弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第16話「混戦の第二ステージ!止められない疑念」

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第16話「混戦の第二ステージ!止められない疑念」

 

 2年前。グレートフリックスカップ決勝大会。
 フィールドを挟んでまだあどけない表情をしたナガトと年上の少年が対峙していた。

『さぁ、グレートフリックスカップ決勝トーナメント!デビューしていきなり才覚を発揮したまさに神童!関ナガト君と【誇り高き強さの求道者】の異名を持つ遠近リョウマくんの対決!いきなりの好カードだ!!』

「ついに、憧れのリョウマさんと戦える……!」
 ナガトは緊張した面持ちでリョウマを見る。
「余計な事は考えなくていい」
「え?」
 身体中がガチガチに固まっているナガトへ、リョウマは優しく声を掛けた。
「俺を俺だと思うな。そうだな、ニンジンかゴボウとでも思っていろ」
「ニンジン?ゴボウ……?」
「ただし、お前が相手にするゴボウは結構強いぜ」
 リョウマなりにナガトの緊張をほぐすための優しさだったのだろう、それを察したナガトはふっと微笑んで返事した。
「はい!」

 そして試合が始まった。

『さぁ、物凄いバトルだ!!マイティオーガとフルフォースオーディン!どちらも一歩も引かない!!
ああっとしかし!ここでフルフォースオーディンのフリップアウトが決まった!!勝者はリョウマ君だ!!』

「はぁ、はぁ……負けた……!」
「良いバトルだった。関ナガト、君はまだまだ強くなる。次に戦える時まで、チャンピオンの座で待っていよう」
「はい!俺はもっと強くなります!リョウマさんも必ず優勝してください!!」

 ……。
 ………。

「おいナガト、話聞いてるか?」
「え?」
 ゲンジに顔を覗き込まれて、ナガトは我に帰った。
 ヒンヤリとした空調に明るい店内、そしてテーブルにはパスタやピザなどのイタリア料理が並べられていた。
 小竜隊はコウとの話が終わった後ザイセリヤに来て昼飯兼作戦会議をしていたようだ。
「悪い、ボーッとしてた……なんだっけ?」
「だから、インビンシブルソウルとは決勝トーナメントまでなるべく接触しない方が良いって話だよ」
「あ、そっか」
「藪蛇になる可能性高そうだからな。どうしても直接対決しないといけない場面以外はわざわざ関わらない方がいい」
「そうだな、俺もそう思う」
「さて、話もまとまった所でそろそろ食べるで!うちもう腹ペコや……!」
 大体打ち合わせも終わったようで、小竜隊は目の前の料理に手をつける事にした。

 ……。
 ………。

「はー、食った食った」
 昼飯を食べ終わり、小竜隊は満足げな顔で店を出て会場へ向かう。
「やっぱなんだかんだザイセは安定だよなぁ」
「安くて美味しいからね」
「高級志向に見えて馴染み深い普段着の味、そして値段は庶民の味方。こんな店他にないで」
「ははは。さて、時間まであと40分か。機体のメンテも作戦会議も大体終わったし、試合まで自由時間って事にするか。ここまで来たら根を詰めてもしょうがないしな」
「そうだな、俺も少し個人的に情報を整理したいし」
「試合前だからこそ、リラックスする時間は大事やからな」
「腹ごなしに少し身体解すかな」

 ゲーセンに入るなり、ゲンジはガンシューコーナーへ向かった。
「おっ、うちもうちも!」
 ツバサも嬉々として音ゲーコーナーへ足を運ぶ。
「ほどほどにしとけよ〜!」

 リュウジ、ナガト、ユウスケの三人は四階のVRコーナーに戻った。

「あ、僕もうちょっとこっちで休みます。VR空間だと落ち着かなくて」
「そうか、じゃあ念のため下の二人が遊びに夢中で時間忘れてないか気にかけといてくれ」
「はい」
 ユウスケは苦笑しながら返事した。

 ナガトとリュウジは二人ログインしてロビーサーバーに入った。
「……」
 奇しくも二人きりになるナガトとリュウジ。
「あのさ、リュウジ」
「ん?」
 ナガトは、なんとなく話しかける。聞き返してきたリュウジに対して次の言葉を発そうとするのだが……。
「……」
 話したい事はたくさんあった、ような気がするのだが上手く言葉が出てこない。
「いや、なんでもない」
「なんだよ、変な奴だな」
 二人きりだからこそ、チャンスだとも思った。が、二人きりだからこそいざと言う時に言葉は出ないものだ。
 『大した事じゃ無い』『気にするべきじゃ無い』と、妙に冷静な自分がいる。

 そもそも気になっている事は、聞いた所で何か得られるわけでも無いのに、聞いてしまえばその後の関係に不利益が発生するのは明らかな事ばかりだ。
 リスクとリターンのバランスが悪すぎる。こんなシラフな精神状態で出来る話題ではない。

「それにしても、インビンシブルソウルか。厄介な奴らを敵に回したもんだよな」
 少し間が持たなくなったのでリュウジが話題を出す。
「ああ」
「俺達は四神フリックスに直接関係は無いが、それでもゲンジは仲間だ。そして大会に勝つ上で、インビンシブルソウルは負けるわけにはいかない相手の一つ」
「もちろん、どんな事情があろうとゲンジと一緒に勝つって事は変わりない。例えどんな面倒ごとに発展しても、最後まで一緒に戦うだけさ」
「ふ、やっぱりお前らを選んで良かった。ツバサもユウスケも同じ事を言うだろな。もちろん、俺もだ」
「リュウジ……」
「……ん、んん???」
 突如、リュウジがおかしな反応をし出した。
「な、なんだこれ??ふ、ははは!くすぐった!!」
「どうした?」
「あ、これもしかして携帯鳴ってんのか!VRいる時に携帯鳴るとこんな感じになるのか。悪いナガト、少しログアウトする」
「あ、あぁ」
「……これ試合中は電源切らないとマズいな」
 リュウジはそうボソッと呟くとログアウトした。
 一人残されたナガトはなんとなく思案する。

(リュウジは本当にチームの事を考えていて、大切に思ってるんだな)
 その事に偽りはないだろう。ならば、多少の疑念など気にする必要はないのかもしれない。
「……!」
 その時、ナガトの視界にインビンシブルソウルのメンバー達が映った。正確にはメンバーの一人である少年……。
 ナガトは突発的に駆け出してインビンシブルソウルに向かっていた。

「ホウセン、シェルロードの修理完了したぞ」
 タツヤがシェルロードをホウセンに渡す。
「おっ、悪いな。へへへっ、これでまた暴れられるぜ」
「あまり無茶をするなよ。お前と違ってフリックスは繊細なんだ」
「知るかよ。繊細ならもっと頑丈に作ればいいじゃねぇか」
「しようのない奴だ」
 身勝手な言動をするホウセンにタツヤは呆れ顔でため息をついた。
「それがこいつの良い所でもあるが」
 ホウセンに匹敵するほどガタイの良い男がフォローに入る。
「さすがタカトラ!分かってんじゃねぇか!」
 ホウセンの顔に笑みが浮かぶ、この二人は仲が良いようだ。
 それに対して会話に参加していない他の二人の男女は機体を弄ったり人間観察したりで好き勝手にしている。あまり仲は良くなさそうだ。

「あ、あの」
 そこへ、ナガトが話しかけて来た。
「おめぇ、小竜隊の……!」
 ホウセンが臨戦体制に入る。
「なんだぁ?試合前にジャブを入れに来たってか?上等だ!」
 ポキポキと指の骨を鳴らしながらナガトに迫るのをタツヤが止めた。
「止めろ、ホウセン。……で、何か用か?諸星コウからある程度話を聞いていると思うが、我々と君達は明確な敵同士だ。あまり関わらない方がいいんじゃないか」
「そんな事は分かっている。ただ……」
 ナガトは、会話に参加していなかった少年の方へ顔を向けた。
「なぜ、あなたがこんな所にいるのですかっ、遠近リョウマ……!」
「……関ナガトか」
 リョウマはチラリとナガトを見る。
「おっ、なんだ?リョウマお前、意外と有名人なのか?」
 ホウセンが興味深げにリョウマとナガトを交互に見比べると、タツヤが説明した。
「まぁ、最近フリッカーになったホウセンは知らなくて当然か。遠近リョウマは元々GFC常連で優勝経験もあるトップフリッカーだ。そして2年前の大会で神童と持て囃されたこの関ナガトを下している」
「ほぉ〜、人は見掛けによらねぇもんだなぁ、え?リョウマさんよぉ」
 オーバーリアクションで感心するホウセンを無視してナガトは話を続ける。

「2年前のGFCで、決勝戦を目前に突如失踪した事と今このチームに所属している事、何か関係があるのですか?」
「……だとしたら?」
 静かに肯定するリョウマの態度に、ナガトは更にヒートアップする。
「インビンシブルソウルが何を企んでいるチームか、知らないわけじゃないでしょう!そんな所に、あなたのような真っ当なフリッカーが……!本来ならチャンピオンになるべきだったあなたが!!」
「……じゃあ逆に、君はなぜ小竜隊にいる?」
「なに……!」
「自分に最も都合の良い集団に身を置いて最強を目指す。ただそれだけだろう?」
「しかしっ、そいつらは強引な手で俺のチームメイトの機体を壊そうとして、奪う気なんですよ!あなたは、そんな事に加担するようなフリッカーじゃなかったはずです!」
「そんなフリッカーじゃない、か……」
 リョウマは一呼吸置いて言葉を続けた。
「なら、俺はどんな奴なんだい?」
「っ!」
 リョウマに問われ、ナガトは一瞬詰まるものの、それでも言葉を繋いだ。
「あなたは……俺の憧れでした。威風堂々としたバトルスタイルで他を圧倒し、その実力は現日本チャンピオンにも引けを取らない。2年前のGFCであなたに敗れた時も、悔しかったけど戦えたのが誇らしかった!そんなあなたにいつかリベンジしたくて俺は……!」
「正解だ。確かに俺はそんな奴かもな」
 ナガトが言い切る前にリョウマは口を挟む。
「っ!」
「だが、不十分だ」
「なに……!」
 リョウマがそう言うのと同時に、インビンシブルソウルのメンバー達が歩き出した。
「人は見たいと思った物を見て、見せたいと思った姿を見せる。そして、勝手に理解した気になる」
 去りざま、リョウマはナガトへ言葉を続けた。
「……?」
「勝手に期待して、勝手に失望する。それは君や君の周りの人間も同じだ。覚えておくといい」
 その言葉にナガトは返す事は出来ず、リョウマ達もそれ以上は何も言わずに歩き去っていった。
「……」
 ナガトは複雑な心境でその背中を眺めていた。

 そして、時間が経過し試合まであと5分になる。
 慌ただしい様子でゲンジツバサユウスケがログインして来た。

「ふぃ〜、間に合ったわ〜!」
「ったく、ツバサがいつまでもプレイしてるから」
「んな事言ったって、あとちょっとでフルコンやったんや」
「ゲンジ君も、僕が来なかったら時間忘れてたみたいだけど」
「お、俺は、あそこから一気にクリアする予定だったんだよ!」
「ははは、相変わらずだな、三人とも」
 そして、三人を見つけたナガトが話しかける。
「おお、ナガト!」
「あれ、リュウジさんは?」
「一緒やなかったんかい?」
 てっきりナガトとリュウジは一緒に行動してるとばかり思っていた三人はリュウジの姿がない事に疑問をぶつけた。
「なんか携帯が鳴ったとかで途中から別行動したんだ。そろそろ合流してくるとは思うけど……」
 と、話していると、すぐ近くでプライベートサーバーからロビーサーバーへと転移する時のエフェクトが発生した。
「お、噂をすれば」
 そこに現れたのはリュウジと、ホワイトホースの面々だった。
 楽しげに談笑している。
「リュウジ……」
 そして、リュウジは小竜隊メンバーに気付き、ホワイトホースメンバーに別れを告げて近づいて来た。
「おっ、時間通り来たな。感心感心」
「当たり前だろ」
「それよりリュウジ、ホワイトホースのプライベートサーバーにいたんやな」
「ん、あぁ。いろいろと話したい事があってな」
「話したい事、ねぇ」
「第一ステージは俺達ギリギリのゴールだったから、トップグループのチームとは絡んで無いだろ。んで、向こうは逆に下位のチームとの接触が無い。そこで情報の交換をしたってわけだ。少しでも第二ステージで有利になるようにな」
「けどそれって、ホワイトホースに塩を送る事にもならんか?」
「そりゃそうだが、それでも小竜隊にとってプラスになるだろ」
「そうやけど、ホワイトホースだって倒さなあかん敵やないか……」
「まぁまぁツバサちゃん。それで何か有益な情報はありました?」
「あぁ、俺達がまだ絡んで無いチームで気をつけるべきは、チームミラージュとノースアマゾンの二チームだ。特にチームミラージュは去年の赤壁杯優勝チームでもある、サバイバルバトルではなるべく接触を避けた方が良いかもな」
「サバイバルバトルは、如何に消耗を抑えながら多く敵を倒すかが重要ですしね」
「苦戦しそうだと分かってるチームとわざわざ戦うメリットは無いからな」
「ノースアマゾンも、大会常連でそれほど強かった記憶はないんだが、話によるとかなり腕を上げていたらしい」
「とりあえず、この二チームは遭遇したら要注意だな」
「あぁ、あとさっきの作戦会議でも話したが、当然インビンシブルソウルも警戒だな。予選で奴らとぶつかるメリットは薄い」
「レースじゃなくバトルってなると、もっとめちゃくちゃな事してくるだろうしなぁ」
 サバイバルにおいて、要注意チームの確認は重要だ。そう言う意味でリュウジが情報を得やすいホワイトホースへ掛け合ってのは理に叶っていると言える。
 しかしそれでもツバサはなんとなく面白くなさそうな顔をし、ナガトも難しい顔でリュウジを見ていた。

 そして、ついに第二ステージの試合時間になる。

『さぁ、お待たせしました!赤壁杯予選大会第二ステージを始めます!ルールは朝説明したとおりのサバイバルバトル、先に100ポイント入手すれば予選突破!上位16チームが決勝進出となります。
舞台は孤島!島の各所にフリップホールが設置されている他、海に落ちても場外と同じ扱いになります!
また、HPは通常のアクチュアルバトルの半分、つまり15ポイントになりますので注意してください!
スタート場所はチームごとランダムに転送されます。
では、これよりスタートします!』

 ブゥ……ン!
 各選手の身体が孤島へと転送される。
 小竜隊も鬱蒼とした森林の中に飛ばされた。

「っと……いきなり始まるんだな」
「こないなとこでほんまにバトルできるんか?」
「アクチュアルバトルなら機体は10倍のサイズになるから、多少路面が悪くても平面と変わらないだろうが。ちょっとここは動きづらそうだな」
 森林なだけあり、そこかしこに木が障害物となるし、根っこなどで隆起している。
「視界がかなり悪い、奇襲に備えて機体を出しといた方が良いか?」
「いや、それより一旦この場を移動して戦いやすい場所に出た方が良い。荒地に強い機体に狙われたら勝ち目がない。
全員で固まって、全方向を警戒しながら進む。敵に襲われたらすぐに機体をシュートして迎撃だ」
「分かった」

 リュウジの指示に従い、小竜隊達は周囲を警戒しながら森の出口に向かって進む。
 ザッ、ザッ、と落ち葉を踏みしめる音だけが響く。
 どうしても進みにくいが、この際贅沢は言えない。

「っ、森の出口だ」
 数メートル先に光が差し込んでいるのが見えた。
「よし、開けた場所に出られれば俺たちにとって有利だ。このまま確実にいくぞ」
 一同気を引き締めて歩みを進める。
「……はっ、ユウスケ!伏せぇ!!」
「え!?」
 ツバサは何かに気付いて振り返り、ユウスケは言われるままに咄嗟に伏せた。
「ど、どうした!?」
「行くんや!ワイバーン!!」
 疑問に答えている暇はないと、ツバサは素早くワイバーンを木の幹に向けてシュートし、ワイバーンは反射して別の木の影へ向かう。
 バゴォ!!
 [小竜隊、6ポイント獲得]
 確かな手応えの後、そんなメッセージが浮かんだ。

「くそー、まいったな」
「完璧に隠れてたと思ったのに」
 木の影から、撃沈してやや半透明になった二人の少年が現れた。
 どうやら、機体を出すよりも前にワイバーンの攻撃を受けて一撃でやられたらしい。
 撃沈したフリッカーは一定時間半透明でフリックスは使えないが、移動自体はその場から自由に出来るようだ。
「関西人の嗅覚、なめたらあかんで!」
「さすがツバサだ」
「でも油断しないで!」
 シュンッ!
 すぐに、倒した少年の仲間と思われるフリッカーが現れて一斉集中して小竜隊を狙う。

「シールダーアリエス!!」
 負けじとユウスケもアリエスをシュートしてそれらを受け止める。
「うっ!なんて防御力だ!」
「よし、今度はこっちの番だ!いけっ、ドラグナー!!」
 バキィ!!
 アリエスが敵機を押さえ込んでくれた隙にドラグナーの一撃で一気に3体がぶっ飛ばされる。
「うわあぁぁ!!」
「追撃だ!オーガ!!」
「ユニコーン!!」
 更にオーガとユニコーンの追撃で3体まとめてフリップホールへ叩き落とし、撃沈させた。

 [小竜隊15ポイント獲得]

「おっしゃ!一気に15ポイントだ!!」
「しかも無傷でなんて凄いよ!」
「まっ、ウチのおかげやな!いきなりこんな高得点や、暫定トップ間違いなしやろ!」

『さぁ、始まったばかりの第二ステージですが、早くも各地で激しい戦いが繰り広げられています!その中でトップはインビンシブルソウル!なんと既に24ポイントを獲得!!』

「ま、マジか……!」
「俺達ものんびりしてられないな。早い所ここを抜けて……」

「そうはさせんでぇ!やれぇ、スライドメレオン!!」
「フラッシュパンサー!!」

 シュンシュンッ!!
 背後からフリックスがシュートされ、ドラグナーとユニコーンが弾き飛ばされてダメージを受けてしまう。

「なに!?」

「ガーッハッハッハッ!!フリックス界の王者!キングミラージュ様に背中を向けるからやでぇ!!」
 見ると、なんとも偉そうで派手な振る舞いの少年達(一人は少女)が立っていた。

「チームミラージュ……くそ、面倒な相手に出会ったな」
「キングを付けろキングを!!俺は絶対王者!玉田キミミチ様やでぇ!!!はっはっはっはっはっ!!!!」

 キミミチの言葉にリュウジは記憶違いを感じて首を傾げた。
「あれ?前の大会ではチームミラージュだったような」
「フッ、赤壁杯の王者に相応しいチーム名になるよう改名したんやで」
「……去年優勝したからって調子に乗ってるな」
「な、なんか典型的な小物なんだが……リュウジ、去年こいつらに負けたの?」
 割と尊敬に値する先輩でもあったリュウジが、こんなチームよりも成績が下だったという事実はなんか嫌だ。
 リュウジはその問いに苦笑いしながら答えた。
「……直接戦ったわけじゃないんだが、去年の大会は割と運要素が強いフィールドでのバトルロイヤルでな。あの頃はちょっと新規参入が減ってたから、テコ入れのつもりだったんだろうな……」
「つまり、漁夫の利っちゅー事か」
「とは言え、奴らが実力者って事は間違いない。実力がなければ運を味方につけても優勝までは出来ない」
 リュウジの評価にキミミチ達は気分良さげにする。
「ふん、負け惜しみかと思ったら分かっとるやんけぇ!」
「うほほほ!オラの野生の勘があれば運なんて関係ないのさ!」
「ヒョッ!元ホワイトホースのリュウジのいるチーム、とっとと潰すに限るッヒョ!」
「そうは行かない!!」
 ナガトはメレオンとフラッシュパンサー目掛けてシュートするが。

「させるか!ガク、イサオ!」
「ウホウホ!輝け!パンサー!!」
「ヒョッ!プロフィットオクトパス!いつもより、光りまっせ〜!!」

 ガクの使うパンサーは電飾が付いた機体らしい。
 それが光り、イサオの使う黄金ボディのオクトパスとキミミチの使う鏡面ボディのメレオンが光を増幅させてナガトの目を眩ませる。

「うおっ、まぶしっ!」
 そのせいで力が入らず、オーガの突進はあっさりとオクトパスに受け止められてしまう。
 タコらしく紐や針金素材の触手と吸盤が大量についたこの機体は攻撃を受け止める事に優れている。
「ヒョッヒョッ!隙だらけでっせ〜!!」
 プロフィットオクトパスはオーガを受け止めたまま、自身に取り付けている吸盤の着いた紐を伸ばしてを木の幹に貼り付けながら強烈なシュートでオーガを投げ飛ばす。
 本来なら自滅しかねないほどの勢いだが、オクトパスは吸盤で踏ん張るので紐の長さまでしか進まずにオーガだけが吹っ飛んでいく。
「うわぁ!!」
 かなりの距離を飛ばされてオーガはダメージを受けてしまった。
「やりおったなこのエセ関西人!レヴァントワイバーン!!」
 同じ関西人として対抗心が湧いたのか、今度はツバサが前に出て攻撃する。狙いはキミミチのメレオンだ。
「遅いんやでぇ〜〜!」
 シュッ!
 スライドメレオンはまるで舌を伸ばすかのように触手パーツを飛ばして遠くにある木の根っこに張り付け、紐を巻き戻す事でそこへ向かってスライド移動してワイバーンの攻撃を躱した。
 ワイバーンは木にぶつかって停止する。
「なんやて!?」
「フックショット……!まさにカメレオンの舌ってわけか」
「ふふ、いきますわよ!スピアホーネット!!」
 木にぶつかって動けなくなったワイバーンへ、キングミラージュ紅一点の少女レイカが蜂形フリックスをシュートしてワイバーンの横っ腹を突いて弾き飛ばした。
「おお!さすが我が愛しのレイカや!!」
「うふふ、キミミチの立ち回りも素敵よ」
 この二人、どうやら付き合っているらしいが、そう言うのは試合の外でやってほしい。

「ちっ、これじゃジリ貧でやられる……ゲンジ!同時攻撃で打開するぞ!あのアタッカーの女を潰せば形勢は変わる!」
「分かった!」
 ゲンジとリュウジが同時シュートしてスピアホーネットを狙うが……!

「させない。ナッターハーミット!」
 パーカーのジッパーで口を隠した暗そうな少年が、ヤドカリ型フリックスの殻部分を分離させてスピアホーネットの前に置いた。

 ボフッ!
 その殻はスチールウールでできていたらしく、ドラグナーとユニコーンの突進の衝撃を吸収して受け止めてしまった。
「くそっ、ここじゃいつものパワーが出ない……!」

「ありがとうですわ、ズイ」
「べ、別に」
 レイカに礼を言われ、ズイは顔を赤くしながらそっぽを向いた。

 なかなか上手くペースを掴めず、ゲンジは歯噛みする。
「……チームプレイは向こうの方が何枚も上手か」
「伊達に優勝チームじゃないさ。それに、奴らは搦手を得意とする、こういう荒地は十八番なんだ。だから早く脱出したかったんだが」
「こうなったら、僕が囮になるから皆は逃げて」
 ユウスケが覚悟を決めてチームを守るように前に出た。
「なんやて?」
「ここで全員やられるよりもディフェンダーの僕が時間稼ぎした方が良い。1ポイント減るくらいなら挽回出来るし」
「……そうだな、悪いユウスケ」
「大丈夫。いけっ!アリエス!!」
 ユウスケはアリエスをキングミラージュ達の前へシュートした。
 バキィ!!
 アリエスの突進はフラッシュパンサーへヒットするが、大したダメージにはならない。
「飛んで火に入る夏の坊さんやで、それは!」
「ウホウホ!これは一斉攻撃して潰すチャンスウホ!」
 バシュッ!バシュッ!!
 キングミラージュは連続でシュートしてアリエスへ猛攻する。
「耐えてくれ、アリエス!!」
「俺達は機体回収して、走るぞ」
 ナガトが機体を回収しようとするのをリュウジが止めた。
「待て、危ない!!」

「ごっつぁん!!」
 今度はまた別方向からクロームリノセラスが轟音を上げながらアリエスとキングミラージュのフリックスへ突っ込んできた。
「っ!ユニコーン!!」
 リュウジは素早くユニコーンを撃ってアリエスにぶつける。弾かれたおかげでアリエスはリノセラスの軌道から逸れて、リノセラスはアリエスの延長線上にいたハーミットをぶっ飛ばして大ダメージを与えた。

「あ、あの機体は、トライビーストの……!」

「な、なにするんや我ぇ!!」
 小竜隊の後ろから現れたトライビースト達へ向かってキミミチが叫んだ。
「タイミング良く漁夫の利を狙えるかと思いましたが、さすがは雲野リュウジ。良い判断です。ですが、このまま攻めるのみ!!」
 トライビーストのリーダー、若生ジュンのヒドゥンスネイカーがまさに蛇のような動きで縫うように迫ってスピアホーネットへアタック。
「スティングル!」
「レザード!」
「スワロー!!」
 他の三機も続け様に攻撃に参加する。
「ちぃ、良いところを……!」
 トライビースト達の奇襲に手を焼いてしまい、キングミラージュは小竜隊へ手が回らなくなる。

「ラッキーだ。皆、機体を回収して走るぞ!」
「「「おう!」」」
 このドサクサに紛れて機体を回収し、小竜隊は走って森を抜けた。

「はぁ、はぁ……!」
「ふぃ〜、危なかった〜」
「ここなら僕達にとって有利に戦えるね」
 平面で視界の良い空間。真っ当に性能の高い機体を使う小竜隊にとっては有利な場所だ。
「しかし、かなりダメージを受けてしまった。油断は出来ないな」
「逃げ回ってもポイントは入らない。倒せそうな相手を見つけてポイントを獲得するんだ」

 こうして、小竜隊は草原エリアをメイン拠点として遭遇したフリッカーを倒していく作戦に出た。

「いっけぇドラグナー!」
「飛ぶんやワイバーン!」
「守れ!アリエス!」
「今だっ、オーガ!」
「やれっ、ユニコーン!」

 ダメージを受けたり仕留め損ねずに逃す事もあったが、撃沈する事なく順調に敵を倒してポイントを稼いでいく。

「おっしゃ!これで45ポイント!もうすぐ半分やで!」
「いい調子じゃん!このままインビンシブルソウルとも会わなきゃ案外楽勝で突破出来るかも」
「でも、僕達全員HPがあと少しだし、そろそろ撃沈されてもおかしくないね」
「その時はその時や。これだけ稼げば多少ポイント減ったところで痛くないで!」
「あぁ、ポイントが減る事よりも増やす事を最優先に考えよう」
「おっ、言うてる側から次のカモや……!」

 目のいいツバサは、遥か遠くに別のフリッカーチームがいるのを見つけた。
「あれはホワイトホースか……しめしめ、こっそり近付いて奇襲すれば倒せそうやな」
「いや、奴らはそんなに甘くない。HPが残り少ない状態で攻めても返り討ちに遭うだけだ」
 何故かリュウジがツバサを止めた。
「何言うとんのや。それでも攻めた方がええに決まっとんやろ」
 リュウジの言う事も聞かずにツバサは駆けていく。
「仕方ないな」
 リュウジ達もツバサの後を追った。

 ホワイトホースは、全員まだHPに余裕がありいい感じにポイントを稼いでいたようだ。
 そして次の獲物を探して歩いているのだが……。
「っ」
「どうした、ユズル?」
「風の動きが変わったような……」
 唯一の女子メンバーのユズルが異変に気付き、リーダーのイッケイが素早く指示を出す。
「敵襲だ構えろ!」
 その指示に従って、チームメンバーは咄嗟にフリックスを出す。

 バキィ!!!
 どこからか飛んでくる5体のフリックスに対して、ホワイトホースも5体のフリックスで迎撃し、押さえ込んだ。

「さすがはホワイトホース。良い反射神経である」
 そして、ホワイトホースを襲ったチームが姿を現した。
「ノースアマゾン、城島アキラ……!」
 まさにさっき、警戒すべきだとリュウジに忠告したチームに遭遇してしまい、イッケイは気を引き締める。

「陣形を組め!」
 アキラの命令でノースアマゾンはステップを使いホワイトホースを輪になって囲む。
「は、はやっ!」
「俺達の虫型フリックスは軽量だから素早く動けるのである!」
「な、なんか嫌な言い方だなぁ……」
 大量の虫が素早く動く……嫌悪感のある表現だ。

「イッケイ兄ちゃん……!」
「こいつは、なかなか厄介じゃい……」
「落ち着け、冷静に対処すれば打開策はある!」
「とにかく敵の輪から抜け出さないと!」
「ツナヨシ、お前のバスタースタリオンで1番防御力の低いアントソルジャーを押し退けるんだ!」
「了解じゃい!!バスタースタリオン!!」

 小型且つ重量のある機体、バスタースタリオンが真っ直ぐ突っ込み、アントソルジャーの壁をぶち破る。

「あぁ、重いっ!?」
 アントソルジャーの立ち位置を崩されて、使い手のコウタは動揺する。
「ゼン!ツナヨシに続け!」
「う、うん!ライナースタリオン!!」
 更にダメ押しで、ゼンの使うローラーがついた機体ライナースタリオンで、バスタースタリオンが開けた隙間を縫うようにこじ開けながら進んで更に隙間を広げる。

「よし、ヤスオ、ユズル!俺たちも続くぞ!行けっ、バリオペガサス!!」
 イッケイのバリオペガサスは羽根をはためかせながらアントソルジャーをスルー。
「行かせない!!」
 体制を立て直してブロックするアントソルジャーだが。
「オフロードスタリオン!」
 ヤスオのオフロードスタリオンは乗り越えに特化しているようでそのまま飛び越えた。
「アンカースタリオン!」
 ガッ!
 しかし、その後に続くアンカースタリオンが受け止められてしまう。
「ユズル!」
 受け止められたアンカースタリオンを城島アキラが狙いを定める。
「コウタ、見事である!よし、ショウタ、同時シュートで行くぞ!」
「は、はい!」

 アキラとコウタが同時に構えを取る。アキラは両腕を突き出したダブルフィンガーシュートだ。

「いけ!サンダークラップ!」
「ヴァ、ヴァーミリオン!!」
 カブトムシ型のサンダークラップとクワガタ型のヴァーミリオンが同時に突っ込んでアンカースタリオンを弾き飛ばす。

「きゃああああ!!」
「だ、大丈夫か!?」
「え、えぇ……!」
 名前の通りアンカーを装備していたアンカースタリオンはどうにか衝撃を吸収して撃沈は免れた。

「こうなれば、総力戦だね!」
 合田シュンがホッパソルジャーを撃つと、アントソルジャー2体もそれに続く。
「力比べなら負けないんじゃい!!」
「いくぞ!!」
「僕だって!!」
 バスタースタリオン、オフロードスタリオン、ライナースタリオンは真っ向から立ち向かう。

「乱戦ならマインをセットして置くか……!」
 バリオペガサスはウイングを利用してマインヒットするタイプなので、イッケイはマインをセットした。

 それから、お互い互角の立ち合いで消耗戦となる。
 が、総合的な火力ではホワイトホースの方が上なのか、ノースアマゾンの方が追い詰められている。

「まずい、追い詰められてる!」
「せめて1人でもホワイトホースを潰す!!」
「あっ!」
 バキィ!!
 再びサンダークラップとヴァーミリオンがアンカースタリオンに同時攻撃して撃沈させる。
「きゃあああ!!」
「ユズル!」
「ご、ごめんなさい。耐えきれなくて」
「気にするな!押してるのはこっちだ!このままいけば……」
(でも、何か違和感があったような……)
 ユズルはノースアマゾンに対して何かを感じていた。
 サンダークラップはアキラが、ヴァーミリオンはショウタが使っていたはずだ。
 しかし今のシュート、明らかにショウタの動きはヴァーミリオンとシンクロしていなかったような……。
 そしてさらに気付く。
 ノースアマゾンは第一ステージではアントソルジャーを三機所持していたはず。しかし、今は二機しかいない……。

「はっ!気を付けてイッケイ!ノースアマゾンは一体足りない!!」
「なに?」
「五体いるだろ?」
 ユズルの言葉を一瞬理解出来なかったホワイトホースだが、アキラはチッと舌打ちした。
「城島アキラは多分、フリップスペル『二刀流』を……!」
 ユズルが言い切る前にアキラが命令を下す。

「ショウタ!急ぐのである!!」
「うん!アントソルジャー!!」

 ザザッ!!
 ヴァーミリオンを使っていたはずのショウタはアントソルジャーの名を叫んでシュート、草むらに隠れていたアントソルジャーが飛び出してバリオペガサスに向かってくる。

「なに!?」
 不意打ちの一撃。これを食らってはひとたまりもないだろう。

「一点集中!ソニックホーン!!!」

 激突の直前、横からソニックユニコーンが突っ込んできてアントソルジャーをぶっ飛ばし一撃で倒してしまった。

「リュウジ……!」
「リュウジ兄ちゃん!」
「気を散らすな。次が来るぞ」
「あ、あぁ……!」

「えぇぇい!いけぇ!サンダークラップ!ヴァーミリオン!!」
「「うおおおおお!!」」
 残ったノースアマゾンのメンバー達が迫ってくる。

「「いけぇ!!!」
 それに対してホワイトホースが真正面からぶつかりに行き、返り討ちでノースアマゾンの機体を次々に撃沈していく。

「やれっ!ソニックユニコーン!!」
 ホッパソルジャーが一体ギリギリで生き残ったが、即座にリュウジがトドメを刺した。

 [小竜隊51ポイント]
 リュウジが二体倒した事でポイントが加算される。

「すまんな、リュウジ」
 乱戦が終わり、イッケイはリュウジに礼をする。
「いや、俺はただ得点が欲しかっただけだ」
「そうか、そうだよな」
「でもやっぱり頼りになるんじゃい!」
「イッケイさんとリュウジさんの息もピッタリだったし!」

「何やっとんのやリュウジ!」
 シュンッ!
 和やかに話してる所で、レヴァントワイバーンが突っ込んできた。
「っ!散開だ!」
 イッケイの合図でホワイトホースはバラバラに避ける。
「漁夫の利を狙うんやろ!だったら次はホワイトホースの番やないか!」
「落ち着けツバサ!ここで下手に深追いしたら返り討ちに……!」
「何今更腑抜けた事を……!」
 ツバサとリュウジが言い合いしている間にツナヨシが狙いを定めてきた。
「悪く思うなじゃい!バスタースタリオン!!」
 ツナヨシのバスタースタリオンがレヴァントワイバーンを弾き飛ばして撃沈させる。
「あぁ!」

 [小竜隊50ポイント]
 ツバサが撃沈した事でポイントが減ってしまった。

「ここは一旦引くぞ!」
「「「了解!!」」」
 イッケイの命令でホワイトホースは明後日の方向へ機体をシュートする。シュートしたばかりのツナヨシは機体を回収して駆け出す。
「……じゃあな、リュウジ。また会おうぜ」
 去り際、イッケイはリュウジへそう言って駆けて行った。

「はぁ、はぁ……くそぉ!取り逃したぁ!!」
 ツバサは悔しげに地面を叩く。
「冷静になれよツバサ。あの場面で突っ込んでも迎撃される可能性が高かったのは明らかだろう?」
 リュウジに宥められると、ツバサは激昂してリュウジを睨みつけた。
「ふざけんなや!!!!」
「っ!」
 いつもとは違う突然の迫力にリュウジはたじろいだ。
「何が漁夫の利や!何が深追いしたら返り討ちに遭うや!ただリュウジがホワイトホースを倒したくなかっただけやろ!!」
「な、何言ってんだよ……!」
「お、落ち着いてツバサちゃん!」
「そうだぜ。いくら元チームメイトだからって、敵チームを贔屓するわけないだろ。なぁ、ナガト?」
 ユウスケとゲンジもツバサを宥めつつ、ゲンジはナガトに同意を求めた。
「ナガト?」
 しかし、ナガトからの返事が来ない。

「……」

 “人は見たいと思った物を見て、見せたいと思った姿を見せる”

 “それは君や君の周りの人間も同じだ。覚えておくといい”

 ナガトの脳裏にリョウマから言われた言葉が過った。

「……リュウジはさ」
 だからか、気付いたら口にしてしまった。
「ホワイトホースのために小竜隊を結成したのか?俺達を利用しようとしたんじゃないのか?」
「な……!」
「な、なに、言ってんだ、ナガト……!」
 ナガトの言葉にリュウジは声を詰まらせ、ゲンジも戸惑った。

「言っている意味がよく分からないぞ。そんな回りくどい事するわけが……」
「じゃあなんで、事故の事を黙ってたんだ?」
「っ!」
「事故?事故って、GFC前の?」
「あの時の車に、リュウジは乗っていた。なのに、その事を黙っていたのは何故だ?あの事故がなければ俺はGFCに出場して、決勝大会に出ていたかもしれない」

 止まらない。

「だが、俺は今ここにいる!GFCに出られなかったから!リュウジが乗っていた車に轢かれたからだ!!」

 溢れ出す疑念が洪水のように、口から止めどなく流れてしまう。
 言うべきじゃないと分かっていたはずなのに。

「なんや、それ……!まさかリュウジは、ナガトを小竜隊に引き込むためにわざと事故を起こして、そしてウチらを利用するつもりやったんか!?」
 ツバサまで乗ってくる。めちゃくちゃな理屈のはずなのに、冷静さを失った二人はもう止められない。
「そんなわけないだろ!二人ともやめろって!!」
 ゲンジの言葉も届かず、リュウジも何も言い返せない。
「……」
「リュウジ、あいつらになんか言ってやってよ。いくらなんでもめちゃくちゃだ」
 ゲンジに言われ、リュウジは呼吸を整えてなるべく平静を保った口調で話した。
「……ツバサ、ナガト、それは誤解だ。あの事故はたまたま運悪く起きたものだし、俺は小竜隊を大切に思っている。昔のチームのために利用しようなんて、微塵も考えてないさ」

 リュウジの言葉を聞いても、ツバサとナガトは険しい表情を変えない。

「まぁ、信用されるわけないよな」
 リュウジは諦めたように目を閉じて踵を返した。
「リュウジさん、どこへ!?」
「……どうやら俺はしくじったらしい。チームの癌は取り除いた方が良い」
「癌って、そんな!リュウジさんはいつもチームの事を考えてくれてたのに!!」
「俺も、そのつもりだったが……信頼を失っちゃ意味がない。だが、それでも俺は小竜隊で勝ち上がりたいと思っている。だから今は別行動を取った方が良いだろ。チームのためにも、それが最適解だ」
 そう言って、歩き出した。

「じゃあな。なるべくポイント稼いでチームに貢献してくるぜ。お前らも負けるなよ」

 

   つづく

 

 

CM

 

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