飛翔空伝C.F.O. 第3話

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第3話「ランサーファルコンVSハンターホーク」
 
 
 
 C.F.O.国衙大会を、初出場初優勝で飾ったソラは、軽い足取りで家路についていた。
「優勝かぁ……ふふ、やったな、ランサーファルコン」
 ランサーファルコンと優勝メダルを交互に眺めながらニヤニヤするソラ。
 そんなソラの前に、ソラより一回り小さい少年が、通せんぼするように仁王立ちで現れた。
「おい、お前!」
 少年は、好戦的な態度で声をかけてきた。
「え、何?」
 一瞬、誰に向けられたのか分からず、ソラは唖然とした。
 それもそうだ、見ず知らずの少年に因縁を付けられる覚えはない。
「あの程度の大会で優勝したくらいでいい気になってるなんて、ずいぶん低レベルなパイロットだな」
「な、なに!?」
 いきなり侮辱的な事を言われては、温厚なソラもさすがに顔を顰めた。
「さっきの大会、俺だったら40mは飛んでたぜ」
「き、君は一体……!」
 身構えながらも質問したソラへの返答はせず、少年は勝手にしゃべり続けた。
「お前なんか、BRシリーズには相応しくないぜ!俺のC.F.O.の修理が終わったら真っ先にお前を叩き潰してやる!」
 勝手に宣戦布告したのち、少年はソラの反応を待たずにとっとと去っていった。
「な、なんだったんだ……」
 あまりの展開の早さについていけず、ソラは某然と少年の後姿を眺めるしかなかった。
 しかし、一つだけ、彼の言葉で引っかかるものがあった。
「BRシリーズ……?」
 何かの略だろうか……。
「そういえば、ランサーファルコンも、BR-2とか言われたような……」
 彼が言ったそれと、博士が言ったものが、同じものを指すのかはハッキリしない。
 しかし、これから何かが起こる。何となくそんな予感がした。
 
 そして翌日、ソラはランサーファルコンのメンテをしてもらうために、鳥羽研究所に赴いた。
「こんにちは、ソラ君。昨日はご苦労様。今日はどうしたんだい?」
「こんにちは、博士。実は、あの後何回かランサーファルコンを飛ばしたんですけど、ちょっと調子がおかしかったんで、見て欲しいんです」
「そうか、分かった。ランサーファルコンを貸してごらん」
「はい」
 鳥羽はソラからランサーファルコンを受け取ると、何か大きな機械の中にいれてコンピュータで分析をはじめた。
「……なるほど、尾翼が少し曲がってるな。でもこのくらいなら、すぐに直るよ」
「ほんとですか?」
「あぁ、五分も掛からないよ。少し待ってなさい」
 言って、鳥羽はランサーファルコンを取り出して、作業をはじめた。
「あ、僕も見てていいですか?また、何かあった時はある程度自分でなんとか出来るようにしたいので」
「あぁ、いいよ。簡単なメンテナンスや修理の仕方を教えよう」
「ありがとうございます!」
 ソラは、鳥羽からいろいろ教わりつつ、ランサーファルコンを修理してもらう事になった。
 
「よし、これでランサーファルコンは元通りだ」
「ありがとうございます、博士」
 鳥羽からランサーファルコンを受け取ったソラは思い出したように鳥羽に問うた。
「あ、そういえば博士」
「なんだい?」
「前にランサーファルコンを貰った時、『RB-2』って言ってましたけど、あれって何なんですか?」
「あぁ、あれか。あれは、コードネームみたいなものだよ。あるコンセプトをものに開発したRBシリーズのC.F.O.に付けられるんだ」
「シリーズ……って事は、ランサーファルコンの他にもあるんですか?」
「あぁ、例えば……」
 鳥羽が口を開くのとほぼ同時に、研究員が鳥羽に声をかけた。
「博士、鋭一君から頼まれてたハンターホークの修理、ようやく完了しました」
「おぉそうか、ご苦労様。じゃあ彼に届けてやらないとな……」
 と、ソラの顔を見て思いついたように鳥羽は言った。
「そうだ、丁度いい。ソラ君、君も一緒に来るかい?」
「え、どこへですか?」
「君の仲間になるかもしれない少年の所さ。今の質問の答えもそこにあるさ」
「は、はぁ……」
 
 鳥羽に言われるまま、ソラは鳥羽の車に乗せられて、研究所とは反対方向の町外れに向かった。
 そこは、山の麓にある大きなお屋敷があった。
「大きな家……」
 相当な金持ちが住んでるのだろう、ソラは圧倒された。
 鳥羽は、大きな門の呼び鈴を鳴らした。
 門には『鷹山』と言う札が貼られていた。
 
 鳥羽が門の前で何か話すと、屋敷の扉が勢いよく開き、中から待ちきれないとばかりに、一人の少年が駆けてきた。
「博士!直ったのか!?」
「やぁ、鋭一君。待たせたね、ハンターホーク修理完了だよ」
「ったく、遅いぜ博士!待ちくたびれた!」
「何言ってるんだい。君が無茶な バトルして、機体をボロボロにするからだろう。次からはもっと大事に扱ってくれよ」
「あーはいはい、分かった分かった!」
 鋭一はひったくるように鳥羽からハンターホークを受け取った。
「へへ、これでやっとまた戦えるぜ!」
 受け取ったハンターホークを眺めながら、鋭一はニヤニヤ笑っていた。
「それと、鋭一君。今日は君に紹介したい子がいるんだ」
「なに?」
 鳥羽は一歩後ろに下がっていたソラに声を掛けた。
「ソラ君、紹介するよ。彼は、鷹山鋭一君。君よりも先に私の開発したC.F.O.を託した少年だ。彼のもっているハンターホークは、ランサーファルコンと同じコンセプトで開発した兄弟機、言わばランサーファルコンのお兄さんみたいなものなんだ」
「よろし……って、あっ!」
 鳥羽に言われて前にでて、挨拶しようと鋭一の顔を見た瞬間、ハッとした。
 鋭一もソラの顔を見て、少し顔を強張らせた。
 しかし、鳥羽はそれに気付かずに話を続けた。
「で、鋭一君。彼が天崎ソラ君、ランサーファルコンを……」
「知ってる。しょぼい大会で優勝したへぼパイロットだろ」
「っ!」
 いきなり侮辱されてしまい、ソラは反射的に鋭一を睨んだ。
「な、なんだ、知り合いだったのかい。だったら話が早い。これからは、同じBRシリーズのパイロットとして、二人仲良く協力して……」
「お断りだ。こんな素人と組めるか!」
 鳥羽が言い切る前に、鋭一が言った。
「え、あ、えぇ!?」
 あまりにもあんまりな反応に、鳥羽は困惑した。
「んな事より天崎!俺と勝負しろ!」
「え、勝負……?」
「俺が勝ったら、お前のランサーファルコンをいただく!」
「ランサーファルコンを!?」
「最強のパイロットは一人いればいい!そして最強のC.F.O.であるBRシリーズを扱うパイロットも一人で良い!」
「ちょ、鋭一君、何を言って……」
 鳥羽が鋭一を宥めようとするのだが、鋭一はそれを遮ってソラに問う。
「どうする、天崎?この勝負受けるか?それとも尻尾巻いて逃げるか?」
「……」
 負ければ、ランサーファルコンを失う……。そんなのは絶対に嫌だ!
 でも……。
「ランサーファルコンは失いたくない。でも、勝つにしても負けるにしても、勝負から逃げてたらどのみち、ランサーファルコンを持つ資格なんかない……!」
 ソラは意を決して言った。
「この勝負、受けて立つ!」
「ソ、ソラ君……」
「いいだろう、ついて来い」
 鋭一はそう言って、踵を返して歩いて行く。
 ソラはその後に続いた。鳥羽も、戸惑いながらも後に続いた。
 
 鋭一が案内したのは、屋敷の裏にある巨大な体育館のような場所だった。
 
「あ、あの屋敷の裏に、こんな場所が……」
 ソラはこの広大な場所に圧倒された。
「ここは、俺専用の飛行場だ。さぁ、とっととやろうぜ」
「仕方がない、もうこれ以上はパイロット同士の問題だ。私は立会人を勤めさせてもらうよ」
 鳥羽は半ば諦めたように言った。
「サンキュー、博士」
 鋭一はそういうと、会場のセッティングを始めた。
 体育館の中央にテーブルを置き、その上に空き缶を一本立てた。
 そして、そこから25mくらい離れた場所に白いテープを貼り付けた。
「出来たぜ、これがスタートラインだ。ここから同時にテイクオフし、先にあの空き缶にヒットした方の勝ち。スピード勝負のターゲットバスターだ。三本勝負の二本先取でいくぜ」
「スピード勝負……って事は、ランサーファルコンの得意種目だ!」
「らしいな。まぁ、せっかく勝負を受けてくれるんだ、少しはそっちが有利にならないと不公平だからな」
 意外と律儀なのか、それとも何か裏があるのか……鋭一の表情からは察せなかった。
「それじゃ、始めようぜ」
「あ、あぁ!」
 二人はスタートラインに着いた。
 
「それじゃ行くよ、テイクオフ!」
「飛べ!ランサーファルコン!!」
「食らいつけ!ハンターホーク!!」
 鳥羽の合図で、二人は一斉にC.F.O.を飛ばした。
 ハンターホークは、赤い色をした前進翼のC.F.O.だ。
「いっけぇ!!」
 ハンターホークのスピードもなかなかだが、後進翼のランサーファルコンの方が早く、どんどん差を広げて行く。
 
「よし、行ける!」
 
 カコンッ!
 
 ランサーファルコンがリードを守ったまま、空き缶にヒットした。
 
「第一セット、勝者ソラ君!」
 
「やった!」
「本当の勝負はこれからだぜ」
 負けおしみでもなんでもなく、鋭一は言った。
 彼の表情は至って冷静だ。
「なにっ!」
「獲物のルートはもう見極めた。そろそろ狩りの時間だ」
 
 二人は、C.F.O.を拾い、スタートの準備をする。
 
 スタート位置に着くと、鋭一が話しかけてきた。
「なぁ、ハンターがどうやって獲物をしとめるか、知ってるか?」
「え?」
「ハンターは、獲物を見つけても、すぐには飛びかからない。ひたすら観察するんだ。じっくりと相手の動き、癖を見極め、相手を完全に把握してから襲いかかる」
「それとC.F.O.と、どう関係があるんだ?」
「バトルも同じって事だよ。空見てるだけじゃ、勝てねぇって事だ」
「……」
 
「それじゃ、両者構えて!テイクオフ!!」
「「いけぇ!!」」
 
 鳥羽の合図で、一斉にスタートする。
 ランサーファルコンがハンターホークの前に出た。
 
「よし、このままいけるぞ!」
「甘いぜ!」
 
 ハンターホークがランサーファルコンの真後ろに着いた。そのままピッタリとくっついてくる。
 
「ひ、引き離せない?!なんで!!」
「スリップストリーム、機体の真後ろは空気抵抗が少ない上に、ランサーファルコンが作り出した気流に乗ってスピードをあげる事が出来る」
「そ、そんなっ!でも、いくらスリップストリームでも、ずっと相手の真後ろに着けるなんて……」
「ハンターホークは前進翼故にワザと機体バランスを崩す事で、運動性能を上げている。加えて、さっきのフライトでお前の動きも見切った。このくらい、朝飯前なんだよ!」
 スリップに引っ張られるように、ランサーファルコンとハンターホークの差が徐々に縮まって行く。
「あ、あぁ……!」
 ソラは恐怖した、が、もう遅い。
「これが俺の得意技!ストーキングチェイサーだ!!」
 
 バキィ!!
 
「ランサーファルコン!!」
 ハンターホークが後ろからランサーファルコンを弾き飛ばし、そのまま空き缶にヒットした。
 
「第二セット、勝者鋭一君!これでイーブンだ」
 鳥羽のジャッジを聞き終わる前に、ソラはランサーファルコンを拾いに駆け出していた。  
 
「ランサーファルコン……」
 ランサーファルコンを拾い上げ、鋭一に目を向けた。
 鋭一は余裕の表情をしている。既に勝利を確信しているのだろう。
「……」
 ソラは神妙な面持ちで、スタート位置に戻った。
 そして思案する。
 
(どうしよう、このままじゃ負けは確実……だけど、ランサーファルコンは渡せない。一体どうすれば……)
 
「万策尽きたか?悪いが俺は手加減しないぜ」
 鋭一が話しかけてくるが、ソラの耳には入らない。
 
(後ろを付かれるから狙われるなら、ワザとスタートを遅らせれば……いや、これはスピード勝負、スタートを遅らせるのは致命的だ。だったら、どうすれば……)
 
 その時、ソラの周りを一縷の風が吹いた。
 屋内だと言うのに、確かに風を感じたのだ。
 そしてその風は、懐かしい声を運んでくれたような気がした。
 
 “空を見ろ、そこに答えがある”
 
(父さん……)
 
 それは、本当に父の声だったのか、それともただの幻聴だったのか。
 
(空を……そうか!)
 少なくとも、今のソラには最高のアドバイスとして受け取られた事には違いない。
 
「両者、構えて!」
「っ!」
 鳥羽の声で我に返った。
「どうした?随分考え込んでたじゃねぇか。もうランサーファルコンに別れは告げたのか?」
「ランサーファルコンは渡さない。この勝負は僕が勝つ!」
「なるほど、じゃあ最後の足掻きを見せてもらうぜ!」
 
「テイクオフ!」
 鳥羽の合図で、二人がシュートする。
「大空へ飛び上がれ!ランサーファルコン!!」
「な、なにぃ!?」
 鋭一は驚愕した。
 ランサーファルコンは、まっすぐターゲットへ向かわずに、大きく頭上へと飛び立ったからだ。
 
「な、なるほど、大きく軌道をズラせば、ストーキングチェイサーを食らう事はない。少しは考えたな。だが、それも浅知恵!」
 ハンターホークが真っ直ぐにターゲットへ向かって行く。
「その軌道は明らかに大回りだ!必殺技使わなくても、普通にハンターホークの勝ちだ!」
 
「い、いや、あれはただ必殺技から逃げるための動きじゃない!」
 鳥羽はソラの考えに気付いたようだ。
「な、なにっ!?」
 
 ランサーファルコンの上昇が頂点に達した瞬間、ランサーファルコンは、反転した。
「いっけぇぇぇ!!」
 その瞬間、ランサーファルコンは信じられないスピードで、急降下した。
「な、なんだ、このスピードは!?」
「反転する事で、翼の揚力をダウンフォースに変換して、超速急降下を可能にしたんだ!」
 
 ランサーファルコンが、猛スピードで、ターゲットに迫る。
 ハンターホークも、ターゲットに近づいてきた。
 
「ま、負けるんじゃねぇ、ハンターホーク!!」
「ファルコンダーーイブ!!」
 
 カンッ!!
 
 空き缶が弾け飛んだ。
 果たして、勝ったのは……。
 
「第三セット、勝者はわずかの差でランサーファルコン!よってこの勝負、ソラ君の勝ち!」
 
「や、やったーー!!」
 
「バカなっ、俺が負けるなんて……」
 鋭一は、ガックリと膝をついた。
 そして、ソラを見て言った。
「お前の勝ちだ。好きにしな」
「え、好きにって……」
「俺が勝ったら、お前のランサーファルコンをもらうって条件だったんだ。だったら、お前が勝ったら、お前の望む通りにするのが筋ってもんだろ」
 鋭一は、自己中で好戦的だが、意外と律儀なところがあるらしい。
 
「そっか、じゃあ……」
 ソラは、鋭一へ手を差し出した。
「なんだ、それは?」
「握手。別に仲良しになろうってわけじゃない。でも、同じBRシリーズを扱うもの同士、ライバルとしてこれからも戦いたいから……そのケジメとして」
 鋭一は、渋々立ち上がり、ソラの手を取った。
「仕方ねぇ、とりあえずは言う事聞いてやるよ。だが、俺は諦めたわけじゃないからな」
「あぁ、望む所さ!」
 
 二人の間に、友情が芽生えた……と言うわけではないが、二人の瞳には、互いを認め合うような感情が浮かんでいた。
 
(やれやれ、前途多難だが、とりあえずは結果オーライかな)
 
 そんな二人のやりとりを見ながら、鳥羽はホッと一息つくのだった。
 
 
 
 
 
           つづく
 
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