弾突バトル!フリックス・アレイ ゼノ 第11話「ダントツであるために!段田バン召喚」

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第11話「ダントツであるために!段田バン召喚」

 

 弾介VSレイズの試合が終わり、その翌日の午後。

「いっけぇ!インフェリアスタッブゼノ!!!」

 弾介は王宮のトレーニングルームで汗水流しながら猛特訓していた。ちなみにドラグカリバーは修理中のため、代わりに量産機を使っている。
 空気の粘度を高める特殊魔法により身体への負荷を通常の数倍にし、ランダムに現れるターゲットメカの攻撃を防ぎながら次々にフリップアウトしていく。

「まだまだあああ!!!」

 息は乱れ、滝のように汗は流れて、身体中に乳酸が溜まり痙攣してるにもかかわらず弾介は動きを止めない。

「僕のせいでドラグカリバーは負けたんだ……!もっと、もっと強くなるんだ!!」

 弾介は歯を食いしばって気合を込めてターゲットに向かってシュートを放った。

 一方。
 シエルは国王であるジンに呼び出されて王座の間にいた。

「おう、来たかシエル。……って、弾介はどうした?」

 ジンはシエルだけでなく弾介も一緒に呼び出したらしいのだが、この場に弾介がいない事に疑問を抱いた。

「それが、その……まだトレーニングを続けると言って聞かないんです」

「なにぃ!?まさか、あれから不眠不休のぶっ続けか!?」
「レイズとの試合、よほど堪えたんだと思います。あんな弾介さんを見るのは初めてで、私もどう接して良いのか……」
「まぁ、あいつにもプライドってもんがあるだろうしな。こうなっちまった男は梃子でも動かねぇだろうな」

 同じ男として何か感じるものがあるのだろう、ジンはなんとなく納得した風だった。

「しかし、ジン。あの件は弾介にも伝えないと」

 隣にいる妃のアリサが言うと、ジンは軽く首を振った。

「いや、そこまで急ぎでもない。後でシエルから伝えてもらえばいい」
「それは構いませんが、話とは一体なんでしょうか?」

 シエルが尋ねると、ジンは姿勢を正して言葉を続けた。

「レイズの事だ。どうも引っかかる事があって素性を調べてみたんだが、面白い事が判明した」
「面白い事、ですか?」
「ああ、シエルはブレイと言う男の名に聞き覚えはないか?」
「ブレイ……ですか?」

 シエルの反応は乏しい。

「まぁ、あの頃はシエルも小さかったからな、無理もない。だが、この呼び名には聞き覚えがあるだろう『孤高の英雄』」
「っ!まさか、10年前にたった1人で魔王を封印したと言う……!」
「そうだ。我が軍が総力を結集しても歯が立たなかった魔王を、たった1人で封印する事に成功した一般のフリッカー。レイズはその息子だ」
「息子……!どうしてそれが分かったんですか?」
「あの当時は魔王軍との戦いや世界の復興で混乱してたからロクな記録も残ってないんだが……唯一、このデータを発掘できたのさ」

 そう言って、ジンは丸い水晶を取り出しそこに映像を出す。映っていたのはウイングジャターユとよく似た機体だった。

「これがブレイの使っていた機体『ウイングガルーダ』だ」
「これは、ウイングジャターユとそっくりですね……!」
「あぁ、あのフォルムに戦い方、どこかで見た事あると思ってあの後イブに調べてもらったら案の定だ。で、そこから身元を洗ってみたんだが、ブレイには男女2人の子供がいたらしい。その1人が、レイズだ」
「孤高の英雄の息子が伝説のフリックスを……そう考えれば不思議ではありませんね。しかし、だとしても彼がドラグカリバーを狙う理由にはならないと思うのですが」
「あぁ、それがな……その後のブレイについて調べてみたんだが、どこにも情報が無いんだ」
「え?」
「普通なら、生きてるにしても死んでるにしても行方不明にしても、データを漁れば何かしらの情報が出てくるはずだ。だが、現在のブレイについての情報は一切出てこない。まるである地点から存在そのものが抹消されたようにな。分かるのはウイングガルーダのデータとそこから探れる過去の記録のみ」
「そんな事が、あるんでしょうか……?」
「シエル、こいつは想像以上に根の深い問題かもしれねぇぞ……」
「……」

 シエルは神妙な顔で頷いた。

 そして話も終わり、シエルは弾介のいるトレーニングルームへと足を運んだ。
 トレーニングルームはモワッとした熱気と粘性と抵抗の増した空気で充満していて息苦しい。その中で弾介はあいも変わらず激しいトレーニングを続けていた。

「だ、弾介さん!?空間抵抗値さっきよりも上げたんですか!?」
「あ、シエル……!うん、ちょっと物足りなくなってきたから……!」

 シエルが来た事に気付いて弾介は体を休めずに受け答えした。

「言ったじゃないですか!さっきのが限界だって!これ以上は危険です!!」
「ごめん、でも……!」
「でもじゃないです!一旦休んでください!!」

 シエルは強引に部屋の隅にある装置に手をかざした。
 プシュゥゥ……と言う気の抜けた音と共に体が楽になる。

「うぉ……っと…!」

 いきなり抵抗がなくなったもんだから、弾介はバランスを崩して尻餅をついた。

「いてて……せめてもう少しタイミング考えて欲しかった」
「す、すみません……って、弾介さんが悪いんですよ!言いつけを守らないから!」
「……ごめん。次から気をつけるよ」
「分かってもらえればいいです。それより先程王様から連絡を受けた件なのですが……」

 シエルが弾介へレイズの事を伝えようとした時、部屋の端にあるボックス状の機械から電子音が鳴り響いた。

「あっ!」

 それを聞いた直後弾介の顔が綻ぶ。そして、機械の蓋が開き中から白煙と共に新品同様の輝きを放つドラグカリバーか現れた。

「ドラグカリバーやっと直った!凄いなぁ!さすが王宮の設備だ!こんな修復機まであるなんて」

 修復されたばかりのドラグカリバーを手に取ってはしゃぐ弾介。そして、シエルへドラグカリバーを突き出してこう言い放った。

「シエル!早速シェルガーディアンと実戦トレーニングだ!!」
「えぇ!いきなりですか!?って言うか私の話聞いてくださいよ!!」
「だって、バトルしてくれるって約束したじゃん!こっちの方が先約だよ!!」

 目をギラギラを光らせながら迫る弾介に、シエルは折れた。

「うぅ、分かりました……ですが、一戦だけですよ」
「やったぁ!」

 2人は少し離れて機体を構えた。

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

 スケールアップするための同時シュート。
 バーーーン!!
 空中で二機のフリックスが激突し、衝撃波が巻き起こる。

「うわあああ!!」

 弾介はそれに耐えきれず、吹っ飛ばされて倒れてしまった。フリッカーの集中力が切れた事でドラグカリバーのスケールアップも解除されて元に戻った。

「弾介さん!大丈夫ですか!?」

 シエルはシェルガーディアンのスケールアップを解除させて慌てて弾介の所へ駆け寄って介抱した。

「だ、大丈夫……ごめん、ちょっとフラついただけ。仕切り直そう」
「やっぱりもう限界ですよ、少し休んでからにしましょう」
「大丈夫だよ、このくらい……!まだまだやれる、やらなくちゃ……!」
「いい加減にしてください!!」

 意固地な弾介へ、シエルはついに声を荒げた。

「レイズに負けて悔しい気持ちも分かります。ですが、こんな無茶をしては逆効果ですよ……」
「……ちがうんだ」
「え?」
「確かに、負けた時は悔しかった……でも、今は違うんだ……」
「違うって、何がですか……?」

 弾介は、口元が緩みそうになるのを必死で抑えながら震える声で呟いた。

「……楽しいんだ」
「たの、しい?」

 思わぬ返答にシエルは言葉を失った。

「レイズに負けた事やレイズに勝つために特訓してる事が、全部ひっくるめて、楽しいんだ!!こんなの、おかしいって思う!!これ以上続けたら危ない事だって分かってる!
でも、でも、楽しくて仕方ないから、止められないんだ!!」

 自然と、弾介の表情が笑顔になる。だけどそれは、止めたくても止められない悲痛な笑顔だった。

「弾介、さん……!」

 シエルは弾介の胸にそっと手を当てて呪文を唱えた。

「失礼します……スリープ」

 ポォ……とシエルの手から仄かな光が発せられ、弾介の全身が暖かくなり気が抜けたようにシエルの腕の中で眠りについた。

「本当は魔法で強制的に眠らせるのは健康に良くないんですが、やむを得ませんね」

 そして、弾介は使用人によって部屋へ運ばれて長く深い眠りにつくのだった。

 ……その夜。
 シエルは1人城下町から離れた荒野に立ち、地面に描かれた魔法陣の中央に立っていた。

「弾介さんはこの世界を救うための要……弾介さんのために、私が出来る事をしなければ……!」

 パアアァ……と描かれた線が夜の闇を切り裂くように輝き出した。

「今、弾介さんが必要とする物を我が下へ送りたまえ!サモン!!」

 カッ!と魔法陣から光の柱が天へと伸び、上空に空間の歪んだ穴が出来る。
 そして、そこから物質がゆっくりと降りてきた。どうやら召喚魔法は無事成功のようだ。

「う、う、うわああああ!!!なんじゃこりゃああああああ!!!!!」

 ……ただし、召喚されたものは予想を大きく外したものであったが。

「え、え、えええええ!!!なんでまた男の子が降ってきたのおおおお!?」

 シエルに召喚されたせいで上空から落とされた少年は、落下の衝撃でそのまま気絶してしまった……。

 そして翌日……。

「……んで、なんでこんな事になってるの?」

 弾介の借りている部屋のベッドに召喚された少年を寝かせ、弾介はシエルに事の顛末を問うていた。

「それが、その、弾介さんが辛そうだったので、召喚魔法で弾介さんにとってタメになるものを取り寄せようと思ったんですが……」
「なんでそれで小学生男児が召喚されるんだよ!!!」
「ひいぃぃ、すみませぇ〜ん!!!」
「まぁ、責任は僕にもあるけど……それにしてもこの少年、どこかで見た事あるような……」

 黒髪ツンツンヘアーにトリコロールな服装……まるでどこかのキッズ向けアニメの主人公のような風貌をしている少年を弾介はマジマジと眺めた。

「んん……」

 少年がゆっくりと目を開けた。見慣れない光景に状況を把握できていないのか、目が泳いでいる。

「あ、起きた」
「あの、すみません、大丈夫ですか……?」
「ああ……あれ?俺なんでこんなとこにいんだ?確か、リサ達とバトルしてたはずなんだけど」
「話せば長くなるんだけど。ここは異世界で、君は召喚されちゃったんだ……僕も前に君と同じように召喚されちゃって」
「しょ、召喚!?」
「すみません、私の手違いで……」
「冗談じゃないぜ!リサとのバトルがあるのに!!それに早く帰らないと父ちゃんに怒られる!!!」
「本当にすみません……!元の世界に戻すため全力を尽くしますので!!」
「マジかよ〜!今日観たいテレビもあったのに〜〜!!!」

 少年は子供らしく駄々を捏ねた。これが自然の反応だ。しかし、すぐにグーーー!!とけたたましい音が鳴り、少年は静かになる。

「腹減った……」
「あ、あの、お食事の準備は出来てますが、食べます?」
「食う!!!」
「そう言えば僕もお腹空いたなぁ……」

 そして、3人は食堂に行きビュッフェ形式の食事を楽しんだ。

「「ガツガツガツガツ!!!」」

 弾介と少年は机いっぱいに料理を並べてガッついている。

(なんだか、2人似てますね)

「うめー!異世界の飯うめー!父ちゃんの味噌汁ぶっかけご飯の次にうめーー!!!!」

 王宮の食事と味噌汁ぶっかけご飯を比べるな。
 とりあえずたらふく食べてお腹も膨れた2人は一息ついてお茶をすすった。

「はぁ〜美味かった……俺ずっとここにいてもいいや〜」
「喜んでいただけてよかったです。申し遅れましたが、私はシエルと言います」
「僕は弾介。君は?」
「俺?俺はダントツ一番のフリッカー!段田バンだぜ!!」

 バンは得意げな顔で自己紹介する。

「……なんだか、弾介さんみたいな事言いますね。って、どうしたんです?」

 弾介はバンの自己紹介を聞いて目を見開いた。

「あ、ががが……ば、バンさん!?なんで!?!?」
「だ、弾介さん、知ってる方ですか?
「知ってるも何も!世界チャンピオンだよ!!ほら、シエルに召喚される直前まで僕が戦ってた人!!!」
「え?確かに俺はダントツだけど、世界チャンピオンなんかじゃないぜ?」
「いや、でも、あれ、確かに面影あるけども!だけど、バンさんって高校生のはずじゃ、なんで若返ってんですか!?」
「何言ってんだよ。俺は昔も今も、小学四年だぜ!……って、昔は違うけどさ」
「シエル!これ、どういう事!?」

 突然話を振られて、シエルも困惑するがどうにか頭をフル回転させて回答した。

「うぅ〜ん、私もよく分かりませんが……その、弾介さんの知ってるバンさんとは、また別の時空のバンさんを呼び出してしまったのかもしれませんね……」
「別の時空……そういうのもあるのか」
「なぁなぁ!お前らばっかで訳わかんねぇ話してねぇでさ!俺にも教えてくれよ!この世界はなんなんだよ!なんで俺は召喚されたんだよ!!」
「あ、すみません……では、少し長くなりますがお話ししますね」

 シエルはバンにこの世界観の事を説明した。
 フリップワールドという異世界について、魔王によって滅亡の危機に晒されている件について。
 魔王に立ち向かうためには伝説の四つのフリックスが必要で、その一つを持っていた弾介が召喚された事。
 他の伝説の機体を使うレイズとの戦いに敗れた弾介のために使った召喚魔法のせいで何故かバンが呼びだされた事……。

「……と、いうわけなんです。分かりました?」
「?????おう!バッチリ??分かったぜ???」
「全然分かってる顔じゃないんですが」
「とりあえず、強いフリックスがこの世界に四つあって、それと戦うために俺が召喚されたって事だろ?」
「違いますぅ〜……」

 さっぱり理解しないバンにシエルは肩を落とす。しかし、弾介は納得したように肯いた。

「あながち、間違ってないのかも」
「え?」
「シエルは僕に必要なものを召喚してくれた。それがバンさんだって言うなら、きっと正解なのかもしれない」
「なぁ、そのバンさんっての気持ち悪いぜ。弾介の方が年上じゃねぇか」
「え、あ、でもバンさんはバンさんですし……」
「まぁ、別にいいか!んな事より弾介!腹ごなしにバトルしようぜ!!伝説のフリックスってのと戦ってみたいし、アクチュアルバトルもやってみたい!!」
「はい!僕もそう思ってました!!今度こそあの時の決着をつけましょう!!!」
「だから、戦った事ないっての」

 そして、3人はトレーニングルームへ向かった。
 アクチュアルバトルのフレンドバトルモードにし、弾介とバンが対峙する。

「それでは、行きますよ!バンさん!!」
「おう!確か、こうやって手をかざせば良いんだったよな」

 弾介とバンがスケールアップのための魔法陣を目の前に出す。

「うぉ、すげぇ!ほんとになんか出た!しかもヴィクターが勝手に浮き上がったぞ!!」
「あとは浮き上がった機体をシュートして魔法陣を通過させればバトル開始です!!」
「おっしゃあ!!」

「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

「ダントツで決めろ!ドラグカリバー !!」
「いっけぇ!ドライブヴィクター!!」

 同時に二機のフリックスがシュート!!
 魔法陣を通過して大きくなったところでフィールド中央で激突し、弾かれる。ドライブヴィクターの方が若干押し込んだ。

「くっ、小学生でもさすがバンさん!すごいパワーだ……!」
「どうだ!……って、別に遠くまでシュートしても先手ってわけじゃないんだよな、確か」
「はい!ウェイトカウントが経過するまでシュートはできません!」
「逆にいえば経過しちまえば相手のシュート待たなくても良いってわけか!」
「さすが、飲み込みが早い……けど、まずは僕からです!フィールドジェネレート!」

トレーニングルームに弾介が有利になるようなフィールド結界が出現する。

「な、なんだぁ!?」
「この結界がフィールドです!アクチュアルバトルは早い者勝ちで自分の有利になるフィールドを作り出せるんです」
「なるほどなぁ。わざわざフィールド用意しなくていいのは便利だぜ。でも、俺のターンが来たぜ!」

 弾介がフィールドを作ったため、先にバンがシュートする。

「うりゃ!」

 まずは小手調の軽いシュートだったが、弾介はバリケードで難なく耐えた。

「げっ、俺のシュートを耐えた!?」
「自分が作ったフィールド内だとバリケードが強化されるんです!」
「なるほど、そういう意味でも先にフィールドジェネレートした方が有利なのか」
「フィールドは相手と被るように生成する事は出来ませんが、一定時間経つかフィールド生成者を撃破する事で消滅します」

 シエルが付け加えて説明している間に弾介のフェイズだ。

「それじゃ、行きますよ!ドラグカリバー!!」
「耐えろ!ヴィクター!!!」

 ガッ!
 ドラグカリバーの攻撃を受けるも、フィールドの縁で構えられたバリケードによってドライブヴィクターは場外は免れた。しかし、距離を飛ばされたことによるダメージは受ける。

「よし耐えたぜ!……ってそうだ!フリップアウトに耐えても長い距離飛ばされたらダメージ受けるんだった!!」
「そこがアクチュアルバトルの奥深さです!」
「さすがにアクチュアルバトルに慣れてる弾介さんが有利ですね」
「へんっ、それがどうしたってんだ!アクチュアルでもアクティブでも、フリックスバトルに変わりねぇ!!ブッ飛ばすだけだぜ!!!」

 バンのフェイズとなり、バンは腕を引いて必殺の構えを取った。

「っ!この構えは……!」
「うおおおおお!!ブースターインパクトオオオオ!!!!」

 バンの必殺技炸裂!腕を突き出しながらのシュートによってドライブヴィクターは凄まじい勢いでドラグカリバーの横っ腹に激突!
 ドラグカリバーはその攻撃を受けてゴロゴロと転がりながら場外へと向かっていく!

「くっ!フィールド端から反対の端へ飛ばせるなんて!バリケードだ!!」

 弾介は急いでフィールド縁でバリケードを構える。
 ガッ!
 バリケードでどうにかドラグカリバーを受け止めて耐え切ったと思いきや、転がっていたドラグカリバーは、その回転でバリケードを乗り越えてフリップアウトしてしまった。
 フリップアウトに加えてかなりの距離を飛ばされた事によるダメージの加算で、弾介のHPはたった一度の攻撃で半分以上も削られてしまった。

「へっへーん!どうだ!!やっぱり俺が、ダントツ一番!!」

 得意気になるバンとは対照的に、弾介はスーっと静かになった。

(バンさん、さすがだ……こんなシュート、バンさん以外に受けた事ない……!)
「ん、どうしたんだ?急に黙りやがって」

 ド、クンッ……!
 弾介の胸の鼓動が、大きく高鳴った。

「ふ、はは……!」
「へ?」
「は、は、はははは!!!あーはっはっはっはっ!!は、はぁ、はぁ、はぁぁぁぁ!!!!!」
「っ!?」
「弾介さん!?」
「うわああああおおおおあお!!!!!!」

 急に、弾介は凄まじい形相でバンを睨みつけ、高らかに笑いながらドラグカリバーをシュートした。その威力は先ほどの数倍とも思えるほどだ。
 ドーーーーン!!!!
 ドラグカリバーの剣先がドライブヴィクターにヒット。爆発的な衝撃を受けてヴィクターが場外に向かって吹っ飛ぶ。

「耐えろヴィクター!!!」

 咄嗟にバリケードを構えるバンだが、バリケードを破壊されてしまいドライブヴィクターはフリップアウトした。

「いぃ!?」

 そして、ヴィクターが復帰するまでに素早くウェイトカウントを消費し、再び弾介のフェイズになる。

「フリップスペル……ライトニングラッシュ!!!」

 シュン!!
 連続シュートが出来るスペルを使用し、ドライブヴィクターへ連続攻撃を仕掛ける。
 ガンッ!ガンッ!バキィィ!!
 四方八方から弱攻撃を仕掛け、細かく嬲るようにダメージを与えていく。

「ぐっ!」
「バンさんとのバトル……!楽しい、楽しい……!!簡単には終わらせない!楽しい……!!」
「ライトニングラッシュの制限時間は過ぎてるはずなのに、精神力を削って無理矢理ラッシュを続けるなんて……!」

 ピシィ……!
 弾介の無茶な連続攻撃に、ドラグカリバーのボディが軋む。

「フリップスペル……!」
「だ、弾介さん……!それ以上は危険です!スペルの効果を無理矢理持続させたら精神が持ちません!!」
「いけっ、いけええええ!!!」

 シエルの声は届かず、弾介はひたすらに攻撃に没頭する。

「仕方ありません。バトルは中断です!シェルガーディアン!!」
「邪魔すんな!!」

 シエルがシェルガーディアンを取り出して弾介を止めようとした所をバンが制した。

「え?」
「バトルはこっからだぜ……!」

 バンがそういうのと同時に弾介が生成したフィールドが消えた。

「フィールドがこんなに早く消えるなんて……無理にライトニングラッシュを続けてるせいでフィールドの持続時間が減少した……?」
「確か、一定時間経ったらフィールドが消えるんだったよな。だったら俺も、フィールドジェネレートだ!」

 弾介のフィールドが消えた所でバンがフィールドジェネレートして上書きした。

「ここならそんな攻撃屁でもないぜ!」

 尚も続く弾介の猛攻に、バンは自身のフィールド内で強化されたバリケードを使ってこれを捌く。

「へへっ、面白くなってきたぜ……あっちがその気なら、こっちにだって奥の手があるんだ!そろそろ準備出来たぜ……!」
「うおおおおおお!!!!」

 どんどん激しさを増すドラグカリバーの攻撃の中、バンが高らかに宣言した。

「フリップスペル発動!サンダーラッシュ!!」

 サンダーラッシュ……スペル使用を宣言してから再びウェイトカウントが経過したのちに発動。二回連続でシュートできる。

「いっけぇ!ドライブヴィクター!!」

 バシュウウウウ!!ガッ!!!
 まず一発目のシュートでドライブヴィクターはドラグカリバーの猛攻を止めた。細かな連続攻撃に対して、しっかりと力を込めた一撃は重みが違う。

「っ!」
「これでトドメだ!!スピニングブースター!!!」

 サイドカウルを密着させた状態で強烈なスピンシュート。ドラグカリバーを投げるような形でその場で猛回転し、場外へと吹っ飛ばした。
 これでドラグカリバー撃沈。バンの勝利だ。

「おっしゃあああ!!アクチュアルバトルでも俺が、ダントツ一番!!」
「……負けた……さ、さすがですね、バンさん……」

 弾介は撃沈された事によって冷静に戻り、ドラグカリバーを拾って意気消沈した。

「どうしたんだよ?」
「いえ……すみません、僕、なんかちょっと変になっちゃって……」
「そうか?でも、楽しかったぜ!お前とのバトル!」
「……僕も、楽しかった……楽しかったんです、でも、楽しかったのに、何かおかしいんです」
「なんだよ、楽しかったならいいじゃねぇか」
「分からないんです。楽しいのに、どうして楽しくないのか……」

 弾介は俯き、ドラグカリバーを握る手に力を込めた。

「んー、よくわかんねぇけど。弾介が楽しんでても、ドラグカリバーが楽しんでなかったんじゃねぇのか?」
「えっ」
「フリックスバトルは愛機とライバルと、ダントツを目指し合うから楽しいんだぜ!自分だけ楽しくても、楽しくねぇよ」
「ドラグカリバーとライバルも楽しく……」

 バンの言葉に目から鱗が落ちたのか、弾介はハッとした表情になる。

「お前がなんと言おうと、俺もお前も楽しかったんだ!なら後はドラグカリバーとも楽しめばいいだけだろ!だからまたやろうぜ!!まっ、次も俺がダントツ一番だけどな!」
「は、はは、そうですね。お願いします」
「ちげぇだろ!お前だってダントツ一番になるんだよ!!でも、俺の方がダントツ一番だぜ!!」
「めちゃくちゃですね……」
「ふ、はは……」

 バンの言葉に、弾介の表情が崩れて笑い声を発した。

「あはははははは!!!」
「な、なんだよ!馬鹿にしてんのか!」
「い、いえ、……そうですね。バンさん、次は必ず、僕がダントツで決めます!」

 一頻り笑った後、弾介は精悍な表情でそう宣言した。

「へっ、上等だぜ!そんじゃ、今から第二ラウンドと行くか!……って、なんじゃこりゃ!?」

 気付くと、バンの体が徐々に薄く半透明になっていく。

「バンさん!?」
「な、なにこれ!?俺、消えるの!?」
「もしかして……」
「シエル、何か分かるの?」
「おそらくですが、バンさんが召喚されたのは弾介さんの心の不調をケアするため……その目的が達せられたから元の世界に戻るのでは」
「なんだよ〜。こっから面白くなるとこだったのに!まぁいいや、弾介!魔王討伐頑張れよ!!また絶対バトルやろうぜ!!」
「はい!必ず!!」
「んじゃな!」

 バンの体はスーーと、完全に消えてしまった。

「……ありがとうございました、バンさん」
「弾介さん……」

 バンのいなくなった虚空へ礼を言うと、弾介はシエルへ向き直った。

「ねぇ、シエル。僕、シエルとも、レイズとも、今まで出会ったフリッカー達とも、まだ会った事のないこの世界のフリッカー達とも……皆と楽しいフリックスバトルがしたい。いつか、魔王討伐が終わったら、出来るかな……?」
「弾介さんなら、必ず出来ますよ。私もその時を楽しみにしています」
「うん、ありがとう」

 満面の笑みで頷くシエルへ、弾介も笑顔を返した。

      つづく

 

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CM

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