爆・爆ストーリー ZERO 第1話 【バトルビーダマン題材小説】

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   第1話「強さへの執念」




 ビーダワールドで最強のビーダーを決める大会【ウィナーズ】が開かれる数ヶ月前。

 ヤマトとツバメがアルマーダの元で修行している頃。
シャドウのアジトでは、二人の少年ビーダーがバトルをしていた。

 一人はプロトワンを持った金髪で短髪の少年、もう一人もプロトワンを使ってるのだが、何か他の奴らとは違う感じののモデルを持っている。黒髪で冷たく鋭い瞳をした少年だ。

 薄暗く、殺風景な部屋の中で二人は殺気を放ちながら相手を見据えている。

 バトル開始の合図は無かった。

 どちらかが、ビーダマンを構えた瞬間。それがバトルの火ぶたとなる。

 チャッ……!

 沈黙に耐えきれなかったのか、プロトワンを持っているビーダーが焦り気味に銃口を上げた。

 しかし、集中力が途切れていたからか、照準は定まらない。

 その隙をついてもう一方のビーダーが素早く銃口を上げてビー玉を発射する。


ドキュンッ!バキィ!!

 

 響き渡る二つの銃声。

 勝負は一瞬で決まった。
 ノーマルのプロトワンが断末魔を上げながら、粉々に破壊される。
少年「ぐぅ……!」
プロトワンを破壊されたシャドウのビーダーが悔しそうに顔を歪め、地に膝をついた。
???「ちっ、相変わらず弱いな……!シャドウのビーダーはクズばかりだ!」
勝利した少年は、倒した少年を見下しながら容赦なく悪態をついた。

 そこにはビーダーとしてのスポーツマンシップの欠片もない。

 弱肉強食の無慈悲な勝負の世界が広がっていた。



 黒髪の少年は、敗北者にそれ以上の興味は無いのか、踵を返してその場を立ち去ろうとした。

 その時だった。
炎呪「おい、クロウ!」

 背中から、黒髪の少年の名を呼ぶものがいた。
クロウ「あん?」
クロウは心底面倒くさそうに振り向いた。

 クロウを呼び止めたのは、逆立った赤髪と顔の傷が特徴的な男……炎呪だった。

炎呪「ボスから与えられた『改良型素体ZERO』で随分と良い気になってるようだが、たった一度まぐれで成果を上げた程度で調子に乗るなよ……!」
炎呪が凄みを利かせてクロウに詰め寄る。しかし、そんな炎呪をクロウは鼻で笑う。
クロウ「そういうセリフは、一度でも俺に勝ってから言うんだな。大体、あの成果がまぐれかどうかはお前が一番良く知ってるだろう?」

 クロウは、さきほど見下したあの少年と同じように侮蔑するような瞳で炎呪を挑発する。
炎呪「っ!」
その視線に炎呪は頭に血が上ったのか、素早くコバルトカイザーを構える。
炎呪「あの時は、新人だと思って油断したがな今回は違うぜ・・!」

 熱くなる頭を無理矢理クールダウンさせ、炎呪は冷静を装いながらもハンターのような殺気を放つ。
クロウ「バトルか・・・いいだろう。」
その雰囲気で炎呪の申し出を察したクロウはビーダマンを構えた。

 クロウのビーダマンは、ホールドパーツに手を加えられた素体ZEROにプロトアーマーを取り付けたビーダマンだ。
炎呪「そのビーダマンは、元々俺がいただくはずだったものだ。俺が勝ったら、返してもらうぜ!」
クロウ「貴様が勝てればな・・・。」

 ドキュンッバシュッ!
炎呪が不意打ちでクロウにビー玉を放つ。しかし、それにすばやく反応したクロウはあっさり撃ち落す。
クロウ「無駄だ。」
炎呪「ちっ、本気で行くぜ・・!」
ドンッ!
炎呪のシメ撃ちが炸裂。パワーバックルを装着したコバルトカイザーのパワーショットが空気を切り裂きながらクロウに迫る。
炎呪「コバルトカイザーのパワーを舐めるな!」
クロウ「パワーショットか・・・。だが、俺の前では無意味だ・・・。」
ギリギリギリ・・・!
クロウが思いっきりホールドパーツを締め付けビー玉を打ち出す。
ドライブショットのしめ撃ちだ。普通のパワーショットであるコバルトカイザーに勝ち目は無い。
炎呪「くっ!」
カンッ!
炎呪のショットはあっさり、弾かれ、クロウのショットがコバルトカイザーと炎呪を吹っ飛ばす。
炎呪「ぐわぁ!!」
ドサ、ズザアア!
炎呪は、勢いで何度も地面を転がりながら倒れた。
炎呪「くっ・・・あんな奴に・・・・この俺が・・・!」
コバルトカイザーを拾い、炎呪を見下ろすクロウ。
クロウ「安心しろ。手加減してやったから、コバルトカイザーは無事だ。」
そういって、倒れている炎呪のそばに、コバルトカイザーを落とした。
炎呪「ぐ・・・ぐおおおおおお!!!!!」
炎呪は、そばに落ちた愛機には目もくれず、床に拳をたたきつけて咆哮した。


ビー!ビー!!
その時、緊急事態発生!みたいな感じの警報ベルが鳴り響く。
クロウ「・・・なんだ?」
そして、ボスからの放送が流れた。
内容は、近くの岩山に、伝説のビーダマンらしきものを見つけたというので、総員に捜索命令を下したのだ。
もちろん、クロウも捜索に出た。
しかし、クロウはシャドウの中でも協調性が全くなく、一人勝手に捜索をしていた。
クロウ「ちっ・・・こんな所に、本当に伝説のビーダマンがあるのかよ・・・!」
愚痴をいいながら、歩き回るクロウ。
クロウ「ん・・なんだ・・?」
その時、さまざまなトレーニング器具や、ビーダマンのパーツが散らばっている広場のような場所にたどり着いた。

 焚火の跡やテントも張ってある事から、誰かがキャンプしている場所だという事が分かる。

 ただそれだけなら興味を示す事は何も無いのだが、そこにあるトレーニング器具やビーダマンのパーツ。それらはとてもただの一般人が持っているようなものではない高性能なものだという事が、クロウの好奇心を刺激していた。
クロウ「ここは・・・?」

 好奇心に逆らわずに周辺を見回すと、隅に設置されている簡易作業机で黙々と作業しているメガネをかけた少年の姿を見つけた。
クロウ「おい・・!」

 クロウは無意識か反射的か、思わず声をかけた。
メガネ「ふえ?」
メガネ少年が作業する手を止め、顔を上げた。

 二人の目が合う。

 なぜ声をかけたのか、それはクロウにも分からなかった。

 別に無視しても良い相手なはずだ。こんな所に自分の目的とする物があるはずがない。

 しかしクロウはそんな自分の中に沸いた疑問を無視して言葉を続ける。
クロウ「なんだ、貴様は?」
メガネ「え!?き、君こそ何ですか!勝手に人の隠れ家に入ってきて!」
いきなり現れていきなり『なんだ?』呼ばわりされてしまい、当然のようにメガネ少年は憤慨した。

 しかし、クロウはそんなメガネ少年君の怒りなど意に介さず。

 それどころか、メガネ少年の言った『隠れ家』と言う言葉に対して『こんなに露出していて、どこが隠れ家だ』と心の中でツッコミを入れていた。まさに傍若無人である。
クロウ「まぁ、いい。この近くに伝説のビーダマンが
あるはずだ。どこだ、場所を言え!」

 多少会話をして少し余裕が出来たからか、クロウはついでと言わんばかりに本来の任務を遂行しようとした。

 が、そんな事をこの少年が察するわけがなく、怒りは収まりそうはない。
メガネ「なっ・・!勝手に入ってきて、勝手な事ばかり言って!もしかして、君、シャドウのビーダー?」

 シャドウの悪名はかなり広まっているのだろうか、クロウの非人道的な態度を見てメガネ少年はすぐにクロウの所属を言い当てた。
クロウ「ああ、まぁな。」

 クロウはあっさりとそれを肯定する。

 悪名高い組織に所属していることがバレれば信用されずに情報を得られないかもしれないと言うのに。

 頭が回らないのか、それとも期待していないだけか……。
メガネ「やっぱり・・・。あくまで噂に過ぎませんが、伝説のビーダマンの場所なら、分かりますよ。」

 メガネ少年は呆れ気味に頭を抑えながらも、そう答えた。
クロウ「なら、今すぐ吐け!痛い目にあいたくなかったらな!」

 それを聞いてクロウは食って掛かった。
メガネ「遠慮します。あいにく、シャドウに渡す情報は持っていませんから。」

 痛い目に合うかもしれないというのにメガネ少年は毅然とした態度でそう答える。
クロウ「そうか・・・なら、腕ずくで聞き出すだけだ・・!」
クロウはビーダマンを取り出した。
メガネ「丁度いいや。こいつのテストをしたいと思ってたし・・。」
メガネ君もビーダマンを取り出す。
クロウ「なにっ!?」
クロウは、メガネのビーダマンを見て驚く。
クロウ「!?な、なんだそのビーダマンは・・・!?」
それは、市販品とは違う、全く見たことのないビーダマンだった。
メガネ「え、これですか。これは自分で作ったオリジナルビーダマンですよ。」
クロウ「テストがしたいとか言ってたな・・・てことは、これは出来たばかりなのか・・・?」
メガネ「さっき完成したばかりですよ。」

 シレッと答えるこの少年に、クロウは珍しく戦慄した。
クロウ「(バカな!じゃあ、こいつはこんな何もないところで・・・。十分な施設も道具も材料も揃わない様なところで、ビーダマンを自らの手で生み出したというのか・・!?だが・・。)」
メガネは素体ZEROにパーツを取り付ける。そのパーツは、現実世界のジェイドガンナーの試作品のものだ。
メガネ「ジェイドガンナー。結構強いと思いますよ。」

 メガネ少年はちょっと得意気にジェイドガンナーを掲げた。

 それを見て、クロウからは先ほどの戦慄は消えていた。
クロウ「フッ・・・無邪気なもんだな。人と違ったビーダマンを持っているだけで、自分が強くなったと錯覚してるようだ」
メガネ「なんだと!」
クロウ「身の程を教えてやるよ。」
チャキ・・・!
二人は、少し距離を取って対峙した。
クロウ「ルールは相手のビーダマンを破壊するか、ビーダーの手からフッ飛ばすかで決まる『デスマッチ』だ。いいな?」
メガネ「構いませんよ。」
クロウ&メガネ「ビーファイアー!!」
クロウ「うおおお!!」
バトル開始早々、クロウのドライブショットが火を吹いた。真っ直ぐジェイドガンナー目掛けて進む。
メガネ「いけー!」
防御するためのジェイドガンナーのショット。しかし、ドライブショットの前にあっさり弾かれる。
クロウ「どうした?たいした事無いな」

 ジェイドガンナーのパワーはクロウのショットの足元にも及ばない。

 しかし、メガネ少年は余裕の笑みを浮かべていた。
メガネ「ふふ・・!」
ドドドドド!!
ジェイドガンナーから怒涛の連射が放たれた。

 10発くらいのビーダマが一気に発射され、何度も何度もドライブショットへぶつかり、ついにそのショットを弾き落とした。
クロウ「バカな・・!なんだ、この連射は・・!いくらなんでも、ここまでの連射は・・・!」
クロウは、ジェイドガンナーのホールドパーツを見て、驚愕する。
クロウ「なに!?ホールドパーツにローラーが・・・!」
メガネ「そう・・それによって、ビー玉がスムーズに発射され、超スピードでの連射が可能になる!」

 メガネ少年の解説を聞いたクロウはその意味を把握して驚愕した。
クロウ「まさか・・・そんな・・・あれは、ただの素体ZEROではなく、改良型素体ZEROだというのか・・!奴は、自らの手でビーダマンを生み出しただけでなく、シャドウが総力を結集して、ようやく作り上げた改良型素体ZEROまでも・・!」
メガネ「油断してる暇があるのかな?」
再び、ジェイドガンナーの連射が襲い掛かる。
クロウ「くっ!」
なんとか、交わそうとするが、一発だけ当たってしまう。
ガンッ!
しかし、その程度では決め手にならない。
メガネ「あ、くっそー!」
クロウ「その程度の攻撃で・・。!?」
決め手にはならなかった。だが、その一撃でアーマーが傷ついてしまった。先手を取られてしまったのだ。
クロウ「くっ!」

 クロウの体温が徐々に上がっていく……身体が熱くなり、嫌な汗が滲んでかゆみを覚えた。
メガネ「いけー!!」
そんな事はお構いなしに、ジェイドガンナーの連射が続く。
ガガガガガガ!!!
今度は、殆どのショットをモロに受けてしまう。
パキッ!パキッ!
少しずつだが、徐々に徐々に破壊されていくアーマー。
クロウ「くっ
・・!調子に乗るなぁー!!!」
ここでクロウは熱くなった感情を爆発させ、思いっきりホールドパーツを締め付けた。
パキーン!!!
その衝撃で、アーマーが吹っ飛び、純粋な素体ZERO-Dになってしまった。
クロウ「うおおおお!!!!」

 それでも構わずにシメつづけ、そしてトリガーを押す。
ドキューン!!!!
しめ撃ちドライブショット発射。

メガネ「こ、このショットは!?」

 既に向かってきていたジェイドガンナーの連射を全て吹き飛ばし、ジェイドガンナーに直撃した。
メガネ「くっ!」
その威力に砂煙が巻き起こり、メガネ少年の手からジェイドガンナーが吹っ飛ばされた。
クロウ「はぁ・・・はぁ・・・!」

 勝利したクロウは息を乱しながら呆然としていた。
メガネ「負けましたね・・。仕方ない・・・約束どおり・・・。」

 メガネ少年は潔く負けを認め、クロウの下へ歩み寄ろうとする。

 しかし……。
クロウ「くっそおおお!!!」
嵩が外れたように咆哮し、クロウは素体ZEROを地面に叩き付け、そのまま走り去った。
メガネ「・・・・・。」
メガネは、地面に叩きつけられた素体ZEROを興味深げに眺めていた・・。
メガネ「あいつ・・・なかなか面白い奴ですね・・。」

 そして数日後、シャドウのアジト。大きな水晶玉のある部屋で、クロウはボスと話をしていた。
その内容は・・・。
アババ「シャドウを止める・・?」

 小さな猫の姿をした女ボス、アババはクロウの言葉を繰り返した。
クロウ「ああ。」

 クロウは小さくうなずいた。
アババ「何故です?私は、あなたの能力を高く評価していました。だからこそ、私は改良型素体ZEROを託し、より強くなるための訓練施設を用意していたと言うのに……。一体何が不満だというのですか?」

 クロウは一瞬間を置いて、そして静かに語りだした。
クロウ「不満があるわけじゃない。だが俺は、強くなるためにシャドウに入ったんだ。だからこそ、シャドウ以上に強くなれる道があると言うのなら、俺は迷わずその道を選ぶ!例え、組織を裏切ったとしてもな・・・。」

 クロウの言葉を聞いて、アババは一間目を閉じ、そして優しく語りかけた。
アババ「そうですか。あなたの意志は固いようですね・・・。シャドウ以上の場が存在するとは思えませんが、選ぶのはあなただ。止める権利は私にはありません。ですが……」
ザッ!
いきなり大勢のビーダーが現われ、クロウを取り囲んだ。
アババ「組織を裏切るという行為は、それなりの覚悟が必要なのですよ」
クロウ「承知の上だ・・・。」
クロウは、ずっと前に使っていたノーマルの素体ZEROを懐から取り出す。
・・・・・・。
・・・・。
・・。
全てを破壊し尽くした、荒涼たる世界に、クロウは立っていた・・。
その足元には、数多くの人間が倒れている。
クロウ「・・・・。」
クロウは、彼らを気にすることなく、その場を立ち去る・・・。
そして、あての無い道をただ歩いていた・・。
クロウ「・・・・。」
後悔はしていない・・・より強くなるために、自らが選んだ道なのだから・・・。
メガネ「やっ!」
何も無い荒野の中で、突如目の前にあのメガネ少年が現われた。
クロウ「なんだ、お前か。いきなり目の前に現われるな。」

 クロウはいきなり現れたメガネ少年に驚く事無く冷たく言い放った。
メガネ「まぁまぁ。・・そんな事より・・・。」
メガネ少年は人懐っこい笑顔を浮かべたまま、クロウにあるビーダマンを手渡した。
クロウ「これは・・・!」

 それを受け取り、クロウは息をのんだ。
メガネ「前のバトルで、君のビーダマン壊しちゃったから、直しときました。ちょっと手を加えましたけど・・・。」
それは確かに、クロウの改良型素体ZEROのビーダマンだった。しかしそれは、前に使っていたビーダマンとは全く違う、新型と言っていいようなものだった。
メガネ「レクイエム・・・。」

 メガネ少年がポショッと呟いた。
クロウ「?」

 聞き返すようにクロウはメガネ少年の顔を見た。
メガネ「メタルレイヴンレクイエム・・・それが、このビーダマンの名前です。」
クロウ「メタルレイヴン・・・レクイエム・・・。」

 クロウは手渡されたそのビーダマンを観ながら、反復するように呟いた。
メガネ「そう言えば、名前聞いてませんでしたね?」
クロウ「クロウだ。」

 クロウは顔を上げる事無くぶっきらぼうに名乗った。
ヒスイ「僕は、ヒスイです。よろしく!」
ヒスイと名乗った少年は、握手を求めるように、手を出した。
クロウ「・・・・。」
しかし、クロウはレクイエムとヒスイの顔を交互に見るだけで、なかなかその手を握ろうとはしない。
クロウ「(レクイエムか・・・。シャドウは捨てた事だし、今度はこいつを利用して強くなるのも、悪くないな・・・)」
そう考えを新たにし、クロウはようやくヒスイの手を握った。
クロウ「ああ。こちらこそ・・・よろしくな。」

 そう言って浮かべたクロウの笑みは、打算的な感情が全く隠されていなかった。

つづく

次回予告

ヒスイ「ついに始まった、僕とクロウのビーダマン修行の旅!」
クロウ「ちょっと待て。いつから俺とお前が一緒に旅をするって事になったんだ。」
ヒスイ「え、必然的にそういう展開になるのでは・・?」
クロウ「・・・まぁ、いい。それよりお前、確か伝説のビーダマンの在り処を知ってたよな?」
ヒスイ「あ、ああ・・・一応ね・・・。」
クロウ「次回!『二人旅』 極めろ、強さへの道!」

  

 



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