第59話「インド上陸!新たなるライバル、ヴィハーン!!」
ガンディー国際空港。
ダントツウィナーズは伊江羅博士の引率で、アジア予選に参加するためにインドへ上陸した。
「うおおおお、インドだあああ!!!」
バンは空港を出るなり早速駆け出した。
向かった先は料理屋だ。
「カリーだああああ!!」
「タンドリーチキンだああああ!!」
「マサラドーサだあああ!!」
ガツガツと両手いっぱいにインド料理を抱えてがっつく。
「バン、食べてばっか……」
「俺の胃袋は宇宙だ!!ガツガツガツ!!!」
「インド料理で左手を使う奴があるか、ガキが」
「ザキ、意外とマナー詳しいんだね」
「常識だ」
緊張感のないバンへ苦言を呈すリサとザキへ、伊江羅は言う。
「まぁ別に良いさ。予選開催まで余裕を持ってここに来たのは、少しでもこの土地の空気や食べ物に慣れてアウェイ感を無くすためだ。食事も観光も立派な訓練だ」
「は、はぁ、そういうものですか……」
「そうそう、そう言う事!美味いもん食って力付けねぇと戦えねぇって!」
「てめぇ、意図分かってねぇだろ……」
相変わらずなバンに、伊江羅は心なしか微笑ましく表情を緩ませてこう付け加えようとした。
「ふっ、まぁ、体調管理にだけ気をつければ……」
「うっ!!!」
言い終わる前に、バンが呻き声を発する。
「って、言ってるそばから!大丈夫、バン!?」
リサが慌ててバンを介抱しようとするが……。
「う、うぅ……食い過ぎた……!」
バンはパンパンに膨らんだ腹を抱えてグロッキーになった。
「バカが」
「飛行機から降りたばかりであんなに食べるから……」
「……やはり、一度徹底した指導が必要か」
さすがに伊江羅も片手で額を抑えた。
……。
………。
少し休憩して料理屋を出た。
「ふぅ、うんこしたら落ち着いたぜ」
「インド料理食った後でそれを言うか……」
よりによってとはまさにこの事だ。
「それよりも、さっき観光も練習って言ってましたけど、どこか行く宛でもあるんですか?」
話題を変えるためにリサが伊江羅へ話しかけた。
「あぁ、丁度我々の知見を広げてくれるインドならではの施設がある。……確か、ここらのはずだが……これか」
伊江羅の視線の先を見ると、何かのレッスンルールのような建物があった。
看板もあるが、外国語なので読めない。
「……ヨガ?」
ザキが怪訝な顔で呟く。読めるのかこいつ。
伊江羅がゆっくりとその施設の扉を開くと、中では両手を合わせたいかにもインド人なポーズをした少年が立っていた。
「ようこそいらっしゃいました、ダントツウィナーズの皆様」
インド人らしく褐色肌で全体的に細く長い身体、大人びているが歳はバン達よりも少し上くらいの少年が恭しく挨拶をした。
「あ、どうも」
「こんにちは」
バン達も釣られて挨拶をすると、伊江羅が紹介してくれた。
「この方はフリックスヨガ教室を経営している、ヴィハーンさんだ。今日はよろしくお願いいたします」
「遠く日本からご苦労様でございました。本日は我がフリックスヨガ教室をご予約いただきありがとうございます」
「フリックスヨガ教室……?」
「って、なんだ?」
「では、実際にご覧になっていただきましょう。こちらへどうぞ」
ヴィハーンに案内されてレッスンルームへ向かう。
そこでは十数人の生徒が奇怪なポーズで静止していた。
「す、すげ…!」
「よくバランス保ってられるね……」
バン達が感嘆するとヴィハーンは嬉しそうに頷いた。
「どうです?これがヨガでございます。体内のチャクラを最大限に解放できるようにし、精神を神へと近づける。それはフリックスをやる上でも活用出来るのでございます」
「へぇ、フリックスにも役立つのかぁ」
「では、あなた方も是非体験してみてください」
と言うわけで、ダントツウィナーズの3人もレッスンに参加する事になった。
「う、うぅ、きゃああ!!」
ドサッ!
他のレッスン生に習って片足立ちのヨガのポーズをするものの、リサはすぐに倒れてしまう。
「む、難しい……って、バン!?」
一方でバンは柔軟らしき事をしていたが、全く身体が曲がっていない。
「ぐ、ぐおおおおお!!」
「バン、身体硬すぎ……」
「う、うっせ!リサはどうなんだよ!!」
「それくらいなら」
リサは直立したまま上半身を前に倒す。両掌が見事地面にペッタリ着いた。
「くっ……!へん、柔軟性なんかフリックスに必要ねぇんだよ!」
「……煩いぞお前ら」
ギャーギャー騒いでいるリサとバンの横で、ザキは難なくヨガのポーズをこなしていた。
「マジか」
「すごい」
「ふふふ、さすがは日本代表フリッカー。筋がよろしいでございますね」
ヴィハーンのお世辞は何も出来なかったバンにとっては皮肉にしか聞こえない。
「ちぇ、でもヨガなんて本当にフリックスに役立つのかよ。シュートに使うのは指じゃん」
面白くないバンは思わず愚痴ってしまうが、それを聞いたヴィハーンが不敵に笑う。
「では、試してみますか?私のフリックスと」
ヴィハーンが金色の象のようなフリックスを取り出す。
「っ!見た事ないフリックスだ……!」
「申し遅れましたが。私はインド代表チーム、アルヤンイシャーンのリーダーも務めているのでございます」
「インド代表だと……!」
「おもしれぇ!大会前に練習試合だ!!」
「で、でも良いのかな?大会の前に他チームと戦うなんて……」
大会規約にそんなような事が書かれていた記憶はないが、なんとなくダメな様な気がしてリサは不安がるがそれに伊江羅が答えた。
「フッ、それはこの大会の趣旨を勘違いしているぞ。FICSの目的は他国との交流で腕を磨き、フリックス界全体のレベルアップというのがフリップゴッドの意向だ。手の内を隠して勝利を掴むよりも、明かして互いに強くなった方がいい。その末に掴んだ勝利でなければ意味がない」
「へっ、何でもいいぜ!勝負だぜヴィハーン!フリックスヨガの力って奴を見せてみろ!!」
と言う流れでバンとヴィハーンはバトルする事になった。
レッスンルームの真ん中にフィールドを設置してバンとヴィハーンが対峙する。
「せっかくなので、ルールは上級アクティブバトルでどうでございます?」
「おっしゃあ!ガッツリやろうぜ!!」
ルールが決まった途端、レッスン性がスプレー缶を持ってきてバンとヴィハーンに透明な液体を吹き付けてきた。
「うわわ、なんだ!?」
「ダイレクトヒット対策の特殊光学アーマーでございますよ」
「携帯化されたんだ……」
これまでは大会設備のドローンがやってた事が一般人でも出来るようになってきたらしい。
これで上級アクティブが少しずつ普及していくだろう。
と、準備も出来た所で二人は機体をセットしてシュートの構えを取った。
バンは典型的なストレートシュートの構え、対してヴィハーンは手首と指を思いっきり曲げて指の腹でスピンをする様な構えだ。
(あの構えだと、あそこに飛んでくるな。よーし、いっちょぶちかましてやるか!)
バンはヴィハーンの撃つ軌道を予測して向きを整えた。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「いけっ!ビートヴィクター!!」
「行くでございます!ガネーシャ!!」
ヴィハーンのガネーシャがスピンしながらやや左に逸れる様に突っ込む。
バンのヴィクターもそこへ向かうのだが……。
「狙い通り……じゃねぇ!!」
左、というのは正しかったが、若干足りない。ガネーシャはスピンしながら鼻先でビートヴィクターを掠めて停止。ヴィクターは勢い余って場外してしまった。
「ビートヴィクター、アクティブアウト!4ダメージ受けるので残りHP11!」
「ぐっ!」
普通、アクティブシュートの場外は自滅だが、敵機と接触し、その敵機が場外せずに自機本体が全部場外したらアクティブアウトとなってしまう。
それをパワーではなく、象の鼻の長さを利用した見事な立ち回りだ。
「バンの狙いは間違ってなかったはずなのに……!」
「それがフリックスヨガの強さだ。身体の柔らかさは当然腕の柔らかさにつながる。柔軟性のあるシュートフォームが、シュートの直前に微妙な軌道変更を施して相手を翻弄する事が出来る」
「く、くそ!もう一回だ!!」
「「3.2.1.アクティブシュート!!!」」
それから同じような展開が続き、バンは何度もアクティブアウトを喰らってしまう。
「がああああ!!くっそおおお!!」
アクティブアウトを合計3発食らってしまい、バンの残りHPは3。次食らったらおしまいだ。
「くそ、なんなんだあいつ……!!」
「おい、てめぇこそなんだ!」
ザキが情けないバンを怒鳴りつける。
「な、なんだよ」
「ヨガだのなんだの言っても所詮はただのシュートだ。そんなもんに惑わされてんじゃねぇ」
「ただのシュート、ったって……!」
「戦ってんのは機体だってのを忘れんな」
「戦ってるのは、機体……」
それだけ言うと、ザキは口を閉じた。
バンはその言葉を真摯に受け取り、ヴィハーンの構えるガネーシャを見据えた。
(そうだ、ヴィハーンの動きじゃない。ガネーシャの動きを見るんだ!)
バンは視界からヴィハーンを外し、ガネーシャの動きに集中した。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「そこだっ!!!」
ガネーシャの初動を確認して、バンは咄嗟に力のベクトルを調整してシュートを放つ。
しかし、それでも狙いは逸れておりビートヴィクターはガネーシャに接触後自ら場外へ。
「がぁっ!」
「まさか、バンの負け……!?」
これでアクティブアウトしてしまうと、バンのHPは無くなってしまうが……。
「いえ、惜しかったでございます」
よく見ると、ガネーシャの鼻先がフリップホールの上に停止していた。
これによって同時場外なのでお互いに2ダメージ受ける。
バン残り1、ヴィハーンは残り13だ。
「っぶねぇ……!でも、やり方は間違ってなかったんだ!あとはもっと集中して……!」
バンは気持ちをガネーシャへ向けて一点集中した。
「さすがはフリックス発祥の地、日本代表のフリッカーでございます。あの集中力はまさにヨーガの精神に近い……!」
ヴィハーンもバンの底力に感心しながら構える。
「「3.2.1.アクティブシュート!!」」
「そこでございます!ガネーシャ!!」
「ぶっ飛ばすぜ!!アンリミテッドブースターインパクト!!」
バシュウウウウウ!!!
二機が凄まじい勢いで迫る。
バチイイイイイン!!!
ビートヴィクターのフロントがガネーシャへクリーンヒットし、ぶっ飛ばす。
しかし、ヴィクターも勢い余って場外。
「同時場外!?」
「まだだぁ!!!」
吹っ飛ばされたガネーシャはそのままヴィハーンの腹部へ向かっていた。
「むっ!」
ヴィハーンは身体をくねらせてそれを回避する。
「そんな……!」
「……いえ、残念ながらガネーシャの鼻先が掠めたのでございます」
「……って事は」
「バンは自滅で2ダメージ、ヴィハーンはダイレクトヒットで15ダメージを同時に受ける。
よって、引き分けだ」
「ちっ、バカが。力入れすぎだ」
「でも、アンリミテッドブースターインパクトじゃないとスピードが足りなくてダイレクトヒットは出来なかっただろうし、これが最適解だよ」
「さすがでございます、段田バン。まさかフリックスヨガと引き分けるとは……」
「いやぁ、フリックスヨガもすごかったぜ!あんなシュート初めて見た!!おーし、なんかやる気出てきた!リサ、ザキ!フリックスヨガのレッスンやるぞ!!ヴィハーン、もっと教えてくれ!!」
「えぇ、喜んで」
それから、バン達はしっかりとフリックスヨガのレッスンを行いそのスキルを身につけた……。
「へへ、なんかヨガの力が身に付いて来た気がするぜ!」
「バンは柔軟やってただけだけど」
「ははは、ヨガとはあくまで精神性の事を言うのです。形はどうあれ、バンはしっかりとヨガの片鱗を見たと言っていいでしょう」
「へへへ、だろ!いやぁ、世界のフリッカーと戦うのっておもしれぇな!大会だともっといろんな奴が出るんだろ!?楽しみだぜ!!」
「ふふふ、そう言う事でしたら。大会前に是非とも、紹介したい方がいるのでございますが、明日の予定はどうでしょうか?」
無邪気なバンへヴィハーンが新たな提案をする。
「え、なになに!?まだすげぇ奴がいるの」
「えぇ、きっとあなた達の新たな知見を広がる事でございましょう」
つづく
CM