第10話「伝説の激突!弾介VSレイズ!!」
モンスヴィレッジにて、伝説のフリックスの一つであるシェルガーディアンを手に入れた弾介とシエルは、その事を報告するためにフリップ王国の王宮に戻っていた。
「ほぉ、これが2つ目の伝説のフリックス……シェルガーディアンか」
国王のジンがシエルから受け取ったシェルガーディアンを興味深げに眺める。
「しかし、こんなものが隕石として落ちてきて、シエルに同調するとは……一体どういうわけなんだ?」
「さぁ、そこまでは……」
「そもそも伝説のフリックスの出自そのものが謎に包まれてるのだから、どういう経緯で手に入っても不思議はないね」
ジンの疑問に対してアリサがそう結論づける。そもそも謎の多い存在なのだ。答えを出そうとする方が無理だろう。
「まぁな。しかしそうなると残り2つのフリックスも、どう手に入れれば良いかは分からないわけだ。何せ規則性が無いもんな」
「弾介さんのドラグカリバーは、弾介さんが手作りしたものを私が召喚したものですし。シェルガーディアンは、隕石として降ってきたものが私と共鳴した……残り2つはどう入手するべきか検討もつきませんね」
「だな、どうしたもんか……って、弾介、さっきから黙りこくってどうしたんだよ?」
ジンは、これまで全く会話に参加してこない弾介に話題を振った。
弾介はつまらなそうな表情をしながらも首を振る。
「いえ、別に……」
「あ、分かったぞ!お前、せっかく伝説のフリックス見つけたのにあっさり味方になったせいで、戦えなかったのが不満なんだろ?」
ジンが言うと、図星だったのか弾介は目を逸らした。
「……」
「ったく、分かりやすい奴だな。まぁ、ガチの戦いってわけにはいかないが、練習試合くらいならしてもいいんじゃないか?シエルだって、シェルガーディアンを使いこなすためのトレーニングは必要だろう」
「え?」
「そうですね。私もここまで性能の高いフリックスを使用するのは初めてですし、実戦の前に手合わせをお願いしたいです」
「い、いいの!?」
ジンとシエルの言葉に弾介の表情はパァっと明るくなった。
「よし、じゃあ早速やろう!今すぐやろう!!」
「待て。シェルガーディアンについてまだ調べる事がある。練習はその後だ」
「そんなぁ」
「まぁまぁ、長旅から帰ってきたばかりですし。一先ずゆっくり休みましょう。その方が訓練にも身が入りますよ」
「うぅ〜、でもなぁ、モンスヴィレッジから王国に帰るまでの間魔王軍に全然襲われなかったからバトルしたいなぁ……」
魔王軍に襲われなかったのは良いことのはずなのに、弾介にとってはただただ退屈な帰路だったようだ。
「そう言うな。それに腹も減ってるだろ?食堂には飯も用意してある、五つ星レストランの料理が食べ放題だぞぉ!」
「ぇ、食べ放題……!いくいく!すぐ行こう!!そういえばお腹減ってたんだった!!」
食べ放題という言葉を聞き、弾介の目は輝いた。
「扱いやすい奴だ」
「ははは……」
ドゴーーーーン!!!
その時、けたたましい爆発音と共に壁が砕け、警備をしていたと思われる複数人の兵士が吹っ飛んできた。
「ぐわああああ!!!」
皆強固な鎧を纏っているにも関わらず、戦闘不能になる程ボロボロだ。
「いぃ!?」
「何事だ!」
「シエル、回復を」
「は、はい!」
アリサの指示でシエルは素早く倒れた兵士達へ回復魔法をかけると、ジンが状況を尋ねる。
「一体何があった?」
「ぐっ……突然、謎の少年が赤いフリックスを……!」
兵士は痛みを堪えながら辿々しく口を動かす。
「フリックスを!?」
「バカな、王宮は規制範囲内だぞ……!」
ザッ、ザッ……!と、朦々と立つ埃の中から人影が歩いてくるのが見える。
「お前、レイズ!?」
「弾介、知ってるのか?まさか、魔王軍か!?」
「いいえ、魔王軍だとしたら結界を破壊せずに王国内には入れないはず」
「はい、彼は魔王軍とは無関係のようなんです!しかし……!」
「ようやく見つけたぞ、最強の剣……!」
レイズは弾介の顔を見るとニタリと笑った。
「こんなとこにまで来るなんて!」
「今度こそ貴様を潰す……!」
「仕方ない、勝負だ!スケールアップ!!」
弾介はアクチュアルモードを起動すべく手をかざすが、魔法陣が現れない。
「あ、あれ??」
「弾介さん、王宮は規制エリア内なのでアクチュアルモードは使えないんです!」
「なにぃ!?……ってか、じゃああいつはスケールアップせずにここまでやらかしたの!?」
「ふん、アクチュアルモードを起動せずともこのくらいは造作もない」
レイズが弾介へウイングジャターユを構える。
「え、ちょまっ!」
「潰せ、ウイングジャターユ!!」
レイズの手からウイングジャターユが放たれる。弾介は咄嗟の事で対応出来ずにいた。
シュンッ、バキィ!!
ウイングジャターユが弾介へぶつかる瞬間、突如頭上からフリックスが降ってきてウイングジャターユを弾き飛ばした。
弾かれた二つの機体はそれぞれの手元へ戻る。
「ちっ!」
「お前、何者だ?」
「……」
先程シュートした機体をキャッチして、ジンが威圧的に言い放つ。
そして、次々と兵士達が集まってきてレイズを囲む。
「何が目的かは知らないが、これ以上の狼藉は身を滅ぼすことになるぞ」
「……ふん、雑魚どもがいくら集まろうと俺の身を滅ぼす事はできない」
レイズは全く怯む事なく、臨戦態勢を崩そうとしない。少しでも下手な動きを見せればすぐにでも攻撃を開始するだろう。
ジンは慎重に言葉を紡いだ。
「……だろうな。今集められる戦力をいくら投入しても、被害を抑えながらお前を捕らえるのは難しそうだ。だが、それはお前も同じ事」
「……」
「無傷でこの場を切り抜けられる保証は無いはずだ。下手をすれば、目的が叶わないまま互いに痛み分けになる可能性がある。違うか?」
「どうかな」
レイズはジンの言葉を挑発と受け取ったのか、シュートの構えをとる。ジンは行動をとらせないよう言葉を続けた。
「まぁそう熱くなるな。一応お前の望みを聞いてやろうってんだ。それ次第でこちらの出方も変わる」
「それは、交渉のつもりか?」
「俺達もなるべくなら犠牲を払いたくは無いんでな、お前も内容次第ではリスクを冒さなくて良くなる。悪い話じゃないだろ?良いから言え。金か?テロか?それとも単なる破壊活動か?まさか殺人が目的じゃないだろうな」
「俺の、目的は……」
レイズは、ゆっくりと弾介を指差す。
「最強の剣を潰す、そして俺の力を証明する!」
「っ!上等だ!だったら今すぐ……!」
「弾介さん、ここはちょっと黙ってましょう!」
好戦的になりそうな弾介をシエルが制する。ここでバトルになってはジンの交渉がパァだ。
「……なるほど、そう言う事か」
レイズの要望を聞いたジンは少し考える素振りをしてからこう告げた。
「ならこうしよう。後日、正式に試合する場を設けてやる。そこで決着をつければ良い」
「なに……?」
「力を示したいなら、襲撃するよりもこの方が良いはずだろ?日程は明日の正午、場所はウェスト広場だ」
「……いいだろう」
「それまでに妙な真似をすれば、どんな犠牲を払ってでも俺達は全力で弾介を守り、お前を叩きのめす。二度と弾介へ挑戦出来ないほどにな」
「……好きにしろ」
ぶっきらぼうに吐き捨てると、レイズは踵を返しす。反射的に兵士は身構えるが……。
「どけっ!」
「道を開けてやれ。もう大丈夫だ」
レイズの一喝とジンの指示で兵士達は端に寄り、レイズは歩き出した。
レイズの姿が見えなくなるのを確認すると、ジンは一息ついた。
「ふぃ〜」
「お疲れ様、ジン」
「さすが国王様です。見事な交渉術でした!」
「いや、大した事じゃねぇ。あいつの目的がただドラグカリバーを潰すってだけだったらどうしようもなかったが、どうやら潰す事より勝つ事に拘ってるみたいだったからな。それならバトルが良い餌になる」
「なるほど」
「僕もあいつとは正式に戦ってみたかったんだ!今度は絶対勝つ!!」
「これだもんな……っと、それよりアリサ、測定は出来たか?」
「ええ」
アリサはスッと『伝説の力測定器』を取り出した。その針は力を示す証として大きく振れていた。
「これは?」
「もしやと思ってあいつのウイングジャターユに向けてこっそり測定してたんだが、案の定だな。あの形状からして、天空の覇者だろうな」
「ウイングジャターユも伝説のフリックスだったのか、通りで強いわけだ」
「でも、どうしてドラグカリバーを狙うんでしょう……?」
「そんなの、強い奴を倒したいからに決まってるよ!僕だって同じさ!」
「弾介さんとは、似てるようで違うような気がしますが……」
「……」
レイズのウイングジャターユが伝説のフリックスと知り、俄然やる気になる弾介。それとは対照的に、ジンは口を閉じ思案していた。
「どうしたの、ジン?」
「……いや、あいつどこかで見た事があるような」
「知り合いだったのですか?」
「そういうわけじゃないと思うんだが、これでも記憶力は良い方だ。見知った奴ならすぐに分かる」
「他人の空似じゃないですかね?あのような粗暴な人間と王様に接点があるとは思えません」
「だと思うが……」
「まぁ、今はそんな事よりも明日のバトルが優先ですよ!」
「それもそうだな。相手が伝説のフリックスとなれば、なんとしてでもバトルに勝って上手い事味方に引き入れれば儲けもんだ」
「勝てば味方になるとは限らないけど……」
「負けるよりは可能性あるだろう。こっちの力を逆に見せつけて、強引にでも魔王討伐に協力するよう従わせりゃ良い!出来るよな、弾介!」
「うん!やるからには絶対に勝つ!!そのためにも力をつけないと……!シエル、早速食堂で食べ放題しよう!!」
「……あれだけの事があってまだ食欲あるんですか」
「あれだけの事があったからだよ!やっとレイズと決着をつけられるんだ!それに、ウイングジャターユは伝説のフリックス……ワクワクしてお腹空いてくるよ!」
「少し羨ましいです、その性格……」
ワイワイと騒ぎながら弾介はシエルを連れて食堂へ向かった。
「まったく、頼りになるのかならないのか分からない勇者様だな」
それを見送ったジンはフッとため息をついた。
「でも、意気消沈するよりずっと良い」
「だな。とりあえず俺達は城内の修復と明日の会場準備のための根回しだ」
「念のため、シェルガーディアンもシエルに返しておいた方が良いかも……」
「そうだな……弾介の勝利を疑うわけじゃないが、万が一って事もある。その時は正々堂々なんて言ってられないからな」
……。
………。
それぞれが明日のための準備を進め、そしていよいよバトルの時間が迫ってきた。
翌日正午、ウェスト広場。
中央に噴水があり、綺麗な景観のその広場は普段なら住民達の憩いの場として機能しているのだが、今日ばかりはいつもの雰囲気が違っていた。
周りに人気はなく、そのにいるのは神妙な顔で対峙している弾介とレイズ。そしてその立ち会いとしてジンとシエルが周りにいるのみだ。
「既にこの広場全体にフィールドが張られている状態だ。広場から出れば場外扱い、また噴水付近には四方に穴を設置している!」
ジンがフィールドの説明をする。
「ルールは単純に相手のHPを0にした方の勝ち!決着が付くまで存分に戦え!!」
「レイズ!今度こそお前を倒す!!」
「ドラグカリバー、必ず潰す!そして俺の力を知らしめす!!」
「それじゃ、始めるぞ!準備はいいな!!」
「「マインセット!」」
2人はフィールドにマインをセットし、両者手をかざして魔法陣を出現させ、フリックスを構える。
「いくぞ!3.2.1.アクティブシュート!!」
ジンの合図と共に二人は魔法陣に向かって機体をシュートしスケールアップさせる。
「いけっ!ドラグカリバー !!」
「やれっ!ウイングジャターユ!!」
魔法陣を通過して10倍にサイズアップした二機は、そのまま空中で激突する。
バキィィ!!!
純粋な攻撃力で勝るドラグカリバーと空中での姿勢制御で勝るウイングジャターユのぶつかり合いは互角。
両機ともに同じくらい弾かれ、地面を何度かバウンドしながら着地する。
「くっ!」
「ちぃ!」
お互いにウェイトフェイズに突入。時間経過するまで攻撃はできない。
「ドラグカリバーはウイングジャターユより重いから、アクティブフェイズになるまで時間がかかる。ここはステップで少しでも有利な位置に移動だ!」
弾介はステップで少しでもウイングジャターユの攻撃を受け止めやすく、そして反撃しやすい位置取りをしようとするが……!
「はぁぁ!!」
レイズはバリケードをグルグルとウイングジャターユの周りを周回させる。するとそれに比例するようにウェイトカウントの速度が上がる。
「なに!?」
「バリケードを機体の周りに周回させる事でウェイトカウントを早める事が出来るんです!」
シエルが解説する間もなく、レイズのアクティブフェイズになる。
「はぁぁ!!」
バキィ!
ステップで体制を整える暇を与えず、レイズは素早くシュートしてドラグカリバーを吹っ飛ばした。
バリケードも構えられなかったので、結構効く。
「くそっ!」
お返しにと弾介もシュートする。が、吹っ飛ばされた事によって距離が開いていたのでその分威力が下がる。
ガッ!
楽々とバリケードで防がれてしまった。
「なに!?」
「その程度か」
「まだ勝負は始まったばかりだ!」
弾介は反撃を喰らわないようにステップで一瞬距離を取ったのちにバリケードを構える準備をした。
そして、再び素早くカウントを消費したレイズのターンとなる。
「マイン再セット」
「シュートしないのか!?」
レイズはシュートせずにドラグカリバーの後ろへマインをセットした。
そしてしばらくして弾介のウェイトカウントが経過する。
「いっけぇ!」
ガッ!
ヒットの瞬間、レイズは構えたバリケードをわざと遠くまでずらして受け止めた。
距離のダメージを多少喰らうが、このおかげでバリケードへの負荷を軽減しながら受け止められた。
「上手いっ!多少のダメージを覚悟してでも被害が少なくなる方法を取ったか!」
「それだけじゃない!」
衝撃を吸収するように受け止めたため、二機は接近状態でウイングジャターユのターンになった。
「はああ!!」
バチンッ!
接近状態からのシュート故にウイングジャターユは楽々マインヒットを決めた。
「まさに肉を切らせて骨を断つか。まずいな、劣勢じゃないか」
「いえ、弾介さんならきっと打開するはずです」
「くそっ!今度こそ決めるぞ!!」
バシュッ!!
今度はそこそこ近い距離、そしてドラグカリバーのシュートも乱れがない。これが決まればいいダメージが入りそうだ。
しかし。
「ふん」
ガキンッ!
ドラグカリバーのシュートが当たる寸前に再びアクティブフェイズになったレイズは素早くウイングジャターユをスピンシュートして迎撃。ドラグカリバーと接触して大きく横へ飛ばされるが、これではダメージにならない。
「なに!?」
弾介劣勢な状況に苦々しい顔をするジンとシエル。
「攻撃は最大の防御って奴か」
「かなり戦いなれていますね」
しかし、バリケードによる抵抗もなくドラグカリバーの渾身の攻撃を受けて大きく飛ばされたウイングジャターユはそのまま場外に出てしまう。
自身のシュートで場外した判定なので自滅扱いだが、それでもダメージになる。
「む……」
「よし!どうにか攻撃通った!!」
僅かなダメージだが、それでもこれで付け入る隙が出来たはず。
弾介はレイズの復帰する位置を確認しながらウェイトカウンターを進め、そしてステップで有利な位置へ移動。
「今だ!ドラグリーチスティンガー!!」
そして、復帰したてのウイングジャターユへ必殺技をブチ込む!
この勢いをバリケードするのは難しそうだ。
「ちぃぃ!!」
レイズはバリケードを素早く場外の縁で構え、どうにかフリップアウトは防いだ。
パキンッ!!
しかし、この衝撃でバリケードが割れてしまう。
「くぅぅ、おっしい!」
「で、でもこれでHPは互角!ここまで立て直すなんて凄いです!」
「いや、だがレイズも大したもんだ。復帰間際に弾介の必殺技を無傷で受け切るのは不可能と判断し、ビートヒットのダメージを受ける事を承知でせめてフリップアウトだけは防ぐとは。腕を切らせて心臓を守る…なかなかできる事じゃない」
「バリケードは場外の縁で構えるのが1番効果的ですからね……」
「でも、これであいつのバリケードは壊れた!ここから畳み掛けるぞ!!」
レイズの咄嗟のリカバリーは見事だが、それでも状況は弾介に傾いているように思えた。
しかし、レイズは不適に笑う。
「ふん、形勢を立て直すためにこんな序盤から必殺技を乱用か。長くは持たんな」
「なんだと!?」
「必殺技って言うのは、こう使うんだ!!」
レイズはウイングジャターユのウイングを広げ、反撃のシュートを放つ。
「スプレッドウイング!!」
バシュッ!!
ウイングジャターユの片翼がドラグカリバーを撫で、もう片翼でマインを弾き飛ばし、離れた場所までフワリと進んで停止した。
バンッ!!
ドラグカリバーにマインヒットの小爆発ダメージが入る。
「ぐっ!……レイズにはこの技があったんだよな」
「なんて技だ、翼を広げて攻撃範囲を拡大しただけじゃなく、翼の揚力で機動力を高めて反撃を喰らいにくい位置に移動した!?……だが、この技、どこかで……?」
「王様?」
レイズの技を見るや、ジンは驚愕すると同時に何かに気付き、考え込んだ。
しかしその間にもバトルは進む。次は弾介のフェイズだ。レイズのバリケードは壊れて無防備な状態だが位置が悪い。マインも遠く、フリップアウトも狙いづらい、かと言ってチマチマ攻めてもその隙を突いて来る可能性が高い。
「とにかく、攻めるしかない!」
考えてる時間が惜しい。弾介はシュートするために目の前に現れたドラグカリバーのホログラムを掴む。しかし……!
「はああああ!!!」
考えている間にウェイトカウントが経過したのか、ウイングジャターユが突っ込んでくる。
「いぃ!?」
ドゴオオオオン!!!!
ドラグカリバーはシュート準備中故に激しく吹っ飛ぶ。フリップアウトは免れたが、かなりのダメージの上に機体が転倒してしまった。
「くっそぉ!」
急いで反撃するため構えようとするが、弾介の手がスカる。
「あ、あれ?アクティブフェイズのはずなのにホログラムが無い!?」
「機体が転倒してしまったのでスタンしたんです!少しの間動けなくなります!!」
「なにぃ!?」
スタンによる硬直はそこまで長くないし、既にアクティブフェイズだったので硬直解ければすぐに動けるが、それでもこの状況では大きな隙だ。
それを逃すまいとレイズの声が響く。
「フリップスペル!電光石火!!」
「電光石火!?」
レイズの使った聴き慣れないスペルに弾介は戸惑うとシエルがすぐに説明してくれた。
「バリケード周回でウェイトカウントを早める効果を高めるスペルです!」
「なに!?早く硬直解けてくれぇ!!」
レイズのウェイトカウントが経過するより少し早く、弾介のスタンが解けた。
「こうなったら少しでも確実にダメージを与えるんだ!後ろのマインを狙うぞ!!」
じっくり狙っている暇はないのでせめてマインヒット狙いのために素早くシュートしようとするが……。
「無駄だ!!」
弾介がシュートした直後にアクティブフェイズが来たレイズが迎撃する。
ガキンッ!!!
弾き飛ばされたウイングジャターユがマインの上に乗る。
「これでマインヒットは無効だ」
シュートした機体にマインヒットは効かない。弾介の攻撃は不発してしまったのだが、弾介はニヤリと笑った。
「いや、まだだ!!」
「なに?」
言われて気付く。弾かれたドラグカリバーは既に停止しているのに、ウイングジャターユはまだ飛ばされ続けている。それだけ受けた衝撃が大きいと言う事だが……。
「まさかっ!」
「マインの上に乗ったから地面の摩擦が減って滑りやすくなったんだ!」
「なるほどな、マインヒットのためじゃなくフリップアウトのためにマインを利用したのか!しかもシュート直後ならバリケードも構えられない!」
ウイングジャターユは、マインに乗ったままスーッと滑っていき機体の一部が落ちた。自滅扱いだが、電光石火の効果でダメージが2倍となる。
「ちぃ!」
場外から復帰後、ドラグカリバーからの追撃を回避しつつ、再び素早くウェイトカウントを経過させたレイズは翼を広げて必殺シュートを放つ。
「舐めるなよ、スプレッドウイング!!!」
ウイングジャターユの片翼がマインに触れ、そのままドラグカリバーへ突っ込む!
「うおおお!!!かわせえええ!!!」
「遅い!!」
弾介は公園中央にある噴水へ向かってドラグカリバーをステップで移動させるがとてもじゃないが躱せる速度じゃない。
ジャポンッ!
しかし、噴水周りの飛沫のかかった路面に差し掛かった時、ドラグカリバーの滑る速度が格段に上がり間一髪でウイングジャターユの翼を回避した。
「なに!?」
「濡れてる場所なら摩擦抵抗が低い!ここなら躱せる速度が出せるんだ!!」
「くっ、フィールドに救われたか……!」
「救われたついでに、もっと活用してやる!!いっけえええ!!!」
弾介が反撃にとドラグカリバーをスピンシュートする。
「何をする気だ!?」
「喰らえ!!ドラグリーチスイング!!!!」
バチンッ!!
ドラグカリバーのフロント剣の腹でウイングジャターユを叩く。大した攻撃力ではないが、そのまま近くにあった穴の上にウイングジャターユの翼が被ってしまった。
「っ!」
「どうだ!マインヒットしやすいって事は、反対にマインや穴の攻撃を喰らいやすいんだ!!」
「いいぞ、弾介!」
「凄いです!!」
ウイングジャターユをフィールドに復帰させ、レイズは一息付く。
「……少し、油断が過ぎたようだ。だが、ここからは容赦しない!」
「っ!」
ギンッ!と弾介を睨みつけ、レイズのフェイズになる。
「フリップスペル、ライトニングラッシュ!!」
シュンッ!!
制限時間の間何度でもシュートができるスペルを使い、レイズは素早くマインヒットを決めてきた。
「ぐっ!なんて早さだ……!」
「まだだ!!!」
執拗に攻めるウイングジャターユ。
マインヒットは一回のフェイズにつき一回しか通じないしダメージが入るのはシュートが終わってからになるのだが
距離によるダメージは受けた機体が停止したその時点で加算されるし、フリップアウト出来ればダメージは大きい。
「こっちだって!ライトニングラッシュ!!!」
シュンッ!!
ダメージが致死量に蓄積する前に弾介もライトニングラッシュを発動し、攻撃を回避。
「小癪な!」
「負けるもんか!!」
バーーーン!!バーーーーン!!!
と、何度も何度も正面衝突を繰り返し、お互いにダメージが蓄積していく。
やがて、先にスペル発動したレイズのシュートフェイズが終わり、弾介へマインヒットのダメージが入る。しかし、弾介のHPはギリギリの所で耐えた。
「っ!」
「いいぞ!弾介はまだライトニングラッシュの時間が残ってる!!」
「レイズの残りHPはあと少し!いけます!!」
「これでトドメだ……!ダントツで決めろ!ドラグリーチスティンガー!!」
無防備なウイングジャターユの横腹へドラグリーチスティンガーを突き刺す。
しかし、いつものような弾ける感覚はなく、そのままウイングジャターユを場外へと運んでいく。
「?手応えが違う……!」
それでも、剣を場外へ突き出しながらウイングジャターユを場外へ押し出すことが出来た。
「やりました!フリップアウトです!!」
「あぁ、冷や冷やしたがよくやったぞ、弾介!!」
「どうだ!これで僕の勝ちだ!!」
一同弾介勝利ムードになるのだが……。
「いいや……」
レイズは不適に笑う。
「俺の勝ちだ」
そう言った瞬間……。
ピシピシピシ……!とドラグカリバーのフロント剣の先端にヒビが入り……。
パキンッ!と割れて、突き出ていた剣の欠片が場外に落ちてしまう。
これにより、ドラグカリバーは自滅扱いでフリップアウトは無効。
代わりに、自滅のダメージを受けたドラグカリバーのHPは0。撃沈してしまいスケールアップが解けて等身大に戻り、灰色の膜に閉じ込められたまま力無く地に伏せてしまった。
「そ、な……!」
思わぬ逆転敗北に、弾介は茫然自失に立ち尽くす。
「そうか、ドラグリーチスティンガーは素材のしなりを利用するから負荷が大きい……破損を誘発するために奴はライトニングラッシュを使ったのか……!」
「これで終わりだ」
レイズは場外から復帰させたウイングジャターユを構え、無防備になったドラグカリバーヘ狙いを定めた。
「っ、まずい!シエル!!」
「分かりました!!」
「潰せぇ!!」
レイズのシュートがドラグカリバーヘと放たれる。その時、黒い機体が二機の間に割って入った。
「む」
「シェルターディフェンス!!」
シエルのシェルガーディアンだ。咄嗟にドラグカリバーの前に出たシェルガーディアンはボディをフリー回転させてウイングジャターユの突進を受け流す。そして、ウイングジャターユは勢い余って自滅し、撃沈した。
「貴様、どういうつもりだ?約束が違うぞ!」
「勘違いするな。俺はあくまで力比べが出来る試合の場を設けると約束しただけだ。殺し合いの場じゃない!どちらかのHPが0になった時点で、契約は終わりだ」
「汚い真似を……!」
レイズは、撃沈したウイングジャターユを回収しつつシェルガーディアンを憎々しげに睨みつけた。その時、あることに気付いたのか、ハッと目を見開いた。
「なるほど……まぁいい。次は貴様も標的だ、究極の盾」
「えっ」
レイズはシエルを指差しそう宣言すると、素早く身を翻して去って行った。
「レイズ、やはりあいつは……!」
そんなレイズの姿に、ジンは何かの確信を得ていた。
「ドラグカリバーが……負けた……」
初の撃沈がよほどショックだったのか、弾介の瞳には精彩が欠いている。
しかし、その口元は……笑っていた。
つづく
CM