弾突バトル!フリックス・アレイ ゼノ 第14話「反逆の救世主」

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第14話「反逆の救世主」

 

 魔王軍主催の武闘大会は勝ち上がるにつれて更に熾烈を極めた。
 相手もフリッカーだけでなく様々な戦力とぶつかる事もある。が、どうにか弾介とフィランは勝ち上がった。

 そして、次の相手は……。

「大木スリマ……!」
「凄いね、ここまで勝ち上がってるなんて。だけど、それももう終わりだよ」
「負けないぞ!僕は絶対に優勝しないといけないんだ!お前達魔王軍を倒すために!!」
「??それとこの大会とあまり関係ない気がするんだけど、まぁいいか!」

 早速バトルスタート。
 四人の機体がスケールアップしてフィールドに着地する。

「ソルトくん、さっそくやっちゃって!」
「リョウカイシマシタ」

 ソルトくんのモリクレスが超自律兵器起動でロボット形態になる。

「さぁ、こいつを倒さないとダメージ受けちゃうよー!」
「なによそれくらい」

 フィランがモリクレスの足元目がけてシュートする。通常ならこれでこかせるはずだが……。
 バキィィ!!
 大きくすっ飛ばせたものの、なぜか相手は安定して立ち続けていた。

「え!?なにこの安定性!?」
「人型ロボは高重心で安定性が悪いはずなのに」
「モリクレスは超自律兵器の欠点を解消するために徹底的に低重心にしてるんだ!そう簡単には倒せないよ〜」
「だったらこうだ!!」

 今度は弾介の攻撃。モリクレスは大きくぶっとばされるが、コケる気配は無い。

「だから無駄だってば〜」

 しかし、コケる事はないが、そのまま場外に出て行ってしまった。
 モリクレス撃沈だ。

「えぇ!?」
「重心が低いって事は、こっちの攻撃を受けやすいって事だ!しかも超自律兵器はバリケードが使えない。だったら普通に弾き飛ばせば良いだけ!」
「ケッテンヲオギナッタカワリニベツノジャクテンガウマレタノデスネ」
「やるじゃん。だったらこっちも!スライムブレーキアタック!!」

 スリマは自滅するかのような強さでシュートし、インフェリアスタッブへアタックする。
 しかし、オークスライムはスライム素材の摩擦でビタッと止まり、スタッブだけが場外にすっ飛んでいって撃沈した。

「フィラン!!」
「……回復アイテムケチるんじゃなかったわね。あとは頼んだわよ!」
「分かった!」
「あはははは!君とは一度1vs1で戦ってみたかったんだよね〜!」
「僕もさ!フリッチューバーの大木スリマは元の世界でも有名だったからね」

 ドラグカリバーとオークスライムの一騎打ち。攻撃力で勝るドラグカリバーと攻防のバランスに優れるオークスライムの強さはほぼ互角!
 二人のHPは同じペースで減っていくようなダメージレースとなった。

「あはははは!さすがやるね!!楽しいなぁ!!」
「僕も、フリックスバトルは楽しい……けど、今はお前達魔王軍を絶対に倒す!!」
「ふーん……」

 弾介の言葉に、スリマは小馬鹿にするように笑みを見せた。

「なんだ?」
「ほんとはそんな事、どうでもいい癖に」
「!?」
「フリックスバトルは楽しい、それが魔王軍との戦いでも同じ……むしろ普通のバトルよりもずっと刺激的。討伐なんかせずにずっと続けたい。それが君の本音でしょ?」
「な、なにを!」
「僕も同じだからさ。たまたま魔王軍に召喚されたからそっち側についてるけど。別に魔王軍の目的とかどうでもいいし。もし、王国側に召喚されてたら君と一緒に魔王討伐の旅に出てたかもね」
「えっ」
「君もそうだろ?たまたま王国側に召喚されたから魔王軍と戦ってるけど、もし魔王軍側に召喚されてたら……」

 考えた事がなかったわけではないイフの話。だけど、それはあまりに倫理に欠けているから答えを避けてきた事でもある。
 今、改めて他者から問われた事で弾介は答えを迫られてしまった。

「確かに、僕が戦ってるのは、バトルが楽しいからで……世界を救うとか、人々を守るとか、どうでもよかったんだ」
「やっぱり」

 望んでいた答えを得たのか、スリマは嬉しそうに頷く。

「だけどっ!悪い事をしてまで楽しみたくはない!!」
「え!?」

 “フリックスバトルは愛機とライバルと、ダントツを目指し合うから楽しいんだぜ!自分だけ楽しくても、楽しくねぇよ”

 先日、段田バンに言われた言葉を思い出しながら、弾介は叫ぶ。

「フリックスバトルは、自分や相手、周りの皆も一緒に楽しむから楽しいんだ!!だから僕は、皆と楽しむために魔王軍を倒すんだあああああ!!!」

 決意を込めたシュートを放った。迷いのない想い故にその軌道は真っ直ぐブレがなく、オークスライムの防御力を持ってしても防ぎ切れずにフリップアウトし、撃沈した。

「はぁ、はぁ……!」
「あちゃー、ちょっと揺さぶりすぎたかな。上手くいけば友達になれると思ったのに……ま、いっか」

 あっけらかんとそう言うと、スリマは機体を回収してあっさりと去って行った。

「何はともあれ、あたし達の勝ちね。そろそろ大会も終盤だろうし、回復はケチらない方が良さそうね」
「……うん、そうだね」
「だんすけ、さん……?」

 その時、後ろから声をかけられた。振り向くとそこには、戸惑いの表情をしたシエルが立っていた。

「シ、シエル……!」
「ど、どうして出場しているんですか?あれほど王様に止められたのに」
「そ、それは」

 弾介が口籠るとフィランが割って入った。

「っさいわね!あんたには関係ないでしょ」
「関係あります!大有りです!!それに、どうして盗賊の方と組んでるんですか!?まさか、何か弱みを握られたとか……?」
「はぁ?あんた弾介の保護者か何か??弾介は自分で判断して大会に出場してんの。あたしも利害が一致したから弾介と組んだ。ただそれだけの事よ」
「そんなっ!この大会は……!」
「そんな事より、あんた救護班でしょ。早く仕事に戻った方が良いんじゃないの?」

 フィランがシエルの後ろを顎でしゃくる。
 そこにいたシエルの同僚と思しき女性が遠慮がちに話しかけてきた。

「すみませんシエルさん、急患です。かなりの重症で、急いで治療しなければ」
「……分かりました。すぐに向かいます」
「シエル、訳は優勝してから話すから!」
「……出来れば、優勝しないでもらいたい所です」

 ポソっと言うとシエルは同僚と一緒にその場を離れた。

 弾介とフィランは控え室へ戻り、休憩&機体のメンテをする。
 しばらくすると場内放送が聞こえてきた。

『バッドボーイ&バッドボーイ!バトルは楽しんでもらえてるかな?大会もいよいよクライマックス!一般参加は残り2組となった!!魔王軍チーム強すぎだゼィ!!
と言うわけで、規則に則って魔王軍からの出場者はここで強制リタイアだ!あとは、勝ち残った一般参加者2組で決勝戦といくゼィ!!』

「もう決勝!?ってか、そういうシステムだったんだ」
「そうでもしないと、魔王軍が優勝しちゃって面白くないって事でしょ。機体は完璧に修理出来たから、あとは勝つだけね」
「うん!」

 いよいよ決勝戦。長く苦しい戦いだったが、この一戦で終わる。

(伝説のフリックスを手に入れれば、シエルも王様も分かってくれる。世界の皆にとっても束の間の安全なんかよりも魔王討伐した方が良いに決まってるんだから)

 弾介は自分にそう言い聞かせながら舞台に立ち、対戦相手を見据えた。
 そこにいたのは、顔や腕などに無数の傷が付いている一人男だった。

「あれ、一人?」
「これタッグバトルでしょ、パートナーはどうしたのよ?」
「……ここにいる」

 男は静かに言うと、隣の何もない空間へ手を添えた。
 すると、その空間から薄くぼやけた光のようなものが現れ、細身の女性の姿に変わった。

「っ!?」
「まさか、ゆ、幽霊!?」
「私の名はステン、数ヶ月前の魔王軍の襲撃で妻、レイナを失った……あの悲劇を繰り返さないために、私は未だ成仏できないでいる妻のため、大会に勝って村を守る決意をしたのだ」

 そう語る男の瞳には生気がなく、どちらも幽霊であるかのように感じられた。

「……!」
「誰が相手であろうと、私は必ず勝つ……!!」
「僕だって、ここまで来て負けるわけにはいかないんだ!!」

 3人が機体を構えてシュートする。アクチュアルバトルスタートだ。

「なによ、あの機体」

 ステンの放った機体は、ボディベースに金属のカバーを取り付けただけの簡素なものだった。

「メタルをのせただけの機体!?」
「私の村にはロクな物資も、技術者もいない。だから最低限の材料でボディの強度を確保し、重量を上げた簡素な機体しか用意が出来ない。だからこそ、私はこの機体で技を極めて、極めて、ここまで来たのだ!!!」
「あんなシンプルな機体じゃ、愛機として絆を深めるのも難しいのに」
「機体との絆とかじゃなく、執念で強くなったって感じね」

 愛機となるための絆は、自分の想いを形にして作り上げたマシンと共に戦い育て、魂とシンクロさせる事で生まれる。
 それ故に、妥協に妥協を重ねた即興機体、ましてや簡素な長方体形状ではアイデンティティが薄いためにそれが難しい。
 しかし、絆抜きに自分自身の執念のみで強くなるフリッカーもいるのだ。

「あんな機体でも、ここまで勝ち抜いてきたって事はかなりの実力者ね」
「うん、油断は禁物だ」
「まずはあたしから小手調べするわ」

 バシュッ、ガキン!
 インフェリアスタッブの攻撃はあっさりと弾かれてしまった。

「見た目よりも防御が硬い!?」
「重量を底上げするために内部に詰めたメタルボールがダンパーとなるのだ!」
「それでも、長方体はフリックスで1番防御力が低い形状なんだ!ドラグカリバーの攻撃力なら……!」

 バキィィ!!
 さすがにドラグカリバーの攻撃には耐えきれずにぶっ飛ぶ。

「ぬおおおおおおお!!!!」

 しかし、ステンは凄まじい気合でバリケードを構え、場外寸前で防ぎ切った。

「な、に……!」
「さすが、凄い気迫ね……!」
「今度はこちらの番だ」

 ドンッ!
 ステンの攻撃。凄まじいシュートだが、それでも機体性能差があるため、簡単に耐え切った。

「今度こそ、ぶっ飛ばしてやる!ドラグリーチスティンガー!!」

 反撃にと弾介は必殺技を放つ。これには流石に耐えきれずに、ステンの機体はバリケードを突き破りながら場外する。
 残りHPは半分を切った。

「ぐっ!」
「どうだ!これがドラグカリバーの力だ!!」
「まだまだ行くわよ!」

 いつの間にやらマインをセットしていたフィランがシュートし、復帰したばかりのステンの機体へマインヒットを決めた。

「よし、追い詰めたぞ!」
「まだ、だ……フリップスペル、シャイニングキュア!!!」

 パァァァ……!
 スペルの効果でHPが回復していく。

「シャイニングキュアを持ってたか!でも、回復量は大した事ないはず、畳み掛ければ……なにぃ!?」

 シャイニングキュアによる回復量はさほど多くないはず。にも関わらずステンの機体はどんどん回復していく。

「ぬ、ぬおおおおおお!!!!」

 よく見ると、ステンの後ろに妻レイナの霊が覆い被さり、力を与えている。

「これは、命を削ってスペルの効果を高めてる……!」
「でも、そんな事したら長く持たないんじゃ!?」
「あの妻の亡霊が精神エネルギーを補助してるのね……!」
「えぇ!?でも、アクチュアルモード中のフリッカーは幽霊みたいなもんだから他から干渉できないって……あっ!」
「幽霊なら干渉できる。しかも愛する妻の霊となれば、守護霊みたいなものなんでしょうね」

 そして、シャイニングキュアでHPを回復したステンはさらに宣言した。

「フリップスペル、ライトニングラッシュ!!」
「いぃ!?スペルの重ねがけ!?」
「いくらなんでもめちゃくちゃよ!」
「ぬおあおおおお!!!!!」

 ライトニングラッシュの効果でドンドン連続攻撃を仕掛けてくる。しかも自分の命を惜しみなく削る事で効果時間も伸びている。

「はぁ、はぁ……妻の無念は、必ず……!!」

 守護霊に寄り添われているはずのステンだが、その力を惜しみなく機体へと注ぎ込んでいるためどんどんやつれていく。これではまるで疫病神に取り憑かれているのと同じだ。

「くっ、守護霊による補助と命を惜しまない戦い方……これがあの人の強さだったのか……!」
「惜しまないというより、いっそ心中を望んでるって感じね」
「こんな戦い方、続けさせるわけにはいかない!僕もいくぞ!ライトニングラッシュ!!」

 弾介も負けじとライトニングラッシュで応戦する。
 条件が同じならドラグカリバーの方が能力は上だ。徐々に相手を制圧していく。しかし、普通にスペルを使っているだけの弾介はすぐにスペルの効果が切れてしまう。
 停止するドラグカリバーに対して、ステンの機体はまだラッシュで動ける!

「ぐっ!」
「はぁ、はぁ……これで、とど……め……!」

 しかし、さすがに限界が来たのかステンの身体から力がフッと抜けて、そのまま倒れ込んでしまった。

『おおっと!決勝戦にしてはなんとも呆気ない幕切れだが、ステン&レイナタッグ戦闘不能!これにて、弾介&フィランタッグの優勝だぜぃ!!』

「なんとか勝てた、けど……」
「寝覚めは良くないわね。ま、今に始まった事じゃないけど」

 そして、表彰式が始まり、弾介とフィランがステージに上がる。

『そんじゃ、表彰式を始めるゼィ!栄えある優勝者は、弾介&フィランだ!!!』

 司会者の派手なマイクパフォーマンスに反して、会場はシーンとしている。
 優勝者へ向けられる視線は嫉妬と憎しみだった。

『では、魔王様から優勝特典の授与だ!!』

 ブゥン……!とステージにフリップ魔王のホログラムが現れる。

『弾介、フィラン、優勝おめでとう。良い戦いだった、楽しませてもらったぞ』

(別にお前を楽しませるために戦ったわけじゃないやい)

『では、特典を与えよう。二人のうちどちらかの出身地を、次の大会まで襲わないと言う契約を結んでやる。どこだ?』

「あ、いやそれなんだけど……」
「いらないわ、それ。あたし達特に出身地とか無いし」

 二人の言葉に会場がざわめく。

「え、なんだよ要らないって」
「何のための大会だと思ってんだ!」
「オレ達は、このために命を賭けたってのに!!」

 

『そうか。ならばそれもいいだろう。では、次の大会までこの世界全てを襲う事を約束しよう。今回の大会で得たデータによって、我々はさらなる戦力を手に入れたのでな。せめてもの礼だ』
「へ!?いや、それはおかしくない!?」

 フリップ魔王の言葉に会場は更にヒートアップする。

「ふざけんなよ!てめぇら!!」
「じゃあお前らは何のためにこの大会に出たんだ!!」
「あれ、あいつって確か魔王を倒すための伝説のフリッカーとして召喚された奴じゃなかったか?」
「って事は、世界の救世主がオレ達の望みを奪ったってことかよ!」

 ブーイングが湧き上がり、ヘイトが集中する。弾介は慌てて取り繕おうとした。

「あわわ!いや、その違うんです!これは、魔王討伐のために必要で!皆さんのためにも……!」

 弾介が言い終わる前にステージのモニターにある映像が映し出された。
 それは、弾介とスリマの試合の様子だ。

『君もそうだろ?たまたま王国側に召喚されたから魔王軍と戦ってるけど、もし魔王軍側に召喚されてたら……』
『確かに、僕が戦ってるのは、バトルが楽しいからで……世界を救うとか、人々を守るとか、どうでもよかったんだ』
『やっぱり』

 映像は最悪の場面だけ切り取って、そこで終わった。

「うわわわ!なんであの時の映像が!?」

 当然、会場は怒りに包まれる。

「なんだよ、それ!どういう事だ!!」
「世界の救世主様が、楽しむために俺達を苦しめるのかよ!!」

「いや、確かに言ったけど!でも、あれ編集に悪意あるよ!?ちゃんと続きあるから!!!」

「うるせぇ!反逆者!!」
「お前も魔王軍と同罪だ!!」

「えええええ!!!ま、まま、待って!そうだ、キングスカリバー!!
優勝賞品のアレ、早く頂戴!!」

 弾介は司会者を催促してキングスカリバーを手にした。

「これ!これ!これが必要だったんだ!!」

 弾介は必死に手に持ったキングスカリバーをアピールするが……。

「なんだよ、今度はそれでオレ達の村を襲おうってのか!?」
「反逆者が考えそうな事だぜ」

「ちがううううう!!!!これは、伝説の……!」

 ザッザッザッ、と弾介の前に王国の親衛軍とシエルが現れた。

「あ、シエル!これ!これだよ!僕が参加した理由!これ、伝説のフリックスかもしれなくて……!」
「残念ですが……」

 シエルは俯きがちに首を振り、伝説の力測定器を見せた。そこには何の反応も示されなかった。

「そ、な……」

 弾介がショックを受けていると、今度は以前会った事のある親衛軍の男が口を開いた。

「弾介さん、私は親衛軍の隊長としてあなたを信頼し、尊敬していました。私自身の悲願でもある魔王討伐の力を持つ者として、羨んだ事もあります。それなのに、私欲で民の希望を奪う真似をしてしまうなんて……」
「隊長さんまで……!」

 弾介は、今更ながら自分の軽率な行動を悔やんだ。その時だった。

「ああもう、さっきからうだうだとうるさいわねぇ!!」

 フィランが我慢の限界とばかりに声を張り上げた。

「大体何よ!ほんの僅かな期間襲われずに済むなんてショッボイ特典が手に入らなかったくらいで!そもそも、魔王軍が怖いのも、大会で優勝出来なかったのも、全部あんた達が弱いせいじゃない!!自分の弱さを棚に上げて弾介にばっかり責任転嫁するなんて筋違いもいいとこだわ!」

「なんだぁてめぇ!知ったような口聞きやがって!!」
「言っとくがな!お前だって同罪なんだからな!」

「ふん、同罪だから何だって言うの?あたしは女盗賊フィランよ。罪なんて今まで数えきれないくらい犯してるんだから、これくらいどうって事ないわ」

「なにぃ!?」
「女盗賊だとォォ!!」

「そ、このキングスカリバーが金になりそうだと思ってね、バカな弾介を騙して参加したのよ」
「へ?」

 いや、別に騙されたわけじゃ…と言おうとしてフィランは素早く弾介に耳打ちする。

(とりあえず、あんたは大人しく親衛軍に捕まっときなさい。知り合いなら悪いようにはされないでしょ)
「え、あ、へ?」
(必ず脱出しなさいよ、約束通りそれはあたしのものなんだからね)

 状況が理解出来ないまま、弾介はフィランに背中を押され、親衛軍の方へヨロヨロと歩み寄る。

「……」

 呆然としながらも手を出すと、ゆっくりと手錠にかけられた。

「さぁ、フィラン!君も来るんだ!!」
「ふん、あんた達みたいな間抜けに捕まるわけないでしょ!」

 フィランは懐からエスケープジュエルを取り出して目眩しをする。
 会場に眩い光が覆われたかと思ったら、フィランの姿が消えていた。

「あ、あいつ消えやがった!」
「追うぞ!まだ近くにいるはずだ!!」

 群衆のヘイトは完全にフィランに移っており、消えたフィランを求めて蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 そして、王宮。親衛軍に捕まった弾介は国王であるジンの前に連れて行かれた。

「この、大馬鹿野郎が!!!!!」
「っ!」

 ジンの怒号が響き、弾介は肩を竦めた。

「あれほど言っただろうが!あの大会には出るなと!!魔王討伐の救世主が、国民の希望を奪ってどうする!!!」
「す、すみません、でも、キングスカリバーにドラグカリバーが反応したから……!」
「言い訳は無用だ!!……一先ず、ドラグカリバーとキングスカリバーは預かっておく。そこのお前、弾介の手錠を外してやれ、妙な真似をされたら躊躇わずに斬っても構わん」
「はっ!」

 ジンに命令された隊員は、弾介の手錠を外す。
 キングスカリバーは既にジンが持っているものの、ドラグカリバーは弾介のキャリージュエルの中にある。
 キャリージュエルの中に仕舞われている物を取り出すのは本人しか出来ないのだ。

「……」

 弾介は渋々とドラグカリバーを取り出した。
 ジンは弾介に近づくとドラグカリバーを受け取った。と、同時に弾介の手に何かを持たせた。

「他に何か余計なものを持ってないよな?」

 そう言って、弾介の身体をチェックするため、顔を近づける。

「?」
(弾介、俺はお前の判断を信じる。だが、立場上これ以上は庇ってやれねぇ。分かってくれ)

 ジンは弾介にだけ聞こえるように言うと、弾介から離れてチラッと目配せした。
 ジンの視線の先には、先日レイズの襲撃で破壊され、まだ修復の終わっていないボロい壁があった。
 そして、弾介は手の中にある物体が何なのかに気付いた。

(そうかっ!)

 弾介は咄嗟に手に持たされたものを地面に叩きつけた。

 ボワァァン!!
 それは先程フィランも使っていたエスケープジュエルだった。
 強烈な目眩しに王室内の人間が目を覆う。
 弾介はその隙にジンの手からドラグカリバーとキングスカリバーを奪い取って、ドラグカリバーを脆くなった壁にシュートした。

 ドガァァァ!!
 壁はあっさりと崩れ、弾介はそこに出来た穴を通って王宮を脱出した。

「ぐ、まさかエスケープジュエルを隠し持っていたとは……!」
「王様、すぐに追いましょう!まだ近くにいるはずです!!」
「いや、闇雲に追ってもしょうがない。親衛軍は引き続き王宮の警備を頼む。弾介を追うのは、シエル、お前に任せた」
「わ、私ですか……?」
「あぁ、お前が1番弾介の行動に詳しいだろう。早急に反逆者を追うんだ。そして、この世界へ害を成すものを討伐してきてくれ」
「……分かりました」

 シエルは重々しく頷いた。

 一方の弾介は、王国から逃げ、荒野を当てもなく走り続けていた。

「はぁ、はぁ……!」

 数時間走り続けたのち、さすがに疲れたのかへたり込んだ。

「ふぅ……なんとか逃げきれた……ここまでくれば平気なはず。でも、これからどうしよう。王国へは戻れないし、シエルもいない。一人でどこに行けば……」

 弾介はションボリしながらトボトボと歩く。
 そろそろ日が暮れそうだ。宿も無いのに、一人きりで夜を過ごすのは心細すぎる……。

「お腹空いた……」
「何しょぼくれた顔してんの、情けないわねぇ」

 俯きながら歩いていた弾介の前に、フィランが現れた。

「フィ、フィラン!どうして……!」
「ふふん、女盗賊の情報網を舐めないことね。それに、あんたにはまだ用があるんだから。そのキングスカリバーが伝説のフリックスじゃないと分かった以上、所有権は私の物よ」
「う、うん、それは、そうだけど……」

 弾介は渋々とキングスカリバーをフィランへ渡した。

「ま、でもあんたの協力あってのものだし、ちょっとはお礼しないとね。行くとこないんだったら、一人で生きていけるまであたしがしばらく付き合ってあげるわよ。魔王討伐はごめんだけど」
「え、ほんと?」
「と言っても、盗みの仕方くらいしか教えられないけど。それより暗くなってきたわね。今日はここで野宿かな」
「おなかすいた……」
「はいはい、そう言うと思っていろいろくすねて来たから……」

 シュッ、バーーーン!!
 その時、二人の近くに黒い機体が放たれ、地面に激突して土煙を上げた。
 その機体は……!

「シェル、ガーディアン!?」
「弾介さん、もう逃げられませんよ」

 シエルが冷たい瞳で弾介を見据える。

「あんた、マジなの……?」
「マジです。王の命令です。反逆者を追い、世界へ害を成すものを倒せと」
「シエル、そんな……!」

 弾介の前に立ちはだかったシエル。このまま、二人は戦うことになるのか!?

   つづく

 

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CM

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