爆・爆ストーリー ZERO 第51話 I

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「迎え撃つ」




 ガキンッ!!!
 ヒスイのショットをクロウはすばやく撃ち落した。

ヒスイ「ふ、さすがですね。」
 動揺することなく、歩んでくるヒスイ。
クロウ「貴様・・・!」
 いきなり攻撃をしかけてきたヒスイに警戒態勢を崩さないクロウ。
セシル「ど、どういうことよ!ヒスイ、あなたは一体・・・。」
ヒスイ「あれを見たとするなら、検討はついているのでは?」
 あの日誌・・・研究日誌に書かれていたヒスイの名・・。つまり・・・。
クロウ「お前は、俺の兄弟などではなかったのか・・・。」
ヒスイ「えぇ、あれは嘘です。」
 ヒスイは平然とトンでもないことを当たり前のように口走った。
クロウ「なぜそんな嘘を!」
ヒスイ「研究のためですよ。そもそも、僕がクロウと共に旅をしたのは、全てデータを取るため・・・。」
クロウ「データ・・・。お前の研究に、俺のデータが必要だと?」
ヒスイ「えぇ。しかし、少しのんびりしすぎたようで・・・。
せっかく手に入れた実験材料の生命が限界に近づいてきていたんですよ。
そこで、早急にクロウの本気の戦闘データが欲しかったんですが・・・あいにく、クロウは病み上がりでした。
だから、クロウが本気を出さざるを得ない状況を作ったに過ぎないんですよ。」
 あれだけの衝撃の事実が、「嘘です」の一言で片付けられるとは・・・。
セシル「そんな・・・・そもそも、改良型ヒューマノイドって一体・・・。なぜ、そこまで執拗にこだわるの?」
ヒスイ「改良型ヒューマノイド・・・それを開発する事は、僕にとって・・・。
いえ、今は亡き僕の師であるDr.コハクにとっての夢でした。
あなたがたは、クレーブスという言葉を聞いた事がありますか?」
 話題を変え、質問してくるヒスイ。おそらく、その質問にセシルが抱いた疑問の答えがあるのだろう。
クロウ「いや。」
 聞いたこと無い言葉に首をかしげる二人。
ヒスイ「教養が足りないですね。クレーブスと言うのは、このビーダワールドの伝奇に登場する魔物。人の姿をした怪物ですよ。」
 ヒスイはメガネを光らせ、自慢げに話し出す。
ヒスイ「クレーブス・・・古代ビーダワールド語で『癌』、もしくは『生かされる者』、『蘇生するもの』と言う意味。
その体はどんなダメージも回復し、決して死ぬ事の無い・・・死ぬ事の出来ない。そして、人外の力を持つ。
師は、その力に着目した。『人の姿をした魔物』。
クレーブスは伝説上の生き物。つまりは自然現象。しかし、師はそれを科学の力で生み出そうと考えた。
そこで研究、開発されたのが人工授精によって生み出す初代改良型ヒューマノイド。クロウがそれですね。」
クロウ「ああ、そうらしいな。」
ヒスイ「しかし、その方法にはいろいろと欠点がありました。そう、母体がいなければ生み出せ無いと言うところ。
そう簡単に人工授精させてもらえる母体が見つかるものではない・・。
しかも、いかに改良型ヒューマノイドといえ、成長速度は通常の人間とほぼ同じ。長い年月が必要になるのです。
そこで、次に考えられたのが、授精に頼らず、一から人工で作る改良型ヒューマノイド。
ここまでくると、ヒューマノイドと言うより、アンドロイドと言った方がしっくり来ますかね?まぁ、有機物だからロボットではないんですが・・・。」
クロウ「(それが、ロンと言うわけか。)」
ヒスイ「でも、それもまた問題がありました。一から作るとなるとコストがかかりすぎる。
そこで、更なる発展型として、『普通の人間を改良型ヒューマノイドに改造する』研究をしてきました。」
クロウ「普通の人間を!?そんな事が、可能なのか!?」
ヒスイ「だから、それが可能かどうか研究していたんですよ・・・。しかし、なかなか難解で、正直、うまく行きませんでした。
数多くの実験で、さまざまな被害が出てきました・・・。」

 “黙れぇ!ヒスイのせいで・・・!弟は・・・!シルバは・・・!やれぇ、ヘルプリンス!!”
 唐突に思いだされる、あの少年の言葉・・・。
 そして、写真に写っていたホーリープリンスを持った少年・・・。
クロウ「まさか、シルバ・・・。」
ヒスイ「えぇ、シルバは僕と同じ研究員です。」
平然と答えるヒスイ。
クロウ「実験の犠牲に・・・!」
 自分の事を11歳だと言ったシルバ。それは、嘘ではなかったのだ。
セシル「ひどい・・・。」
 そうだろう。11歳の若さにして、一気に年老いてしまったのだ。未来への希望を・・・消されたのだ。
ヒスイ「ひどい?実験成功のためには、些細な犠牲ですよ。ふっ、まぁ、それももう終わりです。
クロウとのバトルで得たデータにより、ついに完成しました。」
 気がつくと、ヒスイの後ろの暗がりから、誰かがゆっくりやってくるのが見えた。
ヒスイ「さぁ、見せて上げましょう!これが、低コスト、高クオリティの改良型ヒューマノイド!僕と師の最高傑作です!」
 ヒスイの隣に現れたその少年・・・彼は・・・。
クロウ「お前・・・は・・。」
 そう、その少年には見覚えがあった。
 静かにうなづく。
 そう、こいつは、かつてレーザーホーネットの事で争った・・・・。
クロウ「な、なぜこいつが・・・!」
ヒスイ「あの時、病院に案内するフリをして、この研究所へ奴を送ったんですよ。実験材料として利用するために!」
クロウ「なんだと・・・!」
ヒスイ「データを取り終えた以上、あなたはもう用済みです。最後にワルタのテストとして利用させていただきます。」
 淡々と非情な台詞を口にするヒスイ。
セシル「そんな・・・・ヒスイ・・・・。」
クロウ「ふっ。」
 絶望的な表情のセシルに反し、クロウは笑みを浮かべる。
セシル「クロウ・・・何笑ってるのよ・・・?」
クロウ「利用・・・か。こいつを利用して強くなるつもりが、逆に利用されていたとはな・・・。」
 自嘲気味に笑うクロウ。
セシル「な、何言ってるのよ!ヒスイが、仲間があんな事言ってるのに、なんとも思わないの!?」
クロウ「仲間?お前こそ何を言っている・・・俺に元々仲間などいない・・・!
これが本来の形・・・これが当たり前なんだ。俺にあるのは、強さと、その強さを得るために利用するものだけだ!!」
 叫び、デスサイズを取り出す。
クロウ「お前が俺を利用して、テストをするように、俺も、お前を利用してこのバトルでさらなる強さを得る!さぁこい、勝負だ!」
 クロウの挑発を受け、ワルタもビーダマンを取り出す。
ワルタ「イクス・・・!」
 イクス、それがワルタのビーダマンのようだ。

クロウ「はぁ!!」
 先手はクロウが取った。ワルタへむかってストレートなパワーショット。
ワルタ「遅い。」
 ガキッ!
 なんなくそれを撃ち落すワルタ。
セシル「クロウの玉を、一撃で・・・!」
ヒスイ「さすが、最高傑作だ・・・!」
ワルタ「むっ。」
 ワルタは反撃しようと正面を見るが、そこにクロウの姿は無かった。
クロウ「どこを見ている?」
 ワルタのすぐ後ろで、声が聞こえた。
ワルタ「なっ!」
 クロウは、ショットを撃ったと同時にワルタの真後ろへすばやく移動していたのだ。
クロウ「はぁ!!」
 バーンッ!
 ワルタの背中へダブルバーストを撃ち込む。
ワルタ「ぐっ!」
 ズザザザ!!
 衝撃で数センチ吹っ飛ぶ。
ワルタ「ちぃ!」
 体勢を立て直し、構える。しかし、すぐ目の前にダブルバーストが・・・・。
ワルタ「なっ!」
 それにもヒットする。クロウは隙を逃さず、連続でヒットさせようとするのだ。
ワルタ「はぁぁ!!」
 しかし、ワルタのイクスのショットはそれを木の葉のように吹き飛ばし、クロウを狙う。
クロウ「っ!」
 クロウもすばやい横移動でそれをかわす。
クロウ「さすがに、もう小細工は通用しないか。」
 ワルタもクロウも、足を固定。その場から動かない。
クロウ「はぁ!!」
ワルタ「はぁ!!」
 二人とも渾身のパワーを込めたショットを放つ。
 バーンッ!!
 二つの玉が激突し、ビー玉が砕け、衝撃波が巻き起こる。
セシル「きゃああ!!」
クロウ「ぐっ!」
ワルタ「・・・!」
 その衝撃波により、部屋の壁がめり込む。
クロウ「うおおおおお!!!」
 再びパワーショットをぶつける二人。
 巻き起こる衝撃波。確実にこの建物が内部から破壊されていく。
クロウ「(なるほど、予想通りのパワーだ・・。)」
 にやりと笑うクロウ。
ヒスイ「(はっ、まさかクロウは・・!)」
 ヒスイは気づいた。クロウの考えに。だから・・・。
ヒスイ「やめろワルタ!撃つな!」
ワルタ「・・・・っ!」
 もう、遅かった。ワルタはすでにパワーショットを放っていた。
クロウ「うおおおおお!!」
 クロウも迎撃するために撃つ。
 激突するパワーショットと巻き起こる衝撃波。
 ゴゴゴゴゴ・・・!
 突如、揺れ出す塔。
セシル「な、なに?地震?」
ヒスイ「クロウ・・!」
クロウ「さぁ、崩れるのは時間の問題だな。」
ヒスイ「そ・・・そんな・・・僕の・・・僕の研究成果が・・・!」
 ヒスイは焦り、研究室へと駆け込む。データをなるべく多く取り出したいのだろう。
 しかし、そんな事をしている暇は最初から無いはずだ。
クロウ「おい!」
 クロウは、セシルの手をつかむ。
セシル「え?」
クロウ「いくぞ!」
 そして、急いで塔の外へ出る。

 バーンッ!!!

 クロウとセシルが外へ出たとたん、大きな音を立て、崩れ落ちていく塔。
クロウ「はぁ・・・はぁ・・・・。」
 崩れていく塔。その中にはヒスイやワルタが・・・・。いや、他にも研究員がいるかもしれない。

 また、罪を重ねてしまった。仕方がなかったといえ。
クロウ「ふ、ははは・・・・。」
 自分がした事を後悔したのか?それとも、こうなる運命とあきらめきったのか。
 クロウは自嘲気味に乾いた笑いを浮かべる。
セシル「クロウ・・・。」
 完全に崩れ落ちる塔。それを見納めたクロウは、静かにつぶやく。
クロウ「結局・・・なんだったんだろうな・・・俺の力は・・・。」
セシル「・・・。」
クロウ「改良型ヒューマノイドの力は、誰も幸せにする事はなかった・・・。
シルバや、レシアスや、ロンや・・・さまざまな人を巻き込んで、ただ争いと悲しみを生み出しただけだった・・・・。」
セシル「それは・・・。」
 確かに、クロウの言うとおりだ。クロウは・・・・生まれてはいけない人間だったのかもしれない。
 それはセシルにも分かっていた。だからこそ、何も言うことが出来ない。
 どう声をかければいいのか、分からなかった。
クロウ「・・・全て終わった今・・・俺はどこへいけば・・・・俺の、進むべき道は・・・・。」





 

 




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