第57話「世界と戦うために」
ユーロフリッカー騎士団との親善試合を行った次の月曜日。
バンの通っている小学校。
「それにしてもすげぇよな、バン!」
「日本代表として世界と戦うんだもんね!」
FICS日本代表に選ばれたバンはクラスメイトたちにチヤホヤされていた。
「いやぁ、それほどでもあるぜ〜!世界でも俺がダントツ一番だ!」
教室では一日中FICSの話題で持ちきりでバンはすっかり有頂天になっていた。
そして放課後。
段治郎とのしがらみもなくなったリサは普通にバンと同じ小学校に通っており、肛門で待ち合わせて一緒に下校するのが恒例になっている。
「いやぁ、ほんっと参っちゃうよなぁ。あいつらずっと俺に質問攻めでさぁ〜。まぁ、世界と戦う日本代表となればこのくらい」
「バン、あまり調子に乗らない方が良いよ。日本代表に選ばれたって言っても、これからアジア予選があるんだから」
「アジア予選なんて軽い軽い!」
「またそんな事言って、この間の親善試合忘れたの?」
リサが言っているのは、先日行ったユーロフリッカー騎士団とのバトルだ。
彼らの完璧なチームプレイにバン達は歯が立たなかった。
「うっ、あれはチームとして戦うの初めてだったし……それに、良い感じの合体技っぽいのだって出来たんだ!あれを極めればFICSだって楽勝だぜ!」
「……」
ダメだ。この調子のバンに何を言ってもポジティブに返されてしまう。リサは諦めて口を閉じた。
「そうだ、リサ!景気付けに近所の公園で一バトルしてから帰ろうぜ!」
言うが早いか、バンは意気揚々と駆け出したのでリサも仕方なしに追いかけた。
人気の少ない公園のテーブルの上にフィールドをセットして、バンとリサはフリックスを構える。
「おっしゃいくぜ!」
「「3.2.1.アクティブシュート!」」
バシュッ!!
ヴィクターとウェイバーが同時に放たれる。
「ギルティギア!!」
その時、どこからかフリックスが飛んできてヴィクターのサイドを掴んだ。
「獲ったどー!」
「いぃ!?」
「あっ!」
ガッ!!
他のフリックスに掴まれた事で2倍の重量になったヴィクターに弾かれたウェイバーは場外してしまった。
「な、なにすんだ!!」
バンがギルティギアと呼ばれたフリックスが飛んできた方向を見ると、そこにら目つきの悪い少年が立っていた。
「久しぶりだな、段田バン」
「お、お前は!……だれだ?」
お約束のボケに、少年はズッコケる。
「第43話で会った事あるだろうが!!!」
第43話……と言えばGFC決勝トーナメント第一回戦が始まる直前のエピソードだ。
「んん……?そういや、この機体見た事あるような……」
バンはひとしきり首を傾げたのち、あぁ!と手をポンと叩く。
「お前!予選落ちした腹いせに会場の外で八つ当たりしてたけど、やまととバトルして負けた情けない奴か!」
「こ、こいつ……彦根太郎だ!忘れんな!!」
「な、名乗られてねぇし……」
「うっせぇ!日本代表に選ばれたからっていい気になんなよてめぇ……!」
「へん、いい気もいい気だぜ!お前まさかあれか?日本代表に選ばれなかったからまた八つ当たりしようってのか?」
バンに言われた事が図星だったのか、彦根はムッとした。
「なんだと……!ユーロフリッカー騎士団にコテンパンに負けたくせによ!」
「なっ、なんでそれを……!」
「俺はユーロフリッカー騎士団のサポーターになったからよ!そのくらいの情報は仕入れてんだよ!」
彦根は自分の着ているTシャツをアピールした。そこにはユーロのロゴが刻まれている。
「おまっ!日本人のくせに外国チームの応援すんのか!?」
「日本代表だからって、日本人全員に応援されてると思うなよ?俺はお前の選抜入りを認めてねぇからな!」
「負け惜しみかよ」
「負けたんだったらな……!」
「なに……?」
「新型機の開発が間に合って、選抜戦に参加出来てりゃ、俺が選ばれたかも知れねぇのによ……!」
彦根は懐から見た事のない機体を取り出すと、悔しげに奥歯を噛み締めた。
「お前……」
「俺と勝負だ!俺が勝ったら、お前は日本代表を辞退しろ!!」
あまりにも身勝手な条件の挑戦。しかし、バンは一呼吸だけ置いて答えた。
「分かった、いいぜ」
条件を飲んだバンにリサは慌てて制止しよっとする。
「ちょ、バン……!」
「リサ、レフェリー頼むぜ」
リサの制止を無視してバンはフィールドについてセットした。
止めても無駄だと諦めたリサは試合開始のコールをする。
「3.2.1アクティブシュート!!」
「いけぇ!ビートヴィクター!!」
「かわせ!ロンギヌスギルティ!!」
(ロンギヌス……?)
彦根のロンギヌスギルティがビートヴィクターの攻撃を躱してフィールドの奥まで行って先手を取った。
「躱した!?」
「日本代表選手様の動きなんざ、研究対策して当然だろ!まっ、お前みたいな単細胞研究するまでもないけどな!」
「くっ!でも、その位置からじゃ攻撃出来ないぜ!」
ロンギヌスギルティとビートヴィクターの間は距離があるし周りにマインもない。このターンは位置移動するかマイン再セットくらいしかやれる事が無いだろう。
「どうかな?喰らえ!!」
彦根はロンギヌスギルティに赤い槍のようなパーツをセットし、それを射出した。
「なに!?」
射出された槍は先端が大きく二股に割れててビートヴィクターのヘッドパーツにがっしりと絡みついた。
「拘束パーツを射出した……!?」
「そいや、ロンギヌスってジャンの機体と同じ名前」
「ユーロフリッカー騎士団のサポーターになったっつっただろ!ジャン選手のロンギヌスの機能参考にして、ギルティギアの拘束ギミックとドッキングしたのさ!」
これで、バンは絡みついた相手パーツを動かさないようにシュート準備しないといけなくなる。
「くっ!」
とは言え、ヘッドパーツに絡みついている以上相手パーツを動かさずに向きを変えるのは不可能だ。
仕方なく、バンはマインを再セットした。
「どこにセットしても同じだぜ!」
既に自分のパーツが接触状態なので、彦根はただマインに触れるだけでマインヒットができる。
バシュッ!
彦根は難なくマインヒットを込めた。
バン残りHP2。
「バン!このままじゃ泥沼になる!一旦自滅で仕切り直して!」
「よ、よし!」
しかし、ビートヴィクターの向いている方向にはフェンスがある。このままでは自滅できない。
「くそっ!」
ガッ!
思いっきりシュートするもフェンスに阻まれる。
「へっ、無駄無駄!」
バシュッ!!
彦根が再びマインヒットを決める。バン残りHP1。
「ぐっ!」
「どうした!日本一って言っても大した事ないな!!やっぱりお前なんかが代表なんて間違ってんだよ!!」
彦根に指差され、バンは悔しげに拳を握り締める。
「バン……」
「よく分かったぜ……お前みたいに、皆が俺達を応援してくれてるわけじゃねぇって事が……けど、尚更負けられねぇ!!!」
バンは気を振り絞って叫んだ。
「俺は日本代表のダントツウィナーズだ!!納得出来ねぇ奴がいるってんなら、納得させてやる!!!」
「やれるもんならやってみろ。もう自滅で仕切り直しは効かねぇぜ!」
「いくぜ!ヴィクター!!」
どれだけ気合いを入れた所で、向き変えが出来ず壁に向かって撃つしかない。
それでもバンの目は死んではいない。
「いっけぇ!!ブースターインパクトォォォォ!!!」
ドゴオオオオ!!バチーーーーン!!!!
壁にぶつかった衝撃でビートヴィクターのバネギミックが発動する。
その反動によって絡んでいた捕縛パーツが外れて場外へとすっ飛んでいった。
「なにぃ!?」
「おっしゃぁ!!」
これで彦根はフリップアウト。お互い残りHP1だ。
仕切り直し。
「3.2.1.アクティブシュート!」
「だったらまた先手取って……」
「同じ手が効くか!!」
シュンッ!バチーーーン!!!
今度は回避される前に速攻でアタックし、ロンギヌスギルティを場外へ叩き出した。
これによって彦根は撃沈した。
「どうだ!俺の勝ちだぜ!」
ロンギヌスギルティを拾い、悔しさで震える彦根へバンは勝利宣言をする。
「っ、くそ!」
彦根は舌打ちして駆け出す。
「俺はお前を認めねぇからな!!」
そう吐き捨て、去っていった。
その背中を、バンは微妙な表情で見送った。
「バン……」
「へっ、上等だぜ!」
バンはニッと笑って駆け出す。
「あ、バン!!」
「リサ!早く来いぜ!研究所行って猛特訓だ!!」
「ちょ、待ってよ!」
リサは慌てて追いかける。
「誰に認められなくても関係ねぇ!文句無しにダントツになってやる!!!」
つづく