オリジナルビーダマン物語 第20話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!



第20話「彩音の告白 栄光と悲愴の過去」




 ジャパンビーダマンカップ関東予選個人部門大会。
 その準決勝に勝利したシュウだが、突如乱入してきた謎の少年にブレイグを破壊されてしまった。
 仲良しファイトクラブはすぐに会場を出て、彩音の工房に向かう事にしたのだが……。
 工房に入るなり、彩音はコンピュータに向かい、タケルと琴音はその様子を後ろで見守っている。
 シュウは、ずっと俯いたまま立ち尽くしていた。
「……」
 彩音がブレイグの欠片を機械に入れて、キーボードを叩いている。
「どうだ、彩音さん?ブレイグは直りそう……?」
「……ごめんなさい。ここまで破損していたら私でも……」
 キーボードを叩く手を止めて、彩音はサジを投げた。
「そうか……」
 チラッとシュウの方を見る。シュウは相変わらず立ち尽くしたままだ。
「ねぇ、何か代わりになるビーダマンとか無いの?」
「新しく、ブレイグを作るとか」
 新しいビーダマンを作ることを提案する二人だが、彩音は悲しそうな目をするだけだ。
「……ごめんなさい」
「あ、いや、俺も悪かった」
 バツが悪くなり、タケルも謝った。
「だけど、お姉ちゃん!」
 琴音だけは少し食い下がった。
「……そんな事言ってる場合じゃないのは分かってる。でも、私にはもう……」
 そう言った彩音の表情は悲痛なものだったから、琴音はそれ以上何も言えなくなった。
 ビー!ビー!
 その時、電子音が鳴り響いたかと思うと、近くにあった製造機がパカッと開き、ビーダマンのパーツが出てきた。
「……これは?」
「ビーダマンのパーツ?」
 事情を知らないタケルと琴音は予想外に現れたパーツに困惑する。
「あ、それは昨日シュウ君が設計した……あ」
 シュウは、ヨロヨロとそのパーツを手に取った。
「……」
 目の前まで持っていき、しばらく眺めていると、自然と涙が溢れ出した。
「う、うぅ……!」
 もし、ブレイグが壊れていなかったら今頃このパーツはブレイグに装着させてやれたのに。
 もう、それも叶わない。一生懸命考えた初めてのオリジナルパーツは、付けるはずだったビーダマンを失ってしまった後に完成してしまった。
 そう考えたら、シュウはまた声を殺して咽び泣き始めた。
「シュウ君……」
 しばらく、その様子を眺めていた彩音だが、決心したように口を開いた。
「私が新しくつ……」
 ガラガラ~。
 彩音が何か言い切る前に、工房の扉が開いた。
「ハロー、諸君!ここに来るのも、久しぶりじゃのう~」
 と、馴れ馴れしく入ってきたのは、ド派手な格好をした老人だった。
「えっ?」
 思わず一同振り向く。
「おうおう、辛気臭い空気じゃのうお前さん達。お通夜でもしとったんか?」
 老人は、この空気に相応しくないノリで喋ってくる。
「え、と、智蔵師匠!?」
 彩音が目を丸くする。
「ふぉっふぉっふぉ!久しぶりじゃのう、彩音!おう、随分大きくなって……あの頃も可愛かったが、ますますべっぴんさんになりおって」
 智蔵と呼ばれた爺さんがいやらしい目つきで彩音の体を舐めるように見回す。
「あなたは、確か彩音さんのメカニックの先生……?」
 タケルもその人を知っているようだ。
「え、誰このおじいさん?」
 琴音は知らないようだ。
「いや、俺も数年前に何回か顔見ただけなんだが。確か彩音さんにメカニックの事を教えてくれた先生だとか……」
 タケルが簡単に説明する。
「イカにもタコにも!ワシこそ、ビーダマンメカニックの神!倉田智蔵じゃ!!」
 いかにもも何も誰も『神』とまでは言ってないんだが、何故か智蔵は胸を張った。
「ところでどうしたんじゃ、そんなドヨ~ンとした空気を部屋全体で醸し出して、人死にでも出たんか?」
 ほんとに人死にが出ていたとしたらその発言は結構不謹慎だぞ。
「実は、あの子……シュウ君のビーダマンが壊れてしまって」
 彩音がシュウに視線を向けて状況を説明する。
「シュウ……?むむ、もしやお主……」
 智蔵が千鳥足で俯いているシュウに近づき、顔を覗き込んだ。
「っ!」
 ビックリしたシュウが顔を上げる。
 すると、智蔵が何か納得したかのようにうなずいた。
「あぁ、お主、修司か!」
「え?……って、もしかしてじいちゃん?」
「おうおう、確か2年前に法事で遊びに行ったっきりじゃったか。いやぁ、今日は懐かしい顔ぶれに良く会うのう」
 この彩音の師匠は、シュウのじいちゃんでもあるようだ。
「しゅ、シュウ君、師匠と知り合いなの?」
「俺のじいちゃんだよ。母ちゃんの方の」
 説明するシュウ。哀しみの感情は思わぬ人との再会によって少し引っ込んだらしい。
「しかし、世間は狭いのう。ワシの孫が、ワシの教え子と一緒におるとは」
「凄い偶然ね……」
 琴音は思わずそう呟いてしまった。偶然にしてはちょっと出来すぎているが、まぁ偶然なんだろう。
「ところで、ビーダマンが壊れた、とか言っておったが?」
 さっきの話を掘り返す。
「そうだ。彩音さんの師匠ならもしかしたらなんとかなるかもしれない!」
 タケルが少し興奮気味に叫ぶ。
「は、はい!このビーダマンなんです!」
 彩音は急いでブレイグの欠片を機械から取り出して、智蔵に見せた。
「はてさて」
 智蔵は欠片を受け取り、じっくりと眺める。
「む、こいつは……ストライクブレイグではないか?」
「え、師匠、知っているんですか?」
「知ってるも何も、こいつは数年前に作った当時のワシの最高傑作じゃ。お前さんにも設計図を見せた事があるじゃろう」
「あっ!」
 そうだ。彩音がずっとブレイグに対して抱いていたデジャヴはこれだったのだ。
 実物は見た事なかったし、数年前に設計図とちょっと見せてもらっただけだからハッキリとした記憶にはなかったが、頭の隅に残っていたのだろう。
「作ったはいいが、2年前に無くたんじゃ。まさか修司が持っておるとは……」
「そういやシュウ、ブレイグは前の家の物置で見つけたとか言ってたな」
「なるほど、2年前の法事で置き忘れていったか……」
 この爺さん結構抜けているらしい。でも、そのおかげでシュウはブレイグと出会えたわけだが。
「でも、ブレイグを作った人なら確実じゃないか?!よかったな、シュウ!なんとかなるかもしれないぜ!!」
 タケルがシュウの肩に手を置いて歓喜する。
 しかし、智蔵は無情に告げる。
「いや、さすがに直すのは無理じゃな」
「へ?」
「いくら開発者とは言え、こうなった以上もうスクラップはスクラップじゃ。諦めろ」
 あっさりと残酷な事を言う。
「っ……!」
 シュウは一瞬顔をゆがめた。
 他のメンバーも、なんとなく智蔵を睨むような表情になる。
「ま、まぁまぁ!そう怖い顔をするでない!大丈夫じゃ!確かにこのブレイグは無理じゃが……」
 オホンと咳払いして続ける。
「ワシとて、ブレイグを完成させてからの数年間、何もしてこなかったわけではないぞ。
ストライクブレイグを発展させた新たなるブレイグの開発計画は着々と進行しておったんじゃからな!」
「え!?」
「新たなる、ブレイグ……!」
「その通りじゃ!丁度その設計が完成したところなんじゃ!今までのブレイグの何倍も強くしてやるぞい!今日来たのだってその事を自慢するためだったんじゃ!!」
「……」
 その言葉を聞いても、シュウの顔は晴れない。
 タケルはシュウの肩を叩いて、励ます。
「よかったな、シュウ!ストライクブレイグは残念だが、でもその後を継ぐ新しいビーダマンが手に入るんだぜ!」
「性能も前より良いって言ってるし、作ってもらいなさいよ、シュウ!」
 タケルと琴音が嬉しそうに言う。しかし、シュウは……。
「いらない」
 その申し出を断った。
「「「えっ!?」」」
 その場にいた、彩音以外の全員が驚く。
「俺にとってのブレイグは、ブレイグだけだ」
 そう言って、シュウはブレイグの欠片を手にとって工房を飛び出していった。
「あ、シュウ!!」
 タケルの呼び止めも無視して、シュウは駆け出してしまった。
 工房を飛び出したシュウが向かったのは中央公園だった。
 もう夕方になり、子供達も帰って静まり返った公園の中、一人ブランコに座っている。
「……」
 浮かんでくるのは、ブレイグと過ごした記憶。思い出すたびに胸の奥から込み上げてくる感情が喉を締め付ける。
「ブレイグ……!」
 父ちゃんに頼んでも全然ビーダマンを買ってくれなくて、そんな時に物置からたまたまブレイグを見つけて、これでやっと皆でビーダマンが出来ると思って、嬉しくて。
 初めて出た大会で優勝して、でもその後すぐに引っ越して、その先で宿命のライバルと出会って、
 仲良しファイトクラブに入ってかけがえのない仲間を手に入れて、いろんな奴らとバトルして……。
 そう、ビーダマンがあればいいんじゃない、ブレイグがあればいいんじゃない。
 『ずっと一緒の時を過ごした』ストライクブレイグが居なければ、今までビーダマンをやってきた過去が無意味になってしまうのだ。
「……もう、ビーダマン辞めようかな」
 そう呟いた時、真横で金属が擦れ合うような音がした。
 振り向くと、彩音がシュウの隣のブランコに座っていた。
「あや、ねぇ……」
「シュウ君、戻ろう?」
 彩音が優しく語り掛ける。
「……」
 しかし、シュウは何も答えない。
「こんなところにいても、どうにもならないよ。分かるでしょ?」
「……分からないよ」
 目線を合わせようとする彩音に対して、シュウはソッポを向いた。
「シュウ君……」
「分からない……あやねぇには……あやねぇには、分からないんだよ!大事なものを失った気持ちが!!」
 仲間なんだから同情して悲しい気持ちにはなるだろう。でも当人でなければ本当の哀しみは分からない。
 そんな奴が何を言ったって、聞けるわけがないのだ。
 しかし、彩音は静かにこう答えた。
「……分かるよ」
「……?」
 思いがけない返事に、シュウは思わず口を閉じた。
「私も、同じだから」
「え?」
「私も、大切な人を亡くしたから。私のせいで」
 その声音には、本当に哀しみが満ちていた。同情でもなんでもなく、彩音はシュウの気持ちが痛いほど分かっていたのだ。
「あやねぇも……?」
 それを感じたから、シュウはゆっくりと聞き返した。
 彩音はゆっくりとうなずいた。
「私の、大切な人……大好きな、お兄ちゃん」
 そして、彩音はゆっくりと語りだした。仲良しファイトクラブの過去を
  ・
 4年前の仲良しファイトクラブは、今よりもずっと活気に満ちていた。
 それどころか、当時のビーダマンクラブの中で最も大きくて強いクラブだとも言われていたのだ。
 それは、リーダーである佐倉ゆうじの人徳や腕前によるものが大きかったのだろう。
 そもそも仲良しファイトクラブは、『皆で仲良く楽しく強くなれるクラブ』を方針としてゆうじが設立したクラブだ。
 実際にゆうじの方針通り、大きい子も小さい子も、強い子も弱い子、誰しもがワイワイと楽しみ強くなれるようなクラブだった。
「いけぇ!ドメスティックフリーズアクエリオス!!」
「負けねぇぞ!ファンタスティックドリームプリズマー!!」
 メンバーは文字通り仲良しで。毎日、和気藹々と練習していた。
 しかしたまに……。
「俺の方が強いに決まってんだろ!」
「何言ってんだ!お前なんてへっぽこぴーじゃないか!」
「なにを~!!」
 こんな風にいがみ合う子供達もいる。
 しかし、そんな時には必ずゆうじやってきて。
「おいおい、ケンカするほど仲が良いって言うけどな。ほどほどにしとけよ」
 と、サラッと仲裁に入る。
「「だってこいつが!」」
 なかなか言う事を聞かない子供達だが。
「まっ、ケンカするのは勝手だけどな。ほれ、見てみろよ」
 と、ゆうじは周りで和気藹々と練習しているメンバーを親指で指す。
「ケンカしてる間に、あいつらに置いてかれるぜ。そんな暇あったら、皆で楽しく練習してた方が良いぞ」
「あ、ほんとだ!」
「俺たちももっと練習するぞ!」
「おう!!」
 そんな風に、ゆうじがいればいつも皆は仲良しで強くなっていくのだった。
 ゆうじ自身のビーダーとしての腕も素晴らしく世界大会の日本代表に選ばれ、優勝候補と謳われるほどの腕前を持っていた。
 彩音はそんな兄を誇りに想い、慕っていた。
 ゆうじに憧れて、ビーダマンをやってみた事もあったが、運動が苦手な彩音にはあまり向いていなかった。
 それでも、ゆうじに近づきたくて、ビーダマンのメカニック教室をやっている倉田智蔵の弟子になっていろいろ教わり、メキメキと技術力を身に付けていった。
「ふむ、お前さんはワシが教えた中でも特に優秀じゃ。ワシに次ぐ天才かもしれん」
 師匠である智蔵にそんな事を言われたこともあった。
「あ、ありがとうございます」
「こいつを見せるのは、お前さんの腕を買っているからじゃ。少しでも吸収するがいい」
 と、勉強のために特別にブレイグや他のビーダマンの設計秘蔵のデータを見せてくれる事もあった。
 
 その甲斐もあり、彩音はゆうじとクラブを支える事が出来る立派なメカニックとして成長した。
 天才的な腕前を持つゆうじと天才メカニックの彩音。
 この二人のコンビはまさに最強であり、クラブのレギュラーメンバーが日本代表として世界大会に出場した時も順調に勝ち進んでいった。
 しかし……世界大会も大詰めになった頃に異変が起きた。
「特定疾患……?」
 彩音はゆうじから唐突にそんな事を聞かされた。
「うん。先生が言うには、そうらしい。簡単に言えば、不治の病だよ」
 不治の病、そんな重い単語をゆうじはサラッと口にした。
「不治って、治らないの……?お兄ちゃん死んじゃうの?」
「すぐに入院すれば助かる見込みはあるけど、可能性は低いって」
 死が近いというのに、ゆうじの口調は淡々としていた。
「じゃあ、すぐに入院しようよ!お兄ちゃん!!」
 食って掛かるように幼い彩音はそう訴えた。可能性は低いとは言えこのまま何もせずに死を待つなんて嫌だ。
 しかし、ゆうじは首を振る。
「それは出来ない。今は世界大会の真っ只中だ。たくさんのライバルが、僕とのバトルを待っている。入院なんてしたら大会に出られなくなるだろ」
「そんなの、また出ればいいじゃない!!お兄ちゃん、死んじゃうかもしれないんだよ!!」
「この大会は、この戦いは、今じゃなきゃ出来ないんだ。それに、それは入院したって変わらないよ。例え助かったとしてもまたビーダマンが出来るかどうか分からない」
 助かったとしても、後遺症で二度とビーダマンや運動が出来なくなってしまう。
「それでもっ……!」
 必死に言葉を捜して説得しようとする彩音を遮ってゆうじは続ける。
「父さんと母さんは、僕の人生だから、後悔しないように自分で決めればいいって言ってた。だから、僕は世界大会に出る」
「お兄ちゃん……」
 彩音の声は悲痛だった。
「ごめんな、こんな話して。こんなこと言ったのは、お前に頼みがあるからなんだ」
「え?」
 ゆうじは、すぅっと息を吸い込むと、真摯な瞳で彩音を見つめ、しっかりとした口調で話した。
「彩音。俺は、世界一になりたい。ここからは、俺の腕だけじゃどうしようもなくなる。彩音、お前のメカニックとしての力が必要なんだ!頼む、俺を世界へ導いてほしい!」
 ゆうじの普段の一人称は『僕』だが、感情的になったり、強く気持ちを込めた言い方をする時は『俺』になる。彩音は、その時のゆうじに弱かった。
「……」
 だから、必死なゆうじの頼みごとに、大好きなお兄ちゃんのお願いに、彩音は断ることができなかった。
 でも、世界大会はトーナメント方式。つまり、負けてしまえばそこでゆうじの世界大会は終わる。
 世界大会が終われば、ゆうじが入院をしない理由がなくなる。
 ゆうじはどんどん衰弱している。
 つまり、彩音がメカニックとして手を抜けば、ゆうじが勝ち進む事が出来なくなる。入院するしかなくなる。
 ゆうじが世界一になれるかも、命が助かるかも、全部彩音の腕にかかっているのだ。
 どっちを取るかなんて、そんなのは明らかだった。
 しかし、彩音にはどうしても手を抜く事が出来なかった。
 兄のお願いを、断れなかった。
 好きだから、夢を壊さなければならないのに。
 好きだから、夢を壊したくなかったのだ。
 
 場面転化。ブランコに乗っているシュウと彩音。
「それで、前に師匠に見せてもらったストライクブレイグの設計データを元に、私の最高傑作を……マッハスパルナを作ってしまったの」
「スパルナ……って、工房にあったビーダマン?」
 シュウが触ろうとしただけで彩音が拒否した、特別なビーダマンだ。
「うん」
 そういって、彩音はスパルナを取り出した。鋭い羽と青いボディが印象的なビーダマンだ。
「お兄ちゃんの夢を叶えて、お兄ちゃんの命を奪った……私にとってお兄ちゃんの形見でもあり、仇でもある、ビーダマン」
 彩音はスパルナを見ながら、慈しみと憎しみの両方を瞳に映した。
「あやねぇ……」
「自分で言うのもなんだけど、スパルナは本当に最強のビーダマンだった。
病のハンディを背負っているにも関わらず、お兄ちゃんはスパルナを使って順調に勝ち進んで、ついに世界一になったの。
でも、その頃にはもうお兄ちゃんの体はボロボロだった」
「……」
 再び、彩音は想い出を語り始めた。それは、世界大会決勝での様子だった。
『さぁ、ビーダー世界一を決める、ビーダマンワールドチャンピオンシップ決勝戦もいよいよ終盤戦に突入だ!
ノルウェー代表のトール・グリーグ君VS日本代表の佐倉ゆうじ君のバトルは熾烈を極めるぞ!!』
「くっ!なんて強さだぁ!あんな極東の島国に、こんなパワーのビーダーがいるなんて……!」
 トールが、ゆうじの思わぬパワーに臆している。
「はぁ…はぁ……!」
 しかし、ゆうじは病と闘いながらのビーバトルに、既に心身ともにボロボロだ。
「負けられない……頼むぞ、マッハスパルナ!!」
 ゆうじは、マッハスパルナを構えて渾身の一撃を放った。
「う、うわあああ!!なんだこのショットはああああ!!!」
 そして……。
『決まったぁ!!勝ったのは、佐倉ゆうじ君!!!世界一のビーダー決定だあああああ!!!!』
「や、やった……」
 勝ちが決まった瞬間ゆうじは、ガクッと膝を付く。
「ぐ、ぐおおおおお!!俺が、俺が負けるなんてえええええ!!!」
 トールは悔しさのあまり顔を顰め、激しく地団太を踏んだ。
「佐倉ゆうじ……!次は必ず倒す!!必ず……!!」
 トールは物凄い形相でゆうじを睨みつけリベンジを誓った。
 しかし……。
 ゆうじはそのまま、うつぶせに倒れて、動かなくなった。
 ……。
 ………。
 場面転化。ブランコに乗っているシュウと彩音。
「大会で優勝した後、お兄ちゃんは気力を失って倒れてしまったの。すぐに病院に運んだんだけど、結局は……」
 彩音の口調が少し途切れる。結果は言葉にしなくても分かっていた。
「お兄ちゃんが負けていれば、すぐに入院していれば、もしかしたら助かったかもしれないのに。
私が、ビーダマンを作らなければ、お兄ちゃんは勝てなかったかもしれないのに……私が、お兄ちゃんを殺してしまったの!」
 そう言い切った彩音の目には涙が溢れていた。
「あやねぇ」
「だから、もう私は新しくビーダマンを作る事が出来ない……!
もう、どうやってもお兄ちゃんは帰って来ないのに……私はその後悔から抜け出す事が出来なくて、ずっと逃げ続けてるの……!」
、彩音の声はほとんど、泣き声になっていた。
 工房にあった彩音の開発したビーダマンが4年前のものより新しいものがなかったのは、こういう事だったのだ。
 彩音は、ゆうじの命を奪った代償に、自分の技術力を封印してしまった。
「だけどっ!シュウ君のブレイグは、シュウ君さえ望めば、また戻って来るんだよ!?」
「でも、ブレイグは……俺の、ブレイグは……!」
 ストライクブレイグしかいない。いくらブレイグが戻ってきても、それは今まで一緒にいたブレイグではない。
「死んじゃったの?」
 彩音が悲しげにそう問う。
「え?」
「シュウ君の中で、ブレイグは死んでしまったの?」
「……」
 その意味が、文字通りのものに聞こえなくて、シュウは答えに窮した。
「私は、残ってるよ。私の心の中に、シュウ君と一緒に戦っているブレイグの姿が。なのに、シュウ君の中では消えてしまったの?」
 彩音の言葉を肯定したら、本当にブレイグとの想い出が消えてしまいそうで、シュウは必死でそれを否定した。
「そんな事、そんな事無い!俺だって、俺の心の中にブレイグはいる!!」
「なら、新しいブレイグに、心の中のブレイグを、シュウ君の想いを伝えられる。
そうすれば、新しいブレイグの中にシュウ君と一緒にいたブレイグは生き続ける事が出来るんだよ……!」
「想いを、伝える……」
 シュウの中に、壊れてしまったブレイグが残っているのなら、新しいブレイグにもそれを伝えればいい。
 そうすれば、シュウの中にも、新しいブレイグの中にも、壊れたブレイグは生き続ける。
「私は、どうやったってお兄ちゃんは戻ってこないのに、シュウ君は、シュウ君なのに……!」
「え?」
 その言葉は意味が分からなかった。
「だから、お願い!逃げないで……私のように、逃げないで……!」
 彩音は、涙を流し、シュウに訴えかけた。
 それを見て、シュウの心の中で何かが変わった。
「俺の中に、ブレイグの想いが残ってるなら、それを新しいブレイグに伝える事が出来る……」
 失ってしまったブレイグは、もう戻らない。
 でも、新しいビーダマンもブレイグなら、自分の中にあるブレイグの想いを伝える事が出来る。
 そうすれば、新しいブレイグは自分と一緒にいたブレイグと何も変わらない。
 今までストライクブレイグと過ごしてきた時間は、無駄ではなかったんだ。
 そう思い立ったシュウの目に、ようやく精彩が戻った。
「あやねぇ」
 泣きじゃくる彩音を、今度は逆にシュウが慰めた。
「ありがとう。あと、ごめん。辛い事思い出させて」
「シュウ君……」
 シュウの言葉を聞いて、涙で腫れた目を上げる。
「俺、もう逃げないよ!新しいブレイグとも、ちゃんと向き合う!!」
 そう言って、立ち上がった!
 そして、工房へと駆け出していった。
 
 彩音の工房。
 シュウが勢い良く中に入る。あとに続いてこっそり彩音も入ってきた。
「じいちゃん!」
 先ほどのシュウとは予想もつかない勢いに一同ビックリする。
「おう、どうしたんじゃシュウ!?」
 智蔵は無茶苦茶意外そうな顔をしてシュウを見る。
「ごめん、じいちゃん!さっきは断ったけど、俺に新しいブレイグを作ってくれ!!」
 そう言って、シュウは頭を下げた。
「シュウ……」
 タケルは、ホッとしたように呟いた。
 しかし……。
「ダメじゃ」
 じいちゃんは頭を下げたシュウの旋毛に向かってそう告げた。
「え、えぇ!?」
 思わぬ返答にシュウは顔を上げる。
「なんでだよ!」
「ブレイグはワシの最高傑作じゃ。それを、ビーダマンが壊れたくらいでビービー泣くような弱虫に渡せるか」
「なっ……!」
「新しいブレイグの使い手はワシが決める。そうじゃな、お前さんなんかどうじゃ?なかなか見所のある図体しておるが」
 と、タケルに声をかける。
「い、いや、俺は自分のがあるので……」
 タケルは戸惑いながらもその申し出を断った。
「そうか、残念じゃのう~。じゃあ作るのはいいが、また埃を被らせる事になりそうじゃ」
「ちょっと待てよ!だったら俺にくれればいいだろ!!」
「ん~、しつこい奴じゃのう。仕方が無い、お前さんがブレイグを使うに相応しいビーダーかテストしてやろう。合格したら、ブレイグを託してやる」
「テスト?」
 勉強が苦手なシュウは露骨に嫌そうな顔をする。
「ちょっと待っとれ」
 そういって、ゴソゴソと懐をまさぐり、一体のビーダマンを取り出した。
「これって、無改造のシアナイトじゃん。こいつをどうするんだ?」
「何、簡単なテストじゃ。こいつを床に叩きつけて、壊せ。それが出来れば合格じゃ」
 確かに、簡単なテストだった。
「な、なにいいいい?!」
 だが、それは今のシュウにとってあまりにも残酷すぎる事だった。
「な、なに言ってんだ!そんな事、出来るわけ無いだろ!!」
 大切なビーダマンが壊れてしまう哀しみを経験した直後だと言うのに、シュウ自身にビーダマンを破壊させようとするなんて、鬼畜にもほどがある。
「出来んか?」
「当ったり前だ!ビーダマンを壊すなんて、そんな事……!」
「甘いのう。じゃからお前さんには渡せんと言っとるんじゃ」
 智蔵の口調から、おちゃらけた雰囲気が消えた。
「え?」
「新しいブレイグは今までのブレイグとは桁違いのパワーを持っておる。その強大なパワーは使い方を誤れば、周りどころか自分も傷つける。
下手をすれば、またビーダマンを壊してしまうかもしれんのじゃ」
「っ!」
 強力な力を使うと言う事は、今のようにビーダマンが壊れてしまうと言うリスクを背負っているという事だ。
「そんな危険性のあるビーダマンを、たった一体ビーダマンが壊れたくらいでビービー泣くような、覚悟の無いビーダーには渡せんからな」
「……」
 智蔵の言い分に、シュウは反論できなかった。
「……分かったよ」
 ゆっくりとそう言って、シアナイトを手にする。
「叩きつけて、壊せばいいんだな……」
 シアナイトを持った手を振り上げる。
「よ、よせシュウ!」
「あんた本気なの!?」
 タケルと琴音が慌てて止めようとするが、もうシュウの手は止まらない。
「っ!!」
 上げた手を勢い良く地面に振り下ろす!
 ゴッ!!
 鈍い音が響き渡る。かなりの勢いで振り下ろしたようだ。
 これなら、シアナイトはもう一溜まりも無い。
 しかし、地面にはビーダマンのスクラップの欠片は一つも落ちていなかった。
「ぐぅ……!」
 見ると、シュウが、シアナイトを持ったまま、手の甲を床に叩きつけていた。
「ほう」
 その様子を見て、智蔵は意味深にうなずく。
「やっぱり、俺には、ビーダマンを壊すことは出来ない……!だけどっ、もう二度と何があっても、絶対に大切なビーダマンを壊させない!!
そのためなら俺は、腕の一本犠牲にしたって必ず壊させない!!だから……!」
 痛みに堪えながらシュウは必死に訴えかけた。
「合格じゃ」
 智蔵はニッと笑う。
「え?」
 そして、智蔵は真面目な顔で言う。
「その覚悟が見たかったんじゃ。今のお前さんに迷いはないようじゃな。いいじゃろう、作ってやろう新たなるブレイグを!」

        つづく

 次回予告

「ブレイグの生みの親でもあるじいちゃんと再会した俺は、新たにブレイグを作ってもらう事になった。
しかし、そのためには過酷な試練を乗り越えなければならなかったのだ!
しかも、次の日は関東予選の団体戦。なんとしてでもそれまでに完成させるんだ!!
 次回!『復活をかけて!新ブレイグへの試練!!』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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