弾突バトル!フリックス・アレイ ゼノ 第8話「超自律兵器起動!」

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第8話「超自律兵器起動!」

 

 伝説のフリックスを求めて旅を続ける弾介とシエルは「黒いフリックスのような形の隕石が落ちた」と「夜な夜な怪獣が出現して近くの森の草食ってる」と言う二つの情報のある村『モンスヴィレッジ』を目指して風の谷を歩いていた。
 そこで魔王軍フリッカーの襲撃に遭い、助けに来た科学軍の男二人と知り合い、共にその村へ向かう事になった。

「おっ、見えてきたぜ!」
「あそこが僕らの生まれ故郷、モンスヴィレッジです」

 風の谷を抜け、しばらく荒野を歩いた後前方に村境を示す簡易な門が見えてきた。
 科学軍の二人、ダグラスとストラは弾介とシエルを先導して門をくぐる。

「なんか、殺風景な村だなぁ」

 なんともなしに弾介が呟く。
 モンスヴィレッジは、ポツンポツンと民家があるだけで今まで行った街のような施設もなく、外を歩いている人も少ないなんとも寂しげな雰囲気だった。

「昔は農業や畜産業が盛んで、それらを使った観光資源も豊富な村だったんですけどね」
「一度魔王軍の襲撃に遭っちまってな。事業は縮小化、生き残った村人は自給自足の生活を送るか、働き盛りの人間は都会に出稼ぎに行くようになっちまった」
「僕ら兄弟もそうですからね。実家に妹一人残しているのでこうして時々帰省してるんです」
「まっ、今回は任務も兼ねてるけどな」
「そっか……なんかごめん、無神経な事言ったかな」

 事情も知らずに生まれ故郷の事を悪く言ってしまった事を弾介は素直に謝った。

「事実だからな、気にすんな」
「村人のためにも、怪獣の件の解決、そして早急に伝説のフリックスを集めて魔王討伐しないといけませんね……」
「そうですね。今回の噂のせいで来訪者は更に激減、村人もますます引き籠るようになったと聞きますし。今の状態が続くと村の存続に関わりますからね」
「だな。とりあえず調査の手続きのために村役場に行こうぜ」
「ですね」

 と言う事で一同は村の中央にある役場へ向かった。
 錆びれた村らしく、古めかしい木造の一軒家だ。

「失礼します。科学軍の者です、先日お受けした夜な夜な現れる怪獣の調査の件で参ったのですが……」

 中に入り、誰もいない受付窓口へストラがやや遠慮がちに声を掛けると奥の方から腰の曲がった老人が疲れたような表情で現れた。

「おぉ、これはこれは、わざわざありがとうございます……」
「よっ、じいさん。久しぶりだな」

 ダグラスが気さくな挨拶をすると、俯き加減だった老人は顔を上げ、表情を緩めた。

「誰かと思えば、ダグラスにストラじゃったか。しばらく見んうちにたくましくなったのう」
「まぁな。そういうじいさんは、ちょっと疲れてるみてぇだな」

 ダグラスの言葉に、老人は自虐ぎみに笑った。

「あの件があってから、村の財政はますます破綻しとるからな。村長としては、気が休まる暇がないんじゃよ」
「安心しな、じいさん!その件をどうにかするために俺達が来たんだ」
「えぇ、必ず解決してみせます!」
「頼もしいのぅ……ところで、そちらのお二人さんは同僚かな?」

 村長は、ダグラスとストラの後ろで手持ち無沙汰にしている弾介とシエルを見た。

「あぁ、こいつらは科学軍の人間じゃないんだけどさ」
「王様からの命令で伝説のフリックスを探している二人です。彼らもこの村が目的だったみたいで、さきほどたまたま知り合ったので一緒に来たんですよ」
「ほぉ、そう言えば伝説のフリックス召喚に成功したという噂を聞いたなぁ」

 ようやく話題に上がってくれたので、弾介とシエルは軽く頭を下げて名乗った。

「どうも、龍剣弾介です」
「はじめまして。王国の祭祀を勤めている、シエルと言います」
「これはこれは、ようこそおいでなすった。しかし、この村には宿屋もないくらいでな、ろくな歓迎も出来ず……」
「あぁ、それは心配ねぇよ。二人は俺らんち泊めてやるから」
「それよりも、あの件について詳しく話を聞きたいのですが」
「そうじゃったな。では、奥の客室に案内しよう」

 村長に案内され、客間へ向かった。
 客間は6畳半の和室になっており、中央の丸い卓を囲ってストラとシエルは正座、ダグラスと弾介は脚を崩して座った。
 そこへ、村長が湯気の立つ湯呑みを乗せたお盆を持ってきた。

「梅昆布茶でよかったかの?若いもんは滅多に来ないもんで、こんなのしかないんじゃが……」
「すみません、お気遣いなく……っ」

 シエルの声は震えており、脚をモゾモゾと動かしている。それに気づいた弾介はコソッと耳打ちした。

「どしたのシエル?トイレ?」
「いえ、その……足が痺れてしまいまして……正座は慣れてないものですから」
「だったら足崩せばいいじゃん」
「そういうわけには、それに、その……脚をくっつけてないと、見えちゃいそうで……」

 顔を赤らめるシエル。
 確かに、立ってる状態なら辛うじてその乙女の秘部を隠せるものの。
 シエルのその短く際どいスカートは座った時に太腿が布を持ち上げてしまい、衣服としての役割を放棄してしまう。
 太腿とて晒すのを躊躇うには十分な、羞恥すべき部位であるし。
 シエルのそれは白く瑞々しい肌に柔らかく適度な肉付きがあり、異性の情欲を煽るにはこれ以上ないほどの扇情的な魅力を備えている。
 しかしそれでも、現在唯一衣服として、秘部を隠覆するために頼れるものは、本来なら同じように隠されるべきである妖艶さをもった太腿しかなかった。

「はぁ、っ……んん……!」

 隠すべきものしか秘部を隠せないと言う抗えない羞恥。
 それに加えて、足の痺れから伝わる刺激も手伝い、スリルと羞恥が快楽へと変換されていくのも時間の問題だった。

「シエル」
「へ?」

 パサッ……と太ももに何やら軽い布の感触が覆われた。
 見ると、弾介が羽織っていたケープを外してそれをシエルの太腿にかけていた。

「弾介さん……」
「このくらいなら魔力が落ちる事もないでしょ、多分」
「え、えぇ……ありがとうございます」
(隣で変な声出されたら話に集中出来ないし)

 だいぶ聞き逃した所もあったが、村長の話はこれまでに得た情報と大差はなかった。
 ただ、怪獣の現れる頻度は日に日に増しており、ここ最近は毎晩のように現れると言う。
 しかし残念ながら謎の隕石との関連性は特に分からないとのことだった。
 とりあえず、怪獣が現れるおおよその時間帯を聞き、弾介達は一度ダグラス達の家へ行き時間まで待機することにした。

「だ、大丈夫ですか、シエルさん」
「あのじいさん、話なげぇからなぁ」

 ダグラスとストラが心配そうにシエルへ声をかける。

「あば、ぐっ、くぅぅ……ずみまぜん、弾介さぁん……!」

 シエルは、ぐったりとした表情で弾介に背負われていた。
 長時間の正座のせいでシエルの足はすっかり痺れてしまい、立ち上がる事も出来なくなったのだ。

「いや、なんかもう慣れたから良いけど」

 ユッサユッサと、歩くたびに豊満な胸の振動が背中に伝わる。

(こっちはまだ慣れない……!)
「ぁっ、はぅんっ……!だ、弾介さん、振動で痺れが……なるべく、ゆらさないでぇ……!」
「無理だよ!!」

 わちゃわちゃしながらもダグラス達の住む一軒家へ近づいて来た。

「おっ、見えてきた。俺らんちはあそこだ」
「や、やっと着くのか……」
「弾介さん、そろそろ大丈夫なので……」

 さすがに人んちの前までおぶさったままと言うのは恥ずかしいのか、シエルは遠慮がちにおろしてほしいと言う意思を伝えた。

「ふぃ〜〜〜!!」

 シエルをゆっくりおろすと、弾介は大袈裟に息を吐いた。

「……その反応はちょっと失礼じゃないですかね」
「あぁいや、別に深い意図は…!」(ただ精神的に疲れたんだよ)
「まぁまぁ二人とも……」

 そうこうしているうちに、一同はダグラス達の家の前までたどり着いた。
 こじんまりとした家だが、そこそこな広さの庭があり、そこで10歳くらいの少女が小動物と戯れていた。

「あははは!もうポチったら、そんなに興奮しないで〜!」

 犬でも飼っているのだろうか?小動物の姿は影に隠れていてよく見えない。
 そんな少女へダグラスが呼びかけた。

「おーい、ライム!今帰ったぞ!!」
「はっ、その声は!」

 呼び掛けを聞いた少女ライムは、パァッと顔を綻ばせながらこちらへ駆けてきた。
 小柄な身体に質素な村娘服、そしてセミロングな黒髪が素朴な可愛らしさを醸し出している。

「やっぱりお兄ちゃん達だ!おかえり、ダグ兄!スト兄!」

 ライムは両手を広げ、ダグラスとストラの腰辺りを挟むように飛びついた。

「ただいま、ライム」
「すみません、長い間留守を任せてしまって」
「ううん、大丈夫!お兄ちゃん達は立派な軍人さんなんだもん!私もしっかりしなくちゃ!」
「おっ、それでこそ俺達の妹だ!はっはっはっ!」
「……ところで、そちらのお二人は?」

 兄から身を離し、後ろにいる弾介達の姿を確認したライムはキョトンと首を傾げた。
 ストラはさきほど村長にしたのと同じように二人を紹介し、事情を説明した。

「そっかぁ、伝説のフリックスを集めてるなんてすごいね」
「そんな大したもんじゃないけどね」
「っつーわけで、この村を脅かす怪獣の調査と伝説のフリックスの捜索のために共同戦線を張る事になったわけだ」
「そうなんだ……」
「今日はお世話になりますね、ライムさん」
「よ、よろしくお願います」

 丁寧に礼をするシエルに習って、弾介も慌てて頭を下げた。

「こちらこそ!今夜は賑やかになりそうで楽しみだなぁ!腕によりをかけてご馳走作るね!!」
「おっ、ライムの飯は美味いからなぁ!楽しみだ!!」
「期待してますよ」

 カサッ…!
 その時だった。先程までライムがいた庭の影から、薄緑色をした小さな物体が飛び出しシエルの胸元へ飛び込んできた。

「ひやぁ!!!」

 ベチャッと言う粘着質な沫音と共にシエルは間抜けな声を上げて倒れた。

「あ、ダメだよポチ!!」

 ポチと呼ばれたそれは、軟質性の体をウネウネと動かして仰向けになったシエルの双丘を這いずる。

「え、ポチってスライム!?」
「は、はい!小さい頃からウチにいる、飼いスライムなんです」
(飼いスライムとか言う概念があるんだ)
「はっ、ぁん!だ、ダメですっ!まだ、痺れも残ってるのに……!」
「も、もうポチったらダメでしょ!早く離れなさい!!」

 ライムは強引にスライムを引きずり剥がした。剥がれた反動で揺れる。

「ひゃぅっっ!!……うぅ、なんで私ばっかりこんな目に……」
「だ、大丈夫、シエル?」
「あぃがどぅごじゃいまずぅ……!」

 弾介が手を差し出すと、シエルはメソメソとベソかきながらその手を掴んで立ち上がった。

「ご、ごめんなさい!この子柔らかいものが大好きで……でもおかしいな、ポチは草食性で人見知りだから、初対面の相手に飛びかかる事はないのに」
(スライムに草食性とかあんの?)
「ふぇぇ……ネチョネチョします……服の中までグチョグチョです……」

 シエルの全身はまるでローションで滝行でもしたかのように粘液塗れになってしまっていた。

「す、すぐにお風呂の準備しますから!服も洗濯しますね!」
「あ、私の服は魔装具なので時間が経てば元どおりになるので洗濯は大丈夫ですが。でも、お風呂は借りたいです……!」

 風呂と聞いて少しだけシエルの顔が綻んだ。それを見てライムはふと笑みをこぼした。

「でしたら、離れに露天浴場がありますので案内しますね。こちらです」
「露天……!」

 露天浴場と言うのが魅惑の響きだったのか、すっかり涙も引いて笑顔でライムの後をついて行った。

「ったく、ポチの奴も困ったもんだ」

 二人を見送ると、ダグラスは足元のポチへしゃがんで小突いた。

「でも確かに妙ですね。ポチはもっと大人しかったと思うんですが」
「スライムにだって甘えたい気分になる時くらいあるだろ。んな事より、俺達は俺達でやる事やろうぜ!」
「ですね、では工房へ行きましょう」
「工房って事は、もうあの機体作るの!?」
「当然だぜ!設計はもう三人で話して十分出来たしな!あとは工房に行きゃちょちょいと完成だぜ!」
「作るのは僕ですけどね……」
「怪獣が出るまでは時間がある!それまでに機体を作って、テストバトルして完璧に使いこなそうぜ」
「テストバトルなら僕もガッツリ付き合うよ!楽しみだなぁ!」

 そして、三人は工房へ向かい機体開発に励んだ(主にストラが)
 1時間後……。

「か、完成しました……!」

 三人の前に、新たな二つの機体が出来上がった。
 戦闘機のような形状で、一つは白地に青、もう一つは白地に赤いカラーリングをしている。

「おぉ!理想通りの出来だ!こいつが俺の愛機、G-ヴァルキル!」
「僕のはストライクヴァルキリー!理論上は完璧なはずです」
「うわぁ、凄い!!これが、ロボットになるんだよね!?変形させてみてよ!!」

 新型機を二つも見て目を輝かせる弾介だが、二人は勿体ぶる。

「まぁ待て、お楽しみはバトルで披露してやるよ」
「工房の奥に練習場があるので、そこでテストバトルしましょう!」
「やった!待ってました!!」

 お楽しみのバトル!しかも新型機のテストという事でワクワクしながら立ち上がる弾介。
 と、その時、工房の扉がノックされた後ゆっくりと開かれてライムが顔をのぞかせた。

「お兄ちゃ〜ん、そろそろご飯出来るから降りてきて〜」
「あ、すまんライム、今いいとこなんだ。悪いけど、飯は工房の方に持ってきくれ勝手に食うから」
「え」
「任務遂行のための大事な準備があるんですよ。少し時間がかかってしまいそうなので、待たせるの悪いですから先に食べていてください」

 それを聞いてライムは一瞬顔を曇らせたが、直ぐに笑みを作って顔を上げた。

「……そっか、任務じゃしょうがないよね。まったくもう、無理はしないようにね。絶対ちゃんとご飯食べるんだよ?」
「分かってるって。せっかくのライムの飯、食わなきゃ損だからな!」
「あ、なんかごめん。せっかく用意してもらうのに、不躾な感じになっちゃって……」
「良いんですよ。お兄ちゃん達の相手よろしくお願いしますね、弾介さん」

 ライムは一礼すると工房を後にした。

「んじゃ、行くか!」
「うん!!」

 練習場。道場を思わせるような殺風景な部屋だ。普段は軍人として格闘術の訓練や新開発の武器をテストする場として使用するらしいがフリックスバトルにも対応している。

「フレンドバトルモード設定。2vs1の変則バトルでいいですか?」
「うん!テストバトルだし、二人が対決するより協力した方が実戦練習になるだろうしね」
「俺達は容赦しないぜ?」
「こっちこそ!テストでもなんでも、ダントツで決める!」

 そして、三人は機体を構えた。

「「「3.2.1.アクティブシュート!」」」

 三体のフリックスが10倍の大きさにスケールアップしてフィールドに着地する。
 ドラグカリバーの方が軽いので先にアクティブフェイズになった。

「よーし、フィールドジェネレート!」

 まず手始めにドラグカリバーがフィールドジェネレートして有利な状況を作る。

「確か、これで場外とか出来るようになるんだったな」
「その代わり、生成したフリッカーのバリケードが強化される。ここは下手に近づくより分散した方が良さそうですね」
「だなっ!」

 ダグラスとストラはステップで機体を動かしお互いに距離を取った。
 そして再び弾介のアクティブフェイズになるが……。

「ど、どっちを狙えば……!」

 とりあえずダグラスのG-ヴァルキルを狙い打つ。

「いっけぇ!」
「負けるか!」

 弾介がシュートした直後、ダグラスもアクティブフェイズとなり、素早くシュートして迎撃する。
 バチンッ!と二機が左右に弾かれ、ドラグカリバーは更にストライクヴァルキリーから離れてしまった。

「今だ!フリップスペル!『超自律兵器起動!』」

 ストラはストライクヴァルキリーを人型ロボット形態へと変形させて、フェイズ終了した。

「しまった!」
「この状態でまたフェイズが来る度に敵機全体に射撃ダメージが入るんでしたね」
「うん……現実ではなかなか使う人がいなかったんだけど、これが超自律兵器か……凄い迫力!」

 ただでさえ見栄えのいいロボット形態で、更にスケールアップもしているので迫力がある。

「って、見惚れてる場合じゃない!時間が来る前に転かさないと!!」

 弾介は急いでストライクヴァルキリーへ狙いを定めた。

「させるか!!」

 ダグラスが咄嗟にステップでドラグカリバーの前に出る。

「だったら二機ともぶっ飛ばす!!」

 バキィ!!!
 ドラグカリバーのシュートがヴァルキルを弾き飛ばすが、惜しくもストライクヴァルキリーへは届かなかった。

「惜しい!」
「では、次はこちらから!ロックオン!!射てーーー!!!」

 ストライクヴァルキリーが手に持ったビームライフルを構え、ドラグカリバーへビームショットを放った。

 バーン!

 ビームがヒットし、ドラグカリバーはマインヒットと同等の衝撃を受けた。

「こ、これが超自律兵器の射撃攻撃……!」
「すげぇぜ!ほんとにロボットが役に立つんだな!おっしゃ俺も!超自律兵器起動!」

 G-ヴァルキルは徒手格闘が得意そうな人型ロボットへ変形した。

「さぁ、こいよ!」
「今度こそ!!」

 二機とも変形しているため、もう誰にも妨害されない。

「いっけぇ!!」

 弾介はヴァルキルに向かって渾身のシュートを放った。

 バキィィ!!

 そのシュートは見事にヒットし、ヴァルキルを転ばす。

「よし!」
「いや、まだだ!」

 ヴァルキルはコケることによって衝撃を逃し、ドラグカリバーは攻撃を当てたにも関わらず勢いが止まらずそのまま場外自滅してしまった。

「がッッ!」
「超自律兵器状態は、足元から攻撃を食らっても転けることで衝撃を受け流せる防御形態でもあるんです」
「スペルの効果成功しなくても人型ならではの形態を活かせるってわけか」
「くぅ〜!ロボットがこんなに強かったなんて……!」
「フリックスならではですね。普通なら人型メカなんて物理的に戦いに活かすなんて不可能ですよ」
「あぁ!フリックスってこんなに凄かったんだな!気に入ったぜ!!」
「ははは、フリックス気に入って貰えるのは嬉しいけど、今度はおはじきとしての本家本元の力を見せてやる!!」

 超自律兵器のテストバトルは順調でますます盛り上がる弾介達。
 そしてその頃、風呂に行ったシエルは……。

「ふへぇ〜きもちい〜〜〜」

 にへらぁ〜と気の抜けた表情で風呂を堪能していた。

「……って、はっ!気持ち良すぎて長湯しすぎてしまいました!早く上がらないと夕食の時間に遅れてしまいますね!」

 1時間以上も風呂に入っていた事に気付き、シエルは慌てて風呂から出た。
 魔力ですっかり綺麗になった正装を着てとてとてと小走りで家へ向かう。

「……あら?」

 玄関の前まで来ると、庭の縁側でライムが一人寂しげに座り、ポチを静かに愛でているのが見えた。
 ライムはシエルの視線に気づくと顔を上げた。

「あ、シエルさん……」
「お湯いただきました。すみません、長湯してしまって。もう皆さんは食卓にいるんですかね……?」
「それが……」

 ライムはしょんぼりと顔を伏せる。
 何かを察したシエルはゆっくりとライムの隣に座った。

「隣、失礼しますね」
「あ……はい」

 シエルはライムと同じようにポチへ恐る恐る手を伸ばし、体を撫でた。

「……普段はネバネバしてないんですね」
「ポチが粘液を出すのは凄く興奮してる時だけで、普段はプニプニして気持ち良いんですよ」

 ライムが苦笑しながら説明してくれた

「クゥーンクゥーン」

 ポチは先程襲い掛かったのとは違い気持ちよさそうにシエルの手に身を委ねている。

「この子、頭を撫でられるのが好きなんです。まるで、蕩けるように気持ち良さそうな顔をするのが可愛いんですよ」
「(元々蕩けてるような気はしますが……)ライムさんは本当にこの子が好きなんですね」
「はい。大事な大事な家族ですから。兄達が家を出てからはずっとこの子と二人で、寂しくても頑張ってきたんです……この子が、この子さえいれてくれれば、私は十分……十分……」

 ライムな言葉は続かなかった。奥歯を噛みしめ俯いてしまう。

「……なにか、ありましたか?」
「……いえ、大した事は無いんです。ただ、兄達はお仕事で忙しいみたいで、一緒に食事するのが難しいそうで……でも、仕方ないですよね!
皆、世界を守るために戦ってるんですからワガママなんて言えないですし!
私も、もっと強くならなくちゃ!」

 ライムは無理に明るい口調で言うと勢いよく立ち上がった。

「シエルさん、二人だけですけど一緒に食べましょう!私、料理には自信があるんです!」
「……」
「シエルさん?」

 シエルは神妙な顔で口を紡いだのち、ライムへ笑顔を見せた。

「ライムさん、ささやかな幸せを願う事は決して弱さなんかじゃありませんよ」
「え?」
「少し待っていてください。お料理楽しみにしてますね」

 そう言って、シエルは歩いていった。

「……探索魔法、サーチ」

 去り際、シエルがそう呟いたのが聞こえた。

 一方、練習場では……。

「いっけぇ!ドラグカリバー!!」

 バーーーン!!!
 ドラグカリバーの攻撃でストライクヴァルキリーとGヴァルキルが転けてしまい、そのままマインとフリップアウトで撃沈した。

「ふぃ〜、どうにか勝てた〜!」
「くっそー!やっぱ一線で戦ってる奴には勝てねぇか!」
「でも、良いデータが取れました!人型ロボットの有用性はバッチリですね」
「いやぁ、そのスペルってタイマンだと使い辛いんだけど。チームプレイになると途端に強くなるんだなぁ、知らなかった」
「弱点である発動の遅さを仲間がカバー出来ますからね」
「変形のコツも分かってきたし、もう何戦かやれば完璧に使いこなせるはずだ!」
「よし!じゃあすぐもう一回やろう!!」
「おう!時間いっぱいまでたっぷりやるぜ!!」

 弾介達は意気揚々とまたバトルの準備を始める。フレンドモードでの戦いなので機体の消費は無いから連続で何度でも戦えるのだ。
 その時だった。

 バシャーン!!

 乱暴に扉が開かれ、しかめっ面をしたシエルが入ってきた。

「なんだ?」
「シエル?どうし……」

「何やってるんですか三人とも!!!!!」

 弾介の言葉を遮り、シエルは鬼のような怒声を上げた。

「へっ、な、なにって……」
「もう夕食の時間ですよ!早く食卓に来てください!!」
「いや、でも飯はここに持ってきてもらうよう頼んだし」
「いいから!!せっかくの料理が冷めてしまいます!!!!」
「今、良いところだったのですが……」
「あ、あともう一戦!もう一戦やったらすぐ行くから、もうちょっと待っ」

「いいから来なさい!!!!!!」

「「「はい!!!!」」」

 シエルの剣幕に押され、弾介達は急いで機体を片付けて食卓へ向かった。

 食卓では、テーブルの上に並べられた料理の前にライムが寂しげに座っていた。
 そこにシエルが弾介らを引き連れてやってくる。

「お待たせしました、ライムさん!」
「あ、シエルさ……って、お兄ちゃん!?」
「お、おう……」
「ははは」

 ダグラスとストラは罰が悪そうに苦笑いした。

「どうしたの?任務の準備で忙しかったんじゃ……」
「丁度キリが良いところまで出来たのでしっかり休憩を取ろうと思いましてね」
「せっかくのライムの飯をあんな場所で食うのも勿体ねぇしな」
「お兄ちゃん……」

 シエルに渾々と説教されたのが効いたのか、二人は照れ隠しに顔を逸らしながら言う。

「うわぁ、美味しそうだなぁ!これ、ほんとにライム一人で作ったの!?」

 弾介だけは料理を前に無邪気に目を輝かせる。

「はい!今日はプッパモの良い卵が手に入ったので、卵料理尽くしにしてみました!」
「プッ、プッパモって、卵産むんだ……」

 プッパモとは一体どんな生き物なのか?興味は尽きないが、それよりもお腹が空いた。
 全員食卓について手を合わせる。

「「「いただきます!」」」

 和やかで賑やかな食事タイムが始まった。
 美味しい料理に舌鼓を打ち、ライムの表情にも笑顔が溢れる。

「シエルさん、ありがとう」

 ライムはコソッと礼を言うと、シエルは嬉しそうに微笑んだ。

 

    つづく

 

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CM

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