弾突バトル!フリックス・アレイ トリニティ 第9話「ダントツの誓い」

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第9話「ダントツの誓い」

 

 国道14号線を一台のワゴン車が千葉方面から東京方面へ向かって走っていた。
 国道14号線は車を持っている千葉市民が東京方面へ行く際によく利用する主要道路だが、この車の運転手も例外なく頻繁に利用しているようでその走行には長年の慣れを感じさせた。
 このワゴン車には、運転手の黄山先生と小竜隊のメンバーが乗っている。

「おっ、皆見えてきたぞ!あれが我らが千葉の県境、江戸川じゃ!」
 大きな河川敷を結ぶ橋が見えてきた。
「おお〜!ついに俺たち、県境を越えるのか!!」
「この瞬間はワクワクするよね」
「千葉の県境は川で囲まれてるから、特別感あるもんなぁ」
 そう、千葉県は江戸川と利根川よって他県から分断されている。
 もし川を繋ぐ橋が崩れたら、千葉県は実質孤島となってしまうだろう。
 ある意味、本州から独立した県といっても過言ではないのかもしれない。
 それ故に千葉県民にとって県境とは国境と同レベルの大きな意味を持つのだ。

「そんなもんかねぇ……まぁでも、車で試合会場まで行けるのは快適やなぁ〜!」
 ワゴン車なので車内はそこそこ広いので、ツバサは大袈裟に伸びをするがそれでも大人数で乗っているため腕が隣にいるゲンジの顔を掠めた。
「うわ、気をつけろよツバサ……」
「悪い悪い。かんにんな」
 苦言を呈すゲンジに対して、ツバサは悪びれる様子もなく謝った。
「はは、グレートフリックスカップは電車移動だったからねぇ」
「せやせや、舞浜駅まで地味に乗り換え面倒やったからなぁ……まっ、梅田ダンジョンと比べれば屁でもないけどな」
「俺たちがついてなきゃ、一回乗る電車間違えそうになってたけどな」
「うっ……武蔵野線と京葉線の境がややこしすぎるんや。しかもちょっと風が吹いただけで遅延しとるし」
「『風が吹けば京葉線が止まる』って奴だな」
「なんじゃそりゃ、桶屋が儲かるんやないんかい」
 千葉民なら誰しもが知っている慣用句だが、まだ越してきたばかりのツバサは怪訝な顔をした。

「いくら距離が近くても電車だと大回りになる事もあるしな。黄山先生、休日なのに車まで出してもらってありがとうございます」
 礼儀正しいナガトは改めて先生に礼を言った。
「ガハハ!気にするな、ドライブはワシの趣味じゃからな!」
「今日は安全運転でお願いしますよ、黄山先生」
 助手席に座っているリュウジは長年の付き合い故の軽口を叩いた。
「今日はとはなんじゃ!ワシはいつも安全運転じゃぞ!……うおっと!」
 キキー!
 軽口に対して憤慨する素振りを見せた直後、車体が右へ大きく逸れた。
 慣性でみんなの身体がつんのめる。
「おわっと!どないしたんや!?」
「い、ててて……!」
「すまんすまん、大丈夫か皆?」
「えぇ……どうしたんですか?」
「急に自転車が歩道から車道に膨れ上がってきてな」
 自転車あるあるだ。ウィンカーもない上に、歩道も車道も我が物顔で走り、急加速急旋回を難なくこなすこの乗り物は交通において一番の脅威だろう。
「危ないやっちゃなぁ」
「気をつけてくださいよ、先生」
「気をつけたから事故らんかったんじゃろうが」
「……」

 事故らなかったのは幸いだ。車内は再び和やかなムードに包まれる。
 が、そんな中ナガトだけは呆然と気が抜けていた。
「どうした、ナガト?」
「ぁ……いや、なんでもない」
 ゲンジに声をかけられ、ナガトは我に帰ったようでかぶりを振った。
 そんなナガトの様子にゲンジは怪訝な顔をするがそれ以上追求することも出来なかった。

 そして数分後。
 小竜隊一行を乗せた車は無事東京都江東区のスポーツ施設を思わせる立派な建物の敷地内に到着し、駐車場に車を止めた。

「ここじゃな、ついたぞ皆!」
 黄山先生先生がサイドブレーキを入れたのを確認すると、一同ぞろぞろと車から降りて建物を見上げて感嘆を上げた。

「おぉー!ここが江東館かぁ……!」
「凄い立派な建物だね」
「かぁー、イチフリッカーチームがこないなごっつい施設持っとるなんて羨ましいでぇ!」
「江東館は赤壁杯開催よりもずっと前に結成された、歴史ある由緒正しきフリッカーチームだからな。出来たばかりの俺達とじゃ、資金源が違うさ」
「でも、フリッカーとしての強さなら俺たちだって負けてないぜ!なっ、皆!」
「もちろんだ。親善試合とは言え、勝ちに行くぞ」
「当然やで!!」
「う、うん!頑張ろう!!」
「あ、そうだ!せっかくだから、気合い入れにスクラム組もうぜ!」
「おっ、ええやん!」

 ゲンジの提案で小竜隊メンバーはガッシリと肩を並べて円陣を組んだ。

「そんじゃいくぜ、声出してくぞ!!せーのっ!!!」

 ゲンジの合図で5人は腹から声を出した。

「親善試合でもダントツ1番!!!」
「1.2.3.気合いやーーーー!!!」
「ファイト、オォーーー!!!」
「元気、いっぱーーつ!!!」
「が、頑張るぞーー!」

 ……見事にバラバラだった。

「って、全然ダメやん!こないバラバラなことってある!?」
「こう言うのは最初に文言決めないとね……」
「でもフリッカーの掛け声って言ったら『ダントツ1番』以外ないだろ」
「段田バンのパクリやん!ミーハーか!」
「プロレスラーパクってるツバサに言われたくないね!」
「無難に、『ファイト、オー』とか『エイエイオー』とかでいいんじゃないか?」
「それじゃつまらないだろ、俺達だけのフリッカーらしい掛け声って言うかさ」
「フリッカーらしい、ねぇ……」
「じゃったら間を取って『燃えよ!小竜隊!!』とかどうじゃ?」

「「「それは先生が好きなカンフー映画のタイトルだろ!!」」」

「こう言う時は息が合うんじゃな……」
 全く同じタイミング、同じセリフでのツッコミに黄山先生はたじろぎながら呆れた。
「まぁ、チームの掛け声は後で決めるとして、そろそろ行こうぜ」
 リュウジも苦笑しながらメンバーを促すと、館の扉がゆっくりと開き、そこから数人の男女が現れた。

「随分と外が騒がしいと思ったら、やはり到着していましたか」
 江東館のレギュラーメンバーだ。リーダーのサクヤが前に出て声を掛けてくれた。
「初めまして、江東館レギュラーチームのリーダーを務めています、西嶋サクヤです。今日はよろしくお願いします」
「ワシは顧問の黄山タダヨシじゃ。この度は試合を受けてもらった事、お礼申し上げる」
 まずは大人の黄山先生が礼をした。
 その後、リュウジがサクヤへ握手を求める。
「小竜隊リーダーの雲野リュウジだ。今日はいい試合をしよう」
 サクヤは友好的にその手を握った。
「こちらこそ。……あれ、もしかして君はホワイトホースの……?」
「あぁ、知っているのか」
「もちろん!対戦した事は無かったが、赤壁杯に毎年出場している強豪だからね。我々も密かにライバル視していたよ」
「それは光栄だ。実は親の仕事の都合でチームを脱退する事になってさ。そこで新しく結成したチームのデビュー戦として、前々から戦ってみたかった君達へ親善試合を申し込んだってわけさ。今日はいろいろ勉強させてもらう」
「なるほど、これは面白くなりそうだ」
 仲良く会話の続くサクヤの背中へ上品な感じの少女が指をつつき、小声で促す。
「サクヤ、こんな所で立ち話もなんですし」
「あぁ、そうだなユミ。……オホン、では皆さん中へどうぞ。自己紹介や試合のルール説明の確認などは改めてそこで」

 サクヤ達に促されるように小竜隊一行は建物の中に入った。
 中は広い体育館といった感じで、様々なフィールドやトレーニング器具、身体を動かせるエリアが設置してあり、そこで多くの子供達が練習に励んでいた。

「っひゃ〜!外もすごかったけど、中はもっと凄いなぁ」
「うん、本格的だね……」
「放課後に空き教室使ってる俺達とは全然違うな……」
「ははは、お褒めいただきどうもありがとう。じゃあ早速軽く自己紹介と行こうか」
 サクヤが視線で合図すると江東館メンバーはサッと整列した。
「改めて、俺は江東館レギュラーチームのリーダー、西嶋サクヤだ。チーム内ではアタッカーを務めている」
 サクヤに続いて他のメンバーも口々に自己紹介をはじめた。

「副リーダーの古川シメイ、マインヒッターだ。袖振り合うも多生の縁と言う、この親善試合で小竜隊といい関係を結べる事を願っている」

 次に口を開いたのは上品そうな少女だ。
「初めまして、私は周防ユミと申します。フリッカーではありませんが、チームのサポーターとして、データ分析やメカニックを担っています。実は私がいなければチームはまともに機能しなくなります。謂わば、縁の下の力持ちなのですよ」
 少女は清楚な振る舞いから一転して少し茶目っ気のある表情で細腕を曲げて力瘤を作る素振りを見せた。

 次は小柄だが威勢が良さそうな、鈴袋を下げた短髪の少年だ。
「シャッシャッシャッ!俺はディスターバーの甘利シズキ!!俺の愛機【スリヴァーシャーク】は強いぜぇ、覚悟しな!シャッシャッ!」

 今度は勝気そうな水色ポニーテールの少女だ。
「シズキ、自己紹介で威嚇しないの!……あたしは統乃リン、スピーダー兼マインヒッターよ。今日はいい試合をしましょ」

 一通り江東館メンバーの自己紹介を聞いていた中で、ゲンジは首を傾げた。
「あ、あの、さっきから『アタッカー』とか『ディスターバー』とか言ってるけど、なにそれ?」
「え?」
 ゲンジの質問に、サクヤはキョトンとした。それだけ彼らにとっては当たり前のことだったのだろう。リュウジが口を挟んでフォローした。
「あぁ、すまない。俺以外のメンバーはチーム戦初体験なんだ。
チーム戦では戦い方によってそれぞれにポジション、つまり役職があって作戦を考えたりフォーメーションを組む時はそれを元にするとやりやすいんだ」
「なるほど」
「そう言えば、練習してた時もウチらの事を『アタッカー』って言うとったな」
「ただ、これはあくまで便宜上の簡単な定義に過ぎない。特にうちのメンバーは定石に囚われない個性的なフリッカーが多いからな、最初は形を意識するよりも感覚的に慣れていったほうがいい」
「そうか……分かった。ごめん、話の腰折っちゃって」
 ゲンジはリュウジへ頷き、サクヤへ軽く詫びた。
「いや、気にするな。誰だって最初は分からないもんさ。それじゃ気を取り直してケンタ、次はお前の番だ」
 サクヤは隣でやや緊張した面持ちで立っている少年に声をかけた。
「う、うん……!僕は」

 ギギーーーー……!
 ケンタが口を開きかけた時、館の扉が重々しげに開きそこから諸星コウがゆっくりと入ってきた。
「ふぅ、どうやら間に合ったみたいだね」
「諸星……!」
 コウの姿を見て、江東館メンバーの顔が強張る。
「やぁ、今日は是非君の成長を刮目させてもらうよ」
「……」
 片手を上げて友好的に挨拶するコウヘ、ケンタは目を逸らした。
「ん?諸星……?」
 小竜隊メンバーは扉から背を向けて江東館メンバー達と向かい合っていたのでコウが入ってきた事には気づいていないのだが、聴き覚えのある名字に反応して振り返るとゲンジは素っ頓狂な声を上げた。

「あーーーーーーお前、諸星コウ!!!なんでこんな所に!?」
「ん、君は確か……東堂ゲンジか。なるほど、練習試合の相手は君か。これは僥倖だな」
「なんやゲンジ、知り合いか?」
「ああ。俺にライジングドラグナーのパーツと設計図をくれた奴だ」
「この人が……!」
 ゲンジは改めてコウヘ対峙し疑問を問うた。
「なんであんたがこんな所に?もしかして、江東館のメンバーとか……?」
「ふっ、はははは!!」
 ゲンジの問いにコウは軽く笑った後答えた。
「まさか!僕はただ、そちらさんに用があるだけだよ」
 と言いながらサクヤとケンタへ視線を向けた。
「っ!」
 ケンタはビクッと体を震わせる。
「さて、約束は覚えているね?今日の結果次第ではディバイトバイフーは返してもらう」
「……はい」
 優しそうに見えてどこか高圧的なコウの口調にケンタは重々しく頷いた。
「約束って、どういう事?」
 ゲンジがまたも割って入り疑問を浮かべるとサクヤが口を開いた。
「俺の弟、ケンタは君と同じように諸星コウから白虎の機体『ディバイトバイフー』を預かっていてね。その機体を使うに相応しいかどうかを今日決めるんだ」
「正確には、西嶋サクヤへ託す予定だったんだが、どうしても弟の方に使わせたいと言って聞かなくてね。まぁ、僕としては使いこなしてくれるなら誰でも構わないんだが。一応力は示してもらわないとね」
「……」
 コウが嫌味ったらしく言うとサクヤとケンタは気まずそうに苦笑いにした。
「そっか、じゃあこの試合が実力試験みたいなものになるのか」
 ゲンジが納得するように頷くと、サクヤは申し訳なさそうに言った。
「すまないね、こちらの都合に付き合わせてしまうようで」
「気にするな。こっちも胸を借りるつもりで試合を申し込んだんだ。ギブアンドテイクさ」
「ああ!それに、コウの作った白虎のフリックスと戦えるなんて楽しみだ!ケンタ、良いバトルしようぜ!そんで、試験も合格だ!」
「う、うん……!」
「ふっ、期待しているよ、2人とも」
「そんじゃ、とりあえず話進めようや!次はうちらの自己紹介やな」
 とりあえずこの話は一旦終わり、気を取り直して小竜隊メンバーの自己紹介をした。

 ……。
 ………。

 自己紹介も終わり、サクヤが試合ルールの説明に入る。
「それじゃ改めて今回の団体戦ルールを確認しよう。勝敗は3ラウンド制の2本先取だ。ただし、特別ルールとして第1ラウンドは3VS3のチームバトル、第2ラウンドは残り2人によるタッグバトル、そして第3ラウンドは代表者1名による1VS1のバトルだ」
「さすがはフリッカーチームの老舗。チーム戦の総合力が試せる良いルールだ」
「チーム戦ではターンがチーム単位で進行する。1ターン中のメンバーのシュート順は任意だ。全てのメンバーが行動を終えたらターン終了する。そして、場外した場合は仕切り直しでなくスタート位置に復帰する」
「って事は、チーム内での連携がかなり重要になるな……」
「チームプレイの練習は散々してきたんや!問題ないで!」
「それでは、10分後に試合を開始する。出場選手を決めたらフィールドについてくれ」

 ルール説明も終わり、ゲンジ達は江東館チームから離れてリュウジを中心に作戦会議だ。

「第1ラウンドは俺とナガト、そしてユウスケの3人で出る」
「了解」
「う、うん!」
「なんや、うちらの出番は後かいな」
「混戦になると搦手にかかりやすくなる。ツバサとゲンジみたいなアタッカーは、なるべく少人数を相手にした方が力を発揮出来るからな」
「なるほど、分かった!初戦は3人に任せるぜ!!」
「頼んだで!」
「あぁ。ここで勢いを付けてやるさ!」
「頑張るよ!」

 両者作戦が終わり、選出された3人がフィールドにつく。
 フィールドは長方形で、中央部分に二つの穴、端にはいくつかフェンスを設置している部分があると言うスタンダードなものだが、チーム戦合わせてサイズが大きくなっている。
 四角にはスタート地点を表すように色の違うエリアがあり、そのエリア内ならどこからスタートしても良いようになっているようだ。
 小竜隊はリュウジ、ナガト、ユウスケ。
 江東館はシメイ、シズキ、リンが選出されていた。

「それでは、第一ラウンドを始めます!両チームスタート位置についてください!」
 江東館の補欠メンバーの1人がレフリーを務めるようだ。真面目そうな顔の少年が両チームの間に立って仕切ると選手達は緊張した面持ちで機体をスタート位置にセットした。
「ナガト、最初はリンの機体を狙え。ユウスケはナガトの後ろにつくように撃つんだ」
「リン……あの女の子か」
「ナガト君の後ろに……」

 その様子を見ているサクヤ。
「さて、ホワイトホースのリュウジが率いる新チーム。どれほどのものか見せてもらおう」

「ではいきます!3.2.1.アクティブシュート!!」

「「「いけぇ!!!」」」

 6台のフリックスが一斉にシュート!ものすごい迫力でフィールド中央部で激突する。
 そんな中、ワンテンポ早くこの集団を抜けてフィールドの角に辿り着いた機体がいた。

「ソニックユニコーンが最も遠くへ進んだので、先攻は小竜隊です!」

「シャシャッ!?なんて早さだ……!」
「まさに光陰矢の如し……!」
「俺は前のチームでスピーダーを担当していてね。先手取りなら負けないぜ」
「やられた……!まさかあたしのウェイバーオルカが受け止められるなんて」
 リンもスピーダーなので先手を取るために動いていたが、マイティオーガに弾かれて軌道が逸れてシールダーアリエスに受け止められてしまったようだ。

「なるほど、ターンがチームごとって事は先手取るために特攻するのは一機だけで良いのか」
「だから僕が無理に前に出る必要がなかったんだ」
「そう言う事さ。さぁ攻めるぞ!いけっ、ユニコーーーン!!」
 バシュッ!
「続け!マイティオーガ!」
「アリエス!!」
 集団戦なので機体が多いだけでなくマインも多い。と言う事はつまり特にテクニックもいらずに簡単にマインヒットできると言う事だ。それだけ先手を取る事の意味が大きい。
 3人はそれぞれ1人ずつにマインヒットを決めた。

 応援しているゲンジとツバサと黄山先生。
「よっしゃ!まずは1ダメージリードだ!」
「ええで!3人とも!!」
「よく分からんがいい調子じゃな!!」

 そして次は江東館のターンだ。
「まさに日の出の勢いだが、まだまだだ」
「しゃっしゃ!チーム戦の本質って奴を見せてやる!」
「まずはあの子からね。いくわよ、シズキ!」
「分かってるっての!」

 シズキは機体からパーツを分離させ、それを小竜隊スタート位置から見て穴の反対側へセットした。
「分離パーツ?」
「何をする気だ?」

「やれっ!スリヴァーシャーク!!」
 ガッ!
 スリヴァーシャークがアリエスへ攻撃を仕掛けるが、分離パーツを外して軽量になったスリヴァーシャークでは僅かしかアリエスを動かせず、逆に弾かれてしまう。
「そんな攻撃、アリエスには効かないよ!!」
「それはどうかしら?」
「っ!まずい、ケンタ油断するな!バリケードを張れ!!」
「え?」
「遅いっ!」
 バシュッ!
 リンは素早くウェイバーオルカをシュートしアリエスを大きくぶっ飛ばした。
「そんなっ、シールダーアリエスの防御力が……!」
「いくらグリップ力のある機体でも、攻撃を受けた直後なら衝撃でバランスを崩すものよ!」
 アリエスはあっさりと場外してしまう。が、ウェイバーオルカも勢い余って場外へと進む。このまま自滅になればフリップアウトは無効になるが……。
「天は自ら助くるものを助く。エメラルドエイグル!!」
 シメイのフリックスが翼を広げて向かっていき、ウェイバーオルカを受け止めて場外から守った。

「シールダーアリエス、フリップアウト!次のターンはスタート位置からシュートしてください!」

「まさか、シールダーアリエスを3機で集中狙いだと……!」
「長期戦になるとディフェンダーが1番厄介なのよね。序盤は相手にダメージを与えるよりもなるべく相手の数を減らす事を考えた方が得策なのよ!」
「どんなに防御力があっても3機のチームプレイの前には無力さ!」
「攻め手に暇はあれど、守り手に暇はなし」
 ユウスケは落ちたアリエスを拾い、ギュッと奥歯を噛み締めた。
「油断せずにちゃんとバリケードを構えておけば……!」
「気にするなユウスケ。まだバトルは始まったばかりだ」

 小竜隊のターン。
「失敗を取り戻さなきゃ……皆に迷惑かけるわけにはいかない……!!」
 バシュッ!
 ユウスケは肩に力の入ったまま遠くにいるオルカウェイバーへ向かってシュートした。
 ガッ!
 しかし、その道中にはフリップホールがあり、そこにはスリヴァーシャークが仕掛けた分離パーツがあった。
 それがブレーキになり、アリエスは穴の上で停止し自滅となる。

「あっ!」
「急がば回れだ」
「ユウスケ……!」

「シールダーアリエス自滅で撃沈!」

「ラッキー!これで断然こっちが有利だ!!」
「あの分離パーツはこのために設置したのか……!」
「ディスターバーは特殊なギミックで場を掻き乱す役割……警戒しておくべきだった……!」
「そんな……僕せいで……」
 ユウスケはアリエスを回収して呆然としながらフィールドから離れた。

「だが、不用意に分離パーツを設置したのは迂闊だったな!」
 バキィ!
 ナガトはスリヴァーシャークの分離パーツをぶっ飛ばしてフリップアウトさせた。

「スリヴァーシャーク撃沈!」

「いくぞ、ユニコーン!!」
 シャアアアアア!!
 リュウジもユニコーンの機動力を活かしてオルカウェイバーへマインヒットダメージを与えた。

 ターン終了。江東館のターンだ。

「これで勝負は振り出しだな!」
「まっ、俺の役目はもう果たしたから問題ないんだけどな。しっかりやれよ、リン、シメイ!」
「偉そうに……まぁ、いい仕事してくれたのはその通りなんだけど」
「なに!?」
「自分の位置、ちゃんと見えてる?」
「っ!」
 マイティオーガは、穴の近くにあったスリヴァーシャークの分離パーツを弾き飛ばしたせいで、自身も穴の近くにいた。そしてウェイバーオルカはそんなマイティオーガを穴に落としやすい位置につけているのだ。
「さ、これで2人目!」
 当然リンはマイティオーガを穴の上に停止させるようにシュートする。
「くっ!」
「うおおおおおお!!!!」
 しかしその時、リュウジがステップを使ってソニックユニコーンを移動させてマイティオーガへぶつけた。
 カッ!
 その事で重心がズレてしまい、反対にオルカウェイバーが穴の上で停止してしまった。
「えっ!」
「ソニックユニコーンの機動力はこう言う使い道もあるのさ」

「ウェイバーオルカ自滅で撃沈!!」

「よしっ!」
 これで江東館メンバーは残り1人だ。
「……油断大敵とはこの事だな」
「ああ!俺たちはそう簡単には負けないぜ」
「勘違いするな。今の言葉は自責じゃない。忠告だ!!」

 バッ!!!
 エメラルドエイグルが信じられないほどの大きさに羽を広げた。

「なにっ!?」
「あの羽根の広さ、南雲ソウのカイザーフェニックスよりも広いかもしれない……!」
 ゲンジはソウとのバトルを思い出しながら戦慄した。

「羽ばたけ!スプレッドグラスパー!!」
 フィールドを覆い尽くさんとするほどに広げた翼でエメラルドエイグルはマイティオーガとソニックユニコーンの2機を一気にマインヒットしてしまった。

 小竜隊のターン。

「まさか、2機同時にマインヒットしてくるなんて……!」
「あの攻撃範囲は厄介だな。このターンで勝負を決めないと、どこにどう逃げてもマインヒットでやられちまう」
「マインを全部落とそうにも数が多すぎて不可能……って事はフリップアウトするしかないか」
「だが、あれだけ機体面積を広げられたら重心を捉えるのは至難。俺やナガトの攻撃力じゃまともに弾き飛ばすのは無理だ」
「となると、手は一つしかない……か」
「あぁ。まずは俺が行く。タイミングは分かるな?」
「もちろん」
「ふっ、さすがは神童だな」
 リュウジは笑みを見せつつもすぐに真剣な表情になって機体をシュートした。

 ガッ!
 ソニックユニコーンは凄まじい勢いでエメラルドエイグルの羽根の端へぶつかり、そのまま場外へ一直線した。

「ソニックユニコーン、自滅で撃沈!」

 キュルルルルル!!!
 そしてエメラルドエイグルは端を弾かれたせいで駒のように回転しながらフィールド中央へ徐々に移動し、羽根が穴の上を何度も通過するようになった。
 まさに場外するか否かのルーレットだ。

「なに!?」
 ソニックユニコーンは自滅したのでこのまま場外してもそれは無効になるが、自滅していないマイティオーガの干渉があればフリップアウトに出来る。
 しかしそれは回転しながら場外と非場外を繰り返しているルーレット状態のエメラルドエイグルをベストのタイミングで止める必要がある。

「……いくぞ、マイティオーガ!」
 それを運ではなく狙って行うなど、常人には不可能の所業。
 しかし、神童と祭り上げられ、それでも驕らずに努力を続けてきたナガトにとってこの程度は朝飯前だ。

 ガッ!
 当たり前のようにベストのタイミングでエイグルへ接触し回転止める。
 エイグルの羽根は見事穴の上で停止していた。

「エメラルドエイグルフリップアウト!
これによって、第1ラウンドの勝者は小竜隊!!」

 勝利判定を受けて小竜隊メンバーはドッと沸いた。

「やったあああああ!!!」
「やるやん!3人とも!!」
「がっははははは!!さすがはワシの教え子じゃ!!!」
「フリックスは黄山先生が教えたわけじゃないけどな」
「そういうな!ともかく、デビュー戦で初勝利!めでたい事じゃろうが!!」
「ははは、危ない所だったけどどうにか勝てたよ……」
「ふぅ、まぁまだ1セット取っただけだが、初めてのチーム戦にしては上出来だ。よくやったな、ナガトにユウスケ……ん?」
 チームメイトを労うリュウジだったが、ユウスケの様子が少しおかしい。
「……」
 せっかく勝ったというのに、俯いたまま黙ってる。
「どうしたんだよユウスケ?」
「せやせや、せっかく勝ったのに辛気臭い顔しおってからに」
「……僕は、すぐやられちゃって、役に立つどころかチームに迷惑かけちゃったから……これはリュウジさんとナガトくんの勝利だよ」
「ユウスケ……」
「それは違うぞ、乾!」
 ユウスケの言葉に黄山先生が真剣な瞳で言った。
「先生?」
「ワシらはチームなんじゃ!チームメイトの失敗はチームの失敗!そして、チームの勝利は、チームメイト全員の勝利なんじゃ!!
乾は確かにすぐにやられたかもしれん、しかしそれは乾をしっかりサポートせんかった雲野や関にも責任がある!
じゃが、その後に雲野と関が勝てたのは、乾が先に狙われた分2人が生き残れたからじゃろうが!!それは乾に狙われるだけの強さがあったからじゃ!
この勝利は間違いなく、乾の勝利でもあるんじゃぞ!」

「先生……」
「そうだぜ、ユウスケ!俺達はチームなんだ!
失敗も勝利も皆で悔やんで、皆で喜ぶんだ!そうやって、皆でダントツ1番になろうぜ!!」
「皆で、ダントツ1番に……」
「皆でダントツって、矛盾しとらんか?ダントツって1人でなるもんと違うか?」
「え、そ、そうかな?」
「いや、いいんじゃないか?皆でダントツ1番に……さしずめ、俺達小竜隊の誓いって所だな」
「誓い……そうか、それだ!よーし、皆!!」

 ゲンジはみんなの前に出て拳を突き出した。
 それを見たメンバーは一瞬キョトンとしたがすぐに察してゲンジと拳を合わせる。

「この試合、絶対に勝とうぜ!!」

「「「俺達の、ダントツの誓いに懸けて!!!」」」

 

    つづく

 

 

CM

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