第19話「It’s a enjoy world」
セレスティアの本拠地でプロフェッサーFと戦い、ヴァーテックスとエイペックスを失った達斗と翔也は新型機体を開発する事を決意した。それから二人は放課後毎日のように段田ラボに入り浸っていた。
そして、数日後の木曜日。
研究室に備え付けられている大仰な機械の前で達斗と翔也が緊張した面持ちで立っており、バンとリサが後ろでそれを見守っている。伊江羅博士は機械の横にあるキーボードを叩き、操作している。
「いくぞ」
伊江羅博士が静かに目配せすると、達斗と翔也は無言で頷いた。それを見た伊江羅博士は小気味良いリズムでキーを叩く。
タタッ、ターン!
すると、機械の蓋がゆっくりと白煙を上げながら開いた。
濛々と立ち込める煙の中に二つの機体のシルエットが浮かび上がる。
「こ、これが……」
「俺達の、新しいフリックス……」
達斗と翔也はお互いに目を見合わせてから、機体を手に取る。新しくもあり懐かしくもあるその感触に、二人の頬は自然と弛んだ。
「ひとまず成功だな」
バンが二人の肩に手を置いて笑う。
「はい!」
「ありがとうございます!」
バンと伊江羅は礼を言った後、翔也は新機体を目の前に掲げて達斗と目を合わせた。
「やろうぜ、タツ!こいつらの初陣だ!」
「うん!」
翔也の提案に達斗は強く頷き、二人は備え付けのフィールドへ向かった。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いっけぇぇ!スプリントヴァーテックス!!」
「飛べ!スピニングエイペックス!!」
合図とともに二つのフリックスが凄まじい勢いでカッ飛ぶ。
バゴォォ!!
フィールド中央で二機が衝突!スプリントヴァーテックスのフロントがスピニングエイペックスのサイドに接触した瞬間、凄まじい反発力が発生してスピニングエイペックスを一瞬で弾き飛ばしてしまった。
「よし、いいぞ!ヴァーテックス!!」
「す、すごい……」
リサが静かに感嘆を漏らすと、バンが得意げに解説する。
「スプリントヴァーテックスのフロントは内部にマグネットを搭載してるんだ!その反発で攻撃力は従来の2倍……いや、3倍のパワーだぜ!」
「やるな、タツ!でもエイペックスはまだまだこれからだ!!」
ヴァーテックスに弾き飛ばされた勢いで回転力を高めたエイペックスはフェンスにぶつかり、その反射で跳ね返ってヴァーテックスへお返しの一撃を喰わせる。
「っ!凄い回転力だ……!」
ヴァーテックスを弾き飛ばしてもなお回転を続けるエイペックスに達斗は驚愕する。
「スピニングエイペックスのサイドウィングの下部には磁石のウェイトが搭載されている。遠心力で浮き上がったウェイトがウィングの裏側に吸着する事で路面抵抗が減り、更なる遠心力で回転を加速させる」
伊江羅博士が解説した通り、スピニングエイペックスは更に回転力を増してフェンスの反射で何度も連続攻撃をする。
「こっちだって!」
ヴァーテックスも負けじとフロントパーツの反発を活かして壁やエイペックスとぶつかる事で勢いを取り戻して対抗する。
一回シュートしただけにも関わらず、何度も何度もぶつかり合う。
「スーパーX機体は、四つの力のうち重力のみ使っていた従来機から更に発展させて『電磁気力』を加えている。その二機が激突する事によって、凄まじい引力と斥力が発生するようだな」
それがこの現象の理由らしい。
宛ら、互いに引力と斥力を干渉させて永遠に動き続ける宇宙の星々の如く……。
「なんか昔思い出すな、リサ」
「うん」
それは、かつての大会決勝戦でバンとリサが決着を付けるために行った最後のアクティブシュートの再現のようだった。
バキィィィ!!
しかし、運動エネルギーは無限ではない。
ついに二機の勢いも尽きてスタート位置からほぼ同距離で停止してしまう。
「引き分けか」
「仕切り直しだね」
二人が停止した機体を手に取って仕切り直そうとするのを伊江羅博士が制止した。
「そこまでだ」
「え?」
「ちょっ」
伊江羅博士が二人の手から機体を取り上げて計測器へセットしてスキャンする。
「まだ途中なのに」
不満を漏らす翔也へ、伊江羅博士は淡々と答える。
「ブレークインとギミックの可動テストはこれで十分だ。あとは最終調整と仕上げ、それからSVチップのデータ同期をする」
「それってどのくらいかかるんですか?」
「そうだな……2.3日と言ったところか」
伊江羅博士は作業の手を止めずに少し考え込むように答えた。
「えぇー、それじゃ土曜日に間に合わないなぁ……」
翔也は肩を落としてガッカリした様子で呟いた。
「てっきり、今日完成するとばかり思ってたからね」
達斗も控えめに苦笑いする。遠慮がちではあるが、翔也と同様に達斗もガッカリしているようだ。
「土曜日、なんかあるのか?」
予想外な反応を示す二人を見て、バンは興味深げに尋ねた。
「クラスの皆とゴトーマガリカドーのフリックス大会に出る約束してたんです」
「機体の製造が完了するのが今日って聞いてたから、明日までに使いこなせば予定はちょうどいいかなって思ったんですが」
「あー、そういう事か。悪かったな、直近の大型大会まで日があるから余裕持ってたわ」
「ふむ、性能妥協して良いのなら作業を早めるが?」
淡々と提案する伊江羅博士だが、ある意味それは脅しに近い。
「いえ、遠慮します」
さすがに性能は犠牲に出来ないと翔也は即断った。
「残念だけど、大会はキャンセルしよう」
「そうだな」
こればっかりは仕方ない。
翌日の学校にて、翔也と達斗はクラスメイトのフリッカー仲間に事情を説明した。
「えー、なんだよまだ完成してなかったのかよ!」
真っ先に不満げな声を上げたのはシチベエだ。
「悪い、最終調整の事すっかり頭から抜けてた」
「んだよ、久しぶりにお前らとフリックスできると思ったのに」
「新型機体も楽しみにしてたのになぁ」
ぼやくシチベエとモブ太をガクシャとムォ〜ちゃんが宥める。
「まぁまぁ、そう言うことなら仕方ないよ」
「それにやっぱり新型機体のデビューはもっと大きな大会の方がいいもんね」
「ちぇ〜」
「それもそうだね……」
シチベエとモブ太は渋々ながら納得した。
「悪いな。……でも、次の土日も機体無しで過ごさなきゃいけないってのは憂鬱だな」
「そうだね……」
約束を破る事になったのは申し訳ないが、それ以上にせっかく楽しみにしていた予定が潰れた事のショックは当人達の方が大きい。
「ふっ、ベイベー。そんな君達に良いものがあるよ」
いつから話を聞いていたのか、スナ夫が話に入って来た。
「スナ夫、なんだよ良いものって?」
「これさ」
スナ夫は懐からチケットを二枚取り出して翔也と達斗へ渡した。
「『フリックスエンジョイポリス』?」
翔也が渡されたチケットに書かれている施設名を怪訝な顔で読み上げた。
「船橋のらららポートで開催されるフリックスの博覧会さ。よかったらどうだい?」
「博覧会ねぇ」
イマイチ気乗りしなさそうな翔也にスナ夫はちっちっちと指を振る。
「ノンノン、もちろんただの博覧会じゃぁないさっ。まだ未発表なフリックスの様々なプレイスタイルを体験出来るのさ!そのための貸出機もあるから、今の君達にピッタリじゃないかな?」
スナ夫のプレゼンに翔也と達斗は少し興味を示す。
「なるほどねぇ、ちょっと面白そうだな……。せっかくだし、行ってみるか」
「そうだね。ありがとう琴井君」
「ふっ、礼には及ばないさ。その代わりデータ収集には協力してもらうよ、ベイベー」
スナ夫はパンフレットを取り出し、その下の方に書かれている文字を指差した。
そこには『メインスポンサー:琴井コンツェルン』の文字があった。
「やっぱそう言う事か」
相変わらずちゃっかりしているスナ夫に翔也は苦笑した。
そして、土曜日。
翔也と達斗は内房線から京葉線に乗り換えて南船橋駅で降りた。
そこから線路沿いに徒歩数分歩いた先に国内でも最大級のショッピングモール[らららポート]がある。
休日という事もあり、家族連れやカップルなどでごった返している。
「エンジョイポリスはらららポートに入って2階の連絡通路を渡った先にある建物みたいだな」
パンフレットを見ながら場所を確認し、エンジョイポリスの前までやって来た。
さすが最新鋭の博覧会の入り口だけあって、煌びやかな装飾とまるでワープでもするのではないかと錯覚するような近未来的なトンネルの前に受付があった。右手には緑色のスタンプを持っている。
「ようこそ!新時代のフリックス博覧会、エンジョイポリスへ!」
受付のお姉さんが笑顔で応対する。
「中学生二人で」
翔也がチケットを渡すと、お姉さんは緑色のスタンプを台に置いて下から金色のスタンプを取り出した。
「はい、ファーストチケット二枚ですね。では、左手を出してください」
翔也と達斗はキョトンとしながらも言われるまま左手を出すと、お姉さんは左手の甲にスタンプを押した。
「失礼しますね、よいしょ♪」
しかし、甲には何の変化もない。
「これは?」
「人間の目には見えないインクで出来たウェアラブルコードです。ここに来場者の情報が記録されてるので、アトラクションに入る時や再入場の際はセンサーがデータを読み取ってスムーズにご案内出来るんですよ。あ、インクは1日で消えるのでご安心くださいね♪」
「へぇ、ハイテクだなぁ」
二人は何も描かれていないいつも通りな左手の甲を興味深げにマジマジと見つめた。
受付も終わったので入口のトンネルへ足を進める。
「では、楽しんできてくださいね♪」
歩みを進める二人の背中へお姉さんは手を振り続けた。
「まるでディスティニーランドみたいだね」
「あの琴井コンツェルンがメインスポンサーだし、相当金掛けてるんだろうなぁ」
そんな会話をしながらトンネルを抜ける。
パァッと目の前が開けると、そこには様々な展示物で彩られている楽しげな空間が広がっていた。
「うわぁ……!」
達斗は思わず簡単の声を上げた。
小さい頃から店の手伝いで忙しく、滅多に遊園地などにいけなかった達斗にとって、様々な機械やネオンに軽快な音楽で演出されたこの世界はまるでパラダイスのようだった。
「思ってたよりクオリティ高いなぁ。こりゃ楽しめそうだ!」
翔也の口元も緩む。
「ね、翔也!どこから行こうか?」
「まぁ落ち着けタツ。スナ夫からもらったこのパンフレットによるとこの特別イベントは、ただアトラクションを楽しむだけってわけじゃ無いらしいからな。ちゃんと計画立てないと」
「そうだった。確か各アトラクションをクリアした得点が記録されて、最終的な総合ポイントで順位が決まるんだっけ?」
「そうそう、入賞者は秘密の豪華特典があるらしいけど……絶対俺達でゲットしてやろうぜ!」
「うん!」
早速向かって左側へ行こうとする達斗を翔也が止める。
「あー、待て待て!最初はこっちの方がいい」
「なんで?」
「こう言う施設は皆が自然と右回りに行こうとするように設計されてるんだ。ほら」
翔也が周りを指差すと、確かに人の流れは達斗が行こうとしていた方向へ動いている。
「じゃあこっちでいいんじゃ」
「だからだよ。流れについていったら混雑して順番が来ないだろ。だから敢えて逆に周ってやるのさ!」
「さっすが翔也!冴えてる!!」
「へへへ!って事で、まずはこっちからだ!」
得意げな翔也が先導して最初のアトラクションへ向かうが……。
既に長蛇の列が形成されていた。
「最後尾はこちら!ただいま60分待ちで〜す♪」
プレートを持ったお姉さんが待ち時間を告知する。
「「ズコーーーー!!!」」
当てが外れた翔也と達斗はズッコケた。
「翔也、逆周りなら空いてるんじゃなかったの?」
「おっかしいなぁ……」
仕方ないので二人は素直に最後尾へ並ぼうとする。
すると、列整理していたお姉さんが二人を呼び止めた。
「あ、あなた達はファーストチケットなのでこちらへどうぞ♪」
と言って、隣の入口へ向けて五指を揃えた手を丁寧に差し出す。フレンドリーな雰囲気だが、所作がいちいち美しく隙がない。
「え、こっち?」
二人は戸惑いながらも案内された入口を進む。
他にも何人か歩いている人がいるが、先ほどの列と違いガラガラに空いている。
「なんで僕達こっちでいいんだろう?」
「あ、そうか!ファーストチケットってそう言うことか!」
「え?」
「よーし、タツ!ガチで入賞狙えるかもしれないぞ!ガンガンやろうぜ!」
「う、うん……!」
こうして、二人が最初に入ったアトラクションは[リアルタイムマニューバゾーン]と言うエリアだった。
まずは受付で説明を受ける。
「では、こちらのコンベックスバリケードをどうぞ」
と言って渡されたのは、コンベックスメジャーの先端にバリケードが取り付けられている不思議なツールだった。
「これって、メジャー?」
「はい、こちらを使って『ステップ無限』や『ジョスリングプッシュ』の要領で機体をリアルタイム操作して様々なサブゲームにチャレンジするのが、このリアルタイムマニューバになります♪」
「ステップ無限やジョスリングプッシュって事は、シャーシ真上の部位やシュートポイントをバリケードで押して動かすって事か」
受付の後ろには大きなモニターがあり、操作説明の動画が映し出されている。
「構造はメジャーと同じだから伸ばせば立ったまま地べたの機体を操作出来るんだね」
「アクチュアルのマニューバモードに似てるなぁ、それをリアルでも出来るようにしたって事か。でもメジャーだから強い負荷が掛かると折れると。操作抵抗の少ない機体選びと操作が必要になるな」
マニューバモードとはトリニティ第13〜14話の赤壁杯予選で行ったアクチュアルでレースする時のモードの事である。
操作方法は大体分かったので、次はレンタル機体の選択だ。
机の上にズラッと複数の種類の機体が並んでいる。
どれもオフロード走行に向いていそうな形状だ。
「俺はこのプロトライゼにするか。タイヤがデカいしサスペンションもついてるからバリケードへの抵抗が少なそうだ」
「僕はロードクローラーにしようかな。ローラーがついてるし、壁にぶつかってもリカバリーが早そう」
「ちなみに、本日レンタルしていただいた機体やツールはご退場の際に購入する事も可能なのでご検討くださいね♪」
今までで一番良い笑顔でお姉さんが言った。
(ちゃっかりしてるなぁ)
それぞれ使用機体が決まった。
エリア内にはいくつもサーキットが設置しており、それぞれ自由に5人くらいが集まってレースが出来るようだ。
翔也と達斗はその中の一つのサーキットを選んでスタート地点に着いた。
5人のフリックスレーサーがマシンとコンベックスバリケードを構えてスタートの瞬間を待っている。
ピッ、ピッ、ピッ、ピーーーー!!
レッドシグナルがグリーンに変わった瞬間、レーサー達は一斉に走り出した。
「いけー!ロードクローラー!」
「頼むぞ、プロトライぜ!!」
シャアアアアア!!!
快調なスタートダッシュを決めてトップに躍り出たと思った二人だが、頭ひとつ抜けて一人のレーサーが飛び出す。
「ヒャッハーーー!ブッちぎれぇ、ローラキエーター!!!」
先端にスキッドローラーのついたロケット型のフリックスだ。
どことなく、名機『ミルフィーユラキエータ』を彷彿とさせるデザインをしている。
「は、速い!?」
「なんてスタートダッシュだ……!」
「見たかこのロケットスタート!ローラキエータは軽量小型だから加速力抜群だぜ!!」
ローラキエータを駆る小柄で気の強そうな少年が得意げに叫ぶ。
「や、やるなぁ……!」
ローラキエータは他の機体と比べてかなり小さい、それ故に初速の負荷が小さいのだろう。
「これがブッちぎりの贄味念二(にえみねんじ)様の走りだぜ!俺様こそが世界最速、いや千葉最速という事を今日証明してやる!!」
「でも、僕だって!!」
シャアアアアア!!!
達斗のロードクローラーも徐々に加速していき、ローラキエータを追いかける。
「げっ、意外と伸びるな……!」
「このマシン、なんかスピード出しやすい!」
「くっ!」
ダッシュで飛び出たローラキエータ、加速して追いかけるロードクローラーに対して、プロトライゼはスピードの伸びを欠いて引き離されていく。
「まだまだ勝負は始まったばかりだ。頼むぞ、プロトライゼ……!」
そして次なるセクションに入り、ローラキエータとロードクローラーがガタ付き始める。
「えっ!?」
「げぇ、デコボコ道だ!!」
凹凸だらけの路面だ。これではスピードが出せない。
「ここは、ギャップを避けながらじゃないと進めない……!」
「つまんねぇコース考えやがってぇ!!」
「今度は俺の番だ!!」
凹凸に足を取られる他の二台と違い、翔也のプロトライゼは地形をほぼ無視して真っ直ぐに突き進み、トップに躍り出た。
「なにぃ!?」
「この凸凹道を、まるでフラットコースみたいに突っ切った!?」
「ビッグタイヤとサスペンションの力さ!」
「くっそぉ、舐めるなよぉ!」
念二はローラキエータの上部パーツにバリケードを梃子のように引っ掛けてウィリーさせた。
前輪が浮く事によってギャップを乗り越えやすくしたのだ。
「そんな走りが!?」
「このままブッちぎりだ!!」
シャアアアアア、ガッ!ドゥーーーン!!!
ウィリーさせたまま猛加速し、ギャップを利用して一気に大ジャンプした。
「飛んだ!?」
「抜けええ!!ラキエータダイナマイト!!」
ローラキエータは大ジャンプで翔也とセクションを飛び越えてトップに返り咲いた。
「無茶苦茶な走りするなぁ……!」
そしてレースは最終セクション。グネグネと左右に振れるS字が続くウェーブセクションだ。ゴールはその先にある。
「くっそ、まためんどくさい……!でもゴールは目前!一気に突っ切るぜ!!」
シャアアアアア!!!!
ウェーブセクションを前に最高速まで加速させる念二だが……。
ガッ!バキィ!!
フェンスにぶつかってローラキエータはコース外に飛び出てしまった。
「しまったぁぁ!!!」
「さすがにオーバースピードだな」
翔也は慎重にコーナリングしながら念ニの横を通り過ぎる。
「とは言え、俺もここじゃスピードは出せないな」
ゆっくりだが、確実にコーナーをクリアしていく。
「大分離されちゃったな……!」
遅れて、達斗も最終ウェーブセクションに到着。
しかし、翔也はかなり前にいる。追い付くのは難しそうだ。
「路面はフラットだからスピード出したいけど……!」
オーバースピードはコースアウトの元だ。やはりこの状態から勝つのは無理か……と思った瞬間。
「ん……?」
達斗の目に、光の軌道が見えた。
このウェーブコース、一見曲がりくねっているが、その真ん中は直線になっている。
マシン一台分の幅しかないが、ここを真っ直ぐ突っ切ればストレートコースと変わらないはず。
「いけるか……?」
グッ……!達斗はコンベックスバリケードに力を込めてマシンのスピードを上げた。
「ゴールまであと少し……このレース、勝ったな」
悠々とトップを走り、勝利を確信する翔也だが……。
シャアアアアア!!!
背後からマシンのタイヤ音が聞こえ、振り向いた。
「なにぃ!?」
達斗とロードクローラーが、ウェーブセクションの真ん中を真っ直ぐ突き進んで猛追撃していた。
「ウェーブの真ん中を……なんて直進性だ!?」
「ロードクローラーのリアタイヤは二輪のゴムタイヤが一本のシャフトで繋がってるから、リアに荷重を掛けながら走れば直進安定性が高いんだ!」
シャアアアアア!!!!
どんどんプロトライゼとロードクローラーの差が縮まる。
「ちぃ!」
「いっけぇ!リアダウンフォース走法!!」
ゴールまでのラストコーナー!
ついにロードクローラーがプロトライゼを捉える。
「抜かせるな、プロトライゼ!!」
ガッ!!
ロードクローラーが最終コーナーを突き抜ける直前、プロトライゼがロードクローラーの前に出てブロックした。
「防がれたっ!?」
「軌道がバレバレなんだよ!いっけぇ!!」
ブロックして吹っ飛ばされた勢いを利用して加速したプロトライゼはそのままゴールを突き抜けた。翔也の勝利だ。
「へへへ、俺の勝ち!」
「あぁ、やられた〜!」
翔也に大量のポイントが入る。
「悔しがってる暇はないぜ、タツ!もっといろんなアトラクションを攻略してポイントゲットだ!」
「そうだね!」
このリアルタイムマニューバゾーンだけでもまだまだ沢山のサブゲームが用意されている。
一回の勝負で一喜一憂するよりも切り替えてタイパを意識した方が良い。
次に選んだのは『空中レース』と言うアトラクションだ。
「フリックスで空中レース?」
目の前にはとてもフリックスが走れなさそうな荒い路面や段差の多いコースが広がっている。
「なになに、コンベックスバリケードに機体を乗せて運ぶ事で擬似的な飛行を再現?機体の重さや横幅に応じてコンベックスの長さを縮める事が出来る……なるほどな、よく考えたもんだ」
「前に水上戦はやった事あるけど、まさかフリックスで空中戦が出来るなんて思わなかったよ」
翔也と達斗は空中レースに向いた機体をレンタルする。
「このフライトジャターユがいいな。軽いから負担が少ないし、羽が広がるからその分メジャーを縮められる」
「僕はこの千葉ラキエータにしようかな」
それぞれレンタルが終わり、レーススタートする。
「くっ、これ難しい……!」
コンベックスの上に機体を乗せて走るのはかなり難易度が高い。達斗はバランスをとりながらフラフラと歩みを進める。
「思った通り、羽が広がる機体の方が有利みたいだな!」
翔也はジャターユのウィングを広げる事でメジャーを縮め、安定した飛行で突っ走る。
しかし……。
ビュウウウウ!!
突如突風が吹き、ウィングが煽られてジャターユが落下する。
「しまった!横幅が広いとこうなるのか……!」
「ここなら僕が有利だ」
小型機体は風の影響が少ない。達斗が追いつく。
「それなら、俺は風を読んで行くぜ……!」
翔也は逆に翼が受ける風を利用する事で機体を安定させる。
まさに、風を利用して飛ぶ鳥と大気を無視するロケットの戦いだ。
……。
次は『レーザーブラスター』のブースだ。
「このペンライトみたいなのを機体に取り付けて、銃型のリモコンをコンベックスバリケードと接続させれば良いんだな」
ペンライトは粘着ジェルで取り付けるのでどの機体でも手軽に付け外しができる。
「銃型リモコンのトリガーを押すとペンライトからレーザーが発射されて、6回敵機にレーザーを当てたら勝ち……かぁ」
「フリックスでレーザーサバゲー出来るのか、すげぇな」
「コンベックスバリケードで遊びの幅がかなり広がってるんだね」
「構造的に地上戦も空中戦も出来そうだし、いろいろ遊んでみるか!」
「うん!」
こうして、リアルタイムマニューバゾーンを楽しみ尽くした二人は次のゾーンへ足を運ぶ。
次に辿り着いたのは『フューチャーゾーン』だ。
「ここは未来的なイメージのものがいろいろあるみたいだな」
「ハイテクなのかな?」
二人の目に入ったのは、ドリルや振動剣と言った電動武器などのハイテクな装置が搭載されているフリックスだった。
「うわぁ、凄いギミックだなぁ!」
「おもしれぇけど、こういうのってバトルじゃ使いこなすの難しいんだよなぁ」
「そうなんだ?」
「まぁ、俺は好きだけどさ。けど、実戦じゃロマンだな」
そんな風に会話していると、グルグルメガネをかけた白衣の男に声をかけられた。
「ふっふっふ!そんな事はないよぉ!これは高位フリップスペル『ディシジョンアームズ』専用の機体達さぁ」
「高位フリップスペル?」
「ディシジョンアームズ?」
「今までのフリップスペルとは一線を画す効果の事さ。バトル中に、電動の武器や振り下ろしハンマーなどのアームズを使って条件を満たせば相手機体のパーツを除外する事が出来る……いわば、部位破壊要素!!」
「へぇ、部位破壊……確かに今までにないなぁ」
「面白そうだね」
「あぁ、体験してみるか!」
電動ギミックの機体をレンタルしてバトルをしてみるが……。
「なにこれ癖つよっ!」
「思ってた以上に安定しないな……!」
使い熟しに苦労してまともなバトルにならなかった。
「電動ギミックってこんなに難しいんだね……」
「でも良い経験になったな。今後はこういう機体を使うフリッカーも出てくるかもしれない」
「そうかなぁ?」
「相手のパーツを除外出来るってのは結構厄介だからな。どんなに強い機能も無力化されちまう」
「確かに……」
そんな考察をしながら次へ進む。
今度はVRゲームのようなものが設置してあるブースだ。
巨大なモニターの中で動物型のマスコットキャラクターがひしめき合っている。
「なになに、ここは『フリップトラベラーズ メタバース』の体験版か」
「フリックスのゲームかぁ!凄いなぁ」
「フリトラ自体は昔からあるけどな。けど、一作目のアレブラの頃からかなり進化してるなぁ」
「そうなんだ?」
「あぁ、元々フリトラはコマンド式のRPGだったんだ。アクティブバトルをアクションじゃなくてコマンドで再現したって所が当時は凄かったんだぜ!……まぁ、俺は生まれてないけどさ」
「ははは……」
蘊蓄を語る翔也に一人の男が話しかけてきた。
スタッフなのだろうか、名札には『ジョン・レフター』と書かれている。
「おお、若いのに随分詳しいですね。そう、このフリトラシリーズは一人の優秀なプログラマーの手によってアクティブバトルの面白さを広く伝えるためにコンピュータRPGという媒体に落とし込んだ作品なのです。しかし!コマンド式なのはあくまで当時の技術や資金の問題で已む無くという結果であり、本懐ではないのです。この最新作である『メタバース』は、かつてのRTA世界記録保持者の僕がこのシリーズの本質的な精神を汲み取って進化を促すために開発を進め……」
いきなり早口で上機嫌に語り始めた。
「は、はぁ……」
(途中からよく聞き取れなかった)
「ところで、フリトラって言ったらアレブラ……アレンとブライトっていう二人の人間キャラクターが主人公でしたけど、今回はこう言う動物的なキャラがメインなんですね?」
画面の中で動いているのは二頭身の動物マスコットキャラだ。
「よくぞ聞いてくれました!実は彼らがこのような形態を取っている理由は僕らの関与するところでは無いんだ」
「え?でも開発、したんですよね……?」
「ふふふ、実はこのキャラクター達は一人一人が成長学習繁殖能力を持ったAIを搭載した、言わばバーチャルの人工生命体なのさ!」
「バーチャルの、人工生命体……?」
「なんでまたそんなものをフリトラシリーズに……」
「フリトラ……つまり、バーチャルフリックスの行き着くべき先は、独自進化した新たな生命体が統治する仮想空間世界の創造!その中でフリックスがどう扱われ、進化していくかを経過観測していく事だと気付いたのさ。
そこで、生命の誕生から文明の発展までシミュレーションプログラムを組み、そこにフリックスの各種データ送り込んで進化を促した……途中謎のダークウェブから匿名でベルゼバビウムとか言う怪しいパッチが送られて世界が崩壊しかけた事もあったが、こちらもキリニウムと言うパッチで修正し、この二つのパッチの相乗効果で進化はより速度を増した。このままどこへ行き着くのか楽しみでならないよ。さぁ、君達も一緒にこの世界の行く末を……あれ?」
ジョンが語っている間に、翔也と達斗はその場を離れていた。
「タツ、ここはやめとこうぜ」
「そだね……」
賢明な判断だ。
次に来たのは『マインドゾーン』だ。
「ここはマインドゲームがメインみたいだな」
「マインドゲームって?」
「将棋とかトランプとか、頭使って遊ぶゲームだな。ほら、あそこ見てみろよ」
翔也が指差した先には、テーブルを挟んで二人の少年がカードゲームをしている。
「俺の行動終わったから、山札からドロー!……うーん、良い手札来ないなぁ」
「じゃあこっちのターン!ちょうどビートヒットのカードがあるし、確実にトドメだ!」
どうやらステータスの決まっている機体カードを一枚相棒として設定し、手札には『その機体での行動を選択するカード』を持っているようだ。
「カードゲームで上級アクティブバトル再現してるのは凄いな」
翔也は感心した。
次に二人が見たのは『イマージュアクティブバトル』と書かれているブースだ。
そこでは、愛機をまるで守神のようにフィールド外に設置し、オーブマインを『駒(依代)』のようにしてフィールドに設置。
ダイスを振って、その結果で駒を動かしたり、攻撃技を繰り出して戦っている。
「カードゲームの次はボードゲームかぁ」
「うーん、でも僕は普通にフリックス操作したいなぁ」
「あ、でもこのイマージュアクティブバトルってボードゲームみたいにやる奴と普通にバトルする奴とで異種戦出来るみたいだぜ?」
「え、ほんと?じゃあ戦わせてもらおうかな……ロードクローラーだと不安だから千葉ラキエータで行こう」
「俺はフライトジャターユで勝負だ!」
飛行で使用した機体は比較的普通のフリックスに近い構造をしているので、通常のシュートにも対応しているだろう。
二人はイマージュアクティブバトルでボードゲーム的にバトルしているフリッカーに対して物理的に勝負を挑んだ。
達斗はドラゴン型の機体をフィールド外に設置している少年と勝負している。
「まずは移動しながらMPチャージだ」
イマージュ少年はサイコロを振って出た目に応じて駒(依代)を移動させて達斗からの攻撃から逃げる。
「駒(依代)の物理的な性能はフリップマインと同じみたいだけど……なかなか狙いが……!」
しかし、相手の移動はサイコロに依存しているので、出目が悪いとあまり移動出来ない。
「しまった!①が出ちゃった!」
「よし、今なら!千葉ラキエータは軽いけどマインくらいなら飛ばせる!」
達斗は相手の依代(フリップマイン)に狙いを定めてぶっ飛ばす。
「やった!フリップアウト!しかもオーバーに……って、あれ?その駒って本体じゃないから場外させても5ダメージしか入らないの!?」
「そういう事。それじゃ俺のターン、MP6消費してモチーフアビリティ『ドラゴンブレス』!」
相手機体から龍の息吹が放出され、大ダメージが発生した。
「うわぁ!一気に12ダメージ!?」
「コツコツMP貯めたからさ!」
「やるなぁ……!でもこれでMPはなくなったし、あと二回フリップアウトすれば勝てる!」
……。
次はギャンブルっぽい雰囲気の場所だ
「ラックアップバトル……HP6でフリックスバトルをしてその内容に応じた点数を獲得、それを繰り返して点数を重ねていくって言う感じらしい」
「なんか、格闘ゲームのリザルトみたいだね」
「あー、でもこれお金かかるみたいだなぁ。あそこでメダルを購入して、それをベットして遊ぶみたいだ」
「うーん、もうお小遣いないからなぁ……」
「思ったより使わされたからな」
レンタル機体を次々と購入していった結果、財布が少し寂しくなっていた。
「あ、でもこっちのラックアップバトルから発展したって奴はタダみたいだぞ。なになに……高位フリップスペル『オーダープロトコル』?」
「これも高位フリップスペルなんだ」
「って事は普通のバトルに導入出来る要素なのか。えっと、攻撃するとダメージが入る代わりに対応するアイコンカードを獲得出来て、手に入れたアイコンの組み合わせで役を作って、その得点がダメージになる……」
「なんかややこしそう」
「まぁ、ようはポーカーとか花札みたいなもんだな。カードを手に入れる行為をフリックスの攻撃に置き換えてるって感じ」
「ふーん……」
なんとなく、分かるような分からないような。
「……へぇ、5回ビートヒットしたら作れる『ファイブビート』って役は一気に15ダメージなのか。これなら物理的な性能で劣ってても立ち回り次第で互角にやり合えるな」
オーダープロトコルの役一覧を眺めながら、翔也は感心した。達斗はイマイチ分からない顔をする。
「それにしてもこの博覧会、思ってた以上にフリックスに革命を与えそうだな」
翔也が思慮深く呟いた。
「そう?サブゲームばかりだったけど……」
「いやフリックスってさ、方向性は無数にあるとはいえ結局シュートの上手さとか機体性能の高さが有利になりやすい競技だろ?でもこの博覧会で展示されてるのはそれに一石を投じるものばかりだった」
「あっ!」
翔也の言葉に、達斗もピンと来た。
普通のバトルではあまり使われない性能や機能が強みになるリアルタイムマニューバ。
強い機能を無効化する可能性を持つディシジョンアームズ。
物理性能や身体能力を一切使わずに戦えるイマージュバトル。
簡素な造形機でも戦略的な立ち回りで大ダメージを発生させられるオーダープロトコル。
「これから、俺達の想像を超えるスタイルのフリッカーがどんどん現れるかもしれない」
翔也は生唾を飲み込みながらそう言った。
「でもさ翔也、それって……」
達斗は翔也と目を合わせた。
二人は頷いて同時に口を開く。
「「ダントツに面白そうだな!」」
二人の声は息ピッタリに揃った。
つづく









