弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第13話「船上の戦場!危うし、不動ガイ」

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第13話「船上の戦場!危うし、不動ガイ」

 

 クルーズツアー大会で急性の筋肉痛になった達斗は美寧に付き添われて医務室に行き、痛み止めを処方してもらった。
 そして、しばらく安静にしたのち医務室から出て大会会場へ向かう。

「たっくん、もう大丈夫?」
「うん、お医者さんがくれた痛み止めが効いてるから」
 達斗は一回戦で美寧に負けて敗退、美寧は達斗に付き添ったのでその後の試合は棄権したのだが、まだ翔也達の試合が残っているので大会が終わるまでに会場へ急いだ。
「でも悔しいなぁ。まさか美寧姉ぇに負けちゃうなんて」
「ふふん。お姉ちゃんのこと見直した?」
「まぁね。それに、あんな戦い方もあるなんて思いもよらなかった……やっぱり面白いなぁフリックスって」
「うん……私も、少し考え直したかな……戦いの事」
「……そっか」
「まだちょっと苦手だけどね」
「ははは、いきなり戦闘狂になられても怖いよ」

 そんな話をしながら二人は会場に戻った。
 会場では、丁度翔也のいるブロックの決勝戦が始まっていた。
「あ、丁度翔也君の試合みたい」
「よかった、間に合った」

『さぁ、続いてはCブロックの決勝戦で〜す!
対戦カードは、幻の第0回全国チャンピオン寺宝カケタさんの息子タカシ君!使用機体はリベリオン・ジエンドハイウォールバージョン!』
 リベリオン・ジエンドはフリー回転する外装リングが高い壁のようになっていた。

「ど、どうも……」
 タカシは礼儀正しい年少の男の子らしく遠慮がちに会釈をした。

『そしてそして対するは、前年度スーパーグレートフリックスカップ準優勝にして現在アマチュア最強のフリッカー!天崎翔也様です!!!』
 と、力強くアナウンスしたのちに、メイは「やべっ!」と言う顔をした。

「様?今様付けしなかったか?」
「いくら天崎翔也だからって、様付けはないよな?」
「俺もメイたんに様付けされてぇぇ〜!」

 メイのアナウンスを聞き、会場がざわめく。

(あっちゃ〜どうしよう〜)
(何やってんだメイたん……)

 メイは一瞬焦りながらも咳払いして取り繕った。

『あ、いえ、そうじゃくて、様……サマー!翔也サマー君です!!』

「んん???」
 さすがの翔也も耳を疑った。

『スプリング大会で悔し涙を飲んだ翔也君が、サマー大会に向けて気合いを入れて新たに登録し直したフリッカーネーム、それが翔也サマー君なのです!!メイたんったら、さっきはつい呼び捨てにしちゃいました⭐︎』
「ちょっ!」
 あまりにも無理矢理な取り繕いに翔也はメイへ非難の目を向けるが、メイは申し訳なさそうに小さく謝罪のジェスチャーを送った。
 翔也はため息をついてヤケクソ気味に叫んだ。

「そ、その通り!サマー大会こそは輝けるように誓った太陽の男!それが、天崎翔也サマーだ!!!」
 エイペックスを掲げてポーズを決める。

 会場が静まり返り、そしてヒソヒソと囁き声が聞こえる。
「天崎翔也、サマー……」
「天崎翔也、夏……」
「まぁ、他人の好みにとやかく言えねぇけどよ」
「天崎翔也って、もっとネーミングセンスある奴だと思ってたわ」

(うぅ……恨むぜ、メイたん……)
 翔也はポーズを決めながら涙を流した。

「翔也サマー……ぷっ、くく……!」
「たっくん、笑っちゃ悪いって……!」
「美寧姉ぇだって、震えてるし……!」
 会場の端で一連の流れを見ていた達斗と美寧は笑いを堪えて震えていた。

『さ、さぁ、気を取り直して始めちゃいましょう!!』
 話が彼方に逸れてしまったのでメイは気を取り直して試合の準備を促した。

 翔也とタカシが機体とマインをセットして準備完了する。

「よ、よろしくお願いします!天崎翔也サマーさん!」
「お、おう、もうそれでいいや……」

 フィールドに設置されたスターターがスタートの合図をする。
 [3.2.1.アクティブシュート]

 バシュッ!!
 翔也はエイペックスをスピンシュートしてリベリオンの円形ボディを回避して先手を取った。

『先手は翔也サマー君です!』
(いちいち名前言わなくていいっての……)
 翔也は気を取り直して盤面を見る。
 先手は取ったものの、マインも穴も狙える位置にはなく、場外からも遠い。

(確かあの機体、掬い上げのフリー回転リングで受け流すんだったよな……だったら、下手に強い攻撃は撃てない)
 かと言ってビートやマイン再セットでお茶を濁すのも面白くない。

「だったらこれだ!飛べ、エイペックス!!」
 翔也はエイペックスのシュートポイントを上から押さえつけ、その勢いでジャンプシュートした。
「横からの攻撃が受け流されるなら、上からってのが相場!踏みつけてマウントスタンだ!!」
 しかし、エイペックスのジャンプ高度よりもリベリオンのハイウォールの方が高く、ボディ外装の上部分にぶつかって反射した。
 ビートヒットでタカシのHP14。
「思ったより壁が高かった……!」
「あ、エイペックスのジャンプ力に合わせてボディを高くしたので」
「研究済みか……まぁ、そりゃそうか」
 段田バンが神位継承戦で戦うために開発し、そして実際に大会で活躍したフリックスだ。研究されてないわけがない。
(俺もリベリオンの研究はしてるわけだしな)
 むしろリベリオンの方が有名な機体だ。
 第0回GFCにて、優勝者の寺宝カケタが使用した機体。
 『おはじきから様々な形に発展してきたフリックスの進化への反逆』と言う意味でシンプルな完全円形をしている。
 当初は『隙のない完璧な形状』と持て囃されていたらしいが、フリックスの進化はそう簡単に反逆できるものではない。
 他の競技なら別だが、フリックスにおいて円形はその掴みどころのなさが長所にも短所にも作用する。
 掴みどころがないのなら、掴まなければ良い。

 バシュッ、ガッ!
 タカシのシュート、マインもフリップアウトも狙えないのでビートヒットする。
 翔也残り14。

(さすがチャンピオンの息子、立ち位置ちゃんと考えて攻撃したか)
 ビートヒットしか当てられないにしてもその後、より大きな反撃を喰らいづらいようにするのもテクニックなのだ。
 当然、翔也もそれは承知の上で再びビートヒットを決めて、その反射で反撃を受けづらい立ち位置につける。

 バシュッ!ガッ!

 お互い、ビート以上の攻撃を受けないように立ち回りを考えながら徐々にHPを減らして行く。
 泥沼化しているようだが、二人の見事なテクと戦術は見応えがあり、少しずつではあるが試合は進行しているのでグダっている感はない。
(この状況を続けて持久戦に持ち込めば、俺の勝ちだが……!)

 そして、何ターンか経ち。
 翔也HP4、タカシHP3でタカシのターンになる。

「……フリップスペル!フルスロットルフィニッシュ!!
 タカシがスペルを宣言する。
(さすがに痺れを切らしたか)

 フルスロットルフィニッシュ……HPが1/3の時に発動宣言可能。自滅が無効になるが、このシュートで撃破出来なかった敵機へのダメージは無効。

 翔也のターン。
(さて、どうしたものか……)
 相手は後ろを向いているので向き変えからシュートまでにタイムラグがある
 とは言え、バリケードを構えたところでエイペックスでは大した防御力にはならない。
 ならば、ステップで逃げに回るのが定石だが……。

(せっかくだし、楽しむか)
 翔也はステップでマインを弾きリベリオンの近くまでマインを飛ばした。
「マインを……?」
 ステップでマインに触れると『マインと接触状態』になってしまう。しかし、あの天崎翔也の事だ、何か企んでいる可能性もあるが……。
「行くしかない!」
 タカシはこれが最後のチャンスとばかりに拳を使ってリベリオンをシュートした。
 ハイウォール改良でシュートポイントが高くなっているのでパンチシュートがやりやすいのだ。

 バゴォォォ!!
 パンチシュートの勢いでリベリオンがエイペックスへ迫る。
「来い、エイペックス!!」
 翔也は敢えてバリケードを構えなかった。
 カッ、ヌル……!
 リベリオンの凄まじい一撃でリベリオンとエイペックスは共に勢いよく場外してしまう。
この勢いなら1mくらい軽く飛びそうだが……。
「そこだ!踊れエイペックス!!」
翔也はバリケードを投げて空中のエイペックスにぶつけてフィールドに戻し、リベリオンだけが自滅した。

「おおおおお!!!」
「バリケード投げて遠隔防御しただとぉ!?」
「さっすがサマーさん魅せてくれるぜ!!」
 翔也のミラクルプレイに観客が盛り上がる。

『すっごーい!翔也サマー君の奇跡の軽業でエイペックス生還!!バリケードは壊れましたけど、凄すぎますうう!!』

(サマーさんはやめろ)

『なんと!タカシ君はフルスロットルフィニッシュを使って全力シュートを放ちましたが、無念の不発!でも大丈夫!スペルの効果でシュート前の位置へ戻せますよ!』

「スペル不発かぁ……!」
 タカシはリベリオンをシュート前の位置に戻す。一応マインヒットはしたのだが……。
「今のHPならマインヒットじゃ撃沈しないからな!ダメージも無効だぜ……!」
 スペル失敗の影響でマインヒットも無効。翔也残り4のままだ。
「で、でもまだまだ……!」
「スペル不発になっただけじゃないぜ!」
「え!?」
 言われて、タカシは思い返す。リベリオンはスペルの効果でシュート前の位置に戻した。
 その前のターン、翔也はステップでマインを弾き、リベリオンの近くまでマインを飛ばした。
 つまり今、翔也は絶好のマインチャンス状態なのだ。
「まさか、それでマインを……!」
「いくぜ……!」
「でも、まだカウンターブローで」
「させねぇよ!フリップスペル発動、ブレイズバレット!!

 翔也はお馴染みのスペルを宣言する。マイン二つに干渉してマインヒットすればダメージが2倍だ。
 が、如何に翔也と言えど今の状況でダブルマインを成功させる事は難しいだろう。
 しかし、そんな事をする必要は無い。
「カウンターブロー、出来ない……!」
 カウンターブローができるのは、通常シュートのシュート準備中なのでスペルによるシュートでは出来ないのだ。
 その代わりブレイズバレットは3秒以内に撃たないといけないと言うデバフが掛かるのだが、今の立ち位置なら3秒以内に撃つ事などわけないだろう。
「決めろ!エイペックス!!」
 バシュッ!
 翔也は難なくマインヒットを決めた。

『決まりました!!翔也サマー君の見事な戦略でリベリオンジエンドハイウォール撃沈!Cブロック優勝は翔也サマー君でーす!!』

「すげぇ!」
「さすがサマーさんだぜ」
 翔也サマーもすっかり定着してしまったようだ。

 バトルが終わり、翔也は達斗らと合流する。
「おう、タツ。もう筋肉痛は平気か?」
「うん、お陰様で痛みも引いたよ。翔也サマーも、予選突破おめでとう」
「たっくん……!」
 美寧は笑いを堪えながら達斗を諌めた。
「……その呼び方やめろ」
 翔也がジト目になると達斗は笑って謝った。
「はは、ごめんごめん」
「ったく、メイたんもやらかしてくれるよ……パフォーマンスのアドリブは得意なのに、トークミスのリカバリーはヘッタクソだからなぁ」
「辛辣だねぇ」
「辛辣にもなるさ、貰い事故受けちまったんだから。まぁ、そこも可愛いんだけどさ」
 痘痕も靨。推しからの貰い事故はむしろご褒美と思った方がいいのだろう。

 そんな話をしているうちに大会は進行する。

『続きましては最終Dブロックの決勝でーす!
対戦カードは、量産型のグランドパンツァーで頑張り続ける高島タダシ君!!』

「ここまで来たんだ。絶対予選突破するぞ……!」

 タダシの登場に驚く達斗。
「タダシくん!?あ、そっか、招待されてないわけないもんね……全然会わなかったから気付かなかった」
「まぁ、船の中広いし、いくら知り合いだからって物語みたいに都合よくエンカウントしないだろ」
「それもそっか」

『対するは、黒きゴスロリ衣装に身を包んだ暗黒の少女!槻村凶華ちゃん!』
 眼帯をつけたゴスロリ少女が厨二病チックなポーズを決める。

「フッ、この果てしなき大海原が私を狂わせる……天崎翔也が太陽照らすサマーだとすれば、この私は差し詰め闇夜に浮かぶ朧月……!
そう、今こそ私は槻村凶華ムーンよ!

 暗黒微笑しながらそんな事を宣言する少女に、会場は凍りついた。

「いや、それはないわー」
「翔也サマーがマシに思えてきた」
「むーん……」

「なんでよ!かっこいいでしょ!凶華ムーン!!!」
 会場の冷たい反応に、凶華は思わず素で言い返した。
 しかしおかげで翔也サマーの印象が上書きされたようだ。

『そ、それでは二人とも準備をお願いしまーす!』

 タダシも凶華も機体とマインのセット完了し、そしてスターターが試合開始の合図をする。

 [3.2.1.アクティブシュート!]

「いけっ!グランドパンツァー!」

グランドパンツァー

「舞い踊れ!フラジールエッジ!!」

 凶華のフラジールエッジは、その名の通り刃物のような鋭い掬い上げ形状が特徴的だ。
 グランドパンツァーをスパッと掬い上げて場外させてしまった。

「す、凄い掬い上げですね……!」
「これぞ、狂乱の力……」
「あ、でもなんかフィールドに粉っぽいものが吹いてるような」
 フラジールエッジの周りに白い粉が浮いていた。
「これは、石膏粘土?」
 タダシはその粉を指ですくって、その質感から素材を予測した。
「おっとこれは失礼」
 凶華がそれをサッと拭き取る。
「フラジールとは儚く脆いものと言う意味……そう、朧月の淡い輝きのように」
 拭き取った粉も機体の一部とは言え、シュート準備時に機体の一部を試合から除外する事は合法だ。
 破損しやすい素材を使ってはいるが、破損するたびその都度回収すると言うスタイルなのだろう。
「つまり石膏粘土で作った機体から粉が散ったから、摩擦が減って掬い上げる力が上がったと言う事ですね……それなら!」

 タダシは海からの潮風を感じながら敵機を見据えた。

 仕切り直しアクティブ。
 [3.2.1.アクティブシュート]
 バシュッ!!
 再びフラジールエッジのフロントにグランドパンツァーは掬い上げられる。

「ふふ、先程の二の舞」
「負けないぞ!」
 しかし、グランドパンツァーは掬い上げられずにフラジールエッジのフロントをしっかりと捉えた。
「な、何故!?」
よく見てみるとフラジールエッジのフロント表面が少し溶けている。
「石膏粘土だから、この潮風で表面が溶けたんです!これならしっかり食い付きます!」
「そ、そんな事が……!」

 フラジールエッジはグランドパンツァーに弾き飛ばされて場外。

 パリィィン!!
 机から落ちたフラジールエッジは落下の衝撃で割れてしまった。
「あっ!」
「フッ、月の光とは脆く儚いもの……」
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか……!?」
「気にする事はないわ。形あるものはいずれ滅っするもの。この勝負、私の負けよ」
 フリックスにおける破損は、わざと壊すような戦い方をしたわけではなければ基本的には壊れるような機体を作った側の責任となる。
 壊れない機体を作るのも実力であるし、凶華の場合はあえて破損しやすい機体のメリットを活かそうとしていたため、壊れることも自業自得なのだ。

『え、えっと、敢えて儚い素材を使う事で掬い上げ性能を上げていたフラジールエッジですが、それが仇になって大破!凶華ちゃんが降参したのでタダシ君のテクニカルKOです!』

「これもまた、運命……」
(あまり勝った気しないなぁ)

『さぁ、これで予選を勝ち上がった四名のフリッカーが決定しました!
Aブロックの不動ガイ君、Bブロックの宇波カイト君、Cブロックの天崎翔也サマー君、Dブロックの高島タダシ君!明日はこの四人で決勝を戦ってもらいまーす!』

 モニターに勝ち上がった四人の顔が映し出される。

『それでは、今日の予選大会はここまで!皆様、いいバトルをありがとうございました!では、また明日〜!』

 予選大会、これにて閉会。
 ……。
 …。

 夕食を終えた達斗と翔也は、水着着用の混浴スパで入浴していた。

「あー、いい湯だ〜」
「うん、筋肉痛に染みる〜」
 大浴場で二人並んで伸び伸びと脚を伸ばす。
「二人とも、お年寄りみたいだよ」
 頭上からよく知った声が聞こえてきたので見上げると、水着姿の美寧が立っていた。
 フリルのついたオフショルダー系のビキニで可愛さと優雅さを両立させつつ、ボトムは紐で結わい付けるタイプの三角タイプで少し冒険している。
「美寧姉ぇ」
「遅くなってごめんね。着替えに手間取っちゃって」
 達斗と翔也は立ち上がってお湯から出た。
「いえいえ、その水着この前買ってきた奴ですよね?よく似合ってますよ」
 本当に翔也は人間が出来ている。中学入学前の男児とは思えない完璧な社交辞令だ。
「えへへ、ありがと翔也君。翔也君の水着もオシャレだね。まるでモデルさんみたい」
「どうも、一応そこら辺参考にして選びましたからね」
「……」
「タツ、お前も目を逸らしたフリしてチラチラ見てないで感想の一つくらい言えよ」
「べ、別にそんな事してないよ!!」
 翔也にからかわれ、達斗は顔を真っ赤にしながら美寧の方を見る。
「たっくん、どう、かな……?」
 美寧は胸元に手を当てながら達斗を伺う。
「まぁ、うん……まぁ、普通に、良いから。とりあえずお風呂入ろ」
 早口気味にそう言って、達斗はお湯に入り首まで浸かった。
(なんでこれで下着は恥ずかしがるんだろう)
 改めてそんな疑問を抱いた。
「ふふ、ありがとたっくん」
 達斗の精一杯の褒め言葉に美寧は素直にお礼を言って達斗の隣に座った。
「せっかくお姉ちゃんが選んだんだから、たっくんの水着姿も見せてよ」
「やだよ。せっかくの温泉なんだからゆっくり浸かりたいし」
「たっくんの照れ屋さん〜」
「照れてない!!」
 わちゃわちゃとする姉弟の様子に、翔也は微笑ましくため息をついた。
「まったく、仲良いなぁ」

「翔也様翔也様」
 と、ふと後ろからヒソヒソと声が聞こえてきた。
 振り向くと、花柄のパレオを纏った水着に麦わら帽子とサングラスをつけた少女が後ろにいた。

「……そのサングラスは」
 見覚えがある。
 少女はサングラスを外してイタズラに笑う。
「えへへ、メイたんでした⭐︎」
「おおおお、メイたんその水着すっごく可愛いね!」
「でしょ〜!翔也様に見せるために頑張って選びました⭐︎」
「いやぁ嬉しいなぁ、感激だなぁ!」
「やんもう、そんなにはしゃがないでくださいよ〜、照れちゃいますぅ」
「……まぁ、それはそれとして」
 翔也は綻んでいた表情から、急にスンと真顔になった。
「な、なんですか。急にはしゃぐのやめないでください」
「メイたん、さっきはよくもやらかしてくれたね」
 翔也は無表情のままズイっとメイに詰めよる。
「あ、いやぁ、その、メイたんったらおドジさんだから……お、怒ってます?」
「まぁね」
「無表情で言われると余計に怖いんですが」
「さて、どうしたものかな」
 翔也は腕組みして値踏みするように目を細める。
「ひ、ひぃぃぃ!ごめんなさぁぁ〜い!!」
 メイは恐怖のあまりその場から逃げ出した。
「あ、待て!」
 翔也はその後を追いかける。

「走ったら危ないよ〜」
 そんな二人へ、美寧はまったりと温泉に浸かりながら他人事のように呼び掛ける。
「仲良いねあの二人」
「ね〜」
 達斗と美寧はすっかり温泉蕩けモードになっていた。

 一方、スパ大浴場の奥地にある伝説の秘湯。
 超強力巨大滝風呂では、不動ガイが褌姿で一人滝に打たれていた。
 この滝風呂の水圧は生半可なものではなく、一般人が撃たれようものなら一瞬で肩の骨が粉砕骨折してしまうのではないかと言うくらいの勢いがあるためなかなか人が寄り付かず、ガイは一人静かに瞑想していた。

「……」

 これからの激闘に備え、心を無にする。
 どんな雑音も雑念も、今のガイを動かす事などできない。

「うわぁ、すっごーい!この滝風呂に耐えられる人がいたんだぁ❤️」
「っ!!!」
 突如聞こえてきた甘ったるい声にガイの動悸が一気に高鳴り、滝から外れて湯の中に転げ落ちた。
「ぐ……!」
 身体を起こすと、そこにはメイがキラキラした目でこちらを見下ろしていた。
「貴様、保科メイ……!」
 それは、今のガイにとってもっとも脅威となる存在だった。
「確か不動ガイ君だっけ?邪魔しちゃってごめんね〜、ちょっとメイ追われててぇ……ここだったら誰もいないかな〜って思って。隠れてても良い?」
 小首を傾げてお願いするメイに、ガイはぶっきらぼうに答えた。
「……好きにしろ」
「わーい!ガイ君やっさし〜」
 メイは適当にガイを褒めつつ滝の流れている岩の影にひっそりと隠れた。
「……」
 ガイは気を取り直して滝に打たれようとするが、そこへメイが話しかけてきた。
「それにしてもこの滝風呂って水圧が強すぎて誰も寄り付かないのに、平気で打たれるなんてガイ君って強いんだね。鍛え抜かれた身体って素敵〜❤️」
 メイの素直な賞賛に、ガイの眉が不機嫌そうにピクっと動く。
「……見え透いた謙遜はやめろ。貴様ならばこの程度の水圧など川のせせらぎと同様だろう」
「え〜何それ冗談?メイたんのか弱い身体がこんな滝に耐えられるわけないよ〜」
「か弱い、だと……?」
 ガイはメイの発言に耳を疑った。
 その佇まいだけで隠しきれぬほどの強者オーラを放ち、そして優勝賞品と言う名目で己の膂力を誇示しようとしているこの女が……?
(しかし……)
 ガイはメイの肢体を改めて観察してみる。
 アイドルとして最低限の体力作りはしている事を感じさせる贅肉の少なさは見事だが、とは言え誇れるほどの筋肉量があるようにも見えない。
 細い腕、細い腰、慎ましやかな胸でどこままでの力が発揮できるの言うのか。

「……あ、今失礼な事思ったでしょ?」
 失礼な事……確かに、見た目で相手の実力を低く見積もるのは失礼に値するだろう。ガイはそう解釈してこう答えた。
「いや、俺は見かけで実力を見誤るような愚かな真似はしない」
「そっか、そうだよね!見かけで……ってやっぱりメイの事貧乳だと思ってるんだ!ひっどーい!まだ成長期だし、このくらいがちょうどいいってファンもいるんだからね!あんまり大きいと可愛い衣装着ても太って見えちゃうし!」

 と、文句ブー垂れるメイだが、ガイは滝行を再開したのでしっかり聞き取れていなかった。
(貧弱……か。あの神田達斗も、貧弱な見た目をしていながら俺を下すほどの重いシュートを放った。フリッカーは見た目ではないと言う事か)
 それだけ考えたのち、ガイは再び無心になり瞑想に勤しんだ。

「あー!メイたんこんな所にいたのか!!」
 と、そこへ翔也がついにメイを発見して迫ってきた。
「は、はわわ!翔也、さ、さまっぁーゲホッ!」
 メイは狼狽えるあまりにお湯を少し飲んでしまい、『翔也様』と言うつもりがむせて『さまー』と語尾が伸びてしまった。
「この期に及んでまだ言うかこの口はっ、この口はっ!」
 翔也は逃げるメイを捕まえて頬っぺたを両手で摘んで軽く引っ張った。
「ひ、ひがいまふ〜、むへひゃったひゃけにゃんでふ〜!ひゅりゅひてふだふぁ〜い!!」

 訳・違います〜、咽せちゃっただけなんです〜!許してくださ〜い!!

 とまぁこんな感じでメイへお仕置きしている翔也だが、別に本気で怒っているわけではない。そしてメイも本気で嫌がってはいない。

(翔也様にほっぺ引っ張られて幸せ〜)
(メイたんのほっぺ柔らかいなぁ)
 むしろ楽しそうである。

 そして、そんな騒がしい二人にも動じずガイは瞑想を続けていた……。

 …。
 ……。
 ………。
 翌日。船の甲板に設置された会場で決勝大会が開かれていた。

『さぁ、このフリッカークルーズツアーも最終日!メインイベントの大会決勝戦を始めちゃうよ〜!!』
 メイがハイテンションに司会をしている。

『決勝のトーナメント表はこちら!』

 モニターにトーナメント表が映し出される。
 翔也VSタダシ、ガイVSカイトが一回戦の組み合わせだ。

『最初の試合は翔也君VSタダシ君でーす!』

 さすがに、昨日散々お仕置きされたので翔也サマーを擦る気はないようだ。

『それでは準備完了したら早速試合を始めましょう!』

 翔也とタダシがフィールドに着いて準備をする。

「一回戦の相手はタダシか」
「翔也君とバトル出来るの楽しみにしてました!」
「そういや、直接ぶつかるの初めてだもんな。おもしれぇバトルしようぜ!」
「はい!」

 準備完了し、バトルスタート。
 [3.2.1.アクティブシュート]

「いけっ!エイペックス!!」
「グランドパンツァー!!」
 バキィ!!

 ……。
 二人のバトルはなかなか良い勝負だった。
 派手な動きでマインヒットを決めるが、たまに自滅もする翔也。
 それに対して着実にビートヒットでダメージを与えて行くタダシ。
 現在翔也HP5、タダシHP3で翔也のターン。
 若干翔也が有利ながらも、まだまだ結果は分からない。

「よし、これで決めるぜ!」
 翔也はフェンスに向かってエイペックスをシュートし、反射しながらマインを弾き、そのマインはフェンスに反射しながらグランドパンツァー目掛けて飛んで行くが……途中で停止した。

『ああっと!翔也君、華麗なテクニックでマインヒットを決めようとするもまさかの失敗!』

「うーん、勢いが足りなかったか〜」
「よし、反撃するぞグランドパンツァー!」
「いや、甘いぜ!フリップスペル発動!リドゥパースト!!

 リドゥパースト……シュート後に宣言し、バリケードを消費してシュート前の状態に戻してターンをやり直せる。

『なんとなんと!翔也君、保険としてリドゥパーストを持ってました!これで立ち位置はさっきの状態に戻ります!』

「一回練習すりゃ、もう力加減はバッチリだ!」
 バシュッ!
 さすがは翔也、どんなに難しいシュートでも一回の失敗で完全にコツを掴んだようだ。
 バチィィン!とマインがグランドパンツァーに当たりマインヒット。

『素晴らしい!華麗なテクニックと保険を考えた戦略!その両方を兼ね備えた翔也君の勝利です!!』

「おっしゃぁ!」
「さすがですね、翔也君」
「タダシも、良いバトルだったぜ!」

 ……。

『さぁ、続いてはガイ君VSカイト君のバトルでーす!』

 ガイとカイトがフィールドを挟んで対峙する。

「波に身を任せる船のように、出航だ!」
「貴様に構ってる暇はない」

 [3.2.1.アクティブシュート]

「グラビトンプレッシャー!!!」
 ガイはいきなり必殺技を放ち、カイトの機体を弾き飛ばしてカイトの身体にぶつけた。

『ダ、ダイレクトヒット!まさかの一撃KOで不動ガイ君の勝利です!!』

 カイトの機体は浮力を得るために重量に対して体積が大きいのでガイにとって弾き飛ばしやすい相手だったようだ。

「うぅ、バトルで船酔いする暇もなかった……!」
「悪く思うな。俺には辿り着くべき場所がある」
 ガイはカイトを一瞥した後踵を返した。
「……なんか前にGFCで戦った人と少し雰囲気が似てるな」
 ガイの後ろ姿を見ながらカイトは呟いた。

 ……。
 そして、あっという間に決勝戦だ。

『さぁ、大盛り上がりのこの大会もいよいよ決勝戦です!
圧倒的なパワーで突き進む不動ガイ君、そして華麗なテクニックと戦略で魅せる天崎翔也翔也君!
果たして、どちらがメイたんとのハグを獲得するのでしょうか〜!!
二人とも頑張ってくださ〜い❤️』

 対峙する翔也とガイ。
「こんな形でお前とバトルするなんてな。でも、メイたんは渡さないぜ!」
「天崎翔也、まさか貴様もアレを求めていたとはな。これもフリッカーのサガか」
「フリッカーはあんま関係ないだろ。どっちかってぇと……男のサガ?」
「……それもそうだな。未知なる豪傑の洗礼をこの身に受けたいと思うのは男の本能だ」
 ガイの言い回しに翔也は首を傾げた。
「豪傑?洗礼?」
「俺も、いつまでも心のモヤに燻っているわけにはいかないのでな」
「???」
 ガイの言ってる事の意味が分からないが、そんな事を考えている間もなく試合開始となる。

 [3.2.1.アクティブシュート]
 バシュッ!
 先攻は難なく翔也が制した。
「いけっ!」
 普通にマインヒットを決める。
「ほぅ、さすがだ」
 ガイの攻撃。翔也は難なくステップで回避し、返しのターンでマインヒットを決める。
「どうだ!」
「だが、これは俺の距離だ」
 ゼニスの目の前で停止したエイペックス。これではステップする余裕はない。
 バキィ!
 場外までの距離は遠いが、ゼニスなら問題なくフリップアウトを決めた。

 こんな感じで、次の仕切り直しでも翔也が先手を取り、シュートテクやステップを駆使で二回マインを決めて、ガイが隙をついてフリップアウトを決める……と言う先程と同じ展開がもう一回繰り返された。

 現在、翔也HP3、ガイHP3で本試合三回目のアクティブシュートだ。

『テクニックの翔也君とパワーのガイ君の戦いはほぼ互角!
互いにHP3で仕切り直しアクティブになりました!これで先手を取った方が完全に有利ですよぉ!』

(ここで先手取れば、マインヒットで俺が確実に勝てる)
(奴に先手を取らせるわけにはいかない、ならば……)
(あいつも対策はしてくるだろうからな……ここはアレを使うか)

「「フリップスペル発動!電光石火!!」」

 翔也とガイの声が重なった。

「!」
 ガイの顔が少し歪むと翔也がドヤ顔した。
「させねぇよ」
「……さすがに読んでいたか」

『ああ、これは面白いですね!この大一番の仕切り直しアクティブで二人とも電光石火を宣言!!
同時に宣言した場合は重量が軽い方の使用が優先されるのでエイペックスが電光石火を発動出来ますよぉ!』

(これで俺の先手は確実。あとはマインヒットを決められる立ち位置にシュートすれば……!でも、先手が取れないって分かりきってるアクティブだと相手も逃げるだろうしな)
(普通にアクティブシュートをしては勝てない……アクティブアウトを狙うか?いや、電光石火で安定を取った相手を場外させるのはリスクが大きい。となると、マインを落とすか、距離を取るか……)

「わりぃメイたん!ちょっと考える時間くれ!」
『あ、はーい!じゃあ特別ですよぉ』

 難しいこの一手、二人とも思考を巡らせて最適解を導き出そうとしている。

『この仕切り直しで勝負が決まると言っても過言じゃありません!まさに運命のアクティブです!!メイたんもなんだか燃えてきましたぁ!!!
二人とも、メイたんのハグ目指して頑張って!!!
フレーフレー!翔也君!フレーフレー!ガイ君!』

 テンション上がりまくったメイはまるでチアガールのような振り付けで翔也とガイを応援する。
 二人に思考時間を与えるための尺稼ぎという意味合いもありそうだ。

「メイたんの応援……くぅぅぅ、染みるぜぇ!こいつぁ絶対負けらんねぇ!」
 推しからの応援を受けて翔也はたまんねぇっと言った感じで身体を震わせて力を入れた。
「っ!」
 一方のガイは、メイの声援が耳に入った瞬間、身体の底から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
(なんだ、この感じは……熱い……燃えるようだ!)
 ドクンッ、ドクンッ!
 全身に血潮が駆け巡り、力が湧き上がってくる。
(力が、高まる……溢れる……まさか、あの女が……!伊江羅ザキの時とは違う……高みにある力ではない、内から湧き立つ何かだ……!)
 ガイはステージでチアガール風のダンスを踊っているメイを見た。その姿は神々しく輝いていた。
(アイドルとは、即ち『偶像』……そうか、そう言う事だったのか、俺のこの感情の正体は……!)
 ガイの中で何か一つ合点がいったようで、精悍な顔付きで翔也を睨みつけた。

「覚悟ガン決まりって顔だな」
「ああ、はじめるぞ」
「おう!」

 二人とも準備完了し、スターターを起動させた。
 [3.2.1.アクティブシュート]

「行くぜ!エイペックス!!」
「ぬおおおおおお!!!ゼニス!!!!」
 バゴオオオオオン!!!!!
 フィールドを揺るがすほどの勢いでゼニスが突っ込む。
 エイペックスを掠めてフィールドを突き破って場外した。
「ぐっ!!」

『おおっとゼニスがエイペックスに触れた後に勢い余って場外!アクティブアウトでしょうか……!』

「いや、これは……!」
 ゴゴゴゴゴ!!!
 ゼニスのシュートの衝撃でフィールドがしばらく振動し、その結果エイペックスの位置がズレてフリップホールの上に停止してしまった。

『あぁ!エイペックスがフリップホールに!!こうなると、お互い自滅ダメージを受けてぇ、でもエイペックスは電光石火使ったからダメージが2倍でぇ……この勝負エイペックス撃沈で不動ガイ君の優勝でーーーす!!!』

 ワーーーーーーー!!!!

 翔也の元へ達斗達が駆け寄る。
「翔也!」
「惜しかったですね」
「くぅ〜、負けちまった」
「でも良いバトルだったよ」
「はは、サンキュー」
 皆の慰めを受けつつ、翔也はガイへ向き直った。
「ガイ、さっきのシュートすごかったな。なんか開き直ったって言うか悟り開いたって言うか」
 翔也にそう言われると、ガイは妙にスッキリした顔で答えた。
「あぁ、全て理解したからな。この俺の、あの女に対する感情をな」
「メイたんの?」
「俺は、あの女を見た時から狂ってしまった。動悸が激しくなり、血潮が熱くなる……そしてさっきのシュートも、内から溢れ出る力を制御出来ずにいた……この感情の正体が今ようやく分かった」
「あぁ、なんだお前もか。つまりメイたんに惚れ」
「俺は、あの女に恐怖していた!!」

「ん?」
「え?」
「あれ?」
 一同、ガイの答えに唖然とした。

「認めたくはなかった。だが、古来より人間は神に恐怖し、偶像に祈りを捧げてその畏怖を力に変えてきた……だからこそ俺は保科メイの洗礼を受けて乗り越えねばならないのだ!!伊江羅ザキを追い求める者として!!!」
 ガイの熱き宣言に対して、周りはシーンと静まり返る。温度差が激しい。
「……いや、アイドルって、確かにそう言う意味だけど、そう言う意味じゃねぇよ……?」
 突っ込んで訂正してやろうとも思ったが、黙っておいた。

「吊り橋効果の逆、みたいなもの……?」
 美寧がボソッと言う。
「ですかねぇ。まぁ、面白そうなんで黙っときましょ」
 翔也もボソッと返す。

「伊江羅ザキって誰?」
 達斗はフリックス始めて日が浅いのでザキの事を知らない。
「段田バンさんの元チームメイトですよ、かなり強いフリッカーだったみたいですよ」
「ふーん」
「あいつザキのファンだったのか、渋いなぁ」
 ザキは昔相当有名だったが、最近は表舞台に出ていないので知る人ぞ知るレジェンドという扱いになっている。

 ……。
 そして、表彰式も終えていよいよ優勝賞品であるハグの授与となった。

『優勝は不動ガイ君でーす!おめでとうございま〜す!』

 ガイの首に金メダルがかけられる。

『それでは、お待ちかね!優勝商品のハグ権授与ですよ!ガイ君、こちらへどーぞ』

 メイ促されて、ガイは緊張した面持ちでメイの前に立つ。

(恐るな……俺は、必ずこの試練を乗り越える……!)
 ガイは激しい動悸と体の震えを強靭な精神力で抑え込んだ。

『素晴らしい戦いでしたよぉ!では、失礼して……』
 メイがとてとてとガイの巨体に歩み寄ってピト……と軽く抱きついた。

「!!!!!」
 その力は非常に弱かったが、ガイへ襲い掛かる衝撃はそれとは関係なく強大だった。

(ぐっ、うおおおおお……!!!)

 メイの腕が、身体が触れた所から電撃にも似たエネルギーのようなものが注ぎ込まれているような気がして筋肉が痙攣してしまう。

(こ、これが、神を宿す偶像の力……!)
 ガイは歯を食い縛り、拳を握りしめる事でこれに耐える。
(神をも恐れぬ伊江羅ザキなら、この程度の洗礼は受け切るはず……ならば俺も、耐えきれない事はないっっっ!!!)

 カッッッ!!!
 ガイは目を開いてメイの抱擁を耐え切った。
(なんか、怖い……)
 そんなガイの様子に、メイは少し恐怖しつつ一定時間ハグしたので身体を離した。

『はい、ハグしゅーりょーでーす❤️』
「……ふっ」
 見事に耐え切ったガイは安堵の息を漏らした。
『可愛いメイたんからのハグ、どうでしたかぁ?』
 上目遣いで尋ねるメイに、ガイは得意気に答えた。
「……さすが、大したものだ。だが、今回は俺の勝ちだ」
『え?あ、うん。だからガイ君の優勝ですよ……?』
 今更すぎる勝利宣言に戸惑っていると、ガイは勝ち誇った表情で踵を返した。

(もう俺の中に恐怖心はない。乗り越えたぞ……後は高みを目指すだけだ、伊江羅ザキ……!)

 大会成績で達斗や翔也を上回り、そしてメイへの恐怖心を克服したガイ。
 成し遂げた漢の背中は誇らしげだった。

 

     つづく

 

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