弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第9話「準備完了!激戦のGFCスプリング開幕!!」

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第9話「準備完了!激戦のGFCスプリング開幕!!」

 

 姉ヶ崎小学校。春の麗らかな今日、体育館ではしんみりとした雰囲気の中で卒業式が執り行われていた。

「「「あーおーげーばーとーおーとーしー」」」

 卒業式お約束の歌が卒業生達によって合唱される。
 母校への感謝を込めて熱唱する子、棒読みで歌う子、口パクする子、立ったまま寝る子、涙ぐんで歌えない女子とそれを慰める女子……三者三様だ。
 しかし、この中で少なくないフリッカー達の想いは一つだった。

(((クソダリーーー!!早く終わってフリックスバトルやりてぇぇーーー!!!)))

 卒業式が終われば、中学入学するまで春休みとなる。
 つまりその間はフリックスやり放題。しかも春休みの間にGFCのスプリング大会が開催されるので、フリッカー達はとっととこの煩わしい時間の終了を強く願っていた。

 合唱とは皆の強い気持ちを一つにして歌うもの。
 そんなフリッカー達の想いが美しい音色となり、母校にいつまでも響いていた……。

 …。
 ……。

 卒業式も終わり、フリッカー達は公園に集まっていた。
 公園には複数のフィールドが設置してある。

「そんじゃ、卒業パーティーフリックスバトル会はじめるぞーっ!!」
「「「おーーーー!!!」」」
 翔也が音頭を取ると、集まったフリッカー達は元気を返事をし、各々好きにフリーバトルなどに興じはじめた。

「アクティブシュート!!」

「フリップスペル発動!」

「おおお!すっげぇスピン!!」

「かわせ!」

「最大パワーでぶっ飛ばせぇ!!」

 公園各所で機体がぶつかる音やフリッカー達の声が響く。

 達斗は翔也とバトルしていた。
「いけっ!ヴァーテックス!!」
 カッ!
 ヴァーテックスがエイペックスを弾くも、勢い余って自分も場外してしまう。
「あっ!」
「はい自滅でしゅーりょー!力み過ぎだぜ」
「うぅ〜〜〜ん」
 達斗は顎に手を当て、眉を顰めながら深く唸った。
「どうしたんだよ、難しい顔して」
「いや、こないだラボでやったみたいなシュートがなかなか上手くいかなくて……家でもずっと練習してるんだけど、10回に1回出来れば良い方って感じでさ……」
「ん〜、まぁ必殺技ってのはそう簡単に習得できるものじゃないからな。俺のブライテンオービットだって安定させるまでに苦労したぜ」

 フリッカーの苦労話は犬も食わない。

「でも、スプリング大会まであと少しだし」
「そりゃそうだけど。せっかく皆で集まってんだから気軽に楽しくやろうぜ。顰めっ面すれば成功するわけじゃないんだから」
「それは、分かってるけどさ」
 どうにも納得がいかない様子の達斗を見て、翔也は何か思いついたのか声を張って呼びかけた。

「そうだ!せっかくだから機体とかスペルとか、ランダムでやってみようぜ!」
 翔也の提案に、その場の全員が賛同する。

「何それ面白そう!」
「さすが翔也!いいこと思いつくな!」
「おれ、くじ作るわ!」
「なんか丁度いいアプリなかったっけ?」
「スペルはさすがに振り直しありにしようぜ」
「CUはどうする?」
「CU2を一つ使うか、CU1を二つ使うかくらいは選べていいんじゃね?」

 皆で協力してアイディアを出し合い、翔也の提案を最適な形にしていく。
 そして、普段使わないような機体、絶対選ばないようなスペルでのフリーバトルが始まった。

「うわ、誰だよこの機体作ったやつ!?こんなとこまで可動するとかすげぇ……!」

「へぇ、スピン機って結構使いやすいかも」

「普段使わないけど、スポンジでバウンド攻撃するのって強いんだなぁ

「ライトニングラッシュおもしれぇ!」

「くぁー!電光石火使ったのに自滅したぁ!!」

「追突って意外と成功率高いんだなぁ、知らなかった」

 こんな機会でもないと敢えて使う事も無い機体やスペルを使い、知見が広がっていく。
 ランダムな機体だからこそ、勝っても負けてもみんな楽しそうだ。

 ……。
 …。

「ふぃ〜、ちょっと休憩だ」
「僕も……」
 開始からずっと全力でバトルしっぱなしだった翔也と達斗は近くのベンチに腰を下ろした。
「良いもんだよなぁこうやって公園で集まってワイワイフリックスやるの」
「うん、なんか久しぶりだよね。最近はラボに行く事が多かったし」
「トレーニングするならラボの方が設備揃ってて効率良いんだけど。こう言うのの方が俺の性に合ってんだよな」
「……」
 その言葉を聞いて、達斗はなんとなく不動ガイのことを思い出した。
 フリックスに対してあまりにもストイックに向き合うあの姿勢は、自由にフリックスを楽しもうとする翔也とは正反対だろう……。
「そうだね、フリックスは楽しまないと」
「それに、最後に一度皆でやりたかったからな」
「最後?」
 翔也はしんみりと呟き、愛しむように楽しんでいる皆を眺めた。
「来月はもう中学だからなぁ。違う中学に行く奴もいるし、このクラスで出来るのも今日で最後だ」
「翔也……」
 さすが、翔也のカリスマ性はこういった所から来ているのだろう。
 ピト……。
 不意に、達斗の頬に冷たく硬い感触が当たった。
「っ!」
 反射的に振り向くと、そこには両手にスポーツドリンクを持った美寧が立っていた。
「美寧姉ぇ……」
「たっくん、お疲れ様。はい、ジュース。翔也もどうぞ」
「おっ、ありがとうございます!……んぐ、んぐっ、プハー!!沁みるなぁ!!」
 翔也はドリンクを受け取るなり一気に飲み干して口元を拭った。
「ふふ、いい飲みっぷりだね」
「いやぁ、バトルしてると夢中になって水分補給忘れちゃうんですよねぇ〜」
「ってか、なんで美寧姉ぇがここに来てるの?」
 達斗はドリンクを一口飲んでから美寧へジト目を向けると、美寧はプクッと膨れた。
「すぐそうやってお姉ちゃんを邪険にする」
「いや、邪険にしてるとかじゃなくて」

 バキィ!
 フィールドの方から機体と機体のぶつかる音が聞こえる。
「ひぅ!」
 それに合わせて美寧の身体が反射的に強張った。
「ほら、また倒れるよ?」
「だ、大丈夫……!少しずつだけど、慣れてはきてるから……!」
「慣れてって……大体、こういう戦いとか苦手なんじゃ」
「そうだけど……」
 美寧は目線を逸らして口を紡ぐ。
 そして、この前のラボで倒れた時の事を思い出していた。

 “ありがとう、美寧姉ぇ”
 気絶はしていたものの、達斗に抱えられ、感謝の言葉を受けた事はしっかりと記憶に残っていた。

(あんなたっくん……初めてだった。あんな風にお礼言われちゃったら、もう否定できないよ……)
 美寧は頬が熱くなるのを感じつつも、冗談めかした口調で誤魔化した。

「もし倒れても、またたっくんに介抱してもらえて役得だもんね」
 いけしゃあしゃあと図々しい事を言う美寧に達斗は冷たく返した。
「……次は翔也にやってもらおうかな」
「俺に振るなよ」
 姉弟のやりとりに巻き込まれてさすがの翔也も困る。
 すると、美寧は勝ち誇った顔で達斗を挑発するように言った。
「へー、ふーん、たっくんはお姉ちゃんの身体を他の子に触られてもいいんだー、ふーん」
「ぐ……はぁ、無理はしないようにね」
 根本が姉大好きっ子なため、こう攻められるともう達斗に勝ち目はない。
「えへへ、たっくんやさしー」
 いつものノリで達斗へ抱きつこうとする美寧だが……。
 ガキンッ!!!
 その瞬間、一際大きい激突音が響いて美寧は怯んだ。
「ひぎゃぅ!!!」

「……ほんとに大丈夫かな」
 そんな美寧の様子に、達斗は苦笑いした。

 ……。
 …。
 ところ変わって、遠山フリッカーズスクールと併設しているイツキ専用の研究所。
 その中に備えられているCTスキャナーの上に不動ガイが横になっている。

「……ふむ、なるほど」
 機械によってガイの身体が計測されていき、そのデータをイツキが分析する。

 測定が終わり、ガイがイツキの所へ歩み寄る。
「結果はどうだ、豊臣校長」
「良い感じに細胞が覚醒していますね。フィジカルポテンシャルはかつてのザキ様にも劣らない……いや、今のテクノロジーを使えばそれ以上の能力を得る事も不可能ではないはず」
「そうか」
 ガイはその結果を聞いて静かに頷いた。
「やはり、姉ヶ崎への転校は得るものがあったようですね」
 イツキの言葉に、ガイは少し考えて首を振った。
「どうだろうな」
「と、言うと?」
 意外な返答に、イツキは聞き返した。
「『伊江羅ザキは、段田バンと言うライバルを得る事で真の力を覚醒させた』と言う、豊臣校長のアドバイスで現アマチュアチャンプの住む街へ越してみたが……奴らは想像していたより軽い。伊江羅ザキへ導く力があるとは思えない」
「そうですか……」
「だが、見込みがないわけではない。GFCスプリングでハッキリするはずだ」
「フッ、何にせよあなたはまだ経験が浅い。思いもよらぬところからザキ様へ近付ける可能性は大いにありますよ」
「分かっている。浅薄に相手の力量を決めつけ見誤るような愚かな真似をするつもりはない」
「……期待していますよ」

 ……。
 …。
 そして、GFCスプリング当日。大会会場である『泉自然公園』に達斗、翔也、美寧の三人でやってきた。
 時間は朝の7時半と言う事もあり、ひんやりとした空気と木漏れ日が気持ちいい。

「う〜ん!フリックスの大会って意外とこういう所でもやるんだねぇ!朝の散歩みたいで気持ち良い!」
 美寧は自然豊かな空気を胸いっぱいに吸い込むように大きく伸びをした。
「……って言うか美寧姉ぇ、大会まで観に来なくても」
「ふーん、そんな事言うんだぁ……誰のおかげで早起き出来たのかなぁ?」
「うっ!」
 美寧に痛いところを突かれ、達斗は今朝の事を思い出した。

 ……。
 今朝、達斗の部屋ではけたたましく目覚まし時計が鳴っているにも関わらず達斗はベッドで熟睡していた。
 そこへ美寧が達斗の部屋に入る。
「たっくん、今日は大会なんでしょ、早く起きないと!」
 美寧は目覚まし時計を止め、達斗の肩を揺する。しかし、全く起きる気配がない。
「まったく、しょうがないなぁ」
 全然しょうがなさそうではないような、嬉しそうな表情で美寧はゴソゴソと布団の中に入り込んだ。
「おやすみなさ〜い」
 達斗を抱き枕にしてそのまま目を瞑る。
 その柔らかな感触に、さすがの達斗も一気に覚醒。脳が状況を理解する前に反射的に叫んだ。
「っ!ニャアアアアアアア!!!!」

 ……。

「こんな大事な日に寝坊しそうになるなんて」
「タツ、早起き得意じゃなかったっけ?」
「だって、緊張してなかなか眠れなくてさ……ヴァーテックスのメンテとか練習してたら寝るの遅くなっちゃって……」
「お姉ちゃんが起こさなかったらその努力も全部水の泡だったんだよ〜?」
「ってか、美寧姉ぇだって二度寝しようとしたくせに」
「あれが1番効果的でしょ?」
 下手に起こそうとするよりも色仕掛けした方が達斗には効く。北風と太陽と言ったところか。
「おかげですっかり目は覚めたよ……」
 達斗はため息をつきながら美寧の言い分に反抗するのをやめた。

「翔也君!達斗君!」
 不意に声を掛けられた。
「タダシ!」「タダシ君!」
 GFCウィンターで知り合った高島タダシだ。
「また2人と戦えるの楽しみにしてました!会えて嬉しいです!」
「俺もだ!グランドパンツァーはあれからチューンナップしたのか?」
「はい、自分なりに最適なカスタムができたと思ってます」
 タダシがチューンしたグランドパンツァーを見せる。
 内部にウェイトを積んで重量を上げ、シャーシにはグリップ素材を貼っているようだ。
「へぇ、強そうだね」
「基本をしっかり捉えてるって感じだ」
「ありがとうございます!そう言えば、達斗君もなんだか凄い機体を手に入れたんですよね?」
「え、うん……ヴァーテックスって言うんだ」
 達斗もタダシにヴァーテックスを見せた。
「これがヴァーテックス……実はヴァーテックスと戦う事を目標にして、グランドパンツァーをカスタムしたんですよ」
「そ、そうなの?」
「あれ?でもヴァーテックスってまだ公式戦デビューしてないような……どこで知ったんだ?」
「あ、それは」
 タダシはスマホを取り出して動画を見せてくれた。
 それは、ガイと達斗の試合だった。
「そ、それ……!」
「動画上がってたのかよ……!」
「今、不動ガイってフリッカーの100人抜き動画がバズってて凄い人気なんですよ」
「不動ガイが、そんな事に……!」
「達斗君も、なかなか良い勝負をしたって事で少し話題になってましたよ」
「そ、そうだったんだ」
「おい、噂をすれば」
 翔也が視線を誘導する。
 その先には、やや遠いが不動ガイが威風堂々と言った出立でそこにいた。
「っ!」
 達斗は思わず駆け出した。
「あ、タツ!」
 翔也もその後を追った。

 不動ガイの周りの人々は遠巻きにそれを眺めてヒソヒソと話している。

「不動、ガイ……!」
 ガイの側まで寄った達斗はその名を呟いた。
「ん?」
 その視線に気付き、ガイがこちらへ向く。
「天崎翔也か、それにお前は……」
「達斗、神田達斗だ……!」
 そういえば、ガイは達斗の名前を知らない。
「ふん、性懲りも無く大会に参加してくるとはな」
「今日は、負けない!」
「……貴様は眼中に無い。と言いたいところだが、立ちはだかるのなら全力で叩き潰すのみ。天崎翔也、お前も同様だ」
「あぁ、もちろん!楽しみにしてる」
「出来るかな?」
 ガイは不敵に笑い踵を返して歩いて行った。

「不動ガイ……絶対に勝つ……!」
 小さくなっていく背中を眺めながら、達斗は武者震いをした。
「……ふぅ。今のって転校生の不動、ガイ君、だよね。たっくんと仲悪いの?」
 少し遅れて美寧が息を乱しながら達斗たちへ追いついた。
「仲は良くはないですが、まぁフリッカー同士なんでライバルって奴ですよ」
「それって、たっくんと翔也君とは違うの?」
「ん〜、違わなくはないけど、違うと言うか、……難しいな、こう言うの……!」

 フリッカー同士の関係性の違いと言うのは難しい。
 『バトルの勝利を奪い合う者同士』と言う意味では同じなのだが。
 達斗と翔也、達斗とガイの関係は明らかに違う性質のものだ。
 しかし、戦いを嫌う女子である美寧にそれを理解させるのは難しいだろう。

 翔也が答えに窮していると、また別の声が呼び掛けてきた。
「あっ、翔也様〜!」
 それは、帽子を深く被りサングラスを掛けた少女だった。見覚えはない。
「……どちら様?」
「やだなぁ。ワタシワタシ」
 少女はチラッとサングラスをズラす。
「あっ、メイた」
「ストップ!」
 メイは翔也の口を塞いだ。
「今プライベートだから」
「あ、そっか……!」
 翔也は声のボリュームを抑える。
「えへへ、翔也様の応援に来ちゃったっ⭐︎」
 メイは可愛らしくテヘペロした。
「達斗君も、頑張ってね!」
「あ、どうも……アイドルなのに大会の観戦とかするんだ……」
「アイドルも人の子だよっ⭐︎ところで、そこの美人なお姉さんは?」
 メイは美寧に目線を移して首を傾げた。
「あ、僕の姉みたいなもので……」
「上総美寧です。メイたんって、もしかして……保科、メイ……?確かこの前、台風と共演してたような……」
 台風とは男性アイドルグループの名前である。
「あはは、分かっちゃいます?」
「うわぁ凄い……!テレビで観るより可愛い……」
「えへへ〜、そりゃぁもう、メイたんの可愛さは天使級ですからぁ」

(……さっき人の子って言ってたのに)

「そうだ!美寧さん、せっかくだから一緒に2人を応援しませんか?こんな美人なお姉さんと一緒だったら応援ももっと楽しくなりそう!」
「え、でも、いいんですか?一応芸能人が……」
「いいのいいの!1人でいるより、メイたんと同じくらい可愛い一般の女の子と一緒にいた方がカムフラージュになるしっ⭐︎」
「なるほど、ちゃっかりしてるなぁ……」
「あ、あはは、そう言う事なら構いませんよ」

「はい決まり!じゃあ今からメイたんと美寧ちゃんはお友達だからね!敬語とかなしね!」
「う、うん、よろしく、メイ……ちゃん」
 メイの勢いに圧倒されながら、美寧は従った。

(アイドルのコミュ力、強すぎる……!)
 いつも自分をタジタジにしてくる美寧をも自分のペースに持っていくメイに、達斗は感心した。

 ……。
 一方で、段田バンたち御一行も大会会場にやってきていた。
「おー、盛り上がってんなぁ」
 会場に集まっているフリッカー達を見てバンは感嘆する。
「GFCウィンターよりも動員数が多いね……」
「今回のスプリングは地区予選がなく、最初から全国規模でやるらしいからな」
「マジか。競技場に入り切るのか?」
「そこは上手い事やるだろう」
 そんなバン達の所へ、剛志&レイジ、イツキゲンゴユウタ、と言った神位継承戦のライバルらが集まってきた。

「よぉ、バン!」
「久しぶりだね」
「この日を楽しみにしてましたよ」
 口々に挨拶をしてくる。

「お前ら……!やっぱ視察に来たか」
「当然だよ!」
「今大会はオデ達の試作品の開発が出揃ってから初の公式大会なんだな!」
「つまり、神位継承戦の初戦と言った所ですからね」
「へっ、望む所だぜ!ウチのエイペックスとヴァーテックスの力を見せてやる!」
「グランドパンツァーだって、ユーザーがどんどん増えてるからね!」
「普及率ならワシらの圧勝じゃ!」
「ただ普及すれば良いと言うわけではありません。大事なのは如何に注目を集めるか、ですよ」

 バチバチと大人達は戦いの火花を散らした。

 そんなこんなで様々な思惑が交錯しながらも、いよいよ大会開始時間となった。
 ステージにバトルフリッカーコウが上がり、大会のアナウンスをしてくれる。

『全国のフリッカー達よ!GFCスプリングへようこそ!今日も熱い戦いを見せてくれよ!!!』

 ワーーーーーー!!!!

『それでは、今回大会の簡単なルール説明をしよう!
今回は全国からフリッカーが集まっているので、まずは予選としてA〜Cの3ブロックに分かれて、制限時間45分のFUGBを行う!振り分けはこれだ!』

 モニターにずらっとフリッカー名が映し出される。

『受付時に渡された用紙にも自分が何ブロックか書かれているから間違えるなよ!
各ブロックで1番ポイントを稼いだフリッカーが予選を突破し決勝に進めるんだ!』

 達斗と翔也が用紙をチェックする。
「俺はBブロックだ」
「僕もだ」
「負けないぜ、タツ!」
「僕だって!……タダシ君や不動ガイはどこだろう?」
 目を凝らしてモニターをチェックしてみる。
「タダシはAブロック、不動ガイはCブロックみたいだな」
「そっか……じゃあますます勝ち上がらないとな」
 達斗はヴァーテックスを握りしめて、気を引き締めた。

『決勝は予選突破した三人による三つ巴の上級アクティブバトルで優勝を決定するぞ!!』

「今回はFUGBで勝ち抜いた後に上級アクティブバトルで決着付けるんだ……!」
「まぁ、そっちの方がフリッカーとして相手に勝った気がするもんな」
 大人数と一気に競えると言う意味でFUGBは大規模な大会の予選にはうってつけのシステムだが、やはり最後は直接相手を倒して優勝を決めたいものではある。

『そして、皆も既にご存知だとは思うが、このシーズン大会は年末に行われる全国大会【スーパーグレートフリックスカップ】の選抜戦も兼ねている!一年で四回行われるシーズン大会で3位までに入賞すれば出場資格を獲得出来るだけでなく、1位〜3位までにポイントが割り振られており、それを貯める事でスーパーグレートフリックスカップで何かしら有利になるぞ!』

「確か翔也って、この前のウィンターで優勝したんだっけ?」
「あぁ、だから3ポイント持ってる事になるな。今回も優勝すれば6ポイントだ」
「ポイントって、あるとどうなるんだろう?」
「んー、その年のルールによるなぁ。去年はポイントが高いフリッカーからスタートポジションを決められたけど……俺、去年シーズンは参加が遅かったからポイント貯められなくてキツかったぜ。今回はグランドスラム狙ってやる」

 このポイント制があるので、既に出場資格を得ていてもシーズン大会に参加する意味があるようだ。

『今回の戦場は、自然豊かな森と人工的なアスレチックの入り混じった公園だ!プラチナターゲットは公園中央にあるアスレチックの頂上に設置しているぞ!そして、今回からはフリックスを攻撃してくるターゲット、体当たりが得意な《ラッシングターゲット》と射撃してくる《シューティングターゲット》を新しく導入してるから気を付けてくれよ!!』

 モニターに新型ターゲットの姿が映し出される。
「ターゲット自体も攻撃してくるなんて……!」
「ターゲットと思って油断すると撃沈されるかもなぁ、少し防御力も上げとくか」

 ……。
 説明も終わり、そろそろAブロックのスタート時間となる。
 フリッカー達は公園の周りに用意された各スタートゲートでスタンバイしている。

『そんじゃ!いよいよGFCスプリング、Aブロックの試合を開始するぜ!レディ、ゴー!!』

 ダッ!
 バトルフリッカーコウの合図で各者一斉に動き出す。
 狙ったポジションへ向かって駆け出す者、最初からフリックスをスケールアップさせる者、プラチナターゲットを目指す者、各者各様だ。

 エリアの地図と現在地、そしてターゲットの位置はつくよみちゃんアプリがナビゲートしてくれる。
 皆それを参考に自分に1番合った狩場を見繕うのだが、さすがにフリッカーの位置までは分からないのでどのエリアにどんなフリッカーが集まってくるのかは心理戦になってくる。

『さぁ、各フリッカー一斉に綺麗なスタート!複数のグランドパンツァーが一気にターゲットを蹴散らしていく!!』

グランドパンツァー

「いけぇ!グランドパンツァー!!」
「負けるな!グランドパンツァー俺バージョン!!」
「スペシャルグランドパンツァー!!」

 グランドパンツァーを使うフリッカーがかなりの人数存在しているようだ。

 それを貴賓席からバン達レジェンドが観戦している。
「ガッハッハッハ!グランドパンツァー大活躍じゃな!」
「しっかり頒布した甲斐があったね、剛志!」
「使うやつが多けりゃ良いってもんじゃないっての」

 バンの言う通り、グランドパンツァーを使っているフリッカーが皆が皆活躍しているわけではない。

 バーーン!バキィ!!
 シューティングターゲットやラッシングターゲットの攻撃を受けて撃沈する一台のグランドパンツァー。
「あぁ!俺のグランドパンツァー!!こいつら、ターゲットのくせに強すぎだろ……!」

『おおっと!早くも一台のグランドパンツァーが撃沈!!ラッシングターゲットの餌食となった!!復活は可能か!?』

「マニー貯まってないからリザレクトできねぇよ〜!」
 グランドパンツァー少年は嘆いた。撃沈状態ではマニーを貯められないので、ここでリタイアだ。

 貴賓席。
「ぐ、ぐぬぬ……!」
「汎用性が高いとフリッカーの能力に依存しますからね」
「ふ、ふん!これからじゃい!」
「フリッカー達は成長していくものだからね!」

『大乱戦の一方で高島タダシ君のグランドパンツァーは集団から抜けて堅実にターゲットを撃破して着実にポイントを稼いでいる!』

「チャンスは必ず来る!最後まで堅実に行こう!グランドパンツァー!!」
 まさに隙間産業と言った感じで、誰も狙わないようなエリアを狩場にする事で安全にポイントを稼ぐ。
 地味ではあるが、サバイバルにおいて賢い生存戦略だ。

『そして、この序盤戦で頭ひとつ抜けているのは蘭堂ツネキ君のアーマードウルペスだ!』

「頑張れ!アーマードウルペス!!」
 [気は優しくて力持ち]を体現しているような恰幅の良い少年が白黒の狐型機体を駆って集団を抜けてトップに立つ。
 が、その前にターゲットが出現して行手を阻む。
「ピットイン!スタンダードバックパック!」

 青い小型のバックパックを装着し、小型ながらも堅固なシュートでターゲットを撃破しながら進んでいく。

 しかし、次は数々の木々が生い茂るエリアだ。
「ピットイン!アラウンドバックパック!」

 今度は曲線的でローラーのついたバックパックで木々の間を縫うように進む。

 そうこうしているうちにあっという間にプラチナターゲットの前へ辿り着いた。

『今回のプラチナターゲットは幅たったの50cmの板を20m渡った先にある!しかも、板から落ちたら場外扱いになってしまう過酷な条件だ!狙えるか!?』

「だったらこれだ……ソードバックパック!」

 ツネキは、フロントに長く伸びるソード型のバックパックを使用。
 それによって遠距離からプラチナターゲットを落とす事に成功した。

「やった!!」

『ここでプラチナターゲットが早くも撃破!!!ツネキ君に大量得点が入ったぞ!!Aブロック優勝は決まったか!?』

「甘い!!」
 バキィ!
 その時、青い機体がアーマードウルペスを弾き飛ばし、フリップアウトさせる。
「あぁ、アーマードウルペス!!」

『のおっと!プラチナターゲットを倒した隙を突いて、水川リオ君のアクアリアリオンがアーマードウルペスをフリップアウト!!』

「くっ!」
 まだHPは残っているのでツネキはアーマードウルペスを場内に復帰させる。
「まだまだ!フリップスペル発動!ウェーブフラッド!!

「え!?」

 ウェーブフラッド……シュート後に宣言して発動。敵機を一体好きな場所へ移動させられる。
 アクチュアルバトルにおいては半径10m以内の場内が移動させられる範囲だ。

 ザパァ!!
 大洪水のエフェクトと共にアーマードウルペスが移動させられてしまう。
 その位置は……!

『ウェーブフラッドによってアーマードウルペスが移動させられてしまった!その先は……シューティングターゲット大量発生地帯だ!!』

「あぁ!!」
 ズババババァ!!
 ウェイトタイムの概念のないシューティングターゲットからの容赦ない射撃攻撃を受けてウルペスはあっという間に撃沈してしまう。

「うぅ……!リザレクト」
 プラチナターゲットを撃破した事で貯まったマニーでリザレクトジュエルを購入してウルペスを復帰させるものの、シューティングターゲット達の猛攻は止まらず、更に他のフリッカーたちもやってきた。
 序盤で目立ったものの宿命だ。

「耐えるしかない!シールドバックパック!!」

「立て直すぞウルペス!」

 

 そして、一方のツネキを貶めたリオは悠々とターゲットを狙う。

「へへっ!プラチナは逃したけど、この近辺はゴールドターゲットがたくさんあるんだ!全部もらうぞ!」

「そうはさせない!コシャドリバー!!」

コシャドリバー

「将軍!!」

将軍

「ちぇ、やっぱ追いついて来たか!いけ、アクアリオアリオン!!」

 他のフリッカー達もゴールドターゲットを狙って大乱戦だ。

 一方のタダシは……。
「思ったより順位が上がらない……僕もそろそろポイントの高いターゲットを見つけなきゃ……!」
 そんなタダシの前に複数のフリッカーが現れる。
「そんなとこでこそこそしてたって勝てないぜ!やれ!ウェイトワット・ローラーソー!!」

ウェイトワット・ローラーソー

「キャットカリバー!」

キャットカリバー

「ピタゴラス!」

ピタゴラス

「負けるもんか!!」
 バキィ!!
 タダシは真っ向から立ち向かった。

 ……。
 …。
 そして、Aブロックの終了時間になる。

『ここで終了!!!集計するので、フリッカーのみんなはバトルフィールドの外で待機してくれ!』

 フリッカー達がゾロゾロと外に出る。

「ふぅ……」
 タダシはフィールドの外に出て一息ついた。そんなタダシへ達斗と翔也が声をかける。
「お疲れ、タダシ君」
「手応えはどうだ?」
「はい、やれるだけの事はやったと思います。あとは信じて待つだけです」

 そして結果発表だ。

『さぁ、注目の1位は……526ポイント稼いだ高島タダシ君だ!!乱戦を避けつつ堅実にポイントを稼いだのが効いた!まさに生存戦略の勝利だ!!
2位は惜しくも498ポイントで蘭堂ツネキ君!プラチナターゲットは撃破出来たものの、その後撃沈されてしまったのが痛かった!』

「や、やったぁ!これでスーパーグレートフリックスカップに出られます!!」
 まだ大会は終わってないとは言え、ブロック予選突破した時点で3位以上は確定だ。
「タダシくん、おめでとう!」
「やったな!」
「ありがとうございます!2人もこのあと頑張ってください!」

「「もちろん!!」」

 貴賓席。
「ガッハッハッハ!!どうじゃ!グランドパンツァーの力は!!」
「まずは僕らが一歩リードだね、剛志!」
 グランドパンツァーを使うフリッカーが勝利した事で剛志とレイジは浮かれる。
「何が一歩リードだ。このブロックじゃ俺たちの開発した機体出てねぇじゃねぇか」
「普及しとらん時点で一歩遅れとるんじゃよ!」
「そ、それはこれから……!」
「フッ、では次のブロックが正真正銘の直接対決になりそうですね……」
 イツキが意味深に言う。
「何言ってんだ?不動ガイはCブロックじゃねぇか。直接出来んのは決勝だろ?」
「決勝は三台ともグランドパンツァーになるかもしれんがな!」
「なにをぅ……!」

「ふふふ……」
 イツキは含み笑いをしながら会場を見下ろした。

 その視線の先には、『Z軍団』とデカデカと書かれたTシャツを着た複数の少年達が並んでおり、全員その手にはゼニスと良く似たフリックスが握られていた。

 ……。
 …。
 そして、会場の準備が整いBブロックの開始時間になる。

『そんじゃ、いよいよBブロックの開始だ!熱いバトルを見せてくれよぉ!レディ、ゴー!!』

「アクティブシュート!!」
 スタート直後、達斗はいきなりヴァーテックスをスケールアップさせてブッちぎるようにシュートした!

 バシュウウウウウ!!!
 前方を走るフリッカー達をどんどんブチ抜いていく。
「は、はええ!!」
「なんだあのフリックス!?」

『おおっと!神田達斗君、スタートダッシュを決めてトップに躍り出た!!しかもシュートの軌道でターゲットを次々と撃破!!このパワフルな動きでポイントもマニーも順調に貯まっているぞ!!』

「ヴァーテックスは防御力が低い……なるべく他フリッカーや攻撃してくるターゲットを避けて遠回りしてでもスピードを稼ぐしかない……!」
 障害を避けた進みやすい道と言うのは得てしてゴールが遠回りになってしまう。
 つまり、それだけスピードが命というわけだ。
「誰よりも早くプラチナターゲットを撃破して、隙を作る前に体制を立て直して制限時間が来るまで迎撃するんだ!」
 Aブロックの試合内容を見て学習した達斗は、しっかりと自分に合った作戦を立てているようだ。

「いっけぇ!ヴァーテックス!!」
 優勝目指してシュートする達斗。
 果たして、この作戦は上手くいくのか……!?

 

   つづく

 

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