第19話「魔王降臨」
夢を見ていた。
一面は火の海に包まれ、家が焼かれ、女子供が泣き叫び、立ち向かう男達はみな血を流して倒れている。
その中心に立っている自分は、返り血を浴びるのも気にせずにただ快楽に身を任せて狂笑を続けていた。
そんな夢を。
でも、もしそれが……夢じゃなかったとしたら?
そんなifを頭に浮かべてしまったからだろうか?
悪夢は一向に醒めず、ただまとわりつく感覚が自分の頭の中に浮かんだ何気ないifを圧倒的な現実を持って認めてくる。
「あ、あ、ああああ……」
弾介は頭を抱えて何度も首を振った。この現実が悪夢であれという願いを込めて。
しかし、何度視界を歪めようと、現実は現実を突きつけてくる。
どんなに願っても、世界はありのままの姿でい続けた。
「ちがう、ぼくじゃない……」
呟きながら辺りを見渡す。
周りに転がっている男達の屍は何も口にしない。
カサッ……。
どこからか物音がした。
振り向くとそこには女の子を抱きかかえた女性が震えながら物陰で身を潜めていた。
「あ、あの、ぼくじゃ、ぼくじゃないです、よね……?」
弾介はまるで被害者のように怯えながらその女性にフラフラと近づく。
本来なら、助けるべきは自分で、助けられるべきはその女性のはずなのに。
「ひっ!」
弾介の姿を認識した女性は身体をビクつかせた。
「ま、魔王……なんで……まだいるの……?」
「!?」
「い、いや……来ないで……いやあああああああ!!!!!」
女性は悲鳴を上げながら走り去ってしまった。
「……」
確信した。
女性は確かに弾介を魔王として認識し、恐怖していた。
この村を襲ったのは魔王であり、そして魔王とは……。
「弾介、さん……」
「なにやってんのよ、ここで」
後ろから呼びかけられた。振り向くとそこにはシエルとフィランが困惑した表情で立ち尽くしている。
「シエル、フィラン……」
「起きたら弾介さんがいなくなってたので、サーチして探していたんです」
「ひどい有り様ね。魔王軍と交戦でもしてたの?……ってわけじゃなさそうだけど」
襲われた村を守るために戦うのであれば、シエルやフィランを起こすのが筋だ。いくらバトルジャンキーの弾介とはいえそこら辺の分別はついているはず。
「ちが……ちがう……ちがうんた……ぼくは、ぼくは……!」
ダッ!
上手く言葉が出ず、弾介は踵を返してその場から逃げ出した。
「あ、弾介さん!」
「待ちなさいよ!!」
咄嗟の事で反応出来なかった二人は弾介を見失う。
「ノーパン、またサーチで探せない?」
「……やってるんですけど」
シエルのサーチとフィランの俊敏さを組み合わせて探してみるものの、全く見つからない。
「何よ肝心な時に使えないわねぇ」
「的中率70%って言ったじゃないですか……晴れてる日に雷が当たるくらい確率低いんですから」
「雷に当たる確率なんてそんなに高くないわよ……」
「それに、アクチュアルモード時には魔法は効きませんし。ひょっとしたら、それで隠れてるのかも」
「なんであたし達から隠れる必要があるのよ?」
「分かりません。ですが、アクチュアルモードは移動には向いていないのでまだ近くにいるかもしれません」
「とは言え虱潰しってなると骨が折れそうね……」
シエルとフィランが再び探そうと歩き出した時、大勢の親衛軍が村に押しかけてきた。
「くっ、また一足遅かったか……!」
親衛軍のリーダーが悔しそうに拳を握る。シエルは遠慮がちに声をかけた。
「あ、あの……」
「あ、シエルさん!シエルさんも魔王から村を守るためにここへ来たのですか?」
「あ、いえ、そういうわけではないんですが」
「そうでしたか……ここの所、村が魔王軍の襲撃に遭ったと言う通報が頻発してまして。しかも直接魔王が出向いて手を下しているとか」
「直接魔王が……」
「しかし、ここでシエルさんと合流出来たのはちょうど良かった」
「?私に何か?」
「弾介さんについてです」
そうだ。まだ弾介の誤解は解けていない。
シエルは弁明しようと口を開くが……。
「あ、あの大会の事なら……」
「これを見てください」
親衛軍リーダーは映像を再生出来る水晶をシエルに見せつけた。
そこには、魔王軍に襲われている村の様子が生々しく映し出されていた。
「これは……?」
「先日襲われた村の監視カメラに残っていた映像です。よく見てください」
村がたった一人の男によってどんどん壊滅していく。圧倒的な力の前に立ち向かうものもなす術がない。
「この男がフリップ魔王です。フードのせいでよく見えませんが、映像を拡大してみると……」
リーダーが魔王の顔を拡大する。映像は粗いが、そこに見えた顔は……。
「だん……す、けさ……!」
「これだけで確証を得たと言うわけではありませんが、先日の大会での彼の行動も考えると」
「ちょ、ちょっと待ってください!あの大会の表彰式で弾介さんは魔王と会話をしていたじゃないですか!」
「彼が会話した魔王はあくまで立体映像。予め会話が出来るように細工をする事も、別の者に変装させる事も出来たはずです」
「ですが、弾介さんは私が別世界から召喚した人間ですよ!?」
「別世界から……本当にそうでしょうか?」
「え?」
「シエルさんが彼を召喚した日、結界の中にも関わらずモンスターが大量発生した事案がありましたよね?
それも、彼が魔王だとしたら容易に説明がつきます」
「……」
これ以上反論出来なかった。
もちろんシエルはリーダーの言葉を信じたわけではないのだが、他者を説得させるだけの情報をシエルは持ち合わせていなかった。
「ともかく、早急に彼を見つけ出す必要があります。シエルさん、協力していただけますね?」
「……はい」
シエルは渋々ながら頷くしかなかった。
親衛軍と同行し、弾介の捜索にあたる。
「サーチ……!微かですが、あちらの方角ですね」
シエルのサーチ魔法を頼りに進んでいく。
「フィラン、あなたはどう思いますか?弾介さんの事……」
シエルはふと隣にいるであろうフィランに声をかけるのだが……。
「えー、フィリアわかんな〜い」
フィランはいつの間にかツインテールでロリータ服を着た幼女に変装していた。
「い、いつの間に変装を!?」
「あたしだって指名手配されてるんだから親衛軍に見つかったらやばいでしょ。急いで変装して、ノーパンに保護されてる村の生き残りって事にしといたのよ」
「なるほど……」
親衛軍に聞かれると面倒なのでフィランは小声で話す。
「で、話戻すけど。弾介が魔王ってのは無理があるわね。昨日あたし達が行った村、あそこも魔王に直接襲われたみたいだけど、ホテルからあそこまで弾介が往復する時間はない」
「ですよね……」
「でも、そのアリバイを証明する手段がないわ。今はとりあえず話し合わせて付き合った方がいいでしょ、どの道あたし達も弾介を探してたんだし」
「そうですね……フィランはもし弾介さんが魔王だとしたらどうします?」
「どうもしないわよ。弾介は弾介でしょ、魔王だとしてもあたしは弾介側に付くだけよ。あんたはどうなのよ?」
「私は……分かりません」
「ま、あんたは立場がややこしいしね」
それ以上特に追求する気はないのか、2人の間に会話は無くなった。
……結局、弾介は見つからないまま数日が経過した。
……。
………。
「ん……!」
パチパチとした焚き火と背中に当たる砂利の痛みに弾介は目を覚ました。
「目が覚めたか」
「ここは……」
弾介の傍で焚き火に木をくべている少年が顔を向けた。
「っ!レイズ……!」
弾介は思わず起き上がって身構えた。
「大人しくしていろ。傷が開くぞ」
「……っ!」
言われて、弾介は全身傷だらけで所々に絆創膏が貼られている事に気づいた。
「ぼ、僕は、どうしてレイズが……」
「知らん。俺のいく先にお前が倒れていた。それ以外は何も知らん」
「……」
ぶっきらぼうにそう言われて、弾介は朧げに思い出した。
シエル達から逃げ出した後、弾介は湧き上がる感情を誤魔化すためにひたすらにモンスターを相手に戦い続けていた。
幸いなのかなんなのか魔王軍の動きが活発化してるのでモンスターには困らなかった。
寝る間も惜しみ、不休で戦い続けているうちに疲労が溜まってぶっ倒れたようだ。
「姉さんと究極の盾とは逸れたのか?」
「……」
「まぁ、興味もないがな」
相変わらずドライな態度だが、それが却って今の弾介にはありがたかった。
「なんで、僕を助けてくれたの……?」
「取り戻すためだ。俺の命をな」
「え?」
「俺はお前に二度殺された。生きていくために、取り戻さなければならない」
「殺された……」
そのワードに弾介はあの悪夢を思い出し、頭を抱えて俯いた。
「ちがう…!僕じゃない……!僕じゃ……!!」
「なんだ、どうした?」
「……夢を、見るんだ。自分が、魔王になって村を襲ってる夢を……そうしたら、その夢が、現実になって……それで……!」
「だからどうした?」
「え?」
「お前が魔王であれなんであれ、倒すだけだ。お前もそうだろう?自分の目的を達するのに、自分が何者かなど関係ないはずだ」
「……でも、僕は」
「望む事だけをして、望んでない事は無視しろ」
「……」
「とにかく、今は休め。全快したら今度こそ潰す」
やはり、レイズは今度こそ弾介を倒すつもりで助けたようだ。
全快でなければ倒す意味がないから。
とは言え、これはこれでありがたい。弾介は素直に眠りにつく事にした。
……。
………。
また、あの悪夢。
いや、今度は夢なんかじゃない。
焼けつく炎、人々の叫び、何もかもが五感にはっきりと刻み込まれる。
そして……。
「だ、だんすけさん……!」
「弾介、あんた……!」
よく知っている声もハッキリと届いた。
「シエル……フィラン……!」
弾介の目の前にはシエルとフィリアに変装したフィラン、そして親衛軍の皆様方が立ちはだかっていた。
「ようやく見つけましたよ、魔王。まさかあなただとは思いませんでした。すっかり騙されましたよ」
親衛軍のリーダーが威圧的な態度で弾介に詰め寄る。
「僕が、魔王……!」
うっすらと自覚していたとは言え、他人からはっきりと突きつけられるのは初めてだったのでかなりのショックを受けた。
「ちょ、ちょっと待ってください!まだそうと決まったわけでは……」
「シエルさん、この惨状を見てまだ彼を庇うつもりですか?」
「それは……!」
「弾介あんた、本当にあんたがやったの……?」
フィランは演技するのも忘れて恐る恐る弾介に尋ねた。
「ち、ちがっ、違う…!僕は、こんな事やりたくない……!」
「やりたくない、ですか。それは否定とは言えませんね」
リーダーは非情な声音で言うと、機体を構えた。
他の隊員たちもそれに倣う。
「この時のために、フリックスの修練をしておいた甲斐があります」
「っ!」
「皆さん、気を付けてください。まだ自覚が薄いとは言え、相手は魔王です。隊列を乱さないように!」
バッ!
一斉にフリックスをシュートした。
「く、くそっ!」
弾介も急いでドラグカリバーをシュートして迎撃した。
「っ、なんてパワーだ……!」
「これが、魔王の力……!」
無数の敵を相手にしてもものともしない弾介の力に親衛軍は驚愕する。
「っていうか、弾介が普通に強いだけでしょ……そんな付け焼き刃のフリックスでドラグカリバーに勝てるわけないじゃない」
「フィラン、どうしましょう……!」
「ちょっとこれは不味い状況ね。皆冷静さを欠いてるし、あたし達が割り込んだところで余計混乱しかねないし」
弾介と親衛軍の力の差は歴然だ。
弾介は難なく親衛軍の攻撃を捌いていく。しかし、何度も繰り返していけば次第に集中力が切れていき……。
「くっ!」
ちょっとしたミスからドラグカリバーは転倒しスタン。隙を見せてしまった。
「よし、今だ!!」
「我らの勝利は目前だ!!!」
「今こそ、平和な世の中を取り戻すんだああああ!!!!」
何十人と居る親衛軍の兵士たちが一斉にドラグカリバーへとシュートする。
さすがに転倒した状態でこれらの攻撃を受けてはひとたまりも無い!
弾介は敗北を覚悟した……その時だった。
シュンッ、バーーーーーーーーーン!!!!
突如、黄金の光が攻撃を遮った。
「な、なんだ!?」
そして、天から光が差し、そこからゆっくりとローブを着た男が降りてくる……。
そう、それは魔王軍主催の大会で見た男、フリップ魔王だった。
「よもや、ここまで同調が進んでいたとはな」
地に降り立った魔王はそう呟く。
「お、お前は……!」
「よくぞここまで成長した。龍剣弾介」
魔王は、フードで隠した顔を弾介へ向けた。顔は暗闇に覆われているが、そこに笑みを浮かべた口が見え隠れしていた。
つづく
CM
