弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第2話「突き抜けろ!ダントツの頂点へ」

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第2話「突き抜けろ!ダントツの頂点へ」

 

 SGFCの翌日、日曜日の昼時。
 達斗は相変わらず両親の経営しているファミレス『ザイセリヤ』の手伝いをするために店のユニフォームに着替えて厨房へ入った。

「お疲れ様です!」
 入店し、スタッフ達へ挨拶する。混雑時なので皆慌ただしいようだが、軽く会釈はしてくれた。
 達斗も急いで仕事の体勢に入ると、達斗の父[士郎]が早速声をかけてきた。
「達斗、来て早々悪いんだが、3種のスーパーピッツァセットにパーティポテト、唐揚げ枝豆セットとウィンナー詰め合わせを15番テーブルにお願いな」
「うん」
 達斗が返事をすると、父士郎は大量の料理を渡し、達斗はそれを難なく持ち上げて運ぶ。
 一つのテーブルの料理にしてはいささか量が多い。

(これだけの料理を一つのテーブルに……団体さんかな?)

 別に珍しい事ではない。
 達斗の運んでいる料理は大勢で摘む事に特化したものばかりだし、15番テーブルは他のテーブルよりも大きく人数多めなお客様に対応するためのテーブルだ。

 事実、そのテーブルには複数人の子供達が座って談笑していた。
「それにしても凄かったよなぁ!翔也の試合!!」
 色黒チビな少年が大袈裟なそぶりで声を張り上げる。
「初出場で全国2位!これはもう実質チャンピオンだろ!!」
「シチベエ君、そのセリフもう5回目だよ」
 インテリっぽいメガネ少年が突っ込む。
「だってすげぇもんはすげぇじゃん!」
「ははは!サンキュー!褒められるのは何回だって嬉しいねぇ!」
 翔也は上機嫌にジュースを飲み干した。
 すると、片手にグラスを持ったモブ太が手早くもう片方の手で翔也のグラスを取った。
「ついでだから注いでくるよ」
「お、悪いな」
「おもんねぇぞモブ太!」
 シチベエが冗談混じりに野次を飛ばす。
「そう言うつもりで言ったんじゃないよ!」
 奇しくもダジャレを発してしまったモブ太は弁解しながら席を立った。
 そのタイミングでムォ〜ちゃんが話をフリックスへ戻す。
「凄いと言えば、帰りに段田バンさんに声掛けられてたけど一体どういう用件だったの?」
「あぁ、それは……」
 翔也が言いかけたタイミングで、達斗が両手いっぱいに料理を持ってやってきた。

「お待たせしました。三種のスーパーピッツァセットにパーティポテト、唐揚げ枝豆セットとウィンナー詰め合わせです」

 料理名を告げながらテーブルを見ると、翔也達と目が合った。

「おっ、タツ、お邪魔してるぜ!相変わらず精が出るねぇ!」
 達斗の姿を認識して、翔也はニカッと笑いかけた。
「翔也、それに……」
 話しかけられた事で達斗も自分が相手にしている客達がクラスメイト達だと分かり、達斗は少し気まずいような表情になった。
 コミュ症な達斗でなくとも、働いている姿をクラスメイトに見られて良い気分になるものは少ないだろう。
 そんな達斗の心境は察されず、クラスメイト達は物珍しそうに達斗へ話しかけて来る。
「おっ、マジで神田の奴ここで働いてんだ!」
「まぁ、うん、ただの手伝いだけど……」
「それは感心だねぇ!今日は僕達、翔也君の祝賀パーティをしているのさっ!もちろんこの僕の奢りでねっ⭐︎売り上げにしっかり貢献してあげるよ、ベイベー!」
「はは、ありがとう……」
「それにしても、これだけの料理を1人で持ってくるなんてすごいね!神田君ってに力持ちだったんだ」
 この中で唯一の女子、今野ミハルに羨望の眼差しを受けて達斗は少しドギマギする。
「い、いや、その、力よりもコツがあって……」
 女子からの羨望など特に深い意味はない事が殆どだが、慣れてない達斗はどうにか上手く返事をしようして逆に言葉に詰まった。

「あ、そうだ、タツ。昨日の大会さ、チラッと見えたんだけど、お前もしかして……」
 ちょっとした会話の間を埋めるように翔也が達斗へ問いかけようとした時。

「うひひ、そう言えば僕が頼んだ『タライかき氷』はまだなのかな?」
 と、不意に影野うすとがニタニタ笑いながら静かに言う。達斗はビクッとなった。
「ひっ!……あ、す、すみませ、えっと、注文通ってなかったのかな……」
 注文を受けたのは達斗ではないのだが、もし注文が通ってないのだとしたら大変な事だと達斗は少し焦ると翔也がフォローを入れた。
「あ、単純に俺たちが影野の注文伝え忘れてただけだわ。気にすんな、タツ」
「うひひ、僕って影薄いのが取り柄だからさ……追加注文頼むよ、うひひ」
「あ、はい。タライかき氷、ですね……」
 達斗はドギマギしながら注文を承った。
「ってかこんな真冬にかき氷頼む奴なんか忘れられて当然だろ。ギャグだと思うわ」
 シチベエがボヤく。
「うひひ、たっぷりあるから皆でシェアできるよ」
「いるかっ!1人で食え!!」

「では、すぐにお持ちいたします」

 ワイワイと騒がしい15番テーブルを後にして、達斗は厨房に戻っていった。
(……聞かない方がいいかな、やっぱ)
 達斗の背中を眺めながら、翔也はぼんやりとそう考えた。

 厨房へも戻った達斗は、士郎へ追加注文を告げた。
「お父さん、15番テーブルにタライかき氷追加ね」
「おう了解……ってタライ!?この時期にか……!」
 驚くのも無理はない。現在12月下旬。真冬真っ只中だ。
「まぁ、メニューに入れてる方も入れてる方だけどねぇ」
 ぬっと、横から現れた達斗の母[紗代]がやんわりとツッコミを入れた。
「そ、そりゃそうか。それよりあのテーブルの団体さん、達斗の友達か?」
「ん、クラスメイト」
 友達、と言う言葉には同意せず事実の関係性だけ伝えた。
「そ、そうか……」
 思ったよりも反応の鈍かった達斗に、士郎は少し戸惑った。
 その後も黙々と仕事をこなしていく達斗の姿に、何か思う所があるようだった。

 …。
 ……。
 それから、再び月日は流れ。
 クリスマスが過ぎて、大晦日、お正月が過ぎて冬休みも明け、三学期が始まり一週間が経った。

 この間、達斗の住む街、そして通う学校では、翔也がSGFCで活躍した影響でフリックスが以前にも増してブームになっていた。

 そんなある日の放課後。
 いつものようにクラスは翔也を中心にわいわいと盛り上がっている。

「おっしゃ!今日も姉ヶ崎公園に集合してフリックス大会、天崎翔也杯を開催するぜ!!」
 翔也が声を上げるとクラスメイト達が声を上げた。
「おー!」
「今日こそ俺が勝つぜー!」
「何言ってんだ、勝つのは俺さ!」

 そんな喧騒の中、達斗は無言で立ち上がり、そそくさと帰ろうとする。

「おう、タツ!お前もどうだ!機体なら貸すぜ」
 そんな達斗の背中へ翔也が声を掛ける。
「あ、ごめん。今日も手伝いあるから……」
「そっか、なら仕方ねぇな。頑張れよ」
「うん、じゃあ」
 達斗は少し気まずそうに片手をあげるとそそくさと教室を出ていった。

「……」
 そんな達斗の背中を眺める翔也へ、複数人の女子児童が怪訝な感じで話しかけた。
「ねぇ翔也君、なんでいっつも神田君みたいな付き合い悪い子に声掛けてあげるの?」
「そうそう、時間の無駄じゃん」
「んな事言ってやるなよ。店の手伝いなら仕方ねぇし、それに何度も誘ってればいつか来てくれるかもしれないだろ」
 達斗に対してマイナス印象を持っている女子らへ翔也がフォローを入れようとするとそれを聞いていた他の男子達も便乗してきた。
「どうかなぁ……」
「ほんとは俺らの事避けてるんじゃないのか?」
「フリックスにも興味なさそうだしな」
 口々に達斗の悪口大会へと発展しそうになるのを、翔也は真顔で否定した。
「いや、それはない。だって……」
 と、言いかけて口を閉じた。
「???」
(あいつは、この間大会を見に来てた、ような……)
 が、それは話題に出すべきじゃないと考えた翔也はすぐに切り替えた。

「まっ、来れない奴の事アレコレ言っててもしょうがねぇ!早く公園行こうぜ!!
優勝したら特典として俺の新型機体とエキシビジョンだ!!」
 翔也が切り替えると、すぐにクラスメイト達はそれに乗る。
「あ、それって前に言ってた、段田バンと開発してたっていう!?」
「もう出来たんだ!」
「おうよ!この間完成したんだ!超ご機嫌な機体になったから楽しみにしてろよ、皆!!」

 達斗の事などすっかり忘れて、クラスメイト達はワイワイ盛り上がりながら公園へと向かった。

 ……。
 …。
 達斗は足早に家に帰り、カバンを置いて店へ向かった。

「お疲れ様です〜」
 挨拶しながら入ると、中には見知らぬ若い従業員が複数人おり、達斗へ会釈をした。
(あれ、誰だろう?新しいバイト?)
 疑問に思っていると、士郎が声をかけて来た。
「おぉ、ちょうど良かった達斗!この子達は新しく募集してたバイトなんだ」
「あ、どうも……」
 達斗とバイト達は軽く挨拶をした。
「ちょっと外すけど頼むね。達斗、話がある」
 バイト達へ断ると達斗を促して奥へ歩いていく。
「へ?」

 状況を把握できないまま士郎に促されて、達斗は従業員控室へ連れて行かれた。
 訳がわからない達斗は士郎へあからさまに怪訝な顔をした。
「なに、どうしたの?」
「あのな、達斗……これまで本当に助かった」
 士郎は改まって達斗へ礼を言う。その態度に何やら不穏なものを感じさせた。
「ただな、父さん、文句言わずに手伝ってくれる達斗に少し甘えてたみたいだ」
「いや、別にそんな事……」
「達斗に自覚はなくても、子供時代の貴重な時間は失くなっていく。達斗もあと数ヶ月したら中学生だしな、もっと外の世界を経験した方がいい。それで去年末からバイトを募集してたんだが、ようやく応募者が来てくれたんだ」
「じゃあ、もう僕は……」
「たまに手伝ってくれればいい。あとは自由に過ごしなさい」
「……」
 自由に過ごせ。そうは言われてもどうすればいいのか分からない達斗は返事に窮した。
「あ、そうだ。これは今までご苦労様って意味を込めてのお駄賃だ」
 数枚のお札の入っている封筒を渡してくれた。
「う、うん……」
「それと、これはオマケだ」
 そう言って渡してくれたのは、白いプラスチック製の玩具だ。

RPインフェリア・スタッブ

「これって……」
「フリックス・アレイ。学校でも流行ってんだろ?子供向けメニューのオマケとして仕入れた奴の余りなんだけどな」
「うん、ありがと……」
 受け取るものを受け取った達斗は、呆然と立ち尽くす。
 すると、ドアが開かれてにゅっと従業員が顔を出した。
「店長〜!そろそろ良いですか〜?」
「あぁ、すぐ行く!それじゃな、達斗」
 士郎は達斗へ小さく手を挙げると店内へ戻っていった。

 ……。
 …。
 神田家のリビング。
 達斗はソファに寝転びながら、貰ったフリックスを手に取り眺めていた。

「……自由だって言われてもなぁ」
 意志と発想のない人間にとって、自由とは雁字搦めの牢獄と変わらない。
 仕事なりなんなり縛られていた方がいい人間だっているのだ。

 ガチャ。その時、玄関の扉が開かれる音と可愛らしい少女の声が聞こえた。
「ただいま〜……あっ!たっくんの匂いがする!!」
 テンション低めだった声は一気に明るくなり、タッタッタッ!とリビングへ続く廊下を軽快に小走りする。

「あーーー!やっぱり、たっくんいたーーー!!!」
 リビングに寝転ぶ達斗を見つけた美寧は、まるで野良猫へ駆け寄る猫好きな子供のようなテンションで達斗へ飛びかかった。
「っ!」
 本能が危険を察知して身体を硬らせたものの間に合わず、美寧の身体は達斗に覆いかぶさった。
「たっくぅ〜ん!たっくぅ〜ん!!スリスリスリスリ〜〜」
 身動きの取れない達斗を美寧は容赦なく頬擦りし始めた。
「スーハースーハー!はぁはぁはぁはぁ……!」
「む、むぅぅ……!」
 柔らかい、いい匂い、気持ち良い……このまま心地よい微睡に身を委ねてしまいそうになる前に、達斗は自分の意識を無理やり鼓舞した。

「シャアアァァァァ!!!!」

 猫のような威嚇で美寧の身体を引き剥がす。
「わっ、威嚇された」
 美寧は驚きはしてるが全く悪びれる様子がない。
「いきなりビックリするだろ……!」
「ご、ごめんね……でも、びっくりしたのはお姉ちゃんの方だよ。この時間はたっくんお店にいるはずなのに、家にいるから、つい……」
 つい、でやる事じゃないだろ。
「お店の方はバイト雇ったとかで、もう手伝いはいいんだって」
「そうなんだ……それで寝転んでたの?」
「まぁ、たまには昼寝もいいかなって……げっ!」
 言って、達斗は(しまった!)と後悔した。そんな事言ったら次の反応は決まってるのに。
「そっか!じゃあお姉ちゃんと一緒に……」
 と、顔をパァと明るくした美寧の表情は達斗の手にあるフリックスを見て、スン……と無表情になった。
「それ」
「あ、あぁ、お父さんから貰ったお駄賃のオマケ。流行ってるし、時間もあるし、フリックスやってみるのもいいかな〜、なんて」
 昼寝に付き合ってくるよりはマシだと思い、適当な事を言って誤魔化す。
「そう」
 すると、美寧はさきほどのテンションはどこへやら、冷たく返事して立ち上がった。
「美寧姉ぇ?」
 玄関へ向かう美寧の背中へ達斗が声を掛ける。
「お姉ちゃん、夕飯の買い出しに行ってくるから」
「う、うん……」
 素気なくそう答えると、美寧は玄関へ向かい外へ出た。
 扉にもたれかかり、寂しげに空を仰ぐ。
(……やらないって、言ってたのに)
 美寧の曇った表情とは対称的に、空はどこまでも澄み切っていた。

 ……。
 …。
 手持ち無沙汰になった達斗は家を出てブラブラと散歩する事にした。
 何気無く通った公園で、よく知っている少年達の声が聴こえてくる。

「おっしゃ決まった!優勝したのはモブ太のグランドパンツァーだ!!」

「「「おおーーーー」」」
 翔也達クラスメイトだ。
 そういえば公園でフリックス大会やるとか言っていた。
 子供の遊びとはいえ、折り畳み式簡易テーブルの上にフィールドを置き、そして簡単な看板まで設置すると言うなかなか凝った設営だ。

「くっそー!あとちょっとだったのに!!」
 シチベエが悔しがっている。
「凄いねモブ太君!」
「まさかあんたが勝つなんてねぇ」
「ふっふっふっ!なんたって僕はかのレジェンドフリッカー、武山剛志さんに認められてこのグランドパンツァーを託されたからね!これで僕もトップフリッカーさ!」
 グランドパンツァーを掲げて、モブ太は得意げだ。
「何が託された、よ。無料配布イベントで貰っただけじゃん。あたしだってそれ持ってるし」
 ミハルがジト目でツッコミを入れる。
「うっ、でもそれを使いこなして勝ったのは僕の実力だもんね!」
「グランドパンツァーすげぇな。俺も貰いにいきゃよかった」
「僕も……」
 みんな口々にグランドパンツァーを持っているモブ太を羨ましがっている。
「だから!僕の実力だってば!!」

「ははは!まぁモブ太も腕を上げてるって事だな。そんじゃ、エキシビジョンやるか!……って、あっ!タツ!」
 公園の外で様子を眺めていた達斗を翔也が発見し、こちらへ来るように促してきた。
「どうしたんだ?店の手伝いは良いのか?」
「あ、うん。もう大丈夫になったから」
「そっかそっか!じゃあタツも参加しろよ!せっかくだから、優勝者のモブ太と特別マッチだ!!」
「えっ!?」
 突如妙な提案をされてモブ太は素っ頓狂な声を上げた。
「い、いいの?今からエキシビジョンなんじゃ……」
「当たり前だろ!なぁ、モブ太!新規大歓迎の大シード戦って事で、どっちか勝った方が俺とバトルだ!」
 翔也が提案すると、モブ太は渋々ながら頷いた。
「うぅー、まぁ、いいよ。新規は大事だしね。……初心者相手なら負けることも無いだろうし」
「あ、ありがとう……」
「って事だから、機体貸してやるよ」
「あ、大丈夫。一応持ってきたから」
 そう言って達斗は士郎からもらった機体を見せた。
「これは、RPインフェリア・スタッブ……!へぇ、良いの買ったねぇ。スペックはやや不足してるけど拡張性が高くて伸び代のある量産機だよ」
 ガクシャがメガネをクイっと上げながら解説した。
「RPインフェリア・スタッブか……」
 自分の機体の名前を呟きながら、達斗はギュッと機体を持つ手に力を込めた。

 そして、達斗とモブ太は機体をセットした。
「まずは向かい合って同時シュートするんだ。そして、遠くに進んだ方から先攻。そこからは順番にお互いに攻撃し合ってHP15から削って0にした方が勝ちだ。シュートの仕方は、機体の後ろを手で力を込めて飛ばすなら何でもありだが、一般的にはデコピンみたいにして撃つのが基本だな」
「うん、分かった」
 簡単なルール説明を受けて、達斗は機体を構えた。
 一般的な人差し指によるデコピンの構えだが、指を機体のシュートポイントから少し離している。

「いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!」

グランドパンツァー

「いっけぇ!グランドパンツァー!!」
「うっ!」
 ガッ!!
 達斗は叩くようにシュートしたせいであまり遠くへ飛ばせず、モブ太の先攻になった。
「やった!」
「いてて……」
 達斗は、痛そうに人差し指を振った。

「よーし、先攻は貰ったぞ!」
 モブ太のターン。モブ太はグランドパンツァーの向きを変える。
「アレ?向き変えて良いの?」
「シュート前はシャーシを中心に機体の向きを変えたり、手動で変形させられるんだ」
「これを『シュート準備』って言うんだよ」
「へぇ……」

「いけっ!」
 バシュッ、バーン!!
 グランドパンツァーはインフェリアスタッブを弾きつつ、奥にあるマインに触れてマインヒットした。
「マインヒットで3ダメージ!」
 これで達斗の残りHP12だ。
「え、これでダメージ受けるの?」
「今のはマインヒット。フィールド上の爆弾[フリップマイン]を敵機にぶつけるか、シュートした自機が敵機とマイン両方に触れたら3ダメージだ」

「……だったら、こっちも反撃で」
 達斗のターン。達斗はシュートポイントから人差し指をやや離して構えている。それを見た翔也は即座にアドバイスする。
「待った!タツ、指は機体に添えてから力入れた方がいいぞ。叩くんじゃなく、押し出すように撃つんだ」
「う、うん」
 翔也のアドバイスを受けて、達斗は人差し指の爪をシュートポイントに密着させた状態から力を入れた。
 バシュッ!
 機体は真っ直ぐに飛んでグランドパンツァーを弾き飛ばし、その先のマインに当たった。
 3ダメージ。モブ太の残りHP12だ。

「やるなぁ、だったらこっちは!」
 モブ太は人差し指じゃなく中指に力を込めてシュートを構えた。
「タツ!モブ太は中指使って強いシュートを撃ってくるぞ!バリケードで防御するんだ!」
「あ、うん!」
 人差し指よりも中指の方が強い。
 翔也に言われるまま、達斗はバリケード二枚を横に並べて構えた。
「いっけぇ!」
 バシュッ、ガッ!!パリィン!!
 フリップアウトは防げたが、バリケードが一枚割れてしまった。そしてビートヒットの1ダメージを受けてしまう。
「場外はしなかったけど、機体と機体が当たった後に離れたからビートヒットだな」
「あぁ!ビートヒットだけかぁ!」
 達斗残りHP11。
「こうやって場外を塞げるんだ。でも、バリケードが……」
「バリケードはフリッカーが込めた力に比例して防御力が上がって、それ以上の負荷を受けると壊れるんだ。壊れたバリケードはもう使えないけど、次のターンに行動を消費すれば回収出来る。でも今は回収よりも攻撃した方がいいな」
「うん」
 達斗は先程のモブ太と同様中指でシュートの構えを取った。
「おっ、タツもフリップアウト狙いか!」
「多分、相手の機体を場外に弾き出した方がダメージが大きいんだよね?」
「あぁそうだ!一部だけ出たら5ダメージ、全部出たら6ダメージ!ただし、自分が場外したら自分だけ2ダメージ受けるから気をつけろよ」
(自滅したら、相手を場外させても無効になるって事か……なら、力任せに撃つよりも慎重にならないと……)

 達斗は緊張した面持ちで狙いを定める。
 力任せではなく慎重に力を伝える……それはまるで、いつもやっていた店の手伝いのようだ。
 荷物を力尽くで持つのではなく、その重心を見極めて最も効率の良い持ち方をする……。

 ポゥ……。
 その時、狙っているグランドパンツァーのボディに、小さな光の点が見えた。
(あれは?)

「タツ、ターンが来てから30秒経つと強制的に相手ターンになるから気を付けろよ」
「う、うん!」
 翔也に促されて達斗は力を込めた。
「負けないぞ!」
 モブ太はバリケードを重ねる事で防御力を上げた。所謂『ブレース』と呼ばれる構えだ。

「バリケードは二枚重ねれば範囲が狭まる代わりに防御力が上がる。これを突破出来るかな!?」

 達斗は、敵機に灯っている光の点を目掛けてシュートした。

「突き抜けろ!ダントツの頂点へ!!」

 バシュウウウウウ!!!!
 達斗の手から放たれたRPインフェリア・スタッブは真っ直ぐにフロントの剣をグランドパンツァーの光の点へ突き刺し、そして大きく弾き飛ばした。

「な、なんだこのシュート!?」
「インフェリアスタッブでこんなパワー普通出るか!?」

 シュンッ!!!!
 弾かれたグランドパンツァーは凄まじい勢いでバリケードの横を通り抜けながら飛ばされて、フィールドから離れた位置で地に落ちた。

 一同、静まり返る。

「え、えっと、僕の機体は落ちてないから、これでフリップアウト、だよね?全部落ちたから6ダメージで残りHP6だっけ……?」
 何故か反応が乏しくなった周りを見て不安になった達斗は遠慮がちに判定を確認する。

「あ、い、いや……これは……もしかして、おい、誰かメジャー持ってないか!?」
 翔也が問い掛けるとガクシャがメジャーを持ってきてフィールドから飛ばされたグランドパンツァーの距離を測定した。

「……2m15cm……って事は、オーバーアウトか」
「オーバーアウト?」
「敵機と接触して場外した時、シャーシ中央からフィールド端までの距離が1.5m以上離れていたらダメージ1.5倍、2m離れたら2倍になるんだ。つまり、本来の6ダメージが2倍になるから……丁度12ダメージでモブ太の撃沈だ」

「へ?」
 達斗は訳も分からずキョトンとした。
 初心者として胸を借りるつもりが思わず勝利を得てしまったのだ。状況が理解できない。

「おおおおお!!すげぇ!まさかの下克上!!!」
「最後シュート、あれはなんだったんだろう?」
「ビギナーズラックってやつ?」
「ラッキーであんなシュートできてたまるかよ!!」

 見ていたみんなが沸き立ち、達斗を取り囲んで称賛する。
「神田!なんだったんだ今のシュート!?」
「もしかして、初心者ってのは嘘で密かにやってたとか?」
「い、いや、僕も、何が何やら……」
 困惑する達斗とは反対に、モブ太は頭を抱えて悔しがった。

「うわあああ、初心者に負けるなんてええええ!!
バリケード構える位置をもう少しずらしておけば良かったよぉぉ〜〜!」
「ブレースは防御力が高いけど、飛ばされる場所をしっかりと予測出来なければ逆にスルーされやすい防御方法だからね。今回はモブ太くんの作戦ミスかな」
 ガクシャの分析を聞くと、モブ太は悔しそうな表情のまま達斗へ近づいた。
「うぅ、でもさっきのシュートは凄かったね神田君。僕の負けだよ」
「あ、うん。どうも、ありがとう」
 素直に負けを認めるモブ太に、達斗も戸惑いながら礼を言った。

「って事で、タツ!俺と戦うのはお前に決定だな!!」
「あ、うん!翔也とバトルか……!」
 達斗の脳裏に先月のSGFCで観た翔也の活躍が思い起こされる。
 自分とは程遠い場所にいると思っていた翔也とこうして対峙する時が来るなんて……!

 2人は早速フィールドについて構えた。
「行くぜ、エイペックス!」

「おぉ、あれが段田バンと開発したっていう翔也の新機体かぁ」
「強そうだなぁ……!」
 翔也の取り出した新機体に周りの子達は口々に感嘆を漏らす。

 そしてバトル開始だ

「3.2.1.アクティブシュート!!」

 バシュッ!
 バトルスタート!2人が同時にフリックスを放つ。
 エイペックスはスピンしてインフェリアスタッブのサイドを小突き、バランスを崩したインフェリアスタッブは勢い余って場外した。

「あっ!」
「へっへっへ!アクティブシュートで敵機を弾き飛ばしたらアクティブアウトで4ダメージだぜ!」
「……さ、さすが翔也……!」
「まだまだこんなもんじゃないぜ!」
「ぼ、僕だって……」

 仕切り直しアクティブだ。
「3.2.1.アクティブシュート!!」
 パシュッ!
 達斗は絶妙に加減してシュートした。
 そして回転するエイペックスの手前で停止、エイペックスはスタッブの目の前でただただ回転している。
「僕のターンだ!」
「やるな」
 バシュッ!
 達斗は回転しているエイペックスへシュートし、その勢いで反射してマインヒットした。
「やった!」
「覚えてきたじゃねぇか、おもしれぇ!」
 しかし翔也も甘くはない。
 即座にスピンシュートしてスタッブを弾き飛ばしてフェンスにぶつけ、その反射でフリップホールの上にスタッブを停止させた。
「あっ」
「その四角いエリアはフリップホールって言って、この上で停止すると場外扱いになる穴だ。一部しか場外してないから5ダメージだな」
「そういうのもあるんだ。でも、あそこからここに停止させるなんて凄いなぁ……」
 これで達斗は残り6、翔也は残り12で差は圧倒的だが、まだまだ勝負は分からない。

 その時だった。
 チャラララララララ〜♪
 と、公園に設置されたスピーカーから防災行政無線チャイム『ハッピー市原』が鳴り響いた。
 時計を見ると既に16時だ。辺りも薄暗くなっている。
「あ、やべ!もうこんな時間!!」
「そろそろ片付け始めないと暗くなっちゃう!!」
 各々慌てて帰り支度を始める。
 門限まではまだ時間あるだろうが、公園に設営したものの片付けを考えたらそろそろ撤収準備をしないと間に合わない。

「あちゃー、これから良いとこだったのになぁ。しゃあない!勝負はお預けだ!」
「あ、うん……」
「そうだ!今度GFCウィンターがあるんだけどさ、タツも出てみろよ!」
 そう言いながら翔也はGFCウィンター大会のチラシを達斗に渡した。
「で、でもいきなり大会は……」
「お前なら良いとこ行くって!せっかくならそこで決着付けようぜ」
「う、うん……!」
 半ば押し切られる形で、達斗は頷いた。

「あ、それとさタツ」
「え?」
「あのシュートの時、何が見えたんだ?」
「っ!」
 翔也は気付いていた。モブ太への最後のシュートの直前に達斗が何か普通でない反応をした事を。

「……よく分からないけど、なんだろう、点みたいなのって言うか……」
 要領を得ない達斗の返事から何かを察した翔也はニッと笑った。

「そっか!へへっ、面白くなりそうだぜ……!」

 

   つづく

 

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