弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第5話 「進め!千葉県防衛隊」

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第5話 「進め!千葉県防衛隊」

 

 とある日の姉ヶ崎小学校の昼休み。(第4話から大体2週間後くらい)
 クラスのフリッカー仲間達は教室の真ん中でシチベエを囲うように集まっていた。
「よし、みんな集まったな!」
「何よシチベエ、いきなり皆を集めて」
 今野ミハルが怪訝な表情で言うと、シチベエは咳払いをしてからワザとらしい厳かな口調で話し始めた。
「今、この街は狙われている!!」
 グッと拳を突き上げるシチベエに一同は冷ややかな目線を送る。
「シチベエくん、何か悪いものでも食べた?」
「食べてねぇよ!だから、最近この街の治安が悪くないか?って事だよ!」
 シチベエがそう言うと、心当たりがあるのか皆『あ〜』と納得したような顔をする。
「確かに、この前も輪ゴム銃の通り魔事件とかあったしねぇ」
「姉ヶ崎神社で白い服を着た長い髪の女の幽霊が出たって噂話もあるよ……うひひ」
「そ、それはちょっと、治安とは関係ないと思うけど」
 皆が口々に最近起こった事件などを話し始めると、それを収めるように翔也が口を開いた。
「輪ゴム銃の通り魔なら、俺とタツが撃退したぜ。なぁ?」
「う、うん」
 結局謎のマスクをした大人に引き渡したためあの後犯人がどうなったかは分からないが……。
 とりあえず事件は解決したのでこれで話は終わりで良いようなものだが、シチベエは続ける。
「まぁ待て。また新たな事件が発生したんだ!なんでも、この前駅前のゴトーマガリカドーで開催されたフリックスの店舗大会で大柄なフリッカーが他のみんなのフリックスを破壊しながら優勝したらしい!」
「フリックスを破壊しながら!?」
「それって何か違法な改造してたとか?」
「いや、それだったら受付で弾かれると思うよ」
「バトルで機体が破損するなんてよくある事故じゃないか?」
 皆がそれぞれの疑問や意見を出すと、それに答えるようにシチベエは言った。
「あー、俺も店に来た客から話聞いただけだからあんまりよく分かんないんだけど。確か重量レギュオーバーするくらい重かったとか……」
 フリックスの重量レギュは72gまでだ、それを超えるとレギュ違反になるのだが。
「でも、HPペナルティ受けてれば合法なんじゃないの?」
 そう、レギュ違反したから即失格となるわけではなく、HP減少のペナルティを受ければ試合には出せる。
 レギュレーションの厳守は『HPを多く獲得するため』と言う戦術的な意味合いがあり、逆に言えば『HPを犠牲に物理的な強さを得る』ために敢えてレギュオーバーするのも立派な戦術なのだ。
「いや、まぁ、そうはそうなんだけどさぁ。でも、全機体破壊して優勝すんのはやりすぎだろ!?しかもこれ言ってたの1人じゃないんだぜ!確か、10人は同じ事言ってたな、しかも別々の大会でだぜ」
 シチベエが口から唾飛ばしながら力説すると、ガクシャも顎に手を当てながら頷いた。
「確かに、少し異常だね」
「だろ?」
「シチベエくんのお店に、そんなにお客が来るなんて」
 ガクシャの言葉に、シチベエはズッコケる。
「そっちかよ!まぁ、機体直すためのパーツを買いに来てくれたから、商売的にはありがたいんだけどさ……」
 ミキシングビルドで機体を製作している場合は、工作専門店に行くよりもリサイクルショップで同じパーツを調達した方が安上がりなのだ。
「でも、誰かの大事なフリックスが壊されてるのは、嫌だよね」
 達斗が真面目な表情で呟くと、シチベエが嬉しそうに同意した。
「そうだろそうだろ!って事でだ、俺達でこの街の平和を守ろうぜ!
名付けて『千葉県防衛隊』の結成だ!!」

「「「千葉県防衛隊!?」」」

 一同声が揃った。
「千葉県って、ちょっとオーバーでは」
「何言ってんだ、こっちには実質アマチュア全国チャンプの翔也がいるんだぜ!千葉県を背負うくらいわけないぜ」
「ち、千葉県って、全国よりも規模が大きいんだけど……」
 そんなモブ太の常識的なツッコミは無視してシチベエは話を続ける。
「細かい事はいいんだよ!で、お前らは当然参加するよな?」
 シチベエが聞くと、一同はうーんと渋る。

「はぁ、何だそんな事か。あたしはパス」
 今野ミハルはため息をつきながら立ち上がった。
「シチベエ、もうすぐ中学生なんだからもうそういうの卒業したら?」
「うるせうるせぇ!どうせお前には正義の心はわかんねぇよ」
「はいはい」
 ミハルは軽くあしらいながら自分の席へ戻り他の女子友達と談笑を始めた。
 そんなミハルへシチベエは悪態をついた。
「ちぇ、ノリの悪い奴」
「まぁ、いいんじゃないか?シチベエの案、俺は面白いと思うぜ」
 翔也がニッと笑いながら賛成の意を示した。
「マジか、翔也!?」
「あぁ。こないだの件もあるし、シチベエの言ってる事もあながち的外れじゃなさそうだ」
「うん!僕も、そういうのはほっとけないと思う!」
 翔也に続いて達斗も頷いた。
 それを皮切りに他の子達も次々に参戦の意を示す。
 翔也の影響力はまさに鶴の一声だ。

「おっしゃあ!じゃあ早速放課後パトロールしようぜ!」
「そうだな。何組かに分かれて場所を絞ってみよう」
「フッ、そういう事なら僕も琴井コンツェルンの情報網を駆使させてもらうよ、ベイベー!」
「うひひ、浮遊霊達からも話聞いてみよう」
「じゃあとりあえず昼休み中に組を決めようよ」

 って事で昼休み中にある程度の方針を決めて、放課後活動する事となった。
 達斗は翔也と組んで例の大会が開かれたと言う駅前のゴトーマガリカドーへ向かった。
 そして、三階の玩具売り場にて、店員のお兄さんに話を聞いてみた。

「この間のフリックス大会について聞きたい……?あぁ、あれは凄かったねぇ。中学生くらいの大柄な子が強くて、あっという間に優勝しちゃったんだ!」
 お兄さんは思い出しながら少し興奮気味に話してくれた。店員とは言え、相手が子供だからかフランクな口調である。
「一体どんなバトルだったんですか?」
 翔也がメモを取りながら聞く。
「そうだねぇ、とにかくパワーが凄かったね!なんたってほとんどの子たちが一撃でやられちゃったし……」
「なるほど……その、一撃でっていうのは、やはり機体の破壊によるものですかね……?」
 翔也は慎重な口調で答え難いであろう質問をした。
 一撃で相手をKOする方法はいくらかあるが、それはあくまでレギュレーションをクリアしている機体限定だ。噂通り重量オーバーしている機体で一撃KOする方法はグレーな手段しかあり得ない。
「まぁ、そうだね……」
 お兄さんがバツの悪そうな顔で言うと、思わず達斗が口を開いた。
「相手の機体を壊すのって、反則じゃないんですか?」
 思った以上に勢いがついた言葉に、お兄さんは少し困ったような口調で慌てて答えた。
「い、いやぁ、壊れるのは事故だよ。重量はオーバーしてたけど、その分のペナルティは受けたからルール違反にはならないし……あ、ただ」
 大会運営店舗としての信用に関わると思ったのか言い訳めいた事を口にし始めたが、ふとお兄さんは何かを思い出すように手を顎に添えて視線を下に向けた。
「ただ?」
「ルール違反はしてないけど、そもそもルールそのものを分かってなさそうな雰囲気だったなぁ」
「ルールを、分かってない……?」
「まぁ、僕がそう感じたってだけだけどね」
 そう言って、お兄さんは苦笑した。
「なるほど……分かりました。お仕事の邪魔をしてすみません。ありがとうございました」
 翔也は丁寧に礼を言って頭を下げた。達斗もそれに倣って頭を下げる。
「いえいえ、お役に立てたなら光栄だよ」

 と言う感じでそれぞれ調査を進めていった。
 そして、数日後。
 防衛隊メンバーは公園で全員集合してそれぞれの情報を照合してみる事にした。

「……って事で、これでここ最近の店舗大会の情報は集まったな」
「うん。どの店舗大会も同じような事例が発生してるみたいだね」
「重量オーバー機体を使って優勝する大柄なフリッカー……その圧倒的攻撃力で破損する機体多数……か」
 どの聞き込みでも情報は大体同じだった。同一の人間が起こしている事例で間違いないだろう。
「明確なルール違反はしてないようだけど、いくらなんでも頻度が多すぎるよね」
「違反扱いされない範囲でワザと嫌がらせしてるみたいで、なんか気分悪いなぁ……」
「ルール違反せずに試合は進行してるけど、本人はルールを分かってなさそうな雰囲気だった。ってのも気になるなぁ」
 情報は集まってきたものの、イマイチ進展を感じない。
「でもさぁ、結局それって事件の再確認と感想でしかないんだよな。もっとこう、犯人の手がかり的なのは無いのかよ」
 シチベエがボヤくとムォ〜ちゃんが宥める。
「手がかりって言っても、店舗大会程度じゃ出場者の個人情報なんて分からないし……」
 と、ここでスナ夫が口を開いた。
「ふ、そう言う事なら僕が面白い情報を入手したよ、ベイベー」
「ほんとかっ!?」
「あぁ、1〜2週間くらい前にこの街に引っ越してきた中学生がいるんだけど、なんでもかなりの凄腕フリッカーらしい。大柄な体格を活かしたパワーファイトで100体のフリックスを葬って姉ヶ崎中学のボスに君臨したとか……」
「大柄な体格で100体のフリックスを葬った……!」
「す、すごい」
「時期や犯人の特徴と一致してなくはないな」
「と言っても、証拠があるわけではないけどね、ベイベー」
「いや、とにかくそいつが怪しいなら行ってみようぜ!なんか分かるかも!」

 と言うわけで、一同は姉ヶ崎中学校へ向かった。
 丁度中学校も下校時間なようで、下校しようとする生徒や部活に行こうとする生徒で校門はごった返している。

「ね、ねぇ、僕達こんな所に来ちゃっていいのかな?」
 小学生の自分達よりもひと回り大きな中学生達の多くいる場所で、モブ太は落ち着かない。
「何言ってんだ、モブ太!これも正義のためだぜ」
「まぁ、あともうちょっとしたら僕らもここに通うわけだし。あまり気にしなくていいんじゃないかな?」
「まだ部外者である事に変わりはないと思うけどね……」
 中学校の校門前に小学生が屯しているのが珍しいのか、生徒達はジロジロと達斗達を見ながら通り過ぎていく。

「で、これからどうするの?うひひ」
「ん〜、とりあえず聞き込みするしかないだろ」
「えぇー、なんか怖いなぁ」
「こ、このくらいでビビんなよ……」
 尻込みするモブ太に悪態をつくシチベエだが、シチベエも内心ビビっているようで動こうとはしない。
 と、ここで翔也は何か思い出したように達斗へ話しかけた。
「そう言えばタツ、確か姉ヶ崎中学って美……」
「!」
 翔也が言い切る前に、達斗は本能的に猫のように身を強ばらせた。
 そして……。

「あぁーーーー!!たっくんだーーーー!!!」

 後ろから可愛らしい声が響き、その次の瞬間には背中から温かく柔らかいものに包まれてしまった。
「うぁっ!」
 咄嗟の事でロクに反応出来なかった。
 振り返ると、中学校の制服を着た美寧がニヘラ笑いしながら達斗に抱きついて胸を押しつけながら頬づりしていた。
「み、ね、ねぇ……」
「たっくん、たっくん〜〜」
 達斗と美寧のいつもの光景ではあるが、達斗の家庭状況をあまり知らないものにとっては衝撃的だ。

「な、なんだこの姉ちゃん!?」
「神田くんの、お知り合い……?」
「年上の彼女さん、かな?」
「ふっ、隅に置けないねぇ、ベイベー」
「もしかして、背後霊かも……うひひ」
「いや、僕らにも見えてるし」

 皆が驚く中、翔也は苦笑しながら美寧に話しかけた。
「はは。相変わらずですね、美寧さん」
「あ、翔也くん、ご無沙汰だね。元気だった?」
「え、えぇ、まぁ……それより、そろそろタツの奴を……」
 ここまで美寧に抱きつかれたままの達斗は、恥ずかしいやら気持ちいいやらで心ここに在らずといった感じで固まっている。
 と、その時遠くから女子生徒が少し怒りながら走ってきた。
「あ、こら美寧〜!急に走り出したと思ったら、やっぱり弟君絡みか。節操ないんだからもう」
 ショートヘアでサバっとしてそうな印象を受ける女生徒は、達斗に抱きつく美寧を引き剥がす。
「ああん、たっくん〜」
「そう言うのは家でやりなさい!弟君困ってるでしょ」
「もう、湊は強引なんだから……」
「それはあんたでしょ。ごめんね、弟君。あたしがついていながら」
「あ、いえ、ありがとうございます、安房さん」
 彼女の名前は『安房湊』と言うらしい。美寧の友人で、達斗の事になると暴走してしまう美寧の良きブレーキ役のようだ。
「ところであんた達、弟君の友達?って事は小学生よね?ここに何の用?」
「あっ、実は俺達この学校に転校してきたフリッカーを探してて……」

 シチベエが事情を説明すると、湊は頷いた。

「あぁ〜、それだったら一年の不動君かな?不動……ガイ、君だっけ?」
「……」
 安房湊は確認を取るように美寧を見たが、美寧は無表情で冷たい目をしていた。そこには何の感情も読み取れない。
「美寧?」
 湊が怪訝な顔をして美寧の顔を覗き込むと、美寧はハッとした。
「あ、う、うん!そうだね、この前、転校してきた子だよね?」
 美寧は慌てて取り繕うように返事をした。
「そうそう、この時期に転校って珍しいし。なんかやたら男子達が騒いでたような」
「それだ!その人ってどこにいるか分かりますか!?」
 シチベエが身を乗り出す。
「えぇー、んー……多分今日も格技場にいるんじゃないかな?」
「格技場?」
 聞き馴染みのない名詞だ。
「体育館の隣にある小さい建物だよ。普段は格闘技系の部活なんかやってるんだけど、この時期は部活もないし、男子の遊び場になってんのよね」
 湊がその場所を指差しながら説明してくれた。
「おし!早速行こうぜ!」
 情報を得るなり、シチベエは駆け出した。
「あ、シチベエ君!」
 他の皆もシチベエを追って駆け出そうとした。
「たっくん、危ない事しちゃダメだよ?」
 駆けていく達斗の背中へ、美寧が不安そうに声をかけた。
「分かってるよ」
 達斗は生返事をするとそのまま走り去っていった。

 格技場。
 外観は体育館とよく似ているが、中は安全に格闘技が行えるように柔らかい床になっている。
 その真ん中にフリックスフィールドが設置してあり、二人の男子生徒がバトルをしていた。

「へっ、転校したての一年坊主が!これ以上デカい顔させるかよ!!」
「フリッカーに先輩も後輩もない。強いものが勝つ、それだけだ」
「ほざけ!!なら勝つのは俺だあぁぁぉ!!!」

 二人がアクティブシュートをする。
 ドゴォォォ!!
 黒いフリックスが相手の機体を弾き飛ばして大きく場外させた。
 そして、そのフリックスは、格技場に乗り込んだ直後のシチベエの頬を掠めて後ろの壁にぶち当たった。
 バゴォォーーーン!!

「う、うわああああ!!!」
 シチベエは悲鳴を上げて腰を抜かした。
「だ、大丈夫、シチベエくん!?」
 ムォ〜ちゃんがシチベエに肩を貸して立ち上がらせる。
「あぁー、ビビった〜……なんだよこのフリックス……いきなり飛んでくるなよ……」
「まさか、あそこから弾き飛ばされたのか?」
 翔也が場内にあるフィールドを見ながら言う。
 壁からフィールドまで間は軽く15mは離れている。オーバーアウトで一撃KOの距離だ。

 そして、そのフィールドには対戦していたであろう二人の男子生徒がおり。負けた側と思われる男子は悔しそうに膝をついて床を叩き、勝った側の男子はこれまでこの中学で見かけたどの生徒よりも大柄で筋骨隆々な体格で、堂々と腕組みをしていた。
 こいつが不動ガイだろう。

「おおおお!!一撃KO!!」
「さっすが不動君!この学校のドンだぜ!!」
 ガイの周りで舎弟と思われる生徒達が喝采している。
「ふん、軽いな……」
 ガイは、倒した男子を一瞥すると機体を回収した。
「す、すごい……」
「ど、どうやらあの人が噂の不動ガイで間違いなさそうだねぇ、ベイベー」
 気取ってはいるが、スナ夫は声が震えている。
「そうだな。とりあえず話を聞いてみるか……って、タツ!」
 達斗はフラフラと、フィールドの方へ近付いていった。無意識なのだろうか、まるで夢遊病のような足取りだ。

「ん?なんだお前は」
 ガイはいつのまにか近づいてきた背の低い男子、達斗を見下ろしながら怪訝な顔をする。
「え、あれ、僕……」
 やはり無意識だったようだ。ハッと我に帰った達斗はどう返事したらいいものか戸惑いの表情を浮かべた。
「ここは子供の来る場所じゃない。おうちに帰って姉の乳でも飲んでるんだな」
「ムッ……」
 ガイの安い挑発に達斗は少しムッとした。
「あ〜、すみませ〜ん!」
 と、そこへ翔也が友好的な笑顔を見せながら達斗の隣にやってきた。
「いやぁ、先輩方のバトルが素晴らしくて、つい引き寄せられちゃったんですよね〜!邪魔しちゃったんなら謝ります」
 場を和ませようと冗談めかす翔也に、ガイの表情が変化した。
「貴様……天崎翔也か」
「え、あれ?どこかでお会いしました?」
「フン、白々しい。フリックスをやっていて去年の全国大会準優勝者を知らないわけがないだろう」
「ははは、そりゃ光栄ですね」
「実質的なアマチュアチャンプの住んでいる街と聞いて転校してきたのだが……そちらから来るとは好都合だ。構えろ」
 ガイは問答無用といった感じでバトルを挑もうとするのだが……。
「あー、いや、バトルしたいのは山々なんですが。今日はちょっと別件で……」
「なに?」

 そして、翔也はことの経緯を不動ガイへ伝えた。

「……ってな事があったんですけど、何か知らないですかね?」
 翔也の説明を不機嫌そうに聞いていたガイは口を開いた。
「くだらん」
「へ?」
「お前達もフリッカーならそんな事をしてないで己を磨け!」
 突然のガイの一喝に翔也はキョトンとし、代わりに達斗が反論した。
「くだらなくなんかないよ!だって、他のフリッカー達の機体が壊されてるのに、見過ごすなんて……!」
 しかし、ガイはこれを無視し、翔也へ向かって言葉を続けた。
「天崎翔也、実質的なアマチュアチャンプでありながらこんなヒーローごっこに興じているとはな、見損なったぞ」
 それに対し、翔也は皮肉で返すような笑いを見せた。
「ヒーローごっこも案外身になるもんっすよ、先輩。フリッカーなら、なんでも経験してみなくちゃ」
「ふん」

 結局、ガイはそれ以上まともに取り合ってはくれなかったので、一同は一旦公園に戻る事にした。

「あー、怖かったー……」
「結局収穫無しかぁ」
「多分、見た感じあの事件と不動ガイって人は無関係だよね」
「そう言う小さい事するような人には見えなかったしね」
「あーあ、また振り出しかぁ」

 そんな事をボヤいていると、公園に向かう道中にある駄菓子屋さんの近くまで来た時。

「うわぁぁ!」
「やめてよ!」
「僕のフリックスがー!!」
 機体の破損音と小さな子供達の悲鳴が聞こえてきた。

「っ!」
「行くぞ!!」
 それを聞いて翔也と達斗が瞬間的に走り出し、他のメンバーもそれに続いた。

 駄菓子屋では、小さな大会が開かれていたようで、店の前にフィールドが設置してあった。
 そこでは、大柄な少年の前で小さな子供達が泣きじゃくっており、そして足元には破損した機体がいくつも転がっていた。

「やったぁ!またボグの勝ちだど〜!!」
 大柄な少年は見た目に似合わず無邪気にはしゃいでいる。
「あ、あいつが犯人か……」
「っ!」
「あ、タツ!!」
 達斗が駆け出して大柄少年の前にやってきた。
「ん、なんなんだど?」
「君が、これをやったの?」
 達斗は静かに怒りを振るわせながら問うた。
「凄いだろ〜!ボグは強いんだど!!」
「凄くなんかないよ!!!こんな、こんな酷い事して……!」
 達斗の怒声に少年は呆気に取られた。
「ボグ……凄くない……?それじゃ、まだあの子達に、会えないのか……?」
「え?」
 何故かちょっとズレた落ち込み方をしている。そんな感じがした。
 しかし、すぐに少年は顔を上げて達斗を見てニタリと笑った。
「じゃあ、君を倒せば凄くなれるかな?」
 そう言いながら少年は緑色の機体を見せつけた。
「っ!」
 達斗もヴァーテックスを取り出す。
「タツ、よせ!迂闊に手を出すな!」
「ごめん翔也。でも僕、戦いたい!」
 翔也の制止も聞かず、達斗はフィールドに機体をセットした。

「ボグの名前は牛見トウキ。マシンはスマッシュタウラス、よろしくね。君の名前は?」

「えっ?あ、神田達斗……ヴァーテックス」
 急に友好的になられたので達斗は思わず名乗った。
「へぇ、いい名前だねぇ。マシンも強そう〜」
「は、はぁ……」
 意外と良い奴なのかな?
「そんなマシンをボコボコに倒したら絶対凄いよね、ボグ」
「っ!」
 いや、そんな事はない。気を引き締めないとやられる……そんなオーラを纏っていた。

「はぁ、仕方ないなぁ」
 翔也は困りつつもレフェリーを務めた。
「3.2.1.アクティブシュート!」

「いけっ!ヴァーテックス!」
「スマッシュタウラス!!」
 バゴォォ!!
 スマッシュタウラスの重い一撃でヴァーテックスは弾き返されてしまう。
「重いっ!」
「重量オーバーってのはホントみたいだな」

 先攻はトウキだ。
「いっくど〜!」
 気の抜けるような掛け声とは裏腹に重いシュートがヴァーテックスを襲う。
 バキィィィ!!
「くっ!」
 達斗は咄嗟にバリケードを構えてこれを耐えた。
「あ、凄い、耐えちゃった」
「はぁ、はぁ……重いけど、狙いが悪いからこれなら耐えられる……!」
 ビートヒットを受けて残りHP14。
 達斗のターン。
「フリップアウトされなければ、ダメージレースで勝てる!」
 達斗は無理にフリップアウトは狙わずにマインヒットを決めた。相手は重量オーバーしてHPが5しかないので2回マインヒットするだけで勝てる。
 トウキの残りHP2。
 しかも達斗は反撃フリップアウトを受けないようにフェンスに接した位置で機体を停止させた。
「うっしっしっしっ!そんな攻撃痛くも痒くもないんだど!」
「え?」
 数値的に追い詰められてるのに、トウキは何故か余裕で笑っていた。
「……ヴァーテックスはフェンスで守れるからフリップアウトするのは難しいと思うけど」
 何か秘策があるのだろうか?
「いっくど〜!!」
 ドンッ!!
 スマッシュタウラスの攻撃。
 バゴォォ!!
 重い一撃だが、フェンスのおかげで耐えられた。
「よしっ!」
「やったど!!これで大ダメージ間違い無し!」
「え?」
 今受けたのはたかだかビートヒットの1ダメージだ。こんなもの、雀の涙程度の攻撃力しかない。
「……フリップスペル、ライジングチャージ!
 達斗は警戒しながらも、念の為にスペルを使った。
 残り2ダメージ与えれば勝てるのでそこまで本気を出す必要はない。
 達斗はイメージ空間でそこそこの距離の坂を登って、体力を温存させたままビートヒットの威力を1増加させた。
「いけっ!」
 バキィ!!
 難なくビートヒットを決めて達斗はトウキを撃沈させた。
「よしっ!」
「おっしゃ!これで神田の勝ちだぜ!」
「正義は勝つ、だね!」
 達斗の勝利に湧き立つ一同。しかし……。
「それじゃ、ボグのターンだど!」
「え!?」
 決着はついたと言うのに、トウキは構わずシュートの構えを取った。
「ちょ、ちょっと待ってよ!今ので君のHPは0になって僕の勝ちだよ!?」
「え?何言ってんだど?まだボグのタウラスは無傷だど!戦えるど!」
「は……?」
「相手を戦闘不能にしたら勝ち!それが戦いじゃないのか?」
「いや、でも、これはフリックスバトルで……!」

「タツ!気を緩めるな!こいつに話は通じない!!」
 翔也に言われてハッとする達斗。
 既にトウキはシュートモーションに入っている。

「ぶっ壊すど〜!スマッシュタウラス!!」
 バシュウウウウウ!!!!
 凄まじい勢いのシュートが襲いかかる。バリケード無しにこれを受けてフリップアウトさせられたら、ヴァーテックスはただじゃすまない!

「う、うわあああああ!!!」
 悲鳴を上げる達斗。その時だった。

「やれ、ゼニス!!」
 シュンッ!

 黒い機体がフィールドに乱入してヴァーテックスを庇うようにスマッシュタウラスを逆に弾き飛ばした。
 そして、飛ばされたタウラスは電柱にぶつかって砕けてしまった。

「あぁ〜!ボグのタウラスがぁ〜〜!!うぅ〜、誰だか知らないけど、ボグの負けだど〜〜!!」
 トウキは、タウラスの欠片を拾うと、悔しそうに叫びながら走り去っていった。
「ファンクラブメンバーのボグが活躍しまくってアピールすればあの子達にまた会えると思ったのに〜!」

「……」
 突然の出来事に呆然とする達斗の後ろから声がした。
「軽い奴だ」
「っ!」
 振り返ると、そこには不動ガイがいた。
「不動、ガイ……!」

 不動ガイは圧倒的強者のオーラを放ちながら威風堂々と立っていた。

 

     つづく

 

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