弾突バトル!フリックス・アレイ 超X 第0話「神位継承!フリップゴッドへの道!!」

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第0話「神位継承!フリップゴッドへの道!!」

 

「いっけぇ!プリベイルヴィクター!!」

 千葉県市原市姉ヶ崎海岸の海沿いに位置する無機質な建物。
 ここは『段田バンフリックス研究所(通称・段田ラボ)』。フリックスの殿堂入りチャンピオン、段田バン(アラサー)が所有している研究所である。
 その研究所のトレーニングルームにて、段田バンと伊江羅博士(アラフォー)がバトルをしていた。
 バンが使っている機体は、新型のようだが……。

「ブラッシュゲイザー!」

 プリベイルヴィクターとブラッシュゲイザーが同時にフィールド中央まで突き進み、激突!

 その瞬間、プリベイルヴィクターのフロントが勢いよく伸びてブラッシュゲイザーを弾き飛ばして場外。

「そのままブチあたれぇ!!」
「っ!」
 伊江羅博士へ向かって飛んでいくブラッシュゲイザー。このまま当たればダイレクトヒットだが……伊江羅博士は咄嗟に身を翻して躱した。

「くぅぅ、惜しい!アクティブアウトかぁ」
「いや……」
 悔しがるバンへ伊江羅は首を振る。
 そして、飛ばされたブラッシュゲイザーを指差した。
 ブラッシュゲイザーはフィールドからかなりの距離を飛ばされている。

「測るまでもなく、これはオーバーフリップアウトだな。俺の負けだ」

 本体全てが場外した時、シャーシからフィールドまでの距離が一定以上離れていた場合ダメージが倍増する。
 つまり、それだけプリベイルヴィクターの攻撃力が凄まじかったのだ。

「マ、マジかよ……」
 攻撃したはずのバン自身がこの結果に驚いていた。
「お疲れ、バン」
 観戦していたリサ(アラサー)がバンへタオルとドリンクを渡す。
「サンキュー、リサ。……くぅぅ、やってる時は自覚無かったけど、結構負担かかるなぁ」
 バンは汗を拭いながら身体をほぐした。

「フッ、よくスペリオルシステムを使いこなしたな。さすがだ」
「あ、あぁ……けどこんなすげぇシステムがあったなんて、よく今まで勿体ぶってたなぁ」
「確か、スペリオルシステムの開発自体は10年以上前だったんですよね?」
「あぁ、お前達に会うよりもずっと前だ」

 伊江羅博士がバンよりも会う前、となると初代ストーリーの第一話よりもずっと前という事だ。

「そんなのがあるんだったらとっとと出せばよかったのに、ケチくさいなぁ」
「そう言うな。開発当初は技術上の問題、そして扱えるフリッカーがいなかった事で封印せざるを得なかったんだ。だが、今のテクノロジーとバンの実力なら長年の封印を解くには良い頃合いだと思ってな」
「まっ、そんならそれでいいや!へへっ、こいつがあれば、次の神位継承戦は貰ったも同然だぜ!待ってろよ、フリップゴッド!!」

 バンはプリベイルヴィクターを掲げて打倒フリップゴッドを誓った。

「あっ、バン!フリップゴッドも良いけど、その前に今日って……!」
 と、リサが時計を見ながら何かに気付くように声を上げた。
「あ、やべっ!そうだった!!急がねぇと!!」
 リサに言われてバンも今日の予定を思い出し、慌てて出掛ける準備を始めた。

 ……。
 …。
 千葉市美浜区マリンスタジアム。
 ここでは、世界中のフリッカー達が集まっており、熱気に包まれていた。

『さぁ、今年もやって来たぞ!フリックスインターナショナルチャンピオンシップ決勝トーナメント!!
予選リーグの過酷な戦いを勝ち上がった上位32名のフリッカーが鎬を削り、世界一を目指すぞ!!』

 会場のモニターにトーナメント表が映し出される。
 そこには過去のストーリーで活躍したお馴染みのフリッカーの名前もあった。

「っひゃ〜!間に合った〜!!」
 特設された観戦席にバン達が駆け込んだ。
「ギリギリだったね……」
「へ、へへ、殿堂入りチャンピオンが遅刻したら格好付かないぜ……」
 バンは肩で息をしながら言う。
「今の状態は格好ついてるとは言えないがな」
「るせぇ」
 負担の掛かるスペリオルシステムでのバトルの直後に全力疾走したら疲れもするだろう。

 そうこうしているうちに、試合が始まる。

『さぁ、最初の対戦カードは馬場超次郎選手VS氷刃カイヤ選手だ!!
ガンナー機能を持つインパクトラオンと、ハーフチェンジの換装機構で多様な戦いを見せるプロトキメラデュアル!それぞれの持ち味を活かした激しい戦いを繰り広げている!!』

「いくでぇ、インパクトラオン!フリップスペル、ラピッドや!!!」

 馬場超次郎の使うインパクトラオンはペットボトルキャップを射出するガンナー機体だ。
 それをフリップスペルのラピッドで連射する。

「いいショットだ。でも、このプロトキメラデュアルには通用しないな!」
 無数のキャップの弾幕を、カイヤはステップで華麗に躱す。

「甘いでぇ!」
 カイヤは全てのキャップを躱したはずだった。
 しかし、射出した後にフィールドに散らばったキャップの存在までは見落としていたようだ。
「っ!置き弾か……!」
 カッ!
 フィールドに散らばったキャップをステップで弾いてしまい、弾かれたキャップがマインに当たってしまいマインヒットしてしまう。
「どや!インパクトラオンのショット、舐めたらあかんでぇ!!」

 観戦席の方からコウキ達ダストのやかましい怒号が聞こえてきたような気がしたが、カイヤはそれを無視する。

「なるほど、なら……ハーフチェンジ!」
 カイヤは黒いアーマーを青いアーマーに取り替える。

 引金!

 引金アーマーはフロントが伸びて、更に前方がT字型に開くような機能を持っている。
 これで押し出し攻撃をするようだ。

「掌底突破!!」
 ガッ!!
 長く伸びたフロントによる面攻撃。
 しかし、インパクトラオンはそこまで飛ばされず、身を翻して受け流した。
「ワイのインパクトラオンは高重心なんや!低い位置からの攻撃は受け流すで!」
「そんなものは、見れば分かる」
「なんやて?」

 ガッ!ドゴォ……!
 身を翻して受け流した勢いでインパクトラオンはコケてしまう。これでスタンだ。

「し、しもた!」
「ハーフチェンジ!」

 月光!

 カイヤは、緑色のアーマーを黄色のアーマーに取り替えた。
 月光アーマーはL字型のシュートポイントがついているアーマーだ。
 T字型に伸びたフロントにL字型のシュートポイント。まさにアックススラッシュ系の技にはおあつらえの形状だ。

「氷刃流剣技!飛燕斬!!」
 L字型のシュートポイントに指を引っ掛けて薙ぎ払うようにシュート!
 インパクトラオンを投げ飛ばしてフリップアウトさせた。
「あ、アホな……!」

『決まったァァァ!!氷刃カイヤ選手、得意の秘技で見事勝利を掴んだ!!』

 ……。
 …。
 次の試合は、ハオランVSカビノフの試合だ。

 

「いくったい!キング・オブ・キングス!!」
 ハオランは、かつての砕破をより強化したような面で押すタイプのバネ機体を使っている。
「うがぁぁぁ!レッドサイクロン!!」
 カビノフはロシアのプロレス選手のような見た目をした大男だ。
 相変わらずレッドサイクロンを使用してパワーファイトを仕掛けてくる。

『さぁ、台湾代表ハオラン選手とロシア代表カビノフ選手!お互いに格闘技に心得のある者同士だが、勝つのは太極拳か、それともプロレスか!?』

「カチ上げろぉ!レッドサイクロン!!」
 一見パワーではカビノフの方が推しているように思える。
 しかし、ハオランはその攻撃を後一歩のところで耐え切っている。
「そこったい!!フリップスペル・ライトニングラッシュ!!
 ハオランはスペルを使った連続攻撃でレッドサイクロンを細かく押し出していく。
「耐えろぉ!レッドサイクロン!!」
「トドメったい!!
 フィールド端まで押し込んだところでハオランはキングオブキングスのシュートポイントにあるボタンを押す。

 するとバネギミックが発動しトドメの一撃を喰らわせた。
 バキィ!!
 見事に重心を捉えた押し出しでレッドサイクロンを撃破した。

「ぐおおおお!負けたああああ!!」
 カビノフは悔しそうに吼えた。
「フリックス太極拳の伝統は、まだまだ進化を続けるったい!!」

 ……。
 …。
 そして、続いての試合は……。

『続いてはチームバトル!ユーロフリッカー騎士団VSホワイトホースだ!今年から一軍メンバーが指導役へ退き、元二軍メンバーが一軍に昇格し大進撃!対するホワイトホースは今年からの参戦だが、抜群のチームワークで勝ち上がって来た注目の超新星!良い試合が期待できるぞ!!』

 ホワイトホースと対峙するユーロフリッカー騎士団の後輩を背後で見守るアドルフ達元一軍メンバー。

(誇りは、継承してこそ本物の名誉となる。しっかりやれよ、ガーシャ!)

「アドルフ騎士団長達から受け継いだものを出し切るぞ、皆!」
「ヤー!」

 誇りを背負うユーロフリッカー騎士団に対し、リュウジ達も気合負けしていない。

「さすがは老舗プロチーム……だが、俺達もチームとしての経験値は負けてない!全力で行くぞ、イッケイ!ツナヨシ!!」
「ああ!」
「もちろんじゃい!!」
 年齢を重ねてリュウジらも貫禄がついてきたようだ。

 そして試合が始まる。
 バトルは互角だったが、若干ユーロフリッカー騎士団有利で進んでいた。
 それもそのはず。かつてのトリニティカップでは、汎用機や先輩の機体を参考にしたものを使っていたが、今回はメンバー一人一人が自分に合った専用機を使用。

 ガーシャは掬い上げ+キックバネで斜め前へ相手を掬い飛ばすライトニングフォースで先陣を切り。
 トリトンは、ハンドスピナーと延長ギミックを組み合わせたジャッジメントアーチャーで後方支援をして。
 サイアは、受け流し防御といざという時の隠しバネギミックで攻めるナイトメアで中間を担うという完璧な役割分担をしている。
 この陣形を崩すのは容易では無い。

「くっ、このままじゃこっちが不利じゃい……!」
「チームプレイの年季が違う……こちらのフォーメーションが付け焼き刃のようだ……!」
「フォーメーションか……それなら、イッケイ。俺はこのターン連携無しで個別で撃つぞ」
 リュウジはニヤリと笑い、構える。
 チーム戦の場合は連携シュートしてフォーメーションを維持するのが基本なのだが……。

「何を企んでいる?」
「今のお前なら、止めないだろ?」
 含みを込めたリュウジの言葉に、イッケイは深く追求せずに頷いた。
「あぁ、好きにやれ」
「サンキュ!ユニコーン!!」

 バシュッ!!
 リュウジはフォーメーションから飛び出し、敵陣へ単機で突っ込んだ。イッケイとツナヨシは2機でフォーメーションを維持する。

「万策尽きて自棄になったか?」
「一体仕留めるチャンスだ!」
「連携で行くぜ!」

 ガーシャ、トリトン、サイアは三体同時攻撃でユニコーンを一気にぶっ飛ばして大ダメージを与えて撃沈。
 これでホワイトホースは不利になるが……。

「よし、無防備な状態で固まった……!」
「攻撃後の隙を突く作戦だろうが甘い!あの位置からたった二機で我々を叩くのは不可能だ!」

「ツナヨシ!スタリオンのアンカーパーツの紐をペガサスの前に置け!そしてイッケイはそれを引っ掛けながらあいつらへ突進だ!お前のパワーならスタリオンを引っ張りながらアタックできる!!」

「なるほど、面白い!」
「了解じゃい!」

 バシュウウウウ!!ドゴォォォ!!
 リュウジに言われた通り、ツナヨシはアンカーの紐をペガサスの前に置き、イッケイは紐を絡めるようにペガサスをシュートし、スタリオンを引きずりながら突進。スタリオン分の重量の乗ったペガサスの攻撃がユーロフリッカー騎士団へぶち当たり、メンバーを庇おうとしたサイアのナイトメアがフリップアウトし撃沈する。
 さすがの受け流しボディもペガサスの消しゴムフロントの摩擦のせいで受け流しきれなかったようだ。

「なんだと!?」
「くっ!」
「サイア!だが、我々はまだ……!」

 動揺するフリッカー騎士団。それでもリーダーのガーシャは立て直そうとするのだが……。

 まるでそれを遮るようにツナヨシが機体の向きを変えて狙いを定める。
「まだ俺のシュートが残ってるんじゃい!!」
 そう、スタリオンはイッケイのペガサスに引きずられて移動したと言うだけで、まだツナヨシ自身はシュートしていない。
「ツナヨシ!ブチかましてやれ!!」
 ツナヨシはアンカーを地面に固定した事によって自滅を恐れずに全力で至近距離からジャッジメントアーチャーへ強シュートを叩き込んだ。
 大型のジャッジメントアーチャーに巻き込まれる形でライトニングフォースも押し出される。こうなっては、流石の掬い上げ形状も受け流し切れない!

「バスターストライク!!」

 バーーーーーーン!!!
 その必殺の威力にユーロフリッカー騎士団はたまらず吹っ飛んでしまった。

『素晴らしい!!!リュウジ選手の機転によってホワイトホースの逆転勝利だ!!』

 バトルが終わり、ガーシャ達はアドルフらへ頭を下げていた。

「申し訳ありません。ユーロフリッカー騎士団の誇りを汚してしまいました……」
「何を言っている。誇りとは勝利にのみついてくるのではない。お前達の誇りが、あの素晴らしいライバルの力を引き出したのだ。胸を張れ!」
「騎士団長……!」

 ……。
 …。
 そして、まだまだ大会は進行していく。

『次の試合はTSインテリジェンスVS関ナガト選手!!チームと個人の異種対決だ!!』

 FICSにおいて、個人で参加するのも3人までのチームで参加するのも自由なのだが、チームで参加する場合は最大HP15をメンバーで均等に振り分けないといけない。(端数は自由に振り分けられる)
 人数が増える分攻撃の的が増えるという欠点があるので、人数が多いから有利という事にはならず。
 個人参加とチーム参加の強さバランスに差異はないのだ。

 とは言え、しっかりと連携すれば物量的にチームプレイは強い。
 現に、ナガトはインテリジェンスの連携に苦しめられていた。

「サイバネティックアバター!アフターブースト!!」

 ドンッッッ!!!
 強力な加速装置による突進。それも三連撃喰らい、ナガトはバリケードを破壊されながらオーバーフリップアウトで一気に大ダメージ受けてしまう。

「くっ、さすがに火力が違うか……なら、真正面から行くのは得策じゃないな」

 ナガトは仕切り直しアクティブで相手の動きを読みながら先手に立ち、そしてサイドの刀を広げて狙いを定めた。

「仕留めろ!センチュリーオーガ!!」

 ガッ!
 オーガはマインを弾き飛ばしながら突進。
 一体のサイバネティックアバターへ掠めながらもう一体へ迫り……。

「鬼牙二連斬!!」
 鬼牙二連斬で弾き飛ばしてその奥のマインに当てる。
 さらに、最初に弾き飛ばしたマインは壁にぶつかって横になり、ゴロゴロと転がりながらもう一体のサイバネティックアバターへヒットした。

『なんというミラクル!!関ナガト選手、圧倒的テクニックで三体を同時にマインヒットして撃沈!!且つて神童と謳われたテクニックは健在だぁぁ!!!』

「まさか、AIでも予測不可能なレベルのテクニックを見せるとは……!」

 ……。
 …。
 こうして大会は熱い激突を繰り広げながら進んでいき、いよいよ決勝戦となる。
 対戦カードは、ヴィハーンVSアルベルト。
 屈指の好カードに、観戦席のバンもテンションが上がる。

「っひゃー!まさか決勝戦がこの二人なんてなぁ!!」
「二人とも、腕を上げてるね」
「アルベルトの奴、昔はルールもまともに知らなかったくせに、今じゃフリックスで稼いだ資金でブラジルの孤児院を救うヒーローだもんなぁ。大したもんだぜ。ヴィハーンの奴も結構良い歳な癖に全然見た目変わらねぇし、あれがフリックスヨガの力なのか?」
 ヨガがアンチエイジングに効果があると言うのはよく聞く話だが。ヨガの力で肉体年齢を保ったまま経験値を積めるのだとしたら、歳を食えば食うほどヴィハーンは強敵となるのかもしれない。
「私もやろうかな、ヨガ……」
 そろそろアンチエイジングが気になってくるお年頃のリサはボソリと呟いた。
「余裕ぶってて大丈夫か?あの二人のどちらかが後にお前と戦うんだぞ」
 軽口を叩いているバンへ、伊江羅が釘を刺した。
「へっ、上等だぜ!どっちが相手でも勝つのは俺だ!!」

 そんな話をしている間にも試合は進行していく。

『さぁ、白熱の決勝戦!!ブラジル代表アルベルト選手とインド代表ヴィハーン選手のバトルは終盤戦に突入だ!!』

「行きますよ、ガナパティ!!」

「やれぇ!ルーンアックス!!」

ルーンアックス

 簡単な変形機構はあるもののほぼ造形機なガナパティと、アックススラッシュ+カチ上げバネ機構を搭載したルーンアックスのバトル。
 どちらも全く違う毛色の機体にも関わらず互角に戦えている辺りがフリックスバトルらしい戦いである。

 そして、お互いのHPが残り3になった所でアルベルトのターンとなる。

「ここで仕留めねぇとな……とは言え、マインも無けりゃ、フリップアウトも遠い位置か……なら一か八か!フリップスペル発動!デスペレーションリバース!!

 スペルの効果でバリケードがなくなりアルベルトの周りに瘴気が立ち込めて視界が奪われる。これによって自滅しても無効化されるようになったのだ。

「ここに来てデスペレーションリバースとは、勝負に出ましたね」
「決め切ってやるぜ!!オラァ!トマホークシュート!!」

 視界を奪われながらもアルベルトは天才的な感覚でルーンアックスを投げるようにシュート。
 ヴィハーンはステップで避けようとするも間に合わずにバリケードを破壊されながらその攻撃を受けてしまう。

 ッパーーーーン!!!

 破裂音と共にルーンアックスのカチ上げバネが発動!ガナパティが空中へ放り上げられる。
 衝撃でルーンアックスは場外へ自滅するが、それはスペルの効果で無効。
 そして、肝心のガナパティだが……。

 ガッ!
 空中で何度もターンし、ガナパティはフィールド端で転倒しながら着地。無事にフリップアウトは免れてビートヒットのみ受けた。

「ぐっ、決め切れなかっただと……!」
「そのタイプのギミックは距離を飛ばすのには向いていませんからね」
「それを補うためのデスペだったんだが、ステップで重心を外されたか。だが、この勝負は俺の勝ちだ!」
 そう、ガナパティは転倒してしまってスタン。つまり、アルベルトにはまだ攻撃のチャンスがあるのだ。

「甘いですよ……フリップスペル、プライアントレジスト!!

 プライアントレジスト、フリッカーの柔軟性が一定よりも高ければバリケードを消費しつつスタンを無効化できる。
 柔軟性の高さによって、バリケードの消費数が変わるのだが。
 ヨガをやっているヴィハーンは最高の柔軟性を持っているためバリケードの消費は無しで使用出来るのだ。

「しまった……!」
 ヴィハーンのターン。アルベルトはデスペレーションリバースを使ってバリケードがないため何も出来ない。
 加えて、ガナパティは飛ばされたおかげでマインから近い位置にいる。

「行きますよ!」
 バキィ!!
 ヴィハーンは難なくマインヒットを決めてルーンアックスを撃沈させた。

『決まったあああああ!!!栄えある今年のFICSは高度な知略戦を制したインド代表のヴィハーン選手が初優勝を飾りました!!!おめでとう!!!!!』

 会場の歓声が割れんばかりにヒートアップし、FICSは幕を閉じた。

 ……。
 …。
 そして、ある意味でここからが本番。
 FICS優勝者と段田バンによるエキシビジョンマッチだ。

『さぁ、世界の頂点を競う戦いが終わったばかりだというのに冷めやらぬ熱気!それもそのはず、この後は殿堂入りチャンピオン段田バンとのエキシビジョンマッチが始まるぞぉぉぉ!!!』

 ステージにバンとヴィハーンが立ち、対峙する。

「へへ、なんかこうやってお前と向かい合うのって久しぶりだな!」
「えぇ、チャンピオンとなったあなたと再び対峙するこの時を、ずっと待っていました。良いバトルをしましょう」
「おお!あったりきだぜ!!」

 バンとヴィハーンが機体をセットする。

『それでは行くぞ!3.2.1.アクティブシュート!!』

「まずは見極めです、ガナパティ!!」

「全力で行くぜ!プリベイルヴィクター!!」

 ガッ!!
 ガナパティとプリベイルヴィクターが真正面からぶつかる。
 その時、ヴィハーンの耳に何やら聞きなれない音が届いた。
 感覚の鋭いものにしか聞こえないであろう高音だった。

(これは……!)

 バーーーーン!!
 接触した瞬間に大きく弾かれてしまうガナパティ。
 ヴィハーンは、まるで足に根が生えたように動かなくなり、ガナパティをその身体に受けてしまった。
 会場が呆気にとられる。

『な、こ、これは……ダ、ダイレクトヒットォォ!!ヴィハーン選手、一撃で沈められてしまったァ!!!』

 静まり返る会場だが、この決着の凄さに少しずつ気付いた観客から徐々に歓声が上がり出す。

『これを呆気ない決着と揶揄出来るだろうか?いや、出来ない!それほどまでに二人の実力は高く、そして段田バン選手の新たなる相棒プリベイルヴィクターの力が圧倒的だったという事なのだから!!それに真っ向から対抗したヴィハーン選手も、さすがはFICS優勝者!凄い、凄すぎるぞ二人とも!!!』

 勝手に盛り上がる会場を他所に、バンは納得しない面持ちでヴィハーンに話しかけた。

「お前、今の……避けられたんじゃ……」
 バンの問いに、ヴィハーンはゆっくりと首を振った。
「仮にそうだとして、私に勝ち目は薄かった。たった一度の接触でそう痛感させられるほど、今のあなたとそのプリベイルヴィクターは強い」
「でも……!」
 バンの言葉を遮るようにヴィハーンは続ける。
「あなたはこれから本当に大事な戦いが待っているはずです。その機体は入念に、大切にしてください。気の流れが非常にデリケートなようですので」
「へ?」
「では、失礼」
 言われた意味が分からずキョトンとするバンへ、ヴィハーンは一礼して踵を返した。

 ……。
 …。
 そうして、数日後。
 遠山フリッカーズスクールの特別バトルルームにて、フリップゴッドと段田バンが対峙していた。

 数年に一回行われる恒例行事。
 殿堂入りチャンピオンによるフリップゴッド挑戦バトル]
 これに勝つ事でバンはフリップゴッドとして認められるという神位継承戦の意味合いを持つ神聖な戦い。
 それ故に、会場はパーソナルな場所で行われ。
 観戦者もバンに直接招待されたプロフリッカー数名のみ。
 撮影は禁止で、メディアも結果のみ報じる事が許されていると言う非常に厳かな催しだった。

 これまでの戦績は……恒例行事となっている時点でお察しだろう。
 バンはフリップゴッドに一度も勝てたことが無い。
 それほどまでに、フリックスの事を知り尽くしているこの男は強いのだ。

 バンは緊張した面持ちでヴィクターの調整をしている。

「大丈夫?バン……」
「あぁ。ヴィハーンに言われてから徹底的にメンテしたからな。それに、せっかく伊江羅博士がこの時のためにスペリオルシステムの封印を解いてくれたんだ!破損さえしなきゃ絶対勝てる!!」
 バンは余裕な表情でこちらを見ているフリップゴッドを睨め付けた。

「こっちは準備OKだ。そっちはどうだ、バン?」
「あ、あぁ!俺も大丈夫だぜ!」

 ゴッドに促されて立ち上がるバン。いつもの、挑戦を受ける側としの余裕はそこにはなかった。

 二人がフィールドについて機体を構える。

「ルールは上級アクティブで良いよな?」
「あぁ!」

 念のためのルール確認も終え、伊江羅博士が間に立ってスタートの合図をする。

「3.2.1.アクティブシュート!」

「いっけぇ!プリベイルヴィクター!!」
「ネオバンキッシュドライバー!!」

 カッ!ドヒュン!!!
 接触の瞬間に鈍い音がして、プリベイルヴィクターが大きく弾き飛ばされる。
 ネオバンキッシュドライバーも弾かれるが運良く壁に激突して耐えた。

「プリベイルヴィクターアクティブアウト!残りHP11だ」

「ぐっ、くそ……!」
 いきなり格の差を見せつけられた気分になり、バンの顔が歪む。
(いや、今のは運が良かった。弾かれた方向がズレていたら……!)
 ゴッドの方も、バンがいつもよりも強い事を感じて警戒しながらネオバンキッシュドライバーのリアウェイトを変形させる。

 そして仕切り直しアクティブだ。

「3.2.1.アクティブシュート!!」
「だらぁぁ!!!」
 ダメ元で全力シュートするバン。
 今度はプリベイルヴィクターが大きく弾かれて、壁に激突。ネオバンキは接触した位置で鎮座していた。
 場外はしなかったものの、ゴッドの先手だ。圧倒的火力と安定性を持つネオバンキに先手を取られる事の意味は大きい。

「くそっ、やっぱ向こうのほうが上かよ……!」
「いや……」

 よくフィールドを見てみる。ネオバンキッシュドライバーの伸ばしたリアウェイトが丁度フリップホールの上に被っていた。

 つまり、ゴッドの自滅扱いだ。

「ネオバンキッシュドライバー自滅!残りHP13」

「危ねぇ、運が良かったぜ……でも、運任せじゃどうしようもねぇ……!」
 助かった事にホッとするバンだが、同時に自分の不甲斐なさを嘆く。しかしそんなバンへゴッドが言う。
「いや、それはこっちも同じだ、段田バン」
「へ?」
「今の君の力は、僕と互角だ。そうなると、僕も運に頼らなければ君に勝る事が出来ない」
 思い掛けぬ言葉に思わず聞き返す。
「フリップゴッドが、俺に対して、運頼り……?」
「今の君は、僕にとって対等なライバルだ!だから、自信を持って楽しもう!この最高のギャンブルを!!」
 フリップゴッドと自分は対等、互いに勝敗の読めないライバル……その言葉はバンの中で大きな力となった。
「そっか、そうなのか、俺……へへ、だったら勝つのは俺だ!!」
「気が早い!」

 仕切り直しアクティブ。
 バンは、システムを解放した状態でシュートした。
 ガッ!
 反動が無くなった事で押し込む力が増して先手を取れた。

「おっしゃぁ!いけぇ!!」
 ネオバンキの横っ腹へスペリオルを叩き込む。
 マインに当たったものの、バリケードで防がれた。
「甘い!ネオバンキッシュドライバーの安定性を舐めるな!」
「でもマインは当てたぜ!HP逆転だ!」

 これでゴッドはHP10だ。バンのHPは11。

「それはこれから取り返す!」
 ゴッドの攻撃!
 しかし、長く伸びたスペリオルシステムのせいで重心がずれてしまい、プリベイルヴィクターはクルクル回りながらもそこそこ飛ばされた程度で止まってしまった。

 ビートヒットで残りHP10だ。

「へっへーん!今度はこっちの番だ!!」

 バンの一撃!ビートヒットでゴッドHP残り9。

「まだまだ!!」
 ゴッドの攻撃!マインヒットは決めたものの、フリップアウトならず。しかし、バンはバリケード一枚破壊されてしまう。

 バン、残りHP7。

「や、やべ!こうなったら……!ブースターインパクト!!」
 防御に回るのはまずいと必殺技を使って一気に決めようとする。

 バーーーーーン!!!!
 吹っ飛ばされたネオバンキは二枚重ねのバリケードに受けられたが、あまりの勢いに反射し、そのままフリップホールの上で停止した。

 一部フリップアウトで5ダメージだ。

「フリップアウト!残りHP4」

「くぅぅ、追い詰められたか……!」
「おっしゃ、このままアクティブアウトで決めてやるぜ!」
「そうはいくかっての!」

 軽口を叩き合い、笑いながら機体をセットするバンとゴッド。
 そんな二人にギャラリーは騒めく。

「なんか、いつものゴッドと違うのぅ」
 剛志が呟くとレイジも頷く。
「うん、なんか楽しそうって言うか……」
 レイジの言葉に、元三武将のユウタが疑問を呈す。
「でも、フリップゴッドっていつでもバトルを楽しんでなかった?」
 ユウタの疑問に対して、同じく元三武将のゲンゴも口を開く。
「確かにそうなんだな。でも今のフリップゴッドは何か違うんだな」
 それらに対して元三武将リーダーのイツキが疑問への答えを考察した。
「いつもは、余裕があるからこそ楽しんでいた……しかし今のバトルは、余裕がない。そのスリルを楽しんでいるようですね」
 その答えに、リサが微笑みながら言った。
「それって、なんだか私達みたいだよね」
「そうですね……フリップゴッドを私達と同じ立場にして楽しませている、それが段田バンの力か。いや、それとも段田バンをそこまでに押し上げたフリップゴッドの力なのか……」

 そんな『当の本人はそこまで考えてないよ』的な考察をギャラリー達がしている中で仕切り直しアクティブが行われる。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「いっけぇヴィクター!!」
「本気で行くぞ!ネオバンキッシュドライバー!!」

 バキィ!!
 二機が接触し、弾かれる。僅かだがネオバンキッシュドライバーが先手だ。

「インパクトドライバー!!」
「ぐっ!!」

 バンは残り一枚のバリケードも破壊されながらフリップアウト。
 どうにかフロント部分が場内に残っていたため、一部場外だった。
 これでバンは残りHP2だ。

 ピキィィ……!
 その時、ゴッドが一瞬顔を顰めた
(っ!)

「?」
 それに気付いたバンが怪訝な顔をするが、ゴッドはすぐに取り繕う。
「さぁ、仕切り直しだ。これで決着をつける!」
「そうはいくか!」

 仕切り直しアクティブ。

「3.2.1.アクティブシュート!!」

「頼むぜヴィクター!!!!」

 バンの願いの籠ったシュートにより、どうにかネオバンキッシュドライバーを押し込んで先手を取った。
 いや、先程よりもゴッドのシュートの勢いが弱まったか?しかし、そんな事を気にしている余裕はない。

「どうせもうバリケードはねぇんだ!いっくぜぇ、フリップスペル!デスペレーションリバース!!
 バンの周りに瘴気が立ち込めて視界を奪う。

「アンリミテッドブースターインパクトォォ!!!」

 自滅を気にしない全力シュート。目の前にあるマインを木の葉のように弾き飛ばしながら突っ込んでいく。
 これにはネオバンキッシュドライバーも堪らず場外へ……。

「ぬおおおおおおお負っけるかああああああ!!!!!」

 フリップゴッドが、今までに見せた事がないほどの気合いを込めて防御をした。
 その甲斐あってか、アンリミテッドブースターインパクトを耐え切ってしまった。

 しかしマインには接触していたので3ダメージ。残りHP1だ。

「た、耐え切られた……!」
「バン……フリックスバトルって、最高だな……!」
「な、なんだよ。勝ち確だからって!」
 もうバンはバリケードがない。マインもフィールドにはないが、フリップアウトされてしまっては関係ないだろう。

「あぁ、そうだな。これで勝ちだ……これで、勝たなければ……!」
 ゴッドは顔を顰めながらもネオバンキッシュドライバーのギミックをセットしてシュートを放つ。
 バリケードのない相手をフリップアウトするのはそう難しくない。
 力が強すぎては自滅してしまうので、加減したシュートが肝要だ。
 そのためか、フリップゴッドのシュートは非常に弱々しかった。

 ガッ!
 ヴィクターへ小さくヒットし、僅かに動かしただけだった。ギミックすら発動していない。

「ビートヒット!残りHP1だ」
「へ?」
「ちっ、力加減ミスったか……」
 フリップゴッドに何か異変が起きている。鈍いバンでもそれは気付いた。
「フリップゴッド……!俺は、どんな事があっても勝つぜ!」
 しかし、だからと言って勝利を求める心を鈍らせる気はなかった。
 バンは容赦なくシュートの構えを取る。あとはビートヒットさえしてしまえば勝ち。ミスらなければ……。だが、フリップゴッドの目もまだ諦めていない。

「それは僕も同じさ……勝つために最後まで足掻く!カウンターブロー!!」

 ゴッドはバリケードを一枚消費してカウンターブローを宣言。
 これで強制的に仕切り直しアクティブになる。
 ただし、その後のターンは距離に関係なくバンのターンだ。結局延命措置でしかない。
 つまり、フリップゴッドはここで場外を狙うしか勝ち筋がない。

 バンもそれを承知で受けて立った。
「そうこなくっちゃ面白くねぇ……!」

 バンはフィールドから離れて助走を付けた。

「行くぞ、3.2.1.」
 ダッ!
 バンがカウントダウンに合わせて駆け出す。

「アクティブシュート!!」

「これが、僕のフリックスだ!!ラストインパクトドライバー!!!」

「カッ飛べぇぇぇ!!ビッグバンインパクトォォォォ!!!」

 お互いの最終奥義がぶっ放されて激突!!
 衝撃波が部屋全体を駆け巡る!!!

 ドゴォォォォォ!!!!!

 目も開けていられないほどの旋風に堪えながら、どうにかフィールドを見る。
 フィールド内には、一機のフリックスが場内に鎮座していた。
 それは……。

「ヴィクターだ……バン!!」

 リサが興奮気味に叫ぶ。
 プリベイルヴィクターはしっかりと場内にいた。
 そして、反対にネオバンキッシュドライバーは力無く場外に倒れていた。

「……終わったか」
 ゴッドはどこか安心したように呟く。
「え、もしかして、俺……」
 状況を理解できず呆然とするバン。しかし、徐々に喜びが湧き立とうとした時だった。

「いや、ヴィクターがおかしいぞ!」
 剛志が指摘すると、レイジがヴィクターを指差して叫んだ。
「あ、フロントパーツが!」

 剛志とレイジの気付きによって、喜びの感情が引っ込む。
 プリベイルヴィクターのアームがどこかに消えているのだ。

「あ、あそこ!」
 ユウタが指差す。
 そこにはネオバンキッシュドライバーの横に落ちているプリベイルヴィクターのフロントアームがあった。

「と、言う事は、破損したパーツの場外によってプリベイルヴィクターも自滅……」

 この結果を確認した伊江羅が告げる。

「同時場外!この勝負、引き分けだ!!」

「そ、んな……」
 バンは愕然とした表情でヴィクターを手に取って確認する。

「内部のギアが砕けてる……ヴィハーンが言ってたのはこの事か。気を付けてたんだけどな……くそぉ、すまねぇヴィクター……!」
 ヴィクターを抱えて嘆くバンへ、ゴッドがヨロヨロと近づき、そして言った。

「段田バン、君の勝ちだ……」
「どう言う事だよ?引き分けは引き分けだろ。ヴィクター直したらまた挑戦するから、覚悟しとけよ」

「すまないが、それはもう出来ない」
 ゴッドは肩を抑えながら言った。
「さすがの僕も歳には勝てなくてね……そろそろ引退試合を考えていた所だったんだ」
「な、なんだよそれ!じゃあ勝ち逃げって事か!?」
「そんなつもりは無い。だからこうして言っている。機体は直せるが、身体はそうはいかない。引き分けの仕切り直しをすれば、君の不戦勝だ」
「そんなお情けの勝利納得出来るわけないだろ!それでゴッドになっても、認める奴なんかいねぇよ!!」

 (いや、別にそんな事はないけど)
 と、この場にいたギャラリーの誰もが思ったが、野暮になるので言わないでおいた。

「そうか……ふふ、君らしいな……だが、戦えない僕ではもう神位継承戦は出来ない……」

 ゴッドは少し思案した後に、こう提言した。

「段田バン、君はフリップゴッドになりたいんだよな?」
「へ?あ、あぁ……だからずっと挑戦してんだろ。ダントツ一番になるために」
「……フリップゴッドの条件は、ただ自分だけがダントツに強いと言うだけじゃダメだ。皆をダントツに導くものでないと」
「皆をダントツに……?」
「もちろん、そのためには君のいうように自分自身もダントツ一番でなければならないが、それはあくまでスタート地点でしかない」
「ダントツ一番が、スタート地点!?」

 ゴッドの言葉の意味を伊江羅がいち早く察する。
「なるほど、確かに今のバトルのフリップゴッドはまさしくダントツへ導くものだった」
 伊江羅の言葉にバンも気付く。
「そっか、俺……ゴッドに導かれたおかげで、あんなバトルが出来たんだ」
 バンは、噛み締めるように呟いた。

 ゴッドはそんなバンの様子を見て、更に話を続けた。
「世界にはいろんなフリッカーがいる。強いもの、弱いもの……強さを求めるもの、求めたいと思っているが自信がないもの、そもそも求めていないもの、強さ以外のものを求めるもの……いや、フリッカーだけじゃない。まだフリックスを知らないもの、知っているが踏み出せずにいるもの……そんな人々をダントツへ導いてこそのフリップゴッドだ。バン、君の持っているダントツの力を、このフリックス界へ広めて発展させるんだ!それが出来れば僕に勝たずとも誰もが認める真のフリップゴッドだろう!」

「そうか、それが、フリップゴッドの力……!そうだよな!皆でダントツになった方がすげぇもんな!よし、やるぜ!やってやる!!俺、真のフリップゴッドになってやるぜ!!」

 フリップゴッドの提言を受け、やる気を出すバン。新たなる挑戦は活力となるのだ。

 しかしその時、剛志が声を上げた。
「なるほど、フリップゴッドの条件、面白そうじゃな!」
「つまり、よりフリックス界へ貢献できたものこそがフリップゴッドを受け継ぐに相応しいと」
 剛志に続き、イツキも何やら面白げに言う。

「へ?お前ら、まさか……」

「その条件で認められれば、剛志や僕もゴッドになれるって事だもんね!」
 レイジがはしゃぐように言うと、剛志も釣られて笑い出した。
「そう言う事じゃな!ガッハッハ!!」

 なんだか流れが変わってきたのを感じてバンが慌てて皆を制ししようとすり。
「ちょ、待てよ!これは俺とゴッドのバトルで……」
 が、バンの言葉など皆聞く耳を持たない。
「それは先程のバトルの話です。フリップゴッドの提言された条件はまた別の話」
 皆すっかりフリップゴッドの提示した条件に主題を置き、バンとゴッドの継承戦など過去のことのように扱っている。

「ちょ、えええええ……!」

 そんな様子を見て、フリップゴッドは愉快に吹き出した。
「ぷっ、ははははは!これはいい!やっぱりフリッカーはこうでなくちゃな!よし、じゃあ決まりだ!誰でも良い!よりフリックス界をダントツに導いたものがフリップゴッドの後継者だ!今ここに、真の神位継承戦の開始を宣言するぞ!!」

 この宣言によって、場にいたフリッカー達が我こそが次期フリップゴッドにと沸き立つ。

「な、なんてこった……」
 次期フリップゴッドの座は自分しかないと言う状態が長年続いていたバンにとってはまさに思いもよらない状況だったが。
 目標に向けた活動について楽しげに語り合う仲間達の姿に、バンの顔は綻んだ。

「おっしゃ、上等じゃねぇか!このバトル、受けてやるぜ!!」

 

   つづく

 

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