爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション第6話

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爆闘アタッカーショウ!!2ndエディケイション
 
 
第6話「サルとの戦い!モンキー・コング・チンパンジー!」
 
 
 
 
 夕食と入浴を済ませ、僕は我が自室でプライベートタイムを過ごしていた。
 
「ふん……!ふん……!」
 
「ふぅ……」
 
「う~ん、やっぱなんか物足りないな」
 僕は、自分の部屋で奮闘していたのだが、何かが足りないと感じていた。
 そう、一人では限界があるのだ。物足りないのだ!
 しかし、今は一人ではない。一人では物足りなくても、二人なら物足りる!!
 ここは、少し癪だが。
「あいつを使うか」
 こう言う時に有効利用しないと。何のために居候させてるか分からないもんな。
 
 僕は部屋の扉をあけ、居間に向かってあいつを呼んだ。
 
「おーー……!」
「呼んだ?」
 
「い……って、おわぁ!?」
 いきなり背後からあいつの声が聞こえて、思わずその場で尻餅をついた。
「てめっ!完全に呼ぶ前から現れんな!ってか、どこから現れた!!」
「ふっふっふ、お姉ちゃんを甘く見ちゃダメですぜ」
 
 甘く見たつもりは無いのだが……しかし、どうやって背後から?
 
「で、何の用なの?」
「え、そんだけ!?なんで甘く見ちゃダメなのか言えよ!!」
 
「なんで甘く見ちゃダメなのか聞く前に、自分の用件を言うのが礼儀だって、お姉ちゃんから教わらなかったの?」
「うっ……」
 それは、確かにそうだが。
 
「じゃ、時間が勿体無いから用件を手短に言うぞ」
「うんうん!」
 何故にそんな目を輝かせる。
 そんなに面白い依頼じゃないぞ。
 
「お前、僕に乗れ」
 僕は、簡潔に、分かりやすく、要望を伝えた。
 だと言うのに、こいつは目を見開いて、マジマジと僕を見つめてきた。
 
「ほ、本気……?」
「あぁ。いいから乗れ」
 言って、僕はうつぶせに倒れた。
「えぇぇえええぇぇ!しかもバック!?」
「早くしろ」
 うつ伏せになったままと言うのはなかなか息苦しいものだ。
 
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて」
 あいつが、何故か遠慮がちに僕の背中に覆いかぶさってきた。
「って、違うわボケェ!!」
「え、違うの?」
  
「あのなぁ……僕はこれから腕立て伏せをするから、それで上に乗って欲しいって言ってんの!」
「あぁ、そうなの」
 ようやく僕の意図を汲んでくれたらしい。
 
 そう、僕はさっきまで腕立て伏せをしていたのだ。
 なぜなら、MTBを上手く操作するためには腕の力が必要不可欠だからだ!
 しかし、ただ腕立て伏せするだけでは物足りなかった。だから重りが欲しかったのだ。
 
 そんなわけであいつは、腕立て伏せしやすいよう馬乗りになってくれた。
「よしいくぞう!」
 
 僕は早速腕立て伏せを再開した。
 背中に重量物を乗っけているので、それなりに負担になるはずだ。
 
「……15……18……14……37……」
 
 そして、50回をカウントした所で、僕は手を止めた。
 
「もういいよ」
「うん」
 あいつを下ろす。
「どう?鍛えられた??」
「う~ん……正直、微妙だ」
 僕は正直に答えた。
「えぇ!?お姉ちゃん、役に立てなかったの!?」
「あぁ。お前軽すぎ。体重50kg無いだろ。そんなんじゃ重りとしては成り立たないな」
 僕の言葉にショックを受けたのか、あいつは慌てて弁解しようとする。
「で、でもでも!重りとしては成り立たなくても、お姉ちゃんとしては……!」
「だから、認めてないって言ってんだろうが。しつけぇなぁ……」
 いい加減このやり取りも飽きてきたぞ。
 ここらでハッキリと言ってやらねばなるまい。
「同じ事を言うのはコレで最後だからな。
お前は、ただの、重りにならない女だ!」
 ズバッと言ってやった。
 女って奴は甘やかすと付け上がるからな。
 
「……」
 さすがにコレは効いたのか、項垂れてしまう。
 が、すぐに顔を上げた。
「その二人称だと、なんか姉弟って言うより夫婦みたいだよね♪」
「なっ……!」
 凄まじい開き直りをされてしまった。
「ねっ、あなた♪」
 言って、僕の肩に傾れかかってきた。
 
「ギエピーーーーーーー!!!!!!」
 
 僕は、今まで大きな過ちを犯していたのかもしれない。
 
 その後、『あなたあなた』と引っ付いてくるあいつを引っぺがしてなんとか放り出す事に成功した僕は、再び一人の時間を楽しんだ。
「ふぅ、全くあいつときたら……」
 どうしてこう、しつこく僕に構ってくるのかさっぱり分からない。
 あれだけ、強く拒否してるのに。酷いことだって、いっぱい言ってきたのに。
 
「ま、そういう性格なんだろうさ」
 他人から何と言われようと自分の好きな事を貫く。
 よく言えば一途。悪く言えばKY。
 まぁ、そんな感じなのだろう。
 深く気にする事は無い。
 
「いや、気にするべきか。このままズルズルしてたらあいつを追い出せないじゃないか」
 それは、マズイ。非常にまずい。
 このまま、あいつがこの家にいる事が当たり前になったら、僕は……!
 もう、あんな思いをするのは、厭だ。
 
「なんとか、しないとなぁ……」
 とは言え、あいつに強引な手段は通用しないだろうし。
 
「ふぁ……」
 
 いろいろ考えたら、急に眠気が襲ってきた。
「ん~、そろそろ寝るか」
 大きく伸びをする。
「っと、その前に」
 僕はおもむろに立ち上がり、部屋を出た。
 
「おトイレおトイレっと」
 寝る前にはおしっこをするものだ。
 僕は、自室を出てトイレへと続く廊下を歩く。
 ペタペタと、足の裏に冷たい廊下の感触がなんとなく気持ちいい。
 
 その時だった。
 ふと、どこからか女のすすり泣く声が聞こえてきた。
「っ!」
 僕は一瞬、硬直し、立ち止まった。
「……」
 息を殺し、耳を澄ます。
 
 おいおいおいおい冗談じゃないよ!
 家の中だってのに、幽霊さんですか!?
 うぅ、なんまいだぶつ!なんまいだぶつ!!
 
 僕は、頭の中でお経を唱えながら、声の出所を探った。
 
「?」
 それは、あっさりと見つかった。
 僕の部屋からトイレまでの道のりにある、あいつの部屋。
 その扉が、少しだけ開いており、そこから明かりと声が漏れていたのだ。
「……」
 僕は、なんとなく扉の隙間に視線を向けた。
 意外な事に、たったそれだけで部屋の中がよく見えた。
「っ!」
 その光景を見たとき、僕は再び硬直した。
 
 あいつの部屋で、あいつが……泣いていた。
 口に手を当て、声を必死で押し殺そうとして、それでも指の隙間から嗚咽が漏れている。
 瞳は、流すまいと堪えた涙が溜まっていているのか、部屋の蛍光灯に反射して輝いていた。
 
「……」
 わけが、分からない……。
 
 なんでだよ。
 だって、お前はいつも笑ってたじゃないか。
 なんで、泣いてんだよ。
 意味が分からねぇよ。
 お前は、何があっても無条件に笑ってられる人間じゃないのか?
 
 いや、そんな人間、いるわけないじゃないか。
 そんな、当たり前の事、僕が一番よく知ってるじゃないか。
 でも、じゃあその涙の理由はなんだ?
 
 ……いや、分かってるはずだ。
 でも、認めてしまったら、僕は……!
 
「……」
 僕は、視線を逸らし、足早にその場を去った。
 
 
 そして翌日。
 僕はいつものように、MTBとともに権兵衛との待ち合わせ場所にやってきた。
「よぉ、ユウジ。今日はちょっと遅かったな」
 既に待っていた権兵衛が、僕の姿を見つけると片手を上げてきた。
「あぁ」
 僕は、上の空で返事をした。
 そんな僕の様子に、権兵衛は敏感に反応する。
「どうした?」
「いや……」
 なんとなく、今日は、バトルって気分じゃない。
 
「今日はさ、バトルは中止して、歩いていかないか?」
 なんで、そんな提案したのか、自分でもよく分からない。
 しかし、権兵衛はすんなりとその申し出を受け入れてくれた。
「……そうだな」
 その口調には、何かを察しているような、そんな雰囲気が見え隠れしていた。
 
 学校までの道のりを、僕らは無言でMTBをついて歩いていた。
 いつもなら高速で流れる景色を、ゆっくり眺めながら歩くのが少し新鮮だ。
「あのさ……」
 なんともなしに、僕は口を開いた。
「ん?」
「えっと」
 話を切り出したのはいいが、何を言えばいいのか思いつかない。
「鬼の目にも涙……いや、違うか。おたふくの目にも?うん?」
 ヤバイ、何言ってんだかさっぱり分からない。
 あのまま黙っておけばよかった。
 
「お姉さんの事か?」
 
 要領の得ない話し方をしたにも関わらず、権兵衛はあっさりと核心をついてきた。
 それが、なんとなくムカついた。
 
「だから!認めてないって言ってんじゃねぇか!!なんで皆いっつも僕の意見は無視するんだよ!!!いい加減にしろ!!!」
 叫んで、後悔した。
 何マジでキレてんだよ、情けない。
 気まずくなって、僕は視線を逸らした。
 
 しかし、権兵衛は意外と冷静な口調で静かに言った。
「ユウジ。誰だって、実の弟や妹にそんな風に拒否され続けたら、いい気分はしないと思うぜ」
「……」
 分かってる。
 でも、だからって、僕が悪いわけじゃ……!
「お前の気持ちだって分かる。別にお前が悪いって言ってるわけじゃないし。誰もお前を責めようなんて思ってないさ」
「だったら……」
 なんで、泣く必要があるんだよ!
 ずっと笑ってろよ!平気な顔してろよ!
 あんなの見ちまったら、まるで、僕が悪いみたいじゃないか……!
 
 昨日の夜の、あの光景を思い出して思わず唇を噛んだ。
 そんな僕の様子に、権兵衛は小さく息を吐く。
「お前はさ、自分の感情に囚われすぎてて、相手の本質が見えてないだけなんだ」
 権兵衛の言葉が、耳に痛い。
 だけど、その音を遮る事は出来なかった。
「確かにあの人は、ちょっと強引でやりすぎな所もある。でも、あの行動の殆どがお前を思っての事ばかりだ。そこに、何か見返りを求められた事があるか?」
「……」
 権兵衛に言われるまま、あいつの今日までの行動を思い返してみる。
 そう、あいつの今までの行動は、全部僕のための事ばかりだ。
 見返りなんて何一つ求めない。
 
 いや、たった一つ。あいつが僕に対して求めてきたことがあった。
 僕が、頑なに拒否し続けてきた事。
 その、たった一つにさえも応えてやらなかった僕に対して、それでも、変わらずに尽くしてくれた。
 
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ……」
 僕は、投げやりに呟いた。
 
 あいつの望みどおりにしてやればいいってのか?
 でも、僕は頼んだわけじゃないんだぞ?
 なのに、僕は僕の気持ちよりもあいつの気持ちを優先しなきゃいけないってのか?
 全部、僕が間違っているから?
 そんなの理不尽すぎるだろ。
 
「さあな」
 僕の質問に対しての返答は、無責任なものだった。
「おい」
「最初に言っただろ。誰もお前が間違ってるとは言ってない。
仮にお前の判断が間違っていたとして、周りに正しいと言われた行動をしたとしても。
そこにお前の信念がなけりゃ、何の意味もない」
 
 権兵衛の言う事は、よく分からない。
「大事なのは周りにとって正しいかどうかじゃない。お前がどう思って行動したかだ。
お前は、お前が正しいと思うことをしろ。それが答えだ」
「だったら……!」
 最初から答えは決まってる。
 今までと同じ事を……!
 
「少なくとも、悩んでるって時点で、今までの考えは正しいとは言えないだろうがな」
「っ!?」
 僕は再び、思考の迷路へと堕ちていった。
 権兵衛に相談したのは、よかったのか、悪かったのか……。
 
 どうでもいいが、なんでこいつはこんなに偉そうなんだよ。
 
 
 今日の学校生活も、あいつに干渉されまくりで、しっちゃかめっちゃかだった。
 でも、なんとなく気分が乗らず、僕は強い態度に出る事もなく状況に流されていった。
 そんな僕の態度に、あいつもテンションが上がらなかったのか、それほど派手なアピールはしてこなかった。
 
 そして、放課後。
 僕は、権兵衛と一緒にゲーセンに寄り道してから帰路についた。
 朝はあれだけシリアスだった権兵衛だが、このときにはもういつものノリに戻っていた。
 
「ただいま」
 ボソッと呟いて、扉を開いた。
 靴を脱いで、重い足取りで居間に向かう。
 
「あ、ゆうくんおかえり~。遅かったじゃない」
「え」
 言われて、時計を見て気付いた。
 時計の針は、6時13分を刺していた。
「ゲーセンに、夢中になりすぎてて、時間に気付かなかったみたいだ」
「も~、寄り道しないでまっすぐ帰らなきゃダメだよ」
「しょうがないだろ。男には、ダチとの付き合いってものがあるんだ」
「全く……ほら、早く手洗ってらっしゃい。もうご飯出来てるよ」
 台所から漂ってくるいい匂いに、空腹だった事を認識した。
「うん」
 僕は素直に言われたとおりにした。
 
 
 今日の夕食の献立は、カツ丼だった。
 それもタダのカツ丼じゃない。
 肉の厚さが、尋常じゃないのだ。これは、10センチはあるか?
 だと言うのに、中まで火が十分に通っており、衣はサクサクだ。
 これは恐らく、最初は強火でサッと揚げ、その後に弱火でじっくりと揚げる『二度揚げ』と言う技術を使っているに違いない。
 確かにこれなら、分厚い肉でも丁度いい具合に上げる事ができ、分厚いがゆえに最高の肉汁を楽しむことが出来る。
 しかし、その手間も並大抵のものじゃない。
 学校に通いながら出来るような料理じゃないはずなのに。
 あいつは、それをさもなんでもない事のようにやってのけている。
 
「……」
 それだけじゃない。
 周りを見ても、チリ一つ落ちていない。
 掃除も行き届いていて、洗濯物も取り込んである。
 僕に構うために学校に通って、それでもやる事はキッチリやっている。
 
「ゆうくん……おいしくなかった?」
 考え事しててしかめっ面になっていたからか、あいつが不安そうな顔で覗き込んできた。
「あ、いや……凄く、美味しいよ。ありがとう」
 別に、誰もためでもない。ただ、嘘をつきたくなかったから僕は素直に褒めた。
「えへへ~。それじゃあ美味しいご飯を作ったお姉ちゃんに、ご褒美が欲しいな♪」
「ほ、褒美って……」
 僕は少したじろいだ。
 何言われるか分かったもんじゃないからだ。
 
 しかし、あいつの願いは、驚く程ささやかなもので。
 驚くほど、分かりきっていたものだった。
 
「一度でいいから、私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれないかな……?」
 少し遠慮がちに、その願いを口にした。
「……」
 ほんと、バカバカしい。
 たかだかそんな事のために、こんな手の込んだことをしてきたってのかよ。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 カバカバしい。
 バカバカしい。
 バカバカしい。
 
 でも、一番バカなのは……。
 
「あ、あぁ……」
 
 そんなささやかな願いさえも聞き入れようとしなかった。
 
「いつも、ありがとう……」
 
 僕、自身じゃないのか?
 
「姉さん」
 
 
「……」
 
「……」
 
 その言葉を口にした途端、二人の間に沈黙が流れた。
 
 僕としては、てっきりいつものテンションで抱きついてくるのかとばかり思っていたから身構えていたのだが。
 予想に反し、あいつは呆然とした顔つきで、固まっていた。
 まるで、悪魔に蝋人形にされてしまったかのように、微動だにしない。
 
「お、おい……?」
 少し心配になって声をかけてみた。
「あ」
 あいつの目から、ツーッと一筋の雫が頬を伝って、落ちた。
 昨日の夜でも、流れなかった、雫が、流れた。
「あれ?」
 自分の身に何が起こっているのか把握できてないのか、狼狽しながら流れ出る涙を拭う。
 しかし、涙はとめどなくとめどなく流れ続ける。
「ど、どうしたんだろう、私」
 拭っても、拭っても、止まらない。
「は、ははは。ごめんね、お姉ちゃんおかしいね」
 取り繕うための笑い声も、涙で震えている。
 
 
 
 僕は
 
 僕は……
 
 僕は、ゆっくりと抱き寄せ
 
 その涙を
 
 そっと拭った。
 
「ゆう、くん……?」
 泣き腫らして真っ赤になった目で僕を見上げてくる。
 僕は、その瞳に吸い込まれるように、見つめ続けた。
 
 言葉が、出ない。
 何を喋っても、きっと、何かが壊れてしまいそうで。
 そのまま、何も言えず、少しも動けずにいた。
 
「ゆうくん……あのね」
 ふと、こいつは神妙な顔つきになった。
 意を決して、何かを告白しようとしてるような、そんな気がした。
 
 僕は、黙って続きを聞こうとした。
 が、続かなかった。
 瞳から精彩が消え。
 抱きとめていた体に、フッと力が抜けた。
 
「え……!?」
 
 一瞬、何が起きたか分からなかった。
 
 でも、本能的に何かを察知したのか。
 僕は、無我夢中で叫んだ。
  
 
「お姉ちゃん!!」
 
 今までずっと拒絶してきたその言葉は、驚くほどあっさりと発せられた。
 
 
 
 
     次回
 
「ミナサンノスキナモノハ、ナンデスカー?
オー、オニク、ハンバーグ、オムライス?トテモトテーモ、オイシソウデース!
バット!デモ、オヤサイモチャントタベナイト、ダーメダメネー!
 
次回!爆闘アタッカーショウ!!2nd『好き嫌いは許さない!フルーティ・アボカド・スパイシー』
 
熱き闘志を、ダッシュ・セット!!」
 
 
  

 

 




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