第21話「シエルの願い」
ついに魔王の口から明かされた弾介出生の秘密。そして、それを聞いたシエルは……。
「…まえ、なんかが……」
「え?」
魔王の正体と何故父親の姿をしていたのかを知ったシエルは半狂乱になりながら魔王へ再び挑み掛かった。
「お前なんかが、パパの姿をするなぁ!!!パパを返せ!パパを返せええ!!」
しかし軽くあしらわれる。
「パパを返せないなら、せめて、私をころせ!ころしてえええ!!」
(シエル?今なんて……)
シエルの口から想像も付かなかった言葉が出てきて耳を疑った。
それは恨みでも怒りでもないもっと特殊で歪な願いのようで……。
「言ったはずだ、まだ早いと。伝説のフリックスを全て揃えろ。私と戦うのはそれからだ」
荘厳な口調で言い放ち、
スゥ……と魔王の身体が浮かび上がる。
「だが、いつまでも待っているわけにはいかない。三日だ。それまでに魔王城に来い。さもなくば、我が力を駆使してこの世界を滅亡させる」
そう宣言すると、魔王は高笑いしながら消えていった。
「パパ……パパァ……」
魔王が消え、ぶつける対象の失った感情を抱えながらシエルは蹲った。
「シエル」
心配した弾介が手をかけると
「さわるな!!」
「!?」
パシッと弾介のでは跳ね除けられた。
そして、鋭く睨みつけて叫ぶ。
「お前は、パパじゃない!!勝手にパパの姿をして、私に触るな!!!」
「シエル……!」
「ちょ、ノーパン!あんたなんてことを」
思いもよらない理不尽な怒りのぶつけ方にフィランも口を挟もうとするが、ピシャリと遮られた。
「うるさい!」
「っ!」
「戦え!!魔王の息子!!!」
シエルはゆらりと立ち上がり、弾介へ向かってシェルガーディアンを構えた。
「…!ドラグカリバー!!」
戸惑いながらも致し方なしと弾介もドラグカリバーを構えた。
「あ、あんた達、本気なの!?」
「シエルさん、一体どうして……!」
フィランだけでなく親衛軍も突然のシエルの代わりようにどうするべきか戸惑っている。
「フィラン、親衛軍の皆さん、下がっててください。ここは僕がどうにかします。……もしもの事があったら、その後はお願いします」
「もしもの事って、あんた何言ってんのよ!」
「だ、弾介さん……!」
「結局、親衛軍の皆さんの言う通りだった。僕は、魔王に作られた存在……いや、魔王そのものと言ってもいい……だから、シエルの正義も、願いも受け止めないといけないんだ」
「だからって!」
「3.2.1!!」
遮るように弾介はアクチュアルモードに移行するためのシュートを構えた。
シエルも同じように構える。
「「アクティブシュート!!」」
魔法陣を潜り、スケールアップした二機が宙を舞い、空中で激突する。
ドラグカリバーの攻撃力とシェルガーディアンの防御力は互角で、二機とも同じくらいの距離を弾かれて何度もバウンドしながら着地した。
「これが、シェルガーディアンの力……!」
防御重視として重量を上げているシェルガーディアンに比べてドラグカリバーの方が軽いため、先にドラグカリバーがウェイトフェイズを終えてアクティブフェイズになる。
「フィールドジェネレート!」
弾介はまず自分に有利なフィールドを作り出す。攻撃力を活かすためにやや広めで、縁には自滅を防止しつつ敵機だけを場外させるための低めのフェンスがいくつか設置してある。
「……マインセット」
シエルは、攻撃型に有利なフィールドでも戦えるようにマインをドラグカリバーの後ろにセットした。
そして再び弾介のアクティブフェイズが来る。
「いけっ!ドラグカリバー!!」
バキィ!!!
ドラグカリバー攻撃を受けてシェルガーディアンが吹っ飛ぶ。しかし、グリップシャーシを活かしてすぐに停止した。ダメージは少ない。
「バリケード無しでドラグカリバーの攻撃をまともに受けてそのダメージ……さすがシェルガーディアン、凄い防御力だ」
「必ず、倒す……!」
バシュッ!
シェルガーディアンの攻撃が突っ込んでくる。
「堪えろ!!」
弾介はバリケードであっさりとこれに耐えるが、最初からシェルガーディアンの目的は奥にあるマインだった。
ドラグカリバーに躓いたシェルガーディアンはそのままボディを回転させながらゴロゴロとマインへ向かい、マインヒットを決めた。
「このっ!」
「シェルターディフェンス!」
反撃マインしようと迫ってきたドラグカリバーへ、ステップでシェルガーディアンの位置を僅かに変える事でドラグカリバーの攻撃を受け流してマインの無い方向へ反射する。
それでもドラグカリバーの攻撃力は凄まじいのでビートディスタンスの距離ダメージは受けてしまう。
「マインセット」
「っ!」
再びシエルはマインを投入。これでシエルのマインは二つ。ある程度どの位置からでもマインヒットが狙える布陣を作り出されてしまった。
「これが、本気のシエル……!」
激昂しながらもシエルは冷静だった。
冷めた情熱で戦況を見据えて勝つために的確な手段を講じてくる。
(ずっと、戦ってみたかった、シエルとシェルガーディアンの力……!)
弾介の口元が吊り上がる。心が高揚し、湧き立っている様子が第三者から見ても分かるほどだ。
「弾介……」
「はっ!」
フィランの不安そうな呟きを聞いて弾介は我に帰った。
(僕は、こんな時にも……シエルとのバトルを楽しいって……)
弾介は自身に湧き上がる感情に恐怖し、嫌悪した。
何より、楽しいと感じる事が嫌だった。
「こんな戦い、続けるわけにはいかない!」
弾介のアクティブフェイズ、シエルはバリケードでいつでもシェルターディフェンスを発動出来る構えだ。
「フリップスペル発動!ライトニングラッシュ!!」
連続シュートが可能なスペルを発動し、弾介は素早くドラグカリバーをシュートした。
カッ!
ドラグカリバーは掠めるようにシェルガーディアンへアタック。シェルガーディアンのボディが回転する。
さらに方向転換して再び同じようにアタックし、シェルガーディアンの回転速度が上がる。
「今だ!!」
再び方向転換してシェルガーディアンへ狙いを定める。今度は重心ど真ん中を狙う構えだ。
「これならシェルターディフェンスは使えないな!」
「っ!」
シェルターディフェンスは突っ込んできた相手に合わせてボディを回転させる事で受け流す技。つまり、静から動へ状態を変化させるからこそ可能な技だ。
しかし、今のシェルガーディアンは既に猛烈な回転をしており、そのジャイロ効果による安定性が受け流しと言う意味においてはマイナスになっている。
「いっけえええええ!!!」
バキィ!!!
ジャイロによって安定していたシェルガーディアンは、安定している事によってドラグカリバーからの衝撃をモロに受け止めてしまい、大きく吹っ飛ばされてしまった。
しかも転倒し、スタンで動きが停止する。
「そんな……」
「シエルさん……!」
「勝負あったようね」
シャーシのグリップを失った上に、スタンしたせいでバリケードもステップもできないまま再び弾介のアクティブフェイズになる。
「この一撃で、シエルの負けだ!」
ドラグカリバーのフロントソードを変形させる。
この状態で必殺技を喰らったらひとたまりも無いだろう。
「……」
シエルは覚悟を決めたのか、力を抜いて目を閉じた。
そんなシエルへ弾介は穏やかな口調で話し掛けた。
「シエル、もう……」
戦いをやめよう。そう言おうとした時だった。
「ころして」
ポショリと、シエルの口から信じられない言葉が飛び出した。
「え?」
「ころしてください。わたしはもうがんばりました。パパと同じように、魔王に立ち向かって、そして、しぬんです。そうすれば、パパのところにいける」
「なに、言って……!」
「私はずっと、パパに会いたかったんです……!魔王討伐の旅をして、皆を救って、良い事をいっぱいして、そして殺されれば、パパと同じ天国に行ける!」
「それが、シエルの本当の気持ち……」
「し、しかし、今シエルさんがいなくなったら世界は救われませんよ……!」
親衛軍のリーダーが言うとシエルは叫んだ。
「パパのいない世界なんか救って!こんな世界で生きててもしょうがないの!だから、早く殺せ!!それが、それが私の願いだから!!!」
シエルの心からの叫び。
「それが、シエルの願いなら……」
弾介の手に力がこもる。その時、不意に脳裏にある言葉が蘇った。
“望む事だけをして、望んでない事は無視しろ”
(そうだ……。僕が何者かどうかじゃなく、シエルの本当の願いが何かじゃなく、僕の望みと、望みじゃない事は……!)
レイズから言われた言葉を思い出し、弾介はゆっくりとドラグカリバーの剣を閉じた。
「シエル……ぼくは、ただ、皆と楽しいバトルがしたいだけなんだ……シエルとも……だから、シエルを傷つける事は絶対に出来ない。そんなの楽しくないから」
言って、弾介はアクチュアルを解いて無防備になった。
「シエル、どうせなら世界救った方が天国に行けるよ……ぼくは、魔王じゃなかったけど、魔王みたいなもんだからさ、ぼくをころせば……」
「ちょ、何言ってんの弾介!」
「……」
(望んでる事が出来そうにないなら、せめて、望まない事をしないようにするしかない)
時間が経過し、シェルガーディアンのスタンも解けてアクティブフェイズになる。
シエルは弾介を命を奪おうとシュートの構えをとった。
「シエル、ありがとう。シエルと旅が出来て楽しかった。僕、この世界に召喚されて良かった」
儚げな笑顔で言う弾介を見て、シエルはゆっくりと腕を下ろしてアクチュアルモードを解除した。
「私も、出来ないです……だって、好きになったから……弾介さんと旅をして、パパのいないこの世界が、楽しかったんです……」
「シエル……」
「弾介さんは、魔王から生まれた……でも、そうだとしても、弾介さんは、弾介さんなんです……!明るくて、素直で、バトルが大好きで……そんな弾介さんは魔王でも、弾介さんです……!」
膝を突いて泣き崩れるシエル。弾介達はそんなシエルに寄り添ってそっと見守った。
そして、暫くして落ち着くとシエルはゆっうりと語り出した。
「私、ずっとしにたかったんです。パパと同じ所に行きたかった。でも、私のせいでパパは死んでしまったから……こんな穢れた魂では同じ所へは行けない。だから、世界のために戦って徳を積んで、魔王に殺されればまたパパに会えるかもしれないって」
「……」
そう言えば、モンスヴィレッジでシエルはどこか自分の身を軽視するような行動が目立っていた。
それは、誰かを救いつつ自分の命を落とそうとしていたからかもしれない。
「軽蔑しましたよね?魔王討伐の旅をしながら、目的は世界を救う事じゃないどころか、救った世界にすら価値を感じてなかったなんて」
伏せ目がちに言うシエルへ、フィランがサバッとした口調で言う。
「別に良いんじゃない?あたしだって、魔王討伐の目的は世界を救う事じゃなくて弾介と結ばれるためだし」
「でも、それとこれは」
「世界にとっちゃ同じよ。大体、魔王討伐の目的が世界を救うためだけなんて、そんなのつまんないじゃない。救った後はもうやる事がなくなるなんて、そんな人生お先真っ暗よ」
「うん、僕も魔王討伐そのものを楽しみにしてたけど、それが終わったらこの世界の皆とバトルがしたい。シエルとも、今度こそ楽しいバトルがしたいんだ」
「でも、私は……」
二人と違って前向きな目的ではないことを気に病む。
「世界が、好きになったから……じゃだめかな?」
「え?」
「それがほんとじゃないかもしれないけど、でも目的なんていくらでも変わるんだし。とりあえずって事で」
世界から消える事を望んでいたシエル。そのためだけに救おうとした世界。
でも、今は……その世界に居続ける事を目的に戦うのも良いのかもしれない。
「はい……弾介さん達とならきっと、本当に好きになれるかもしれません」
そう言ったシエルはほんの少しだけ笑顔を見せた。
つづく
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