弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第6話「頂点がブレる!?強敵ライバルゼニス登場!!」

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第6話「頂点がブレる!?強敵ライバルゼニス登場!!」

 

 超重量機体で店舗大会を荒らしていた牛見トウキと戦った達斗だが、ルールを分かっていないトウキに追い詰められてしまう。
 そんな達斗を助け、トウキを撃退したのは不動ガイだった。
 だが、ガイはそのためにトウキの機体を破壊してしまった。

「どうして……!」
 達斗はガイを睨みつけた。
 助けてやったのに睨みつけられる筋合いのないガイは怪訝な顔をする。
「なんで、相手の機体を壊したんだ……!そこまでする事なかったのに!」
 他人のフリックスを破壊するような悪いフリッカーが許せないから戦ったはずなのに、その相手の機体を壊したら、やってる事は同じだ。達斗はその事に納得出来なかった。
 しかし、ガイはそんな事かと達斗へ見下すような視線を送った。
「本当に軽い奴だな」
「なに!?」
「あんな奴にルールが通じると思ったか?」
「で、でもだからって、壊す事ないじゃないか!フリッカーなら、正々堂々……!」
「なら、正々堂々バトルで勝って、それでどうする気だった?無力化もせずに被害を抑えられると思ったか?」
 ガイのぐうの音も出ないほどの正論オブ正論に達斗は返事を窮する。
「それは……」
 ガイは、そんな達斗から視線を外した。
「まぁいい、貴様に用はない」
 そして、ガイは翔也を見据える。翔也はその視線に気付いて向き直った。
「……」
「天崎翔也、これでヒーローごっこの必要性は無くなったな?余計な事はせずに鍛錬に励め。俺がここに来た目的はそれだけだ」
「……おせっかいどうも」
 翔也は困ったように苦笑しながら頷いた。
 ガイはそんな翔也に対して特に反応せず、踵を返して歩いていった。

「ぐぐ……!」
 達斗はその背中を目で追いながら悔しそうに拳を握り締めている。
「タツ……」
 そんな達斗の様子に何かを感じた翔也は、スナ夫のそばに寄ってコソッと耳打ちした。
「スナ夫」
「なんだい、ベイベー?」
「……一つ、調査を頼みたいんだが」

 ……。
 …。
 それから数日後の放課後。
 達斗が帰り支度をしていると、琴井スナ夫が達斗の席までやってきた。

「へぇい、マイフレンド!ご機嫌いかがかな?」
「こ、琴井くん、なに……?」
 思っても見なかった人物にいきなり声をかけられて、達斗は戸惑った。
「君に必要な情報、手に入れてきたよ、ベイベー」
「情報?」
 話が見えず怪訝な顔をすると、翔也がやってきた。
「おっ!スナ夫、もしかしてもう頼んでた奴手に入ったのか?仕事早いなぁ」
「琴井コンツェルンの力にかかれば朝飯前さ、ベイベー!」
「……何の話?」
「これさ」
 話が見えずに聞き返す達斗へ、スナ夫はスマホの画面を見せた。
 そこにはSNSのアカウント画面が映し出されている。
「これって、トゥイッター?なんのアカウントなの、これ?」
 アカウント名は『姉ヶ崎中学校フリッカー秘密情報部』と書かれてあった。
 公式マークはついておらず、フォロワー数も233人と少なめな事から一般生徒による個人アカウントだと分かる。しかも鍵がかかっている。
「これは、姉ヶ崎中学校在籍生徒による、フリックス関係の情報をまとめたアカウントさ、ベイベー」
「そうそう。ここに、不動ガイの情報もあるんじゃないかと思ってさ。スナ夫に調べてもらったんだ。で、当たりはあったか?」
「じゃなきゃ報告しないさ。ほらこれを見てごらん」

 画面に一つのツイートを表示して達斗に見せた。

 『本日申の刻、不動ガイの伝説が更新される。刮目したい奴は津波に気をつけな!』

 何やら格好付けた意味深な文章だった。

「……何これ?」
 文章の意味が分からず、達斗は疑問を呟いた。
「調べた所、不動ガイは姉ヶ崎中学校に転校してから不定期でゲリラ的に『百人抜きチャレンジ』を開催しているらしいのさ」
「それがあの、100体のフリックスを滅ぼしたって言う噂の真相ってわけだな」
「ひゃ、百人抜き……!」
「ただ、あくまでゲリラ的だから、いつどこでやるかは姉中のフリッカーくらいじゃないと分からないっぽいんだけどな」
「それでこのアカウントを見つけ出したってわけさベイベー」
「でも、鍵掛かってるのに、よくフォローできたね?」
 鍵アカウントは普通フォロー申請を出さないと見ることはできないのだが、部外者のアカウントからのフォローを受けるとは思えない。
「そのくらい、琴井コンツェルンの情報部にかかれば余裕さっ。ダークウェブに比べれば、トゥイッターの鍵なんて表層ウェブのようなもの」
「……」
 何やら犯罪臭がするので達斗はそれ以上突っ込まなかった。
「まぁ、てなわけで。この意味深で格好付けたツイートが、次の百人抜きチャレンジの日時を示してる可能性が高いってことだ」
「なるほど……。申の刻、ってのは時間の事かな?」
「大体午後3時〜5時くらいだな。姉中は今卒業シーズンで下校時間早くなってるし、放課後集まるには妥当な時間だ」
「そっか。でも、場所はどこなんだろう?」
「それはおそらく、姉崎海岸付近の公園の事だろうね」
「『津波に気をつけろ』ってのはそういう事だな。そんだけ激しいバトルをするって言う自負があるんだろう」
「姉崎海岸付近に公園はいくつかあるから、虱潰しする必要がありそうだね」
「だな、間に合えば良いが……」
 何やら話が進んでいるのを感じて達斗が慌てて口を出す。
「ちょ、ちょっと待って!もしかして、今日そこにいくつもりなの!?」
「あったり前だろ。何のために調べたと思ってんだ」
「だけど、いきなり……!」
「タツ」
 狼狽える達斗へ翔也は真剣な表情で言った。
「あいつの事、気になってんだろ?」
「え……」
「見下されたのに助けられて、また見下されたまんまじゃ、いられないもんな」
「……」
 翔也に言われ、達斗は自分の胸に手を当てた。この中にあるどうしようもないモヤモヤ……そして、奥にある確かなワクワク感……。
「……うん」
 少しの間の後、達斗はしっかりと頷いた。
「へへ、そうこなくちゃな」
 翔也は満足そうにニヤッと笑った。

「おうおう翔也〜、フリックスの話してんのか?俺らも仲間に入れろよ〜!」
 と、その時ズコウケイ三人組がやってきた。
「あぁ、あの不動ガイに挑戦しようと思ってさ!みんなも来るか?」
 翔也がそう言うと、シチベエの動きがビタッと固まった。
「あ、あーー、いや、そのーーーーー、あっ!き、今日は塾があったんだよなぁ〜〜、いやぁ、残念残念」
 しどろもどろに見え透いた言い訳をしながら後退る。
「シチベエくん、塾なんか行ってたっけ?」
 ムォ〜ちゃんにのんびりと突っ込まれるとシチベエは声を荒げた。
「今日から行くんだよ!……山下塾にな!!」
 そう言いながらシチベエはガシッとガクシャの方へ腕を回した。
 山下とはガクシャの名字だ。
「それって、また僕の宿題写す気じゃないの!?」
「人聞き悪いなぁ〜、勉強会だよ勉強会!よろしく頼むぜ、山下センセ!」
「はぁ〜……」
 ため息をつくガクシャを強引に連れ出しながらシチベエは歩いて行き、ムォ〜ちゃんもそれに続いた。
 シチベエにとって、不動ガイはちょっとしたトラウマになっているようだった。

「シチベエ……」
 そんなシチベエへ、翔也は苦笑した。
「まぁ、彼の気持ちも分かるさ。かく言う僕も、これ以上の深入りをする気はないしね」
「あぁ、そうだな。情報助かったよ、スナ夫」
「健闘を祈るよ、ベイベー」
 スナ夫は格好付けながらも脚をぶるつかせながら帰っていった。

「んじゃタツ、俺達二人で行こうぜ。一旦うちに帰ったら駅前に集合な」
「うん!」
 と言うわけで達斗と翔也は一度帰路に着いた。

 神田家玄関。
「ただいま〜」
 達斗が条件反射的に言いながら靴を脱いでいると、台所の方からトテテテテと制服姿の美寧が小走りで駆け寄って来た。
 どうやら、教室で駄弁ってた分美寧の方が早く家に着いていたらしい。
「おかえり〜たっくん!手洗いにする?うがいにする?そ・れ・と・も……」
「どっちもやるよ……」
 手洗いうがいで新妻のお約束やりとりをするな。

 達斗は美寧をスルーして洗面所に向かい、手洗いうがいして、部屋に荷物を置き出発した。
「いってきます!」

 そして、駅前で翔也と合流して姉ヶ崎海岸付近の公園を周る。

「姉ヶ崎海岸には、公園、広場、緑地……フリックスできそうな場所結構あるんだよな」
 スマホで地図を確認しながら翔也は言った。
「とにかく近い所から見てくしかないね」
「だな」

 海岸緑地散歩道。
「いけー!」
「ぶっちぎれー!」
 散歩道を利用してフリックスレースに興じる子供達がいるが、バトルしてるものはいない。

「ここにはいないか」
「フィールド展開してる人もいないね」
「ここはコースになりそうなものが多いから、バトルよりもレースの方が盛んなんだよなぁ」

 次は海岸付近広場。
「ゴーーール!」
「やったぜ!」
「ちくしょう!守りきれなかった!」
 ここは、更地をサッカーコートにしたような場所でフリックスサッカーをしている子供達でごった返していた。

「へぇ、フリックスでサッカーみたいなのが出来るんだ」
「あぁ。ターン制じゃなくてリアルタイムで自機を撃ち合って、自機でボールを弾き飛ばしてサッカーするんだ。結構白熱するぜ!……って、今はそれどこじゃないんだよな」
 サッカーの説明よりも今は不動ガイを見つける事が先決だ。
 達斗と翔也は次の公園へ向かった。

 次の公園ではフリックスバトルをしている中学生くらいの少年達の姿があった。

 

「いけぇ!プロトカブト!」
「マウスライム!!」
 バキィ!!
 プロトカブトと呼ばれたフリックスがマウスライムをフリップアウトした。

「へっへっへっ!これでスカッとしたぜ!」
「ちぇ、俺今日いいとこなしかよぉ」
「次は俺とやろうぜ〜!一撃で負けてむしゃくしゃしてんだ!!」
 もしかしたらこの少年達なら何か知ってるかもしれない、と翔也は声をかけた。

「あの〜、すみません。ちょっと良いですかね?」
 翔也に声をかけられると少年達はめんどくさそうに振り向いた。
「なんだよ?」
「聞きたい事があるんですが、ここら辺で不動ガイってフリッカーの……」
 言葉は途中だったが、それだけで全て伝わったのか少年達は大きく反応する。

「お前、まさか不動ガイに挑戦する気か!?」
「小学生の癖に度胸あるなぁ」
「俺ら、一撃でやられてここで鬱憤晴らしてたとこなんだぜ」
 口々に不動ガイについて語り出す少年たち。これは当たりだ。
「えぇ、それで、その場所って」
 翔也は上手い事場所を聞いて話を切り上げようとするのだが……。
「あれ?ってかお前天崎翔也じゃね!?」
 一人が、よりによって翔也に気付いてしまった。
「うぉ、マジじゃん!」
「現アマチュア最強!姉ヶ崎期待の星!!」
 翔也が有名人だとバレてしまったせいで少年達は盛り上がる。
 あぁ、これは長引きそうだ……。

「あ、はは、どうも……それよりも不動ガイの百人抜きチャレンジの場所って」
 ファンサービスしてる時間はない。早い所情報を得なければ……。
 しかし、燃え上がったモブフリッカーを前にそんな甘い考えが通用するはずもなく。

「あぁ、それなら……」
 一人の少年が快く情報を提供しようとしてくれたのに、もう一人がそれを制して余計な事を言ってくる。
「へっ、天崎翔也!フリッカーならただで情報が手に入るとは思わない事だな!」
 機体をチラつかせながら不敵に笑う。
「は、はは、やっぱこういう展開になるよな」
 翔也は諦観ぎみに乾いた笑いを浮かべながらもエイペックスを取り出した。

 そして、二人がフィールドに着いて構える。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」

「いけっ!エイペックス!!」

「飛ばせ!プロトパピヨン!!」

 ……。
 …。
 バトルは当然翔也の勝ち。
 しかし、さすがは翔也。相手をしっかりと立ててお互いに楽しくなれるようなバトル内容で勝利したため、相手は上機嫌で情報を教えてくれた。

「またバトルしようぜ〜、天崎翔也くぅ〜ん!!」
「あ、はは、どうもでした〜」
 中学生の男子達に媚び媚びに見送られて、少し居心地の悪さを感じつつも、翔也は苦笑いしながら礼を言い、達斗を促して歩みを進めた。

 姉ヶ崎潮風公園。
 海岸と面したこの公園では多数の中学生フリッカー達でごった返しており、その中心にはフィールド上で戦う不動ガイの姿があった。

「やれぇ!ゼニス!!」
 ゼニスの重い一撃が敵機を場外へ弾き飛ばす。
「ぐああああ!!!」

「フリップアウト!これで99連勝!記録更新だ!」
 レフェリーを務めている少年が宣言すると周りが湧き上がる。

「すっげぇぇぇ!」
「また勝ったよ、不動の奴!」
「記録止められる奴いんのか!?」
 周囲が騒つく中、自信ありげな少年が前に出る。

「へっ、俺が止めてやるぜ!」
 不敵に笑う少年へ、不動ガイは腕組みをしたまま睨め付ける。
「ラストは貴様か……いいだろう。来い」
 静かながらも重い一言を受けて、少年がフィールドへ向かう。
 その時だった。

「ちょ〜っと待った〜〜!!!」
 翔也と達斗が走ってきて、ガイと少年の間に割って入った。
「お前は……!」
「はぁ、はぁ……!」
 二人はしばらく息を整えた後に顔を上げる。
「こ、このバトル、俺達にも、参加させてくれや、しませんかね……?」

 いきなり割り込んできて勝手な事を抜かす翔也に周りは非難轟々だ。
「なんだこいつ!勝手に割り込んできやがって!」
「ここはガキの来る所じゃねぇんだよ!」
「怪我したくなかったら、帰って姉ちゃんの子守唄でも聞きながらおねんねしてな!」

(ガラ悪っ!)

 しかし、一人の少年の言葉によって流れが変わる。
「あれ?もしかして……天崎翔也か?」
 それをきっかけに、周りのガヤも肯定的なものになっていった。

「マジか!俺生で初めて見た!」
「本当にこの街に住んでたんだ」
「不動ガイと天崎翔也のバトルなら見ものだよな!」
「あぁ!乱入参戦大歓迎だぜ、君達!」

(またこの展開か……)
 翔也は困ったように苦笑しながらも、首を横に振って達斗の背中を押した。
「いえ、挑戦するのはこいつですよ!やってやろうぜ、タツ」
「え、え、」
 急に話を振られて戸惑う達斗。
 当然、無名の達斗を見て周りの反応は先程と同じものに戻ってしまう。

「誰だこいつ?」
「いくら天崎翔也の推薦でも、乱入はダメだろ乱入は」
「なめんじゃねぇぞゴルァ!」
「勇気と無謀を履き違えてると、姉の死に目にも会えねぇぞ?」

(やっぱりガラ悪っ!)

「おいおい、いい加減にしろよ。次はこの俺が戦うんだぜ」
 本来次にガイと戦うはずだった少年が文句を言う。至極真っ当な文句だ。
「あ、はは、そう、ですよね!すみませ……」
 達斗は愛想笑いしながら引っ込もうとするが、翔也が口を挟んだ。

「じゃあ、どっちが不動ガイへ挑戦するのに相応しいか、バトルしたらどうです?」
「しょ!?」
 達斗はギョッとしながら翔也へ振り返った。すると間髪入れずに今度は不動ガイが返事をする。
「俺は構わん。弱い奴と戦っても意味がないからな」
「ちぇ、仕方ねぇな」
 ガイが許可した事で、少年も渋々了承した。
「よし、やってやれタツ!」
「……分かったよ」
 トントン拍子に話が進んでいくのはあれだが、バトルしたくないわけではない。
 達斗はヴァーテックスを構えてフィールドについた。

「えっと、それでは飛び入り参加VS江端君の特別マッチ行きます!
3.2.1.アクティブシュート!!」

「いけっ!ヴァーテックス!!」
「ドライエック!!」

 バキィィィ!!

 バトルはほぼ互角で進行していった。

「つ、強い……!」
「やるじゃねぇか小坊!だが、俺は不動が越して来るまでクラスで1番だったんだ!なめるなよ!」
「ぼ、僕だって!」

 HPは、達斗が残り3。江端が残り4で達斗のターン。
 このターンで仕留めないと次にマインヒットされてしまいそうだ。

「ヴァーテックス……!」
 達斗は集中して相手の機体を見据える。

 ポゥ……!
 すると、相手機体に一点の光が見えた。
「そこだ」
「……」
 達斗の様子にガイも気付いたようだ。

「いっけぇ!ヴァーテックス!!」
 達斗は光の点目掛けてストレートシュートを放った。
「突き抜けろ!ダントツの頂点へ!!」

 バシュウウウウウ!!!

「すっげぇ正確なストレートだ!」
「でもあんな勢いじゃフリップアウトは難しいぜ」
「江端君、バリケード上手いもんね」
 ギャラリー達は、フリップアウトは不可能だと判断する。

 バキィィィ!!
 しかし、光の点を突かれたドライエックは想像以上に勢いよく弾き飛ばされてしまう。
「耐えろ!」
 ガッ!
 バリケードで受け止めるものの、反射してしまい別方向のフィールド端にボディが迫り出して一部が場外に着いてしまった。

「あ、い、一部フリップアウトで5ダメージ!江端君撃沈!勝ったのは飛び入り!!」

「う、うそだろ……」
「や、やった……!」
 達斗の勝利に周囲がざわつく。

「マジかよ……」
「あの小坊が勝っちまった」
「なんだったんだ、今のシュート……!」

 ざわつくギャラリーを無視してガイが口を開く。
「終わったか。なら早く始めるぞ、準備をしろ」
「え、う、うん」
 ガイに促されるまま、達斗は再びヴァーテックスをスタート位置に置いてマインをセットした。
「……それでいいのか?」
 達斗のスタート準備を見たガイは念を押すように尋ねた。
「う、うん。準備、出来たけど……」
「そうか」
 ガイはそう言いながらゼニスの裏面を軽く拭いてからセットした。
「……やはり、軽いようだな」
 ガイは小さくつぶやく、それは達斗の耳には届いていないようだった。

「タツ、しっかりやれよ!落ち着いて実力出せれば大丈夫だ!」
「う、うん!」
「果たして出せるかな」
「え?」

 ガイの言葉に疑問を抱く間もなく、レフェリーがスタートの合図をした。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「いっけぇ!ヴァーテックス!!」

「ゼニス!!!!」

 バシュウウウウウ!!!
 スピードはヴァーテックスの方が上のようだ。ゼニスよりも先にフィールドの中央を越えて、向かっていく。

 バゴォォォォォォ!!!!
 しかし、ゼニスと接触した瞬間に弾き返されてしまい、自陣側にあるフェンスに叩きつけられてしまった。

「っ!」
 ゼニスもあまり進んではいないものの、それ以上にヴァーテックスが弾き返されてしまったため、先攻はゼニスだ。

「重量オーバーの機体を吹っ飛ばしたパワー……やっぱ伊達じゃないか!」
 翔也は少しワクワクしながら言った。

「でも、この距離なら……!」
 先攻を取ったとは言え、ヴァーテックスとゼニスはかなり距離がある。
 一応マインは狙えなくはないが、飛距離を出すために力を込めたら狙い撃ちが難しくなる。
 果たして……!
(無難にマイン再セットかな?)
 普通ならそうするはずだが、ガイは機体の向きを変えてシュートの構えをとった。
「ビートヒットか……!」
 ダメージは小さいとは言え、ビートヒットもバカにはならない。攻撃を与えられるなら与えた方が得だろう。
「ふん」
 ガイは、狙いを定めるためか人差し指で軽くシュートした。
「え!?」
 確かに狙いは悪くない。しかし、とてもじゃないがヴァーテックスまで届くか怪しい勢いだ。
 そう思われたが、ゼニスはスーっとスムーズに低速のまま滑っていく。
 ガッ!途中マインに掠めつつもしっかりとヴァーテックスに接触したまま停止した。

「マインヒット!ヴァーテックス残り12!」

「……まさか、あの機体は機動型だったのか……?」
 てっきり近距離専用のパワー型とばかり思っていたから不意を突かれてしまった。
 しかし、機動型と分かれば話は早い。

(密着状態だとストレートの攻撃はやりづらいけど、相手が機動型なら……!)

 機動力の高さは防御力の低さとシンクロするのが一般的だ。
 ヴァーテックスはスピンは苦手だが、密着状態なら投げるようにスピンすれば吹っ飛ばせるはず。

「いっけぇ!!」
 達斗はヴァーテックスのシュートポイントを横から弾いてスピンさせた。
 しかし……。

 ガッ!!
 ゼニスはツンのめるように踏ん張って、少し動いただけで停止してしまった。密着状態からの攻撃でマインも場外もしてないのでダメージは無しだ。
「え!?」
「そんなものか」

 ガイのターン。
 バシュッ!
 再び軽いシュートでコントロールと機動力の両立した動きでマインヒットを決めた。

「ぐっ……!」

 達斗の残りHPは9。まだバトル序盤とは言え、ペースは完全に相手のものだ。

「落ち着けタツ!この距離はお前の得意レンジだろ!」
 翔也のアドバイスに達斗は頷く。
 そう、ヴァーテックスからゼニスまでの距離は20cmほど。そこまでに特に障害物はない。
 さっきは密着状態だったから決めきれなかったけど、この位置なら……!

「ヴァーテックス……」
 達斗は集中してゼニスを見据える。

 ポゥ……!
 ゼニスの側面に光の点が浮かび上がる。

「よし……え!?」

 達斗は目を疑った。
 本来なら一点であるはずの光が、二点……いや、微妙にブレているのだ。

「っ!」
 達斗はもっと目を凝らした。
 すると、ブレていた点は徐々に収束して、先ほど見えていた二点の真ん中あたりに薄らと浮かんだ。
「そこだ!!!」
 狙いを定めてシュートを放つ。
 が、今度はヴァーテックスがおかしい。
 軌道はバッチリとゼニスに向かっているのだが、フロントの刺突部分が微妙に傾きながら進んでいる。
「か、角度修正しない……!」
 普段なら修正するはずのヴァーテックスの向きは修正されず、傾いたままゼニスにヒット。

 カッ!!

 当然力は逃げてしまい大して弾き飛ばせずにビートヒットダメージしか与えられなかった。

「やはりな」
「くっ!」
 そして、ガイのターン。

(でも、もう近くにマインは無いし、あいつだってビートヒットしか出来ないはず……!)
 相手が機動型ならマインが無ければ攻撃手段はないはず……!

 スッ……。
 ガイは中指を親指に添えてシュートの構えを取った。
「はああああああ!!!!」
 そして、先ほどまでとは比べ物にならない気迫で力を込める。

「っ!」
「グラビトンプレッシャー!!」
 ドゴオオオオオオ!!!!
 近距離からの凄まじい衝撃!ヴァーテックスは堪らず吹っ飛ばされる。
「出たあああ!!不動ガイの超パワーシュート!!」
「ぐっ!でも、機動型でそんなシュートしたら自滅するんじゃ……え!?」

 ゼニスは、凄まじいシュートを放ったにも関わらずほぼ動かずにその場に鎮座していた。
「そんな!あんなシュートしてその場に止まるなんて……!」
「タツ!ヴァーテックスを守れ!!」
「っ!」

 そうだ。ゼニスに気を取られてる場合じゃない。
 吹っ飛ばされるヴァーテックスを支えようにももうバリケードは間に合わない。

 バッ!!

 ヴァーテックスはフィールドから飛び出し、更に飛距離を伸ばしていく。

「ヴァーテックス!!!」
 達斗は駆け出してヴァーテックスを両手で受け止めて地面に倒れる。

「おおお、ナイスキャッチ!!」
「でも、さすがに1mは飛ばされてるな……」

 フィールドから1m以上本体が飛ばされた場合、ダメージは1.5倍になる。
 6×1.5で9ダメージ受けてしまい、達斗は撃沈してしまった。

「う、くぅぅ……よかった、ヴァーテックス……!」
 自分の怪我も厭わずヴァーテックスを心配する達斗を見下ろし、ガイは言った。
「その根性だけは認めてやる。だが、貴様は軽い!」
「っ!」
 ガイは一喝したのち、さらに続ける。
「確か、『ダントツの頂点』とか言っていたな?……ダントツは重い、軽く考えるな」

 そう言って、踵を返した。
 ガイが振り向いた先にいるのは翔也だ。

「天崎翔也、GFCスプリング楽しみにしている」
「……あぁ。俺も楽しみになってきた」
 ガイの眼中に、既に達斗はいなかった。

「……」
 達斗はそんな二人のやり取りを遠目で眺めながら呆然としている。

(タツ……)
 翔也は視界の端の達斗をチラリと見ながら心配そうにつぶやくのだった。

 

  つづく

 

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