・・・俺の進むべき道は、もう決まっている。俺は、強さへの道を選ぶ!
そのために利用できるものは全て利用し、出来ないものは切り捨てる。
それは昔も、今も、そしてこれからも変わらない。俺の中にある、唯一の真実だ。
強さだけを求められ。
強さだけを求め。
そして、たった一人で生き続けてきた。
生き続ける事しかできなかった。
そんなお話。
終らせたかった。
終らせるわけにはいかなかった。
永遠に続くと思っていた。
永遠は、変わらないと思っていた。
だから、選んだ。
永遠を、選んだ。
望もうが望むまいが・・・そんな事は瑣末な事だったから。
ビーバトルと言う永久のレクイエムを奏でながら・・・。
「・・・・。」
昔の事を思い出していた。
いや、思い出していたというよりも、これは思い浮かべていたといった方が正しいかもしれない。
まるで白昼夢のように、過去の世界へトリップしてしまっていた。
「どうしたんだい、セシル?」
と、歩きながら惚けていた私の目の前に、男の人の顔が映る。
「・・・・・。」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
即座に思考をめぐらせる。
そうだ・・・。私は、この人と・・・恋人と散歩をしていたのだ。
大切な恋人を心配させてはいけない。
「あ、ごめんなさい。少しぼうっとしてて。」
慌てて顔を挙げ、取り繕う。
「そう?少し、疲れてるんじゃないかな。公園で少し休もうか。」
「ええ。」
優しい彼の聲。
私は、彼にエスコートされて公園のベンチに腰を下ろした。
「ふぅ・・・・。」
本当は、特に疲れてはいないのだが座ったとたんため息が出てきた。
それに気づいた彼は、優しく微笑んで。
「それじゃ、ジュースでも買ってくるよ。」
そういって、自販機へと歩いていった。
「・・・・。」
彼は、本当に優しい。
そんな彼の後姿を眺めながら、私は再び惚けた。
クロウ達と別れてから、もう数年。
あの後行くあての無かった私は、家へ連れ戻されてしまった。
そして、政略的に婚約させられた今の彼と、結婚を前提にお付き合いしている。
彼は、真面目で優しい人だった。
だから、彼は私に良くしてくれている。
だから、愛していない癖に、愛そうとしてくれている。
私は、それが耐えられなかった。
偽りの愛情なんか、受けたくなかった。
『愛そう』とか『愛したい』とか・・・その時点でそこに愛なんか存在しないのだから。
「はぁ・・・。」
また、ため息。
やっぱり、私は後悔してる。
あの時、クロウに対して私に何ができたわけじゃない。
でも、もっと他に選択肢があったはず。別の選択肢が・・・。
多世界解釈を信じているわけではないが、それでも・・・別の可能性を信じたくなってしまう。
ザッ!
物音が聞こえた。
「っ!」
私は息を呑んだ。
背筋が凍る。
頭の中が真っ白になってしまう。
私の目の前に、だらしなく涎をたらした野犬がうなりながらやってきたのだ。
あぁ、そうだ・・・この時期、餌不足のせいで山から町に野犬が下りてくることがあるのだ。
恐怖しながら、私はのんきにそんな事を考えていた。
「あ・・ああ・・・!」
息を押し殺す悲鳴が聞こえた。
それは、私の声じゃない。私は、声も出せないほど恐怖しているのだから。
カランッ・・・!
それは、金属を落とす音・・・そして、流れ出す液体。
彼だ。ジュースを買いに行っていた彼が戻ってきたのだ。
そして、さっきの音は彼がジュースを落とした音。
「・・・・・。」
恐怖でしゃべれない私は、視線で彼に助けを求めた。
しかし・・・私以上に彼は恐怖に慄いている。
ジュースを落としたのは、身軽になって私を助けるためじゃない。ただ、怖くて・・・手足の感覚がなくなっただけなのだろう。
「あ、あぅ・・あ、あぁ・・・。」
彼は、見っとも無く尻餅をつき、そのまま後ずさるように逃げていってしまった。
あぁ、なんてこと・・・。
彼は、私のことを愛してるわけじゃないから。身を挺してまで私を守ろうなんて思考はとっさに浮かばないのだろう。
こんなに簡単にボロが出てしまうなんて。
でも、私は彼を責めることなんてしない。
これが、当たり前なんだと思う。
私は、静かに目を閉じた。
この狂犬相手に対抗できるとは思えないし、何より今は動けない。
だから、もう諦めて覚悟するしかない。
なにより、もう・・・このまま生きてても仕方ないって、思ってたところだったから。
犬が吼えた。そしてこちらに飛び掛ってくるのを肌で感じた。
もうすぐ、激痛が走る。
それが分かっているのに、なんだか、心は穏やかだった。
・・・・。
・・。
激痛は、いつまで立ってもこなかった。
不思議に思って目を開けると、その刹那。
シュンッ!
目の前を一筋の光が走ったと思ったら、それが狂犬に当たる。
すると、狂犬はキャインと可愛い聲を上げて去っていった。
「はぁ・・・!」
一気に緊張が解けて、私はその場でへたり込んだ。
体が震えている。やっぱり怖かったんだ。
生きてても仕方ないなんて・・・あまりの恐怖で・・・恐怖への感覚さえも麻痺してしまったのだろう。
少し落ち着いて、周りを見てみた。
何か、落ちている。さっきまで狂犬がいた場所に、小さく光るものが・・・。
「ビー玉・・・?」
そう、それは透き通った綺麗な玉だった。
では、それは一体どこから・・・?
私は、さっきの軌跡を視線で辿り、その発生源を探った。
「あ・・・!」
見つけた。
でも、聲を上げたのは発生源を見つけたことにじゃない。
その発生源には人が立っていた。
その、人は・・・。
「く、クロウ・・・。」
そう、確かに・・・。
服はぼろぼろで、髪はボサボサで・・・まるで、漂流者のような格好だったけれど・・・。
その面影には覚えがある。見間違うはずなんて、なかった。
「・・・は・・・あ・・・。」
息を吐き、クロウはそのまま意識を失い、倒れてしまった。
「クロウ!!」
自分でも信じられないくらいの大きな声で叫び、私はクロウの元へ駆け寄った。
うつぶせに倒れた体を抱きかかえ、その顔を見る。
「クロウ・・・!」
その顔は、紛れも無くクロウだった。
思わず・・・涙がこぼれた。
とめどなく、雫が溢れ、クロウの顔に落ちる。
「う・・。」
涙が傷にしみるのか、そのたびにクロウは呻く。
「あ、そうだ・・・救急車、呼ばなきゃ。」
ハッとして、私は急いで119番した。
数分後にやってきた救急車に運ばれ、私とクロウは近くの病院へ入った。
クロウはそのまま手術室へ。私は、待合室へ。
しばらくして、医者と思われる白衣の男の人に呼ばれた。
真っ白な病室。
そこのベッドでクロウはまるで死んだかのように眠っていた。
「先生、クロウは・・・どうなんですか?」
たまらなくなって、白衣の男に病状を聞いてみた。
すると、白衣の男は重いため息を付いたあと、ゆっくり口を開いた。
「過度の疲労により、かなり衰弱しています・・・。処置が早かったおかげで、なんとか一命は取り留めたものの・・。」
そこで、一旦口を閉じた。
それだけでは何も分からない。重要な事は何も分からない。
だから私は、その口が開かれるのをひたすらに待った。
「・・・彼の5感は、ほとんど失われている・・・。もう、彼は立つことも、話すこともできない・・・植物状態に・・・。」
「っ!」
息を呑んだ。
「そ・・・んな・・。」
「この状態のまま、数年間生命を維持することは可能です。しかし、残念ながら回復は絶望的です。」
何も、言葉が返せなかった。
まるで、今まで築き上げてきた積み木が、無情に崩されてしまったみたいで・・・。
やりきれない気持ちは、頭の中で凍りつき・・・私の体を硬直させる。
「このまま、生命を維持するか・・・それとも、楽に終らせるか・・・。」
どちらか選べというのだろう。
確かに、どちらを選んでもさほど差は無いだろう。
どちらにしても死んでいるも同然なのだから。
しかし・・・。
「私に・・・選ぶ権利はありません。・・・でも、クロウならきっと、どんな時でも生きることを選び続けると想います。だから・・・。」
それは、今までもそうだったから。
意味の無い人生だと思い知っても。
自分が価値の無い人間だと思い込んでも。
それでもただ、盲目的なままに生きる事だけを選び続けてきた。
それは、きっとすごく強いと想う。
だって、そんな人生の中で生きたいって思える人間なんかいない。
クロウは死が怖いって言ってたけど・・・死ぬことなんかより生きる方がずっと怖かったはず。
だから、クロウはただ生き続けているだけで強かったんだ。
「分かりました。」
医者はそういって、深々と頭を下げた後、部屋を出て行った。
「クロウ・・・。」
誰もいない部屋。
私とクロウしかいないこの部屋で、私は改めてクロウの顔を見た。
クロウは眠っている。静かに・・・寝息も立てずに。
もう二度と、その目が開くことは無いのか。
「っ・・・ああ・・・!」
嗚咽が漏れた。
今まで押さえ込んでいた涙が、ドッとあふれ出す。
「ああ・・・あああ・・・・!!」
止まらない。止まらない。
私は、やはり後悔していた。
あの後、クロウはずっと戦い続けてきた。
戦い続けて、戦い続けて・・・そうすることでしか生きる意義を見出せず・・・。
そうしてきたクロウの体はボロボロになってしまったのだ。
「ごめん・・・なさい・・・ごめん・・なさい・・・!!」
何がごめんなのか、自分でもよく分からない。
やはり、あの時なんとかすればよかったんじゃないかと。
くだらない後悔で己を慰めようとしているのか。
よく、分からなかった。
・・・・それから数日後。
カチャ・・・。
私は、もう何度も開けた、見慣れた病室の扉を開いた。
すると、中に広がっている世界は、本当に見慣れた世界だった。
「クロウ、お見舞いに来たよ。」
返って来ることの無い返事をわずかに期待しつつ、私は中に入るが、当然のようにクロウの反応は皆無だった。
私はベッドの隣に座り、静かにクロウに語りかけた。
「ねぇ、クロウ・・・覚えてる?レーザーホーネットを奪われた時のこと・・・。」
こうして、私は毎日のように病院に通い、毎日のようにクロウに語りかけている。
昔の事を・・・昔、一緒に旅をしていた時の事を・・・。
それに意味があるのかどうかは分からない。
でも、それしか私にできることはなかったから・・・。
たとえ返事がなくても、無駄な行為でも・・・私は毎日のようにそれを続けた。
彼とは、別れた。
毎日のように見舞いに言っていては、付き合う暇もなくなってしまうからだ。
私は、この身をクロウに捧げるかのように、全てを捨てる覚悟をした。
・・・・まぁ、元々、捨てるべきものなんて、私の所有物なんて、存在しなかったのかもしれないけど。
「・・・あ、そうだ。今日はいいものを持ってきたんだよ。」
ある日、私は取って置きのプレゼントを持ってクロウの元へやってきた。
相変わらず何の反応も示さないクロウにショックを受けながらも、私は持ってきた包みをクロウの前に出す。
「ふふ、何だと思う?」
反応は、無い。
でも、それを悲しんで入られない。
「じゃ~ん!」
無理に明るい声を出し、包みを開いた。
そこから出てきたのは、クロウの愛機・・・デスサイズだ。
そう、デスサイズもクロウとの過酷な戦いによりぼろぼろだった。
だから、私はずっと修理していた。
慣れない道具と慣れない手つきで、一生懸命直した。クロウの心が開くきっかけになるかもしれないから・・。
「ちょっと格好悪いけど、私なりに一生懸命修理したんだ。ボロボロのままじゃ、かわいそうだから。」
しかし、意に反してクロウはなんの反応も示さない。
意に反して?
あぁ、それは日本語として変だろう。
予想の範疇だった。
覚悟はしていた。
むしろ、それは当たり前のことだった。
これくらいのことで、クロウが元通りになるわけが無い。
分かっていたのに・・・。
分かっていたのに・・・・。
分かっていたのに・・・・・!
「あ・・・れ・・・?」
目の前が、揺らいだ。
涙が瞳にたまり、視界を揺らしたのだ。
「ど、どうしちゃったんだろうね、私・・・。」
慌てて涙を拭うが、拭っても拭っても雫は溢れ出る。
その雫は、クロウの頬を濡らす。
「あ、ご、ごめ、ごめ、ん、ね・・・。」
言葉が出ない。
喉が震えてうまく聲にならない。
「すぐに、拭くから・・・。」
ハンカチを取り出そうとした、その時・・・!
「ん・・・。」
「え・・!?」
動いた。
頬が、むず痒そうに動いた。
あの、再会した時のように・・・雫が落ちて、痒かったのだろう。
「く、クロウ・・・!」
しかし、それ以上は何の反応もなかった。
でも、それでも・・・。
それは、私にとっての希望だった。
クロウは、きっと回復する。そう、確信できた。
絶望の中に見出すことができた、一筋の希望・・・。
私は、それを大切にしたい・・・。
「ずっと・・・そばにいるから・・・。」
END
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