飛翔空伝C.F.O.」カテゴリーアーカイブ

飛翔空伝C.F.O. 第5話

第5話「陽気なパイロット」





 金曜の夜。夕食を終えたソラはリビングでテレビを見ていた。
 映し出されているのは、一週間前に隣町で開催されたC.F.O.大会のハイライトだった。
 
『決まったぁ!C.F.O.大会滞空部門の優勝者は、鷲宮俊平君だぁ!』

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飛翔空伝C.F.O. 第4話

第4話「唯一無二の愛機」
 
 
 
『さぁ、ゴルフ場を貸し切って行ってきたC.F.O.大会も、いよいよ決勝戦だ!』
 
 バードマンの実況が、広大なゴルフ場に響く。
 今日は、ゴルフ場を貸し切って大規模なC.F.O.大会が開かれたようだ。
 
『過酷で白熱したトーナメントを勝ち抜いて、決勝にコマを進めたのはこの二人だ!』
 
 会場にソラと鋭一が入場し、二人が対峙する。
 
『経験はまだ浅いながらも、類稀な才能を見せてくれた、超新星!天崎ソラ君!』
 
 ソラに注目して歓声が上がる。
 
『対するは、持ち前のガッツで豪快なバトルを見せてくれた、バイオレンスパイロット、鷹山鋭一君!』
 
 鋭一に対して歓声が上がる。
 
「天崎!この前は不覚をとったが、今度こそお前に勝ってランサーファルコンをいただくぞ!」
「鋭一、君はまだ……」
「当たり前だ!お前の力を認めてよろしくするとは言ったがなぁ!ランサーファルコンを諦めるとは言ってねぇ!」
「分かった、何度だって受けて立つ!」
 
『両者ともに気合い十分なようだ!そんじゃ改めてルールの確認だ!
今回のルールは、ゴルフ場に乗っ取り、C.F.O.を使ってゴルフをするというものだ!
C.F.O.を何回かフライトさせ、300m先にあるリングに先にC.F.O.を通過させたものの勝利となる!
ただし、ゴルフと違って、C.F.O.は毎回同時に飛ばすぞ!
ここも深い戦術や駆け引きが必要となる重要なポイントだ!』
 
「ルールはもう分かってんだからとっととスタートしろ!」
 
 決勝に来るまで何度もこのルールで戦ったのに、今更ルール説明された事にイラついた鋭一はバードマンを催促した。
 
『お、オーケーオーケー!そんじゃ、そろそろスタートしようか!』
 
 ソラと鋭一がC.F.O.を構えた。
 
「頼んだぞ、ランサーファルコン!」
 
「確実に仕留めろよ、ハンターホーク!」
 
『第一打目、テイクオフ!』
 
「飛べ、ランサーファルコン!!」
 
「やれっ、ハンターホーク!」
 
 二人が同時にテイクオフする。
 
『さあ、決勝戦のスタートだ!まず、飛び出したのはランサーファルコン!さすがの高速性能だ!!』
 
「いけぇ、ランサーファルコン!!」
「学習能力の無い奴だな!この俺にケツを見せたらどうなるか、もう忘れたのか!?」 
 ハンターホークが、ランサーファルコンの真後ろについた。
 
『先行するランサーファルコンだが、ハンターホークはその後ろにピタリとついている!』
 
「く、来るか……!」
「喰らえ!ストーキングチェイサー!!」
 ハンターホークが、後ろからランサーファルコンを突き飛ばす。
 
『出たー!ハンターホーク伝家の宝刀、ストーキングチェイサー!早くも大技炸裂だ!!』
 
「こ、こんな序盤にもう必殺技を……!」
「出し惜しみして勝てる相手じゃねぇからな!言っただろ、お前をBRシリーズの使い手として認めてるってよ!」
 ほんとに変に律儀な奴だ。
 
『さぁ、必殺技でランサーファルコンを撃破したハンターホークは大きくリード!序盤から波乱の展開だ!!』
 
「でも、後ろにいる限りもうあの必殺技は受けない!」
 
『第二打目、テイクオフ!』
 
「「いけえ!!」」
 二人がC.F.O.を飛ばす。
 
『ランサーファルコン猛追!ハンターホークに迫ります!あぁっと、しかし!あと一歩の所で抜かない!』
 
「ん?」
「まだ、勝負は先だ!慎重にいけ、ランサーファルコン」
 
『第三打目、テイクオフ!』
 
 三打目も、同じような展開だ。
 
 四打、五打目も同じ展開が続く。
 
『おおっと、どうした事か!ランサーファルコン、ハンターホークに迫っているのになかなか抜きません!これは、何かの作戦なのか、それとも、ハンターホークの巧みなブロックが抜かせないのか!』
 
「なるほどな、ギリギリまでハンターホークに迫り、最後の最後で抜く事でストーキングチェイサーを受けない作戦か」
「最後の一打で抜いた瞬間にゴールすれば、スリップに入る暇は無いからね」
「なかなか悪くない策だ。だが、甘いな!」
「なにっ!」
「そっちが、ギリギリで抜くつもりなら、こっちはぶっちぎるだけだ!」
 
 そして、レースは進み……。
 
『さあ、バトルも終盤の八打目だ!ゴールまで、あと50mを切っているぞ!だが、この先に待ち構えるのは乱雑にそびえる木々が妨害する林セクション!ここを一発で抜けるのは、難しいぞ!』
 
「なっ、あんな所が!」
「コースレイアウトをよく見ないからだ!俺が最初にストーキングチェイサーを使ったのは、このためなんだよ!」
 
 鋭一は、最初にストーキングチェイサーでリードする事でソラにストーキングチェイサーを警戒させて、あのセクションに差し掛かるまでぶっちぎらせないようにしていたのだ。
 
『第八打目、テイクオフ!』
 

「抜けろ、ハンターホーク!」
 ハンターホークは、木々の間をすり抜けて行く。
 
『これは凄いぞ!ハンターホークは乱雑にそびえる木々をものともせずに華麗に進んで行く!』
 
「前進翼のハンターホークの運動性能があれば、このくらいわけないぜ!」
「くっ、ランサーファルコン!」
 
『一方のランサーファルコンは大苦戦!木々にぶつかり、ペースダウンだ!』
 
 ランサーファルコンは林セクションの中盤で着地し、ハンターホークは林セクションを抜けたところで着地した。
 
『ここに来て、大きく差が開いてしまったぞ!林セクションを抜けてゴールまで一直線となったハンターホークに、未だ林セクションを抜けられないランサーファルコン!二台の差は短いが、これは雲泥の差だ!』
 
「この勝負、もらったな」
 鋭一は勝利を確信して、ハンターホークを拾った。
 
『さぁ、第九打目行くぞ!テイクオフ!』
 
「いけっ、ハンターホーク!」
 
『ハンターホーク、ゴールのリング目掛けてふっ飛ぶ!これで決まってしまうか!?』
 ハンターホークが、どんどんゴールまで迫る。
 
 誰もが鋭一の勝利を確信した。
 
 その時だった。
 
『ハンターホークが、ゴールへと迫る……ん、なんだあれは!?』
 
「ま、まさか……!」
 鋭一はハッとして空を見上げた。
 上空から、青い物体が落ちて来ているのが分かった。
 
『遥か上空から急降下して来る物体があるぞ!あれは一体なんだ!?』
 
 観客が、ざわめきだし、口々に言う。
 
「鳥だ!」
 
「UFOだ!」
 
『いや、あれは……』
 
「「「C.F.O.だ!!!」」」
 
 会場の全員が叫んだ。
 
「いっけぇぇ!ファルコンダーーーイブ!!!」
 
『な、なんと!ランサーファルコンが上空から急降下しながらゴールに向かっている!あの林セクションをもう攻略したというのか?!』
 
「上から飛び越せば、どんなに木があったって関係ない!」
 必殺のファルコンダイブを繰り出したランサーファルコンが、グングンとハンターホークに迫っていく。
「ちっ、そうじゃなくちゃ面白くない!」
 
『土壇場でランサーファルコンの追い上げ!勝負はこれで分からなくなったぞ!!』
 
「ランサーファルコン!!」
 
「ハンターホーク!!」
 
 この前のバトルと同じようなデッドヒート。
 
 果たして勝つのは……。
 
『ゴーール!!これは、同着だ!!』
 
「ど、同着だと……!!」
 
『ゴルフ場C.F.O.大会は天崎ソラ君と鷹山鋭一君の同時優勝だ!!』
 
「引き分けか……でも、いいバトルだったね」
 ソラは乱れる息を整えながら、鋭一に握手を求めた。
 しかし、鋭一はその手を取ろうとしない。
 
「ちっ、何が引き分けだ。勝ち以外は負けと同じだ」
「鋭一……」
「ランサーファルコンはいつか必ずいただくからな」 
 相変わらずな鋭一の言い分に、ソラは少し悲しげな表情を浮かべた。
「なんかそれってさ、ハンターホークが可哀想だよ」
「なにぃ……!」
「だってさ、鋭一にはハンターホークがあるのに、他のC.F.O.を欲しがるなんて……C.F.O.は、パイロットと一緒に飛んでくれる相棒なのに」
「くだらねぇ、お前に何がわかるんだ!」
 吐き捨てるようにいうと、鋭一は去って行った。
 
『さあ、表彰式を始めるぞ……って、あれ?おーい、鋭一くーんどこだーい??』
 バードマンの呼びかけにも答えず、鋭一はそのまま会場を出ていった。
 
 結局、鋭一は表彰式には出なかった。
 
 欠席ということで、優勝メダルはソラが受け取った。
 
 二つ目の優勝メダルを受け取り、会場から出たソラだが、その表情は浮かなかった。
 
「やあ、ソラ君。優勝おめでとう、見事だったよ」
 そんなソラに鳥羽が声をかけてきた。 
「博士……」
 ソラの浮かない顔に気付いた鳥羽は、尋ねた。
「どうしたんだい?また、鋭一君とケンカしたのかい?」
 何かを察したように、鳥羽は言った。
「えぇ、まぁ、……なんで、鋭一はランサーファルコンを欲しがるんでしょうね。ハンターホークだって、いい機体なのに」 
「……」
 鳥羽は少し思案したあと、口を開いた。
「詳しくは私にも分からない。ただ、思い当たる節はある」
「なんですか?」
「この事を話した事は鋭一君には内緒にしてもらいたいんだが……」
 鳥羽は少し迷いながらも続けた。
「鋭一君のご両親はとても厳しい方でね、幼いころから鋭一君に英才教育していたんだ。
そのかいあって、鋭一君は勉強も運動も、とても優秀な成績をおさめてきたらしい……」
 金持ちに英才教育、まぁよくある話だ。
「それって、良い事じゃないですか」
 単純に優秀な成績を収めるという事は、悪い事ではないはずだ。
「普通はね。でも、どんなに良い成績をとっても、トップにはなれなかった。勉強も、運動も、優秀なのに、トップになれるものが何ひとつなかったんだ」
 器用貧乏と言うやつだろうか。総合的には優秀な部類なのだろうが、一番を取ったことが無いとはなんだか複雑である。
「ご両親は、それでも十分満足していたようだけれど、鋭一君自身は、プライドを酷く傷つけていたようで……。
初めて出会った頃の鋭一君は、とても暗くておとなしい子だった」
「鋭一が大人しい……」
 ちょっと想像できない。
「初めて出会ったのは、確か商店街か何かのイベントで、C.F.O.の体験会を開いた時だった。
お母さんと一緒に来ていた鋭一君は、すぐにC.F.O.に夢中になった。もともと頭も良くて運動神経もある子だったから、すぐに周りの子達の中で一番になった。
あの時の嬉しそうな顔は今も覚えているよ。
あの後、鋭一君のお母さんと少し話をして、ハンターホークを託そうと思ったんだ。
彼の才能は、私のBRシリーズを扱うのに相応しかったし。何より、私のC.F.O.が、彼の救いになるんじゃないかと思ってね」
 
「そんな事が……」
 ソラは感慨深げに頷いた。
「私の考えた通りだった、彼はハンターホークを見事使いこなし、私の研究は大きく進んだ。
彼自身も、元気を取り戻して行った……そう思っていた、つい先日までは」
「先日まで……?」
 先日……この言い方だと、最近の事だろうか。鋭一との付き合いは長そうに思えたのだが、最近まで何か誤解していることがあったとは。
「あの一件があって、思い出したんだ。前に、BRシリーズは他にもある事、そして他の子にも託そうとしている事を彼に話した事があるんだが、その時の動揺したような表情をね。あの時は軽く流したけど、今思えば鋭一君は焦っていたのかもしれない」
 
「焦っていたって、どうして……?」
「彼にとって、BRシリーズを扱うという事が唯一のアイデンティティだったんだ。BRシリーズを使ってるからこそ、トップでいられる。でも……」
「他にもBRシリーズを扱う人が現れたら、自分がトップでいられるとは限らなくなる、と……」
 ソラも、なんとなく分かって来た。
「恐らくね」
「それで、ランサーファルコンを……僕がいたら、トップじゃなくなるから……」
 ソラは手に持ったランサーファルコンを見つめながら呟いた。
「トップになる事が全てじゃないんだけどな」
 鳥羽も、悲しげに言った。
「ランサーファルコン……」
 彼を苦しめているのは、自分自身だった。もし、僕がランサーファルコンを貰わなかったら……そんな風に考え始めたソラに、鳥羽は言った。
「しかし、これは彼自身が乗り越えるべき問題だ。私にもソラ君にもどうする事はできない。ソラ君は、自分のフライトをしなさい。そうすれば、いつかきっと分かってくれるさ」
「はい……」
 頑なにトップに拘る鋭一。彼と分かり合える日は来るのだろうか?
 
 
 
 
 
 
         つづく
 
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飛翔空伝C.F.O. 第3話

第3話「ランサーファルコンVSハンターホーク」
 
 
 
 C.F.O.国衙大会を、初出場初優勝で飾ったソラは、軽い足取りで家路についていた。
「優勝かぁ……ふふ、やったな、ランサーファルコン」
 ランサーファルコンと優勝メダルを交互に眺めながらニヤニヤするソラ。
 そんなソラの前に、ソラより一回り小さい少年が、通せんぼするように仁王立ちで現れた。
「おい、お前!」
 少年は、好戦的な態度で声をかけてきた。
「え、何?」
 一瞬、誰に向けられたのか分からず、ソラは唖然とした。
 それもそうだ、見ず知らずの少年に因縁を付けられる覚えはない。
「あの程度の大会で優勝したくらいでいい気になってるなんて、ずいぶん低レベルなパイロットだな」
「な、なに!?」
 いきなり侮辱的な事を言われては、温厚なソラもさすがに顔を顰めた。
「さっきの大会、俺だったら40mは飛んでたぜ」
「き、君は一体……!」
 身構えながらも質問したソラへの返答はせず、少年は勝手にしゃべり続けた。
「お前なんか、BRシリーズには相応しくないぜ!俺のC.F.O.の修理が終わったら真っ先にお前を叩き潰してやる!」
 勝手に宣戦布告したのち、少年はソラの反応を待たずにとっとと去っていった。
「な、なんだったんだ……」
 あまりの展開の早さについていけず、ソラは某然と少年の後姿を眺めるしかなかった。
 しかし、一つだけ、彼の言葉で引っかかるものがあった。
「BRシリーズ……?」
 何かの略だろうか……。
「そういえば、ランサーファルコンも、BR-2とか言われたような……」
 彼が言ったそれと、博士が言ったものが、同じものを指すのかはハッキリしない。
 しかし、これから何かが起こる。何となくそんな予感がした。
 
 そして翌日、ソラはランサーファルコンのメンテをしてもらうために、鳥羽研究所に赴いた。
「こんにちは、ソラ君。昨日はご苦労様。今日はどうしたんだい?」
「こんにちは、博士。実は、あの後何回かランサーファルコンを飛ばしたんですけど、ちょっと調子がおかしかったんで、見て欲しいんです」
「そうか、分かった。ランサーファルコンを貸してごらん」
「はい」
 鳥羽はソラからランサーファルコンを受け取ると、何か大きな機械の中にいれてコンピュータで分析をはじめた。
「……なるほど、尾翼が少し曲がってるな。でもこのくらいなら、すぐに直るよ」
「ほんとですか?」
「あぁ、五分も掛からないよ。少し待ってなさい」
 言って、鳥羽はランサーファルコンを取り出して、作業をはじめた。
「あ、僕も見てていいですか?また、何かあった時はある程度自分でなんとか出来るようにしたいので」
「あぁ、いいよ。簡単なメンテナンスや修理の仕方を教えよう」
「ありがとうございます!」
 ソラは、鳥羽からいろいろ教わりつつ、ランサーファルコンを修理してもらう事になった。
 
「よし、これでランサーファルコンは元通りだ」
「ありがとうございます、博士」
 鳥羽からランサーファルコンを受け取ったソラは思い出したように鳥羽に問うた。
「あ、そういえば博士」
「なんだい?」
「前にランサーファルコンを貰った時、『RB-2』って言ってましたけど、あれって何なんですか?」
「あぁ、あれか。あれは、コードネームみたいなものだよ。あるコンセプトをものに開発したRBシリーズのC.F.O.に付けられるんだ」
「シリーズ……って事は、ランサーファルコンの他にもあるんですか?」
「あぁ、例えば……」
 鳥羽が口を開くのとほぼ同時に、研究員が鳥羽に声をかけた。
「博士、鋭一君から頼まれてたハンターホークの修理、ようやく完了しました」
「おぉそうか、ご苦労様。じゃあ彼に届けてやらないとな……」
 と、ソラの顔を見て思いついたように鳥羽は言った。
「そうだ、丁度いい。ソラ君、君も一緒に来るかい?」
「え、どこへですか?」
「君の仲間になるかもしれない少年の所さ。今の質問の答えもそこにあるさ」
「は、はぁ……」
 
 鳥羽に言われるまま、ソラは鳥羽の車に乗せられて、研究所とは反対方向の町外れに向かった。
 そこは、山の麓にある大きなお屋敷があった。
「大きな家……」
 相当な金持ちが住んでるのだろう、ソラは圧倒された。
 鳥羽は、大きな門の呼び鈴を鳴らした。
 門には『鷹山』と言う札が貼られていた。
 
 鳥羽が門の前で何か話すと、屋敷の扉が勢いよく開き、中から待ちきれないとばかりに、一人の少年が駆けてきた。
「博士!直ったのか!?」
「やぁ、鋭一君。待たせたね、ハンターホーク修理完了だよ」
「ったく、遅いぜ博士!待ちくたびれた!」
「何言ってるんだい。君が無茶な バトルして、機体をボロボロにするからだろう。次からはもっと大事に扱ってくれよ」
「あーはいはい、分かった分かった!」
 鋭一はひったくるように鳥羽からハンターホークを受け取った。
「へへ、これでやっとまた戦えるぜ!」
 受け取ったハンターホークを眺めながら、鋭一はニヤニヤ笑っていた。
「それと、鋭一君。今日は君に紹介したい子がいるんだ」
「なに?」
 鳥羽は一歩後ろに下がっていたソラに声を掛けた。
「ソラ君、紹介するよ。彼は、鷹山鋭一君。君よりも先に私の開発したC.F.O.を託した少年だ。彼のもっているハンターホークは、ランサーファルコンと同じコンセプトで開発した兄弟機、言わばランサーファルコンのお兄さんみたいなものなんだ」
「よろし……って、あっ!」
 鳥羽に言われて前にでて、挨拶しようと鋭一の顔を見た瞬間、ハッとした。
 鋭一もソラの顔を見て、少し顔を強張らせた。
 しかし、鳥羽はそれに気付かずに話を続けた。
「で、鋭一君。彼が天崎ソラ君、ランサーファルコンを……」
「知ってる。しょぼい大会で優勝したへぼパイロットだろ」
「っ!」
 いきなり侮辱されてしまい、ソラは反射的に鋭一を睨んだ。
「な、なんだ、知り合いだったのかい。だったら話が早い。これからは、同じBRシリーズのパイロットとして、二人仲良く協力して……」
「お断りだ。こんな素人と組めるか!」
 鳥羽が言い切る前に、鋭一が言った。
「え、あ、えぇ!?」
 あまりにもあんまりな反応に、鳥羽は困惑した。
「んな事より天崎!俺と勝負しろ!」
「え、勝負……?」
「俺が勝ったら、お前のランサーファルコンをいただく!」
「ランサーファルコンを!?」
「最強のパイロットは一人いればいい!そして最強のC.F.O.であるBRシリーズを扱うパイロットも一人で良い!」
「ちょ、鋭一君、何を言って……」
 鳥羽が鋭一を宥めようとするのだが、鋭一はそれを遮ってソラに問う。
「どうする、天崎?この勝負受けるか?それとも尻尾巻いて逃げるか?」
「……」
 負ければ、ランサーファルコンを失う……。そんなのは絶対に嫌だ!
 でも……。
「ランサーファルコンは失いたくない。でも、勝つにしても負けるにしても、勝負から逃げてたらどのみち、ランサーファルコンを持つ資格なんかない……!」
 ソラは意を決して言った。
「この勝負、受けて立つ!」
「ソ、ソラ君……」
「いいだろう、ついて来い」
 鋭一はそう言って、踵を返して歩いて行く。
 ソラはその後に続いた。鳥羽も、戸惑いながらも後に続いた。
 
 鋭一が案内したのは、屋敷の裏にある巨大な体育館のような場所だった。
 
「あ、あの屋敷の裏に、こんな場所が……」
 ソラはこの広大な場所に圧倒された。
「ここは、俺専用の飛行場だ。さぁ、とっととやろうぜ」
「仕方がない、もうこれ以上はパイロット同士の問題だ。私は立会人を勤めさせてもらうよ」
 鳥羽は半ば諦めたように言った。
「サンキュー、博士」
 鋭一はそういうと、会場のセッティングを始めた。
 体育館の中央にテーブルを置き、その上に空き缶を一本立てた。
 そして、そこから25mくらい離れた場所に白いテープを貼り付けた。
「出来たぜ、これがスタートラインだ。ここから同時にテイクオフし、先にあの空き缶にヒットした方の勝ち。スピード勝負のターゲットバスターだ。三本勝負の二本先取でいくぜ」
「スピード勝負……って事は、ランサーファルコンの得意種目だ!」
「らしいな。まぁ、せっかく勝負を受けてくれるんだ、少しはそっちが有利にならないと不公平だからな」
 意外と律儀なのか、それとも何か裏があるのか……鋭一の表情からは察せなかった。
「それじゃ、始めようぜ」
「あ、あぁ!」
 二人はスタートラインに着いた。
 
「それじゃ行くよ、テイクオフ!」
「飛べ!ランサーファルコン!!」
「食らいつけ!ハンターホーク!!」
 鳥羽の合図で、二人は一斉にC.F.O.を飛ばした。
 ハンターホークは、赤い色をした前進翼のC.F.O.だ。
「いっけぇ!!」
 ハンターホークのスピードもなかなかだが、後進翼のランサーファルコンの方が早く、どんどん差を広げて行く。
 
「よし、行ける!」
 
 カコンッ!
 
 ランサーファルコンがリードを守ったまま、空き缶にヒットした。
 
「第一セット、勝者ソラ君!」
 
「やった!」
「本当の勝負はこれからだぜ」
 負けおしみでもなんでもなく、鋭一は言った。
 彼の表情は至って冷静だ。
「なにっ!」
「獲物のルートはもう見極めた。そろそろ狩りの時間だ」
 
 二人は、C.F.O.を拾い、スタートの準備をする。
 
 スタート位置に着くと、鋭一が話しかけてきた。
「なぁ、ハンターがどうやって獲物をしとめるか、知ってるか?」
「え?」
「ハンターは、獲物を見つけても、すぐには飛びかからない。ひたすら観察するんだ。じっくりと相手の動き、癖を見極め、相手を完全に把握してから襲いかかる」
「それとC.F.O.と、どう関係があるんだ?」
「バトルも同じって事だよ。空見てるだけじゃ、勝てねぇって事だ」
「……」
 
「それじゃ、両者構えて!テイクオフ!!」
「「いけぇ!!」」
 
 鳥羽の合図で、一斉にスタートする。
 ランサーファルコンがハンターホークの前に出た。
 
「よし、このままいけるぞ!」
「甘いぜ!」
 
 ハンターホークがランサーファルコンの真後ろに着いた。そのままピッタリとくっついてくる。
 
「ひ、引き離せない?!なんで!!」
「スリップストリーム、機体の真後ろは空気抵抗が少ない上に、ランサーファルコンが作り出した気流に乗ってスピードをあげる事が出来る」
「そ、そんなっ!でも、いくらスリップストリームでも、ずっと相手の真後ろに着けるなんて……」
「ハンターホークは前進翼故にワザと機体バランスを崩す事で、運動性能を上げている。加えて、さっきのフライトでお前の動きも見切った。このくらい、朝飯前なんだよ!」
 スリップに引っ張られるように、ランサーファルコンとハンターホークの差が徐々に縮まって行く。
「あ、あぁ……!」
 ソラは恐怖した、が、もう遅い。
「これが俺の得意技!ストーキングチェイサーだ!!」
 
 バキィ!!
 
「ランサーファルコン!!」
 ハンターホークが後ろからランサーファルコンを弾き飛ばし、そのまま空き缶にヒットした。
 
「第二セット、勝者鋭一君!これでイーブンだ」
 鳥羽のジャッジを聞き終わる前に、ソラはランサーファルコンを拾いに駆け出していた。  
 
「ランサーファルコン……」
 ランサーファルコンを拾い上げ、鋭一に目を向けた。
 鋭一は余裕の表情をしている。既に勝利を確信しているのだろう。
「……」
 ソラは神妙な面持ちで、スタート位置に戻った。
 そして思案する。
 
(どうしよう、このままじゃ負けは確実……だけど、ランサーファルコンは渡せない。一体どうすれば……)
 
「万策尽きたか?悪いが俺は手加減しないぜ」
 鋭一が話しかけてくるが、ソラの耳には入らない。
 
(後ろを付かれるから狙われるなら、ワザとスタートを遅らせれば……いや、これはスピード勝負、スタートを遅らせるのは致命的だ。だったら、どうすれば……)
 
 その時、ソラの周りを一縷の風が吹いた。
 屋内だと言うのに、確かに風を感じたのだ。
 そしてその風は、懐かしい声を運んでくれたような気がした。
 
 “空を見ろ、そこに答えがある”
 
(父さん……)
 
 それは、本当に父の声だったのか、それともただの幻聴だったのか。
 
(空を……そうか!)
 少なくとも、今のソラには最高のアドバイスとして受け取られた事には違いない。
 
「両者、構えて!」
「っ!」
 鳥羽の声で我に返った。
「どうした?随分考え込んでたじゃねぇか。もうランサーファルコンに別れは告げたのか?」
「ランサーファルコンは渡さない。この勝負は僕が勝つ!」
「なるほど、じゃあ最後の足掻きを見せてもらうぜ!」
 
「テイクオフ!」
 鳥羽の合図で、二人がシュートする。
「大空へ飛び上がれ!ランサーファルコン!!」
「な、なにぃ!?」
 鋭一は驚愕した。
 ランサーファルコンは、まっすぐターゲットへ向かわずに、大きく頭上へと飛び立ったからだ。
 
「な、なるほど、大きく軌道をズラせば、ストーキングチェイサーを食らう事はない。少しは考えたな。だが、それも浅知恵!」
 ハンターホークが真っ直ぐにターゲットへ向かって行く。
「その軌道は明らかに大回りだ!必殺技使わなくても、普通にハンターホークの勝ちだ!」
 
「い、いや、あれはただ必殺技から逃げるための動きじゃない!」
 鳥羽はソラの考えに気付いたようだ。
「な、なにっ!?」
 
 ランサーファルコンの上昇が頂点に達した瞬間、ランサーファルコンは、反転した。
「いっけぇぇぇ!!」
 その瞬間、ランサーファルコンは信じられないスピードで、急降下した。
「な、なんだ、このスピードは!?」
「反転する事で、翼の揚力をダウンフォースに変換して、超速急降下を可能にしたんだ!」
 
 ランサーファルコンが、猛スピードで、ターゲットに迫る。
 ハンターホークも、ターゲットに近づいてきた。
 
「ま、負けるんじゃねぇ、ハンターホーク!!」
「ファルコンダーーイブ!!」
 
 カンッ!!
 
 空き缶が弾け飛んだ。
 果たして、勝ったのは……。
 
「第三セット、勝者はわずかの差でランサーファルコン!よってこの勝負、ソラ君の勝ち!」
 
「や、やったーー!!」
 
「バカなっ、俺が負けるなんて……」
 鋭一は、ガックリと膝をついた。
 そして、ソラを見て言った。
「お前の勝ちだ。好きにしな」
「え、好きにって……」
「俺が勝ったら、お前のランサーファルコンをもらうって条件だったんだ。だったら、お前が勝ったら、お前の望む通りにするのが筋ってもんだろ」
 鋭一は、自己中で好戦的だが、意外と律儀なところがあるらしい。
 
「そっか、じゃあ……」
 ソラは、鋭一へ手を差し出した。
「なんだ、それは?」
「握手。別に仲良しになろうってわけじゃない。でも、同じBRシリーズを扱うもの同士、ライバルとしてこれからも戦いたいから……そのケジメとして」
 鋭一は、渋々立ち上がり、ソラの手を取った。
「仕方ねぇ、とりあえずは言う事聞いてやるよ。だが、俺は諦めたわけじゃないからな」
「あぁ、望む所さ!」
 
 二人の間に、友情が芽生えた……と言うわけではないが、二人の瞳には、互いを認め合うような感情が浮かんでいた。
 
(やれやれ、前途多難だが、とりあえずは結果オーライかな)
 
 そんな二人のやりとりを見ながら、鳥羽はホッと一息つくのだった。
 
 
 
 
 
           つづく
 
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飛翔空伝C.F.O. 第2話

第2話「初陣!ランサーファルコン」
 
 
 
 鳥羽博士からランサーファルコンを受け取ったソラは家に戻り、自室でランサーファルコンを眺めていた。
「ランサーファルコンか……。見れば見るほどよく設計されてるのが分かる」
 ベッドの上に寝転がりながら、ランサーファルコンをいろいろな角度に傾けてよく観察した。
「主翼は後進翼になっていて、高速飛行時の空気抵抗を減らしているのか。それがあの飛行力の秘密だな、それにこのクチバシみたいなフロントも重量配分をよく考えられてる……」
 工学的な意味で惹かれるものは大きい。
 しかし、それ以上にソラにとってこの機体は感情的な意味で惹かれるものもあった。
「なんでだろう、初めて見るものなのに、どこか懐かしい……」
 それに、さっき飛ばした時に聞こえた声……あれは一体?
「もっとこいつを飛ばせば、分かるかもしれない」
 もっとランサーファルコンを飛ばしたい。C.F.O.ともっと関わりたい。
 ソラは自然とそんな風に考えたのだった。
 
 そして、翌朝。
 ソラは朝早くから家を飛び出し、街外れにある大きな建物の前に立っていた。
「ここで、いいんだよな……」
 ソラは仕切りに手に持った地図と建物を交互に確認しながら呟いた。
「こんなとこにこんな研究所があったんだ」
 ソラは昨日鳥羽博士からもらった名刺を元に、鳥羽の研究所にやってきたのだ。
 しかし、無機質で四角ばった、いかにも絵に描いたような研究所に少し感嘆した。
 ソラは門に備えられた呼び鈴を鳴らし、受付の案内に従って中に入った。
 
 ソラが連れられたのは応接間のようだった。
 応接間といっても、会議室も兼ねているような感じで、中はパイプイスと長机が規則的に並べられているだけの殺風景な空間だ。
 
 ソラは若干緊張しつつも、手持ち無沙汰になりながらイスに腰掛けていると、扉が開かれて白衣姿の鳥羽博士が現れた。
「あ、こんにちは」
 軽く会釈をすると、鳥羽は片手を上げて笑顔で返事をしてくれた。
「やぁ、ソラ君。早速きてくれたんだね。でも、学校は大丈夫なのかい?」
「あ、はい。今日は日曜日なので」
 そう言うと、鳥羽はハッとして少しはにかんだ。
「あ、そう言えばそうか!いやぁこういう仕事してると、曜日の感覚がなくなってね」
 研究所の所長ともなると、休みも不定期になるのだろうか。
 よく見ると、鳥羽博士の目元には薄っすらとクマが出来ている。
「でも、折角来てくれたのに悪いね、君のハングライダーの修理はまだ終わってないんだ。終わったら連絡するつもりだったんだけど……」
「あ、いえ、それはいいんです!」
 元よりそんな事は百も承知だ。
 ソラだってパイロット志望の端くれ、こんなに早く修理出来るとは思っていない。
「え……?じゃあ、今日はどうして……」
「博士、僕C.F.O.の事もっと知りたいんです!こいつを飛ばした時、不思議な感覚に包まれた。初めて見るものなのに、懐かしさを感じたんです!それがなんなのか、ここに来てC.F.Oについて教えてもらえば、何かわかるじゃないかと思って……」
 ソラは真っ直ぐ博士の目を見て、一気に語った。
 その真摯な態度を見て、鳥羽は思いを巡らせた。
(初めてのフライトでの、あの飛行技術……そして、彼自身が覚えた違和感……やはり、彼には何かあるのかもしれない)
 そんな風に考えた鳥羽は、大きく頷いた。
「分かった、ついて来なさい。研究所を案内しよう」
 そう言って、鳥羽は扉へと歩いて行った。
「あ、ありがとうございます!」
 お礼を言って、ソラも鳥羽の後に続いた。
 
 応接間を出てから、廊下を五十メートルほど歩いた先にある大きな扉を開くと、そこにはさまざまなコンピューターや機械設備のある部屋があった。
 そこでは、鳥羽と同じように白衣を来た男達がさまざまな作業をしている。
 今まで見た事のない珍しい光景を目の当たりにして、ソラはせわしなく視線を動かした。
「ここが、C.F.O.の研究開発を行っている部屋だ。君のランサーファルコンもここで生まれたんだよ」
「こ、ここで……」
 ソラは、ただただ感嘆するしかなかった。
「あれ?博士、誰ですかその子?」
 ソラの存在に気づいた研究員が興味深げな視線を送って来た。
「昨日話した子だよ、訳あってC.F.O.について教えることになったんだ」
「へぇ~、君が昨日博士が話してた少年か……」
「ど、どうも」
 興味深げな視線に居心地の悪さを感じながら、ソラは会釈をした。
「皆は気にしないで作業を続けててくれ、それじゃソラ君、こっちへ」
 
 そして、鳥羽は自分の席と思われるデスクに座り、隣に空いているイスを用意してソラを促した。
 ソラがイスに座ると、鳥羽はデスクにあるパソコンの電源を入れた。
 
「C.F.O.と言うのはね、カタパルト・フライング・オブジェクトの略で、その名のとおりカタパルト式シューターを使って小型航空機を空に飛ばす飛行ホビーなんだ」
「飛行ホビー……」
「そう、翼の形状、重量バランス、空力特性、全て航空力学を参考にして作られてる」
「それがあの飛行能力か……」
「そして、こいつの目的はただ飛ばすだけじゃない。C.F.O.は、他人と競い合う事のできる競技ホビーなんだ!」
「競う?飛行機で?」
 飛行機は乗り物という認識が強かったソラにとって競技と言われてもピンとこなかった。
「あぁ、誰が1番遠くに飛ばせるかという距離を競ったり、ターゲットを狙って飛ばしたり……」
「へぇ~……」
 ソラはランサーファルコンを見た。
 こいつで闘う事ができる……。
 じゃあもし、その戦いで勝ったら、もしかしたら……。
「そうだ、来週の土曜日国衙広場でC.F.O.の大会があるんだ。規模は小さいけど、よかったら出てみたらどうかな?」
「大会……!」
 こいつで、大会に出られる……もっと、高みへ行ける……!
 ソラの心は密かに躍っていた。
「確かここに……あぁ、あったあった、はい、これパンフレット」
 鳥羽は机の引き出しから一枚の紙を取り出してソラに渡した。
「あ、ありがとうございます!僕、出てみます」
「そうか、当日は私も行く予定だから、分からない事があったら遠慮なく聞きなさい」
「はい!」
 
 その後もいろいろ教えてもらったのだが、専門的な話しが多くなって、ソラにはチンプンカンプンだった。
 それよりも、ソラの頭の中はランサーファルコンを飛ばす事でいっぱいだった。
 
 
 そして、翌週の土曜日。
 ソラはパンフレットにしたがって国衙広場へやってきた。
 国衙広場とは、元は国衙寺があった跡地だが、大昔に寺が倒壊した後は、整地して広場になっている。
 15haほどの広さのこの場所は、普段は子供達のかっこうの遊び場となっているのだ。
 
 そんな広場も今日はいつもと違う雰囲気だ。
 『C.F.O.国衙大会』と書かれた看板に受付用のテント、そして、参加者であろう子供達の熱気は今までこの場所で見た事のないものだった。
 
「こ、これがC.F.O.の大会……なんか圧倒されるな……」
 周りの空気に圧倒されつつも、ソラはワクワクしていた。
 この中で、ランサーファルコンを飛ばせる……早く飛ばしたい!
「やぁ、ソラ君」
 心を燃やしていると、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、鳥羽博士がいた。
「鳥羽博士、こんにちは!」
「どうだい、初めての大会にでる気分は?」
「はい、皆凄い熱気で……なんだかワクワクしてきました!」
 ソラが元気よく答えると、鳥羽は嬉しそうに笑いながら頷いた。
「はっはっはっ!それはよかった!じゃあ、しっかりね」
 ポンポンとソラの肩を叩くと、鳥羽は運営側のテントへと歩いて行った。
 
 そして、受付を終え、エントリーカードを貰ったソラがしばらく待っていると、会場にマイクのスイッチが入った電子音が響いた。
 その音を合図に、備え付けステージに、鳥人間のようなコスプレをした二十代くらいの男がマイクをもって現れた。
 
『みんなー!C.F.O.国衙大会へようこそ!僕は今大会の司会進行を務める、DJバードマンだ!よろしくな!!』
 バードマンは鳥みたいに手についた翼をバサバサと動かした。
 
『今大会のルールは、単純明快飛距離勝負!皆にはC.F.O.を真っ直ぐ飛ばしてもらい、その距離を測定し、最も遠くへ飛んだC.F.O.の優勝だ!』
 
「飛距離勝負か……」
 初出場のソラとしては、単純明快なルールなのは助かる。
 
『受付でエントリーカードを貰ったと思うけど、そこに書かれている数字が、参加するグループだ!』
 
「僕は、10番目のグループか……」
 結構遅めの順番だ。
 
『書かれているグループが呼ばれたら、滑走路を模したスタート位置についてくれよ!』
 
 見ると、競技で使うであろう、人が誰もいないスペースの一部に、小さな滑走路のような意匠が施されていた。
 
『そんじゃ、そろそろ大会を始めるぞ!第一グループの皆は滑走路に集まってくれ!』
 
 バードマンの指示で、数人の子供達が滑走路に集まって、C.F.O.を構えた。
 
『そんじゃ、おっぱじめるぜ!テイクオフ!!』
 
 バードマンのスタート合図と共に一斉にC.F.O.が放たれた。
 複数の小型飛行物体が一斉に飛ぶ様は、まるで渡り鳥の群れを彷彿とさせた。
 
『おおっと、なかなかの高得点だぞ!佐久山君のウィングバード、23メートルを記録したぁ!!』
 
 大会は恙無く進行して行く。
 
『のっと!下松君、26メートル!第六グループにて、もうこんな高得点がでてしまったぁ!!』
 
「へぇ、すごいなぁ」
 ソラは素直に感心するのだが、当の下松君は、少し不服な様子だった。
「あっれ~、いつもはもっと飛ぶのになぁ……ま、トップだからいいか」
 その様子を見たソラは少し思案した。
(……そうか!)
 
 
 そして……。
 
『そんじゃ、次は第十グループだ!パイロットの皆は滑走路についてくれ!!』
 
「あ、やっと僕の番だ」
 ソラは待ちくたびれたとばかりに小走りでスタート位置についた。
「さぁ、初陣だ、ランサーファルコン……!」
 初めての大会……ソラの心臓は爆発しそうなほどに激しく動いていた。
 
『そんじゃいくぜ、テイクオフ!』
「いけー」
「負けるなー」
 
『さあ、一斉に綺麗なスタート……い、いや、今大会初出場、天崎ソラ君のランサーファルコンが出遅れている!やはり初参加で緊張したのか!?』
 
「へへ、だっせ!」
「ま、初心者じゃしょうがないよなぁ」
 出遅れるソラを見て、皆口々に見下したような事を言う。
 しかし、ソラの表情は冷静だった。
 
『ランサーファルコンとトップグループの差はどんどん開いて行きます!これはもう見込みなしか?!』
 ランサーファルコンはトップからかなり離されてしまった。
『そして、現在のトップは……おおっと、ここで失速!各C.F.O.の高度が下がって行きます!……な、なんだぁ?!』
 会場がざわめいた。
 殆どのC.F.O.が着地してる中、ランサーファルコンだけがまだ飛行していたからだ。
『ランサーファルコンがまだ飛んでいる!と、ここでトップの機体が着地した!飛距離は24メートル!しかし、ランサーファルコンの勢いは、それを超えそうだぞ!!』
 
「よし、うまく行った!」
 ガッツポーズを取るソラ。やはりこれは作戦のようだ。
 しかし、一体どういう作戦なのか……。
 
「そうか、C.F.O.が何台も並んで飛んだら、乱気流のせいでいつもより揚力が落ちる!だから、わざとスタートを遅らせて、他の機体の影響を受けないようにしたのか……。この競技は、スピード勝負じゃないからスタートが遅れても問題がない!考えたな、ソラ君……!」
運営側のテントから見ていた鳥羽は、ソラの作戦に気付いたようだ。
 
『ソラ君のランサーファルコン!トップの機体を悠々と飛び越えて着地!距離は、なんと31メートル!これは、大会新記録だぞ!!』
 会場から歓声が上がった。
「やったぁ!」
 
 そして、その後もランサーファルコンの記録を敗れるものは現れず、優勝はソラのものになった。
 
『国衙大会優勝は、天崎ソラ君だ!おめでとう!!』
「ありがとうございます!」
 バードマンからメダルを渡され、会場からは割れんばかりの拍手を貰ったソラは一礼して、ステージを降りた。
 
 一般のスペースに戻ると鳥羽博士が声をかけてきた。
「やったね、ソラ君。大したものだ」
「博士。ありがとうございます、これもランサーファルコンのおかげです」
「ははは、それで何か掴めたものはあったかな?」
「それは、まだ……」
 あの時の感覚の正体は、分からない。
「そうか……」
「でも僕、これからもこいつと一緒に飛ぼうと思います!そうしていけば、きっといつか……」
 父さんに近付ける気がするから……。
「そうか、分かった。私も出来る限りサポートするよ、何かあったら遠慮なく頼りなさい」
「はい、よろしくお願いします!」
 ソラと鳥羽はガッシリと握手を交わした。
 
 
 
       つづく
 
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飛翔空伝C.F.O. 第1話

第1話「テイクオフ!」
 
 
 
 ここは、日本本州最西端に位置する地方の、とある山に囲まれた小さな町、『空口町』。
 人口1万人ほどの小さな町で、最近都市開発が進んでいるものの、まだまだ自然の多い田舎町である。
 そのとある河川敷で、一人の少年がハングライダーを抱えて坂の上で立っていた。
 
「風向き良し、風力良し、うん!テイクオフには絶好のタイミングだ!」
 少年はそうつぶやくと、ダッ!と坂を駆け下りだした。
「いっけええええ!イカロス号!!」
 加速が最大限に達すると同時に、少年の足は地面を蹴って飛び上がる。
 
 ぶわああああ!!!
 イカロス号と呼ばれたハングライダーの翼は向かい風を掴みとり、高く飛び上がった。
「やった!やったぁ、成功だ!!飛べたぞぉ!!」
 自分の体がどんどん地面から離れていくのを実感すると、少年は歓喜の声を上げた。
 風を読み、空中を自在に浮遊していく。
「これで、少しは父さんに近づけたかな……?」
 
 少年の名は、天崎ソラ。12歳。
 7年前に死んだ父親の跡を継いで、パイロットになるため。形見のハングライダー『イカロス号』で毎日飛行の練習をしているのだ。
 
「父さん……」
 ソラは少ししんみりした様子で昔を思い浮かべる。
 
 ……。
 ………。
 
 7年前のとある朝。
 幼きソラは父親と一緒に朝食をとっていた。
「ねぇ、パパ」
「ん~?」
 父は、新聞を読みながら生返事をする。
「パパのお仕事って、お空を飛ぶ事なの?」
「ん、あぁ、そうだな。お空を飛ぶ事だ」
 父は少し考えて、ソラの発言に合わせた。
「すごーい!じゃあ、ウルティママンと同じだね!パパはウルティママンなんだぁ!!」
 ウルティママンとは、怪獣と戦う巨大ヒーローを描いた特撮番組だ。当然空も飛べる。
「あははは、違う違う」
 父は笑いながら、新聞を置いてソラに向き直った。
「パパはな、パイロットっていう。飛行機の運転をするお仕事なんだ。たくさんのお客さんを大空へ招待するお仕事なんだよ」
「へぇぇ~」
「危険がいっぱいのお仕事だけど、地面を離れて、普通では絶対に行くことの出来ない大空へ飛ぶ……とても夢のあるお仕事なんだよ」
「なんか、かっこいい!僕も、パパみたいなパイロットになりたい!!」
 それを聞くと、父は嬉しそうにソラの頭を撫でた。
「あははは、そうか!じゃあ、頑張って勉強しなきゃな」
「うん!!」
 ソラは強くうなずいた。
「空は良いぞ……地面も何もない、自由な世界だ。周りには、白い雲と青い空間しかない。上に行く事も下に行く事も出来る……いつか、お前も自分の力で見ると良い」
 父の語る空の世界は、ソラにとって夢物語のような世界だった。
 ソラは幼いながら強く誓った。いつか絶対、自分の力で父と同じ世界を見るんだと。
 
 しかし、この会話が、ソラにとって父と交わした最後の会話だった。
 
 数時間後、父の運転していた飛行機が、事故で東北の山奥へと墜落したとのニュースが走った。
 搭乗員は全て焼け死に、死体も回収できない有り様だったという……。
 
 ……。
 ………。
 
 回想シーン終わり。
「あっ!」
 機体バランスが多少崩れかけたことで、ソラは自分が夢想していた事に気づいた。
「やべっ!」
 慌ててバランスを整える。
「ふぅ……危ない危ない。フライト中は集中しなきゃな」
 自分を諌めながら、ソラは飛行を続けた。
「まだ、父さんが見ていた世界には届かないけど。いつか必ず、羽ばたいて見せる!」
 ソラは改めて誓いを胸に込めると、まっすぐ前を見据えた。
 その時だった。
 
 ビュンッ!!
 青い、謎の小型飛行物体が目の前を通り過ぎた。
「うわっ!」
 そのせいで、不意を突かれて完全にバランスを崩してしまった。
「し、しまっ!」
 もう遅い。
 失速してしまったハングライダーはそのまま姿勢を傾けながら落下してしまった。
 
 ドササササ!!
 ソラは、せめて落下時のダメージは軽減しようと最低限の受け身はとった。
「い、てててて……」
 しかし、身体は無事でも、イカロス号の方は……。
「あぁ!イカロス号~!!」
 無残な有り様だった。骨組みは折れ、羽はボロボロ。これでは修理しないともう飛ぶ事は出来ない。
「そんなぁ……もう今月のお小遣いないのに……」
 修理しようにもそのお金もないようだ。
 ソラは涙目になった。
「おーーーい!!」
 その時、遠くから中年男性の声が近づいてきた。
 見ると、白衣を着た細身の男がこちらに駆け寄ってくる。
「はぁ、はぁ……す、すまない!大丈夫か、君!?」
 白衣の男は息を切らしながら謝ってくる。
「ぼ、僕は大丈夫ですけど……イカロス号、ハングライダーが……」
 ソラは恨めし気にその男とボロボロになったイカロス号を交互に見る。
「あぁ、ごめんよぉ!新型機のテスト飛行をしてたんだが、まさか君が飛んでるなんて思っても見なくて!」
 白衣の男は両手を合わせて平謝りしてきた。
「本当にごめん!もちろん、弁償はするから!!」
「あ、はい、まぁ、弁償してくれるなら、いいんですけど……」
 そこまで謝られたら、それ以上責めることはできない。
「それじゃぁ、これ連絡先」
 白衣の男は、名刺をソラに渡した。
「鳥羽……さん?」
 名刺には、『鳥羽』と書いてあった。
「ああ、皆からは鳥羽博士と言われている」
「博士……」
 博士って事は何かを研究したりする人の事を言うはずだ。そういえば、さっき新型機のテストがどうのこうの言っていたが……。
「それから、君の名前と連絡先も教えてもらいたいんだけど」
「あ、はい。僕は、天崎ソラです」
 そして、電話番号を教えた。
「ソラ君か。本当にすまない。そのハングライダーは責任もって弁償するから」
「はい、お願いします」
 しかし、いくら弁償してもらったとしても、ハングライダーが直るまで時間がかかる事には代わりないだろう。
 その間は、もう飛ぶ事が出来ない。
 そんな、気落ちが顔に現れていたのか、鳥羽博士はさらに提案してきた。
「それと、お詫びと言ってはなんなんだけど……」
 言って、先ほど飛ばしていた小型飛行物体を取り出す。
「これを、君あげるよ」
「え、これは……?」
「C.F.O.の新型機だよ。名前は『BR-2 ランサーファルコン』」
「しーふぉー?」
 ランサーファルコンとか言われても、C.F.O.そのものがなんなのか分からないのでピンと来ない。
「C.F.O.知らないのかい?」
 ソラの反応に、鳥羽博士は意外そうな顔をした。
「ええ」
「あぁ、そうか。C.F.O.っていうのは、シューターで飛ばす小型の飛行物体の事なんだ。ちょっと見てて」
 そう言って、鳥羽博士はシューターらしきものともう一つ別の小型飛行物体を取り出した。
「グリップ、装着!」
 鳥羽博士がシューターにグリップを装着する。
「カタパルトチャージ!」
 シューターのカタパルト部分を引く。
「C.F.O.セット!」
 シューターにC.F.O.を乗せた。
「テイク・オフ!ウィングバード!!」
 そう言って、シューターのボタンを押すと、カタパルトが勢いよくウィングバードと呼ばれたC.F.O.を射出した。
 
 シュパァァァァ!!!
 射出されたウィングバードは、風に乗って空高く舞い上がった。
「す、すごい……!」
 ソラは思わず感嘆を漏らした。
「な、すごいだろう?」
 鳥羽博士は、得意げな顔をする。
「小型だけど、ちゃんと航空力学に則った翼の形状、そして重量バランスをしている。それがあの飛行性能を生み出しているのか……」
 ソラは、見事にC.F.O.の飛行性能を分析して見せた。
(へぇ、たった一回見ただけでそこまで見抜くとは)
 鳥羽博士はそんなソラに興味を抱く。
「……」
 ソラは、真剣な目でランサーファルコンを見つめた。
「飛ばしてみるかい?」
「は、はい」
 鳥羽博士は、ソラにシューターを渡した。
 
 ソラは博士の見よう見まねで、ランサーファルコンをシューターにセットした。
 そして、構える。
「……」
 しかし、構えたまま打ち出そうとしない。
「飛ばさないのかい?」
 博士の問いかけには答えず、ソラは黙って空を見ている。
(まだだ、この風じゃ飛べない……!)
 数秒して、風向きが変化する。
 
 ヒュウウウウウ……!
(今だ!)
 一縷の風がソラの頬を撫でた瞬間、ソラはシューターのスイッチを押した。
 
「テイク・オフ!飛べ、ランサーファルコン!!」
 シュパァァァァァァァ!!
 シューターから放たれたランサーファルコンは、風に乗って空高く飛び上がった。
(まさか、風を読んだのか!?)
 ランサーファルコンは凄い勢いで飛んでいく。
「す、すごい!まるで、風を切って飛んでるみたいだ……!相当空力を考えて設計されてるんだな……」
 ソラは、その飛行能力に驚愕する。
(いや、凄いのはソラ君だ……。たった一回の飛行でここまでランサーファルコンを使いこなすとは……これは、もしかしたら、凄い掘り出し物を見つけたのかもしれない)
 
「よし、飛べ!もっと飛べ!ランサーファルコン!!」
 飛び上がるランサーファルコンに感動したソラは、更に声援を送る。
 その時だった。
 
 ビュウウウウ!!
 ランサーファルコンの方から風が吹いてきた。
 その風の中で、ソラは懐かしい声の響きを聴いた。
 
 “大空を目指せ、ソラ!そこで、父さんも待ってるぞ”
 
 ランサーファルコンが風を巻き起こし、父の声を運んでくれた……そんな気がした。
 
 
 
 
        つづく
 
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