オリジナルビーダマン物語 第18話

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爆砕ショット!ビースピリッツ!!


第18話「個人戦開催!アイツとの再戦!!」



 金曜日。ジャパンビーダマンカップの前日。
 仲良しファイトクラブでは、シュウがいつものように一人練習に励んでいた。
 その近くのテーブル席には、彩音がノートパソコンでシュウの練習状況をチェックしている。
「いっけー、ブレイグ!フェイタルストーム!!」
 ズゴオオオオ!!!
 練習用ターゲットに向かって、空気の膜を纏ったビー玉がブッとんでいき、ターゲットを撃破する。
「おっしゃあ!成功だ!!」
 どうやら必殺技が成功したらしい。
「やったね、シュウ君!!」
 彩音も歓喜の声を上げる。
 シュウは一旦ブレイグをしまって彩音の隣に座る。
「ふぃ~、結構成功するようになってきたなぁ」
「うん、成功率は80%まで上がってるよ!ここまでよく頑張ったね」
「そっかぁ。あとはこれがちゃんと大会でも使えるかどうか、だなぁ」
 成功率が80%なら、上々だろう。しかし、それはあくまでも練習での話だ。
「それは明日大会に出てみないことには分からないからね」
「そうだなぁ。う~、とりあえず今日の所はここまでにして明日に備えて休もう」
 シュウはグデ~ッと机に突っ伏した。
「それが良いよ。無理は禁物だから」
「んだね~……」
 気の抜けた声で返事するシュウに苦笑しつつ、彩音はふとある事を思い出した。
「そういえば、シュウ君」
「ん~?」
「タクマって人って知ってる?」
 それは、ヒンメルカップで彩音に突っかかってきた人物だ。
 会場のモニターに映ったシュウやブレイグの姿に反応したり、彼の持っているビーダマンに何かデジャヴを感じたり、なんだか無関係に思えない人物だった。
「いいや、そんな名前の友達いないけど」
「そ、っか……」
 あっさり否定されてしまい、彩音はそれ以上言葉を失った。
「何かあったの?」
「う、ううん。多分、私の思い過ごし、だと思うから」
 なんとなくスッキリしないのだが、彩音はそう言ってこの話を終わらせた。
「そっか~」
 シュウもそれ以上追求する事はなかった。
 なんとなく手持ち無沙汰になったので、シュウはブレイグのヘッドのギミックをグリグリと動かしてみた。
「ウリウリ~。よく動くなぁ~……」
 しばらく手悪さに興じたシュウだが、ふと手を止めた。
「でも、なんか寂しいんだよなぁ」
「何が?」
「ブレイグの後ろ。特に何のパーツもついてないしさ。ほら、スイートシスターズとかさ、忍者野郎とか、あとグルムにもいろいろ付いてるじゃん!」
「パーツは付ければ良いってわけじゃないんだけどね。デメリットもあるし」
「それでもさぁ!せっかく何か付けられるんだから、もっとブレイグのパワーを上げられるような何かが欲しいなぁ」
 なんとも子供らしい安直な言い分である。
(トリガーパーツ……)
 彩音は何か思うところがあるような表情をしたかと思うと、シュウの顔を見て
「う~ん、それじゃあ造ってみようか?」
 そう提案した。
「えっ!?あやねぇ造ってくれるの?!」
 彩音の思わぬ提案にシュウは目を輝かせる。しかし、彩音は首を振った。
「ううん、私は造らない。ブレイグはシュウ君のビーダマンでしょ?」
「う、うん」
 彩音の意図するものが分からず、シュウはためらいがちに頷いた。
「だから、シュウ君が自分の気持ちでそのパーツを設計するの」
「え……?でも、俺そんなのやった事無いし」
「大丈夫、簡単だから。私も手伝ってあげるよ。まだ時間あるし、練習しないんだったら新パーツの制作しよう!」
 思いがけない彩音の提案。シュウは少し迷ったが頷いた。
「うん、なんか面白そうだ!」
「じゃあ、工房に行こう!」
 と言うわけで、二人は工房にやってきた。
「それで、設計って何をすればいいの?」
 とりあえず、椅子に座り質問した。
「シュウ君は、ブレイグにどんなパーツをつけたい?」
「えっと、そうだな……とにかく強くなるパーツ!」
 凄く馬鹿っぽい答えである。
「じゃあ、そのイメージを絵に描いてみて」
「な、なるほど……分かった!」
 紙とペンを用意し、シュウは机に向かった。
 唸りながら、必死に絵を描いている。
「う~ん、ここの部分でもっとシメ撃ちが出来れば……いやでもこうした方がいいかなぁ……?」
 しばらくして、シュウが紙を掲げる。
「出来たー!」
「見せてみて」
 が、出来たものは、設計図とは言えないラクガキ同然のものだった。
「ブレイグを更にパワーアップさせる新パーツだぜ!」
「あ、はは……」
 得意気なシュウだが、彩音は苦笑いだ。
「や、やっぱこんなんじゃダメかな?」
「う、ううん、大丈夫。修正はかけるから。あとは、データをコンピュータに入力して、製造機を……」
 彩音はスキャナーにシュウの設計図を取り込むと、カチャカチャとコンピューターを動かした。
(……)
 その時、彩音は一瞬表情を曇らせ、スキャナーになんらか入力を追加した。
 そして、しばらくすると、ウィ~ンと言う音を立てて製造機が作動した。
「うん、OK」
「出来たの!?」
「さすがにそれはまだまだだよ。でもちゃんとデータ入力は出来たから、ちゃんとパーツは完成するよ」
「よかったぁ。どのくらいで出来るかな?」
「う~ん、明日の夕方くらいかなぁ?」
 その時間にはもう個人戦は終わっている。
「って事は、個人戦には持っていけなさそうだなぁ。ちぇ、もっと早くから造ればよかった」
「まぁまぁ。でも団体戦には間に合うから」
「そうだな。よし、じゃあ個人戦優勝のお祝いとして、ブレイグへのプレゼントだな!」
「ふふふ。練習のため、って言ってたけどやっぱり優勝する気満々なんだね」
「当ったり前さ!どんな目的でも、バトルする以上は絶対に勝ってやる!勝ちつつ、フェイタルストームも使いこなせるようになってやるんだ!!」
 二兎追うものは二兎とも取れ!と言う諺があるが、シュウのその自信満々な態度が彩音にはなんとなくおかしかった。
「ふふ、あははは」
 笑い出した彩音につられるように、シュウも笑みがこぼれる。
「へへへ」
 しばらく、工房の中に二人の笑いが交じり合って響き渡った。
 そして、翌日の土曜日。
 ジャパンビーダマンカップ関東予選個人戦の会場は、海浜幕張駅付近にある『海浜メッセ』と言う建物の中で行われるようだ。
 既に会場までには長蛇の列が出来ている。
「っひゃ~!今回も盛り上がりそうだなぁ!!」
 駅に着くなり、ごった返す人々の熱気を感じ、シュウの心は盛り上がる。
「シュウ、今回は優勝目的じゃないとは言え油断するなよ。
前回の県規模の大会と違って、今回は地方規模の大会だ。東京、千葉、神奈川、茨城、栃木、群馬、埼玉から強豪がドッと押し寄せてくるんだからな」
「そんなの問題無い無い!なんたって俺の胃袋には、あやねぇの作ってくれた精進料理が詰まってんだ!負ける要素なんかどこにもないぜ!!」
 ポンポンと突き出した腹を叩いてみせる。
「いやぁ、特にあのステーキ美味かったなぁ。まさかキャベツとタマネギと豆腐だけでステーキが出来るとは思わなかった」
「あのステーキはね、キャベツとタマネギをみじん切りにして小麦粉で……」
 ペラペラと彩音が料理の説明をする。
「あ~、いいからもう行きましょ。遅れちゃうわよ」
 なかなか進まない皆に痺れを切らした琴音が急かした。
「あ、君は……!」
 と、会場まで行こうとした時に後ろから誰かに話かけられた。
「え?」
 振り向くと、そこにいたのは、あの佐津正義だった。
「正義~!」
「シュウ君、やっぱり参加するんだね!」
「あったりきだぜ!そういう正義は、どうしてここに?」
「僕も、この大会に参加するんだ」
 意味深に笑いながら言う。
「え?でもお前大会に出ないって……」
「そうじゃないよ」
 そう言ったシュウに対して、正義はジャケットの内ポケットから長方形の物体を取り出す。
「これさ!」
 そこには『オフィシャル警察部所属、佐津正義』と言う文字があった。
「あ、お前!試験合格したのか!?」
「うん!これで晴れて、オフィシャルのビーダー警察になれたんだ!今日は、大会の警備として参加するんだ」
「そっかぁ、やったな!頑張れよ!」
「シュウ君も!お互い頑張ろう!」
「おう!!」
 二人はガシッと握手した。
 そして、仲良しファイトクラブは会場の中に入った。中は外以上に熱気に溢れていた。
 海浜メッセには観客席と言う概念が無く、選手、観客関係なく会場の中に入っている。
 試合するスペースだけ柵で囲まれていて、その周りが観客&選手控えの空間と言う扱いのようだ。
「なんか県規模の大会のヒンメルカップよりしょぼくない?これ関東規模なんだよね」
 会場はよく出来ているものの、東京都ドームと比べれば些かショボイ。
「まぁ、ヒンメルカップはドイツの大貴族、フリューゲル家がメインスポンサーだったからなぁ。普通はこんなもんじゃないのか」
 タケルの言う事は正しい。大会の規模ではなく、スポンサーの規模の問題のようだ。
「なんだっていいぜ。フェイタルストームの練習が出来るならな!」
 
 しばらくすると、会場が暗くなり、特設ステージにだけスポットライトが当たり、そこにビーダマスタージンが現れた。
『みんなー!ジャパンビーダマンカップ(通称JBC)関東予選へようこそ!!
今日行われるのは、個人部門大会だ!皆も知ってる通り、優勝者には全国大会決勝への出場権が与えられるから、気張っていけよ~!!
ちなみに、今大会の参加者はなんと300人を越えている!さすがに、この人数でトーナメントは組めないので、予選を行うぞ!!
予選種目は、『アルティメットシューティング』だ!!』
 ステージに『アルティメットシューティング』と思われる設備が現れる。
『こいつが、アルティメットシューティングだ!見ての通り、電動で左右に動く二つのビーダマン型ターゲットがあるぞ!
こいつのセンターはアタックポイントになっていて、ショットをぶつける事でポイントが加算される。これを制限時間内に多く得点する競技だ!
上位16名が決勝トーナメントに出場できるぞ!!』
 ジンの説明が終わり、仲良しファイトクラブは思案する。
「な、なんか難しそうだな……」
「連射力とコントロールが重要……シュウにはちょっと不利じゃない?」
「いや、それだけじゃない。射速もだ」
 タケルが言う。
「え?」
「左右に動くターゲットを狙うって事は、発射してからターゲットに当たるまでラグがある。その分狙いだってズレてしまう。
だが、射速があればそのズレを少なくする事は出来るからな」
 タケルの解説にシュウは納得する。
「なるほどなぁ。とは言え、やっぱパワー型のブレイグにはちょっと厳しいなぁ」
「……そうだ!」
 少し自信なさ気なシュウに対して、彩音がバッグから何かを取り出した。
「シュウ君、これを使ってみて」
 と言って、取り出したのはライトニングヴェルディルだった。
 素早くボディを外し、コアをシュウに渡す。
「こいつは……ライトニングヴェルディルのコア?!」
「前に扱いやすかったって言ってたでしょ?これならシュウ君でもこの競技に対応できると思うんだけど」
「サンキューあやねぇ!これならなんとかなりそうだぜ!」
 シュウはヴェルディルのコアにブレイグを取り付けた。
「なるほどな。試合中にヘッドとコアを変更するのは原則NGだが、試合前ならセーフだ」
「でもお姉ちゃん、なんでヴェルディルを?」
 普段工房のビーダマンを持ち出さない彩音がどうして都合よく持ってきていたのか琴音は聞いた。
「今回はチーム戦じゃないから、シュウ君が苦手な競技になっても誰もサポートできないでしょ。
だから、なるべくカスタマイズの幅を広げるために予備の機体をいろいろ持ってきてるの」
「そっかぁ!さすがあやねぇ!用意いいぜ!!」
 ヴェルディルのコアをつけたブレイグを掲げる。
「……」
 その様子を、琴音は複雑な表情で見ていた。
「琴音ちゃん、どうしたの?」
 琴音の様子が変わったのに気付いた彩音が問いかける。
「ううん、なんでもない」
 琴音は、振り向きもせずに軽く首を振った。
 そして、予選開始となりシュウの順番になった。
 アルシューの台についてビーダマンを構える。
「いっくぜえええええ!!!」
 アルシュースタート!電子音とともにターゲットが可動する。
「いっけぇ!ライトニングブレイグーーー!!!」
 ストライクブレイグとライトニングヴェルディルのパーツを合わせたから、『ライトニングブレイグ』と呼んだようだ。
 ズドドドド!!
 ぎこちないながらも、なんとか連射をこなして得点を稼いでいく。
「動くターゲットだとやっぱ狙いづらい……!」
 それでも、パワー強化用のパックとバレルのおかげでなんとかヒットしている。
「ふぅ……!」
 そして、競技終了。
 シュウは試合スペースから外に出て結果発表を待つ。
 しばらくして、備え付けのモニターに結果が表示される。
「俺の名前は……あった!」
 14番目にシュウの名前を見つけた。
「ギリギリじゃない」
「良いんだよ!予選は突破すればいいんだ!!」
「それもそうだな」
 そして、今度はモニターにトーナメント表が表示される。
『さぁ、予選終了だ!自分の名前は見つかったかな?そんじゃ、トーナメントの発表だ!!』
「俺はAブロックの第1試合か。いきなりだなぁ……」
 と、流れるようにモニターを見ていく。
「げっ!」
 トーナメント表を見て、シュウは変な声を上げる。
「どうした、シュウ?」
「ジャンの奴、参加してたんだ……」
 見ると、Bブロックにジャン・ジャンの名前があった。
「じゃじゃじゃじゃーーーーーーん!!」
 いきなり、後ろからエアギターのやかましい音が聞こえてきた。
「うわぁ!出たぁ!!」
「また会ったじゃん!これは丁度いいじゃん!前回の貸しを返させてもらうじゃん!」
 貸しを返す?
「お、俺だって、借りをいただいて……あれ?」
 なんか日本語がややこしくなってきた。
「とにかく、決勝戦で待ってるじゃん!」
 それだけ言うと、ジャンは風のように去っていった。
「アイツと話してると、どうも頭がおかしくなるんだよなぁ」
 ジャンの後姿を見ながら、シュウはポリポリと後頭部を掻いた。
 そして、試合時間になった。
 シュウは試合スペースに上がって対戦相手と対峙する。
『さぁ、いよいよ第一試合のスタートだ!対戦カードは、東京都出身、竜崎修司君VS千葉県出身、早川ハヤミ君だ!!
なんと竜崎修司君、通称シュウ君は前回の東京都大会の優勝チーム、仲良しファイトクラブのメンバーなんだ!』
 ジンの紹介で、シュウに物凄い歓声が浴びせられる。
「いやぁ、あっはっは!まぁね~!!」
『それだけじゃないぞぉ!早川ハヤミ君はなんと関東予選個人戦の常連!3年間連続の準優勝と言う偉業を成し遂げているんだ!!
これは、凄まじいバトルが期待できるぞ!!』
 シュウと対峙しているハヤミがシュウを指差して啖呵を切ってきた。
「久しぶりだな、竜崎修司!まさかまたお前と戦えるとは思わなかったぜ!」
 しかし、シュウはキョトンとする。それに気付かずにハヤミは続ける。
「あの大会の後、急にいなくなりやがって。
引っ越ししたって聞いた時は、もうリベンジするチャンスがなくなったと思ってたけど、ここでまた再会出来るとは俺も運がいいぜ」
「えっと、前に戦ったっけ?」
 一人で勝手に盛り上がっているハヤミに、シュウは今更な質問をした。
 当然、ハヤミはズッコケた。
「おい!俺だよ、俺!!あの因縁のバトルを忘れてんじゃねぇ!!!」
 因縁と言われても、シュウにとっては覚えが無い。
「う~ん……」
「波木町の町内大会を忘れたのか……!」
 そこまで言われて、ようやくピンときた。
「あぁ、お前あの時のビーダーか!」
「やっと思い出したか」
「いや、思い出したというか、引っ越しする前に出た大会で戦った相手がお前だったんだなぁって、今知った」
 つまり、思い出したというよりも最初からハヤミ自体の記憶は存在していなかったのだ。
「な、ぐぐぐ……!て、てめぇ、準優勝者の力を今度こそ見せてやる!」
 ちなみに、波木町は、上野から常磐線で急行で20分くらいかかる場所にある。
 爆球町からは、2,3回乗換して、1時間半くらいかかる。料金は片道で1000円近くかかるので簡単にいける距離ではない。
『さぁ、軽く言葉のジャブを交わした所で、ルールの説明だ。
ルールは簡単ディレクトヒットバトル!台の上で向き合ってビー玉を撃ち合い、相手のビーダマンに付けられたアタックポイントに一発ショットをぶつけた方の勝ちだ!
ビーダマンを床から離したらその時点で失格、真横に向けるのも禁止だ!横にあるフェンスとビーダマンのアタックポイントが平行になった時点でサイレンが鳴るぞ!
それから、試合中のパーツの組み替えも禁止だ!
ちなみに、この台の上でのみ『エコビー玉』は5秒で消滅するようになっている。フィールド上にビー玉が溜まって、邪魔をする事は殆ど無いぞ。
逆にばら撒き戦術が出来ないので注意が必要だぞ!!』
 シュウとハヤミが、支給された小型センサーをビーダマンのコア下部に取り付ける。ここにビー玉がぶつかると負けだ。
『両者とも準備オッケーかな?そんじゃ、おっぱじめるぜ!!レディ、ビー・ファイトォ!!』
「いけぇ!ストライクブレイグ!!」
 バーーーン!!
 開始早々ブレイグのパワーショットが放たれる。
「相変わらずの凄いパワーだ!だけど!!」
 ハヤミは素早くそれをかわす。
「ボルトマグナスの連射を見せてやる!」
 ボルトマグナスは、まるで弾丸を思わせるようなヘッドと腕と後部につけられたネジのようなものが特徴のビーダマンだ。
「パワー型のビーダーは、連射で翻弄される事に弱いからね!」
 ボルトマグナスの巧みな連射にシュウは翻弄されてしまい、反撃できない。
「くっ!新型のビーダマンか」
「お前に勝つために一生懸命頑張って造ったんだ!」
 カンッ!カンッ!!
 徐々に、ボルトマグナスのショットがブレイグのアタックポイントに近づいていく。
「あ、あぶねぇ……!」
 観戦している仲良しファイトクラブ。
「あぁもう何やってんのよ、シュウ!しっかりしなさいよ~!!」
 琴音が野次とも応援ともつかない声援を上げる。
「さすがに、準優勝者ってのは伊達じゃないって事か」
「うん。しかもビーダマンを浮かしちゃいけないってルール上、メテオールバスターは使えないし」
「フェイタルストームを使う隙も……難しいか」
 一方のシュウ達。
『これは凄いぞハヤミ君!巧みな連射でシュウ君を右へ左へと翻弄している!このままでは、勝負が決まるのも時間の問題か!?』
「冗談じゃねぇ!!負けてたまるか!!」
 ドンッ!!
 シメ撃ちで、襲い来る連射を弾き飛ばしていく。その事で一本道だが、攻撃出来る活路が生まれた。
「パワーなら負けねぇ!!お前のショットなんか全部弾き飛ばしてやる!!」
「それはどうかな?!」
 キリキリ……。
 ハヤミが腕と後部についたボルトを回す。
「「いっけぇ!!!」」
 そして、ハヤミとシュウが同時にパワーショットを放つ。
 バーーーン!!
『ステージ中央で、二つのパワーショットが激突!これは、互角だぁ!!』
 二つのショットはほぼ同じ威力だったらしく、互いに弾け跳んだ。
「なにっ!?」
「見たか!ボルトマグナスは、備え付けられたボルトを回す事で威力を調節できるのさ!連射したい時はボルトを緩くして、威力を上げたい時はボルトをキツくする。
しかもボルトだから細かい調節も自由自在!!」
 たった一機で状況に合わせたさまざまな戦術を瞬時に使い分けられるという事だ。
「や、やるな……!
「へっ!これが準優勝者の力だぜ!!準優勝者として一回戦で躓くわけにはいかないんだよ!!」
 ドンッ!
 再びハヤミのパワーショットが放たれる。シュウは素早くこれを止める。
「はぁ……!」
「嬉しいぜ、ようやくお前を倒せる。だがな、俺の本当の目的はそんなちっぽけなもんじゃないんだよ!」
「なにっ!?」
 あれだけシュウに執着しておきながら、シュウを倒すこと自体は目的ではなかったようだ。
「俺の真の目的は、この大会で優勝すること!準優勝者常連の肩書きを返上する事だ!」
「っ!」
 って言うか、大会に出る以上目的は優勝する事だろう。
「この大会では今年こそ絶対に優勝する!そして、全国大会に行くんだ!そして……!」
「まさか、そこで準優勝するってのが、お前の目的か!?」
「んなわけあるかっ!!なんでわざわざ狙って準優勝しなきゃならないんだよ!!」
 確かに。
「そりゃそうか」
「当たり前だ!全国大会にはヤバイ奴がゾロゾロ参加してくるんだぜ!?準優勝なんてとんでもない……!参加できるだけで満足だあああ!!!!」
「え?」
「ザ・オリンピック精神!」
「……」
 奴の目標は高いようで低かった。
「小さいな」
「なにぃ!?」
「よく分からねぇけど。お前が前に俺に負けた理由がよく分かった」
「なんだと!」
「俺が見てるのは、もっともっと違うんだ!!
 バギュウウウウ!!
 シュウのシメ撃ちがハヤミを襲う。
「効くかっ!」
 ハヤミがそれを止める。
 しかしその時、シュウの周りに風が取り巻き始める。
「お前は俺に絶対に勝てない!何故なら、何故なら……俺の目的は、優勝とか勝利とかそんな事じゃないからだ!」
「な、なんだと。じゃあなんでお前は今戦っているんだ!?」
 シュウの言葉が信じられなかったようで、ハヤミは動揺がちに質問する。
「俺は、俺の目的は……このバトルでもっともっと強くなる事だ!!だから、このバトルが終わっても、大会が終わっても俺の目的は終わらない!
だから、俺は絶対に負けないんだ!!」
 そう、勝利することも優勝することも、シュウにとっては通過点に過ぎない。いや、仮に敗北してしまったとしても、それすら目的に影響しないのだ。
「そんな小さいものに執着してる奴に、負けるわけがないんだ!!!」
 シュウが叫ぶと、周りの風が更に暴れ始める。
『のおおっとどういうことだ!?いきなり物凄い暴風が吹き始めた!空調が強すぎたのか?!』
「そ、そんなハッタリが俺に通用するかっ!!」
 ドンッ!ドンッ!!
 ハヤミは、ボルトマグナスのボルトを少しだけ緩めて、やや強めの連射を放つ。
 しかし、シュウはそんなものに動じない。
「いっくぜえええ!!!フェイタルストォーーーム!!」
 ドギュウウウウウウウウウ!!!!!
 ブレイグから、空気の膜を纏ったショットが放たれ、ボルトマグナスのショットを全て吹き飛ばしてしまう。
「な、なにぃ!?」
 ハヤミはすばやくボルトをキツく絞めて渾身のパワーショットを放つが、それすらも木の葉のように吹き飛ばされてしまった。
「そ、そんなっ、なんだよこのショット!!!」
 どんどんショットが迫ってくる!よけようにも、もうそんな暇は無い。
 カーーーン!!!
 そしてついに、ブレイグのショットがボルトマグナスにヒットした。
『決まったぁ!!勝ったのは、竜崎修司君!!最強のパワーショットで、見事ボルトマグナスを撃破だ!!!』
「やったぜぇぇ!!」
 勝利が決まった瞬間、シュウはブレイグを掲げて喜びの大ジャンプをした。
「ま、また負けた……」
 一方のハヤミは、ガクッと地に膝をついた。
「テクニックもパワーも機体性能も、互角だったはずなのに……」
 そんなハヤミの所に、シュウが歩み寄る。
「良いバトルだったな」
 笑顔で手を差し出すシュウ。
「……」
 その顔を見て、ハヤミは何かを悟った。
「なるほど。勝ち負けとか肩書き以上に、バトルに魂を燃やす事。それがお前の勝因か」
 ハヤミはそう呟き、シュウの手を取って立ち上がった。
「完敗だ。だが、次はこうはいかないぜ」
「ああ。次も楽しみにしてるぜ!」
 笑顔でそういうと、シュウは踵を返して仲間の所に走っていく。
 柵の外で観戦していた仲良しファイトクラブとシュウが合流した。
「やったね、シュウ君!」
「おう!まずは一回戦突破だ!」
「勝ったのもそうだが。ちゃんと試合でもフェイタルストームが使えたな、やったじゃないか」
 そう、勝ち負けよりもそっちの方が重要だ。
「あ、そっか。そういや使えたんだよなぁ」
 しかし、肝心のシュウは自覚がなかったらしい。
「お、おい……」
「いやぁ、夢中になってて全然気付かなかった。あはは~」
 後頭部に手を置いて照れ笑いする。
「まったく。まぁ、案外ガッチガチに意識するよりも無意識の方が無駄な力が入らなくて良いのかも知れないな」
「意識的に出せなきゃ、使いこなしたとは言えないと思うけどね」
 琴音が突っ込む。
「まっ、勝てたし出せたんだからいいじゃねぇか!なっはっは」
 シュウは能天気に笑う。
「おっしゃあ!この調子でバンバン勝って、バンバン出して、明日の団体戦に勢いをつけてやるぜ!!」
 シュウは拳を天に突き出して、更に気合いを入れるのだった。

      つづく

 次回予告

「さぁ、大会は早くも準決勝!相手は、サバイバルバトルのときに世話になった前田誠だった!そういえば、あの時はまともにバトル出来なかったからな。
こいつは楽しみだぜ!!しかしバトル終了後、アッと驚く展開になり、大変な事が起こってしまった!
そんなぁ!俺の、俺のブレイグが……!!
 次回!『準決勝!衝撃と涙の結末』
熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

 



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