飛翔空伝C.F.O. 第2話

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第2話「初陣!ランサーファルコン」
 
 
 
 鳥羽博士からランサーファルコンを受け取ったソラは家に戻り、自室でランサーファルコンを眺めていた。
「ランサーファルコンか……。見れば見るほどよく設計されてるのが分かる」
 ベッドの上に寝転がりながら、ランサーファルコンをいろいろな角度に傾けてよく観察した。
「主翼は後進翼になっていて、高速飛行時の空気抵抗を減らしているのか。それがあの飛行力の秘密だな、それにこのクチバシみたいなフロントも重量配分をよく考えられてる……」
 工学的な意味で惹かれるものは大きい。
 しかし、それ以上にソラにとってこの機体は感情的な意味で惹かれるものもあった。
「なんでだろう、初めて見るものなのに、どこか懐かしい……」
 それに、さっき飛ばした時に聞こえた声……あれは一体?
「もっとこいつを飛ばせば、分かるかもしれない」
 もっとランサーファルコンを飛ばしたい。C.F.O.ともっと関わりたい。
 ソラは自然とそんな風に考えたのだった。
 
 そして、翌朝。
 ソラは朝早くから家を飛び出し、街外れにある大きな建物の前に立っていた。
「ここで、いいんだよな……」
 ソラは仕切りに手に持った地図と建物を交互に確認しながら呟いた。
「こんなとこにこんな研究所があったんだ」
 ソラは昨日鳥羽博士からもらった名刺を元に、鳥羽の研究所にやってきたのだ。
 しかし、無機質で四角ばった、いかにも絵に描いたような研究所に少し感嘆した。
 ソラは門に備えられた呼び鈴を鳴らし、受付の案内に従って中に入った。
 
 ソラが連れられたのは応接間のようだった。
 応接間といっても、会議室も兼ねているような感じで、中はパイプイスと長机が規則的に並べられているだけの殺風景な空間だ。
 
 ソラは若干緊張しつつも、手持ち無沙汰になりながらイスに腰掛けていると、扉が開かれて白衣姿の鳥羽博士が現れた。
「あ、こんにちは」
 軽く会釈をすると、鳥羽は片手を上げて笑顔で返事をしてくれた。
「やぁ、ソラ君。早速きてくれたんだね。でも、学校は大丈夫なのかい?」
「あ、はい。今日は日曜日なので」
 そう言うと、鳥羽はハッとして少しはにかんだ。
「あ、そう言えばそうか!いやぁこういう仕事してると、曜日の感覚がなくなってね」
 研究所の所長ともなると、休みも不定期になるのだろうか。
 よく見ると、鳥羽博士の目元には薄っすらとクマが出来ている。
「でも、折角来てくれたのに悪いね、君のハングライダーの修理はまだ終わってないんだ。終わったら連絡するつもりだったんだけど……」
「あ、いえ、それはいいんです!」
 元よりそんな事は百も承知だ。
 ソラだってパイロット志望の端くれ、こんなに早く修理出来るとは思っていない。
「え……?じゃあ、今日はどうして……」
「博士、僕C.F.O.の事もっと知りたいんです!こいつを飛ばした時、不思議な感覚に包まれた。初めて見るものなのに、懐かしさを感じたんです!それがなんなのか、ここに来てC.F.Oについて教えてもらえば、何かわかるじゃないかと思って……」
 ソラは真っ直ぐ博士の目を見て、一気に語った。
 その真摯な態度を見て、鳥羽は思いを巡らせた。
(初めてのフライトでの、あの飛行技術……そして、彼自身が覚えた違和感……やはり、彼には何かあるのかもしれない)
 そんな風に考えた鳥羽は、大きく頷いた。
「分かった、ついて来なさい。研究所を案内しよう」
 そう言って、鳥羽は扉へと歩いて行った。
「あ、ありがとうございます!」
 お礼を言って、ソラも鳥羽の後に続いた。
 
 応接間を出てから、廊下を五十メートルほど歩いた先にある大きな扉を開くと、そこにはさまざまなコンピューターや機械設備のある部屋があった。
 そこでは、鳥羽と同じように白衣を来た男達がさまざまな作業をしている。
 今まで見た事のない珍しい光景を目の当たりにして、ソラはせわしなく視線を動かした。
「ここが、C.F.O.の研究開発を行っている部屋だ。君のランサーファルコンもここで生まれたんだよ」
「こ、ここで……」
 ソラは、ただただ感嘆するしかなかった。
「あれ?博士、誰ですかその子?」
 ソラの存在に気づいた研究員が興味深げな視線を送って来た。
「昨日話した子だよ、訳あってC.F.O.について教えることになったんだ」
「へぇ~、君が昨日博士が話してた少年か……」
「ど、どうも」
 興味深げな視線に居心地の悪さを感じながら、ソラは会釈をした。
「皆は気にしないで作業を続けててくれ、それじゃソラ君、こっちへ」
 
 そして、鳥羽は自分の席と思われるデスクに座り、隣に空いているイスを用意してソラを促した。
 ソラがイスに座ると、鳥羽はデスクにあるパソコンの電源を入れた。
 
「C.F.O.と言うのはね、カタパルト・フライング・オブジェクトの略で、その名のとおりカタパルト式シューターを使って小型航空機を空に飛ばす飛行ホビーなんだ」
「飛行ホビー……」
「そう、翼の形状、重量バランス、空力特性、全て航空力学を参考にして作られてる」
「それがあの飛行能力か……」
「そして、こいつの目的はただ飛ばすだけじゃない。C.F.O.は、他人と競い合う事のできる競技ホビーなんだ!」
「競う?飛行機で?」
 飛行機は乗り物という認識が強かったソラにとって競技と言われてもピンとこなかった。
「あぁ、誰が1番遠くに飛ばせるかという距離を競ったり、ターゲットを狙って飛ばしたり……」
「へぇ~……」
 ソラはランサーファルコンを見た。
 こいつで闘う事ができる……。
 じゃあもし、その戦いで勝ったら、もしかしたら……。
「そうだ、来週の土曜日国衙広場でC.F.O.の大会があるんだ。規模は小さいけど、よかったら出てみたらどうかな?」
「大会……!」
 こいつで、大会に出られる……もっと、高みへ行ける……!
 ソラの心は密かに躍っていた。
「確かここに……あぁ、あったあった、はい、これパンフレット」
 鳥羽は机の引き出しから一枚の紙を取り出してソラに渡した。
「あ、ありがとうございます!僕、出てみます」
「そうか、当日は私も行く予定だから、分からない事があったら遠慮なく聞きなさい」
「はい!」
 
 その後もいろいろ教えてもらったのだが、専門的な話しが多くなって、ソラにはチンプンカンプンだった。
 それよりも、ソラの頭の中はランサーファルコンを飛ばす事でいっぱいだった。
 
 
 そして、翌週の土曜日。
 ソラはパンフレットにしたがって国衙広場へやってきた。
 国衙広場とは、元は国衙寺があった跡地だが、大昔に寺が倒壊した後は、整地して広場になっている。
 15haほどの広さのこの場所は、普段は子供達のかっこうの遊び場となっているのだ。
 
 そんな広場も今日はいつもと違う雰囲気だ。
 『C.F.O.国衙大会』と書かれた看板に受付用のテント、そして、参加者であろう子供達の熱気は今までこの場所で見た事のないものだった。
 
「こ、これがC.F.O.の大会……なんか圧倒されるな……」
 周りの空気に圧倒されつつも、ソラはワクワクしていた。
 この中で、ランサーファルコンを飛ばせる……早く飛ばしたい!
「やぁ、ソラ君」
 心を燃やしていると、後ろから声をかけられた。
 振り返ると、鳥羽博士がいた。
「鳥羽博士、こんにちは!」
「どうだい、初めての大会にでる気分は?」
「はい、皆凄い熱気で……なんだかワクワクしてきました!」
 ソラが元気よく答えると、鳥羽は嬉しそうに笑いながら頷いた。
「はっはっはっ!それはよかった!じゃあ、しっかりね」
 ポンポンとソラの肩を叩くと、鳥羽は運営側のテントへと歩いて行った。
 
 そして、受付を終え、エントリーカードを貰ったソラがしばらく待っていると、会場にマイクのスイッチが入った電子音が響いた。
 その音を合図に、備え付けステージに、鳥人間のようなコスプレをした二十代くらいの男がマイクをもって現れた。
 
『みんなー!C.F.O.国衙大会へようこそ!僕は今大会の司会進行を務める、DJバードマンだ!よろしくな!!』
 バードマンは鳥みたいに手についた翼をバサバサと動かした。
 
『今大会のルールは、単純明快飛距離勝負!皆にはC.F.O.を真っ直ぐ飛ばしてもらい、その距離を測定し、最も遠くへ飛んだC.F.O.の優勝だ!』
 
「飛距離勝負か……」
 初出場のソラとしては、単純明快なルールなのは助かる。
 
『受付でエントリーカードを貰ったと思うけど、そこに書かれている数字が、参加するグループだ!』
 
「僕は、10番目のグループか……」
 結構遅めの順番だ。
 
『書かれているグループが呼ばれたら、滑走路を模したスタート位置についてくれよ!』
 
 見ると、競技で使うであろう、人が誰もいないスペースの一部に、小さな滑走路のような意匠が施されていた。
 
『そんじゃ、そろそろ大会を始めるぞ!第一グループの皆は滑走路に集まってくれ!』
 
 バードマンの指示で、数人の子供達が滑走路に集まって、C.F.O.を構えた。
 
『そんじゃ、おっぱじめるぜ!テイクオフ!!』
 
 バードマンのスタート合図と共に一斉にC.F.O.が放たれた。
 複数の小型飛行物体が一斉に飛ぶ様は、まるで渡り鳥の群れを彷彿とさせた。
 
『おおっと、なかなかの高得点だぞ!佐久山君のウィングバード、23メートルを記録したぁ!!』
 
 大会は恙無く進行して行く。
 
『のっと!下松君、26メートル!第六グループにて、もうこんな高得点がでてしまったぁ!!』
 
「へぇ、すごいなぁ」
 ソラは素直に感心するのだが、当の下松君は、少し不服な様子だった。
「あっれ~、いつもはもっと飛ぶのになぁ……ま、トップだからいいか」
 その様子を見たソラは少し思案した。
(……そうか!)
 
 
 そして……。
 
『そんじゃ、次は第十グループだ!パイロットの皆は滑走路についてくれ!!』
 
「あ、やっと僕の番だ」
 ソラは待ちくたびれたとばかりに小走りでスタート位置についた。
「さぁ、初陣だ、ランサーファルコン……!」
 初めての大会……ソラの心臓は爆発しそうなほどに激しく動いていた。
 
『そんじゃいくぜ、テイクオフ!』
「いけー」
「負けるなー」
 
『さあ、一斉に綺麗なスタート……い、いや、今大会初出場、天崎ソラ君のランサーファルコンが出遅れている!やはり初参加で緊張したのか!?』
 
「へへ、だっせ!」
「ま、初心者じゃしょうがないよなぁ」
 出遅れるソラを見て、皆口々に見下したような事を言う。
 しかし、ソラの表情は冷静だった。
 
『ランサーファルコンとトップグループの差はどんどん開いて行きます!これはもう見込みなしか?!』
 ランサーファルコンはトップからかなり離されてしまった。
『そして、現在のトップは……おおっと、ここで失速!各C.F.O.の高度が下がって行きます!……な、なんだぁ?!』
 会場がざわめいた。
 殆どのC.F.O.が着地してる中、ランサーファルコンだけがまだ飛行していたからだ。
『ランサーファルコンがまだ飛んでいる!と、ここでトップの機体が着地した!飛距離は24メートル!しかし、ランサーファルコンの勢いは、それを超えそうだぞ!!』
 
「よし、うまく行った!」
 ガッツポーズを取るソラ。やはりこれは作戦のようだ。
 しかし、一体どういう作戦なのか……。
 
「そうか、C.F.O.が何台も並んで飛んだら、乱気流のせいでいつもより揚力が落ちる!だから、わざとスタートを遅らせて、他の機体の影響を受けないようにしたのか……。この競技は、スピード勝負じゃないからスタートが遅れても問題がない!考えたな、ソラ君……!」
運営側のテントから見ていた鳥羽は、ソラの作戦に気付いたようだ。
 
『ソラ君のランサーファルコン!トップの機体を悠々と飛び越えて着地!距離は、なんと31メートル!これは、大会新記録だぞ!!』
 会場から歓声が上がった。
「やったぁ!」
 
 そして、その後もランサーファルコンの記録を敗れるものは現れず、優勝はソラのものになった。
 
『国衙大会優勝は、天崎ソラ君だ!おめでとう!!』
「ありがとうございます!」
 バードマンからメダルを渡され、会場からは割れんばかりの拍手を貰ったソラは一礼して、ステージを降りた。
 
 一般のスペースに戻ると鳥羽博士が声をかけてきた。
「やったね、ソラ君。大したものだ」
「博士。ありがとうございます、これもランサーファルコンのおかげです」
「ははは、それで何か掴めたものはあったかな?」
「それは、まだ……」
 あの時の感覚の正体は、分からない。
「そうか……」
「でも僕、これからもこいつと一緒に飛ぼうと思います!そうしていけば、きっといつか……」
 父さんに近付ける気がするから……。
「そうか、分かった。私も出来る限りサポートするよ、何かあったら遠慮なく頼りなさい」
「はい、よろしくお願いします!」
 ソラと鳥羽はガッシリと握手を交わした。
 
 
 
       つづく
 
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