第13話「希望を求めた死闘」
魔王軍主催の武闘大会。
優勝賞品として提示された不思議なフリックス『キングスカリバー』を手に入れるために、弾介はフィランと組んで出場する事にした。
最初の対戦相手はカッコイイ団のゴウガンとブンだ!
「いけぇ!ドラグカリバー !!」
まずは弾介が先制でアシュラカブトとアサルトスコーピオへ攻撃を仕掛ける。
バキィ!!
二機とも固まってたので防御は固かったが、それでも二機ともにダメージが入った。
「どうだ!」
「ちっ、相変わらずの攻撃力だな」
「オイラ達の防御フォーメーションを破るなんて、やるんだよね!」
「まぁ、バリケードの負担が半端ないからその分無防備って欠点もあるんだがな。
だが、このフォーメーションは防御のためだけじゃないんだぜ!!」
次はゴウガン達がアクティブフェイズとなる。
ブンはアサルトスコーピオのアームでアシュラカブトのリアをガッチリと掴んだ。
「ホールドバイパー!」
「なに!?」
「これが俺たちのコンビネーションだ!!」
「行くんだよね!!」
ドンッ!!
二機が縦列に連結して突っ込んでくる。
「二機分の重量で攻撃か!?」
「それだけじゃないぜぇ!!」
ジャキン!
アシュラカブトのフロントからツノのような刃が飛び出した!
「喰らえぇ!カッコイイブレード!!」
バチーーーン!!
ドラグカリバーへアシュラカブトのフロント刃がヒットすると、刃がしなってその弾力で大きくぶっ飛ばされてしまった。
「ぐっ!耐えろ!!」
弾介はバリケードを構えてその攻撃を耐えようとするが……。
パキイィィン!!
バリケードは砕かれた上に、勢い収まらずにダメージを喰らうほど飛ばされてしまった。
「バ、バリケードが……!」
「これでもう無防備なんだよね!」
「どうだ!前にお前が見せたカッコイイ剣を参考にしたんだぜ!カッコイイだろ!!」
「くっ、確かにそう言われるとカッコよく思えてきた……!」
自分の技を参考にされたと言われちゃ悪い気はしない。
「何バカな事言ってんのよ弾介!」
シュッ!バチンッ!!
その時、横から不意にマインが飛んできてアサルトスコーピオへヒット、マインを飛ばした出あろうフィランのインフェリアスタッブもスピンしながらアシュラカブトへヒットした。ダブルマインヒットだ。
「はい、油断大敵っと」
「ぐっ!てんめぇ、フィラン!やりやがったな!!」
「やるに決まってんでしょ。あ、そうだ。弾介!アサルトスコーピオはアームの付け根が弱点よ!」
「うん、分かった!」
「あ、それ教える奴があるか!?」
フィランに言われた通り、弾介はアサルトスコーピオのアーム付け根目掛けてシュートを放った。
「まずい!兄貴のアシュラカブトをホールドしてるからステップで逃げられないんだよね!」
「いっけぇ!ドラグリーチスティンガー!!」
バキィィ!!
ドラグカリバーの鋭い先端がアサルトスコーピオのアーム付け根に突き刺さり、そのまま衝撃で片腕をもぎ取り、左右のバランスが崩れたアサルトスコーピオは転倒してしまった。
更に、ドラグカリバーはマインに接触してブンとゴウガン二人へダブルマインヒットを決めた。
「これならあたしも楽にフリップアウト決められるわ」
インフェリアスタッブは他の3人よりも軽いのでウェイトカウントが経過しやすい。
ほぼ同時にアクティブフェイズに突入したアシュラカブトよりも素早くシュート準備をしてもぎ取られたアサルトスコーピオの片腕をぶっ飛ばしてフリップアウト。これによってアサルトスコーピオは撃沈だ。
「うぅ、すまないんだよね、兄貴……!」
「ブン!ちくしょう……!フィラン、まずはてめぇからだ!覚悟しやがれ!!」
既にシュート準備を終えたゴウガンはインフェリアスタッブ目掛けて必殺技を放った。
「カッコイイブレード!!」
「きゃあああ!!」
バキィィ!!
バリケードを構える間もなく、その一撃をまともに喰らってしまったスタッブは凄まじい勢いで場外へと飛ばされて一撃で撃沈してしまった。
「へっ、どぉだ!俺様に楯突くとこうなるんだよ!!」
「ったく、相変わらずの脳筋なんだからもう!」
「少しは俺様と組む気になったか?」
「ぜーんぜん」
「てめ……!」
「今だ!ドラグカリバー!!」
攻撃した直後で隙のあるアシュラカブトのリアへドラグカリバーが突っ込んだ。
「なろォォ!させるかぁぁぁ!!!」
なす術なく場外へと押し出されていく寸前でゴウガンは素早くバリケードを構えた。
「はっ、どうだ!そう簡単に俺様を倒せると思うな!」
「ゴウガン、強い技ってのはそのまま自分にも返ってくる事があるんだ!」
「なにぃ!?」
ピシピシ……!
その時、アシュラカブトを支えているバリケードにヒビが入った。その位置は、アシュラカブトから突き出している刃から……!
「なんだと、カッコイイブレードにバリケードが壊されていく……!」
パキイィィン!!
ドラグカリバーのアタックに加えてカッコイイブレードのバウンド衝撃を受けたバリケードは耐えきれずに砕け、アシュラカブトはその反動で大きくすっ飛ばされてフリップアウト。撃沈してしまった。
弾介&フィランの勝利だ。
「やったぁ!」
「ふふん、あたし達のコンビネーションも大したもんでしょ」
「ち、ちくしょおおおおお!!!!」
勝利した二人は控えルームへ戻って機体の整備をする。
「えっと、リザレクトジュエルに、ヒールジュエル……あと、リフレッシュジュエルもいるな」
弾介が機体のHPを回復させたあと、フィランが機体の修復に入る。
HPを全快させないと機体を物理的に弄る事は出来ないのだ。
「機体の損傷は殆ど無いわよ。ちょっとメンテすれば次の試合は問題ないわね」
「ありがとう。でも、一試合でかなり消耗するなぁ。結構買い込んでるけど、回復アイテム足りるかな」
「そこはペース配分考えながら使うしかないわね。物理的に修復しなくて良いなら、いちいち無理に全回復する必要はないんだから」
「……」
弾介は意外そうな顔でマジマジとフィランの顔を見つめた。
「なによ?」
「いや、フィランって結構頼りになるんだなと思って」
「なに今更?そんなの当たり前でしょ、あんたとは潜ってきた修羅場が違うんだから」
「そうなのか……うん、次の試合もよろしく頼むよ!」
「……素直過ぎて調子狂うわね」
大会は一試合終わるたびに人数が半分ゴッソリ消えるため、控えルームのスペースも余裕が出てくる。
それ故に、見知った顔とも遭遇しやすいのだが……。
「あ、龍剣弾介じゃーん!」
「へ?って、お前らは魔王軍の……!」
弾介へ話しかけてきたのは、大木スリマ、ジュリエ、シダーチャンの3人とペッパ○くんを思わせるロボットだった。
「あらあら、そんな怖い顔しないの。せっかくの男前が台無しよぉ」
「お前らもやっぱり参加するんだな……!」
「そんなの当たり前だぜぇ!あの時の雪辱、ワイルドに晴らしてやるぜぇ!」
「こっちだって、絶対にお前らをぶっ倒してやる!」
「あははは!今回は面白いバトルが出来そうで楽しみだなぁ!ね、ソルトくん!」
スリマが隣にいるロボットへ話しかけると電子音のような声が聞こえてきた。
「ハイ、ワタクシモタノシミデス」
「ええええ、シャベッタァァァ!!」
「あはははは!僕のパートナーのソルトくんだよ、よろしくね」
「ヨロシクオネガイシマス」
ソルト君が手を出すと弾介は思わずそれを握って、慌てて離した。
「あ、ども……って、握手なんかしないぞ!お前達とは敵なんだからな!!」
(してるじゃない)
フィランはジト目で心の中で突っ込んだ。
「あははは、そんなに敵対心出さないでよ〜。今日は楽しいお祭りなんだからさー」
「祭りって、世界の皆は故郷を守るために命がけでこの大会に参加してるんだぞ!」
「あらぁ?でもあなた、そんな大会に出場してるのよね。対戦カードによっては、世界の人達の希望を奪う事になるって自覚してる?」
「ぐっ、それは……でも、必要なんだ……!」
「必要?」
「お前たち魔王軍を倒すためにだ!!」
「へぇ……」
弾介の言葉に、魔王軍一同嘲るかのように笑みを浮かべる。まるで、弾介の行動が予想通りだったかのように。
「ちょーっと待ったーー!!」
「我々の前で無用な喧嘩は許しません!!」
と、一触即発ムードだった所に男二人が割って入った。
しかし、その二人は声こそ男だったが、その姿は男と判別が出来ないどころか、そもそも人間なのか怪しい……っていうか。
「え、えええ!?せ、洗濯バサミ!?」
そう、弾介達の間に入ったのは、まるで洗濯バサミをブロック玩具のように組み合わせて作った人形だった。しかし、その動きは人間そのもので言葉も流暢に発している。
「私は洗濯バサミ人のバサーミン・バサミストだ!」
「同じく、センターク!平和を愛する民族である洗濯バサミ人は無用な争いはほっとけないのです!!」
「……また、妙に濃いのが出たきたわね」
もうついていけないのか、フィランは頭抱えてその場を離れてベンチに座った。
「あははは、その洗濯バサミ人の言う通りだね」
「うふふ、試合で会いましょ、たっぷりと可愛がってあ・げ・る❤️」
「ワイルドな戦いを楽しみにしてるぜぇ!」
「デハ、シツレイ」
魔王軍の3人と一体もその場を去っていった。
「……あ、えと、仲裁ありがとうございます」
弾介は戸惑いながらも洗濯バサミ人二人へ頭を下げた。
「いやいや!我々はただ正義感が強いだけなのだ!!」
「余計な事をしたのなら謝りますよ!!」
「い、いえ、おかげで頭が冷えたので……あの、失礼ですがあなたがたはほんとに人間なんですか?」
「人間、と言うか」
「我々は正義と平和を愛する洗濯バサミ人なのです!!」
「は、はぁ……」
「悪は絶対に許さない!」
「だからこそ、この魔王軍の主催する大会で勝たねばならないのです!!」
力説する二人だが、拳(?)に力が入り過ぎたのか腕の洗濯バサミがポロッと取れた。
「あの、何か落ちましたけど」
「うわああああ!私の腕が!!!」
「い、急いで付けるのです!!!」
二人は慌てて腕を取り付けた。弾介は戸惑いながらも、その洗濯バサミに刻まれているロゴが目に入った。
(センバ屋?)
センバ屋と言えば元の世界の千葉県野田市にある老舗の洗濯バサミ専門店だが……。
(見間違いだよな)
さすがに、この異世界にセンバ屋があるとは思えない。ただの見間違いだろうと結論付けてそれ以上気にしないようにした。
そして、そろそろ次の試合。
対戦相手はシダーチャンとジュリエのコンビだ。
「へっへっへっ!」
「あら、思ったより早く再会できたわね。お姉さん嬉しいわ」
「シダーチャンにジョリジョリ……!魔王軍相手ならやりやすくていいや!」
「ジョリジョリ言うなっつってんだろうがてめぇ!!ぶち殺すぞ!!」
相変わらずジョリジョリ呼びに対してキレるジュリエだが、弾介は特に動じない。
「余裕こいてて大丈夫なの、弾介?あの二人、相当キャラ濃いわよ。特にあのオカマ」
「オカマじゃねぇ!!」
「大丈夫だって。あいつらは前に一回やっつけたんだ!」
「へへへ、前回と同じだと思ってるんなら、チャイルドだぜぇ?」
「なにぃ!?ってあれ、確かお前のワイルドガレオンはあの時完全に壊れたはずなのに」
「俺のフリックスが一機だけだと思ったら大間違いだぜぇ?」
「他にも愛機が……?」
機体を複数持つ事は出来るが、それが愛機となると難しい。シダーチャン、想像以上の使い手なのかもしれない。
「御託はいいからとっとと始めましょ。時間の無駄」
「あ、そだね」
フィランに促された四人はフリックスを構え、一斉にシュートした。
「いけ!ドラグカリバー!」
「切り刻みなさい!クロススプラッター!」
「ワイルドに行くぜぇ、バスタードライガー!!」
四機がフィールド内にスケールアップして着地する。
フィランは警戒してなるべく離れた位置につき、弾介、ジュリエ、シダーチャンの3人はフィールド中央付近で密集している。
シダーチャンの出してきた機体は、ライオンと虎を掛け合わせた雑種の猛獣のような見た目をした機体だった。
「バスタードライガー、一体どんな機体なんだ!?」
「へへへ、そんじゃ俺から行くぜ!」
バスタードライガーは、あっという間にアクティブフェイズに突入し、シュート準備に入った。
「早い!?」
「あの機体、見た目よりも軽いみたいね」
「この素早さ、ワイルドだろう?」
シダーチャンは、バスタードライガーの背中にあるゴム紐で結わい付けられた吸盤を外し、近接しているドラグカリバーの斜め後ろの路面に貼り付けた。
「あれは、吸盤?」
「見せてやるぜぇ!バスタードナックル!!」
ドンッ!!
シダーチャンは、握りしめた拳で思いっきりバスタードナックルのシュートポイントを殴りつけた。
その勢いのまま密接したドラグカリバーを押し出し、バスタードナックルは吸盤とゴム紐の反動でその場に戻る。
「うわああああ!!!」
ガッ、ガガガガガ!!!
咄嗟にフィールド端でバリケードを構えたおかげでフリップアウトは免れたが、距離のダメージを受けてしまった。
「ちっ、防がれたか」
「な、なんて技だ……!ゴム紐で結わい付けた吸盤で自滅を防止しつつ、強力なパンチで弾き飛ばすなんて」
「そんなの、近寄らなければいいだけでしょ!」
シュンッ!
いつの間にマインセットしていたのか、フィランはマインに触れつつクロススプラッターへアタックした。
バチンッ!とクロススプラッターにマインヒットのダメージが入る。
「あ、フィラン!そいつは危険だ!!」
「へ?」
「ふふん、女の戦いってわけね。面白いじゃない!やっておしまい、クロススプラッター!!」
ザシュッ!
クロススプラッターの攻撃に弾かれてしまい、インフェリアスタッブはビートヒットダメージを受けるだけでなくボディに深く傷がついてしまった。その威力は以前よりも上がっているのか、フィールド路面も僅かに抉れている。
「きゃっ!なによこれ!」
「あのフリックスはフロントのノコギリで機体を傷つけるんだ!!」
「そういう事。バトルの勝敗はどうあれ、確実に相手を傷付ける。それが私とクロススプラッターの戦い方よ」
「趣味悪……」
「加勢に行くぞ、ドラグカリバー !」
弾介はステップで若干位置を調整した後にシュートしてマインとクロススプラッターのリアへ接触し、マインヒットを決めた。
「あぁんもう!お尻を攻めるなんてサイテー!変態!!」
「……」
弾介はあからさまにげんなりした顔になった。
「と、ともかく、バスタードライガーのパワーは強力だけど接近戦に持ち込まなければどうにかなる!まずはクロススプラッターを倒そう!」
「そうね。このオカマ、いい加減ウザくなってきたし」
「おっと、そうはいかないぜぇ?」
いつのまにか再びアクティブフェイズになっていたバスタードライガー。かなり距離は離れているはずなのに、インフェリアスタッブ付近に吸盤が伸びていた。
「なに!?」
「あ、あのゴム紐どこまで伸びるのよ!?」
「喰らえ、超必殺!バスタードストライク!!」
ゴムが戻る反動をも利用したバスタードナックルの強化技だ。先程とは比べ物にならない迫力でバスタードライガーが迫ってくる!
「躱して!!」
フィランは咄嗟にバリケードを出現させてステップでインフェリアスタッブを動かそうとする。
しかし、猛スピードで突っ込んできたライガーの攻撃には間に合わず、ライガーの右腕がスタッブのリアウイングに掠めた。
バシュウウウウ!!!
掠めただけと言うのに、スタッブはスピンしながら大きく飛ばされてしまった。マインも場外もしなかったのは幸いだ。
「フィラン!」
「咄嗟に急所を避けたから致命傷にはならなかったけど、なんて破壊力なの……!」
「ふふ、まだまだ行くわよ!」
今度はクロススプラッターがスタッブ目掛けて攻撃を仕掛ける。
「っ!」
スタッブもアクティブフェイズとなったのでシュートしてこれを迎撃し、正面衝突。
おかげでお互いにダメージは受けなかったのだが……。
「シュートで受け止める事でダメージを回避するなんていい判断ね。でも……」
パキンッ!
インフェリアスタッブのフロントパーツにヒビが入った。そして、再びフィールドに傷が……。
「HPが無事でも機体への傷は深いわよ……うふふ、こっちの方が私好みの展開だわ」
「この、性悪オカマ……!」
「フィラン!こうなったら、またそのノコギリを折ってやる!!」
ドンッ!
弾介はクロススプラッターのノコギリ目掛けてシュートを放つが……。
ガキンッ!!
クロススプラッターをある程度弾いてダメージは与えたものの、ノコギリはビクともしなかった。しかし、再びフィールドに傷が付く。
「くっ!」
「覚えておきなさい。良い女ってね、同じ過ちは二度繰り返さないの」
「そんじゃまたまたいくぜぇ!」
またもアクティブフェイズとなったバスタードライガー、ドラグカリバーの後ろへと吸盤を貼り付けてシュート準備する。
「喰らえ!バスタードストライク!!」
「くそ!」
バーーーン!!!
今度はまともに食らってしまい、ドラグカリバーはあっさりと場外へ飛ばされていく……その時だった。
スポッ!と急に吸盤が路面から外れ、勢い余ってバスタードライガーも一緒に場外。
フリップアウトは無効になり、バスタードライガーは自滅ダメージを受ける。
「なにぃ!?」
「え、なんだ?」
「ラッキーね、吸盤が外れるなんて」
「う、うん……でも、吸盤ってそんな簡単に外れるかな?」
場外したドラグカリバーをフィールド内に戻しつつ、弾介は先程吸盤が付いていた場所を見て何かを確信した。
「もしかして……」
「どうしたのよ?」
「フィラン、ここからはクロススプラッターを集中狙いしよう。あいつを大暴れさせるんだ」
「えぇ!?でも、そんな事したらまた隙をつかれてバスタードライガーの必殺技喰らうわよ!?」
「大丈夫。多分バスタードライガーは、そろそろ無視して良くなるから」
「???」
怪訝な顔をするフィランを他所に、弾介はジュリエに向かって高らかに叫んだ。
「おい!この髭剃りオカマ!!お前みたいな気持ち悪いフリッカーなんか、僕がけちょんけちょんにやっつけてやるぞ!!」
「なっ!!……て、てめぇ、よくも純情な乙女にそこまでの暴言を吐きやがったな……ぜってぇ許せねぇ!!!」
弾介の安い挑発に乗り、ジュリエは本性を露わにして怒りを剥き出す。
「ブチのめすのはこっちの方なんだよ!フリップスペル!ライトニングラッシュ!!」
「(よし、かかった!)こっちだって負けないぞ!ライトニングラッシュ!!」
お互いに数秒間連続でシュートできるスペルを発動。
バキィィ!ガキンッ!!と高速で何度も何度も激突する。
攻撃力はドラグカリバーの方が高いのでジュリエのHPがどんどん減っていくが、激突するたびにドラグカリバーが傷付いていく。
「うふふ、ダメージレースでは負けてるけど、どんどん相手が傷付いていく……ゾクゾクするわぁ」
「耐えてくれ、ドラグカリバー……!」
激しすぎる二機の激闘に、フィランもシダーチャンもアクティブフェイズに突入してながら様子見している。
「いっけぇ!!」
「切り裂きなさい!!」
ラッシュが切れるまであと1秒を切った。二人は最後の一撃として思い切りシュートを放つ。
バーーーン!!凄まじい衝撃に、クロススプラッターは弾かれてダメージを受け、ドラグカリバーはボディに傷を負った。
「はぁ、はぁ……」
「ふぅ、やるじゃない。ゾクゾクしたわよ」
「ジュリエ、ワイルドだったぜぇ!あとは俺がトドメを刺すぜぇ!!」
ドラグカリバーの近くにバスタードライガーの吸盤が貼り付けられる。
「喰らえ!バスタードナックル!!」
慣れた手つきで必殺技を使う。しかし、吸盤は先程と同様外れてしまい、バスタードナックルは勢い余ってまた自滅した。
「なにぃ、どう言う事だ!?」
「フィールドをよく見てみろ!もうバスタードライガーは怖くないぞ!!」
「!?」
弾介の言う通りフィールドをよく見てみると、最初は綺麗に真っ平だったフィールドが今は無数の傷が付いている。
「吸盤は平らな路面じゃないとくっ付かない!クロススプラッターのノコギリで傷付いた今のフィールドじゃ、もうバスタードナックルは使えない!!」
「まさか、それで私を挑発して!?」
「ぐっ、ワイルドだねぇ……!」
「って事は、あとはHPが残り僅かな機体と攻撃手段を失った機体にトドメを刺すだけね」
バシュッ!
フィランは素早くクロススプラッターへマインヒットを決めて撃沈。
「ちぃ!いけっ!バスタードライガー!!」
吸盤が使えないので通常攻撃をするバスタードライガーだが、ドラグカリバーにあっさりと耐えられる。
「いっけぇ!ドラグリーチスティンガー!!」
反撃のドラグリーチスティンガーにあっさりと飛ばされてそのままフリップアウトして撃沈した。弾介&フィランの勝利だ。
「あははは、ジュリエもシダーチャンも情けないなぁ。魔王軍フリッカーがそんなあっさり負けちゃダメだよ」
バトルが終わり、舞台から降りると近くの別の舞台でバトルしているスリマの声が聞こえてきた。
スリマとソルトくんが相手にしているのはあの洗濯バサミ人の二人だった。
「くっ!さすが魔王軍フリッカー……なんて強さだ!!」
「だが、正義の使者である我々は負けるわけにいかないのです!!」
洗濯バサミ人の使っているフリックスもこれまた洗濯バサミがふんだんに使われていた。
「センターク、こうなったら合体攻撃だ!いけっ!プロトクリエイターオリジン!!」
「おう!グレートクリエイター!!」
二台の洗濯バサミ機体が同時にスリマの緑色のフリックスへ突っ込む。
バーーーン!!二機分の攻撃による激しい衝撃。しかし、スリマのフリックスはびくともしていなかった。
「「なに!?」」
「あははは無駄無駄!僕のオークスライムは、木材にスライムの体液を練り込んで機動力と耐衝撃性能を高次元で両立させてるんだから!!」
(ポチを利用したのはそのためだったのか……!)
「いけっ!オークスライム!!」
バキィ!!
オークスライムの反撃によって洗濯バサミ機二体がフィールドの端まで飛ばされる。
「ぐっ、だったら奥の手だ!」
「それしかありませんな!」
「「超自律兵器起動!!」」
クリエイター二機は洗濯バサミを組み替えて人型ロボットの形態になって立ち上がった。
「へぇ、君達もそれ使えるんだ」
「チャージには時間がかかるが、我々のフリックスはフィールドの端にいる!」
「下手に転がそうと勢い余れば自滅し、自滅せずに転がせたとしても反撃でマインヒットを決められます!かと言って、何もしなければ射撃の餌食ですよ」
「あはは、良いよ。射撃チャージするまで待ってあげる。やれるものならやってみてよ」
スリマは余裕を崩さず座して待つ。
そして時間が経過し、超自律兵器の射撃攻撃が可能になった。
「後悔するなよ!」
「いきます!」
クリエイターが射撃攻撃を構えるが……。
「あはははは!無駄無駄!ソルトくん、モリクレスであれやってよ!」
「ワカリマシタ」
いつの間にかクリエイター二機の近くに来ていたソルトくんの機体モリクレス。
そしてソルトくんは宣言する。
「フリップスペル『超感覚醒!』ハツドウシマス」
超感覚醒……相手の超自律兵器攻撃が成立した時に発動可能。30秒以内に自機を自律兵器形態に変形できたら相手の超自律兵器の射撃攻撃を無効化出来る。
ソルトくんは素早くモリクレスをロボットに変形させた。
四角い箱を組み合わせたかのようなレトロ感溢れるロボ形態のため、変形は素早く行えたのだ。
クリエイターロボ二機から放たれたビームショットは、モリクレスロボによって弾かれてしまった。
「そんな……!」
「せっかくチャージした攻撃が、無効になるなんて」
「それだけじゃないんだよね!」
「ハイ、イキマス」
モリクレスのロボ形態は手に長いビームソードを持っている。
そして、それは今の立ち位置から二つのクリエイターロボへ届く距離だった。
「超感覚醒発動して、さらに格闘攻撃が届いたら反対にそっちがダメージ受けるんだよ!」
自律兵器格闘ダメージを受けてしまい、クリエイター二機は撃沈してしまった。
「バカな、我々の正義が……!」
「敗れてしまうなんて」
ガックリと肩を落とす二人だが、スリマはまだ戦闘態勢を崩さない。
「まだだよ」
「え?」
「まだバトルは終わってないでしょ」
スリマの言葉に、側から見ていた弾介の表情が強張る。
「ま、まさか……!」
「フリックスが撃沈しただけじゃ終わらないよ!君たち二人が撃沈しないとね!!」
「ま、待て!我々は武器を失った!これ以上何の意味が……!」
「戦いで敵を倒す、それ以上の意味がいるの?」
バシュッ!!
スリマは容赦なくオークスライムをバサーミンに向けてシュートする。
「や、やめろおおおお!!!」
「ぐあああああ!!!」
弾介の叫びも虚しく、バサーミンは無残にもバラバラになってしまった。
「バサーミン!」
「コンドハアナタデス」
モリクレスが腕をセンタークへ向ける。そして、ビームショットを放ってセンタークをぶっ飛ばした。
「ぎゃああああああ!!!!」
無残にもバラバラになってしまった洗濯バサミ人二人。これでバトルは決着した。
「あはははは!面白いバトルだったよ!じゃあね〜!」
スリマは笑いながらソルトくんと一緒にステージを降りて歩いて行った。
「あ、あいつ……!決着はもうついてたのに、ここまでやるなんて!!」
「これが魔王軍のやり方よ、いちいち腹を立ててもキリがないわ」
「だけど……!」
目の前で無残にバラバラになった二つの命に目を向ける。その時だった。
「あ、いや、我々は、大丈夫」
洗濯バサミの残骸から声が聞こえてきた。
「へ?」
「洗濯バサミ人は、洗濯バサミが外れたくらいでは死なないのです」
「ただ、この状態では動けないので、すまないが組み立てなおしてはもらえないだろうか……?」
「あ、あはは……なんだ、よかった」
「でも、これ一から組み立てるのってかなり面倒よ……?あたししーらない。機体のメンテはやっとくから弾介一人で頑張って」
「ええー!!」
冷たくもその場を離れていったフィラン。取り残された弾介は洗濯バサミ人復活のために一人黙々と組み立て作業する羽目になってしまった。
そして、次の試合。
弾介とフィランの前に立ちはだかったのは、弾介よりも年下の現実でいう小学4年くらいの男子二人だった。
資料によると、コザッコ村出身のキオとスモと言う名前の少年だ。
「こ、こんな子供まで参加してるのか……」
「故郷を守るのに大人も子供も関係ないっぺ!」
「そうだべ!村で戦えるのがオラ達しかいないなら、オラ達がやるしかないべ!」
「フリッカーとしての戦力は、身体能力よりも愛機があるかどうかの方が大きいからある意味子供の方が有利な面はあるけど」
「実際ここまで勝ち上がったってことは相当の実力だしね」
そして、試合開始。
四人がフィールドへ機体を投入する。
「いけっ!」
まずはフィランがキオの使う緑色の機体目掛けてシュートする。しかし、ビクともしなかった。
「かったぁ!何この機体!?」
「オイラの大盾丸には、並の攻撃は通用しないっぺ!」
「今度はこっちの番だべ!スターキャロット!!」
スモの使うオレンジ色の戦闘機っぽい機体が素早く攻撃し、インフェリアスタッブを弾き飛ばした。
「速い!」
「スターキャロットのスピードは誰にも止められないべ!」
「こっちだって、負けるもんか!」
防御型の大盾丸と機動型のスターキャロット、この二つのコンビネーションの前に苦戦するが、どうにか応戦する。
「役割分担が完璧だ……でも」
「分担がキッチリしすぎてるわね。それに合わせて対応すればいいだけ」
バチンッ!
機動力の低い大盾丸にはインフェリアスタッブでマインヒットを決めてヒットアンドアウェイでジワジワ削る。
「ライトニングラッシュ!スターキャロットを逃すな、ドラグカリバー!!」
スターキャロットへはドラグカリバーがガンガン攻めて機動力を活かす隙を与えない。
長所を活かす役割分担に対しては、長所を潰す役割分担が効果抜群なのだ。
「ぐっ!」
「つ、強すぎるっぺ……!」
攻略法を見出した弾介達はどうにか大盾丸とスターキャロットを撃沈する事に成功した。
「やった!僕達の勝ちだ!!」
機体が撃沈した事でアクチュアルモードが解けてキオとモスの身体が実体化する。
これで勝負あり、のはずだが……。
「まだだべ」
「へ?」
「まだオイラ達は、戦えるっぺ!!」
ガッ!
機体が戦闘不能になり、無防備になったはずの二人はドラグカリバーヘ掴みかかり、押し出していった。
「なに!?手で機体を!?」
ズズズ……とゆっくりだが、ドラグカリバーは二人の少年の手で動かされていく。当然、一定距離を動かされればダメージも受ける。
「弾介、ボーッとしてないで早く振り払いなさいよ!このままフリップアウトされたら負けるわよ!」
「だ、だけど、生身の人間を攻撃なんて……!」
「生身になっても降参しない相手が悪いのよ!」
バシュッ!
フィランはドラグカリバーへインフェリアスタッブをぶつける。
「「うわぁ!」」
その衝撃で二人がドラグカリバーから離れて倒れる。
「弾介、早く!」
「だ、だけど……!」
「多少怪我させても救護班がなんとかするから!」
「……わかった」
弾介は覚悟を決めてドラグカリバーを構える。
「……」
今まで、この世界で何度もバトルしてきた。
しかし、その相手はモンスターか戦闘メカかフリックスだけ。何の罪もない生身の人間に攻撃するなんて、やはり抵抗がある。
ドクンッ!
その時、弾介の鼓動が大きく高鳴った。
自然と口角が上がっていく。
「うわああああああ!!!」
それを掻き消すように、弾介は雄叫びを上げながらシュートした。
バーーーン!!
衝撃波と共に吹っ飛び、気絶する少年二人。
これで弾介達の勝利だ。
「……」
「あんまり気にするもんじゃないわよ。やられなきゃやられてた。ただそれだけなんだから」
「……分かってる」
舞台から降りて、気落ちしたようにトボトボ歩く弾介をフィランが慰める。
しかし、弾介の心の奥ではとある感情がふつふつと湧き上がっていた。
(……楽しかった)
弾介は慌てて頭を振った。
(違う!ただ、ショックで、悲しくて混乱してるだけなんだ!)
必死で、湧き上がる感情を別の感情だと言い聞かせながら抑え込む。
そんな弾介の後ろ姿を驚きの表情で眺める一人の少女がいた。
「弾介さん……どうして」
救護班として弾介が手にかけた少年達の介抱をしている、シエルだった。
つづく
CM