オリジナルビーダマン物語 第19話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第19話「準決勝!衝撃と涙の結末」




 ジャパンビーダマンカップ第二回戦。
『さぁ、盛り上がってまいりました!ジャパンビーダマンカップ二回戦第一試合!
シュウ君とブレイグのパワーが冴え渡っているぞぉぉ!!』
「いくぜ、ブレイグ!フェイタルストォーーーム!!!」
 バーーーン!!
 フェイタルストームが発動!相手のターゲットを破壊する。
「おっしゃあ!」
『決まったぁ!!圧倒的なパワーで勝者はシュウ君だ!!』
「やったぜ!!」
 ガッツポーズするシュウ。これで準決勝進出だ!
 シュウは、仲良しファイトクラブがたむろっている場所に戻った。
「大分フェイタルストームにも慣れてきたんじゃないか?」
「ああ。結構思うように発動できるようになってきた。やっぱ実戦訓練って効果的だよなぁ」
 さっきの試合も思ったとおりのタイミングでフェイタルストームを発動できた。この調子なら団体戦に出てもチームの足を引っ張る事は無いだろう。
「ま、ココまで来たらあとは優勝するだけだな!」
「ところで、気になったんだけど。もし団体戦と個人戦の両方で優勝した場合ってどうなるんだろう?人数合わなくない?」
「あぁ、それは決勝での一回戦が免除されるんだよ」
 つまりシード選手扱いになるという事だ。
「えっ!?って事は、それだけ試合回数が減っちゃうって事?!」
「まぁ、そうなるな」
「う~……それはなんか勿体無いな。かと言って負けるのも嫌だし……」
 勝っても負けてもたくさんバトルがしたいシュウは変な事で考え込んでしまった。
 さすがにタケルは呆れてしまった。
「そんな事で悩むなよ」
「まぁ、シュウ君らしいね……」
 そんな事をしている間にも大会は進行していく。
『さぁ、第二回戦第二試合を始めるぞ!対戦カードは、久保野森高松君VS前田誠君だ!』
 ジンのアナウンスを聞いて、シュウが反応する。
「誠?!」
 それは、ヒンメルカップの予選で知り合った前田誠だった。
 カンッ!カンッ!!
 誠と久保野森が激しいバトルを展開する。
 しかし、一瞬の隙をついて、誠のショットが久保野森を撃破した。
『決まったぁ!華麗なるファイティング!!勝ったのは、前田誠君だー!!』
 その試合の様子を神妙な顔つきで眺めているシュウ。
「誠の奴、前よりもずっと腕を上げてるぜ」
 より強くなった誠を見て、シュウは気を引き締めた。
 そして、更に試合が進行する。
『二回戦第三試合のジャン君とゴクブチ君のバトルも白熱だぁ!!』
「じゃーんじゃーんじゃーん!」
「負けないでゴク~!!」
 ジャンとニキビだらけの少年がバトルしている。
「ジャ、ジャン……勝ち残ってたのかよ」
 そのバトルを観戦しているシュウは、ちょっと嫌そうに意外そうに呟いた。
『おおっと!激しいビー玉のぶつかり合い!勝つのはどっちだぁ?!』
「じゃじゃん!あそこに、空飛ぶエアギターが!!」
 ジャンが明後日の方向を指差す。
「ゴ、ゴクッ!?そんなバカな事が……!!」
 ゴクブチ君がジャンの指差した方向を見る。そこには、何も無かった。
「ほ、ほんとだゴク……!」
 そこには、何も見えない。けど、エアギターだから見えないのは有るのと同義なのだ。
「今じゃん!」
 しかし、エアギターがほんとに空飛んでるかどうかはバトル中には関係なかった。
 バーーーン!!
「隙ありじゃ~ん!」
「し、しまったゴクーーー!!!」
『決まったぁ!ジャン君、見事な心理戦で勝利をもぎ取ったぁ!!』
 その様子を仲良しファイトクラブはゲンナリした表情で見ていた。
「な、なに、あれ……」
「どこが心理戦なんだ?」
「騙すほうも騙す方だが」
「引っかかる方も引っかかるほうよね……」
 あまりにも低レベルすぎるバトル内容に、一同唖然とするしかなかった。
 でもこれでジャンは準決勝進出。次に勝てば決勝進出になる。
「このまま勝ち進んだら、決勝はジャンとのバトルになるかもな」
 タケルが笑いながら言った。
「な、なんか微妙だけど。誰だろうがフェイタルストームでぶっちぎってやるぜ!」
 そして、第三回戦が始まる……!
 シュウと誠が試合スペースの中に入る。
『いよいよ準決勝が、はじまるぞおおおおお!!!』
 準決勝という事で、ジンのテンションも高い。
『準決勝第1試合は、圧倒的パワーの必殺ショット、フェイタルストームでライバルを撃破してきた竜崎修司君!!』
 シュウに歓声が浴びせられる。
「いやぁ~、どもども~!!」
 手を広げてその歓声に応える。
『そして、堅実なバトル運びで着実な勝利を掴んできた前田誠君だ!!』
「誠!久しぶりだな!!」
「うん!君とバトル出来る時を楽しみにしてたよ!!」
「俺もだぜ、あん時は結局まともにバトル出来なかったもんな。決着をつけようぜ!!」
 ヒンメルカップ予選では玄摩や下田達也の乱入でバトルが出来なかったが、今回は正真正銘一対一のバトルだ。
『おおっと、なんと二人とも知り合いだったようだ!知り合い同士の熱き友情のバトルが期待できるぞぉ!!』
 何でもかんでもとりあえずトークのネタになりそうなら拾って盛り上げるジンの実況根性は素晴らしい。
『それじゃ、今回のルールを説明だ!名付けて『ビー玉レーシング』!!』
 聞いた事のないバトル名に二人は首をかしげた。
「バトルじゃなくて、レース?」
「ビーダマンでレースって、どうやるんだろう?」
『それでは、コース出現!!』
 ジンの合図でスペースに、プラスチックのフェンスで囲まれた幅1mくらいの小さなレーシングカーのコースのようなものが現れる。
「これは?!」
『首都高をモチーフにしたハイウェイコースだ!!』
「ミニサーキット……!これで一体どうやってバトルをするんだ!?」
『ルールは簡単、両者ともにこのコースにビー玉を撃ってもらい、先にゴールしたほうの勝ちだ!
試合展開はターン方式。ただし、先攻後攻の概念は無く、僕の合図で二人同時にビー玉を発射。
玉が止まった時点でそのターンが終了。そして、再び僕の合図で玉が止まった位置から同時にビー玉を発射……の繰り返しだ!』
「二人で同時に撃つ、ゴルフみたいなものか」
 誠が要約する。
『まぁ、簡単に言えばそんな所だ!ただし、ビー玉には当然車のようなステアリング機能は付いていない。
そんなビー玉がコーナリングするには、フェンスカーのようにフェンスに沿って曲がる事になる。ここも重要なポイントだぞ!!』
「フェンスカー、か……」
「ビー玉一個しか使わないんだとしたら、パワー重視の俺に超有利じゃん!」
『そんじゃ、そろそろおっぱじめるぜ!二人ともスターティンググリッドについてくれ!』
 シュウと誠が位置についてビーダマンを構える。
『行くぜ、第一発目!ビー・ファイトォ!!』
「「いっけー!」」
 ジンの合図で二人が同時にパワーショットを放つ。
 そして、ビー玉を追って一緒に走る。
『さぁ、いよいよ始まりました!ビー玉大レース!スタート直後は全長60mのロングストレートだ!最高速重視のビー玉に有利なセクションだが……』
「カッ飛べ!俺のビー玉!!」
 シャアアアアアアアア!!!
 スタート直後からシュウのビー玉が飛び出し、誠のビー玉を引き離していく。
『おおっと!さすがはパワー重視のシュウ君!見事なスタートダッシュでトップに躍り出た!』
「へっへーん!見たかぁ!!」
 振り向きながら得意気に走るシュウ。
「ふふふ、甘いよ!」
 ギュワアアアアアアアアアア!!!
 突如、誠のビー玉がシュウのビー玉に迫ってきた。
『なんとぉ!誠君のビー玉がグングン一位のシュウ君に迫るーーー!!!』
「なにっ、加速した!?いや、俺のビー玉の勢いが落ちてきたんだ……!でも、なんであいつの玉は勢いが落ちないんだ?」
「忘れたのかい?僕のビーダマンはドライブ回転をかける事が出来るんだよ」
 そうだった。ヒンメルカップ予選ではそれが仇になってしまったが、普通のバトルでドライブ回転はかなり強い。
 その様子を見ていた彩音が軽く分析する。
「そうか。ドライブ回転は初速が遅くなるけど、縦回転が地面との摩擦を抑えるから減速率が少なくなる。結果的にシュウ君の方が平均速度で劣るんだわ」
『ここで誠君がシュウ君を抜いたぁ!!』
「くそっ!」
「お先!」
 ここで、シュウのビー玉が勢いを失ってストレートの途中で止まる。
 誠のビー玉もシュウよりかなり前方で止まった。
『ここで両者ともストップ。そんじゃビー玉を拾って、第二発目行くぜ!』
 シュウと誠がビー玉を拾って装填する。
『レディ・ビーファイトォ!!』
 ドンッ!!
 第二発目がスタート。
 リードしている誠が更に差を広げていく。
『スタートダッシュでやや差を縮めるシュウ君だが、誠君はドライブショットで更にシュウ君との差を広げていく!このまま決まってしまうのか!?』
「ぐっ、くっそー!」
『そして、トップを行く誠君がストレートを終えて、超テクニカルセクションに突入する!!』
 先ほどのストレートとは打って変わって、右へ左へのコーナーが連続するセクションだ。
「よし、このままトップをキープするぞ!」
 しかし……。
 ガッ!ギュルルルル!!
 誠のビー玉が、フェンスに沿ってコーナリングしようとする……のだが、コーナーの頂点でビー玉がストップしてしまい、ドライブ回転が空回りする。
「えっ!?」
『なんとぉ!誠君のビー玉が第一コーナーで痛恨のストップ!!そこに、シュウ君のビー玉が迫るー!!』
「追いついたぜ!」
「ど、どうして……!」
 またも彩音が分析する。
「多分ドライブ回転のせいね。直進性が上がってるから、慣性が強く働いてコーナーで向きを変えられないんだわ」
 解説ありがとうございます。
『一方のシュウ君は、華麗なコーナリング!手間取っている誠君のビー玉をかわして、コーナーを次々とクリアしていくぞ!!』
「おっしゃあ!なんか知らないけどラッキー!このままブッちぎれ!!」
 いくつかのコーナーをクリアした所でシュウのビー玉も止まる。
 二人はビー玉を拾って再び構える。
 
『さぁ、第3発目行くぞ!レディ・ビーファイトォ!!』
 ドンッ!!
「このコーナーでどんどん差をひろげてやるぜ!!」
 どんどんコーナーをクリアして行くシュウのビー玉。
『このセクションではシュウ君は圧倒的に有利か!?ぐんぐん差を……おおっとこれは意外!』
「えっ?!」
 誠のビー玉も、シュウと同様にコーナーをクリアしていっている。差は縮まっていないが広がってもいない。
「よし、いいぞ!僕のビー玉!!」
「ど、どうなってんだ!?さっきまであんなに手間取ってたのに!」
『両者とも見事なコーナリングだ!しかし、先ほどは一コーナーもクリアできなかった誠君がまるでビーダマンが代わってしまったかのような動きを見せている!!
これは一体どういう事だ!?』
「僕のゼンダグラップラーはオリジナルで改造したコア『ディスクコア』が装備されている特別仕様なんだ」
「ディスクコア?」
「そう、発射する時に上部の爪をシメつけてビー玉を下に押さえつければ、下部のラバーに接触してドライブ回転をかける事ができるんだ。
そして、上の爪をシメなければラバーと接触しないから無回転のショットになるのさ!」
「ドライブの切り替えが出来るのか……!」
 ヒンメルのスイッチドライブとは違った形での切り替えギミックにシュウは驚いた。
「うん。この間の洞窟で無回転ショットの重要性も知ったからね。でも基本はやっぱりドライブ回転の威力も欲しいから、使い分けられるようにしたのさ」
『シュウ君のビー玉がいち早くテクニカルゾーンを越えて再びストレートに突入だ!しかし、しばらく進んだ所でストップ!
一方の誠君は、最終コーナーの出口を抜けた所でストップだ!』
「ストレートか!思いっきり撃たないと、負けちまう!」
「……」
 ビー玉を拾って、構える。それを確認したジンは合図をする。
『第4発目!ビー・ファイトォ!!』
「いっけぇぇ!!!」
 ストレートだと誠に負けてしまう。そう思ったシュウは渾身のパワーで撃った。
「いけっ!」
 対する誠は、ノーマルショットだ。
『のおっと!シュウ君物凄いパワーショット!一方の誠君はショットが弱いぞ?差がどんどん広がっていく!!』
「なんだあいつ?ストレートなのに全然スピードが伸びてないぞ?」
「シュウ君、コースを良く観た方がいいよ」
「へっ?」
 今走っているのはストレートコースだ。
 しかし、スタート直後のストレートよりも遥かに短い。しかもシュウはある程度進んでいたのですぐにストレートは終わってしまう。
 そして、その先にあるのは……。
『シュウ君!早くもストレートを突破!そしてそのままのスピードでヘアピンコーナーに突入だぁ!』
「なにぃ!?」
 ストレート直後のヘアピンコーナー。これでは明らかにオーバースピードだ。
 バキィ!!
 勢いに任せてシュウのビー玉がコースアウトしてしまった。
『シュウ君コースアウト!完全にオーバースピードだ!次のターンからは、コースアウトした時点からスタートしてくれ!!』
「くそ……!」
『対する誠君もストレートを突破し、ヘアピンをクリア!!』
「目の前のコースだけじゃなく先の先まで見据えるのが、レースの基本だよ、シュウ君!」
 抜きざまにアドバイスしてくる誠。
「くっそぉ、レースなんてやった事ないっつーの!!」
 確かに。
『さぁ、ヘアピンを抜けた先は再びロングストレート!ただし、勾配10度の上り坂になっている!
ここは登りきらないと再び後退してしまう事になる恐ろしいセクションだぞ!!』
「ドライブショットで切り抜けてやる!」
「勢いで登れば良いだけだ!」
『第5発目、ビー・ファイトォ!!』
 ドンッ!!
 誠のドライブショットとシュウのパワーショットが放たれる。
 ゴオオオオオオオ!!!
 空気を切り裂きながら上り坂を登っていく。
『両者とも素晴らしいパワーだ!上り坂にもまけず、力強く進んでいく!!』
 誠が先に抜けて、次にシュウが続く。
『さぁ、レースもいよいよ終盤戦だ!いよいよ残すは、高速コーナーと低速コーナーが入り混じったテクニカルセクション!そこをクリアすればゴールだ!
現在トップは誠君!少し離れてシュウ君が二位につけている!このままの順位で決まってしまうのか!?はたまた、大逆転劇が起こるのか!?』
「コーナリング性能はほぼ互角!この勝負、リードしている僕が有利だ!」
「くっそぉ、負けてたまるかよ……!」
 その時だった。
 ビュウウウウウ……!
 先ほどのパワーショットの余韻が残っていたのか、ブレイグの刃が振動し、風が巻き起こる。
(これなら、使える!)
『これで、決着着いてしまうのか、第6発目!ビー・ファイトォ!!』
「ラストスパートだ!いけぇ!!」
 ドンッ!!
 誠が無回転のパワーショットを放つ。
「行くぜ……フェイタルストーーーーム!!」
 ズギャアアアアアアアア!!!!
 シュウのショットは空気の膜を纏ってブッ飛ぶ。
『さぁ、誠君は堅実なコーナリング!どんどんゴールへと近づいていくぞ!このままではシュウ君は……なにぃ!?』
 シュウのショットは物凄い勢いで誠のビー玉に迫っていく。
『す、凄い!シュウ君のビー玉はコーナリングで全く減速しない!?どういう事だ!?』
 再び解説の彩音さん。
「そうか!フェイタルストームは空気の膜をまとって飛んでいく。
つまり、フェンスに直接触れずに空気の膜がクッションになってコーナリングしてるから、フェンスとの摩擦で減速することが無いんだわ!」
 ありがとうございました。
『シュウ君のビー玉、速いッ!トップの誠君にグングン迫るーーー!!そして、ゴール前、並んだ!!』
「「いっけえええええええ!!」」
 ゴール前のデッドヒート!後はもうビー玉に任せるしかない。
 二人は精一杯叫んで自分のビー玉を応援する。
 シャアアアアアアアアアアアアアア!!!
 そして、二つのビー玉がほぼ同時にゴールを駆け抜ける。
『ゴーーーール!!しかし、勝ったのはまだ分からない!!』
 モニターに写真判定が映る。
 僅かにシュウのビー玉が前に出ていた。
『勝ったのは、鼻差でシュウ君!ストライクブレイグだああああ!!!!』
 ワアアアアアアアアア!と歓声が沸きあがる。
「やったぜええええ!!!」
 シュウは飛び上がって歓喜する。
「負けたか……」
 誠は落胆しつつも、どこか満足気な表情で立ち止まり、息を整える。
「良いバトルだったよ、シュウ君。ありがとう」
 誠は着地したシュウに手を出す。
「おう!俺も楽しかった!!」
 ガシッと握手。
「また、やろうぜ!」
「うん!」
 しっかり友情を確かめ合った二人は踵を返し、スペースから出て行く……。
 ズゴオオオオオン!
 その時、突如爆発音が巻き起こる。
「なんだ!?」
 その方向を見ると、濃い埃が湧き上がっていた。
 徐々にその埃が薄くなってくると人のシルエットが見えてくる。
「見つ…けた……」
 完全に埃が晴れた。
 そこにはやはり人が立っていた。中学生くらいの男だろうか。そいつはまるで狂人のような狂ったような笑みを浮かべている。
「な、なん……」
 シュウが口を開こうとした瞬間に、そいつは禍々しい形のビーダマンを取り出し、試合スペースの中に乱入してきた。
「っ!ビーダー!?」
「クレイジーバイパー!!」
 クレイジーバイパーと呼んだそのビーダマンから物凄い量のビー玉が発射される。
「うっ!」
 咄嗟によけるシュウ。
『な、なんだぁ!?突如乱入してきた少年がいるぞ!これは、何かのアクシデントなのか?!』
「はああああああああああ!!!!」
 少年は狂ったようにドンドン乱射してくる。
「な、なんなんだよお前!いきなり乱入してきてどういうつもりだ!!」
 なんとかそのショットを防御しつつ、シュウは疑問を投げかける。
「戦え……!戦え!!」
 しかし、少年は何一つ答えてくれない。
「なんだ、ってんだよ……!」
 その様子を遠くから見ていた仲良しファイトクラブのメンバーが叫ぶ。
「シュウ!そんな奴、相手にするな!」
「早く逃げて!!」
 シュウの耳に辛うじてその声は届くのだが、どうしようもない。
「相手にするな、たって、どうすりゃいいんだよ!」
 シュウは奴の怒涛の連射に身動きが取れない。
「見つけた!戦え!俺と!!ゆうじ!!」
 少年が叫んだその名前にシュウは疑問を抱いた。
「ゆうじ?俺はしゅうじだ!!間違えんな!」
「黙れゆうじ!お前はゆうじだ!ゆうじは俺が倒す!俺が倒す俺が倒す!俺が倒す俺が倒すおれがたおすおれがおれがおれがおれが!!!!」
 まるで壊れたテープレコーダーのようだ。
「な、なんなんだよ……くそぉ!!」
 奴の連射は留まることを知らない。
 なんとか防御するものの、シュウは防御することしか出来ないのだ。
 反撃しようにも狙うべきターゲットがどこにもないのだ。
「こ、このままじゃ……!」
 
 バシュッ!
 その時、少年の放ったショットがブレイグに命中し、シュウはブレイグを落としてしまう。
「あっ!」
「がああああああああああああああああ!!!!」
 落ちたブレイグに対して、少年は集中砲火を浴びせてしまった。
「や、やめろぉぉぉ!!!」
 ズバババババ!!!
 何発も、何発もショットをぶつけられ、ブレイグのボディにひびが入り、その亀裂がどんどん大きくなり、欠けて行く、砕けていく。
「あ、あああ……!」
 バキィィ!!!!
 そして、ついに粉々に粉砕してしまった。
「う、そ、んな……」
「うがあああああああ!!!まだだああああ!!!!戦えええええええ!!!」
 ブレイグを破壊したと言うのに、少年はまだ叫び続け、ビー玉を撃つのをやめない。
「やめろ!」
 その時、一発の玉がクレイジーバイパーにヒットする。
「っ!!」
 少年が物凄い形相でその方向に振り向く。
 そこには、佐津正義が立っていた。不法侵入者が現れたとの知らせを受けて駆けつけたのだろう。
「オフィシャル警備だ!今すぐ暴行をやめなさい!!」
 バシュッ!バシュッ!!
 正義がビー玉を撃って少年を牽制する。
「うがあああああああああああああああ!!!!」
 興が冷めてしまったのか。少年は再び一叫びすると、踵を返して走り去ってしまった。
「あ、待て!!」
 正義がそれを追いかける。それに数人のオフィシャルの人間が後に続いた。
「……」
 シュウはその一連の流れを、まるで映画フィルムでも観ているかのように感じながら眺めていた。
「「シュウ~!!」」
「シュウ君!!」
 仲良しファイトクラブメンバーが呆然と立ち尽くすシュウに下に駆け寄ってくる。
「大丈夫か、シュウ!?」
「怪我してない?」
「……」
 心配そうに声をかけてくるメンバー達。しかし、シュウはそれには答えず感情の無い瞳で視線を下に向けている。
「シュウ?」
 皆もその目線を追う……そこには、無残にも破壊されたブレイグの残骸があった。
「えっ、うそ……!」
「バカな……!」
「ヒドイ……!」
 そのあまりにも残酷な光景に、息を呑んだ。
「……ぶれいぐ」
 シュウは呆然と呟きながら膝をついて、その欠片を集めだした。
 しかし、ポロポロと指と指の間から零れ落ちていく。
「どうしたんだよ、ぶれいぐ……」
 何度も、何度も欠片を掬い上げる。
 でも、その度に零れ落ちてしまう。
「なぁ、俺たち準決勝に勝ったんだぜ。次は決勝だ、ここまで来たら優勝しようぜ、な?」
 掬い上げながらブレイグに語りかけるシュウ。しかし、誰もそれに応えてくれない。
「ぶれいぐ、そんなんじゃビー玉撃てないぜ。しっかりしろよ」
 今度はやや大きめの欠片を拾ってパズルのようにくっつけようとする。しかし、くっつくわけがない。
「あ、あやねぇ」
 シュウは顔を上げて、彩音に視線を向けた。
「悪いんだけど、ぶれいぐの調子がよくないから、またメンテナンスしてくれよ」
 彩音に語りかけるその声にも瞳にも精彩が欠けていた。
「シュウ君……!」
「……あれ?」
 そして、感情の無かった瞳から、つぅっと一筋の雫が垂れた。
「あれ、あれ?」
 それが引き金だったのか、とめどなく、涙が溢れ、流れ出す。
 慌ててそれを拭うのだが、止まらない。
「う、うぅ……」
 ようやく、シュウに感情らしきものが戻ってきた。
 しかしそれは、堰を切ったように溢れ出す。
「あ、ああ、あああ……!!!!!」
 あふれ出した感情が、シュウの理性も同時に現実へと呼び起こす。
「ブレイグ!ブレイグ!ブレイグ!!なんで、なんでだよ!!あああああああああ!!!!!!」
 バンッ!バンッ!と何度も床に手を叩きつけながら、慟哭する。
「うそ、嘘だよな!こんなの嘘だよな!!また、元に戻って、戻るんだよな!?そうだろ!だって、勝ったんだぜ!お前は強いんだぜ!こんな事で、こんな、事で……!!」
 ギリギリと拳を握り締めて、立ち上がり、彩音の肩を乱暴に掴む。
「あやねぇ!これ、別に大した事無いんだよな!また前みたいに、直してくれるんだよな!そうだよな!?」
 涙と鼻水でグチャグチャになった顔でシュウは彩音に問い詰める。
「……」
 しかし、彩音は痛々しそうに目を背けるだけだ。
「う、あ……」
 彩音の反応を見たシュウは、手を離してよろよろと後退し、またも倒れこむ。
「う、ぐうう、うわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
 シュウの悲痛な叫びは、しばらく会場内に響いていた。

     つづく

 次回予告

「ずっと一緒に戦ってきた相棒、ストライクブレイグを失った俺の哀しみは大きかった。
ブレイグが戻ってこないなら、もうビーダマンをやめても良いとさえ思った。
そんな俺を見かねたあやねぇは、仲良しファイトクラブの昔話をしてくれた。それは、哀しみに満ちた過去だった。
 次回!『彩音の告白 栄光と悲愴の過去』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 

 



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