弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 段田バン視点第3話「頂点突破!ヴァーテックス誕生」

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段田バン視点第3話「頂点突破!ヴァーテックス誕生」

 

 段田ラボ、研究室。
 バンと伊江羅博士はコンピュータの前で完成したばかりのエイペックスのデータ分析をしていた。
 先日行われたエイペックスVSグランドパンツァーの動画がモニターに映し出されている。

「攻撃力、走行性、耐久性、概ね問題はなさそうだな」
「あぁ、大した奴だぜ。エイペックスも、翔也もな」
 この動画はレイジの手によってフリッチューブに投稿されているのだが、試合内容的にどちらか一方の格が落ちると言う事はなさそうだ。
「そういえば、プリベイル作戦と言ったか。具体的な行動案は何かあるのか?」
「あぁ!とにかく、翔也がエイペックスでバトルしまくっていろんなフリッカー達のモチベーションやシュート能力を底上げしてく。んで、そのデータを集めてエイペックスとは違うタイプの機体を開発していろんな方向から勢力拡大してこうかなって」
「なるほど。確かにエイペックスはフリッカーのシュート力を底上げするポテンシャルを持つ機体だが、戦い方がやや汎用性に欠けるからな。一本に絞らずに裾野を広げると言うのは理に適っている」
「だろ?」

 ピーッと研究室の自動ドアが開きリサが入ってきた。
「バン、来客だよ」
「俺に?分かった」
 リサに促されるまま、バンは応接室へ向かった。

 応接室では、高そうなスーツを身に纏った30代前半くらいの長身男がソファに座りコーヒーを啜っていた。
「どうも、お久しぶりです、段田さん!ゼノシリーズ量産化企画以来ですね、その節はどうも」
 バンが部屋に入ってきたのを確認すると男は軽く会釈をした。
 バンも会釈をするとその男の前に座る。
「あぁ、琴井さん!こちらこそお世話になりました。それにしても、コンツェルンの社長自らが一体何の用ですか?」
「えぇ。今日はちょっとした営業をさせていただこうかなと」
「社長が直々に?」
「そりゃもう、チャンピオンへ営業するのに社員を使っては失礼ですからねぇ!……ってのは建前で、段田さんと久しぶりにお会いしたくなったんですよ」
「はは、そりゃどーも」
「最近、なかなか面白い事をしているようじゃないですか。神位継承戦とかなんとか」
「さすが、耳が早い。ひょっとして、琴井さんもゴッドを?」
 バンが冗談めかして言うと、琴井は穏やかに笑った。
「とんでもない。僕は自社の事で手一杯ですよ。ですが、戦況は常にチェックしてます。例えば、先日動画の上がった新型機のバトルとか……」
 それはおそらくあのエイペックスVSグランドパンツァーの試合の事を言っているのだろう。バンは得意気に言った。
「エイペックス、いい機体でしょ?」
「ですね。『フリックス界をより発展させる』と言うコンセプトにピッタリだと思います。しかし、見た所ワンオフもののようですが、量産の予定などは?」
 問われ、バンは言い淀んだ。
「あー、考えてないわけじゃないんですが、まぁいろいろやってみてからって感じですね」
「そうでしたか。実は今日伺ったのはこの件についてでして。もしエイペックス量産化の意志があるようでしたら、是非ともまたゼノシリーズの時のように手を組めないかなと」
 琴井の提案にバンの顔は綻んだ。
「あぁ、それは良いですねぇ!琴井コンツェルンの販売広報力は心強い!量産ドラグカリバーも未だに名機だって言われてますしねぇ」
「更に、我が社は今アイドルフリッカーのプロデュースにも力を入れてましてね」
 琴井はいくつか資料を取り出す。
 そこには、可愛らしい衣装を身に纏い、ポーズを取る女の子の写真があった。

「この保科メイなんか、かなりの売れっ子でしてね。プロモーションとして使っていただければかなりの宣伝効果が期待出来ますよ」
「へぇ、手広くやってるんですねぇ」
 バンはザッと資料に目を通してから琴井へ向き直った。
「分かりました。量産計画の目処が立ったら、こっちから貴社へ依頼しますよ」
「では、商談予約成立ですね。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ」
 バンと琴井は硬く握手し、今回の商談は問題無く良い形で終わった。

 ……。
 …。
 後日。段田バンは研究室でうんうん唸っていた。
「うーーーん、エイペックスとは違う方向でフリックスを発展させる機体かぁ、どうしたもんか……」
 バンの隣ではリサもアイディア出しに協力してくれているが、なかなか難航している。
「エイペックスと違ってゼロからの設計だから難しいね」
 ちなみに、伊江羅は相変わらず『具体的な作業指示があれば動くが、それを決めるのはお前の仕事』としてアイディア出しは協力してくれないようだ。

 しばらく唸っていると研究室の扉が開かれる。
「あ、どうも〜!」
 入ってきたのは翔也だ。既にラボの一員扱いの翔也はIDカードで自由に研究室を出入りできる。
「バンさん、エイペックスのメンテをお願いします」
「おぉ、翔也か!了解了解」

 アイディア出しは中断。バンは気分転換がてらにエイペックスのメンテを行う事にした。
「この短期間で結構消耗してんな」
「めっちゃくちゃ戦いましたからね!バンさんに頼まれてたデータもバッチリですよ」
 翔也はSDカードをバンへ渡す。この中にバトルデータが入ってるのだろう。

 エイペックスのメンテを進めつつ、片手間に翔也の撮ってきたデータ、バトル動画を観てみる事にした。
 動画の内容は、翔也が公園でクラスメイトを集めて開いたプチバトル大会の様子だ。
 フリーバトルやトーナメント試合模様が映し出されている。

「へぇ、みんな結構筋がいいな」
「そりゃ俺の友達すからね」
「見た感じだと、翔也君みたいな戦い方する子は少数派でストレートシュートする子の方が多いね」
「まぁ、ストレートの指弾はフリックスの基本シュートだしな。あとは、指で押してるフリッカーもいるな」
 力の弱そうな小さな子が、頑張って親指の腹で押し出すようにシュートしてる。
「押し出しが向いてるからと言うより、妥協してるみたい……力の弱い子にとっては、指弾も難しいのかもね」
「ストレートの指弾ですら難しいって子がいるんだなぁ……」
 バンはチャンピオンとして強くなりすぎてしまった。
 それ故に初心者や低級者とは感覚に差がつきすぎてしまっているのだ。こういったデータは貴重だ。
「あと、スピンしようとする奴もなくはないですけど、上手くいかなくてストレートに切り替えるってパターンも結構ありましたね……あ、これとか」
 翔也が画面を指差す。シュートポイントに何も付けていない機体でスピンしようとして失敗する様子があった。
「これはスピンが難しいと言うよりも機体が合ってないんだよなぁ。でも、そんな事も分からないものなんだ……」

 バンや他のフリッカー達にとっては出来て当たり前、分かって当たり前の事が、出来ない、分からない者も意外と多い。
 そしてフリックス界発展にはその出来なくて分からないフリッカー達の存在こそが重要になる。
 こう言ったカルチャーショックは今のうちに受けておいた方がいいだろう。

「あ、そうだ!この時、なかなか面白いフリッカーがいて、俺の昔からの友達なんすけど、もしかしたら新しいモニターに……」
 と、翔也が次の動画データを見せようとするが。
「あっ!……ちゃ〜、容量がいっぱいで撮れてないや」
 翔也は額に手を当ててガックリと項垂れた。

「ははは、まぁこんだけデータがありゃ十分参考になるぜ。これで設計も進むってもんだ!」
「面目ない……所で、肝心の設計の方はどれだけ進んでます?」
「そりゃおめ、順調よ!こいつを見てみな!!」

 バンは自信満々に設計図を翔也へ見せつけた。

「おぉ!!……見事に、真っ新ですね」
 完全に白紙な設計図を見て、翔也は呆れる。
「これからだよこれから!今は空っぽな方が夢詰め込めるからな」
「確かにその通りすね!楽しみだなぁ……完成したらこのエイペックスでバトルしてみたい」
 翔也はメンテ完了したエイペックスを手に取り、まだ見ぬ新たなライバルへ想いを馳せるのだった。

 ……。
 …。
 そして後日の研究室。バンが机に向かって作業を進めている。
 さすがに少しは設計が進んでいるようで、真っ白だった紙には機体の一部らしき線画が描かれている。

「バン、調子はどう?」
「あぁ、翔也のデータのおかげである程度コンセプト決まったからな。割と進んだ……けど、あと一歩ってとこだなぁ」
 設計図にはヴィクターのような刺突系のフロントが描かれているが、それよりもリア側のデザインが決まってないようだ。
「どこかで見たような形」
 リサはクスッと笑った。
「ストレートっつったらどうしてもなぁ。けどヴィクターもそんなに扱いやすいわけじゃないし、そもそもストレート型ってありふれ過ぎてて逆に差別化ができないと言うか……」
「基本、って難しいよね」
「そうなんだよ。ストレートシュートで強い機体ってだけならヴィクターでいいんだけど、フリッカーのストレートシュートを強くする機体ってのがなぁ……そんなのほんとに出来んのか……」

 悩んでいるところに、伊江羅博士が小包を持ってやって来た。

「バン、お前宛に郵便が届いてるぞ」
「え、俺に?」
「郵便受けくらいチェックしておけ」
 そう言って、伊江羅はバンへ小包を渡す。
 バンは送り主を見てみた。
「なになに……遠山ゆうじ……って、フリップゴッド!?」
「え!?」
 送り主の存在がフリップゴッドであると認識したバンは丁重に小包を開ける。
 まず、中には手紙が入っていた。

 {段田バン様へ。
 本来はちゃんとした形で決着を付けるべきだった神位継承戦がこのようなイレギュラーな形になってしまい申し訳ない。
 だが、この戦いはフリックス界をより発展させ、そしてバンや他の関わったフリッカー達にとって大きな成長の機会になるであろうと僕は確信している。是非とも頑張って欲しい。
 その謝罪とエールの証として、君にこれを贈る}

「……叔父さん、ちょっと気にしてたんだ」
「別に、なんだかんだこのイベント楽しんでるからいいんだけどな」
「そもそも、駄々をこねたのはバンの方だからな」
 そもそもバンがあの時素直にゴッドの称号を受け取っていればこんな事にはなっていない。
「うっ、まぁな……えと、何が入ってるんだろう?」
 箱の中は梱包材に包まれていて中身が見えない。
 バンは丁重に梱包を剥がしていく。

 そこには、灰色の機体が二つ入っていた。

「これは……ドライブヴィクター?」
「フレイムウェイバー……?」

 そう、かつてバンとリサが愛用していた機体そのものだった。

「いや、違う。これは、プロトヴィクターにプロトウェイバー……!封印されし世界最古のフリックスだ。まさか現存していたとは」
「え!?」
「世界最古のフリックス……!」
 バンとリサは生唾を飲み込んだ。
「そうだ。フリップゴッドがフリックスアレイを立ち上げた時に初めて作り上げ、そして量産し市場へ流した機体だ。しかもこれは量産前の第一号モデル。
言わば、フリックス界のアダムとイヴだな」
「アダムとイヴ……そんなすげぇもんなのかよ」
「でも、封印されたって?」
「バンキッシュパンデミック後に、フリップゴッド自らが贖罪として自身の開発したフリックスを世間から隔離したからな。ドライブヴィクターはプロトヴィクターを見た記憶を頼りに開発したものだ。フレイムウェイバーは遠山段治郎製だが、恐らくは同じような経緯だろう」
「ドライブヴィクターに、そんな歴史が……」
 バンは感慨深い思いを胸に抱きつつ、プロトヴィクターへ手を伸ばした。

 ドクンッ!
 その瞬間、指先を通じて脳に電流が走った。
 何かが閃きそうな、そんな鋭い感覚だった。
「……リサ、久しぶりにバトルしようぜ。こいつら使ってさ」
「バン……」
「なんか、閃きそうなんだ。こいつらで戦えば」
「うん、分かった」
 バンの申し出にリサは頷く。
「ダメだ」
 が、それを伊江羅が止めた。
「な、なんでだよ?」
「貴重なレガシーを潰す気か?コピーを取ってレプリカを出力する。バトルはそれでやれ」

 伊江羅博士の言う事はもっともだ。
 バン達はプロトヴィクターとプロトウェイバーの形状を記録してコンピュータに取り込み、それをデータ化して3Dプリンターで出力する事にした。

 プリンターにデータを送信し、可動させる。
 アームが動き、少しずつ形が積層されていく。動作が安定したのを確認してからバン達は一息ついた。
 と、そのタイミングで翔也がやってきた。

「こんちには〜!バンさん、トレーニング施設借りて良いですか〜?」
「おぉ、翔也!今日は友達とフリックスしないのか?」
「えぇ、もうすぐGFCウインターなんで特訓に集中しようかなと……って、皆さんなにやってんですか?」
 翔也はバン達の見ている機械、3Dプリンターに視線を移した。
「あっ、これって3Dプリンター?って事はついに完成したんですか!?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。こいつを複製してバトルしようと思ってな」
 バンはプロトヴィクターとプロトウェイバーを翔也へ見せた。
「これは?」
「フリップゴッドが作り出した世界初のフリックス、プロトヴィクターとプロトウェイバーだ」
「世界初の……ほ、ほんとですかぁ……?」
 翔也の声音は感嘆と同時に疑問混じりでもあった。
「なんだよ、疑ってんのか?」
「いやぁ、そういうわけじゃ……」
「俺とリサが前に使ってたドライブヴィクターやフレイムウェイバーも、これを元にして開発されたんだぜ」
「へぇ……こんなにカッコよくて凝った機体が、世界最古なのか……」
「こいつでバトルすりゃあ、なんか閃くと思ってさ」

 そうこう話しているうちにプロト二機の出力が完了した。
 ラフト材を削り取り、リューターで形を整えて仕上げる。

「よし、完成だ。多少強度は低いが、性能はオリジナルとほぼ同等だ」
 バンとリサは機体を受け取る。
「よし、やろうぜリサ!」
「うん!」

 バン達は練習場へ移動し、フィールドに着いて対峙する。
 翔也と伊江羅もその様子を見守っている。

「昔を思い出すね、バン」
「手加減なしだぜ、リサ!」
「もちろん!」

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 バシュッ!!

「いけぇ!プロトヴィクター!!」
「プロトウェイバー!!」

 カシュッ……!
 勢いよく突っ込むプロトヴィクターだが、その軌道をリサは読んでいたのか、掠めるように当たり、プロトヴィクターは勢い余って場外してしまった。

「しまった!いきなりアクティブアウトかよ……!」
「油断したね、バン!」

 これで4ダメージ。バンのHP11。

 仕切り直しアクティブ。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
 今度は、リサは壁に向かってシュートしてその反射でヴィクターを躱してフィールドの奥へ進む。
 バンは加減したシュートをしたので場外はしなかったが、先手を取られてしまった。
「いけっ、ウェイバー!」
 リサのシュート。ウェイバーはマインに掠めながらヴィクターへ接触し、反射で距離を取った。
 マインヒット3ダメージ。バンのHP8。
「やるな、リサ……!けど勝負はこっからだぜ!!」
 バシュッ!!
 バンのストレートシュート。しかし距離が離れているせいか、リサはステップでウェイバーの向きを少し変える事で急所を外して受け流す。
 が、ヴィクターはリサのバリケードを一枚破壊し、更にウェイバーやマインからかなり離れた位置で止まった。

 ビートヒット1ダメージ。リサHP14。
「バンさんの攻撃が受け流された……!」
「ウェイバー相手じゃしょうがねぇ!けど、これは次に繋げるためだぜ!」
 ダメージを防げたとはいえ、バン相手にバリケード一枚失うのは大きい。
「分かってる……!私もここは攻撃しない方がよさそう」
 リサは失ったバリケードを回収してターン終了。

「いくぜ!」
 バンのターン。
 バンはストレートシュートを放ち見事にウェイバーの重心を捉えた。
「っ!」
 リサはバリケードを構えていたが、思った以上の威力を察して瞬時に引っ込めた。ウェイバーは全場外する。

 フリップアウト6ダメージ。リサHP8。

「並んだぜ!」
「相変わらず凄いシュートだね……!」

「さすがリサだ、判断が早い。下手にバリケードを構えていたら、バリケードを破壊されながらフリップアウトしていた」
 どうせダメージを受けるならバリケードは構えない方がいい。高度な戦略戦だ。
「これが、世界最古のフリックスを使った、最強のフリッカー同士の戦いか……!」

 仕切り直しアクティブ。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 バシュッ!!
 難なくリサが先手を取る。
「いけっ!」
 バシュッ、バチン!!
 当然のようにマインヒットを決めて3ダメージ。バン残りHP5。

「いくぜ!」
 バンのターン。少し離れた位置からのストレートシュート。
 リサはステップで重心をズラす事でこれを受け流す。が、またもバリケードを一枚割られてしまった。
 ビートヒット1ダメージ。リサ残りHP7。
 さっきの展開の鏡写のようになった。お互いに最適な行動を取ろうとしてるが故なのだろう。

「リサさんはウェイバーの流線形を最大限利用した機動力で反射によるマインヒットとステップでの受け流し、バンさんはチャンスを伺ってヴィクターの鋭い剣で重い一撃を与える……単純な攻防だけど、だからこそフリックスバトルの面白さが詰まってる試合だ……!」
 翔也はバンとリサの戦いに心躍らせて拳を握り締める。
 そして、そんな考察をする自分に対してある事に気づいた。

(……なんて面白さが分かりやすい試合なんだ)

 初めて見る機体、そして初めて見るはずの対戦カードなはずなのに、翔也はこの試合の面白さの本質を見抜いていた。
 それは翔也の洞察力による所ではない。きっと誰が見てもこの試合の面白さは分かってしまうだろう。

「いくよ、ウェイバー」
 リサは先程と違ってバリケード回収せずに機体を構えた。
「回収しなくないいのかよ」
「うん、これで決めるから」
「決める?」
 バンのHPは5。つまりフリップアウトしなければ決めきれないはずだが……リサもウェイバーもそんな火力はないし、立ち位置的にも穴も狙えそうにない。
(ブレバか?)
 ブレイズバレットなら6ダメージ入るから決め切る事ができるが、それもマインの位置的に難しい。
 普段のリサならともかく、プロトウェイバーで決めるのは不可能だろう。

「いけ!」
 リサの思惑を読み切る前にリサのシュートが襲いかかる。
 プロトウェイバーはマインを弾き飛ばし、そのマインは壁にぶつかって角度を変えてヴィクターへヒット。
 マインヒット3ダメージ。バンHP2。
「へっ、なんだよブラフか?だったら俺が決めてやるぜ!」
 プロトウェイバーまでの距離はそこそこ近く、十分場外を狙える位置だ。何よりもヴィクターのフロントがウェイバーに向いているので向き変えをせずにシュートができる。
 これならステップする暇はないだろう。
「いっけえええ!!」
 バシュウウウウウ!!!!
 バンの渾身のシュート。リサは一瞬だけウェイバーをステップで後ろに滑らせた。
 しかし、逃げ切れるはずもなくバリケードを破壊されながらウェイバーが派手に吹っ飛ぶ。
 ヴィクターはフロントを迫り出しながら減速。
 ウェイバーの飛ばされる勢いは衰えず、地面に着地してからもゴロゴロと転がって停止。

「おっしゃ!これならオーバーアウト確実だろ!俺の勝ちだぜ!」
 フィールド端から1.5m以上飛ばされればフリップアウトのダメージが1.5倍になる。リサのHPは現状7なので9ダメージ受けて撃沈だ。
 しかし……。

 コト……。
 ウェイバーが地面に着地した僅かな振動、そして勝利を確信したバンの声と動きによって発生した振動でヴィクターのバランスが崩れ、フロントがこうべを垂れるように下がりフィールドを置いている机の上に着いてしまった。

「あっっっ!!!!」
 これで自滅となったのでオーバーフリップアウトは無効でバンに2ダメージ入って撃沈だ。
「バン、少しは落ち着きを覚えなきゃね」
 リサはクスッと笑った。
「くぁ〜〜これじゃ初めてバトルした時と同じじゃねぇか!!!」
 バンは頭を抱えて嘆いた。

「まったく、成長のない奴だ」
 伊江羅博士も呆れるようにため息をついた。

「でも楽しかったぁ!サンキューリサ!」
「うん!私も楽しかった!」
「ふぅ、なんかバトルしたら腹減ったなぁ。ウーバーでなんか頼むか?」
 一バトル終えて汗を拭うバン。もう完全に仕事を終えた気分だ。

「バン、何か忘れてない?」
「へ?何が?」
「だから、今回バトルした目的……」

 そう、別にバンはリサと遊ぶためにバトルしたわけではない。

「あっ、そうだった!!」
「はぁ……それで、何か閃いた?」
「え、あぁ、まぁ、そうだな……いやぁ、閃いたっちゃ閃いたんだけど、上手く言葉に出来ないというか……正直バトルが楽しくてそれどころじゃなかったというか……」
「はぁ……」
「ため息やめろよ!一応、インスピレーションみたいなのは感じたんだぜ!今から設計やれば……!」

「インスピレーションか……」
 翔也が意味深に呟く。
「翔也?」
「あ、いや、俺も、このバトルでなんとなくインスピレーションと言うか、直感みたいなのが浮かんだと言うか」
「直感?」
「俺、このヴィクターとウェイバーが世界最古って言われて全然ピンとこなかったんですよね。だって、最古って言う割には古臭さは無いし。それに量産機って初心者でも扱い易くて改造のベースにし易くするために、シンプルで弱そうな見た目になるじゃないですか。だけど、この二機は最初のフリックスなのにこんなに凝ってて強そうでいいのかなって。全然、今でも通用するクオリティだと思うんですよね」
 翔也は最初にこの2機を見た時の疑問を全て吐き出した。
「まぁ、そうだな。プロトヴィクターもプロトウェイバーも、ちょっとチューンナップしてちゃんと使えば実戦級のポテンシャルはありそうだ」
「最初のフリックスにしてはオーバースペックと言うのは、あるかもしれないな」
「言われてみれば、本来初心者に使わせるような機体じゃないもんね……」
 翔也の言葉に、三人の大人は納得する。
「でも、お二人の戦いを見て、なんとなく感じたんですよね。この2機のコンセプトというか、世界最古のフリックスだからこそ、ここまでの分かりやすいクオリティが必要だったんだなって」
「最古だからこそ?」
「分かりやすいクオリティ?」

「だって世界最古って事は、それまでフリックスはなかったわけじゃないですか。って事はフリックスの魅力も面白さも強さも、誰も何も知らない状態でそれを伝えないといけない。この2機はその役割を担わせるために、古臭さやシンプルさや性能の妥協が許されなかった」
「そうか、そうだよな……!『初心者に向けた見た目や性能をオミットした量産機』ってのは、そもそもフリックスの魅力が知れ渡ってて、上級者がある程度存在するくらいに発展してなきゃ成り立たねぇんだ!」
「確かに、ヴィクターやウェイバーは、フリックスの魅力を何も知らない人たちに伝えるための『分かりやすさ』があるのかも」
「分かり易くカッコよくて、どんな動きをする競技なのかも見た目でなんとなく分かって、それぞれの得意な戦い方も見ただけ分かるもんな……俺もドライブヴィクターの形状にはいろいろ教えられたぜ」

「バンの昔のシュートはめちゃくちゃだったからな。ドライブヴィクターがなければどうなっていたか」
「うっ……!」

 ヴィクターを手にするまでのバンは何も考えずに力任せに撃つだけだった。
 しかし、ドライブヴィクターを手にする事で、その見た目からどんなシュートをするべきかを察して矯正する事でメキメキと上達していったのだ。

「でも、そうか!そういう事か!」
 バンは完全に閃きを得て駆け出した。

 その先は研究室だ。
 バンは脳内でアドレナリンをドピャドピャ分泌させながら設計を進める。
「ヴィクターやウェイバーはフリックスを何も知らない世界へフリックスを伝えるために生まれた!なら、フリックスが広まってる今、更に発展させるには……!」

 順調に設計を進めるバンを、リサや翔也達が見守る。

「フリックスの事は知ってても、前に踏み出せなかったり、足踏みしてるフリッカーへ、その見た目と性能で後押ししてやれる機体を作れば良いんだ……!」

 こうして、ある程度のプロトタイプと言える機体の線画ができた。

 まるで、VとXを組み合わせたような宇宙戦闘機のようなデザインだ。

「よし、大体こんなもんだろ!」
「随分と思い切ったデザインすね……」
「ヴィクターだけじゃなく、エイペックスやグランドパンツァーのいい所も取り入れたかったからな。欲張ったらこんなデザインになっちまった」
「まぁ、お前にしては上出来だな」
「おう!あとはこいつを使うモニターに合わせて微調整すれば完璧だ」
「プロトヴィクターがバンに合わせてドライブヴィクターになったみたいにだね」
「あぁ!んでそこからデータを集めて汎用性を高めた量産機を作る!時間は掛かるけど、やってやるぜ!」
 これで悩んでいた要素はほぼ解消。あと進んでいくだけだ!

「ところでバン、その機体の名前は決まってるの?」
「あ、いやぁ、それはまだ……そっか、名前大事だよな……」

 “突き抜けろ!ダントツの頂点へ!!”

 その時、翔也の脳裏に先日の達斗の決め台詞が蘇り、思わず呟いた。
「ヴァーテックス」
 翔也が呟きにバンが首を傾げる。
「ヴァーテックス?」
「あ、なんかヴァーっとしてるなって。こことかVとかXみたいですし」
「確かに、ヴァーっとしてるな!よし、それで行こう!」
 翔也の感性はたまにバンと同レベルになる。
「なにそれ……」
「普通にエイペックスと同じ『頂点』って意味だからヴァーテックスじゃないのか……?」
 リサと伊江羅の呆れたような言葉にバンと翔也はハッとして頷く。
「あ、そうでしたそうでした!」
「なるほど、頂点って意味か!いいじゃんいいじゃん!」

 これまで悩んできたのが嘘のようにどんどん順調に計画が進んでいく。
 バンはやる気を爆発させながら今後の展開に思いを馳せた。

「おっしゃあ!頂点突破してやろうぜ、ヴァーテックス!!」

 

     つづく

 

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