弾突バトル!フリックス・アレイ FICS 第86話「真夏の強化合宿!海と山と幽霊と」

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第86話「真夏の強化合宿!海と山と幽霊と」

 

 夏真っ盛り。
 学校はもちろんの事、FICSの試合が休みとなるお盆期間を利用してダントツウィナーズは新舞子海水浴場へ夏合宿に来ていた。

「ひゃっほー!!海だ海だー!!!」
 水着に着替え、バンとリサは波打ち際ではしゃいでいる。
 ザキは水着で準備運動をしていた。

「はしゃぐな!」
 伊江羅が一喝する。
「そりゃ、はしゃぐよ、海だし……」
 伊江羅に叱られ、渋々砂浜に上がる。
「俺たちは遊びに来たんじゃない。これから激しくなるFICS後半戦に向けての強化合宿に来ているんだ」
「あ、はい」
「早速だが、10分後に訓練を開始する。準備運動は各々で済ませておけ」
 いつも以上に厳しい伊江羅博士。
 バン達は素直に従い、準備運動を済ませて機体を手に集合した。

「では早速最初の訓練だ。この砂浜の上をリアルタイムでフリックスレースし、端から端までを10往復」

「す、砂浜の上を!?」
「しかも、リアルタイムで……!?」

「グズグズするな!まだ訓練のメニューは残っている!日が暮れるぞ!」
「へ、へーい!」

 バン達は言われるままに砂浜に機体を置いてシュートした。

「いっけぇぇぇ!!」
 しかし、思ったように進まない。
「だああああ!!こんな柔らかい砂の上でシュート出来るかよ!!」
「どけ!チンタラ走るな!!」
 バシュウウウウ!!!
 ザキはスピンで砂を跳ね除けながら進む。
「うわっぷ!ザキ!砂撒き散らして進むな!!」
「だったら避けながらいけ!」
「なにをぅ……!」
「いけっ、プロミネンスウェイバー!!」
 一方リサは波打ち際を順調に進んでいた。
「リサ、はやっ!?」
「波打ち際は砂が水分を含んで硬いから、シュートしやすいんだよ」
「なるほど、俺もそっちに……」

 行こうとした瞬間、大きな波が来てリサは巻き込まれてしまった。
「きゃあああああ!!」
「……やっぱやめとこ」
「うう……」
 波に攫われてリサは大幅にタイムロス。

 そして、数時間後。
 ようやく砂浜レースをクリアした。

「はぁ、はぁ……」
「ぜぇ、ぜぇ……」

「一位はザキは、二位バン、三位はかなり遅れてリサか」
「うぅ、も、もうダメ……」
 リサは完全にグロッキーだ。それに対してザキはピンピンしている。
「へっ、どうって事ねぇな」
「何がどうってことないだ!お前が砂撒き散らしながら進むから俺たちはタイムロスしたんじゃないか!」
「知るか。下手な言い訳するな」
「言い訳じゃねぇ!!」

「はしゃぐな。次のトレーニングだ」
「ま、まだこんなのやるんだ……」
 リサは流石に苦笑いする。
「リサ、そのフリフリした水着だと動きづらく無いか?」
「うぅ、ここまでキツイと思わなかったから……」
 リサの着てきたフリル付きのビキニタイプの水着もこの過酷な砂浜レースで台無しだ。

「安心しろ、次は水着が役に立つ。フリックスを水上仕様にカスタムして遠泳だ!沖のブイにタッチして戻ってくればゴールだ」
「フリックスレースで、遠泳……」
「この水着、競泳用じゃないんだけど……」
「つべこべ言わずに準備を進めろ!」
「へ、へーい……」

 バン達は水上用の浮力の高いカスタムをしたフリックスを用意して水に浮かべた。
「いけっ!!」
 水上でのシュートは当然難しく、しかも波によって押し流される。
「くっそぉぉ!!」
 しかも泳ぎ方も気をつけないとうまくシュートできてもバランスが崩れる。

「いっけー!!」
 バシャッ、バシャッ!
 リサは上手いこと水切りで進む。
「おお、リサすげぇ」
「うわっぷ!ぶくぶく……」
 しかし、泳ぐのが上手くいかずになかなか進めない。

「けっ、この程度、海を割っちまえば良いだけだろ」
「へっ!?」
「ちょっと、それだけは……!!」

「ダークホールディメンション!!!」
 バッシャアアアアア!!!!
 ザキは超猛烈なスピンで海面を割りながら突き進む。
 当然、その周りの被害は気に留めていない。

「またこれかあああああ!!!!」
 バンは思いっきりその波に巻き込まれてしまった。

 紆余曲折あったが、ザキがゴールしたおかげで波は収まり、バンとリサはゆっくりながらゴールできた。

「う、ううう……」
「はぁはぁはぁ、酸素が、酸素が足りねぇ……!」
「だらしねぇ奴らだ」
「だから、お前が……もういいや、怒る力残ってねぇ……」

 バンとリサは完全にダウンした。

「……よく頑張った。昼のトレーニングはここまでにして休憩に入る。日没後、大坪山の麓に集合だ」
 とりあえず助かった。
 しかし、夜もまた同じようなキツイトレーニングがあるのかと思うと暗澹たる気分だった。

 ……。
 ………。
 黄昏時。大坪山は真っ赤な夕焼けに照らされていた。

「では本日最後のトレーニングだ。リアルタイムフリックスレースで、この大坪山を登り、頂上にある東京湾観音を一周してここに戻ってくる」
「山道ってのはキツそうだけど、砂浜とか海上と違って普通のオフロードセッティングでいけそうだな」
「うん……」
「……無事に戻って来られれば良いがな」
 伊江羅は何故か意味深にそう呟く。
「ちょ、どういう……!」
「さぁ、スタートするぞ」
 バンの疑問を遮って伊江羅はスタートを促した。

 バン達は渋々それに従ってスタートする。

「いっけえええ!!!」
 バシュウウウウ!
 昼間のトレーニングと違い、バン達は快調に飛ばしている。
「思った通り、崖に落ちるのさえ気を付ければ全然楽勝だぜ!」
「昼間が辛すぎたんだよ……」
「だがこんな緩い内容でトレーニングになるか?」
「いや、これでも十分キツイんだけどな」
 ザキの基準がおかしいのだ。

 暫く進んでいくと、日は沈みあたりはすっかり暗くなってきた。

「うぅ、なんか暗くなってきたね……」
「あ、あぁ……!」
 視界を遮られた山道は危険だ。
 このトレーニングの真骨頂はこれだったのだ。
「日没前に山道に入らせて、目が暗闇に慣れる前に夜の山を登山させる……えげつねぇ事考えやがるぜ」
「そ、そんなぁ……」
 ガサガサと、辺りで物音が聞こえる。
 視界がなくなった分他の感覚が鋭くなるのだ。
「きゃあ!!ば、バン、置いてかないで……」
「あ、あぁ……こんなとこ一人でいたら危険だもんな。ザキ、ここは三人で固まって行こうぜ!お前だって一人だと危ねぇって!」
「ちっ、仕方ねぇ」

 そして、暫く進んでいくと周りが仄かに光出した。
「なんだ?電灯でもあるのか?」
「あ?そんなものあるわけ……」
「じゃあ、これは……」

 ポゥ……と光の玉がふわふわと浮かんでる。
「火の玉だ〜!!!」
 まさかの心霊現象。バン達は観音へ向かって急いだ。

「そ、そう言えば、東京湾観音って千葉県最恐の心霊スポットだって……!」
「そう言う事かよ!!」

 無事に東京湾観音にたどり着くが、そもそもが東京湾観音自体が心霊スポットなのである。
 火の玉の数は減るどころか増え続け、辺り一面を取り囲まれてしまった。

「し、しまった!」
「いやぁぁぁ……!」
「はっ、こんな奴ら、ぶっ飛ばせば良いだけだろ!!」
 バシュッ!!
 ザキは火の玉目掛けて攻撃を仕掛けるがすり抜けてしまう。
「なに!?」
「幽霊に物理攻撃が効くわけないだろ!」
「だったら無視すりゃいい」
 干渉できないのであれば干渉もされない。ならばいないのも同然だ。気にする必要はない。
 そう思って先へ進もうとするザキだが。
 そうはさせまいと火の玉はより一層集まり、視界を遮ってきた。
「くっ!」
「干渉出来ないなりに邪魔する気だ……」
「えぇーー!もうやだぁ……」
 どうにか振り払えないものかと試行錯誤していると、バン達の脳裏に呻き声のようなものが響いてきた。

 悔しいよぉ……。
 また負けた……。
 こんなに頑張ってるのに強くなれない……。
 ずるいよぉ、あいつばっかり強いフリックス買えて……。
 大事にしてたフリックス壊されちゃった……。
 許せない……。
 フリックス仲間できなくて寂しいよぉ……。
 なんで俺ばっかり……。

「な、なんだこれ……」
「フリッカーの、マイナスの思念?」
「って事は、この火の玉って、フリッカーの幽霊なのか!?」
「で、でも、フリックスの歴史から考えて、フリッカーの幽霊がそんなにいるとは思えないんだけど……」
「生き霊って奴か……それが心霊スポットに惹かれて集まった」

 俺たちだって、世界大会出たかったのに……。
 何がダントツウィナーズだ……たまたまバトルに勝っただけで……。
 あんな奴らより俺の方が代表に相応しいのに……。

 フリッカーとして大成しなかったもの達の無念、ダントツウィナーズへの嫉妬も混じっている。だからこそバン達のトレーニングを邪魔していたのか。

「甘えるなぁぁぁぁ!!!!」

 そんな霊魂達へ、ザキは声を張り上げて一喝した。

「バトルに負けたなら勝てば良い!強くなれないなら、死に物狂いで鍛えろ!!強い機体が欲しいなら自分で作れ!!!
仲間に頼るな!自分の力で手に入れろ!!それすらして来なかった奴に、嘆く資格はねぇんだよ三下どもがぁぁ!!」

「す、すげぇ、生霊に説教してる奴初めて見た」

 ザキの一喝に、火の玉はより一層の憎しみを込めて集まってくる。

 黙れ……。
 お前に何が分かる……。
 俺たちの悔しさ……。
 苦しみ……。
 味わえ……味わえ……。

 火の玉は集まり、本物の炎となってザキとダークネスディバウアを包み込み、燃え上がらせた。

 ボオオオオオオ!!!!
「ぐ、ぐおおおおお!!!」
 さすがのザキもこれには苦痛に叫ぶ。
「じ、人体発火!?」
「早く消さなきゃ……!」
 慌てて駆け寄るバン達をザキは制止した。
「来るなぁぁ!!」
「い、いやでも!」

「伝わってくるぞ、お前らの舐め腐った根性がなぁ!!そんなもので、この俺を燃やせると思うなぁぁぁぁ!!!!」

 バッ!
 ザキはダークネスディバウアを渾身の力でスピンシュートする。

「うおおおお!!!ブラックホールディメンション!!!」
 ビュオオオオオオ!!!!
 猛烈スピンにより、ブラックホールの如き力を持った竜巻が発生。
 ダークネスディバウアは高熱にボディを変形させながらも、スピンする事で熱をボディ全体へ伝え、その変形は均等に理想的な形へと姿を変貌させていった。
 それが更なるスピン力を発揮し、火の玉を全て吹き飛ばしてしまった。

「はぁ、はぁ……」
「す、すげぇ……」
「火の玉吹き飛ばしちゃった」

「魂は三下だが、良いトレーニングにはなったな。けっ、本体もこの炎くらいやる気出せってんだ」
「はははは、まぁ、これが生霊ならザキの魂も伝わったんじゃねぇか?」
「はっ、知るか」
 生き霊の行く末など知った事ではない。
 ザキは意に介さずにそのままレースを再開した。

「いやぁ、それにしてもやっぱ規格外だなぁザキって……」
「うん……」
 リサはどこか悲しそうな声で返事する。
「どうしたんだ?」
「う、うん……フリックスやってても、あんな辛い感情抱く人がたくさんいるんだなって思ったら……」
「……そうだな」

 フリックスアレイは楽しいもの。そしてバトルは勝とうが負けようが、勝つために頑張り続けるもの……。
 そんなバン達の常識へマイナスな感情を抱くものもいる。
 その事実に、切なさを覚えるのだった。

 

   つづく

 

 

CM

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