弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第12話「不攻の戦い!美寧、フリックス初体験」

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第12話「不攻の戦い!美寧、フリックス初体験」

 

 保科メイの主催する豪華客船『琥珀号』での一泊二日の船旅フリッカークルーズツアー。
 フリッカーイベントだけあり大会もやるのだが、その大会に美寧が参戦を表明した!

「お姉ちゃんも、大会出ようかな」

「み、美寧姉ぇが!?」

 これまでフリックスと縁遠かったはずの美寧の参戦表明。嫉妬に駆られたヤケクソにも思える発言に達斗は驚いた。
「わ、悪いの?」
「いや、でも美寧姉ぇ機体持ってないし……」
「まぁ、一応船内で量産機は売ってるし、製作室もあるから大会までに機体用意するのも不可能じゃない、か?」
「でも機体があればなんでもいいってわけじゃ」
「タツだって最初はインフェリア使ってたじゃねぇか」
「それは、そうだけど」
「美寧ちゃん、メイはすっごく良いと思う!応援するよ!!」
 ガシッとメイは美寧の両手を握った。
「え、うん……!」
「よーし、このメイたんが美寧ちゃんのために機体製作をサポートしてあげる!!美寧ちゃんに似合った最高に可愛いフリックスを一緒に作ろっ❤️」
「ほ、ほんと!?ありがとう、メイちゃん!!」
 美寧もメイの手を握り返して顔を綻ばせる。
「えぇー!?でも、この後リハーサルあるんじゃ」
「まだ二時間あるし、それにちょっとした最終チェックやるだけだから多少遅れても大丈夫!」
「そうなんだ」
「さ、そうと決まったら善は急げ!」
 丁度料理もあらかた食べ終わったので、メイは立ち上がって美寧の手を引いた。
「あ、うん、ちょっと待ってメイちゃん……!」
 美寧もあわてて立ち上がり、急かすメイ共に店を出て部屋へ向かった。

「……」
 あっという間の展開に取り残された男二人。
「んじゃ、俺らはバトル場でも行ってみるか?なんかいろんなフィールド設置してて面白いらしいぜ!」
「う、うん……」
 翔也に促され、達斗は渋々頷いた。

 ……。
 …。
 メイと美寧の部屋。元々はメイと翔也の相部屋だったのだが、前回達斗の要望によって女同士の相部屋となった。
 しかしそれが功を奏して、他の邪魔が入らずメイがしっかりと美寧の機体製作のサポートができるようになった。

「それじゃ、どんな機体を作ろうか?」
 メイと美寧はベッドに腰掛けて機体コンセプトを決めるためのブレインストーミングから始めた。
「え、うーん……難しいなぁ……大会でいろんな機体見たけど、みんな凄いし……」
「大丈夫大丈夫⭐︎確かに凄い機体作る人もいっぱいいるけど、ちょっとした形を作るだけでも全然良いんだから!」
 そう言いながら、メイは美寧へ簡単な機体のサンプルを見せる。

    

「へぇ、こんなにシンプルでも良いんだ……」
「それから、これはこの船でも売ってる量産型なんだけどね。こういうのを買って改造するのもアリだよー」

「うーん……でも、なんかちょっとピンと来ないなぁ。やっぱり、フリックスって男の子の遊びなんだなぁって……」
「ふふ、そう言うと思ってました!」
 メイは待ってましたとばかりにしたり顔になる。
「???」
「確かにフリックスのメインユーザーは男性だけどね、女の子が女の子らしく楽しむ事だって出来るんだよ!」
「女の子らしく?」
「例えば、こんなのとか……」

   

 どれもファンシーな見た目をしており、とてもバトルする姿が想像できない。
「うわぁ、可愛い……!」
「メイがまだ小さい頃に作ったフリックスなんだけどね。こんな風に可愛く作ろうとしても良いんだよ!」
「強そうだったり、カッコよくしないといけないのかと思ってた」
「フリックスは自由だって前に言ったでしょ!どう、これで作れそうな気になった?」
「うん!私小物集め好きだし、なにか材料にしてみようかな」
「それすっごい素敵!じゃあその方向で考えてみよ!」
 とこんな感じで順調に機体コンセプトが決まっていくのだった。

 一方の達斗と翔也は……。
「いけぇ!ヴァーテックス!!」
「掬い上げろ!テコチャージ!!」

テコチャージ

 バトル場でのフリーバトルで一般フリッカー達相手に連戦連勝していた。

「ひ、ひえ〜!」
「つえー!」
「さすがスプリング大会優勝者……!」
 達斗の名も結構広まってるらしく、翔也ほどではないにせよ羨望の眼差しを受けている。

「まだまだ、いくぞ!ヴァーテックス!!」
 しかし、達斗はそんな事は気にもせずバトルに勤しんだ。

 ……。

 そして何戦かして、二人は一旦休憩して外の展望デッキで一息ついた。
「あー、気持ち良い!」
「千葉の海見てると、なんか俺達ってちっぽけに思えるよな……」
「千葉の海と比べたら大抵のものはなんでも小さいでしょ」
「それもそうだな」
 心地いい海風を身体いっぱいに浴びながら二人は大きく伸びをした。

「それにしても、さっきのバトル随分気合い入ってたなぁタツ」
「そうかな?いつも通りだと思うけど」
「やっぱり美寧さんが大会出る上に、メイたんと機体製作するってんで意識してんだろ」
「別に。ただ大会前にしっかりウォーミングアップしてるだけだよ。美寧姉ぇは関係ないし」
「ほんとかぁ?……っと、噂をすれば」
 達斗と翔也の視界に談笑をしながら歩いている美寧とメイの姿が見えた。
 この展望デッキはバトル場と製作室の両方へ行ける連絡通路のようになっており、二人は達斗らには気付かずまっすぐに製作室に向かっていた。
「製作室の方に行ってるって事は、ある程度コンセプト固まったんだろうな」
「美寧姉ぇ……」
 達斗はその姿を見るなり、2人に気付かれないようこっそりと後をつけて行った。
「お、おいタツ……!」
 翔也もその後を追った。

 達斗と翔也に付けられていた事には気づかず、メイと美寧は製作室で談笑しながら機体製作に勤しんでいた。
「この道具はね、こうやって使って……こんな風に切り出せばいいんだよ」
「うん、やってみるね」
 メイが懇切丁寧に製作のやり方を教えて、美寧はそれに従って辿々しくも製作を進めている。
「それにしても、美寧ちゃんって美術センスあるんだね!すっごく可愛い機体が出来そう」
「そ、そうかな?お料理の飾り付けとか考えるのは好きだけど……」
「可愛さを追求する身としてはちょっと嫉妬しちゃうけど、形になるのが楽しみ〜」
「うん……でもまだちょっと不安だな。ほんとに私にバトルが出来るのかな……?」
「大丈夫!フリックスってね、戦わなくても戦える方法だってあるんだから!」
「戦わなくても、戦える?」
「そう!しかもそれで勝てちゃうの!」
「戦わずに戦って、勝つ……?」
「ふふふ、フリップスペルに面白い効果があってね」
 ドヤ顔で解説するメイ。それを美寧は興味深げに聞いている。

 そんな二人の様子を達斗と翔也は物陰に隠れながらこっそり眺めていた。
「……ここからじゃ何話してるのか聞こえないなぁ」
「タツ、お前……」
 真剣な表情でストーキングしている親友の姿を見ながら、翔也は嘆くやら呆れるやらわからない感情に苛まれてため息をついた。
「なに?」
「いや、なんというか、似た者姉弟だなって思ってさ。血は争えないか」
「血は繋がってないよ」
「言葉の綾だ」
 直接の血統はなくとも、共に育った環境が同じ血を巡らせる事もあるのかもしれない。翔也はそんな風に思った。

 と、その時メイが時計を見て席を立った。
「あ、そろそろ時間だ。ごめんね美寧ちゃん、もう行かなきゃ」
「ううん、大丈夫。ここまで教えてもらえたら後は一人でできるから」
「うん!頑張ってね、機体製作も大会も!」
「もちろん!忙しいのにありがとう、メイちゃん」
「いえいえ。もし美寧ちゃんが優勝してハグ券手に入れてくれたら、ワンチャン百合営業で新しい客層獲得出来るかもだし⭐︎」
 メイが一瞬悪い顔になる。
「は、ははは」
 ちゃっかりしてるなぁこの子は。と、美寧は乾いた笑いを浮かべた。

 そんな会話は全く聞こえず、メイが席を立って離れた事だけしか把握出来ない達斗達。
「あ、そろそろメイたんリハの時間か」
 メイだけ席を離れた理由を翔也は察する。
「美寧姉ぇ、一人で大丈夫かな?刃物で怪我とかしないかな?接着剤が手に付いて肌が荒れたらどうしよう……!」
 達斗は一人で黙々と作業している美寧をハラハラしながら見守っている。
「タツ……いつもと立場逆転してんぞ」
「やっぱり手伝った方がいいかな」
 翔也の言葉など耳に届いていない達斗は、言うが早いかフラフラと美寧の方へ向かっていった。

「み、美寧姉ぇ」
 一人夢中になって作業している美寧へ、達斗は恐る恐る話しかけた。
「わ、びっくりした。なんだ、たっくんも何か工作しにきたの?」
「うん、そんなとこ」
「そっか。お姉ちゃんも機体作り順調だから、お互い頑張ろうね」
 作業の手を止めず達斗の方を見もせずに美寧は達斗の言葉に答えた。
「そうだね……」
 いつもの美寧なら考えられない塩対応に寂しさを覚えた達斗は、美寧の後ろをソワソワウロウロする。
「えっと、あとはこの線に沿って……」
「あ、美寧姉ぇ、デザインナイフの線の引き方は」
「知ってるよ、こうでしょ」
「う、うん……あ、接着剤は」
「分かってるよ、メイちゃんから聞いてるから」
 達斗に言われるまでもなくスムーズに作業を進める。
 元々料理や裁縫、手当てなんかも難なく熟るくらいには手先が器用な美寧にとって、簡単な工作くらいはお手のものなのだろう。
「えっと、美寧姉ぇ」
「なに?」
「何か手伝える事とかある?」
「んー、ありがと。でもここまで来たら一人で出来るし、自分の力でやりたいから」
 楽しそうに作業を進めながらやんわりと達斗の申し出を拒否する。
「そ、そっか、そうだよね……」
「たっくんも頑張ってね」
「うん、じゃあ……」
 達斗はあからさまに凹みながらトボトボとその場を離れて翔也の横を通り過ぎた。

「タ、タツ……」
 まるで失恋したかのような様子の達斗に、翔也はかける言葉が見つからない。
「翔也、僕トレーニングジムの方に行ってるね……」
「お、おう、でも大会前にあんま無理するなよ」
「大丈夫……」
 重い空気を纏いながら、達斗はフラフラと歩いて行った。
「……んじゃ、俺はもうひとバトルしてからメイたんのライブ見に行くかな」
 達斗の後ろ姿を眺めながら、翔也は後頭部を掻きつつそう呟いた。

 と言うわけで、美寧は機体製作に勤しみ、達斗はジムでトレーニング、翔也はメイのライブ……と言う具合に、メンバーはそれぞれ別行動する事になった。ある意味これもツアー旅行の醍醐味だろう。

 ……。
 …。

 そんなこんなで時間は進み、いよいよ大会の時間となった。
 美しい夕日に照らされたデッキの上が大会の会場になっており、参戦者達が集まっている。
 その会場のステージでメイがMCを務める。

『はーい!それじゃあいよいよクルーズツアー特別フリックス大会始めちゃうよー!!』

 ワーーーーー!!!

 参戦者の中には不動ガイもおり、引き締まった表情でメイを見据えている。
(謎のオーラを纏う女の大会……果たしてどれ程のものか参戦する価値はあるな)

『ルールは1VS1の上級アクティブバトル!大会形式は四ブロックに分かれて予選トーナメントをして、明日予選を勝ち上がった四人で決勝大会をやっちゃいまーす!』

 モニターにトーナメント表が映し出される。

『対戦カードはクジアプリでランダムに決定するから誰と当たっても恨みっこなしだよぉ!
そして、今回の目玉である優勝賞品は……なんと、メイたんとのハグ券でーす!』

 ヴォォォォォイ!!!!
 本日1番の野太い歓声が上がった。

『皆、頑張って優勝目指してね!!!」』

「っっっ!!!」
 メイの優勝賞品の件を聞き、ガイの身に怖気が走った。
(ハグ……だと……!)
 震えそうになる脚を精神力で抑えつけ、ガイは思考を整理した。
(ハグとは、つまり……ハグという事……)
 ガイの脳裏に浮かぶのは、総合格闘技において対戦相手を抱え込んで締め付ける『ベアハッグ』だった。
(腕に覚えのある大会主催者が己の力を誇示するために優勝者とのエキシビジョンマッチを特典とするのはよくある話……だが、あの女はバトルするまでもなく己の膂力のみを誇示しようと言うつもりなのか……?)
 メイの思惑に気付き、ガイは気を引き締めた。
(あの細腕でどこまでの力が出るのかは未知数だが、只者ではない事は間違いなさそうだ……面白い!その挑戦権、この俺が手に入れる)

 ガイが密かに決意を固めている間に大会は進行していく。

「アクアリアリオン!」

アクアリアリオン

「ピットインだ!アーマードウルペス!」

「頑張れ!グランドパンツァー!!」

グランドパンツァー

「メタルツリー!!」

「船の揺れに対応するならアンカーの錨が1番だ!!」

「いや、波打つシリコケトンこそ船を制する!……うわぁ、穴に落ちた!」

「運び出せ!ベニカミ!!」

 GFCスプリングで活躍したフリッカーだけじゃなく見た事のない一般フリッカー達も多く入り混じっての激しい戦いだ。

『大会が始まってから激しいバトルの連続でメイ興奮しちゃいます!!
そして、ここで注目の対戦カード!
スプリング大会優勝の神田達斗君とその義理の姉、上総美寧ちゃんのバトルで〜す!フリックスバトルは初めての美寧ちゃんですが、姉の威厳を弟に見せつけることが出来るのか楽しみですね〜!』

 フィールドを挟んで達斗と美寧が対峙。
「いきなりたっくんと当たるなんてちょっとラッキーかも」
「そうだね」(ほんとラッキーだ。ここで美寧姉ぇを安全に敗退させよう)
 美寧にとっては、達斗の優勝を阻む事。達斗は美寧になるべく早く敗退してもらうのが目的なので、一回戦でいきなり激突するのはお互い好都合だ。

「美寧姉ぇ、機体は完成したの?」
「もちろん!これが私の初めてのフリックス『ジュエリーボックス』だよ!」

 美寧の作ったフリックスは綺麗な小物をベースに取り付けた煌びやかなフリックスだ。

「綺麗に出来てるね」
「えへへ、ありがと!」
(でもなんか、ますます攻撃しづらいなぁ)
 ただでさえ美寧と戦うのはやりづらいのにこんな綺麗な機体を作られては戦意が削がれる。
 しかしそんなことを言ってる場合では無い。
 フィールドに備えられたスターター装置がバトル開始を告げる。

 [3.2.1.アクティブシュート]

「えい!」
 美寧はヒョロッとしたシュートでほんの数センチだけ機体を動かす。
「くっ!」
 調子を狂わされている達斗は狙いが逸れて……というよりも狙いを外して自滅。
 残りHP13。

「やったっ!」
「うぅ……!」

 仕切り直し。
 [3.2.1.アクティブシュート!]

「今度こそ!」
「やぁ!」
 またも力加減をミスり、穴の上で停止。しかし、ジュエリーボックスも穴の上に停止したのでお互いに自滅。
 達斗残り11。美寧残り13。

「うぅーん、意外と加減が難しいなぁ」
(ダメだ。ちゃんと集中しなきゃ!!)

 仕切り直し。
 [3.2.1.アクティブシュート]

「いけっ!!」
 達斗は気を取り直して見事なシュートでヴァーテックスをフィールド端まで進ませてギリギリストップ。これで先手は確実だが……。

 ふわ……!
 豪華客船とは言えここは船の上、予期せぬ潮の流れによって船が揺れてしまうことは往々にしてあるのだ。
 そしてそれは精密なシュートをすればするほど影響を受ける。
 コトンとヴァーテックスの先端がフィールドから傾いて場外に接地する。

「あぁ!!!」
 これで達斗の残りは9だ。

『これは意外な展開!スプリング優勝者の達斗君が美寧ちゃんに先制されてます!やはり弟は姉に弱かったのでしょうか??』
(や、やりづらい……)

 仕切り直し。
 [3.2.1.アクティブシュート]

「こ、今度こそ!!」
 揺れも計算に入れて適切なシュートでヴァーテックスをフィールド中央まで進めて今度こそ先手を取った。
「よし!」
 達斗のターン。ジュエリーボックスはほとんど進んでいないので狙いはつけ易いが、マインは二つともヴァーテックスの横にあるので利用出来ない。
「……」
「たっくん、いつでもいいからね……!」
 美寧は覚悟を決めつつも不安を隠しきれない表情でバリケードを構えている。
 まだ攻撃を受ける事は怖いようだ。
「……!」
 ここはフリップアウトを狙うのが定石ではあるが、最愛の姉を物理的に攻撃する事に達斗は躊躇ってしまう。
「フリップスペル発動……フレイムヒット!

 フレイムヒット……マインを再セットしてから、機体の向きを変えずにシュートする。

 丁度ヴァーテックスのフロントはジュエリーボックスの方へ向いているのでこのスペルを使うにはおあつらえだ。
 達斗はマインを目の前にセットして、力加減してシュートした。

 バッ!コツン。
 優しい勢いでマインがジュエリーボックスに触れてマインヒット。
 美寧残り10。
「たっくん……お姉ちゃんが相手だからって手加減してる?」
「してないよ。これでも目標のために全力でやってる!」
 いつものバトルとは目的が違うだけで本気というのは嘘ではない。
(美寧姉ぇをなるべく傷付けずに勝つにはこれしかない)
 自分で縛りを課しているとは言え、全力は全力だ。

「そっか、それなら私も遠慮しないからね!」
 美寧のターン。
「……えい!!」
 ポコッ!
 美寧のヒョロヒョロシュートによって目の前のマインが弾かれてヴァーテックスへ向かう。
「っ!」
 しかし、達斗は素早くステップでヴァーテックスを後退させて回避。勢いの足りないマインはヴァーテックスに届かずに停止する。
「えぇ!?避けちゃうの!?」
「これがフリックスだよ!普通のおはじきとは違うんだ!!」
「むぅ……」

 達斗のターン。
「スペル回収」
 美寧の攻撃は回避してしまえばいい。あとは隙を見て確実に優しく美寧を仕留めていくしかない。その確率を上げるためにもフレイムヒットの回収はマストだ。

 美寧のターン。
「だったら私もフリップスペル発動!ノーションスワップ!
「ノーションスワップ?」

 ノーションスワップ……自機とマインの概念を入れ替え、マインを自機としてシュートし、自機をマインとして扱う。

 さっきのターンでヴァーテックスがステップで後退したおかげで美寧のマインと接近しており、そしてその動線上に達斗のマインもある。

「えい!」
 気の抜けるような美寧のシュートだが、普通の機体よりもはるかに軽いマインは美寧の力でもしっかりと飛ばす事が出来るし、向き変え変形の必要がないのでステップで回避する事もできない。
 なにより、このスペルなら敵機と自機を一切介さずにマインヒットができる。
 美寧のシュートしたマインはヴァーテックスを掠めてその先にある達斗のマインと接触し3ダメージ。
 達斗の残りHPは6だ。

「ノーションスワップ……その手があったか」
 これなら戦いが苦手な美寧でも遠隔にダメージを与えられる。

『これはすごいです!達斗君と美寧ちゃんのバトルは直接のぶつかり合いを一切してないのにも関わらず激しい攻防戦!こんなに優しいフリックスバトルは見た事がありません!!』

 実況しているメイが美寧へウィンクを送った。

「メイちゃんから教えてもらったんだ。『戦わなくても戦えて、勝てる方法』を」
「そっか、それが美寧姉ぇのフリックスバトル……知らなかった、美寧姉ぇみたいに戦いが苦手でも出来る戦い方があるなんて」
「うん。フリックスってすごいよね」
「……だったら僕も、美寧姉ぇに勝つためのバトルを全力でやる!!」
 達斗のターン。達斗は目の前のマインを弾き飛ばしてジュエリーボックスへ当てた。
 美寧残り7。
「不攻の戦いはこれからが本番だよ!」

 美寧のターン。
「フリップスペル発動!グラビティストンプ
「そのスペル……確かスプリングでも使ってる人がいた……!」

 グラビティストンプ……機体を7cm浮かせた状態でシュートし、転倒せずに着地したら成功。次のターンまでにバリケードを構えずにマインヒットも場外もしなければフィールド上の敵機に3ダメージを与える。

「え、えぇーい!」
 美寧はジュエリーボックスを浮かせて、なるべくマインやヴァーテックスから離れた場所へシュートした。
 着地は成功。これで達斗はジュエリーボックスを攻撃しなければいけなくなった。

「っ!」
 この状況はまずい。
 フレイムヒットを使おうにも、今ヴァーテックスの向きはジュエリーボックスとは別方向に向いているため向き変え変形せずに撃ってもマインヒットはできない。
 美寧の機体を物理的に攻撃するしかグラビティストンプを防ぐ手段がない。

(たかが3ダメージ、ここは甘んじて受けようか……)
 まだHPには余裕があるし、ここは一旦肉を切らせるのもありか?
 そう考えた時、美寧に声を掛けられた。

「たっくん」
「え?」
「いいよ」
 美寧は穏やかで全てを受け止めるような包容力を感じさせる表情で言った。
「本気で来て」
「べ、別に僕は最初から本気で……」
 美寧はゆっくり首を振る。
「お姉ちゃんと戦うための本気じゃなくて、たっくんの本気をぶつけて。怖いけど、私はそれを受けてみたいから」
「美寧姉ぇ……分かった」
 美寧の覚悟を感じ、達斗も覚悟を決めてジュエリーボックスを見据えて狙いを定めた。

「いけぇ!ヴァーテックス!!」
 バシュウウウウウ!!!!
 これまでとは比べ物にならない本気のシュートを放つ。

「ひっ、うぅぅ!」
 美寧は恐怖で体がすくみそうになるが、歯を食いしばって耐える。

 バーーーーン!!!!
 機体同士の激突で激しい衝撃波が巻き起こる。
 そして……。
「しまっ!思ってたより軽い!!」
 直接のぶつかり合いをして来なかったせいか、達斗はジュエリーボックスの防御力を見誤り想定よりも強いシュートを撃ってしまった。
 その結果、ジュエリーボックスと一緒にヴァーテックスも勢い余って場外してしまった。

 これによってヴァーテックスは自滅による2ダメージに加えて、攻撃が不成立なのでグラビティストンプの3ダメージも受けてしまい、残りHP1になった。
 しかし、そんな事よりも心配なのは美寧の方だ。

「み、美寧姉ぇ!大丈夫!?」
 達斗は慌てて美寧の方へ駆け寄り、安否を確認したのちに機体を拾った。
「うん、なんとか……!」
「ごめん、力み過ぎちゃって……機体もちょっと傷付いちゃった」
 ヴァーテックスの攻撃によって、ジュエリーボックスのボディに一部傷が入ってしまった。
「このくらい大丈夫だよ。それに、すっごく怖かったけど、それと同じくらいすごく嬉しかったから」
「嬉しかった?」
「やっと、本当のたっくんを受け止められた気がして」
「美寧姉ぇ……」
 見つめ合う二人。
 いい雰囲気だが、そこへメイの容赦ない実況が降り注ぐ。

『はいはい、イチャイチャはそこまで!まだ決着付いてないんだから仕切り直し仕切り直し!』

 メイのトークで会場からドッと笑いが湧き上がる。

「べ、別にそんなんじゃ!!」
「クスッ、たっくん!続きやろ!」
「わ、分かったよ!」

 仕切り直しアクティブ。
 [3.2.1.アクティブシュート]

「え、えーい!!」
「いくぞ、ヴァーテックス!!」

 もう遠慮する必要はない。
 達斗は思いっきりヴァーテックスをシュートするのだが……。
 ビキィィィ!!!
 突如、全身に激痛が走った。
「あぐぁ!!!」
 その影響で、当然ながらヴァーテックスは自滅して撃沈。
 達斗は痛みに耐えきれず疼くまった。

「たっくん!!」
「タツ!!」
 突然の出来事に美寧と翔也が駆け寄る。

『あ、え、えっと、バトルの方は達斗君の撃沈ですが、達斗君が急に蹲ってしまいました!大丈夫ですか!?』

「どうしたタツ!?」
「い、つつつつぅ……!」
 どこか外傷があるわけでもなく、具合が悪いと言うわけでもなく、単純に痛みに耐えているだけと言った様子に、翔也は何かを察した。

「タツ、お前……ジムで筋トレやりすぎただろ?」
「ギクッ」
 達斗の不調の正体が判明し、翔也は大袈裟にため息をついた。
「はあぁぁぁ、筋肉痛かよ……だから言ったじゃねぇか」
「だ、だって、つい……」
 美寧の事が気になって、無心でトレーニングしてしまったようだ。その負荷の蓄積がようやく現れたらしい。

「ったく、しょうがねぇな。ほれ、肩貸してやるから医務室行くぞ。痛み止めくらいあるだろ」
「あ、でも翔也君はこの後試合あるでしょ。付き添いは私が行くから大丈夫だよ」
「でも、美寧さんも一応勝ち上がったんだし」
 この後まだ試合があるのは美寧も翔也と同じのはずだが。
「私は、まぁ、目的(?)は達成したし……」
「はは、まぁそうっすね」

「そういうわけだからごめんね、メイちゃん。私たっくんを医務室に連れて行くからこの後は棄権で」

『あー、うん、おーけー。仲がよろしい事で、けっこうけっこう』
 一部始終を見ていたメイは、呆れながら乾いた笑いを浮かべた。

「それじゃたっくん、お姉ちゃんの肩に捕まって」
「う、うん、ごめん」
 達斗は美寧の肩を借りて立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
「たっくん、やっぱり大きくなったね。もう昔みたいに抱っこは出来ないなぁ」
 美寧が感慨深げに呟く。
「そりゃね……それにしても、トホホ……今日はとことん立場逆転だなぁ。ぃてててて……!」

 今日の事を思い返してみて、全く良い所がなかった事に達斗は少し凹むのだった。

 

   つづく

 

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