第16話「全てのフリッカーが平等なパラダイス」
5月下旬の平日昼下がり、神田家。
下校した達斗は自室に戻ってカバンを置き、ベッドに倒れ込んだ。
「あーーー、テスト終わったーーー!!!」
長かったテスト期間を無事終えた開放感に身を任せ、達斗はベッドの上にうつ伏せになった。
「うぅ〜〜、疲れたぁ……」
このまま仮眠取ろうかなと思った時、ドアがノックされた。
「どぞー」
うつ伏せのまま入室の許可をすると、ドアの開閉音と美寧の声が聞こえてきた。
「たっくん、お疲れ様。テストどうだった?」
「んー、自己採点だと多分平均は取れたと思う」
「そっか、良かった。たっくん頑張ってたもんね」
「美寧姉ぇにも勉強見てもらったしね、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして。それじゃ、頑張ったたっくんにご褒美あげないとね」
「ご褒美?」
その魅力的な単語を聞き、達斗は上半身を起こした。
「じゃーん!」
達斗の目の前にはセーラー服を着た美寧が両手でスカートを広げて立っていた。
「み、美寧姉ぇどうしたのそれ!?」
「ふふふ、湊から借りたんだぁ♪」
よく見ると、名札には湊の苗字である『安房』の文字があった。
(そう言えば、入学式の日にそんな事話してたような)
「たっくん、セーラー服フェチみたいだからね〜。どう?似合ってる??」
「いや、まぁ、似合ってはいるけど、別にフェチって訳じゃ……」
正直、達斗にとって美寧は常に可愛い。普段の制服姿だって十分に魅力的だ。
しかし、普段着ない衣装はまた新鮮な魅力がある。セーラー服であろうとなかろうと、その新鮮な魅力を纏っている今の美寧の姿が眩しくて達斗は顔を赤らめて目を逸らした。
((か、かわいい……!))
すると、美寧の息遣いが少しずつ荒くなってく。
「美寧姉ぇ……?」
「ご、ごめんね、たっくん……もう、ご褒美は終わりみたい……!」
「え」
美寧の目が血走り、瞳孔が開いていた。そして、両手で内なる獣を押さえ込むかのように自身の身体を抱きしめていたが、そんな抵抗も虚しく少しずつ両手が開かれていく。
「も、もうダメ……こ、これ以上、抑えられない……!」
「な」
ガバッ!!!
まるで、猫の可愛さに辛抱堪らなくなった人間が無理矢理猫吸いするように、美寧は達斗へ抱きついて胴体に顔を埋めた。
「はぁ、はぁ!!たっくん!!たっくんんんん!!!!」
「ちょ、美寧姉ぇ!?」
「スー、ハー、スー、ハー!!」
「や、やめ!これじゃセーラー服着た意味無いじゃん!」
「ご、ごめんね、もうたっくんに綺麗なセーラー服姿見せられないの……!」
「そんなシリアス風に言われても!」
「ハァハァハァハァハァハァハァハァ!スリスリスリスリ!!」
このままでは自分の姉が理性を失った化け物になってしまう。
そんな危機感を覚えた達斗は渾身の力を込めて叫んだ。
「シャアアアアア!!!!」
まさに猫の威嚇だ。
その迫力にさすがの美寧も正気を取り戻した。
「久しぶりに威嚇された……」
「まったくもう……」
「ご、ごめんね、つい我慢出来なくなって……」
「そんな事するから、制服クシャクシャになったじゃん。湊さんに怒られるよ」
美寧のセーラー服は皺だらけになっている。先程美寧の言った通り、もう綺麗なセーラー服姿は拝めなくなった。
「だ、大丈夫だよ。ちゃんと洗濯してアイロン掛けるから」
美寧は苦笑いしながらそう取り繕う。
「なら良いけど」
(それに、たっくんの匂いがついたまま返したくないし)
「っ!」
一瞬、美寧の表情から感情が消え、部屋の温度が下がったような気がした。
「あ、そうだ。それより、たっくんに封筒が届いてたよ」
「封筒?」
「はいこれ」
部屋に入った時に置いたのか、美寧は机の上にある封筒を手に取って達斗に渡した。
「どこからだろう?」
達斗は封筒を開けて中に入っている手紙を読んだ。
「……セレスティア主催フリックス大会……イクヲリティーカップ!?」
それは聞いた事のない組織からのフリックス大会の招待状だった。
しかもその大会名には不穏な単語が使われている。
「っ!」
達斗はスマホを手に取って電話をかけた。
「もしもし、翔也?もしかしてと思って……そっか、やっぱり翔也にも届いてるんだ……うん、そうだよね。一応バンさんに相談した方がいいよね。じゃあまた後で」
ある程度話をして電話を切る。
「何かあったの?」
「ちょっとね。今から翔也と一緒に段田ラボに行ってくる」
「それは良いけど、もしかして手紙の件で?」
「うん……日曜にやる大会の招待状だったんだけど、この間のライブに乱入してきたフリッカーの関係者からかもしれないんだ」
「えぇ!?」
「だからバンさんに相談しようと思って」
「そうだね、その方がいいよ。気をつけて」
「うん、いってきます!」
幸い、今日はテストで早く帰れたのでまだ日は明るい。
翔也の家で集合し、2人でラボへ向かった。
「えぇ、出張!?」
2人を出迎えてくれたのは所員の人である山田さんだった(バン視点第2話参照)。
「うん、先日からギリシャに行ってて留守なんだよ」
「そんなぁ……」
「いつ頃帰るか分かりますか?」
「うーん、そこまでは……緊急の用事としか聞かされてなかったので……」
山田は困り顔で申し訳なさそうに答えた。
「ですよね……突然の訪問失礼しました」
「いやこちらこそ、せっかく来てもらったのに申し訳なかったね」
タイミング悪く、バン達は留守にしていた。
仕方がないので、バンと翔也はラボを後にして行くアテもなくぶらぶら歩く。
「はぁ、よりによってこんな時に出張だなんて……」
「仕方ないよ、バンさん達だって忙しいだろうし」
「まぁな。でも、大会は次の日曜日。今日が金曜だから、あと2日しかない」
「とりあえず、バンさんにはメッセを送っておこう」
達斗はスマホを開いてバンへ事のあらましをメッセで送った。
「うーん、なかなか既読付かないなぁ」
「ギリシャにいるなら7時間時差あるし、まだ起きてないかもな」
「あ、そっか」
「バンさんの判断を待ってる時間はないかもしれない。俺達でどうするか考えようぜ」
「うん」
達斗と翔也は近くの公園に足を運んだ。
ベンチに座り、それぞれがもらった招待状を出してそこに書かれている文章を分析する。
「内容まとめると、送り主は『セレスティア』と言う組織のプロフェッサーFなる人物。そして、大会の目的はその組織で開発している『イクヲリティー』の最終テストのために腕に覚えのあるフリッカーを招待した、と」
「イクヲリティーって、あのガントレットの事だよね」
「あぁ、写真見る限りだとそうだろうな」
手紙にはイクヲリティーを示す写真も入っていた。その形状はまさしくこの所騒がしているフリッカーが付けていたガントレットで間違いない。
「こんなもののテストプレイなんか、付き合ってやる義理はないよな」
「うん。それに、どう考えても罠だと思う」
「あぁ、何されるか分かったもんじゃない」
「普通なら、無視した方がいいんだろうけど」
「最後に不穏な事書いてるんだよなぁ……『大会での最終テストが不十分だった場合、野バトルで最終テストを実施する』って」
「それってつまり」
「脅しだな。俺らが大会に参加しなかったら、これまで以上に暴れてやるぞって言う」
「……だよね。あんな事、もうやらせるわけにはいかないけど」
「でも、釣り針がデカすぎだよな……ん?」
なかなか方針が決まらず悩んでいる2人の前に見た事のある少女がトボトボと歩いているのが見えた。
「あれ、メイたん?」
私服なので一瞬分からなかったが、保科メイが顔を隠そうともせずにしょぼくれた表情で翔也達の方へ振り向いた。
「あ、翔也様に達斗君……」
元気なく返事した後、メイは2人側まで歩いてきた。翔也は場所を詰めてメイをベンチへ座らせる。
「ありがと」
「いえいえ。ところで、メイたん今日はオフなの?」
「ん、うん……ほんとはお仕事あったんだけど、急にキャンセル入れられちゃって……最近、スケジュール空いちゃう事多いんだ」
メイはそう言ってため息をついた。
「やっぱり、あの件が原因で?」
「うん……万が一を考えて、リモート系とかファンと完全隔離されるイベント以外はプロデューサーが全部断ってるの。はぁ、もう最悪……」
「そっか……残念だね……」
「ファンと触れ合ってこそのアイドルだってのに!」
翔也が憤る。こうして、厄介な客によって真っ当なファンの楽しみが狭まってしまうのだ。
「そういえば、メイたんってサインスターズっていうグループの元メンバーなんだよね?」
「うん、そうだよ……あの子達と同じ」
「その、グループで何かあったの?なんか、ただならぬ感じだったけど……」
「……」
達斗の問いに、メイは口を紡ぐ。
「おい、タツ」
「あ、ごめん!言いたくなかったら良いから!」
慌てて謝る達斗に、メイは首を振る。
「ううん。むしろ、2人には聞いて欲しいかも……」
そう言って、メイは一呼吸置いてポツリポツリと話し始めた。
「あたしね、小さい頃からアイドルに憧れてて、それでいろんなグループのオーディションに応募したんだけど、結果は惨敗で……それで最後の望みをかけて応募したのがあのサインスターズだったの」
メイは昔を懐かしむように遠い目をした。
「サインスターズは、12星座をモチーフにしたキャラ作りをするって言うのがコンセプトのグループで、実力や人気よりもそのコンセプトに合ってるかの方が重要だったの。
あたしは……正直、あたしよりも実力ある子はいっぱいいたし、今回も無理かなって思ってた。けど、あたしと同じ羊座でキャラが被ってる子がいなかったみたいで、それだけが理由で受かったんだ」
「メイたんに限って、それだけって事はないと思うけどな!」
「それは今のあたしを知ってる翔也様だからだよ。他のメンバーはファンクラブの中に専属ファンがいたんだけど、あたしにはつかなかったし……。
それでもね、念願のアイドルになれてすごく嬉しかった。ただ、やっぱり心のどこかで後ろめたいと言うか、実力じゃないのにここにいて良いのかなって想いがずっとあって……。
それに、サインスターズって、星座の他にもう一つ方針みたいなのがあって」
「平等……」
達斗は、バンやトオルから聞いた話を思い出しながらつぶやいた(バン視点第6話参照)。
「そう、だから実力なんか関係なくみんなと同じ様に出番が与えられて、キャラが与えられて……」
「キャラって言うと、『迷える子羊』とか言われてた気がするけど」
「それがあたしの与えられた立ち位置。建前上は『守ってあげたくなる妹系』って言う意味なんだけど、本音は『実力も無い癖にこの場に迷い込んだ場違いな子』って言う嫌味を込めて、メンバー達がプロデューサーに口添えして決まったの」
「なにそれこわっ!」
「いじめじゃん……」
「……形だけの平等にメンバーもスタッフも内心嫌気が差してたんだろうね。だからこう言う形でしかストレスを発散できなかったんだと思う」
「それで、メイたんはグループを辞めたんだ」
「うん。きっかけは、生配信の企画でメンバー同士のフリックス大会をやって優勝した事だった。初めて誰かに勝った事が嬉しくて、それで自分の力で活動したいなって思って……その後、琴井社長にスカウトされたんだ」
「そっか……メイたんがグループ脱退したおかげで今の俺とエイペックスがあるんだよなぁ」
翔也はエイペックスを眺めながら感慨深げに言った。
「でも、あたしが抜けた後にサインスターズは解散して、なのにあたしはこうやってソロで活動を続けてる……メンバーやファンからしたら、あたしがグループを壊した裏切り者って思われてもしょうがないかも」
メイの声音がどんどん悲しげになっていく。
「何言ってんのさ!そんなのメイたんの自由じゃん!!」
悲しげな雰囲気を壊すように、翔也は明るく声を張った。
「翔也様……」
「よーし、メイたん!バトルしようぜ!」
翔也は勢い良く立ち上がった。
「え、バトル?」
「だって、せっかくのオフなんだから遊ばないと勿体ないし!」
「でも、フィールドは……」
「心配すんな」
翔也は公園の空いている一角へ足を運んだ。
そこには長方形のタイルとボタンがある。
「ここか」
ガコン!
翔也がボタンを押すと、ゴゴゴゴゴ!と地響きを立てて地面からフィールドが生えてきた。
「うわぁ、地面からフィールドが!」
「何驚いてんだよ。千葉の公園なんだからこのくらい当たり前だろ」
「そ、そうなんだ……」
千葉すげぇ。
「と言っても簡易的な奴だから普段はわざわざ使わないけどさ」
翔也の言う通り、特に何も障害物やフェンスもない長方形の真っ平なフィールドだ。
いや、よく見るとフィールドの縁全体に1mm程度の段差が付いている。
「さ、やろうメイたん!」
「うん!」
翔也に誘われ、メイもコメットを手に取って立ち上がった。
そして、翔也とメイはフィールド前に立ってバトルに興じる。
「飛べぇ!エイペックス!!」
「煌け!トゥインクルコメット!!」
フィールド内を二つのフリックスが縦横無尽に駆け巡る。
「あはは、いい動きだよ!コメット」
「やるな、メイたん……!」
いつものアイドルとしてのメイではなく、フリッカー保科メイとしてのバトルは生き生きとしていた。
「これで決めるよ!イオンテールファシネーション!!」
メイが縁による反射を利用して不規則な動きでマインヒットを極めようとする。
「躱わせ!!」
バッ!
しかし翔也はステップでバリケード上部を引っ掛けてエイペックスをジャンプさせた。
「す、ステップでジャンプ!?」
「からの〜!」
ストンッ!
エイペックスはマインの上に着地した。次のターンここからシュートしてコメットに当たるだけでマインヒットで翔也の勝利だ。
「これで決める!!ブライテンオービット!!」
「逃げるよ、コメット!!」
エイペックスのシュートに合わせてステップで回避するコメット。
カッ!
しかし、エイペックスは縁に反射してコメットを追いかける。
コメットもまた反射して軌道を変える。
「急旋回だ!エイペックス!!」
ブワッ!
エイペックスは片側だけグリップを落とし、それを軸にして大きく旋回。反射して軌道を変えたコメットを先読みしてショートカットし、掠めるようにヒットした。
「あっ!」
「おしっ!俺の勝ち!!」
「あぁ、捕まっちゃった〜!あははは!!」
メイの負けだが、メイは心から楽しそうに笑っていた。
「メイたん、すごく楽しそうだね」
アイドルモードとは違い、素の笑顔を見せるメイの姿が新鮮に映った達斗は思わずつぶやいた。
「そりゃそうだよ!だって自分の本気を出し切って、翔也様の見た事ない技を引き出して負けたんだもん!すっごく楽しいよ!!」
「俺だってそうさ!メイたんにあそこまで逃げられちゃ、自分の力絞り出して何がなんでも追っかけたくなる!めちゃくちゃ面白いバトルだった!」
「えへへ、やっぱりあたしフリックスのこういうところ好きだな」
「こう言うところ、って?」
「自由に、自分の好きな事や自分の得意なやり方を出し切って、誰ともバトル出来るところ!力が強くなきゃいけないとか、シュートが上手くなきゃいけないとか、凄い機体を作れなきゃいけないとかそう言うのじゃなくて、自分のやりたい事が出来るの!」
「やりたい事、か……」
「あたしがアイドルでやりたかったのもそうなんだ。あたしの好きで、あたしの得意で、皆を楽しませたい!だから……こんな所で凹んでなんかいられない!今出来る事の中からメイのやり方を掴めば良いんだ!」
メイの目に輝きが戻る。
「さぁ、2人とも!もっとバトルしよう!
次は達斗君の番だよ!!」
すっかり元気になったメイは次の相手に達斗を指名する。
「うん!」
こうして、3人は日が暮れるまでフリックスに興じた。
メイと別れ、達斗と翔也は帰路に着く。その道中、達斗は意を決した様に口を開いた。
「翔也、やっぱりあのガントレットフリッカーはほっといちゃいけない気がする」
達斗の言葉に、翔也は大きく頷く。
「そうだな」
「罠なのは目に見えてるけど……」
「いや、おもしれぇじゃねぇか!敵組織の内部に潜入するチャンスだ!罠くらい突破してやろうぜ!!」
「うん!」
こうして、達斗と翔也はセレスティアの招待を受ける事にした。
そして、日曜日の昼時。達斗と翔也は会場へ向かった。
招待状に書かれている住所は千葉県流山市のとあるビルだ。
その地下7階が会場らしい。
「ここか……」
達斗と翔也は固唾を飲み込んでその中に足を踏み入れた。
受付を済ませてエレベーターに乗り、会場にたどり着く。
場内は薄暗く、乱雑に瓦礫が散乱しており、とても大会が開かれるような場所には見えない。
「ほんとにこんな所で大会やるのかな?」
「いや、如何にも敵組織って感じでおもしれぇじゃねぇか」
カッ!!
突如照明がつき、達斗と翔也は眩しさに目を細める。
少しずつ光に慣らしながら目を開けると、その前にはガントレットをつけた5人の男女が立っていた。
その中の4人には見覚えがある。
「牛見トウキに的場テル!」
「粟倉クレア、尾針サリア!」
「久しぶりだど」
「へっ、わざわざ来やがったか」
「歓迎してあげましてよ、オーッホッホッホ!」
「たっぷり可愛がってあげるわよ、ボウヤ達」
その中で、真ん中にいる唯一見覚えのないメガネをかけた痩せ型の少年が咳払いをして一歩前に出る。
「んんww達斗氏に翔也氏とはお初でしたなww小生の名前は『後藤エンキ』以後お見知り置きをww」
これで全員の名前を把握できた。
「それで、大会の運営はどうなってるんだ?まさかこんな所でいきなりバトルロイヤルさせる気か?」
「フィールドとかはないの?」
「この建物はARでアクチュアルバトルに対応してるからフィールドなどなくてもその場でバトル出来ますぞww」
「そ、そうなんだ……」
「じゃあ、今からやるのか!?」
アクチュアル対応となれば即バトルが出来る。油断したら不意を突かれるかもしれないと身構えた。
「まぁ、暫しお待ちをww今からプロフェッサーFの有難い講説が始まりますのでww」
「講説?」
大会前の説明の事だろうか?そんな事を考えていると、会場の奥の照明が届いてない場所からカツカツと足音が近づいて来た。
「っ!」
暗闇から現れたのは白衣を着て仮面で素顔を隠した長身の青年だった。
その仮面には見覚えがある。
「ま、まさか、あの時の……!」
そう、本編第3話で的場テルを追い詰めた時にいきなり現れた仮面男だ。
「私が、プロフェッサーFだ。神田達斗に天崎翔也、我がセレスティアへようこそ。喜ぶが良い、君達は選ばれた。アセンションに至る事が出来るフリッカーとして」
「この人が、プロフェッサーF……!じゃあ、あの後に的場テルを引き入れたのか……!」
「彼は正しい思想を持っていながら、それを実現するための手段を得ていなかった。だから私が啓示を与えたのだ」
プロフェッサーFはそう言いながら右手に付けているガントレットを見せつけた。
「ガントレット……!」
「イクヲリティーって奴か、結局それってなんなんだ!?」
「これはAIによってありとあらゆるフリッカーに適切なシュート方法、戦術を提案する補助具だ」
プロフェッサーFの説明したガントレットの真相に、2人は驚愕する
「AIで戦術のサポート!?」
「それって、アリなの?」
「フリックスは、厳密には将棋みたいなマインドスポーツじゃないから外部からのアドバイスとかは特に禁止されてないんだ。そもそも、その場にいなきゃ適切なアドバイスなんて不可能だし、それを受けた所で実現出来るかどうかはフリッカーの腕次第だから」
「そっか。何が適切かなんて本人じゃないと分からないもんね」
フリッカーの特性は人それぞれ全く違う。となれば外部からアドバイスした所でそれが勝利に直結するとは限らないのだ。
「だが、その不可能を可能にしたのが、このイクヲリティーなのだよ。AIによって膨大なデータを処理し、どんなフリッカーでも最強になれる手段を提示出来る」
プロフェッサーFの表情は仮面で隠れているが、声音はどこか自慢げだ。
「なるほど、アセンションってそう言う事か!それで自分の所属フリッカーを最強にして、フリックス界の頂点に立つ気だな!!」
翔也が自分の推理を披露する。競技界の悪の組織が考えそうな事だ。
「違う」
「え」
あっさりと否定された。
「私の望みは、世界の望みに等しい」
「は?」
「ちょっと何言ってんだか分からない」
いきなりスケール違いな事を言われて困惑する。
「では、逆に聞こう。世界中の人々が最も多く望んでいるであろう理想郷とは、なんだと思う?」
「え、フリックスとか関係なく?えーっと、なんだ……世界平和、とか?」
唐突な質問に、翔也は戸惑いながらも答えた。
「翔也、いくらなんでも安直だよ」
「しょうがないだろ、咄嗟に思い付かないって!」
あまりにも子供染みた解答に呆れる達斗だが……。
「正解」
「え」
プロフェッサーFは何の臆面もなく答えた。
「私は、それを実現するためにセレスティアを作り、イクヲリティーを開発したのだ」
「な、何が何やら……」
「それとこれとどう繋がるんだ……」
言っている意味が分からなくてちんぷんかんぷんだ。
「そうだろうな。君達の協力も得たいが、まずは理解して貰う必要がある」
プロフェッサーFがパチンッと指を鳴らすと、5人のセレスティアフリッカーが一斉に声を上げた。
「「「イクヲリティー、セット!!!」」」
「い、いきなりか!?」
翔也と達斗はフリックスを構えるが、プロフェッサーFがそれを制する。
「まずは見ていなさい。大会前のデモンストレーションだ」
「デモンストレーション?」
いつの間にか、セレスティアフリッカーはそれぞれ距離を取り、互いに敵対する様な立ち位置になっている。
そして、彼らの目の前に機体のホログラムとスケールアップ用の魔法陣が現れた。
「はじめなさい!!」
「「「3.2.1.アクティブシュート!!」」」
その掛け声で、セレスティアフリッカーの機体が一斉にスケールアップする。
「さぁ、全てのフリッカーが平等なパラダイスの始まりだ!!!」
つづく