飛翔空伝C.F.O. 第4話

Pocket

第4話「唯一無二の愛機」
 
 
 
『さぁ、ゴルフ場を貸し切って行ってきたC.F.O.大会も、いよいよ決勝戦だ!』
 
 バードマンの実況が、広大なゴルフ場に響く。
 今日は、ゴルフ場を貸し切って大規模なC.F.O.大会が開かれたようだ。
 
『過酷で白熱したトーナメントを勝ち抜いて、決勝にコマを進めたのはこの二人だ!』
 
 会場にソラと鋭一が入場し、二人が対峙する。
 
『経験はまだ浅いながらも、類稀な才能を見せてくれた、超新星!天崎ソラ君!』
 
 ソラに注目して歓声が上がる。
 
『対するは、持ち前のガッツで豪快なバトルを見せてくれた、バイオレンスパイロット、鷹山鋭一君!』
 
 鋭一に対して歓声が上がる。
 
「天崎!この前は不覚をとったが、今度こそお前に勝ってランサーファルコンをいただくぞ!」
「鋭一、君はまだ……」
「当たり前だ!お前の力を認めてよろしくするとは言ったがなぁ!ランサーファルコンを諦めるとは言ってねぇ!」
「分かった、何度だって受けて立つ!」
 
『両者ともに気合い十分なようだ!そんじゃ改めてルールの確認だ!
今回のルールは、ゴルフ場に乗っ取り、C.F.O.を使ってゴルフをするというものだ!
C.F.O.を何回かフライトさせ、300m先にあるリングに先にC.F.O.を通過させたものの勝利となる!
ただし、ゴルフと違って、C.F.O.は毎回同時に飛ばすぞ!
ここも深い戦術や駆け引きが必要となる重要なポイントだ!』
 
「ルールはもう分かってんだからとっととスタートしろ!」
 
 決勝に来るまで何度もこのルールで戦ったのに、今更ルール説明された事にイラついた鋭一はバードマンを催促した。
 
『お、オーケーオーケー!そんじゃ、そろそろスタートしようか!』
 
 ソラと鋭一がC.F.O.を構えた。
 
「頼んだぞ、ランサーファルコン!」
 
「確実に仕留めろよ、ハンターホーク!」
 
『第一打目、テイクオフ!』
 
「飛べ、ランサーファルコン!!」
 
「やれっ、ハンターホーク!」
 
 二人が同時にテイクオフする。
 
『さあ、決勝戦のスタートだ!まず、飛び出したのはランサーファルコン!さすがの高速性能だ!!』
 
「いけぇ、ランサーファルコン!!」
「学習能力の無い奴だな!この俺にケツを見せたらどうなるか、もう忘れたのか!?」 
 ハンターホークが、ランサーファルコンの真後ろについた。
 
『先行するランサーファルコンだが、ハンターホークはその後ろにピタリとついている!』
 
「く、来るか……!」
「喰らえ!ストーキングチェイサー!!」
 ハンターホークが、後ろからランサーファルコンを突き飛ばす。
 
『出たー!ハンターホーク伝家の宝刀、ストーキングチェイサー!早くも大技炸裂だ!!』
 
「こ、こんな序盤にもう必殺技を……!」
「出し惜しみして勝てる相手じゃねぇからな!言っただろ、お前をBRシリーズの使い手として認めてるってよ!」
 ほんとに変に律儀な奴だ。
 
『さぁ、必殺技でランサーファルコンを撃破したハンターホークは大きくリード!序盤から波乱の展開だ!!』
 
「でも、後ろにいる限りもうあの必殺技は受けない!」
 
『第二打目、テイクオフ!』
 
「「いけえ!!」」
 二人がC.F.O.を飛ばす。
 
『ランサーファルコン猛追!ハンターホークに迫ります!あぁっと、しかし!あと一歩の所で抜かない!』
 
「ん?」
「まだ、勝負は先だ!慎重にいけ、ランサーファルコン」
 
『第三打目、テイクオフ!』
 
 三打目も、同じような展開だ。
 
 四打、五打目も同じ展開が続く。
 
『おおっと、どうした事か!ランサーファルコン、ハンターホークに迫っているのになかなか抜きません!これは、何かの作戦なのか、それとも、ハンターホークの巧みなブロックが抜かせないのか!』
 
「なるほどな、ギリギリまでハンターホークに迫り、最後の最後で抜く事でストーキングチェイサーを受けない作戦か」
「最後の一打で抜いた瞬間にゴールすれば、スリップに入る暇は無いからね」
「なかなか悪くない策だ。だが、甘いな!」
「なにっ!」
「そっちが、ギリギリで抜くつもりなら、こっちはぶっちぎるだけだ!」
 
 そして、レースは進み……。
 
『さあ、バトルも終盤の八打目だ!ゴールまで、あと50mを切っているぞ!だが、この先に待ち構えるのは乱雑にそびえる木々が妨害する林セクション!ここを一発で抜けるのは、難しいぞ!』
 
「なっ、あんな所が!」
「コースレイアウトをよく見ないからだ!俺が最初にストーキングチェイサーを使ったのは、このためなんだよ!」
 
 鋭一は、最初にストーキングチェイサーでリードする事でソラにストーキングチェイサーを警戒させて、あのセクションに差し掛かるまでぶっちぎらせないようにしていたのだ。
 
『第八打目、テイクオフ!』
 

「抜けろ、ハンターホーク!」
 ハンターホークは、木々の間をすり抜けて行く。
 
『これは凄いぞ!ハンターホークは乱雑にそびえる木々をものともせずに華麗に進んで行く!』
 
「前進翼のハンターホークの運動性能があれば、このくらいわけないぜ!」
「くっ、ランサーファルコン!」
 
『一方のランサーファルコンは大苦戦!木々にぶつかり、ペースダウンだ!』
 
 ランサーファルコンは林セクションの中盤で着地し、ハンターホークは林セクションを抜けたところで着地した。
 
『ここに来て、大きく差が開いてしまったぞ!林セクションを抜けてゴールまで一直線となったハンターホークに、未だ林セクションを抜けられないランサーファルコン!二台の差は短いが、これは雲泥の差だ!』
 
「この勝負、もらったな」
 鋭一は勝利を確信して、ハンターホークを拾った。
 
『さぁ、第九打目行くぞ!テイクオフ!』
 
「いけっ、ハンターホーク!」
 
『ハンターホーク、ゴールのリング目掛けてふっ飛ぶ!これで決まってしまうか!?』
 ハンターホークが、どんどんゴールまで迫る。
 
 誰もが鋭一の勝利を確信した。
 
 その時だった。
 
『ハンターホークが、ゴールへと迫る……ん、なんだあれは!?』
 
「ま、まさか……!」
 鋭一はハッとして空を見上げた。
 上空から、青い物体が落ちて来ているのが分かった。
 
『遥か上空から急降下して来る物体があるぞ!あれは一体なんだ!?』
 
 観客が、ざわめきだし、口々に言う。
 
「鳥だ!」
 
「UFOだ!」
 
『いや、あれは……』
 
「「「C.F.O.だ!!!」」」
 
 会場の全員が叫んだ。
 
「いっけぇぇ!ファルコンダーーーイブ!!!」
 
『な、なんと!ランサーファルコンが上空から急降下しながらゴールに向かっている!あの林セクションをもう攻略したというのか?!』
 
「上から飛び越せば、どんなに木があったって関係ない!」
 必殺のファルコンダイブを繰り出したランサーファルコンが、グングンとハンターホークに迫っていく。
「ちっ、そうじゃなくちゃ面白くない!」
 
『土壇場でランサーファルコンの追い上げ!勝負はこれで分からなくなったぞ!!』
 
「ランサーファルコン!!」
 
「ハンターホーク!!」
 
 この前のバトルと同じようなデッドヒート。
 
 果たして勝つのは……。
 
『ゴーール!!これは、同着だ!!』
 
「ど、同着だと……!!」
 
『ゴルフ場C.F.O.大会は天崎ソラ君と鷹山鋭一君の同時優勝だ!!』
 
「引き分けか……でも、いいバトルだったね」
 ソラは乱れる息を整えながら、鋭一に握手を求めた。
 しかし、鋭一はその手を取ろうとしない。
 
「ちっ、何が引き分けだ。勝ち以外は負けと同じだ」
「鋭一……」
「ランサーファルコンはいつか必ずいただくからな」 
 相変わらずな鋭一の言い分に、ソラは少し悲しげな表情を浮かべた。
「なんかそれってさ、ハンターホークが可哀想だよ」
「なにぃ……!」
「だってさ、鋭一にはハンターホークがあるのに、他のC.F.O.を欲しがるなんて……C.F.O.は、パイロットと一緒に飛んでくれる相棒なのに」
「くだらねぇ、お前に何がわかるんだ!」
 吐き捨てるようにいうと、鋭一は去って行った。
 
『さあ、表彰式を始めるぞ……って、あれ?おーい、鋭一くーんどこだーい??』
 バードマンの呼びかけにも答えず、鋭一はそのまま会場を出ていった。
 
 結局、鋭一は表彰式には出なかった。
 
 欠席ということで、優勝メダルはソラが受け取った。
 
 二つ目の優勝メダルを受け取り、会場から出たソラだが、その表情は浮かなかった。
 
「やあ、ソラ君。優勝おめでとう、見事だったよ」
 そんなソラに鳥羽が声をかけてきた。 
「博士……」
 ソラの浮かない顔に気付いた鳥羽は、尋ねた。
「どうしたんだい?また、鋭一君とケンカしたのかい?」
 何かを察したように、鳥羽は言った。
「えぇ、まぁ、……なんで、鋭一はランサーファルコンを欲しがるんでしょうね。ハンターホークだって、いい機体なのに」 
「……」
 鳥羽は少し思案したあと、口を開いた。
「詳しくは私にも分からない。ただ、思い当たる節はある」
「なんですか?」
「この事を話した事は鋭一君には内緒にしてもらいたいんだが……」
 鳥羽は少し迷いながらも続けた。
「鋭一君のご両親はとても厳しい方でね、幼いころから鋭一君に英才教育していたんだ。
そのかいあって、鋭一君は勉強も運動も、とても優秀な成績をおさめてきたらしい……」
 金持ちに英才教育、まぁよくある話だ。
「それって、良い事じゃないですか」
 単純に優秀な成績を収めるという事は、悪い事ではないはずだ。
「普通はね。でも、どんなに良い成績をとっても、トップにはなれなかった。勉強も、運動も、優秀なのに、トップになれるものが何ひとつなかったんだ」
 器用貧乏と言うやつだろうか。総合的には優秀な部類なのだろうが、一番を取ったことが無いとはなんだか複雑である。
「ご両親は、それでも十分満足していたようだけれど、鋭一君自身は、プライドを酷く傷つけていたようで……。
初めて出会った頃の鋭一君は、とても暗くておとなしい子だった」
「鋭一が大人しい……」
 ちょっと想像できない。
「初めて出会ったのは、確か商店街か何かのイベントで、C.F.O.の体験会を開いた時だった。
お母さんと一緒に来ていた鋭一君は、すぐにC.F.O.に夢中になった。もともと頭も良くて運動神経もある子だったから、すぐに周りの子達の中で一番になった。
あの時の嬉しそうな顔は今も覚えているよ。
あの後、鋭一君のお母さんと少し話をして、ハンターホークを託そうと思ったんだ。
彼の才能は、私のBRシリーズを扱うのに相応しかったし。何より、私のC.F.O.が、彼の救いになるんじゃないかと思ってね」
 
「そんな事が……」
 ソラは感慨深げに頷いた。
「私の考えた通りだった、彼はハンターホークを見事使いこなし、私の研究は大きく進んだ。
彼自身も、元気を取り戻して行った……そう思っていた、つい先日までは」
「先日まで……?」
 先日……この言い方だと、最近の事だろうか。鋭一との付き合いは長そうに思えたのだが、最近まで何か誤解していることがあったとは。
「あの一件があって、思い出したんだ。前に、BRシリーズは他にもある事、そして他の子にも託そうとしている事を彼に話した事があるんだが、その時の動揺したような表情をね。あの時は軽く流したけど、今思えば鋭一君は焦っていたのかもしれない」
 
「焦っていたって、どうして……?」
「彼にとって、BRシリーズを扱うという事が唯一のアイデンティティだったんだ。BRシリーズを使ってるからこそ、トップでいられる。でも……」
「他にもBRシリーズを扱う人が現れたら、自分がトップでいられるとは限らなくなる、と……」
 ソラも、なんとなく分かって来た。
「恐らくね」
「それで、ランサーファルコンを……僕がいたら、トップじゃなくなるから……」
 ソラは手に持ったランサーファルコンを見つめながら呟いた。
「トップになる事が全てじゃないんだけどな」
 鳥羽も、悲しげに言った。
「ランサーファルコン……」
 彼を苦しめているのは、自分自身だった。もし、僕がランサーファルコンを貰わなかったら……そんな風に考え始めたソラに、鳥羽は言った。
「しかし、これは彼自身が乗り越えるべき問題だ。私にもソラ君にもどうする事はできない。ソラ君は、自分のフライトをしなさい。そうすれば、いつかきっと分かってくれるさ」
「はい……」
 頑なにトップに拘る鋭一。彼と分かり合える日は来るのだろうか?
 
 
 
 
 
 
         つづく
 
 次回予告
 






  

 




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)