弾突バトル!フリックスアレイ ゼノ 第18話「悪夢」

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第18話「悪夢」

 

「レイズーーーーーー!!!!」

 プロメス火山でのレイズとの死闘の末、勝利した弾介。
 このままレイズを仲間に引き入れようとするも断固拒否された上に突如発生した空噴火の暴風によってレイズは遙か彼方へ吹き飛ばされてしまった。

「レ、レイズを探さないと……!」
「無茶です!ここは風が収まるのを見計らって撤収しましょう!」
「だけどっ!」
「ノーパンの言う通りね。あたし達まで飛ばされちゃ元も子もないし、あいつを捜索するにしても仕切り直さなきゃね」
「……分かった」

 弾介は渋々二人の言う事を聞いて大人しく風が収まるのを待つ事にした。

「……あのバカ」

 ……。
 ………。

 どうにか下山した弾介達はホテルに戻り、今後の行動について話し合いをする事にした。

「せっかくレイズに勝利したのに、こんな事になるなんて……」
「天候が収まったら急いでレイズの捜索に行こう!」
「しかし、闇雲に探した所で……」
「だったら、三人で魔王に立ち向かうか……」
「ですが、伝説の力が揃って無い状態で挑むのは無謀です!」
「じゃあやっぱりレイズを探さないと」
「しかし、生きてるかどうかも分からない状況ですし」

 弾介とシエルが堂々巡りで悩んでいる所でフィランがゆっくりと立ち上がった。

「ごめん、あたし今日ちょっと一人になりたいから」

 静かにそう言うと、フィランは部屋を出てもう一つの部屋へ移動した。

「フィラン……」
「無理もありませんね。せっかく再会出来た唯一の肉親があんな事になっては、ショックを受けて当然です」
「やっぱり、レイズは何としてでも探し出そう」
「そうですね……でもまずは王宮に戻って報告が先です。今日はもう休んで明日出発しましょう」
「うん」

 ……。
 ………。

 深い闇と眩い光の入り混じったカオスの中に弾介はいた。
 微睡の中を漂う感覚は心地よく、そして駆け巡る思考の渦が視界を幾度となく変化させる。
 ふと、その中で気になる景観が現れた。一度気になると変化はそこで止まる。
 感じるのは、焦げ臭さと粘り気のある赤黒い色、そして鼓膜を裂くほどの大勢の声。
 内から湧き上がる感情は……楽しい。
 そう、楽しいのだ。自分はこの状況を楽しんでいる。
 一面は火の海に包まれ、家が焼かれ、女子供が泣き叫び、立ち向かう男達はみな血を流して倒れている。
 その、中心に立っている事が、楽し

 プツンッ!

「は、はぁ……!はぁ……!!」

 強制的に夢をシャットダウンして目を覚ました。
 息遣いは粗く、全身汗だくになっている。

「ぼくは、なにを……」

 既に記憶から抜け落ち始めている夢の映像を懸命に思い出す。
 ベタついた体に気持ち悪さを感じ、シャワーでも浴びようかと身体を起こすと、袖に抵抗を感じた。
 見ると、いつのまにか隣で寝ているシエルが弾介の袖を掴んだまま寝言を呟いていた。

「し、シエル!?」
「パパ……パパァ……」
「だからパパじゃないっての……」

 相変わらず弾介をパパ呼ばわりするシエルの寝言に呆れながら、袖を掴んでいる手を優しく外そうとすると。

「ごめんなさい……しなないで、パパァ……わたしが、わたしがしねばよかったのに、パパァ……!」
「っ!?」

 シエルの目元から雫が一滴流れ落ちた。それを見て弾介は動けなくなってしまった。

「シエル……?」

 弾介の呟きが聞こえたのか、シエルは小さく息を漏らしゆっくりと瞳を開いた。

「ん……あれ、だんすけさん、もうあさですか……?」

 寝ぼけ眼のまま上半身を起こして小さく欠伸をした。

「…………」

 いろいろ言いたい事はある。まだ朝じゃないって事か、なんで別々のベッドで寝てたのにこっちのベッドに入り込んだのかとか。
 しかし、それよりもこの言葉が出てきた。

「シエル、パパって……」
「え!?」
「寝言、聞いたんだ。シエルが、パパに死んでほしくないって言ってた」
「……!」

 弾介が遠慮がちに言うと、シエルはハッと目を見開いた。

「あ、ごめん。話したくないなら良いんだ」
「いえ、話さなかったのは、弾介さんを困らせたくなかったからで……本当は、聞いて欲しかったのかもしれません」
「え」
「迷惑でなければ、聞いていただけますか?」

 上目遣いで遠慮がちにそう聞いて来るシエルの顔は月明かりに照らされていつもより妖艶に見えた。

「……うん」

 弾介は固唾を飲み込むのと同時に頷いた。シエルは一息ついた後ゆっくりと話し出した。

「私の父は、知っての通り王に仕える司祭でした。そして、その強大な魔力を駆使して親衛軍の隊長も務めていたのです」
「司祭で、軍の隊長を……」
「しかし、10年前の魔王軍との大戦では王国は圧倒的に劣勢を強いられていました。あの頃はまだフリックスを戦力として使用するための技術が未発達だったため、どんな魔法も武力も魔王軍のフリッカー部隊には歯が立たなかったのです」
「フリックスで他の戦力にマウント取るなんて……」
「多くの仲間達が犠牲になる中、父は諦めずに果敢に立ち向かって行きました。私はそんな父を尊敬し、力になろうとしたんです。しかし……」

 シエルは少し間を置いてから続きを話した。

「不用意に飛び出した私を庇い、父は魔王の攻撃を受けて、そのまま……」
「シエル……」
「私のせいで、父は死んでしまった。本来死ぬべきは私のはずだったのに……」

 ガバッとシエルは突然弾介に抱きついた。

「シエ……!」
「すみません、しばらくこうさせてください」
「……」
「私はずっと、パパに会いたかった……きっと、その気持ちが高じてパパに似た弾介さんを召喚してしまったのかもしれません……」
(僕が、似てる……)

 ……。
 ………。

 そして、夜は明けて三人はホテルを出発した。

「フィラン、昨夜は大丈夫でしたか?」
「え?まぁ、一晩寝たらスッキリしたわよ。今は心配しても仕方ないしね。で、あんた達はこれからの方針は決まったの?」
「えぇ、一度王国に戻ろうかなとも思ったんですが……」
「やっぱり、まだあの大会の熱り冷めてないだろうし。それに一刻も早く伝説のフリックスを揃えた方が良いから、レイズの捜索を優先するよ」
「そう。でもアテはあるの?」
「気象庁のデータを調べて、風向きからある程度の方角は算出しておきました。あとは……サーチ」

 シエルは探索魔法の『サーチ』を発動した。

「微かにですが、レイズらしきエネルギーの反応は感じられますね……」
「って事は、レイズは生きてるの!?」
「なによ、便利な魔法あるじゃない」
「……この魔法の的中率は70%なので、あまりアテにはなりませんが」
「それでも、無いよりはマシだよ!よし、なんとしてでもレイズを見つけよう!!」

 こうして、三人はサーチによって導かれた方角へ進んだ。
 道中、森に入り獣型のモンスターに複数遭遇した。

「行くわよ、フィールドジェネレート!」
「いけっ!ドラグカリバー!!」
「守りは任せてください!」
「ハンターホールド!今よ、弾介!」
「分かった!いっけぇぇ!!」

 三人は見事な連携でモンスターを撃破していく。
 それからも進むたびにモンスターが現れては倒し、現れては倒しを繰り返した。

「はぁ、はぁ、ふぅ……なんかモンスターのエンカウント率が異常に上がってない?」
「結界の外とは言え、この数は珍しいですね」
「バトル出来るのは楽しいけど、さすがに疲れてきたなぁ」

 弾介達は適度に機体を回復させたり、休憩しながら進んでいく。

「そう言えば、あの大会の後魔王軍は『この世界全てを襲う』って言ってたもんな」
「魔王軍も本格的に全世界支配に向けて、着々と動き出していると言う事でしょうか」
「こんな戦い続けてたら持たないわよ。一旦どこか近くの村にでも行って立て直しましょ」

 機体も自身も疲労が溜まってきている。そろそろ休息と物資の確保をしていかないと先行きが不安だ。

「この先に村があったはずです、一先ずそこで休憩しましょう」
「そうね」
「うん。レイズの奴どこまで飛ばされたんだよ……」

 こうして、弾介達は近くの村に入ったのだが……。

「こ、これは……!」

 村はほぼ壊滅状態だった。小規模ながらも所々に建っていたと思われる家や店は全て瓦礫と化しており、未だ硝煙の臭いが立ち込めている。

「魔王軍に襲われた後、かな……?」
「襲撃に遭ったのは最近みたいだけど、この様子じゃ全滅ね」
「私達がもう少し早く来てれば……!」
「言ったってしょうがないわよ。今もどこかで誰かが魔王軍に襲われてるかもしれないし、そこまで面倒は見きれないんだから」
「そうですね、心苦しいですが他の村へ行きましょう」

 ドクンッ!
 その時、弾介の胸が高鳴り不思議な感覚が芽生えた。

「この先の裏にある雑貨屋はまだ無事なんじゃないかな?」
「え?」
「あんた、ここ来た事あるの?」
「いや、なんとなく……」

 なんとなく頭に浮かんだ情景を頼りに弾介はフラフラと村の奥へと歩き出した。
 シエルとフィランは慌ててその後を追った。

「うそ、あった……」

 煤こけた小屋を見つけて、弾介は唖然とした。そこには掠れた文字で『雑貨屋』と書かれていた。

「なんで弾介が1番驚いてんのよ」
「と、とにかく入ってみましょう。中に人の気配はありますし……すみませーん」

 シエルは遠慮がちに戸を開いた。
 中は埃っぽく、商品が陳列された店先とその奥には生活するための居間が見えた。
 店番をする人間は居らず、その代わりに居間に複数の人間が身を寄せ合っている。
 どうやら、運良く魔王軍の襲撃から生き残った人々がここを避難所にしていたようだ。

「っ!」

 シエル達の姿を見て、中の人達の顔が強張る。予期せぬ来訪者に、再び魔王軍が襲いに来たと思っても無理はない。

「あ、驚かせてしまってすみません!私達旅のもので、アイテムを売っていただけないかと……」
「あ、あ、あぁ……!」

 様子がおかしい。シエルが事情を説明しても村人達の恐怖の表情は収まらず、それどころかより一層引き攣っている。

「あ、あの……」

 そして、村人は弾介を指さして叫んだ。

「ま、魔王だ!!魔王が再び現れたぞ!!!」
「え!?」
「あ、あぁ、お、お許しください!!せめて、せめて妻と子だけは……!」
「別に取って食おうとは思わないわよ」
「私たちは、その魔王を討伐するために旅をしていまして……!」

 よほどの恐怖だったのだろう。いくら説明してもパニックになる村人達は静まらない。

「うちの商品ならいくらでも差し上げます!ですから、ですからどうか命だけは……!!」

 店長らしき男は乱雑に商品をかき集めてそれを風呂敷に包むとシエルに押し付けた。

「え、あの……!」
「お願いします!これで、これでどうか!!!」

 ヒュッ!

「うわっ!」

 突如、弾介に向かって古ぼけたフリックスが投げつけられた。
 咄嗟に避けて、飛んできた方を見ると弾介を睨みつける男児とそれを慌てて諌めようとする母親らしき女性の姿があった。

「こ、こらカンタよしなさい!」
「出てけ!!!魔王なんか僕がやっつけてやる!!!」
(へぇ、なかなか良いシュートだ……って、それどこじゃないな!)

 投げつけられた機体を見て、弾介はニヤリと笑ったが、そんなこと考えてる場合じゃ無いとハッと我に帰った。

「弾介、ノーパン、ここはとっとと退散した方が良さそうね」
「え、えぇ……お金、多分これで足りると思うので、ここに置いておきますね……」

 シエルはなるべく村人を刺激しないようにお金を玄関に置き、三人はそそくさと退散した。

 村から離れた所で時間も遅くなったため、三人は野宿の準備をする事にした。

「まさかあたし達が魔王軍扱いされるなんてねぇ」
「無理もないですよ。襲撃を受けたばかりでいきなり見知らぬ人間が現れたらパニックも起こします。私達が無神経でしたね」
「それにしたって、あの反応は異常だった気がするけど」
「……魔王軍じゃなくて、まるで魔王そのものに対してみたいな反応だった」

 そう、村人達ははっきりと弾介を指差して『魔王だ』と断定した。

「それは、さすがに気のせいではないですか?彼らも気が動転してたようでしたし」
「……」

 思い出される昨夜の悪夢。そして、あの村での出来事……。

(あれ?)

 その時気付いた。
 夢の中で見た映像と、先程の村の情景が、一致している、と。

(僕は、あの村を、知っていた……?)

 あまりにも忌まわしい考えが浮かびそうになり、弾介は頭を振った。

「ともかく、今は物資補給できて良かったって事で終わりましょ。何にせよ、魔王討伐しちゃえば全部解決だし、出来なきゃ全部終わりなんだから」
「そうですね……弾介さん、どうかされました?」

 俯いて黙り込んでいる弾介に気づいたシエルが声をかける。

「ううん、なんでもない。確かにフィランの言う通りだ。今はレイズを探して、魔王を倒す事だけを考えよう」
「……」

 精一杯いつも通りに振る舞おうとする弾介だが、その表情は浮かない。
 しかし、シエルはこれ以上突っ込むことはしなかった。

 そして、夜は更けていく……。

 ……。
 ………。

 焦げ臭さと粘り気のある赤黒い色、そして鼓膜を裂くほどの大勢の声。

 また、あの夢だ。
 そう察した瞬間に湧き上がる嫌悪感と抑えきれない快感。

 一面は火の海に包まれ、家が焼かれ、女子供が泣き叫び、立ち向かう男達はみな血を流して倒れている。
 その中心に立っている自分は、返り血を浴びるのも気にせずにただ快楽に身を任せて狂笑を続けていた。

 楽しい。けど、こんなのは嫌だ。
 何よりも、こんな行為を楽しいと感じてしまう自分に吐き気を催すほどの嫌悪感を覚える。
 弾介は必死に意識をシャットアウトしようとして夢から醒めようとした。

 おかしい。
 昨夜と違い、意識が消えない。

「は、あ……」

 ようやく、感覚が戻った。
 覚醒を感じた。
 しかし、それは夢から醒めたのではなく。

 これが……。

 夢ではなく、今まさに起こっている現実だと気付いたと言う事による覚醒だった。

「あ、あぁ、あああああ……!」

 これが悪夢ならばどんなに幸せだっただろう。
 しかし、焼けつく空気の匂い、肌に感じる血の粘り、耳に残る悲鳴……全てが覚醒した意識に刻み込まれていた。

「う、あぁ、ああああああああああ!!!!」

 弾介は汚れた自分の両手を見つめ、狼狽し、頭を抱えて叫んだ。

 

    つづく

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CM

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