第10話「貫け!フラッシングクエーサー!!」
ついに開催されたGFCスプリング。
Aブロックの予選も終わり、達斗と翔也のBブロックの戦いがスタート。
達斗はスタートと同時にダッシュして集団を抜けてプラチナターゲット撃破を目指す。
「いけぇー!ヴァーテックス!!」
タッタッタ!
得意のストレートシュートでなるべく距離を稼ぎ、ウェイトタイム時もステップで移動する。
途中倒せそうなターゲットを見かけたら、進みつつもターゲットを倒す。ただし、タイムロスになりそうなヘビーターゲットなどはスルー。
最低限ポイントを確保しながらもいの一番にプラチナターゲットを目指す作戦のようだ。
『ブッちぎりの達斗君!このままプラチナターゲットを撃破するのか!?しかし、この大会はそんなに甘くないぞ!!』
「っ!」
ザッ、ザッ、ザッ!
達斗の周りにラッシングターゲットが現れて取り囲んできた。
シュンッ!
ラッシングターゲットはメカ狼のような形をしており、地面を蹴って突進してきた。
バキィ!!
ウェイトフェイズのヴァーテックスへ体当たりし弾き飛ばす。
「ヴァーテックス!!」
ガッ、ガッ!
複数体のラッシングターゲットが代わる代わる体当たりしてヴァーテックスが吹っ飛ばされ、飛ばされた距離分ダメージを受けてしまう。
「っ!思ったより強い……!」
敵フリックスほどではないが、ただのターゲットにしては無視出来ないくらいには強い。
「動きも速いし、逃げるより倒した方が良さそうだ」
ステップで位置を調整した後にアクティブフェイズになり、達斗は一体のラッシングターゲットへ狙いを定めてシュートする。
バキィ!!
ヴァーテックスの攻撃で難なく一体のターゲットを撃破。
攻撃してくるターゲットだけに、そのポイントはかなり高かった。
「ダメージは食らったけど、ポイントは取り戻せた!」
しかし、まだまだターゲットは数体おり、ヴァーテックスへ猛攻してくる。
達斗はどうにか対抗する。
ガッ、ガッ、バキィ!!
何体か倒していくが、それでもヴァーテックスのHPが徐々に減っていく。
「くっ!いくらポイント高くても、これじゃダメージの方が……!」
バッ!
ターゲット達が再び一斉に襲い掛かる。
「っ!」
「「「やれぇ!チープゼニス!!」」」
その時、複数人の声が聞こえたかと思ったら、四体の黒いフリックスがターゲットを撃破していく。
バゴォォ!!
「この機体は、ゼニス……?いや、でもちょっと違う」
黒い機体はゼニスをデチューンしたかのような形状をしていた。
そして、それを駆る少年達も現れる。皆黒いTシャツに白文字で『Z軍団』とデカデカ書かれていた。
「点呼ぉ!Z2!」
「Z3!」
「Z4!」
「Z5!」
「「「「我ら、無敵のゼニス軍団!!!」」」」
少年達は4人でポーズを取った。心なしか、真ん中のスペースが空いている気がする。
「ゼニス、軍団……?」
「我々は不動ガイさんの強さに憧れ、忠誠を誓うために勝手に結成した軍団なのだ!!」
「このチープゼニスは、ガイさんのゼニスを参考に勝手に作ったレプリカだ!!」
「本人に無断でいいの!?」
『おおっと!トップを走るヴァーテックスの前に現れたのは、現在100人斬りフリックスとして人気を博しているゼニスの模造軍団だ!』
貴賓席。
「な、なんだありゃあ!?」
バンが身を乗り出して驚く。
「ふふふ、狙い通りですね」
「もしかして、あの子達もイツキが……?」
「まさか。私もガイも一切不干渉ですよ。しかし、想定はしていました」
「どう言う事だ?」
「ザキ様と同じですよ。1人のカリスマが力を示せばそれに感応したものが後に続きます。こちらから頒布する必要もなく、自然と」
かつてザキが遠山フリッカーズスクールの地位を向上させた時のように、イツキは不動ガイでそれを行おうとしたようだ。
「でも結構危なっかしくねぇか?下手したらパンデミックが起こるぞ」
「ふっ、パンデミックとは再現性の高さ故に発生するものです。カリスマへの憧れは、再現性がないからこそ生まれ、それぞれ独自の形に発展していくモノ……」
「そんなもんかねぇ……けど、達斗は負けねぇぜ!」
フィールドの方では達斗とゼニス軍団がやり合っている。
「フォーメーションアタックだ!」
「「「了解!」」」
チープゼニス4台が連携しながらヴァーテックスを攻め立てていく。
「くっ、隙がない……!」
『ゼニス軍団、見事な連携で達斗君を追い詰めている!果たしてこの状況を打破できるのか!?』
「4台の完璧なチームワークに太刀打ちなんて……あれ?」
ポゥ……!
何故か、チープゼニスのフォーメーションの中に光の点が浮かんで見えた。
「どうして……?」
一見すると、4台で隙のない連携をしているように見えるチープゼニス。
しかし、ほんの僅かだが綻びを感じた。
「トドメだ!ビクトリーフォーメーション!!」
ザッ!
4台のゼニスがV字を作って突進してくる。
その中央部に一際強く輝く光の点が見えた。
(4体でV字?……もしかして!)
バッ!
達斗は向かってくるチープゼニスのフォーメーションを迎撃すべくヴァーテックスを放った。
狙った先は、先頭の2台の間だ。
「4VS1で勝てるの思ってるのか!?」
「V字だったらヴァーテックスは負けない!!」
ヴァーテックスの先端が2台のチープゼニスの隙間に捩じ込まれる。そして、ヴァーテックスの両翼に沿うようにチープゼニスは掬い上げられて転倒した。
「なにぃ!?」
「「「うわぁ!!」」」
後続も玉突き事故のように巻き込まれて転倒してしまった。
『ヴァーテックスを襲っていたチープゼニス集団が全員スタン!これは手痛いタイムロスだぞ!?』
「しまったぁ!このフォーメーションが未完全なのを見抜かれたぁ!!」
「やっぱり無茶だったんすよ、リーダー抜きの4台でフォーメーション組むなんて」
「仕方ないだろぉ!リーダーはガイさんと同じCブロックに割り振られちゃったんだから!」
「いいなぁ、リーダーだけ……」
そんなゼニス軍団達の会話が耳に入りつつも、達斗は先を急いだ。
一方の翔也は……。
プラチナターゲットへの最短ルートとなる森林エリアをスピンを駆使して木々を縫うように進んでいた。
最短とは言え、ロスの大きい走行ラインではあるが難しいルートは競争相手が少ないので気軽なクルージングとなる。
いや、そうは言ってられなかった。
「さすがに楽には進ませてくれないか」
木の影から、多数のシューティングターゲットが現れてエイペックスへ銃口を向けた。
ズバババ!!!
一斉射撃がエイペックスに襲い掛かる。
「その程度!」
シュンッ!シュンッ!!
エイペックスはスピンでその弾丸を弾き飛ばしていき、その軌道でターゲットを撃破していく。
『おおっと!翔也君のエイペックスはシューティングターゲットの射撃を高速スピンで防ぎ切っている!!そしてそのまま回転を維持して撃破!まさに攻撃は最大の防御と言ったところか!』
「でも、回転はいつまでも続かない!いけぇ、グランドパンツァー!!」
エイペックスの回転が尽きて止まったタイミングを狙って一台のグランドパンツァーが攻撃を仕掛けてきた。
ガッ!
しかし、エイペックスはそれを受け止めてしまった。
「なに!?」
「セントリーフューガルグリップのラバーをいつもより摩擦強い奴にしておいて正解だったな……インスタントフィールド!」
アクティブフェイズになり、翔也はインスタントフィールドを生成。
密着したままのグランドパンツァーを投げ飛ばすようにスピンした。
「ブレイクメイスだ!!」
「うわぁぁ!!!」
あらぬ方向へと飛ばされたグランドパンツァーはフリップアウトして大ダメージを受けてしまった。
観戦席の美寧とメイ。
「きゃ〜〜!!翔也様素敵〜〜!!!」
メイは翔也の活躍に黄色い歓声を上げる。
「メ、メイちゃん、そんなに大声出したらバレちゃうんじゃ……」
「大丈夫⭐︎周りの方がうるさいから!ほら」
メイの言う通り、皆自分の推しの応援に夢中でメイの事など全く気にかけていない。
「確かに……ひゃぅ!!」
バチィィン!!
フィールドから聞こえてくる激突音にビクつく美寧。
「メイより、美寧ちゃんの方が大丈夫?どこか身体の具合悪いとか……」
「ううん、大丈夫。ただ……私、戦いとか、痛いのとか、苦手で……慣れてはきてるんだけど、まだちょっと……」
「そ、そうだったの!?だったらどうしてフリックス大会の観戦なんか……」
メイの疑問に、美寧はしんみりとした口調で答えた。
「たっくんが頑張ってるものを、私が力になれた事を否定したくないから……どんなに苦手でも、応援したいんだ」
「美寧ちゃん……」
「でも、やっぱり私ダメだなぁ。頭では応援したいって思ってるのに、どうしても戦いは嫌い……誰かを傷付けたり、傷付けられるものをたっくんにもして欲しくないって気持ちがなくならなくて……だから、応援も満足に出来ない……お姉ちゃん失格だな……」
悲しそうに笑いながら自虐する美寧に、メイは真剣でそして優しく語った。
「美寧ちゃん。フリックスアレイってね、バトルではあるんだけど……誰かを傷付けるような戦いじゃないんだよ」
「え?」
「例えるなら、魂と魂の会話、心と心のコミュニケーション、かな?」
「魂?心?」
なんだか宗教くさい単語に、美寧は怪訝な顔をする。
「どんなに相手の姿を見ても、魂を見る事は出来ないし。どんなに言葉を交わしても、心の声は聞こえない。でもね、フリックスアレイは自分の全てを込めてぶつけ合えるの」
「自分の、全て……」
「だって、自分で愛機を作って、自分の力で動かして、自分で戦い方を考えるのがフリックスアレイだから。自分の好きなもの、得意な事、趣味、性格、人間関係、今まで経験してきた事、これからやってみたい事……全部、全部、自由に込められるの!
それで、自分の全てを込めたものと相手の全てが込められたもの同士を同じ土俵でぶつけ合える。
もちろん、傷付けあう事もあるけど……だからこそ、心の殻を破って自分の中の本物を曝け出して、相手の中の本物を受け入れる事が出来る……だからメイはフリックスが好きなんだ」
メイは手に持ったトゥインクルコメットを慈しむように見つめながら一気に語った。
「メイちゃん……」
「苦手な事を無理に克服する必要はないけど、達斗君を応援したい気持ちがあるならきっと美寧ちゃんにも分かる時が来ると思う」
メイの真っ直ぐで真摯な励ましに、美寧は頷いた。
「うん、ありがとう」
バキィィィ!!!
と、再びフィールドから一際大きな激突音が響き渡る。
「ひぎゃおぉぅぅ!!」
「……まだ、先は長いかな」
相変わらずな美寧の様子にメイは苦笑いするのだった。
そして、そうこうしているうちにバトルは終盤戦に差し掛かったようだ。
『さぁ、Bブロック予選も残りあと3分を切ったぁ!しかし、未だプラチナターゲットを撃破するものは現れず!このまま終わりを迎えるのか!?』
達斗は周りのターゲットや襲い来るフリッカー達を迎撃しながら苦戦しつつ進んでいた。
「お、思ってたより他フリッカーからの攻撃が激しい……!」
シュンッ!シュンッ!
次々にフリッカーたちの攻撃が飛んでくる。
「お前が噂の神田達斗かぁ!!」
「ヴァーテックスって奴を倒して名を上げるぜぇ!!」
不動ガイとのバトルによって中途半端に有名になった達斗は他のフリッカーに狙われやすくなっていたのだ。
「でも、突破するしかない!フリップスペル!ブリーズストリーム!!!」
ブワァァァ!!!
ヴァーテックスは70cmほど浮き上がり、そのまま空中でシュートした。
ズバァァァァ!!!!!
空中をカッ飛ぶ事で猛攻をすり抜けて一気に突き進む。
ポイントは稼げないが、今はとにかくプラチナターゲットを目指す方が先決だ。
「いっけええええ!!!!」
そして、遂にプラチナターゲットを射程に捉えられる場所まで辿り着いた。
「よし、着いた!あれを倒せば……!」
シュンッ!
そんな達斗の目の前にエイペックスが飛んできた。
「そうはいかないぜ、タツ!」
「翔也……!」
『さぁ、残り1分を切った所で達斗君と翔也君がプラチナターゲットの射程圏内に出た!そして、ほぼ同時にウェイトフェイズに突入!先にアクティブフェイズになった方が有利だぞ!!』
「急げ!ヴァーテックス!!」
達斗はバリケードをヴァーテックスの周りでぐるぐると回す事でウェイトカウントを早めようとする。
「エイペックスの方が軽い分カウントは早い……ステップで距離を詰めるぜ!」
翔也はアクティブフェイズになるまでステップで少しでもプラチナターゲットへ近付こうとする。
『両者の現在の得点は、達斗君が516ポイント!それに対して翔也君は578ポイントでリード!しかし、プラチナターゲットで100ポイント獲得すれば逆転できる範囲内だぞ!!』
バトルフリッカーコウの実況を聞きながら、翔也は脳をフル回転させて思案する。
(プラチナターゲットの得点は100ポイント、タツに取らせるわけにはいかない。だけど、この近辺にはゴールドターゲットも多く配置されている。ゴールドのポイントは30ポイント。タツがプラチナを撃破しても、その間にゴールドを一気に二つ撃破すれば勝てる……もちろん、それも簡単じゃないが)
ゴールドターゲットは主にプラチナターゲットが設置されている場所に多く配置されている。
とは言え、一つ一つの間隔はそれなりに開いているため、1シュートで同時に複数個狙うのは並のフリッカーには難しい。
しかし、翔也なら不可能ではないだろう。むしろ競合相手がいない分確実性は高い。
(……いや、考える必要はないな)
翔也は覚悟を決めてプラチナターゲットを見据えた。
と、同時にエイペックスとヴァーテックスがアクティブフェイズになる。
『のぉっと!ここでついにヴァーテックスとエイペックスの両者がアクティブフェイズになった!早撃ち勝負だ!!』
「「いっけえええええ!!!!」」
バシュウウウウウウウ!!!!
二つのフリックスがターゲットめがけてぶっ飛ぶ。
ポールポジションを取ったエイペックスが前を行くが、スピンしているエイペックスよりもストレートのヴァーテックスの方が圧倒的に速い!
「スピードはこっちの方が上だ!抜け、ヴァーテックス!!」
『スピードで勝るヴァーテックスが前を行くエイペックスを抜いた!!達斗君の逆転か!?』
「まだだぁ!!!!」
エイペックスはスピンしながら軌道を逸らし、横にある柱に激突した。
カッ!!
スピンが柱を蹴り、急加速する。
「アクセルオービット!!!」
バシュウウウウウウウ!!!
『なんとエイペックス!スピン力をスピードに変換し、ヴァーテックスを猛追!!徐々に追い詰めているぞ!!!果たして、どうなる!?』
「頑張れ……頑張れたっくん……!」
観客席では、歯を食いしばってショックに耐えながらも美寧は手を握りしめながら祈るように達斗を応援している。
「翔也様ーーー!!!」
メイも声を張り上げる。
シャアアアアア!!!!
ターゲットを目の前にし、二つのフリックスがほぼ横並びになる。
若干ヴァーテックスがリードしてるが、少しずつその差が縮まり……そして。
バゴォォォ!!!!!
プラチナターゲットが弾け飛んだ。
『プラチナターゲット撃破ぁぁぁ!!!それを成し得たのは、鼻差でヴァーテックスだ!!!エイペックス、最後の最後で急失速し、僅かに届かなかった!!!』
「や、やった……!」
「しまった!いつもよりグリップ強いから遠心力下がった時にブレーキが効きすぎたか……!」
新型ターゲットを警戒して防御力を上げた事と、加速するためにスピン力をスピードに変換した事とが悪い意味で噛み合ってしまったようだ。
『これによって達斗君は616ポイントで一位に浮上!そして、残り時間15秒!もはや逆転は無理か!?……5、4、3、2、1……終了!!』
試合も終わり、フリッカーたちはゾロゾロとフィールドから退場する。
結果発表を聞くまでもなく達斗が予選突破だ。
「やったな、タツ!予選突破だぜ!」
「うん……なんだか信じられないけど」
「でもまだ決勝があるからな、油断するなよ!」
そんな事を話していると、不動ガイ厳しい顔をしてこちらに近づいてきた。
「天崎翔也!なんだ、あのふざけた戦いは……!」
いきなり翔也へ詰め寄ってくる。
「ふざけた戦い?何言ってんだ?」
「トボけるな!あの最後のシュート、わざわざプラチナターゲットを狙わずとも、ゴールドターゲットを二つ狙っていれば勝てたはずだ!!」
「あぁ〜、ってもそれだって確実じゃなかったしなぁ。そんなら、タツと競った方が面白ぇし!」
「貴様、バトルを舐めてるのか……!」
翔也の飄々とした態度に激情したのか、ガイは今にも掴み掛からんとした時、達斗が声を上げた。
「舐めてなんかない!あれが翔也の戦い方で、全力なんだ!!」
「なんだと?」
「それに、もし翔也がゴールドターゲットを狙ってたとしても、それでも僕が勝ってた!!」
そう言いながら、達斗は一枚のプレートを2人に見せる。それはフリップスペルのプレートだった。そこに書かれていたのは……。
「ストームグライド……?まさか、俺がゴールドターゲットを狙ってたとしても、プラチナターゲットを撃破した後にストームグライドで自機を移動させてブロックするつもりだったのか?」
「ふん、そう上手くいくと思うのか?」
「分からない。けど、不可能じゃない!だから、翔也はふざけた選択をしたから負けたんじゃない!僕の方が強かったから負けたんだ!!」
(それ、フォローになってんのか!?)
「……そこまで言うなら決勝で見せてもらおう」
ガイはもう一度達斗と翔也を睨め付けてから踵を返した。
……。
…。
そして、予選Cブロックが始まった。
『さぁCブロックは波乱の展開だ!!』
バキィィ!!ドゴォォ!!!
フィールドにいくつもの機体の断末魔が鳴り響く。
「やれぇ!!ゼニス!!!」
バゴォォォ!!
「うわぁ!グランドパンツァー!!」
ゼニスが周りにいるフリッカーたちを相手に無双していた。
「軽い、軽すぎる!その程度か!!」
ガイが無双すればするほどそれに触発されたのかどんどん他のフリッカーたちがガイに挑んでいく。
しかし、皆返り討ちだ。
「あいつやっば……触らぬ神に祟りなしってね」
もちろん、ガイとは関わらずに逃げてポイント稼ごうとするものも現れるが……。
「フリッカーに逃げ道があると思うな!」
ガイは素早く回り込んで撃破する。
「そんなぁ……!なんだよあの機動力……!」
パワーと機動両方のシュートを使い分けるゼニスに対して、真っ向から立ち向かっても尻尾を巻いて逃げてもどうしようもなかった。
『しかししかし!グレートフリックスカップはそんなに甘くはないぞ!!』
シュバ!シュババババ!!!
ガイの周りにラッシングターゲットやシューティングターゲットの大群が集まってくる。
『本来ならば試合経過とともにフリッカー達に撃破されてちょうど良く数が減るはずのアタック型ターゲットだが、今回はガイ君がそのフリッカーを次々と撃沈しているため数が減らずに大量出現!残っているフリッカーを殲滅させるべく、襲い掛かるぞ!!』
フリッカーという天敵がいないフィールドで闊歩する姿は、宛ら天敵のいない異国の地で大量発生する外来種のようだ。
「ふん、面白い……!」
バッ!!
ターゲット達がガイへ一斉に襲いかかる!
シュン!シュン!!
と、その時、ターゲットからの攻撃を庇うようにゼニスとよく似た機体が現れてターゲットを撃破した。
「ガイさん!大丈夫ですか!!」
その機体はあのチープゼニスだ。シュートした少年は黒いTシャツに白文字で『ゼニス軍団』と書かれている。
「なんだ貴様は」
「じ、自分!ガイさんに憧れて勝手にガイさんの親衛隊『ゼニス軍団』を作ったものです!コードネームはZ1って言います!」
「……Bブロックにいた奴らの仲間か」
「ご存じとは光栄でございます!是非とも自分を、ガイさんの付き人にしてください!!
フリッカー達に無双していくガイさんの戦いには痺れました!ターゲットなんかにガイさんの戦いの邪魔はさせません!!絶対にお役に立ってみせます!!」
ハキハキと喋る少年を見定め、そして周りいるターゲット達を見回したのちにガイは言い放った。
「……勝手にしろ」
「はい!勝手にします!!」
ガイに認められてテンションの上がったZ1は張り切ってターゲット達を撃破していく。
その間にガイは次なるフリッカーへと戦いを挑んでいった。
……。
場面転化。ガイの無双が目立つが、それを避けながらも順調にポイントを稼いでいるフリッカーがいた。

リベリオンジエンドMkⅡ
「いけぇ!リベリオンジエンドMkⅡ!!」
寺宝タカシだ。
外装がフリー回転する円形フリックスで健闘している。
「フリップスペル発動!グラビティストンプ!」
グラビティストンプ……70cm浮かせた状態でシュートし、転倒せずに着地したら成功。次のアクティブフェイズまでにバリケードを構えずにマインヒットも場外もしなければ周りの敵にダメージを与える。
リベリオンは浮かせた状態から見事に着地。あとはウェイトカウントの経過を待つだけ。
アタック型ターゲットが次々に攻撃を仕掛けるが、リベリオンはフリー回転するリングでこれを見事に受け流しウェイトカウントが経過。
ズバゴォォォ!!!
着地時のエネルギーによって発生した衝撃波が周りのターゲットを撃破していく。
手間はかかるもののこう言った範囲攻撃は大量のターゲットを相手にした時のポイント獲得率が良い。
「……ふぅ。それにしても、もう試合開始してから随分経つのにまだプラチナターゲット狙われてないんだ……他のフリッカーも少ないし。今回は僕もプラチナターゲット狙えるかも」
タカシは機体を回収し、回復アイテムを取り出した。
「ヒールジュエルとリフレッシュジュエルで全快にして、プラチナターゲット狙いに行ってみよう」
リベリオンジエンドMkⅡは機動力がないので機体を回収して自分の足で走った方が早い。
だからいつもはプラチナターゲットをそこまで積極的には狙わないのだが、今回は状況が違うと判断してタカシは走り出した。
……。
…。
バーーーーーン!!
『のぉっと!ここで寺宝タカシ君がプラチナターゲットを撃破!!!さすがはGFCウィンターで準優勝した実力者!ここで大量得点獲得だが、それでも一位を独走する不動ガイ君には及ばない!!』
「うそ……これでもかなりポイント稼いでるはずなのに……!」
アタック型ターゲットを大量に撃破し、さらにプラチナターゲットを撃破したにも関わらずまだ足りないなんて……。
「でも、まだゴールドターゲットがある!他にフリッカーはいないし、全部撃破すれば……!」
「おっとそうはいかねぇ!」
タカシは狙いをゴールドターゲットに変更するも、その瞬間どこからか飛んできたチープゼニスによってゴールドターゲットが撃破されてしまった。
「っ!」
タカシの前にガイとZ1が現れた。
「残りは貴様か」
「こ、この人が100人抜きの不動ガイ……!」
圧倒的な強敵オーラに身が竦むタカシだが、こうなった以上戦うしかない。
(よく見たら、残りHPは少ない……さすがの100人抜きフリッカーとは言えダメージは蓄積してるんだ……それなら……!)
タカシはフリップスペルを宣言した。
「スペル発動!グラビティストンプ!」
先程と同様のスペル。
リベリオンは70cm浮いたのちに着地した。
「インスタントフィールド!やれっ、ゼニス!」
バシュッ!
インスタントフィールドを発生させて攻撃を仕掛けるゼニスだが……!
「堪えろ!!リベリオン!!」
シュンッ!!!
その攻撃をフリー回転で受け流す。そして、ゼニスは勢い余って自ら作ったフィールドの外に出てしまった。
「むっ……!」
インスタントフィールドのせいで自滅。
そして更にグラビティストンプによる衝撃波が発生する。
バゴォォォ!!!!
ゼニスとチープゼニスに衝撃波による小ダメージが入った。
これによってゼニスのHPはギリギリ。あとはビートヒット決めれば十分だろう。
「カウンターブロー」
しかし、タカシがトドメのシュートをする前にガイが宣言する。
アクチュアルバトルにおけるカウンターブローは、バリケードを一枚分消費する事でウェイトカウントが経過していなくても即アクティブフェイズに移行出来る。
ただし、その時溜まっていたウェイトカウントは次のウェイトフェイズに繰り越されてしまう。
「っ!それでもこっちがまだ有利なはず……!」
カウンターブローはあくまで行動の前借りに過ぎない。
バリケードが減る上にシュート後の待機時間も増えてしまう。
ここで迎撃されたところで大した事はないはず……。
「いけ!」
タカシは意を決してリベリオンをシュートする。
「Z1、貴様も加勢しろ」
「え、あ、うっす!!!」
ガイに命令されたのがよほど嬉しかったのか、Z1はガイとともに向かってくるリベリオンへシュートした。
正面衝突する3台。
ガッ!
フリー回転リングで受け流そうとするリベリオンだが、それはチープゼニスとの接触によって止められていた。
「っ!受け流せない!!」
「グラビトンプレッシャー!!!!」
受け流しの出来ないリベリオンへ、ゼニスの一撃がモロに入る。
バゴォォォン!!!!
大きく吹っ飛ばされたリベリオンは横になり、円形故にゴロゴロと転がって飛距離が伸びていく。
「あっ!」
アクチュアルバトルにおけるビートヒットは弾き飛ばされた距離によってダメージが換算されてしまう。
転がった結果、その距離は甚大なものとなりこの一撃でリベリオンは撃沈してしまった。
『なんとぉ!!不動ガイ君とZ1君の連携プレイによって寺宝タカシ君が撃沈!!凄まじい強さだ!!これで、フィールドに残ったフリッカーはこの2人のみとなった!!』
「へへ、やりましたね!ガイさん!!」
嬉しそうにはしゃぐZ1だが、ガイは無情に宣言する。
「電光石火」
「へ?」
今度は電光石火で行動を早めてアクティブフェイズに移行する。もう敵はいないのになぜ?と疑問を持つ間も無くガイはシュートを構えた。
バキィィィ!!!
ガイは容赦なくチープゼニスを弾き飛ばして撃沈。
「そ、な、ガイさん……!」
「利用し合う事はあれど、フリッカーは敵同士という事を忘れるな」
これでバトル終了。
結果は言うまでもなくガイの勝利だ。
フィールドから出て、Z1はガイへ辿々しく話しかけた。
「ガイさん、自分、自分は……!」
せっかく尽くしたのに無情に攻撃されたのがショックだったのか、Z1は言葉が詰まっている。
「……憧れを持つのはいい。だが、飲み込まれるな。高みを目指す糧にしなければ何の意味もない」
「っ!」
ガイの厳しい言葉に、Z1は目に涙を溜めながら振り返り逃げるように駆け出した。
「不動ガイ」
そんなガイの所へ翔也と達斗がやってきた。
「何か言いたい事でもあるのか?」
ガイの冷たい行いに対して咎めるのかと思いきや、達斗は首を横に振った。
「これが不動ガイの戦いなら、僕は僕の戦いで絶対に勝つ!!」
「ふん……」
……。
一方の逃げ出したZ1は……。
「皆ーーー!!!俺、ガイさんに撃沈されちまったよぉぉーーーー!!!」
「見た見た!!」
「良いなぁ、リーダーばっかし!」
「俺もガイさんにブッ飛ばされてぇ〜!」
「ほんとほんと!」
単純に感動と感激で涙を流しただけで、それを仲間達と共有するために駆け出しただけだったようだ。
そして、予選の勝者三名が決まったので決勝となる。
決勝戦は三つ巴の上級アクティブバトル。
なのでフィールドは三人で同時にアクティブシュートが出来るようにヘキサ型の特別バージョンになっていた。
『さぁ、大盛り上がりのGFCスプリングもいよいよ決勝戦だ!!
予選を勝ち上がったのはAブロック、高島タダシ君!Bブロック、神田達斗君!Cブロック、不動ガイ君!この三人で優勝を争うぞぉ!!』
「達斗君、お互い頑張りましょう!」
「うん!」
「……」
三人はマインを置き、機体をセットして構えた。
『それでは、いよいよスタートだ!3.2.1.アクティブシュート!!!』
合図とともに三人が一斉にシュートする。
「いけっ、ヴァーテックス!!」
「グランドパンツァー!!」
バシュウウウウウウウ!!
「やれ!ゼニス!!!」
向かってくる二機に対して、ゼニスはその面の広いフロントで受け止めて弾き飛ばした。
バゴオオオオオン!!!!
「「っ!!」」
達斗は咄嗟にヴァーテックスをキャッチするも、タダシはグランドパンツァーが胴体にヒットしてしまった。
『おおっと!いきなり大波乱!!不動ガイ君のゼニスがヴァーテックスとグランドパンツァーをまとめてぶっ飛ばす!!
グランドパンツァーはタダシ君へダイレクトヒットしてしまい無念の撃沈!ヴァーテックスもアクティブアウトで4ダメージ受けてしまったぁ!!』
「そんなぁ……!」
「つ、強い……!」
これで達斗のHPは残り11だ。
仕切り直しアクティブ。
『3.2.1.アクティブシュート!』
「くっ!」
完全にペースを持っていかれてしまい雑なシュートをする達斗。
バキィィ!
案の定、あっさりと弾き飛ばされてまたも場外する。
『不動ガイ君強い!再びアクティブアウトを決めた!達斗君残りHP7だ!』
「はぁ、はぁ……!ダメだ、一旦落ち着かないと……!」
達斗は深呼吸して気持ちを整えた。
『3.2.1.アクティブシュート!!』
「いけっ!」
バシュッ!
今度は冷静にゼニスの攻撃は避けて遠くへ進んだ。
『達斗君、今回は正面衝突を避けて先手を取った!』
マインは近くにないが、ゼニスまでの距離は近く、場外までの距離もそこまで遠くない。
「ここで決めて取り戻さないと……!」
達斗はゼニスを見据えて必殺技の構えを取る。
「決まってくれ!ヴァーテックス!!」
祈りを込めて渾身の一撃!しかし……。
ゴッ!
そこそこ強い当たりになるも、場外までは至らずビートヒットだ。
「っ!」
「以前よりはマシになったが、まだまだ軽いな」
「そんな……やっぱり、まだダメなのか……!」
一か八かの必殺技も不発。これじゃ打つ手がない。
そんな達斗へガイは容赦なく畳み掛ける。
「フリップスペル発動!ライジングチャージ!」
「っ!」
『ここで不動ガイ君!ダメ押しとばかりにライジングチャージ発動!ビートヒットの威力を上げていく!!』
ガイの目の前に急坂の幻が現れ、ガイはそれを登っていく。登った距離によってビートヒットの威力が増加するのだ。
「うおおおおお!!!!」
ガイは威力が3プラスする地点で足を止めて現実空間に戻り、フリックスをシュート。
バキィ!
難なくビートヒットをこなし、4ダメージ与えた。
これで達斗のHPは3だ。
『不動ガイ君、圧倒的に容赦が無い!!このままワンサイドゲームで終わってしまうのか!?それとも、達斗君意地を見せるか!!』
「負けたくない……まだ、負けられない!!スペル発動!インジャリーバイト!!」
インジャリーバイト……残りHPが5以下の時に発動可能。自機をシュートしてビートヒット出来れば敵機のHPを半分にする。
「いけぇ!」
バキィ!!
ヴァーテックスは難なくゼニスへビートヒットを決めて遠くへ逃げた。
『達斗君、起死回生の一撃!インジャリーバイトでガイ君のHPを半分にした!!まさに窮鼠猫を噛む!!』
ガイのHPが14→7になる。
「……所詮悪あがきだ!」
HPを一気に7も減らされたとは言え、達斗の残りHPは3しかない。状況を打開したとは言い難いだろう。
ガイは無難に近づくだけのシュートをした。ターンを多少無駄にしてたとて、相手が少しでも隙を見せれば勝てるのだ。無理をすることはない。
しかもここは、ヴァーテックスの後ろに達斗のマインがある位置だった。達斗は下手な動きをすればマインヒットでやられてしまう。
「マイン再セット」
達斗はヴァーテックス後ろのマインを逆にゼニスの後ろへセットした。これでマインヒットは回避できる。
「ふん」
構わずガイはヴァーテックス目掛けてゼニスをシュートする。達斗はバリケードでどうにか場外を防いでビートヒットで抑え込んだ。しかし、バリケードが一枚破壊されてしまう。
残りHP2。
「はぁ、はぁ、……バリケード回収!」
破壊されたバリケードを即座に回収する。
「回収した所で無駄だ」
この位置はガイにとって得意な至近距離。必殺技が来る……!
「はぁぁぁ!グラビトンプレッシャー!!!」
ガイの必殺技。
達斗はこれをバリケードを構えずに受けた。
「なに!?」
『おおっと!達斗君、せっかく回収したバリケードを構えずにガイ君の必殺技を受けた!勝負を捨てたのか!?』
「諦めない!絶対!!」
達斗はぶっ飛ばされるヴァーテックスを手でキャッチした。
バシィィィン!!!
凄まじい衝撃が腕に伝わる。
「……!」
『キャッチはしたものの、これでフルフリップアウト扱いなので……』
「フリップスペル発動!サバイバルガッツ!!!」
達斗は渾身の力を振り絞って叫んだ。
サバイバルガッツ……バリケードを使わずに防御して撃沈されたらバリケードを2枚消費して発動。
達斗の目の前に狭い足場が現れ、激しく揺れだす。
「っ!」
これはスペルが見せている幻だ。受けたダメージ×2秒間この足場から落ちずに耐え切れば、HP1で撃沈から復帰できる。
「諦めない……絶対、諦めない!!!」
達斗は根性を出してこれを耐え切って撃沈から復帰。
『達斗君粘る!!サバイバルガッツで撃沈から復帰!!しかし、HPは残り1でバリケードもないこの状態!絶体絶命のまま仕切り直しアクティブだぁぁぁ!!!』
「はぁ、はぁ、首の皮一枚繋がった……ガイは必殺技使って消耗してるはず……!このアクティブで先手を取れば……!」
必殺技の誘発は上手く行った。ビートヒットでやられてしまうとは言え、先手を取ればまだ分からない。しかし……。
「フリップスペル発動、電光石火!」
ガイは、その僅かな希望すらも容赦なく潰していく。
『これは無情!!望みをかけた仕切り直しアクティブすらも徹底して潰す!まさに、まさにフリックスバトルの鬼神だぁぁぁ!!!』
「あ、うっ……!」
電光石火は使用者が必ず先手になるスペル。
これでガイは確実にビートヒットを決めに来るだろう。
もう、勝ち目がない……!
達斗の目から光が消えていく。
(もう……勝てない……)
力が抜け、腕が垂れ下がる。もはやチョン押しシュートをする気力すら失われた。
「たっくぅぅぅぅん!!!負けないでえええええ!!!!」
「っ!」
その時、観客席から一際大きな声が聞こえてきた。
こんな歓声の中、誰か1人の声なんか判別できるわけが無いのに。それでも確かに聞こえた。
達斗は顔を上げてその方向を見る。
そこには、美寧が身を乗り出しながら達斗へ向かって声を張り上げていた。
「お姉ちゃんもっ!見てるから!たっくんのバトル!!戦いは怖いけど、頑張って見届けるから!!だから、勝ってえええええ!!!!」
本当に怖いのだろう、身体中震え、涙を溜めながら、それでも必死に声援を上げている。
「美寧姉ぇ……」
「たっくんにはっ、お姉ちゃんがっ!ついてるから!……ひゃああっ!」
「み、美寧ちゃん!」
ドテッ!
身を乗り出しすぎてバランスを崩したのか、美寧は転びそうになりメイは慌ててそれを支えた。
そんな姿が面白かったのか周りから笑いが起こる。
「無理するから……」
達斗もそんな美寧にほっこりして頬が緩んだ。
そして、深呼吸して心を落ち着け、夢想する。
(僕のバトル……か)
思い浮かぶのはこの間の公園でのバトルだ。
(楽しかったなぁ。みんなでワイワイバトルして、いろんなスペル試したり、いろんなカスタムしてみたり……。
あんな楽しい事がずっと出来れば良いなぁ。
でも、僕が欲しいのは楽しいだけじゃないんだ。
初めてのバトルで勝てて嬉しかった。
大会で負けて悔しかった。
ヴァーテックスと出会えて世界が広がった。
翔也とメイたんのバトルに感動した。
不動ガイに負けて……絶対に勝ちたいって思った!
美寧姉ぇのおかげで自分のバトルが見つけられそうになった!
僕は、フリックスでもっといろんな経験をしてみたい!
それをギュッと一つにした頂点をヴァーテックスと一緒に探し続けたいんだ!
それが僕の、僕達だけのダントツ……!
そしていつか……ダントツの頂点を突き抜ける!!)
達斗は顔を上げてガイを見た。その表情には一点の曇りもなかった。
「どうやら覚悟は出来たようだな」
「うん、やろう!」
「いいだろう」
達斗はフッと身体の力を抜いて目線をヴァーテックスと同じ高さまで下げた。
「何をしている……!」
ヴァーテックスのボディ上部のフィンを照準器のようにして狙いを見据える。
ポゥ……。
フィールドの一点に光が浮かぶ。しかしそこには何もいない。
いや、達斗には見えている。アクティブシュートの軌道でゼニスとぶつかるべき一点が。
(ヴァーテックス、これがお前の見えている点……!)
『では、そろそろ仕切り直しいいかな!?いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!!』
「貫けぇ!フラッシングクエーサー!!」
バシュウウウウウウウ!!!!
ヴァーテックスは光の点を目掛けて真っ直ぐに突き進み、そしてゼニスを捉えて弾き飛ばした。
「ぐっ!」
バゴオオオオオン!!!
吹っ飛ばされたゼニスはフィールド外に落ちる。
電光石火を使ったアクティブでの場外なので受けるダメージは2倍となり、8ダメージ。
ゼニスは撃沈してしまった。
『決まったぁぁぁ!!達斗君、素晴らしい必殺技で見事に強豪ガイ君を撃破!!!
GFCスプリング優勝は神田達斗君だあああああ!!!!』
貴賓席。
「な、なんじゃい今のシュートは!?」
レジェンド達も達斗の見せたシュートに騒ついている。
「ふ、とんでもない隠し球を見せてくれますねぇ。さすがはチャンピオンの開発したフリックス」
「いや、俺が仕込んだわけじゃねぇよ……前に一回だけ見たけど偶然じゃなかったんだな」
「ヴァーテックスと目線を合わせる事で、より正確に相手の急所を見定め、的確なストレートシュートを放つ事が出来ると言うわけか」
「さすがだぜ、達斗!俺が見込んだ通りだ!」
「フッ、今回はやられてしまいましたが良いデータが取れました。次回が楽しみですねぇ」
大会が終わり表彰式となる。
『優勝は神田達斗君だ!おめでとう!!』
「あ、ありがとうございます!」
達斗は表彰台の上でメダルを受け取った。
「凄いシュートでしたね、達斗君!僕もSGFCに向けてもっと頑張ります」
「ありがとう!僕だってもっと強くなるよ!」
「やったな、タツ!」
表彰台に翔也が駆け寄ってきたので達斗は台を降りた。
「うん!あの必殺技ついに成功したよ!」
「あぁ、見たぜ!ほんと凄かった!!」
親友同士喜びを分かち合っていると……。
「たっくぅ〜〜ん!!!」
涙をボロボロに流しながら美寧が駆けてきて達斗を抱きしめた。
「うわぁっと!」
「凄かった!すごかったねぇ!おめでとう〜〜〜!うわぁ〜〜〜ん!!」
達斗の服に染みが出来るほどに大泣きする美寧。
「……勝てたのは美寧姉ぇの応援のおかげだよ、ありがとう」
「たっくぅぅ〜〜ん!!!びえええええん!!!」
「でもさすがに泣きすぎじゃない!?」
「ふふ、美寧ちゃん観戦するの頑張ってたもんね。戦い苦手なのに達斗君を見守るんだって」
後から歩いてきたメイが美寧を微笑ましそうに見ながら言う。
「でも、達斗君も凄かったけどぉ、翔也様ももちろん素敵だったよぉ!次は絶対に優勝してねっ⭐︎」
メイは急にぶりっ子モードになり翔也に迫る。
「あ、あぁ、はい」
翔也は苦笑いするしかなかった。
「神田達斗」
そんな達斗らへ、不動ガイが話しかけてきた。
「……今回は俺の負けだ。お前のダントツの重さ、この身に感じたぞ」
「不動ガイ……」
「だが、次は負けん」
「僕だって!」
再戦を誓い合う2人に確かな友情が芽生えたような気がした。
その時だった。
「翔也様〜❤️」
「ちょ、メイたん近いて……!」
カッ、ポロ……。
距離感バグってるメイのサングラスに翔也の手が当たり、サングラスがズレて素顔が見えてしまう。
「あ、ごめ」
その顔をガイはハッキリと目撃してしまった。
「……!!!」
ドックン……!
その瞬間、ガイの顔が赤くなり動悸が激しくなる。
「そ、その、女……!」
お忍びで来てるのに、ガイにバレてしまった……!
「あぁ、悪いけどこの事は……」
「えへへ、ここでメイたんに会ったのは秘密にしてね❤️」
ウインクするメイ。それに対してガイは固まる。
「……」
「どうした?」
「な、なな、なんでもない!」
ガイは目を泳がせながらそっぽを向いて去っていった。
「相変わらず無愛想な奴だなぁ、メイたんを目の前にしてあんな態度取れるか普通……」
「あはは……」
「まぁそれはともかく、帰ったら祝勝パーティフリックスバトルと行こうぜ!リベンジはそこでやる!!」
「うん、もちろん!タダシ君も、良かったらどう?」
「はい!お邪魔させていただきます!」
「……まだ、バトルやるんだね」
あれだけの激闘の後なのにまだやる気な達斗達へ美寧は呆然とする。
「これがフリッカーだよ、美寧ちゃん!」
「よーし!いくぞ、ヴァーテックス!!」
つづく