第81話「踏み躙られない誇り」
運営スタッフルーム。
そこへTSインテリジェンスの面々がデータを持ってやってきた。
そしてスタッフへ入手したデウスリベンジャーズの不正の証拠を見せるのだが……。
「どうでしょうか、彼らの行いはルールに抵触していると思うのですが」
「うーん、しかしだねぇ……このような素材は見た事がないし、本当に刃物になるのかね?」
「それに、ここまで大会が進んでいるとなるとスケジュールの問題も」
やはり、あまり良い顔はされなかった。
デイビットもその事は想定済みなようで、動揺はしていない。
「とにかく、データはこちらの方で十分に精査しておくよ。どう言う裁定を下すかはしっかりと吟味しようと思うから少し待っていてくれ」
「……」
デイビットは平然を装っているが密かに舌打ちした。
吟味している暇などないと言うのに。
しかし、それも想定済み。ここで焦っても仕方ない。
とにかく、時間が掛かってでも奴らの不正が伝わり、相応の裁定が下されさえすればいい。
「分かりました。よろしくお願いします」
今の所はそう言って礼をするしかなかった。
……。
………。
一方で会場では、すでにダントツウィナーズVSデウスリベンジャーズの試合が激化していた。
『さぁ、ダントツウィナーズVSデウスリベンジャーズの戦いは、お互いになかなかダメージの通らない激しいぶつかり合いが続いている!!ダメージにはならなくても撃つたびに受けるたびに体力を消耗している!この根比べに勝つのはどちらなのか!?』
バシュッ!シュバァァァ!!!
イービルリッパーの切り裂き攻撃にダントツウィナーズの機体が傷ついていく。
「ちっ、こいつらもうなりふり構わねぇって感じだな」
「ここまであからさまだと、こっちは致命傷を避ける事しかできないよ……!」
「くそぉ……おいてめぇら!真面目にバトルしろ!!ルール分かってんのかよ!こんな事したってHPはへらねぇんだぞ!!
バンの苦し紛れの罵倒、それに対してアルベルトは驚きの返答をした。
「は?そんなの知るわけないだろ」
「え?」
「ルールを、知らない……?」
「このフリックスとか言うのをシュートして相手へ攻撃して戦闘不能にする。それだけだろ、こんなもの」
「いや、だから、フリップアウトが2ダメージで、マインが1ダメージで……」
「だからしらねぇっての。興味もねぇよ」
バンの言葉をアルベルトは一蹴する。
「はぁぁ!?そんなルールに興味もない奴がフリックスバトルなんかしてんじゃねぇ!!!」
さすがにこの態度にはバンも怒った。
舐め腐るのも大概にせぇや。
「てめぇらには関係ねぇ!」
バキィ!バシュゥゥ!!
問答を繰り返している間にもぶつかり合いは続く。
「関係ねぇけど、関係ねぇ奴らに俺たちの大事な物を壊されてたまるか!!ここから出てけ!!」
「うるせぇ!!泥も食った事ねぇ甘ちゃんに指図される筋合いはねぇ!!」
「ど、泥……?」
「そういえば、スラム街の孤児だって……」
フクベが言っていた。
「そうだ。俺達は生きるために戦わなければいけねぇんだ!!」
バゴォォォォン!!
今までよりも強い衝撃がバン達の機体を襲う。
「ちっ、甘ったれたやろうが……!そんなくだらねぇ理由でフリックスの世界に足を踏み入れやがって」
ザキもこれまでの話を聞いて憤っているようだ。
たかだか生きるためというだけでフリックスを汚す存在、許せるわけがない。
「ザキ……」
だが、ザキ以上にバンの声には怒りがこもっていた。
「悪い、俺に行かせてくれ」
「あぁ?」
「バン、何をする気?」
拳に力を込めてデウスリベンジャーズを見据える。
「俺は泥食った事無いし、生きる事は大事かもしれねぇ……けど、俺達のフリックスにだって魂があるんだ!!壊されて良いわけがねぇ!!!」
バンはかつてドライブヴィクターが破壊された時のことを思い出していた。
物言わぬ無機物、でもそこには確かに魂があって、心を通い合わせて絆が生まれる。
それを他人が粗末にして良い理由なんかどこにも無い。
「これ以上、お前らの好き勝手にさせるか!!フリップスペル!デスペレーションリバース!!」
久しぶりのスペル発動!
バンの視界が黒いモヤで遮られる。
「うおおおおお!!!アンリミテッドブースターインパクトォォォォ!!」
制限をとっぱらったスーパーシュート!
凄まじい勢いでイービルリッパー三体へ迫る。
「はっ、バカが!そんな勢いで突っ込んだらぶっ壊れるぜ!!」
「それでも、勝つのは俺だああああ!!!!」
バキィィィ!!!!
ヴィクターは切り裂かれ崩れゆく自らのボディと道連れにイービルリッパーを全て場外させた。
『な、なんとぉぉ!!まさに自爆特攻!!ビートヴィクターは自らを犠牲にしてイービルリッパーをフリップアウト!!!これによって、勝者はダントツウィナーズだ!!!』
「はぁ、はぁ……!」
「バン……」
「無茶する奴だ」
「ちっ、今回はしてやられたか。だが、もうお前は終わりだ!」
アルベルトは修復不可能なほどに無惨に切り裂かれたビートヴィクターを指差して高笑いした。
「ヴィクター……絶対直してやるからな……ここで終わりになんか、絶対にさせねぇ!」
ビートヴィクターを優しく拾いながら、バンは強く決意した。
つづく
CM