカーーーーーーーー!!!!!」
 僕の悲鳴(?)が風呂場でこだまする。
 
「もう、いきなり大声出さないでよ。びっくりするじゃない」
 あいつは両手で耳を塞ぐ。そのせいでタオルが落ちる。
 僕は慌ててそっぽを向いた。
「ウホッ……じゃなくて、アホッ!はよ拾え!!隠せ!!」
「湯船にタオルは必要ないでしょ」
 言って、ザバァと湯の中に何かが入る音がした。
 水かさが増える。
 見ると、湯船に浮かぶあいつの生首があった。
 や、体が湯の中にあってよく見えないから生首のように見えるだけで、ちゃんと首は体と繋がってるんだけど。
 いろんな意味でこのビジュアルはホラーだ。
 
「何やってんだよ!!」
「ゆうくん、一緒にお風呂入ろっ♪」
「もう入ってんじゃねぇか!」
「これが、俗に言う『最高にハイ』って奴だね!」
 分からない。
 こいつが何を言ってるのか分からない。
 
「…………」
「良いお湯だね~♪」
 能天気に鼻歌を歌う目の前の裸女に、僕は額を押えた。
「……今まで散々お前の凶行に目を瞑ってきたが、今回ばかりはマズイだろ!いろんな意味で!!」
「どうして?昔はよく一緒に入ってたじゃない」
 
 そうだったか?
 ……そうだった、ような気もするが
 
「ゆうくん、よく言ってたよね。『お姉ちゃんとじゃなきゃお風呂入りたくない!』って」
「!?」
 
 って、驚くほどのものじゃないか。
 僕は昔こいつの事が好きで、ベッタリだったからな。
 風呂ぐらい一緒に入りたいと思うのが人の情であろう。
 だが……!
 
「過去の事思っちゃダメだよ。『どうしてあんな事したんだろう?』って怒りに変わってくるから」
 とりあえず僕はこいつを説得してみる事にした。
「別に私は怒りに変わらないよ?楽しかったよね、あの頃♪」
「……」
 こいつを説き伏せるのは無理なようだ。
 
 僕は半ば諦めた様子で、視界をぼやけさせる事に努めた。
 なぜなら、こいつの裸体をよく見ないようにするためだ。
 幸い、風呂場には湯気が立ち込めていて、周りがよく見えない。
 わざわざこんな事をするのには理由がある。
 理由は簡単だ。
 こいつの裸体を見て欲情しないようにするためだ。浴場だけに
 こんな奴に欲情するなんて、男として……いや、一人の極村原河ユウジとして恥だ!浴場だけに
  
「ゆうくん、目が虚だよ?大丈夫?のぼせてない?」
 のぼせる……?
 
 そうか!!
 
 ピロリロリーン♪
 
 僕の頭の中で、サイレンが鳴り響いた。
 そう、僕は思いついたのだ。今この状態を打開する方法を!
 
「あぁ、確かにちょっとのぼせたかもしれない。これは早く……」
 上がらないと……と、言おうとした直後。
 
「それじゃ、お姉ちゃんタオルでお背中流してあげるね♪」
「なんでじゃああああああああ!!!!!」
 みゃ、脈絡が無さ過ぎる……!!
 
 僕は、もう、考えるのを諦めた……
 
 
 そして、翌日。
 
「ふぁ~あ……」
 僕はあくびまじりに教室に入室した。
「ほんと、いつにも増して眠そうだな」
 後から続いて教室に入った権兵衛が言う。
「今日のバトルも、半分居眠り運転状態だったし。マジで大丈夫かよ?」
「あ、あぁ……別に、大した事無い……」
 と、言いつつも、僕の足取りはふらついている。
「おいおいおい。例の姉(仮)さん絡みか?」
「まぁな……最近、ちょっとスキンシップが過剰になりすぎててな。まぁ、でもなんとかなる」
 
 あと少し……オヤジと連絡がつきさえすれば、あいつを追い出せるんだ……耐えるんだ、僕……!
 でも、眠い……。まぁ、授業が始まれば居眠りできるから、別に変わらないんだけどさ。
 そんな僕の様子をしばらく眺めていた権兵衛は、ボソッと一言呟いた。
 
「お盛んなんだな」
「黙れっ!!」
 一瞬だけ目が覚めた。
 
 と、バカやってるうちに鐘がなる。
 そろそろホームルームが始まる。
 
「おらーみんなせきにつけー」
 
 髪ボサボサで白衣を着た男が教卓の前に立って、生徒達に呼びかける。
 先ほどまで騒がしかった生徒達は、我先にと席につく。
 ユウジもそれに習った。
 
「え~、本日は~……」
 担任教師の眠そうな声が響く。
 あぁ、せっかく覚めた眠気がまた襲ってきた。
 
 別にいいや。どうせ今日の一時間目は国語だし。
 国語は普段寝ててもテストでそこそこの点を取れるものだ。
 だから、国語の時間は僕にとって睡眠学習の時間になっている。
 
 ……睡眠学習じゃない授業ってあったっけ?
 
 そんな事を考えてるうちに、ホームルームは終了し、一時間目の授業が始まる。
 
「じゃ、一時間目の授業を始める。え~、教科書の364ページを開いて~」
 
 じゃ、遠慮せずに寝るとするか。
「おやすみぃ……」
 僕は、教科書を盾にして睡眠の体勢をとった。
「こぉらっ」
 ふと、耳元で囁かれたと思うと、ポカンと優しく頭をぶたれた。
「ん……?」
 反射的に顔を上げて、囁きかれた方角へと首を回す。
 
 僕の隣は欠番で誰もいないはずなのだが……。
 
「げぇぇぇっっっ!!!」
 誰もいないはずの席に目を向けた瞬間、僕は驚愕の悲鳴を上げた。
 
「ん?どうした、極村原河?ウンコか?」
 教師が、奇声を上げた僕を目敏く指摘する。
「あ、いえ……ウンコは出ないです……」
「じゃ、静かにしてろ。小さい方なら我慢できるだろ」
「はい……すみません」
 僕はスゴスゴと首をすくめ、そして何故か隣にいるはずのない人物に小声で声をかけた。
 
「何やってんだお前は!」
「ダメだよ。授業はちゃんと聞かなきゃ」
「そうじゃねぇ!お前三年のはずだろ!なんで一年の教室に来てんだよ!!」
 そう、僕の隣の席に、何故かあの女がいたのだ。
 確かに、こいつは昨日この学校に転校してきやがったのだが、学年が違うから休み時間以外はこいつから離れられるはずだった。
 だと言うのに、何故……?
 
「抜け出して、こっそり忍び込んだの」
 相変わらずのいけしゃあしゃあっぷりだ。
 
「そのまんまんすぎて、突っ込む気も失せるな……」
 突っ込む気は失せたので、とりあえず机に突っ伏した。
「だから寝ないの。まったくもう、お姉ちゃんが来てあげて正解だったわ」
「ぐぐ……」
 
 あぁもううぜぇ!
 だが、待てよ。今回ばかりは完全にこいつに非があるんじゃね?
 だって、明らかにこれルール違反でしょ。
 正々堂々とそこを突いていけばこいつを追い出せるってもんか。
 
「先生!!」
 僕は、先生にこいつを追い出してもらうために抗議する事にした。
「おっ、極村原河。お前が真っ先に手を上げるなんて珍しいな」
「へっ?」
 いきなり声を上げたというのに、先生はなんか別に事に驚いている。
「それじゃ、12ページの43行目。紳士が何故プレーンオムレツを拒否したのか?と言う問いに答えてみろ」
「は???」
 言われるままに、12ページを開いたが、先生の言ってる意味が分からない。
 黙っていると、先生が怪訝そうな顔をした。
「どうした?手を上げたくせに答えられんのか?」
 見ると、他の皆も僕に注目している。
 
「頑張れ、ゆうくん!」
 この女は小声で応援なんかしてやがる
 
 そうか。これでようやく状況が分かった。
 先生は、何か問題を出題していて、手を上げた生徒にそれを解かせようとしていたのだ。
 しかし、こういうの大体誰も手を上げないものだ。
 そして、痺れを切らしたところに僕が手を上げたものだから。あっさりと僕に白刃の矢が立ったというわけだ。
 
 ちくしょう、これじゃあの女を追い出すどころじゃないじゃんか!
 
「答えは……」
 僕は、観念して口を開いた。
「答えは?」
「ないな……」
「???」
 小声で答えたので、聞こえなかったらしい。
 僕は、もう一度ハッキリと答えた。
 
「分からないって言ってるんだああああああ!!!!」
 
「!?」
 先生の顔が大きく歪む。
 クラス中の奴らが、『やっちまったなこいつ』的な顔をする。
 だが、僕に後悔の色はない。
 さぁ、僕の明日はどっちだ?!
 
「正解だ!」
「っ!?」
 まさかの正解!
 教室中がざわめく。
「そう、どんな状況であってもプレーンオムレツを拒否すると言う事はありえない。
つまり、この問題そのものがナンセンス。と言う事だ」
 
「……」
 
「答え無しもまた、答えなり!!」
 
 その日、僕らは少しだけ大人になったような気になったんだ。
 
 そして、あいつを追い出す事も出来ず、授業は厳かに終了した。
 
「お前なぁ……!」
 僕は、とりあえずあいつを元の教室に戻すために抗議しようとしたが……。
「ねむ……」
 授業中眠れなかったので、睡魔に負けてそのまま机に突っ伏してしまった。
「ふふ、ゆっくりお休みなさい。でも二時間目が始まったら起きるんだよ」
 微かに、そんな声が聞こえたような気がしたが、意識はもう闇の中に吸い込まれていった。
 
 ……。
 ………。
 
「zzz」
「ほら、起きて。授業始まったよ」
 闇の中で、誰かの声が聞こえた。
 しかし、僕の体は重く、その声に反応してやる事が出来ない。
「起きない……もう、しょうがないなぁ」
 ……?
 声が止んだ。
 そして、耳元に生暖かい空気が吹きかけられた。
 
「はむっ」
「gばそがsbg;あs!?」
 右耳に感じた妙な感触に、僕は声にならない悲鳴を上げながら飛び起きた。
 
「はぁ、はぁ……」
 右耳に手を添えると、微かに濡れていた。
「あ、やっと起きた」
 
「き、きsgさん、貴様、何やった……!」
 
「あまがみ♪」
「うぇぇぇぇ」
 眠気と吐き気で、気が狂いそうだった。
 
 仕方が無いのでこの授業も真面目に受ける事にする。
 二時間目は数学の時間だ。
 先生が黒板に数式を書き並べている。
 
「うぅ、わかんねえ~!」
 何もしないわけにもいかないので、数式を書き写し、練習問題を解いていくのだが、全く分からない。
「えっとね、ここは、xとcでかければいいんだよ」
「え、そうなの?」
 言われたとおり、xとcでかけてみた。
 すると、なんと驚くべき事に、あっさりと問題が解けてしまった。
「あ、すげぇ」
「ね、ねね?すごい?お姉ちゃんすごい??」
 こいつが、なんか褒めて欲したげな顔をしてくる。そうはいくか。
「ってか、お前三年生なんだから一年の問題くらい解けて当たり前だろ」
「むぅぅぅ」
 ふくれっ面しやがった。
 ガキかこいつは。
 
「ってか、くっ付きすぎなんだよ」
「近くに寄らないと教科書見れないんだもん」
「あ~、くそ~」
 
 その後も、こんな調子で授業が続いた。
 
 三時間目。体育の時間。
 男子はサッカー。女子は幅跳びだ。
 
 僕らはボールに向かって駆けずり回った。
「極村原河!」
 僕の元にパスが来る。
「おっしゃ任せろ!」
 意気揚々とそれを受け取る。
 
「いくぜえええええええ!!!!」
 気合いを入れて足を振り上げる。
 その時だった!
 
「ゆうくぅ~~~ん!!!がんばれえええ~!!!」
 グランドの外から、ブルマ姿のあいつの声援が飛んだ。
 
「うっ!」
 やべぇ!あれはやべぇ!!
 アレに目が釘付けになってしまった僕は、見事空振りして勢いあまって転んでしまった。
 
 
 四時間目。音楽の時間。
 今日は、リコーダーでもみの木の演奏をするのだ。
 
「ぷっぷ~!……あれ?音が出ない」
 僕の使っていたリコーダーの調子がおかしい。
 やはり、この間の休み時間に野球のバット代わりに使ってブンブン振り回したのがまずかったのか。
「それ、壊れてるの?」
「あぁ」
「じゃ、これ使いなよ」
 言って、あいつがピカピカのリコーダーを僕に手渡す。
 僕はそれを受け取ると、試しに吹いてみた。
 
「ピロリロリロ~♪」
 澄んだ音色が響き渡る。
「おっ、こいつはいいや……って、もしかしてこれお前のか?」
「うん!」
 
「これじゃ、好きな女子のリコーダーを舐める変態男子じゃねぇか!!!」
 
「す、好きな女子……?」
「うるせぇ!そこを拾うな!!」
 
 
 紆余曲折を乗り越え、ようやく昼休みになった。
 
「や、やっと昼休みだ……」
 僕はぐったりと机に傾れ込んだ。
「お疲れ様、ゆうくん」
 誰のせいで疲れたと思ってんだ。
「それじゃ、お弁当食べよっか♪」
 あぁ、そうだ。もう僕は唯一の楽しみであるもずくパンには会えないんだ……。
 もう、涙がチョチョ切れそうだよ。
 
「ちょっと、失礼します」
 と、僕とこいつの間に割って入ったのは郷田山だった。
「郷田山……」
 郷田山は厳しい目つきで僕らを……いや、あの女を見ていた。
「何?」
 その視線に気付いたこいつは首をかしげた。
「あなた、三年の極村原河先輩……でしたよね?三年生が一年生の授業を受けて良いと思ってるんですか?」
 
 おぉ、郷田山!お前だけだよ!ちゃんと常識があるのは!!
 
「えぇ、でもゆうくんが……」
「その極村原河君が迷惑してるんです!」
 そうだ!そうだ!もっと言ってやれ!!
「そ、そんな事ないよ!ね、ゆうくん?」
 僕に助けを求められても、基本的に僕はお前の敵だ。
 僕は、郷田山に加勢するためにハッキリ言ってやる事にした。
「いや、非常にめいわk……」
「極村原河君は黙ってて!!」
 えぇ!?
 僕、お前に加勢しようと思ってたのになんで拒否られんの?!
 
「とにかく、いくら極村原河君のためでもルールはルールです。午後からはちゃんとご自分の教室に戻ってください!」
 ピシャリと言われると、あいつはシュンと項垂れた。
「分かったよ……」
 そのまま、トボトボと沈んだ足取りで教室を出て行った。
 
「た、助かった……」
 僕は郷田山に礼を言うために立ち上がったが、その瞬間、立ちくらみがしたかと思うと、意識が朦朧とし、そのまま深い眠りの世界へと誘われてしまった。
 
 
 そして、次の日。
 
「それじゃ、朝のホームルームを始めるぞ~」
 担任の眠そうな声が響く。
 今日の僕は珍しく目が冴えていた。
 それもそのはず。
 昨日の事がショックだったのか、その後あいつは僕に対して異常なスキンシップは取らず、なんともシニカルな態度だったからだ。
 まぁ、飯の美味さは相変わらずだったから、まさに一石二鳥って感じだったんだけどね。
 
「今日は、皆に転入生の紹介をするぞ」
 
 おぉ、この時期に転入って珍しいな。
 まぁ、この間あいつがこの学校に転入してきたばっかなわけだが。
 
「それじゃ、入ってきていいぞ」
 担任の合図とともに女生徒が教室の中に入る。
 
「げっっ!」
 
「ほにゃらか中学校三年A組からほにゃらか中学校一年B組に転入してきた極村原河アイ君だ。
みんな、仲良くしてやるようにな」
「極村原河アイです。宜しくお願いします」
 先生に促される形で頭を下げたアイツは、顔を上げた瞬間僕に対してウインクしやがった。
 
「……」
 見ると、郷田山も呆然とした顔をしている。
 
 僕は悟った。
 アイツには敵わないと。
 
 
 
 
  次回
 
「夏だ!海だ!MTB!!
キヨツグの別荘に遊びに来た俺たちは、さっそくMTBバトルをする事にした!
だが、着いてみてびっくり!なんと僕らのMTBが根こそぎ奪われてしまったんだ!
一体、誰がこんな事を……?
 
 次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd『サルとの戦い!モンキー・コング・チンパンジー!』
 
熱き闘志を、ダッシュ・セット!!」
 
 
 

  
 

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第4話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
 
「お姉ちゃんクーイズ!
ここに、崖っぷちのお姉ちゃんと崖っぷちのストームランサーがあるとします。
どちらか一つしか助けられないとしたら、ゆうくんならどっちを助ける?」
 
 
「ストームランサー」
 
 
「そ、即答!?酷いよ、ゆうくん……」
「当たり前だろ。僕はお前を認めてないんだから」
 
「むぅ。それなら、崖っぷちの極村原河アイと崖っぷちのストームランサーがあるとしたら
どっちを助ける?」
「お前に決まってんだろ。MTBと人の命は天秤にかけられねぇよ。全く、常識のない奴だ」
 
 
「……お姉ちゃん、基準がよく分からないよぉ」
 
 
「ってか、その一人称ヤメロ!
せめて、『私』か『あたし』か『おいどん』にしろ!!」
 
「おいどんは……やだなぁ」
 
 
 
 
第4話「勝負の行方!ビクトリー・オア・ルーズ」
 
 
 
 昼の弁当騒動をなんとかくぐり抜け、僕は無事帰宅した。
 
「おい、お前!!」
 そして、僕は帰ってくるなりあの女を呼びつける。
「なぁに~?」
 キッチンから、エプロン姿のあいつが現れる。どうやら水仕事をしていたらしく濡れた手をエプロンで拭き拭きしている。
「これ!!」
 僕は、カバンから立方体の箱を取り出して、突き出す。
 あいつは、きょとんとした顔でそれを受け取り、パカッと蓋を開けると、顔を綻ばせた。
「あ、キレイに食べてくれたんだね~。どう?美味しかった」
「うん!特に甘く焼いた焼きビーフンの塩加減が最高……ってそうじゃねえええええ!!!!」
 あぶねぇあぶねぇ!危うく奴の話術に引っかかって本題を忘れるところだった。
 恐ろしい奴だ。
「なにっ考えてんだよ!わざわざ学校に乗り込んでくるなんて!!」
「だって、お弁当忘れてるから……」
 
 まぁ、忘れ物を届けに来るのは正当な理由ではあるが
 
「作るなら作るで予め言ってくれよ」
 そう、こればっかりはあいつに非があるだろう。
 僕は元々購買派の人間なのだ。
 だから、弁当を持っていかなきゃならないと言うノウハウはない。
 忘れるな。と言う方がドダイ無理な話なのである。
 
「ゴメンなさい。ちゃんと言わなかったお姉ちゃんが悪かったね」
 ちゃんと理解してくれたようで、素直に謝ってくれた。
 そういうところは憎めないんだよな。
 
「じゃ、明日からも作るから、ちゃんと忘れないで持っていくんだよ」
 そうそう、そうやって告知してくれれば僕だって。
 
 あ、だけど……。
 
「あ~、でも早速で悪いんだが、僕は弁当を持っていけない事情があるんだ」
「???」
「ほら、登校中さ。MTBバトルするから、弁当なんか持ってった日には、悲惨な目に……」
 
 僕だって最初は自分で弁当を作っていた。所謂弁当男子って奴だったさ。
 だけど、登校中に激しいバトルなんかしてるから、カバンの中にある弁当が、寄り弁どころの騒ぎじゃなくなるんだよな。
 一回それやって、もう二度と弁当なんか持って行くか!って思ったものだ。
 
「そっか。じゃやっぱり私が持って……」
「だからダメなんだって。基本的に部外者は立ち入り禁止だし。
お前みたいな美人さんが私服着て学校内なんかに入ったら目立って目立ってしょうがないだろ」
 僕の言葉に、何故かこいつは頬を染めて、クネクネとくねくねみたいな動きをした。
「そ、そんな美人さんだなんて、もうゆうくんってば、そんな風に私の事を……」
 やべっ!失言だったか!
 僕は両手を振って慌てて否定した。
「あぁあぁ!一般論だ一般論!!クラスの奴らがそう言ってたから!僕は別に……」
 
「でも、やっぱり購買パンだけだと栄養が偏っちゃうと思うな」
「大丈夫だって。今流行りのもずくパンはMTBライダーにとって栄養バランスが良いって自称してんだぜ」
「そっかぁ……じゃぁ大丈夫なのかなぁ?」
 こいつは、首を捻りながら、納得してんだかしてないんだかよく分からない仕草をする。
 
 
「……う~ん、でもやっぱりパンだけだとなぁ……。かと言ってゆうくんは持っていけない。部外者の私も学校に入れない……う~ん……」
 
 一人ブツブツ呟いている。
 変な事企んでなけりゃいいんだけどな。
 
 一抹の不安を抱きつつも、特に何も問題は起きずに翌日は訪れた。
 いつものようにMTBバトルしたのちに学校に辿り着く。
 何か企んでるかとも思ったが、特に何も無かったので人安心だ。
 MTBバトルにも集中できて、今回は権兵衛に勝てた。
 
「負けたああああ!!!」
「やったぜ!!」
 頭を抱える権兵衛と、ガッツポーズを決める僕との対比が激しい。
「チクショウ……でもまっ、ようやくいつものユウジに戻ったって感じだな」
「あぁ、心配かけたな」
 
「気にすんな。あれだろ、昨日学校に来てたお姉さんの事について悩んでたんだろ?」
「あ、姉とは認めてない!」
 ……っと、こんな意地張ってたらまた昨日の二の舞だぞ。
「はぁ、じゃ、姉(仮)って事で」
 気を利かせた権兵衛が、(仮)をつけてくれた。
「お、おう。それならいいや」
 まだ嫌悪感はあるものの、耐えられるレベルだ。
「で、結局なんなんだ?お前、一人暮らしだったんじゃなかったっけ?」
 
 ……こいつになら、事情を話してもいいかもしれない。
 何より、僕はこいつに迷惑を掛けた。
 本気でバトルをしなかった。と言う迷惑を。
 その責任は果たさなければならないだろう。
 
「実は、かくかくしかじかで」
 
 僕は、権兵衛に洗いざらい全て話した。
 家の事情。僕の気持ち。そして、今の状況……。
 
「そっかぁ」
 それら全てを聞き、権兵衛は何度もうなずいて唸った。
「ま、頑張れや」
 それだけ言うと、校門へと足を進める。
「そ、それだけ?」
 全ての事情を話したってのに、反応があっさり過ぎて拍子抜けしてしまう。
「なんだ?他に何か必要か?別に、何か答えを求めてたわけじゃねぇんだろ」
「そりゃ、そうだが……」
「お前の中で気持ちがハッキリしてる以上、俺からは何も言えねぇよ」
 そして、権兵衛は今度こそ口を閉じ、足を速めた。
「……そう、なのかな?」
 僕も、首をかしげながらその後に続いた。
 
 
 
 そして、待ちに待った昼休みがやってきた。
「う~ん!よく寝た!!」
 僕は大きく伸びをする。
 
 午前中の4時間ってなんか眠くなるよね。
 まぁ、午後の2時間はもっと眠くなるんだけどね。
 
「ユウジ!購買行こうぜ!!」
 いつものように権兵衛が誘ってくる。
「おう」
 僕も、いつものように立ち上がる。
 
 が、そのいつも通りの行動に対して疑問を抱く奴が現れた。
 
「あれ、あんた購買行くの?」
 郷田山が、購買に行く僕を目敏く見つけて声をかけてきた。
「あ、あぁ?」
 めんどくさいので適当に返事する。
「ふ~ん……」
 何故か、含みのある『ふ~ん』だった。
 気になった僕は足を止めて郷田山に向き直る。
「なんだよ、いつもの事じゃんか。言いたい事があるなら、ハッキリ言えよ」
 聞き返す僕に対し、郷田山は何故か顔を赤らめ、歯切れが悪くなる。
「ん、あの、い、一緒に住んでるって言う、あの女の人にお弁当、作ってもらったんじゃ……?」
「あぁ」
 別にこいつが気にする事じゃないと思うのだが……まぁ、クラスメイトの一員として気になるのだろう。学級委員長だしな。
 
 僕は、簡単に事情を説明した。
 
「……と、言うわけで僕はこれからも購買生活と言うわけだ」
「そっかぁ……」
 ちゃんと説明してやったにも関わらず、郷田山は天を仰ぎ、何か考え事をしているっぽい。
「そういうわけだから、僕は購買行くわ」
 一人ブツブツ呟いている郷田山を置いて、僕は購買へと急いだ。
 
 あれ?似たような光景をどこかで見たような……。
 まぁいいか。もずくパン美味しいし。
 
  
 ……。
 …………。
 
 
 今日も一日、楽しい学校生活だった。
 そして、午後の授業も無事睡眠学習を終え、僕は家に帰った。
 
 
「ただいま~」
 
 ほんの数日前までは、返事を期待しない『ただいま』だった。
 ただ、惰性で発するだけの『ただいま』だった。
 だけど今は、返事がある。
 だから、同じ言葉を発してるのに、最近はなんだか気恥ずかしさを感じるようになった。
 
「……?」
 
 のだが、今日はその返事がない。
 疑問に思っていると、奥の方からドドドと足音が聞こえてくる。
  
「ゆうく~んっ!お~か~え~り~!!!」
 
 しまっ!時間差攻撃か!!
 油断した!と思っているもつかの間、あの女が両手を広げ、全身からハートマークを発しながら迫ってきた。
 
「うおっと!」
 
 間一髪で、その抱擁をかわす。
 
 うん?かわす……かわす。
 
 避けたんだよ!
 
 ゴンッ!
 と、勢いあまってそいつは玄関に顔をぶつけた。
 まぁ、自業自得だ。
 
「うぅ、ゆうくん酷い~」
 赤くなった鼻の頭を摩りながら涙目になっている。
「アホな事してるからだろ」
 僕はため息をついて、そのまま玄関を上がった。
 
「あ~、喉渇いた~」
 僕は、牛乳を飲むために、冷蔵庫を設置しているキッチンへと向かう。
「あ、待って!」
 ガシッ!と、後ろから抱きつかれた。
 背中に柔らかい感触が当たり、何かが起き上がる気配を感じた。
「離せよ」
 前屈みになりたくなる衝動に耐えながら、僕は言った。
「あ、あのね!喉乾いたらね、お姉ちゃんが、美味しい飲み物ついであげるからね!だからソファで待っててね!」
 
 なんか、日本語が不自由な人みたいになってるぞ。
 それに、お茶とかコーヒーじゃないんだから、誰が用意した所で味は変わらないんだが……、
 何か隠してるか?
 
 まぁ、キッチンで何か隠すって、どうせ夕飯を手の込んだものにして、びっくりさせようとかそういう魂胆だろう。
 
 ぶっちゃけ、大歓迎だ!
 
 そんなわけで、ネタバレして楽しみがなくならないよう僕はこいつの言うとおりにする事にした。
「じゃ、牛乳。お願い」
「……」
 僕の注文を聞くと、そいつはいそいそと服をまさぐり始めた。
「何してる?」
 その行為が完了しないうちに僕は素早く突っ込んだ。
「ミルクの準備を」
「僕が欲しいのは、高脂肪の牛の乳だあああああああ!!!!」
 言い切る前に僕は力の限り怒鳴った。
 ほんとに、油断も隙もないやっちゃ。
  
 ってか、出ねぇだろ!出るわけねぇだろ!!
 
 あいつは、口を尖らせながら冷蔵庫へと向かった。
「もう、冗談なのに」
 
 目がマジだったぞ。
 
 
 そして、夕食の時間になった。
 献立は、シーフードカレーだった。
 海の具がふんだんに使われており、ルーにも米にも海の旨味が染み渡ってとても上手かった。
 だけど、期待していたほどのサプライズは特に無かった。
 
 
「じゃ、結局何隠してたんだ?」
 
 結局その日は、何も分からないまま過ぎていった。
 
 
 
 そして翌日の昼休み。
 
 
「さて、今日ももずくパンが楽しみだな~っと!」
 僕はいつものようにもずくパンを買うために購買に向かおうとする。
「ま、待ちなさいよ!」
 教室を出ようとすると、後ろから郷田山が声をかけてきた。
「あんだよ。早くしないと人気のもずくパンが残り一個になっちまうんだよ!」
「その……」
 郷田山はごそごそとポケットをまさぐると、そこから立方体の箱を取り出した。
「これ……」
 それが何で、どういう意図で取り出したのかを頭の中で理解した直後、僕の耳に黄色い声が突き刺さった。
 
「ゆうく~んっ!」
 
 悪寒を感じ、声のした方へと視線を向けると、僕は言い知れぬ恐怖を感じた。
「んなっ!」
 あいつが、この学校の制服を着たあいつが、にこやかに立っていた。
 突然の出来事に、頭が真っ白になる。
「ゆうくんっ!一緒にお弁当食べよう!」
 呆然としている隙に、こいつに捕まり、そのまま連行されてしまった。
 
 やってきたのは屋上だった。
 なるほど、ここなら誰もいないからゆっくり出来ると言う訳だ。
 考えたな。
 
「ってか、なんでいるんだよ……!」
「今日転校してきたから。これならお弁当持ってこれるでしょ?」
「……」
 頭痛くなってきた……。
 なんで学校に来てまでこいつの相手せにゃならんのだ……。
 これから先、昼休みになる度にこうなるのかと思うと、もう骨が折れそう。
 
 まぁでも、弁当はうまかったからいいんだけどさ。
 
 そして、放課後。
 僕は、ちょっとした気まぐれで焼却炉前を通って家に帰る事にした。
「ん?」
 と、その焼却炉前によく知った顔がいる事に気付いた。
 そいつは、目に涙を浮かべていて、なんだか話しかけるのを躊躇ってしまう。
 僕が躊躇していると、そいつはおもむろにポケットから立方体の箱を取り出し、中身を焼却炉の中に……。
 
「ちょっと待ったぁぁああああああぁぁあああ!!」
 そいつが何をしているのかを悟ると、僕は大声でそれを制した。
「きゃっ!……ご、極村原河」
 そう、そいつは郷田山だった。そして、今捨てようとしてたのは……。
 
「はぁ……はぁ……」
「な、何よ?」
「い、いや、腹、減ったなって思ってさ。それでちょっと大声出してみたら余計腹減ったんだ」
 どういう理屈だ。
「バカじゃないの?ってか、お姉さんと一緒にお弁当食べたんじゃないの?」
「いやぁ、アイツの弁当美味過ぎてさ。逆に腹減るんだよ。はははは」
 腹が減るというより、食欲が収まらなくなる。といった方が正しいかもしれない。
「ふ~ん」
 郷田山は興味なさそう風を装いながらも、どこかソワソワしている。
「あ~、腹減ったなぁ~。どっかに、まだ手付かずだけどどうせ食べないから捨てようとしてた弁当とか無いかなぁ?」
 僕はワザとらしく視線を彷徨わせる。
 すると、郷田山は無言で手に持っていた箱を僕に差し出す。
「お?」
「か、勘違いしないでよね!あんた、汗臭いから。それでよ!」
 全く、素直じゃない奴だ。
 僕は苦笑しつつ、それを受け取る。
「あぁ、サンキュ」
「残したりしたら、承知しないからね」
「任せろ。僕の胃袋は宇宙だ」
 
 あぁ、フードファイト続編出ないかなぁ?
 満の妹が気になる!!
 
 
 次回
 
「彼女が見せた涙。いつも笑っている、彼女が見せた。
いつも?僕は、本当に笑っている姿しか見た事無かったか?
その、涙を、僕は……拭ってあげたいと思った。
 
次回!爆闘アタッカーショウ2nd!『真実の涙!トゥルー・ティアーズ・カミング』
 
熱き闘志をダッシュ・セット!」
 

 
  
 

 




爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第3話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 

 ケエエエエタイショオセエエエツ!!
 それは、熱きケータイ小説ライター達の戦い!!

 
 ケエエエエタイショオセエエエツ!!
 それは、人生の縮図!漢のロマンである!!

 
「いけぇ、俺のラブ&スカーイ!!」

第3話「俺達の土地!プレイス・プライベート・オプチカル」

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爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション 第2話

爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
第2話「ライバル登場!マキシマム・ポリフェノール」
 
 
 
 
 第61回MTBバトルフェスティバルカップ会場は、参加者と出場者の熱気でむせ返っていた。
 
「いよいよだな……」
 その会場を見上げながら、一人の少年が仁王立ちしていた。
「この大会、俺が勝つ!!いくぞ、俺の愛機、フレイムブリンガー!」
 少年は、自分の愛機に跨って会場内へと漕いでいった。
 
 
 
 ちょうどその頃。極村原河家。
 
「僕は……お前を認めない!!!」
 僕は、はるばるやってきた目の前の少女に向かって痛烈な言葉を投げつけた。
「っ……!」
 
 外道だと思うかもしれない。
 非情だと思うかもしれない。
 でも、これでいいんだ……。
 さぁ、大人しく帰ってくれ。
 
「……」
「……」
 
 二人の間に沈黙が流れる。
 しかし、すぐに少女の方から沈黙を破ってきた。
 
「もう~ゆうくんってば少し見ない間に天邪鬼さんだねぇ~」
「はっ?」
 何を思ったのか、少女は僕の痛烈な言葉に笑顔で返してきやがった。
 そして、不意をつかれた僕をギューっとハグしてくる。
「そっかぁ、男の子はもうそういうお年頃だもんねぇ。ふふ、可愛い可愛い」
 どうやら、僕の言葉を思春期特有の反抗と解釈したらしい。
 でも、違うんだ。これはそういうんじゃなくて……!
 ってか、本当に反抗期だとしたらその行動は教育的に逆効果じゃないの?!
 いや、反抗期に対する教育の仕方とか知らないけどさ。
 って、そんなこたぁどうでもいいんだよ!!!
 
 なんだってんだよ!あんだけキツイ事言ったのに、なんでこいつはこんな平然と笑って、僕の事抱きしめられるんだよ!
 頭沸いてんじゃねぇのか!?
 
 僕がいろいろと混乱しているうちに、少女は僕を放してくれた。
 
「さてっ、ゆうくんが一人でちゃんと生活出来てたか、恒例のお姉ちゃんチェーック♪」
 弾む声でそういうと、少女は軽い足取りで家の中に入ってしまった。
 
「……」
 超展開に頭がついていかず、呆然と立ち尽くす僕だったが、事の重大さに気付き慌てて家の中に飛び込んだ。
 中に入ると、少女が居間やリビングを物色していた。
 
「うんうん、少し散らかってるけど、まぁ許容範囲かな。男の子の一人暮らしにしてはなかなかキレイにしてるみたいね」
 
「なんっだよ!勝手に入ってくんなよ!住居不法侵入で訴えるぞ!!」
「ゆうくん、それは間違ってるよ」
「なにぃ……!」
「ここは他の誰でもない、ゆうくんが住んでる家なんだよ」
 何を、当たり前の事を……。
「そして私はゆうくんのお姉ちゃん。ほらね?」
 何が、ほらね?なんだ……。
「お姉ちゃんが弟の住んでる家に来るのは合法でしょ」
「ぐ……!」
 確かにそうだ。
 でも、法律だかなんだかって言うのは、命が保障されてる時にのみ通用する事であり。
 命くらいは保障されてるであろう今は、恐らく通用するのだろうな。
「うるせぇ!法なんか関係ねぇ!!ここは僕の家だ!僕の城だ!ルールは僕が決める!僕が法だ!!」
 なんか、我ながらメチャクチャな事言ってるな。
「でも、正確にはお父さんの家だよね」
「ぐぐっ!」
 今までで最も正論な事を言われ、僕は口を閉じざるを得なかった。
 そうさ。この家はオヤジの金で買い、そしてオヤジに住まわせてもらってるに過ぎない。くそっ、すっかり忘れてたぜ。
 
「そ、それでも!それでも……!」
 形勢は完全に不利なのだが、僕は諦めずに反論の糸口を探ろうとする。
「それにお姉ちゃん。ここを追い出されたら、もう行く所がなくなっちゃうよ……」
「へっ?」
「お父さんにゆうくんの様子を見に行くよう言われて、イタリアからはるばる来たのに……。最初から家に留まるつもりだったから、余計なお金も持たされてないし、もう時間も遅いし……」
 チクショウ……なんて無計画な父親だ。
 いや、ある意味計画的なのか……?
 
「ゆうくんは、か弱いお姉ちゃんを一人路頭に迷わせて、平気なの?」
 僕よりも少し背の低い少女は、上目遣いになり涙を浮かべながら僕になにかを訴えるなまざし攻撃を仕掛けてきた。
「……」
 まなざし攻撃はともかく、確かに女の子一人を放り出すのはマズイ。
 オヤジの手中にハマってる感もあるが、ここは僕が折れるしか無いだろう。
「仕方ねぇ」
 僕は、力なく呟いた。
「ゆうくん……!」
 少女の顔がパァッと明るくなる。
 そしてまた僕に抱きついてきた。
「ふふっ、やっぱりゆうくんは優しいね~♪」
 僕は、少女の発する柑橘系の香りに鼻をくすぐられながら、口を開く。
「但し、一日だけだぞ!オヤジから金送ってもらって、オヤジのとこに帰る用意が出来たらすぐ出てってもらうからな!」
「え~」
 あからさまな不満の声が聞こえたが、無視した。
 とにかく、すぐにオヤジに連絡して帰してやる。
 
 
 ちなみにこいつは極村原河家の長女で、極村原河アイ。年齢は僕より二つ上だから現在は14か15歳くらいか?
 血は繋がってないが、戸籍上は僕の姉と言う事になっている。
 小さい頃から一緒に遊んでくれて、甘やかしてくれた彼女によって、あの頃の僕は立派なお姉ちゃん子になっていた。そう、あの頃は
 
 こいつのせいで、僕は中途半端な幸せを見せられ、その挙句にオヤジと一緒に僕を置き去りにした。
 だから、今更戻ってきてどういうつもりなんだよ……!
 
 とりあえず、僕はオヤジの携帯に電話してみる事にした。
「ちっ、繋がらねぇ……!」
 受話器からはツー、ツー、と言った無機質な電子音しか聞こえてこない。
「お父さん、今ジャングルの秘境でオフロード大会に出てる頃だから、多分出られないんじゃないかなぁ?」
「なんだとぉ……!」
「しかも三日三晩続けてのサバイバルレースって言ってたから、連絡取れるのは早くても一週間後くらいじゃないと」
「それを早く言えよ!」
 僕は乱暴に受話器を置いた。
 くそっ!オヤジはいつもMTBMTBって!そんなにMTBが大事なのかよ!僕も好きだけどさ!!
 けど困ったなぁ。さすがにオヤジの仕送りだけじゃこいつを帰すには足りないし……。なんとかオヤジにお金を工面してもらわないことには
 
「まぁいいや、とにかく飯だな。腹が減ってはイクサは着れずって言うし」
「イクサって何?」
「対ファンガイア用の強化スーツだ。昔は凄かったらしいぞ」
「ふ~ん。詳しいね」
「まぁ、あんたには一生縁の無い事柄だからな、別段知る必要もないと」
「あ~、すぐそうやってツンケンした事言う~!それに、私の事は『お姉ちゃん』って呼びなさい!」
「認めてないっつっただろ」
 そう吐き捨てて台所へと向かう。
 確か、材料はまだ買い置きがあったはずだ。米もある。
 二人分くらいの飯は楽勝で作れるだろう。
 
「何々?ゆうくんお料理できるの??」
 ねえ……げふんっ!あいつが、興味津々と言った風に身を乗り出してくる。
「当たり前だろ。何年一人暮らししてると思ってんだよ」
「へぇ~、楽しみ~♪ゆうくんの手料理♪ゆうくんの手料理~♪」
 何が楽しいのか、謎鼻歌を歌いだす。
 手料理って言っても、簡単なものしか作れないんだが……。
 
 とりあえず、簡単に作れる炊き込みご飯と、天ぷらでも作るか。
 僕は無洗米を2合と野菜を適当に炊飯器に入れ、醤油をかけてセットする。
 その間に、衣を作り、野菜に付けて、油で揚げる。
 うん、完璧だ。
 
 40分ほどでご飯も炊き上がり、食卓に並べた。
 うん、我ながら良い出来だ。
 
「うわ~、おいしそう~♪」
 見た目は、お世辞にも良いとはいえないが、こいつの目には『僕の手料理』と言う補正がかかってるのだろうな。
 まぁ、料理なんて見た目や味が多少悪くても腹さえ膨れればよいのだ。
「いただきます」
「いただきます♪」
 ガリッ!
 うん、天ぷら少し生焼けだったか。まぁ、食えん事は無い。野菜は生で食ってなんぼじゃい。衣もあまりついてなくて天ぷらと言うより素揚げみたいだけど、揚げる時にどうしても剥がれちゃうんだからしょうがないじゃない。まぁ、多分そういう仕様なんだろうと諦めて欲しい。
 炊き込みご飯も、なんか醤油臭いなぁ。
 昔お母さんに作ってもらった炊き込みご飯は、もっといろんな味がして美味しかったんだけど。でも作り方的に間違ってるとは思えないし……。
 ま、いいだろ別に。食えれば問題なし
 
「……う……」
 見ると、さっきまで笑顔だったあいつの顔が歪んでいた。しかも、口元を手で押さえている。悪阻か?
「どうしたん?」
「ゆうくん、何これ?」
「炊き込みご飯と天ぷら」
 
「……ゆうくん、炊き込みご飯作る時、ダシ入れた?」
「ダシ?醤油の事?ならたっぷり入れたぞ!」
「…………そう。じゃぁ、この天ぷら。衣まだ残ってる?」
「うん」
 僕は立ち上がり、キッチンにある衣の入ったボールを手に取る。
「何コレ……!」
 すると、背後から悲鳴のような声が聞こえた。
 振り返ると、そこにはあいつが立っていた。
「サラサラじゃない……!」
「あぁ、粉勿体無いから薄めにしたの」
 そう答えると、あいつは額に手をあてて、唸った。
「??」
 その行動の意味を理解できず、僕は首をかしげた。
「ゆうくん、どきなさい」
 その声は、今までの甘ったるいものではなく淡々とした事務的ボイスだった。
「え?」
「後はお姉ちゃんがやります」
「……」
 静かな圧力に押され、僕はスゴスゴとキッチンを去った。
 
 そして、数十分後。
 僕の目の前には、先ほどと同じように炊き込みご飯と天ぷらが並べられていた。
 ……ただし、見た目も香りもさっきとは段違いだったが。
「す、すげぇ……!」
 僕は思わず唸った。そんな、同じ材料、同じ料理なのに、作り手が違うだけでこんなにも変わるなんて!
「い、いただきます!」
 僕は早速、ジャガイモの天ぷらを口に運んだ。
「う、うまい……!」
 衣はサクサク。中はホクホク。そしてかみ締めるたびに甘みが口いっぱいに広がっていく……!
「な、なんだこれ。ほんとに天ぷらなのか!?」
 天ぷらってもっとガリガリしてるものだと思ったのに。
 そして次に炊き込みご飯に手をつける。
「うっ!」
 甘すぎず、辛過ぎず、それでいて口の中に広がる旨味成分。
 醤油臭かっただけのあの炊き込みご飯とは比べるのもおこがましい……!
 
「う、う、うーまーいーぞーーーーー!!!!!!」
 
 あまりの美味しさに、僕は口から薄桃色のエクトプラズムを放出せざるを得なかったのだった……。
 
 そして、あっという間に平らげてしまった。
 
「は~、美味しかったぁ~。ごっそうさん!」
「はい、お粗末さまでした」
 
「いやぁ、まさか天ぷらと炊き込みご飯がこんなに美味いものだとは思わなかった」
「ふふふ、これからは毎日作ってあげるね♪」
「いや、それは悪いよ。不本意とは言え、数日は一緒に暮らすんだ。こういうのはちゃんと当番を決めて……」
「わ・た・し・が!作ってあげるからね♪」
 何故か、僕の意見は却下されてしまった。
 
「男子厨房に立たずって言うでしょ」
「僕、一応厨房なんだけど」
 意味が違う。
 
「とにかく、帰ってきて正解だったわ。まさか毎日あんなもの食べてたなんて……。やっぱりゆうくんには私がついてないと、うん!」
 気合いを入れるあいつに対し、悔しい事に僕は何の反論も出来ないのだった。
 
 
 
 次回
 
「いつもの四人でいつもの空き地に練習に行く俺たち。
だけど、そこには俺達の知らないMTBライダー達がたむろっていた!
あいつらは不良MTB暴走族のトゥルーティアー団じゃないか!!
また悪い事考えてるな!俺たち四人でお前らをやっつけてやる!!
かくして、領土を賭けた戦いが始まる!

次回、爆闘アタッカーショウ!!2nd『俺達の土地!プレイス・プライベート・オプチカル』

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