弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第11話「出航!フリッカークルーズ」

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第11話「出航!フリッカークルーズ」

 

 GFCスプリングが終わり、達斗は残り少ない春休みを満喫していた。
 リビングのソファに座り、テレビを垂れ流しながらヴァーテックスのメンテをしている。
「よし、良い感じに仕上がってきた」
 達斗のメンテ技術もなかなか上達しているようで、ヴァーテックスは綺麗に光を反射している。
「たっくん、春休み終わったらもう中学生なんだからいつまでもダラダラしてちゃダメだよ〜」
 流しで洗い物をしている美寧が小言を投げる。
「分かってるよ」

 ピンポーンと、チャイムが鳴る。
『どうもー、茶トラネコヤマトの宅急便でーす!』
 インターホンからそんな声が聞こえる。

「宅急便?なんだろ?」
「あ、もしかして中学の制服届いたのかな?たっくん、早速着てみよう!」
「えぇー、これから翔也達と約束あるのに」
「裾上げとか必要かもしれないし、試着はしなきゃ。ほら、早く玄関出て」
「はーい」
 達斗は渋々玄関に出て荷物を受け取った。
 しかし、リビングに戻った達斗の手にあるのは小包でありとても制服が入るような大きさの箱ではない。

「…… たっくん、何それ?」
 洗い物を終えた美寧が手を拭いて達斗へ近づく。
「いや、分かんない……さすがに制服入ってるわけないよなぁ」

 なんともなしに箱の裏側を見てみる。
 送り主は『琴井コンツェルン芸能プロ』と書かれていた。

「琴井……?」
 スナ夫から何か来たのかなと思いつつ、達斗は小包を開けた。美寧も覗き込む。
 そこにはチケットが二枚と『保科メイフリッカークルーズツアー』と書かれたパンフレットとDVDが付属していた。

「ほ、保科メイ!?」
「クルーズツアー?」

 とりあえず、達斗は付属しているDVDを再生した。

『やっほー!皆のアイドル、保科メイだよぉ〜⭐︎』
 テレビには港を背景に、水兵コスをしたメイが映し出されていた。
『今日は皆にビッグなお知らせだよぉ!なんと、元海軍船長の宇波セントさんとのコラボイベント!【保科メイと行くフリッカークルーズツアー】の開催を決定しちゃいまーす!』

「フリッカークルーズツアー?」

 画面に豪華な客船が映し出される。

『見てください!これが豪華客船【琥珀号】でーす!!おっきいですねぇ〜!この中には、豪華な客室、レストラン、温水プールにスパはもちろん、いろんなバトルができるフリックスフィールドもいっぱいあるんですよぉ!!
こんな至れり尽くせりな一泊二日の船旅を抽選で100名のフリッカーにプレゼントしちゃいま〜す!!』

「すっごーい!たっくん、もしかして抽選に当たったのかな!?」
「い、いや、抽選も何も応募してないんだけど……」

『それから、GFCスプリングで大活躍したフリッカーも特別に招待してますよぉ!ツアー中に大会もやるから楽しみにしててね!』

「そっか、それで……」
 優勝者の達斗は当然として、メイの友達として美寧も特別に招待してくれたのだろう。
「たっくん!!」
 ガバッと美寧が急に抱きついてきた。
「やったね!船旅だよ船旅!!しかも、クルーズ!!」
「み、美寧姉ぇ、急に抱きつかないでよ……!」
「だってぇ!憧れのクルーズだよ!?琥珀号なんて私達庶民には一生縁がない超高級客船なんだから!!」
「そ、そうなんだ……」
「うわぁ、何着て行こうかなぁ。そうだ!新しい水着も買わなきゃ!」
「水着なんて、学校のがあるじゃん……」

「え」
「え?」

 達斗の何気無い一言に美寧は固まった。そんな美寧の反応が理解出来ず、達斗は戸惑う。
「たっくん……」
 美寧は達斗を可哀想な目で見たのち、スマホを取り出して電話をかけた。

「あ、もしもし翔也くん、突然ごめんね。クルーズツアーのチケットってそっちにも届いてる?……あ、やっぱり。それで悪いんだけど、今日ちょっとたっくん急用が出来ちゃって……うん、そう……お察しの通りだよ……だから今日は一日たっくん借りるね。うん、じゃあまたね」
 スマホを切ると、美寧は達斗の方を向いた。
「それじゃ、行こっか」
「へ、行くって?ってか、なんで翔也に電話したの……?」
「水着買いに行くに決まってるでしょ。翔也君には断りの電話入れておいてあげたから」
「は?何勝手に!?だいたい、水着なら美寧姉ぇ1人で買いに行けばいいんじゃ……」
「たっくんのも買いに行くの!!!」
「は、はい」
 いつにない美寧の迫力に、達斗は素直に頷いた。

 ……。
 …。
 そして、達斗と美寧は船橋のショッピングモールへと赴いた。

「じゃーん!どう?たっくん」
「う、うん……」

「うーん、こっちの方がいいかな?」
「え、うん」

「ねね、これはこれは?」
「あ、うん」

「ちょっと派手かなぁ」
「いやー、うーん」

 ショッピングモールに着くなり、案の定と言うか早速美寧の試着という名のファッションショーが始まった。
 最初はスカート付きのワンピース水着から始まり、少しハイレグなタイプ、そしてフリル付きスカートビキニ、装飾の少ないシンプルなビキニ、チューブトップタイプ……と徐々に過激になっていく。

「ねぇたっくん、ちゃんと見てる?」
「み、見てるよ……!」
 露出が増えて来ると、達斗は目のやり場に困るのか露骨に目が泳ぎ出している。
「うそ、ずっと目逸らしてるじゃない。もっとよく見てくれないと決められないでしょ」
「うぅ……」
 そんな事言われても……達斗はなるべく早く終わらせてしまおうと頑張ってチラチラと美寧のビキニ姿に視線を送る。
 程良く発育した胸に、ほっそりとしたウェストのギャップ。そして適度に肉のついた太ももに釘付けになりそうなのを必死で耐えて紳士を装おうとしているのだが……。

「たっくん、そんなふうにチラチラ見てる方が逆にいやらしいよ?」
「っっっ!!!!!」

 思春期のムッツリ男子の儚い努力をアッサリと打ち砕いてしまう女性目線の容赦なき一言!!!
 達斗は顔を真っ赤にして叫んだ。

「帰るっっっ!!!」

「あぁ、ごめんごめん!待ってぇ〜!!」

 機嫌を損ねて帰ろうとする達斗を美寧は必死で引き留めた。

「帰りにアイス奢るから!マザー牧場産のソフトクリーム奢るからぁ!!」
「……分かったから離れて」
 水着姿で後ろから抱きつかれながら喚かれる方が恥ずかしいので達斗は観念した。

「それで、たっくんはどれが良かった?」
「……最初の奴」
 達斗はなるべく露出の少ないワンピース型の水着を選んだ。
「んーそれも良いけどちょっと子供っぽいなぁ」
「別に子供っぽくて良いんじゃ……あんまり、その、アレなのは……」
「たっくん、今度行くところは市民プールじゃないんだよ?社会にはドレスコードって言うのがあってTPOに合った格好しないと逆に恥ずかしいんだからね。着慣れてるものばかりじゃダメなの」
「それは、そうかもしれないけど……」
 場所はそうでもイベント自体はフリッカー向けなんだからそんな気合い入れる必要ないんじゃ……と思ったが言ったところでまた言いくるめられそうだ。
「あ、もしかしてたっくん、お姉ちゃんの肌を他の人に見られたくないとか思ってるぅ?」
「思ってないっ!!!」
 懲りずにまたからかってきたので達斗はそっぽを向いた。
「ご〜め〜ん〜!……それじゃあもうちょっとバランス考えたの選ぼうかな」
 と、美寧は再び物色を始めた。
 結局、9割美寧の水着選びで時間が過ぎてしまい、達斗の水着は一瞬で決まった。

 ……。
 …。
 そして、ツアー当日。
「美寧姉ぇ、やっぱり荷物多すぎじゃない?」
 リュックを背負ってるだけの達斗に対して、美寧は大きなキャリーをガラガラと引いている。
「女の子はいろいろ入用なの」
「たった1泊2日なのに……」

 千葉みなとで受付を済ませ、達斗と美寧は船内のエントランスホールに入った。

「船の中なのに、まるでホテルみたいだ」
「すごいね、たっくん。すごいね」
「うん、すごい……」

「語彙力なくなってんぞ、タツ」
 船内の豪華な作りに感嘆を漏らしている姉弟に翔也が話しかけてきた。
「あ、翔也」
「おはよう、翔也くん」
「ども」
「語彙力もなくなるよ。こんな凄いとこに招待されるなんて夢にも思わなかったし」
「フリックスって凄いんだねぇ」
「い、いや、俺もフリッカーやっててこんな事は初めてなんですが……」
 凄いのはフリックスではなく企画を立てた保科メイの方だ。
「まぁなんにせよせっかくの機会なんだから楽しもうぜ」
「そうだねぇ……あぁ、憧れの高級リゾート……」
 美寧は船内の煌びやかな内装にうっとりとしている。
「ははは……まぁ、リゾートもそうだけど、招待客が招待客だからな、そっちも楽しめそうだぜ」
「うん」
 翔也に言われて周りの人達を見てみる。
 GFCで見かけた事のあるような腕に覚えのあるフリッカーも多数参加しているようだ。
 そして、その中には……。

「やっぱ、あいつも招待されてるよな」
「不動、ガイ……!」
 達斗と翔也の会話が聞こえたのか、ガイが振り向いたので2人はガイの方へ歩み寄った。
「お前達か」
「よぉ、招待されてるのは当たり前だけどお前も来たんだな、意外だぜ」
 当たり前だけど意外、とはまた変な日本語だ。
「どう言う意味だ」
「いや、なんか似合わねぇなって」
「翔也……」
 無遠慮な翔也の言葉に達斗は呆れるが、ガイはそれに対して肯定した。
「それは俺も同感だ。このような浮ついた場は趣味ではない」
「じゃなんで来たんだよ」
 翔也の至極当然なツッコミに対して、ガイはエントランスに特設されたステージへ目を向けて答えた。
「一つ、確かめたいことがあってな」
 ステージでは水兵衣装のコスをした保科メイがマイクを持って壇上に上がって来た。
「おっ、メイたんだ!あの衣装動画でも観たけど、生で見るとますます可愛いな、タツ!」
「え、あ、うん」
 達斗が条件反射で頷くと、背後から美寧のおどろおどろしい声が聞こえて来た。
「ふーん、たっくんはああいうのが良いんだ?へー、ふーん……うちの中学私が入学した年から制服選択制になってブレザーの方選んじゃったからなぁ……セーラー服はさぞ新鮮で可愛いよねぇ?」
「あ、いや……翔也!僕に振らないでよ!」
「ははは、わりぃわりぃ!でも、美寧さんセーラー服も似合いそうですよね」
「え、ほんと?どうかな、たっくん?」
「そ、そんなの……決まってるし……
「でへへ〜……湊、セーラー制服選んでたから、今度借りてみようかなぁ〜」
(水兵衣装とセーラー服は微妙に違うような気が……)
 わちゃわちゃしはじめる三人とは別に、ガイは頬を赤らめて顔を顰め、心臓を抑えて後ずさった。
「ぐっ……!」
「どうしたんだ?」
「具合でも悪いの?」
「それはこの旅でハッキリさせるつもりだ」
「???」
 訳の分からない事を言いながら、ガイは歩き去っていった。

(何故だ……あの女を見ると血圧が上がり、動悸が激しくなる……一体、なんなんだあの女は……!)
 ガイは正体不明の感情に耐えながら歩みを進めた。

「なんだあいつ」
「船酔いかな?」
「まだ出航してないだろ」
 挙動不審なガイを疑問に思いつつも、ステージでは保科メイがイベントのための司会進行を始めた。

『皆ー!今日はフリッカークルーズにようこそ!可愛いメイたんと一緒に、メイっぱい楽しもうねー!!』

 ヴォォォォォイ!!!!
 野太い声が響く。
 招待されたのはGFCで活躍したフリッカーだが、抽選に応募したのがフリッカーだけとは限らないのだ。

『今回の旅は、ここ千葉みなとから出発して銚子で折り返す一泊二日の船旅になってまーす!
その間、この客船内の施設は自由に使い放題!ゲームセンター、温水プール、カジノ、レストラン、好きな時間に好きな所に行っても良いんだよ!もちろんフリックスバトルや工作ができる設備も充実!存分に満喫してね!
それと、メイたんのライブやフリックス大会もやるから、スケジュール表をしっかりチェックしてね!』

 ある程度の説明を終えると、いつの間にかメイの隣に現れたヒゲモジャの中年男性にマイクが渡された。

『では最後に船長の宇波セントさんからのご挨拶です❤️』

『どうも、ご紹介に預かりました。船長の宇波セントです。今回は保科メイさんと素晴らしい企画を立ち上げられた事を改めて喜び申し上げます。
えー、このようなツアーを企画した経緯といたしましては、私自身お恥ずかしながら息子の影響で大のフリックスファンでございまして。自分の保有する船の中でトップフリッカー達のバトルを見てみたいと言う願望があったのです。
本日は是非とも皆様にお楽しみいただき、そして素晴らしいバトルを見せていただければ幸いでございます。
それでは、良い船旅を!宜候!!』

 船長の挨拶も終わり、それぞれ自由時間が始まった。

「タツ!なんか宇波船長が保有してるフリックスの展示室があるみたいだぜ!行ってみないか?」
 パンフレットを見ながら翔也が達斗を誘う。
「へぇ、面白そうだね!美寧姉ぇはどうする?」
「んー、私は先に荷物置きたいから部屋に行ってるね」
 リュックを背負ってるだけの達斗や翔也と違い、さすがに大きなキャリーを引きながら船内散策するのはキツイだろう。
「分かった。じゃあ一時間後くらいにエントランスで合流して一緒にご飯食べよう」
「うん!」
 部屋番号は確認していないが、三人とも別部屋だろうから集合時間と場所を軽く決めて自由行動する事になった。

 って事で達斗と翔也はフリックス展示室へ足を運んだ。
「うわぁ、見た事ないフリックスがいっぱいだぁ!!」
「さすが、船長だけあって船型がメインなんだな」
 主に戦艦型のフリックスを好んでいるようだ。

 

那克&刻矢

帝刃

「元風、亜舞、那克&刻矢、帝刃……名前も独特だなぁ。あ、白帝ってフリックスカッコいいなぁ!」

白帝

「造形が細かいな。バトルだとちょっと強度が心配だけど、観賞用としてならすげぇクオリティだ」
「観賞かぁ……でもせっかくなら見てるだけじゃなくてバトルさせたいよね」
「まぁ理想はそうだけど、見た目重視のフリックスだって良いもんだぜ。そこから生まれるものもあるし!」
「ふーん……でも僕はやっぱり戦えた方が良いなぁ。このキャップ砲艦とかプラスチックのキャップ発射できて面白いし、雪爪も相手を運び出すアームなんて変わってるなぁ」

 

「ってか、この砲台飾りかと思ったらほんとに弾発射できるんだな……なになに、エギス級ミサイル巡洋艦にヘル・ボーン……」

ヘル・ボーン

「あ、翔也!あのモニターにバトルしてる映像あるよ!」
 達斗が備え付けてあるモニターを指差した。

『さぁ、大盛り上がりのグレートフリックスカップもいよいよ準決勝です!対戦カードはダンガ君VS宇波カイト君!カイト君は今大会最年少ながらここまでよく健闘しました!』
 モニターから真島アナウンサーの声が響く。

「おっ、ほんとだ。3.4年前くらいのグレートフリックスカップかな」
「真島アナウンサーが実況してたんだ……」
 テレビっ子の達斗は真島アナウンサーの事は知っていたようだ。

『波に身を任せる船のように、出航だ〜!!』
『波には魚だ!キメラビースト・ハシカンスコンボ!!』

 戦艦フリックスと青い水棲生物型フリックスとの熱い激突が繰り広げられていた

牙帝

『いけぇ、牙帝!!』
 バキィ!!
 しかし、牙帝は惜しくも敗れてしまう。
『美味かったぞ、お前とのバトル』
『うぅ〜、バトルで船酔いしたぁ……』
 バトルが終わり、モニターの映像が再び最初の場面に戻りループする。

「なかなか良い勝負だったな」
「うん、どっちも凄かったね!」
 館内を堪能している達斗と翔也へ15歳くらいの少年が話しかけて来た。
「いやぁ、昔のバトルを観られるのは恥ずかしいなぁ〜」
「え……!」
 この少年はまさに今映像で見た戦艦フリックスの使い手が成長したような姿をしていた。
「初めまして、船長宇波セントの息子カイトです。クルーズを楽しんでもらえてるようで僕も嬉しいです」
 やや年上の少年に丁寧な挨拶をされて達斗と翔也も畏まって頭を下げた。
「あ、ど、どうも……」
「確か君は、GFCスプリングで優勝した神田達斗くん、ですよね?それに、天崎翔也くん」
「僕らの事、知ってるんですか?」
「そりゃ、招待客の条件だし。それに昔GFCに出た事ある身としては、大会で活躍してるフリッカーには興味ありますから。こうして会えて光栄です」
「それは、こちらこそ、どうも」
「それにしても、ここ凄いですねぇ。展示されてるフリックスは全部宇波さんが製作されたんですか?」
「ははは、フルスクラッチのものは子供の頃に父に作ってもらったものばっかりです。僕が作れたのはブロック玩具とかを組み合わせたこいつとか、大会で出した牙帝とか……」

レゴ艦

「へぇ……戦ってみたいなぁ」
 達斗が思わず呟くとカイトは頷いた。
「じゃあせっかくなんでやります?」
「良いんですか!?」
「もちろん!そう言うイベントですし!あっちに面白いフィールドがあるんですよ!」
 そう言ってカイトは達斗と翔也を奥へ案内した。

 そこには、水の入った水槽があった。
「これが、フィールド!?」
「そう!水上フリックス!!」
「水上フリックス……噂には聞いた事あるけど本当にできるとは。さすがクルーズツアーだ」
 カイトは浮きのようなものを水に浮かべた。
「これがマインの代わりですよ」
「うわぁ、ほんとに機雷みたいだ!」
「タツ、水のフィールドは本体が全部水没しても場外と同じ扱いになる。なるべく機体は軽くした方が良いぞ」
「分かった」
 翔也に言われ、達斗はヴァーテックスの錘を外し、シャーシもノーマル仕様にした。

 水槽の角には機体を乗せるスタート台があり、そこからシュートするようだ。

「じゃ、いくぞ。3.2.1.アクティブシュート!」
 翔也の合図で二人が機体をシュートする。
「いけ!ヴァーテックス!」

「出航だ!アーク!!」

アーク

 ドボンッ!
 二機のフリックスが着水する。
「先攻は宇波カイトさんのアークかな?」
 プカプカしてるので分かりづらいが、とりあえず目分量で判断した。

「よし、フリップスペル!『流鏑馬』!」
「流鏑馬!?」

 流鏑馬……『ガンナー』を所持しているフリックスが使用可能。3秒以内に通常シュートと射撃をそれぞれ一回ずつ行える。

「砲撃開始!」
 パシュッ!
 アークの方針から小さな矢のような弾丸が射出され、ヴァーテックスにヒット。
 そして、次に普通にシュートしてマインにぶつかりマインヒットを決めた。

「ガンナー機体だったのか……!さすが戦艦フリックス」
「この機体は僕の最高傑作として作ってたんです。でも、完成する前にバトルを引退しちゃったから、こうやって戦えて嬉しいですよ!」

 見たところ、宇波カイトの年齢は15〜16歳だ。
 GFCに出場出来る年齢は15歳までだし、ギリギリだとしても中学3年ともなればいろんな事情でバトルを引退する可能性は高い。
 宇波セントがこのイベントを開催したのは、そんな息子の戦いの場を用意してやりたかったからと言うのもあるのかもしれない。

 それはともかくとして、バトルは進行していく。

「いけぇ!ヴァーテックス!!」
 水上だと得意のストレートもうまくいかず、ヴァーテックスはなかなか攻撃をうまく当てられない。
「アーク!!」
 それに対してアークは水上にも高い機動力とガンナーによってジワジワと達斗を追い詰めていき、達斗の残りHP5。カイトは残りHP11。
 まだまだ中盤戦とは言え、カイトが圧倒的に有利だ。

「水上じゃ、勝ち目がない……!こうなったら!」
 達斗はヴァーテックスをダイブさせるようにシュートした。
「なに!?」
 水中に潜ったヴァーテックスはアークの下に入り込んだ。
 そして、浮力で浮き上がろうとするヴァーテックスは頭上のアークによって阻まれてしまい浮き上がれない。

「ヴァーテックスの本体が完全に沈んだから、これは場外扱いで自滅だ!」
 水上フィールドの特有の状況である『水没』によってヴァーテックスは自滅してしまった。
 これで達斗は残りHP3となり、仕切り直しになる。
「わざと自滅した……?」
 カイトは達斗の行動は理解出来たが、その意図までは計りかねていた。

 そして仕切り直しアクティブ。
「3.2.1.アクティブシュート!!」

「いっけえええ!!!」
 達斗は渾身の力でヴァーテックスをシュート。
「っ!」
 凄まじい勢いで着水する前にアークを空中で狙撃して場外へ弾き出した。

「アクティブアウト!!」
 4ダメージ。これでカイトは残り7だ。
「空中で狙撃された……!」
「そうか、着水する前ならヴァーテックスの攻撃が通じる!だからタツはわざと自滅をして仕切り直しに持ち込んだのか!」
「そう言う事か……さすがスプリングチャンピオン!」

「このままアクティブで決める!」
「でも、来るのが分かっていれば!」

 仕切り直し。
「3.2.1.アクティブシュート!!」

「「いけぇ!!」」
 バーーーーン!!
 空中で激突した2機が互いに弾け飛んで同時場外する。
 お互いに2ダメージで、達斗残り1、カイト残り5になった。

「む、迎え撃たれた……!」
「あの機体、まさか水上戦に対応しながらもそれなりに重量があるのか」
 いくら攻撃型のヴァーテックスとは言え、水上戦に合わせて軽くしているので、重量のある機体なら迎撃は可能だ。
「……だったら!」

 達斗は、ヴァーテックスと目線の高さを合わせて構えた。
 相手の方が重かろうが達斗にはそれを覆す必殺技がある。

(次は相手もとっておきで来るか……それなら!)
 カイトがアークに備え付けられている可変アームを変形させる。

 仕切り直し。
「3.2.1.アクティブシュート!!」

「貫け!フラッシングクエーサー!!!」
 達斗は光の点を見極めて必殺シュートを放った。
 この威力にはさすがに耐えられないだろう。
 しかし……。

 ガッ!!
 アークは可変したアームで向かってきたヴァーテックスを掴んだ。
「いぃ!?」
「掴んだ!?」
 ヴァーテックスの必殺技によって弾き飛ばされるアークだが、アームに掴まれたヴァーテックスも一緒になって吹っ飛び、同時場外。
 お互い2ダメージで達斗は撃沈。カイトは残り3で耐えて勝利した。

「ま、負けた〜!まさか必殺技が防がれちゃうなんて……」
「ははは、こっちのホームグラウンドですからね。でも良い勝負ができて嬉しかったです、ありがとうございます!」
 カイトは握手を求め、達斗はその手を握った。
「うん!大会で当たったら次は勝つよ!」
「ええ!……うぷっ!」
 と、突如カイトは達斗から手を離して、口を抑えた。
「だ、大丈夫、ですか……?」
「ちょ、ちょっと、バトルで船酔いしたみたい……ごめ……失礼しま……!」
 言い終えるより前にカイトはトイレに向かって駆け出してしまった。

「……船長の息子なのに、船酔いするんだな」
 翔也がボソッと呟くと、隣で達斗がいきなり叫んだ。
「あーーーー!!!」
「なんだよ?」
「さっきのバトル、仕切り直しするなら自滅じゃなくてカウンターブローにしとけばよかった……それならまだHPに余裕あったのに」
「そんな事かよ……カウンターブローなんかしたら意図がバレバレだし、相手も逃げに回るから狙撃なんか出来ないだろ」
「あ、そっか……難しいなぁフリックスって」
「奥深いんだよ。んじゃ、そろそろ俺らも部屋に行くか」
「うん」
 十分遊んで時間も過ぎたので、翔也と達斗は荷物を持って部屋に向かった。

「えーっと、泊まる部屋の番号はチケットに書いてあるんだよな……俺はこっちだな」
「僕もこっちの方……船の端っこみたいだ……」
「なんだ、タツと部屋隣か。ラッキーだな」
「だね」
 二人はそれぞれ番号と地図を照らし合わせながら部屋の前に着いた。

「そんじゃ、荷物置いたらすぐエントランス行って美寧さん待とうぜ」
「うん」

 そう約束して、二人はそれぞれ部屋の鍵を開けた。

 キィィ。
 達斗が部屋の扉を開けると……そこには、上着を脱いで下着姿の美寧がいた。

「へ?」
「え?」
 二人は目を合わせしばし呆然とするが、徐々に美寧の顔が赤くなりバッと身体を隠す。

「ひゃあぁぁ!な、ななな、なんで、たっくんが!?」
「いや、だって、ここ、チケットに書いてた部屋で……!!」
 戸惑いながら弁明する。しかし、咄嗟の事で達斗の目線は美寧から逸らす事ができない。
「もぉ、早く出てって!」
「ご、ごめ!!」
 達斗は腰を抜かしながらも慌てて立ち上がって逃げるように部屋の外へ向かった。
(なんで水着は平気で見せびらかすくせに下着はダメなんだろう?)
 みたいな疑問も頭に過ったが、すぐにかき消した。

 一方の翔也も……。
「あ、翔也様〜!」
 着替え途中で下着姿のメイは部屋に入って来た翔也を見るなり駆け寄ってきた。
「ちょ、メイたん!?なんで!!!」
 翔也は目を逸らしながら戸惑いの声を上げた。
「しばらくメイたん出番ないから、自室で休もうと思ってぇ」
「いや、でもここ俺の部屋なんじゃ……」
「そぉだよ。メイたんと翔也様の部屋❤️」
「……???」
 さすがの翔也もこの情報量の前に頭が混乱してきた。
「とりあえず、俺、部屋出るから着替えたら言ってくれ……」
「はーい!」
 翔也は状況整理するために部屋から出た。

 パタン。

 部屋の外で、翔也と達斗が再び顔を合わせる。
「翔也……」
「タツ、もしかしてお前もか……?」
 二人ともそれぞれの顔を見て、部屋の中で何が起きたのかを察する。

 バッと達斗の部屋の扉が開かれてむくれ顔の美寧が現れる。
「たっくんのえっち!ヘンタイ!そんなに見たいならいつも家で見れば良いでしょ!(?)」
「ヘンタイはそっちじゃん!部屋が被るのはともかく、わざわざ着替える必要ないのに!!」
「こう言うところで食事する時はちゃんとした服装に着替えなきゃいけないの!」
「だからって下着はあんなに可愛くなくて良いじゃん!」
「下着はいつでも可愛いの!!!」
 ギャーギャーと姉弟喧嘩を始める二人を翔也は宥める。
「二人とも落ち着けって、こんなとこで変な喧嘩するなよ……」
 と、その時。翔也の部屋が開かれてメイが呑気に現れた。
「えへへ〜、翔也様お待たせ〜⭐︎」
 珍しく私服だ。フリルをふんだんに使ったふるふわなセーラーワンピースで、メイのイメージと場のイメージによく合っている。
「あ、メイたん!私服姿も可愛いなぁ!それと、さっきの水兵コスもすっごく良かった!動画でも見たけど、生で見ると違うなぁ」
「えへへ〜そんな事ありますけどぉ〜⭐︎」
 翔也は条件反射的に推しであるメイを褒めてしまったがすぐに我に帰る。
「って、そうじゃない!メイたん、これどう言う事!?」
「どうって?」
「なんで俺の部屋にメイたんがいて、タツの部屋に美寧さんがいるんだよ……」
「だって、相部屋なんだもん」
 メイはさも当然のように言った。
「相部屋って、さすがにそれはマズイんじゃ……」
「大丈夫⭐︎ここのエリアは船の端で関係者以外場所知らないし、滅多に人も来ないから」
「そう言う問題なのか……?」
「いや、そもそも男女で相部屋なのは……!」
「男女って言っても、達斗君と美寧ちゃんは家族なんだし、一緒の部屋のほうがいいでしょ?そしてメイと翔也様は相互推し同士だから同じ部屋でも問題ないよね?」
 めちゃくちゃな理論だが、翔也と美寧は少し思案した後に何故か納得した。
「……確かに、一理あるな」
「ないよ!」
「そうだねぇ。いきなりはビックリするけど、私もたっくんと同じ部屋なのは普通に嬉しいし」
「俺も、普通に考えたら美味しい展開だよな、これ」
「普通に考えたら、そうなるよねぇ」
 普通ってなんだっけ。
「いや、ダメだよ!普通に考えたらダメなんだって!!」
 納得しかける二人を達斗は必死で止めようとするが、今度は美寧と翔也が達斗を説得しようとしてきた。
「たっくん、私達この海の上じゃたった二人の家族なんだから一緒にいなきゃ心細いでしょ?」
「そうだぜ。メイたんも美寧さんも良いって言ってんだから良いじゃねぇか」

「ダメーーーー!!!!」

 達斗は大声で抗議して美寧をメイ側へ押しやり、翔也を引き寄せた。
「美寧姉ぇはあっちでメイたんと一緒!!翔也はこっち!!!」

「なんだよ、お堅い風紀委員女子かお前は」
「うるさい!」
 達斗は翔也を強引に部屋に入れ、美寧の荷物を隣の部屋へ持って行った。

 ……。
 …。
 一悶着ありながらも、四人は昼食を取る事にした。
 メイのツテもあって、個室付きの関係者用の海鮮レストランに招待してもらえた。

「おおおお……!!」
「味のなめろうにサンガ焼き……!」
「鯨のタレにはかりめ丼!」
「そして日本一の伊勢海老……!」
 テーブルいっぱいに並べられる海鮮料理に舌鼓を打つ。
「やっぱり千葉は海の幸が美味しいなぁ」
「わぁい伊勢海老!メイたん伊勢海老大好き!」
「漁獲量を考えたら実質千葉海老だもんね〜」

(でも、豪華客船にしては料理が庶民的すぎる気が)

 多分素材の質が違うのだろう、質が。

「この束の間の休憩、幸せだなぁ〜」
 メイがしみじみと呟く。
「そういえば、この後すぐライブあるんだっけ?」
「そう、2時間後にはリハに行かなきゃだから結構忙しいんだよねぇこのツアー。ライブ終わったらフリックス大会の司会もやるし」
「フリックス大会、楽しみだなぁ。どんな感じのルールなの?もしかして、船全体を使ったFUGBとか?」
「それは、さすがに難しいかな……沈没しちゃうかもしれないし」
「それもそっか……」
 こんなところでアクチュアルバトルなんかしたら、某有名な映画と同じ末路を辿ってしまうかもしれない。
「まぁ、あんまり詳しいことは教えられないけどぉ。特別に優勝賞品だけ教えちゃおっかなぁ〜?」
「おっ、そいつは気になるなぁ」
「なんだろう??」
「ふっふっふ、それはねぇ……なんと!メイたんとのハグ券なので〜す!」

「「「ハグ券!?」」」

「おおお、そいつぁ俄然やる気になるなぁ!な、タツ!」
「え、うーん……」

 握手券やバトル券なんかとは比べ物にならない破格の賞品だ。

「ず、随分と攻めた賞品だね……」
「まぁ、決めたのは上なんだけどね〜。でも、売り出し中のアイドルならこのくらい身体張らなきゃ」
 ため息を吐くメイ。やはりこの賞品は本意ではないようだが、上の決定には逆らえない。

「大丈夫、メイたんのハグは誰にも渡さないぜ!」
「頑張ってね、翔也様!達斗君も!」
 メイとしては見知らぬ誰かとハグするよりは知り合いに勝ってもらった方が良いし、なんなら翔也に勝ってもらえば万々歳だ。そう言うのもあって翔也と相部屋に設定したのかもしれない。
「もちろん!」
「あー、まぁ、大会なら僕だって負けないよ」
 と言った瞬間、達斗に冷たい視線が突き刺さった。
「へー、たっくん頑張るんだー、ふーん」
 この大会を頑張ると言うことはメイのハグを求めて頑張ると言うことだ。
 つまり、達斗はメイとハグしたくてしょうがないと言う事になってしまう。
 美寧はそう解釈して嫉妬の視線を向ける。
「そ、そりゃ、やるからには、全力でやるよ!」
 が、達斗も負けてはいない。誰がどんな感情を持とうと、自分のフリッカーとしてのバトルは邪魔させない。
「そうだよねー、お姉ちゃん、たっくんのそういうところ立派だと思うなー……」
 美寧はフッと力無く笑ったのち、少し間をあけて言った。
「出る」
「???」
「お姉ちゃんも、大会出ようかな」

「み、美寧姉ぇが!?」

 

    つづく

 

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