第22話「蘇りし炎翼」
魔王の正体、弾介の出生、シエルの願い……それらが判明し、そしてそれぞれの思いがぶつかり合い、蟠りが解消され。
弾介達の目標は一つに纏まった。
魔王の宣言したタイムリミットまでに魔王城へ行かなければならないのだが……。
「残り3日……それまでに伝説の力を揃えなければいけないなんて」
「あとはレイズのウイングジャターユだけなのにな」
「ああもう、なんでこんな時に行方不明になんかなってんのよあの子はぁ!」
「そういえば昨日、シエル達から離れてる時にレイズに助けられたんだ」
「え!?」
「それ、ほんとですか!?」
「う、うん、倒れてた所を助けられたんだけど……でも、また悪夢を観て寝てる間にここに来ちゃったからはぐれちゃったんだ」
「そうですか……」
「あのレイズがねぇ……どういう風の吹き回しかしら?」
「僕も、まさか助けられるとは思わなかったけど。あの時は真意を聞く余裕なんてなかったし」
「とにかく、レイズが生きてるって事が確認できただけでも儲けものね。時間ギリギリまでレイズの捜索に費やしましょ」
「うん!」
「そうですね!」
「では我々はなるべく多くの戦力を集められるように尽力します。いくら伝説の力があるとはいえ、戦力は多いに越した事はないですから」
「お願いします!」
弾介達、そして親衛軍の皆さんも、これからの方針が決まった。
魔王との決戦まであと少しだ。
と、ここで少し時間を巻き戻す。
弾介との戦いに敗れ、強風に吹き飛ばされたレイズは、気がつくと古ぼけた天井を眺めていた。
「……」
状況が掴めず、首を傾けると一人の少女が濡れタオルを絞っている姿が見えた。
「ここは……」
レイズが呟くと、少女は顔を向けて笑顔を見せた。
「あ、良かった。目が覚めたんだね」
「お前は、誰だ……なぜ俺は、ここに……」
「私はライム。ここはモンスヴィレッジの私の家。あなたこそ、どうして村の入り口で倒れてたの?」
「モンスヴィレッジ……そんな所まで飛ばされたのか」
朧げながら思い出してきた。
プロメス火山の強風に飛ばされながら、懐から出てきたリザレクトジュエルにウイングジャターユが触れ、そして何故か自動でアクチュアルモードが発動し、ジャターユの風に乗る能力によってモンスヴィレッジまで飛ばされたようだ。
「っ、ウイングジャターユ!」
レイズはガバッと上半身を起こした。
「あ、ダメだよ!まだ安静にしてなくちゃ!」
「ウイングジャターユをどこにやった!?」
「あぁ、フリックスの事だったらここに」
ライムは部屋から出ると新品同様にピカピカになっているウイングジャターユを持ってきてレイズに渡した。
「はい」
「……修復したのか」
「やったのはお兄ちゃん達だけどね」
「お兄ちゃん……」
「うん……王国軍の科学部隊に所属してるからこういうのは得意なんだ。ちょうどさっき緊急出動要請が来て出てっちゃったんだけど。最近、魔王軍の動きが活発で忙しいみたいなんだ」
「……余計な事を」
「え?」
「俺は、また殺されたようだな」
「??逆じゃないの???」
殺したどころか助けたのだが……。
本気で意気消沈しながらそう呟くレイズに対して、ライムは怒りよりも疑問の方が沸いた。
「俺は、誰かに助けられてはいけない。一人で生きていけなければ、死んだも同然だ」
「???なんで????」
「……人は簡単に差し伸べた手を引く。そんな曖昧で脆弱なものに頼ると言うことは、命を捨てながら生きると言うことだ」
「???そう、なの???」
「……お前も、そうだ。いざ自分の身が可愛くなれば、他者へ手を差し伸べてきた事を後悔するだろう」
「私は、そんな事ないと思うけどなぁ」
「なら、良い事を教えてやる。俺の名はレイズ!少し前に王宮を襲撃した。流石にそのことは知っているだろう」
「うん、お兄ちゃん達が言ってた。確か、伝説のフリッカーさんなんだよね?」
「ならお前達にとって敵だと言うことは分かるだろう!今ここでお前を襲ってもおかしくないぞ?」
レイズは少し凄みを効かせて言った。
「でも、レイズさんの目的はあくまで伝説のフリックスだから私達に害はないだろうって聞いてたし」
「分からないぞ?目的のためなら俺はお前を殺す事も躊躇わないからな」
「ん〜、殺されちゃうのは嫌だけど……でもそうなるか分からないのに、倒れてる人を放っておく方が嫌だよ」
「なに……?」
「それに、いざとなったらお兄ちゃんやスライムのポチが助けてくれるし!」
「……そいつらだって、いつもお前を助けるとは限らない」
「そうかもしれないけど。でもそんな心配してたらキリがないし、なるべく助けてもらえるように私も皆のためになるよう頑張るしか出来ないよ」
「助けてもらうために頑張る……?」
「その言い方はちょっと微妙だけど……そんな事よりお腹空かない?お粥作ったから持ってくるね」
「いや、俺は……!」
「死んだも同然なんでしょ?死人が文句言わないの。黙ってお供えされなさい」
レイズが自分で言った『死んだも同然』と言う言葉を逆手にとって、『お供えをする』と言う名目でお粥を食べさせる気らしい。
ライムは台所から湯気の立つ鍋を持ってきた。
「自分で食べられる?食べさせてあげようか?」
「いらん。供えるだけにしておけ」
レイズはぶっきらぼうに言うと、黙々と食べ始めた。
「……」
「美味しい?」
「不味ければ吐き出している」
「よかった」
「……俺も生き汚いな。今更、命を繋ごうとしているとは」
自嘲しながらレイズは言った。
「別に良いんじゃない?どうせもう死んでるならこれ以上死ぬことはないんだし、そんな拘りなんか気にしないで好きなようにすれば」
「なに?」
「それに、失ったならまた取り戻せば良いだけだよ。それで、今度はなくさないようにもっと強くなるとか」
「……取り戻す、か。悪くないかもな」
レイズが噛み締めるように呟いた直後。
ドゴオオ!と外から激しい爆音と地響きが聞こえてきた。
「まさか、魔王軍!?どうしよう、お兄ちゃん達今いないのに……!」
「……ここにいろ」
言って、レイズは素早く身支度して家を飛び出した。
「ひゃーっはっはっはっ!!世間は魔王軍に付きっきりで警備が薄くなってるお陰で襲い放題だぜ!!」
「オラオラ!命が惜しかったら金目のもん全部出しやがれ!!」
ガラの悪そうな男達がアクチュアルモードのフリックスを乱雑にぶっ放しながら大暴れしている。
「ひ、ひいぃぃ!なんじゃお前は!?」
たまたま近くを散歩をしていたお爺さんが腰を抜かして尻餅をついた。
「ああん?俺様達は盗賊カッコイイ団!!正々堂々とこの村を盗賊にきたってわけよ!!」
「おいら達の前には抵抗は無駄なんだよね!」
ゴウガンとブンが前に出て倒れ込んでいるお爺さんを威圧する。
「うおおおおお!!!」
その時、農具を振りかざした男達がゴウガン達へ駆け寄ってきた。
「だから無駄だって言ってるんだよね!!」
シュイイイイン!
ブンがアサルトスコーピオをシュートして向かってきた男達を全てぶっ飛ばした。
「大人しく金目のもん出した方が身のためだぜぇ?」
ゴウガンもアシュラカブトを構えてトドメを刺そうとしている。
しかし、吹っ飛ばされた男達は抵抗の意志を崩さない。
「だ、誰がお前らなんかに……!」
「そうかよ!」
バシュッ!!
ゴウガンは容赦なくアシュラカブトをシュートする。
ガキンッ!
しかし、そのシュートは横から飛んできたウイングジャターユによって弾かれてしまった。
「なんだぁ?てめぇ……!」
「まさか、用心棒か?」
「……」
「なんとか言ったらどうなんだよね!」
無言で現れたレイズを睨みつけるゴウガン達だが、レイズはフッと小さく笑った。
「取り戻しにきた」
「は?」
「まさか、前においら達に襲われた村の奴か?」
「俺様達に復讐に来たってわけか」
「いや、お前達からじゃない……フィールドジェネレート!」
レイズは話している間にウェイトフェイズを終えたウイングジャターユでフィールドジェネレートした。
そのフィールドは、何世帯もの住居や住民を巻き込むほどの広さで逃げ遅れた人々が何人もいる。
「これで逃げ場はないぞ」
「何言ってんだこいつ」
「逃げ場がなくなったのはお前の仲間達なんだよね!」
「巻き添えにする気か?」
「問題ない。とっととお前らを潰せばいいだけだ」
「舐めやがってぇ……!野郎ども、やっちまえ!!」
ゴウガンの合図で手下達が一斉に機体をシュートする。
全部で5体ものフリックスが一斉にウイングジャターユへと襲いかかってきた。
「フリップスペル……ライトニングラッシュ!!」
襲い来る雑魚機体をライトニングラッシュを駆使して全てフリップアウトし、撃破してしまった。
「なっ、たった数秒で5体のフリックスを撃破だと……!」
「何者なんだよね……!」
「けっ、おもしれぇ!!相手が強いんなら俺とブンで仕留めるまでよ!!」
行動が終わり、ウェイトフェイズになっているウイングジャターユへアシュラカブトとアサルトスコーピオが向かってくる。
「ふん、単調だな」
まともに攻撃を受ければひとたまりもないだろうが、フィールドジェネレートしてバリケードが強化されているレイズにとってはステップで簡単かわせる程度の攻撃だ。
しかし……。
「いっけーポチー!!」
ドーーーン!!!
上空から降ってきたスライムによって二機の攻撃が遮られてしまった。
「なんだぁ!?」
「スライム!?」
ライムが息を切らせならレイズの元へ走ってきた。
「レイズさん、大丈夫!?」
「ちっ、余計な事を」
「……うん、これは私が勝手にやった余計な事だから。気にしないで」
「当然だ」
「でも私はやっぱり、村の事も病み上がりのレイズさんの事もほっとけないんだ」
「死んでも知らんぞ」
「それはイヤだけど、差し伸べた手を引っ込めるのはもっとイヤだから!」
「……勝手にしろ」
ぶっきらぼうに言うと、レイズはマインをフィールドに放った。
「ええいごちゃごちゃと!!ガキのくせにゴウガン様の邪魔しやがってぇ!」
「たかがスライムなんてフリックスの敵じゃないんだよね!!」
「ポチを甘く見ないで!ポチ、アシッドレーザー!!」
ライムが技の指示を出すと、ポチの口元にエネルギーが溜まり、黄緑色のビームを放った。
粘着質のビームはアシュラカブトとアサルトスコーピオを押し流していく。
「ぐっ!なんでたかがスライムにこんなパワーが……!」
「ちょっといろいろあって、ポチは普通のスライムよりも強くなっちゃったんだ」
「ちょっとってレベルじゃねぇぞ!!」
以前スリマの実験で改造された時の影響が残っており、ポチの戦闘力は普通のペットとは思えないほどに強くなっているのだ。
「だが、強くなったところで所詮はスライム。ブン!」
「了解なんだよね!ホールドバイパー!!」
ガッ!
アサルトスコーピオのアームがポチをガッチリと掴む。
「俺様達の連携技を喰らいやがれ!!カッコイイブレード!!!」
捕縛されて身動きがとれなくなったところへアシュラカブトの必殺剣が炸裂。
如何に柔軟性に優れたスライムとは言え、力の逃げ場がなくモロにダメージを受けてしまった。
「ポチーーーーー!!!!」
「きゅ〜〜」
ポチは倒れ、目がグルグル巻きになった。戦闘不能の状態だ。
「はん、ちょっと強くなったところで所詮雑魚モンスターだ」
「フリックスの敵じゃないんだよね!」
ポチを倒した事でゴウガンとブンが沸き立つが、そこへレイズが口を挟んだ。
「確かにそいつは雑魚だ。だが、いい時間稼ぎになった」
「なんだとぉ……!」
「フリップスペル……ブレイズバレット!!」
「ブ、ブレバだと!?」
ゴウガンはハッとして周りを見てみる。
いつの間にかフィールドにはマインが二つセットしてあった。
「い、いつの間に……!」
「そのためのスライムか!」
「まぁ、別に必要はなかったがな」
「へっ、甘いぜ!」
ゴウガンとブンはステップで機体を動かしてマインからなるべく距離を取る。
「どうだ!マインから俺達には距離があるぜ!二つもマイン当てるなんて不可能だろう!!」
「関係ない」
バッ!
レイズは素早くウイングジャターユの翼を広げた。
「スプレッドウイング!!」
「いぃ!?」
「翼が、広がりやがった…!」
バシュッ!!
アシュラカブトとアサルトスコーピオの間を縫うようにウイングジャターユをシュート。両翼が二機へ掠めながらマインへ突進し、ヒット。
「まずは、一つ」
ガッ!
今度はマインを台にして飛び上がり、風を読んで方向転換し、翼を閉じてもう一つのマインへ急降下していく。
「ダイビングビーク!!」
バチンッ!!
急降下して、マインを弾き飛ばす。これで二つのマインへ触れながらマインヒットしたのでブレイズバレット成立。
アサルトスコーピオとアシュラカブトへ大ダメージを与えて撃沈した。
「ぐああああああ!!!!」
これでカッコイイ団は全滅。
丁度フィールド生成時間も終わり、フィールドも消えた。
「くそっ、覚えてろよ!!」
ゴウガン達はお決まりのセリフを吐きながらエスケープジュエルをぶん投げながら逃げていった。
エスケープジュエルの閃光が収まった後にレイズはライムとポチへと近づいた。
「あ、レイズさん……ありがとう、村を助けてくれて」
「……どいてろ」
レイズは静かにそう言うと戦闘不能になったポチへ手をかざした。
「エイド」
そう呪文を呟くと、レイズの手が仄かに輝き、ポチの身体が温かくなった。
「え」
「安心しろ、ただの回復魔法だ。これでしばらくすれば目を醒ますはずだ」
「よかった……」
「手を差し伸べるのは自由だが、差し伸べ方はもう少し考えるんだな」
言って、レイズは立ち上がり踵を返した。
「レイズさん……?」
「取り戻したぞ」
「あ……」
盗賊団から村を守り、そして負傷したポチを回復させた。借りを返すには十分だろう。
「でも、これからどこに……」
「取り戻しにいく」
そう言って歩き出したレイズの目には強い生気が宿っていた。
つづく
CM