爆・爆ストーリー ZERO BEST END アフターストーリー

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BEST END アフターストーリー「チイサナシアワセ」

 ・・・なくなればいいと願って、でもなくすわけにはいかないと求めて・・・俺は・・・!
 強さだけを求められ。
 強さだけを求め。
 そして、たった一人で生き続けてきた。
 生き続ける事しかできなかった。
 そんなお話。
 終らせたかった。
 終らせるわけにはいかなかった。
 永遠に続くと思っていた。
 永遠は、変わらないと思っていた。
 でも、それは永遠ではなかった。
 それを、止めてくれたのは・・・。
 だって、好きなんだもん!クロウの事が、ずっと前から・・・!だから、クロウは生きてていいんだよ!
 他の誰かが、なんと言おうと、クロウは意味のある人間なの!私は、クロウに生きててほしいの!

 ・・・・・あれから、数年が経過した。
「~♪~♪」
 小さなアパートの小さな部屋。
 キッチンで煮立つ鍋を前に、私は鼻歌交じりに料理している。
 鍋の中にあるのは、ジャガイモに玉ねぎに味醂醤油・・などなど。
 今日は、一番の得意料理肉じゃがを作ることにした。
「クロウ、今日は早く帰れるって言ってたし。腕によりをかけなくちゃ♪」
 ヒスイのあの一件以来、私とクロウは一緒に暮らしている。
 今更、あの家に戻れないし、戻る気も無い。
 だから、安いアパートの一室を借りて同棲することにした。
 
 最初は、持ち合わせていたお金でやりくりしていたが、勘当同然の私に収入源はなく。
 蓄えは、すぐに底を尽きてしまった。
 クロウはすぐにバイトを始めた。
 朝から晩までバイトに明け暮れ、私を養ってくれている。
 ・・・幸せだった。
 愛する人が自分のために働いてくれて。
 私は、その働いてくれている人のために尽くしている。
 お互いが、お互いのために生きている。
 それは、幼い頃からずっと憧れていたものだった。
「・・・うん、これでよし。」
 完成した肉じゃがをお皿に盛り付け、テーブルに並べた。
 後は、クロウが帰ってくるのを待つだけ。
 しばらくして、玄関が開いた。
「ただいま。」
 聲が聞こえる。
 いつも聞いている声だけど、さっきまで聞こえなかった声。
 いつも聞いているからこそ、さっきまで聞こえなかったことがすごく寂しくて。
 さっきまで聞こえなかったことがすごく寂しかったからこそ、今聞こえてきた声はすごく嬉しかった。
 
「おかえり~!」
 笑顔で玄関へ向かい、クロウを迎えた。
「ああ。」
 クロウはそれだけ答え、上着を私に預けて部屋に上がる。
 そっけない態度だけど、私にはそれが暖かく感じた。
「ごはん、もうできてるよ。」
 食卓には、湯気の立つ肉じゃがが食欲を誘っている。
「美味そうだな。」
 バイトでつかれきったためか、今日のクロウはいつにも増して空腹な様子だ。
 あまり表情には出していないのだが、私には分かる。
 今の私だからこそ、分かる。それが嬉しかった。
「それじゃ、すぐ食事にしよっか?」
「ああ。」
 そう答え、クロウは簡単な着替えを終えた後、テーブルについた。
「腕を上げたな、お前。」
 忙しなく動かしていた手を止め、クロウは言った。
 言った後すぐに手と口を動かし始めるのだから、私はおかしくてクスリと笑った。
 そんなに急がなくても、ご飯は逃げないのに。
「そう?ありがと。・・・あ、おべんとついてるよ。」
 クロウの頬にご飯粒がついているのを指摘すると、クロウは手を止めた。
「ん・・・?」
 そして、それを取ろうと必死で顔を探るのだが、なかなか見当たらないらしい。
「もう、みっともないなぁ。・・・はい、取れたよ。」
 苦笑しつつ、私はクロウの頬についていたご飯粒をつまみ、そのまま口に運んだ。
「わ、悪い・・・。」
 少し顔を赤くし、うつむくクロウ。
 私は、たまに見せるクロウのこういう態度に弱い。
 頭がとろけそうになってしまう。顔がにやついてしまう。
 とても・・・幸せな気分。
「どうした?」
 怪訝そうなクロウ。
「ううん、なんでもない。」
 笑顔のまま否定する。
 クロウにとってはそんな事よりご飯の方が魅力だったみたいで、それ以上気にする様子も無く再び食事に没頭する。
「・・・。」
 と、ここでクロウの手が止まった。
 虚ろな目でどこかを見ていた。
 クロウの視線を目で追っていって、私はハッとした。
「どうしたの?おかわり?」
 分かりきっている。
「いや・・・えと・・・あぁ、そうだ。」
 分かりきっている。
「もう、だったらそう言えばいいのに。茶碗貸して。」
 分かりきっている。
 私は・・・分かりきっている。
 今日、この日はウィナーズが開催された日。
 そして、この時間はウィナーズのハイライトが放送される時間だったはずだ。
 クロウは・・・見たがっている。
「はい。」
「ああ。」
 茶碗を受け取るクロウ。
 やはり、その目は何も見ていない。
 今までもずっと、その目は何も見てはいなかった。
 私と同棲するようになってから、クロウはビーダーを引退した。
 毎日バイトに明け暮れていれば、ビーダマンをする暇なんてなくなってしまう。
 クロウは、そんなこと全く気にするそぶりは見せなかったが、時折今みたいに空虚な表情を見せる。
 それは、やはり・・・どこか未練があるということなのだろうか。
「ねぇ、クロウ・・・。」
 私は、恐る恐る声をかけた。
「ん?」
 返事したその目は・・・やはり何も見てはいなかった。
「・・・後悔、してない?」
「・・・それは、前に言ったはずだが?」
 そう、クロウは確かに言ってくれた。
 “ビーダマンを辞めた事に後悔は無い”と。
 クロウが今までビーダマンを続けていたのは、自分の存在意義を確かめるため。
 強くなり続けなければ存在意義が無いと思い込んでいたから。
 でも、今は違う。
 今のクロウにとっての存在意義は・・・私自身だった。
 私と共に生きることこそがクロウにとっての存在意義であり、そのためには全てを捨ててもいい覚悟だった。
 私もそう、クロウと共に生きるために全てを捨てた。
 そうして手に入れた幸せは、私にとっては何にも変えがたいものだった。
 でも・・・クロウにとってはどうだろうか?
 本当に、クロウは幸せなのだろうか。
 存在意義を得ることと幸せは違う。
 クロウは、まだ今も・・・強さを求め続けていた頃と同じものを感じ続けているのではないのだろうか?
「本当は、ビーダマン続けたかったんじゃないの?」
「・・・・。」
 クロウは黙り込んでいる。
 だから、歯止めが利かなくて、私はついしゃべってしまう。
「だって、今のクロウ、全然生き生きしてない!なんだか・・・昔とは、別人みたいで・・・。」
 言ってしまう。止まらない。
「なんだか、怖いの。クロウが無理してるみたいで・・・だから・・・。」
 言わなければいいのに。
 言わなければいいのに。
 言わなければ・・・このまま幸せは続くのに。
「私・・・もしかしたらクロウを縛り付けてるんじゃないかって・・・。」
「・・・そんな事はない。」
「っ!」
 クロウの返事は静かだった。
 そして、すごく冷たかった。
 その目に感情はなかったけれど。
 私は、それ以上何もいえなかった。
「・・・ごめん、なさい。」
 そう、クロウは後悔はしていないし、何も変わろうとはしていない。
 ただ・・・気づいて無いだけ。今クロウは本当に幸せでは無いということに。
 ただ・・・知らないだけ、本当の幸せが何なのかという事に。
 そして・・・私は今本当に幸せだから・・・。
 そんなクロウの無知さに甘えてしまっている。
 クロウを犠牲にして、幸せを得ている私。
 その事に罪悪を持っている私。
 そして、それ以上どうすることもできない私・・・。
 私は、実家へ手紙を書こうと思った。
 実家へ連絡を入れるのは本当に久しぶりだった。
 勝手に家を出て、勝手な事をし続けて、迷惑や心配をかけ続けているのだ。
 伝えなければいけないことはいっぱいある。
 家を出てからどんな事があったのか。
 今、どんな生活を送っているのか。
 そして・・・。
 PS.私は今、それなりに幸せです。
      END

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