爆砕ショット!ビースピリッツ
第3話『愛機への想い ストライクブレイグVSシフトレックス』
「お前は、うちのチームに必要無い」
淡々とそう告げると、タケルは踵を返してしまった。
「え、ええええええええ!!!」
シュウは慌ててタケルを追いかけて、肩を掴む。
「ちょ、待ってよ!いきなりなんだよ?!」
タケルはシュウの手を払い、ゆっくり振り返る。
「さっき言ったとおりだ。悪いが、お引き取り願う」
そう言って、再び踵を返す。
「俺が、さっき負けたからか……弱いから、いらないってのかよ……!」
拳を握り締めてタケルを睨みつける。
「……」
しかし、タケルは何も応えない。
「さっきのバトルは俺の本気じゃない!お前だって分かってるだろ!?ブレイグがあそこで壊れなけりゃ……!」
「そういう事じゃねぇ!!!」
突然、タケルが怒鳴り、シュウの胸倉を掴んだ。
「っ!?」
「お前の戦い方。セッティング。あれはなんだ?」
「なに……って……」
「パワータイプのビーダマンにハイパワーパックを装着して、お前はただ力任せに撃つだけ。
しかも、そんな明らかに負担が掛かるような事をしておきながら、機体の破損にも気付かなかった!」
「それは……」
正論なので言い返せない。
返事に窮していると、タケルは更に続ける。
「ちょっと強い奴と戦えて目標が出来たからって、少し調子に乗りすぎてるんじゃないか?
ビーダマンバトルは、ビーダーだけで戦ってるわけじゃない。ビーダーと、ビーダマンが一緒になって戦うものなんだ」
「だ、だけど、俺だってわざとじゃ……!」
言い訳の隙を与えずにタケルはさらに畳み掛ける。
「それに、バトルは相手がいるから初めて出来るんだ。なのにお前は、対戦相手である俺の事を全く見ちゃいなかった!俺と戦いながら、ヒンメルしか見えていなかった!!」
「っ!!」
それが、シュウにとって一番の図星だった。
「それがどれだけ失礼な事か。バトルを侮辱しているか!俺を侮辱しているか!ブレイグを侮辱しているか!ヒンメルを侮辱しているか!分かってるのか!?」
「ぐ……!」
シュウは思わずタケルから目をそらす。
「そんな基本的な事も分からない奴が、俺は一番嫌いなんだよ!!」
「あ……」
タケルに言われて、シュウは今度こそ言葉を完全に失ってしまった。
俯いたまま、ただ拳を握らせる事しか出来ない。
「練習の邪魔だ。帰ってくれ」
タケルは、さっきの怒声とは裏腹に、穏かにそう告げる。
「……」
シュウは、言われるままにクラブを出て行った。
特に行くアテも無いので、そのまま重い足取りで帰路に着く。
「……」
家に行くまでの商店街の道のりを俯きながら歩く。
“ちょっと強い奴と戦えて、目標が出来たからって、少し調子に乗りすぎてるんじゃないか?”
頭の中には、さっき言われた言葉が響く。
「俺、調子に乗ってたのかな……?」
“ビーダマンバトルは、ビーダーだけで戦ってるわけじゃない。ビーダーと、ビーダマンが一緒になって戦うものなんだ。”
「それくらい、俺だって……」
分かってたんだろうか?
“ビーバトルってのはなぁ!皆で楽しんでやるものなんだ!強い奴が弱い奴を一方的に倒すためにあるんじゃない!!”
不意に、昨日琴音に対して言った事を思い出した。
「あんな、偉そうな事言っときながらな……。俺、ビーダー失格だ」
溢れそうになる涙を歯を食いしばって耐えた時、シュウの耳にビー玉が弾ける音と子供達の歓声が聞こえてきた。
気が付けば、昨日来た公園に辿り着いていたのだ。
「ここは……」
公園では、子供達がビーダマンバトルに興じている。
「いけぇ!俺のバンデッドクレイシーズグレイシャー!!」
「かわすぞ!僕のビッグビッグスローリンガー!!」
ドギュッ!ドギュッ!とビー玉の発射音が鳴り響いている。
「うわぁ、やられるな!頑張るぞ、アンバンシブルキットカット!!!」
「必殺!マーベラスピロシキアターック!!」
各々勝手な名前を叫んでいるが、ベースは全部シアナイトである。
(そっか、ここ、昨日来た公園だ)
シュウは、入り口でそれを眺めていたが子供達のうちの一人がシュウの存在に気付く。
「……」
「あ、昨日のお兄ちゃんだ!」
その声で、他の子供達も一斉にシュウの方を見る。
「ほんとだ!お~い、お兄ちゃ~ん!!」
あっと言う間に、子供達はシュウのところに駆けてきた。
「お、お前ら」
周りに集まってきた子供達に、ちょっと戸惑う。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!バトルしようよ、バトル!」
「え、な、なんだよいきなり……!」
「だって、お兄ちゃんのバトル凄かったもん!」
なぁ?とその子が他の子に問うと、皆頷く。
「うんうん!なんたってあのことねぇに勝っちゃったし」
「その後に世界チャンピオンともバトルしたんだもんなぁ!」
「ヒンメルと……」
「俺たちもあんなバトルしたいぜ!!」
「やりたいやりたい!!」
「早くやろうよ、お兄ちゃん!!」
「……」
真っ直ぐな目でシュウを慕う子供達を見ていると、シュウはなんだか居た堪れなくなった。
「……悪い、今はちょっと調子悪くてさ」
目を逸らしながら、子供達の申し出を断る。
「「「「えええええええ!!!!」」」」
子供達は一斉に不満の声を上げた。
「ちぇ、つまんないなぁ~」
「楽しみにしてたのに~」
口を尖らす子供達に、シュウはもう一度軽く謝る。
「すまん、また今度。絶対バトルしてやるから!」
「うん、約束だよ」
「絶対だからね!絶対!!」
「あぁ、絶対だ。それじゃな!」
片手を上げて、公園を後にする。
「……ごめん」
公園から遠ざかりながら、シュウはもう一度小さく謝った。
それは、バトルが出来ない事に、じゃない。
「俺、最低だ……」
子供達は、自分の事を慕ってくれた。ビーダーとして、慕ってくれた。
だけど、そんな自分はビーダーとして最低な事をしてしまったのだ。
それは、タケルやブレイグだけでなく、あの子達の心まで裏切ってしまったという事になるのだ。
「……やっぱり、このままじゃダメだ!」
シュウは足を止め、踵を返して駆け出した。
瞬間に、真後ろにいたらしい長身の少年とぶつかった。
「うわっ!」
「っ!」
その反動でシュウは尻餅をつき、ブレイグを落としてしまう。
「ドライグ!」
ぶつかった少年は、倒れはしなかったものの手に持っていたものを落としてしまった。
「いっててぇ……」
少年の持っていたものがシュウの方へと転がる。どうやら、それは黒いビーダマンのようだった。
(……ブレイグと同じ、龍モチーフのビーダマン?)
そのビーダマンは刺々しく、まるで黒龍が宿っているかのような形状だった。
「……」
少しの間惚けてしまったが、ハッとして見上げると、その少年がポーカーフェイスでこちらを眺めていた。表面上感情は隠しているようだが、迷惑している風な雰囲気を感じる。
「ご、ごめん!」
シュウは、ブレイグとドライグと呼ばれた黒いビーダマンを拾って立ち上がる。
「よそ見してたからさ。その、大丈夫だった?」
「ああ、問題ない」
少年はブッきらぼうにそう言うと、シュウからドライグを受け取った。
「……」
そして、ジッとシュウを……いや、シュウの持っているブレイグを見つめる。
(青龍と白龍のビーダマン……まさか……)
しばらくして、ブレイグから視線をズラしてシュウに視線をあわせる。
「な、なに?」
彼の行動がイマイチ分からず、シュウは首をかしげた。
(まさかな)
少年は、シュウから視線を外す。
「なんでもない。周囲には気をつけろ」
それだけ言って、踵を返して歩いていった。
「なんだったんだ……?」
彼の背中を眺めながら、シュウはもう一度首を傾げた。
仲良しファイトクラブの前に戻ったシュウ。
扉を開けると、一人でビーダマンの練習をしているタケルの姿があった。
「いけぇ、レックス!!」
ズドドドド!!
並べてあるターゲットをマガジンを装着させたレックスで連射して倒していく。
「ふぅ……」
全部倒し終わった後、一息ついてベンチに座った。
「お疲れ、レックス」
そして、レックスをタオルで磨いていた。
その一連の流れが一区切りついたところでシュウはタケルに声をかけた。
「あの……」
「ん?」
息を整えながら首だけシュウの方に向ける。
「なんだ、帰ったんじゃないのか……?」
驚くタケルの前で、シュウは地に膝と手をついた。
「お願いします。俺に、チャンスをください」
「何……?」
「俺、勘違いしてた!ブレイグの事全然考えてなかった!ヒンメルの事しか見えてなかった!!そのせいで、お前やブレイグに凄く失礼な事をしてしまった……本当にごめん!!」
「……」
タケルは何も応えない。が、少しだけ表情が柔らかくなったようだ。
「必ずブレイグを戦えるようにするから、だから、リベンジさせてください!!」
「そんなに、入会したいのか?ヒンメルと戦えなくなるから?」
せっかく柔らかくなった表情が硬くなり、侮蔑の視線を向けるタケルを遮ってシュウは叫んだ。
「そうじゃない!!確かに、ヒンメルと再戦する事も大事だ……だけど!」
「だけど?」
「俺、このまま終わるわけにはいかないんだ!入会出来なくても良い!ヒンメルと戦えなくても良い!ただ、ビーダーとしてキチンとケジメを付けたいんだ!だから……!」
タケルは、無言のまま立ち上がり、控え室へと歩いていく。
その扉を開いた時、振り向いて
「明日の放課後。ここで待ってる」
それだけ告げて、扉の奥に消えた。
その夜。竜崎家。
「おーい、修司~!飯だぞ~!!」
シュウの父がキッチンからシュウの部屋に向かって叫ぶ。
しかし、返事が無い。
「修司~!!飯~!!!」
怒鳴る。が、返事が無い。
「っかしいなぁ。いつもだったら飯の時間になったら呼ばなくても来るんだが」
父は首をかしげながら、シュウの部屋の前まで行く。
ゴンゴンと乱暴にドアを叩く。
「おい、修司!飯が冷めるぞ!!」
しかし、返事が無い。
「……修司?」
不審に思い、そっと扉を開けて中の様子を見てみる。
部屋の中でシュウは、机に向かってモクモクと真剣に何か作業をしていた。
「なっ!!!!????!?!?」
それを見た父は、エイリアンにでも遭遇したような素っ頓狂な顔をする。
そして、何も見なかったかのようにそっと扉を閉じた。
「しゅ、しゅしゅしゅしゅしゅ、シュウ、じが、べん、べんべべべべんべん、勉、強、をしている……!?」
父は、大きく深呼吸して、頬をつねる。
「いでえええ!!!」
夢ではなかったようだ。
「……オレ、熱でもあるのか?」
額に手を当ててみる。
「熱は、無い」
さっきのは見間違いかもしれないので、とりあえずもう一度部屋を覗いてみた。
「……間違いない。あれは、勉強をしている後姿だ。くぅぅぅ、偉いぞ修司!うん、飯なんか冷めたっていい!そのまま思う存分勉強したまえ!お前の分は俺が食う!!」
感動の涙を流しながら父はその場を去っていった。
もちろん、シュウは自分の部屋に篭って勉強していたわけではない。
「くそっ、やっぱ直らねぇ……でも、なんとかしなきゃ。明日までに、なんとか……!」
涙を浮かべながらブレイグを弄っていたのだ。
「ゴメンよ、ブレイグ。お前の悲鳴を聞いてやらなくて。バトルの事しか考えなくて」
カチャカチャと、ビーダマンのセッティングを変えている。
「ずっと戦いっぱなしだったんだから、お前も疲れてたんだよな。なのに、無茶ばっかりして、ゴメンな」
パックを外し、付け替える。
「前の町で賢太郎が付け替えてたパーツだけど、これで少しは楽になるのかな……?」
賢太郎と言うのは、前の町の友達のようだ。
「キツかったよな、辛かったよな……でも、安心しろ。明日は俺がなんとかするから。だから、少しの間だけ耐えてくれ……!」
そして、再戦の時が来た。
シュウとタケルが再び同じステージで対峙する。
「ルールは昨日と同じだ。いいな?」
「おう!」
言って、シュウはブレイグを取り出して構える。
「っ!」
タケルは、ブレイグの見た目が変わっている事に気付いた。
(ショートバレルにストレートマガジンか……戦略を変えてきたか?)
「行くぜ!」
「ああ」
「「レディ!ビー・ファイトォ!!」」
バトルスタート!
ステージ中央のパックに向かってビーダマンを乱射する。
「やれぇレックス!!」
先制はレックスが取った。パワーショットがパックをフッ飛ばす。
「ブレイグ!」
パコンッ!
ブレイグのショットは昨日の時よりもさらに威力が落ちていた。
(さすがに、完全に修理は出来なかったようだな……!)
「まだまだ!!」
「ん?」
向かってくるパックを、ブレイグは連射で食い止めた。
「ほう……」
「いいぞ、ブレイグ!」
(あのセッティング。パワーが出せない分を連射で補うようにしたか。しかも、パックの強制力を小さいものに変えて機体の負担を抑えている。なるほど、少しは考えたようだな)
「耐えろブレイグ!本調子じゃないお前がいつもみたいに戦ってもまた返り討ちに合うだけだ。とにかく今は、チャンスを待つんだ!」
「くっ、意外としぶといな……!」
タケルは昨日と同じような戦術で戦っているのだが、シュウは何発も何発もショットをパックに当てて小刻みに移動させているので、今度はタケルの方が翻弄されているようだ。
(本調子でないブレイグであそこまで戦えるとは、シュウ自身のポテンシャルが高いって事か。だが……!)
「よし、いける!いけるぞブレイグ!!」
「所詮は付け焼刃!!ここからが本番だ!!」
ドンッ!!
レックスのシメ撃ち。それは昨日のときのショットより遥かに強い。
「なにっ!なんてパワーだ……!」
パックがシュウの陣地の手前に来る。シュウは慌てて連射して押し返す。
「負けてたまるかよぉ!」
「そろそろ決めるか……」
カチャ……!
突然タケルが、レックスの腕パーツを弄り始めた。
「な、なんだ?!バトル中に機体を弄るなんて……故障でもしたのか?」
カチャカチャと弄っている間、レックスは無防備だ。
「なにはともあれ今がチャンス!!」
ズドドドド!!とここぞとばかりに連射してパックを押し返す。
そしてパックはタケルの陣地にどんどん迫って行く。
「よし、一気に決めろ!」
「甘い!!レックス、シフトチェンジ!!」
レックスの腕パーツの一部が外れる。
「なにっ、パーツが外れた!?」
そして、巨大なグリップを取り付けた。
「シフトレックス・グリップモード!!」
「パーツの付け替えで、変形した……!?」
「これが、シフトレックスの真の力だ!!」
ドンッ!ドンッ!!
さっきよりも強力で、正確なショットがシュウを襲う。
「ぐっ!!パワーが上がってる……!」
「巨大なグリップを装着する事で、激しく動いてもブレが無くなり、機体に効率よくパワーを伝えられるんだ」
「ま、まだこっちの方が勝ってるんだ!なんとか押し切れ!!」
まだパックはタケル側にある。シュウがまだ有利だ。しかし……。
「行くぞ……レックス!!!」
バンッ!!
タケルがレックスを台に叩きつけ、路面にめり込むんじゃないかってくらい押し付けた。
ゴゴゴゴゴ!!!
その衝撃は凄まじく、地面が揺れるほどだ。
「うっ!な、なんだぁ!?」
ゆれる地面に足を取られて上手くショットが出せない。
「コレが俺の必殺ショット……グランドプレッシャー!!」
バゴオオオオオオオ!!!
レックスから放たれたショットが空気を切り裂きながらぶっ飛ぶ。そのスピードは先ほどのパワーショットとあまり変わらないのに、威圧感は段違いである。
「な、なんだこのショットは!?スピードはそこそこなのに、威圧感が半端じゃない!!」
ガッ!バゴーーーン!!!
グランドプレッシャーがパックに当たった瞬間、もの凄い勢いでパックがシュウ側へと弾かれていった。
「い、今のショットは……!スピードと破壊力が釣り合ってない……!」
通常、ビーダマンの威力はビー玉の速度と比例する。しかし、今のショットは速度以上に威力があった。
速度以外に威力を上げる要因があったのだ。
「グランドプレッシャーは、機体を路面に叩きつけた瞬間にビー玉を発射する事で、発射したビー玉を超振動させる技だ。
そして、その超振動したビー玉は触れたもの全てを弾き飛ばす!」
「そ、そんな技があるのか……!」
「さぁ、次で決めるぜ!」
再びグランドプレッシャーを放つ。次これがヒットしたら、パックは確実にシュウの陣地まで弾かれてしまう。
絶体絶命のピンチだ。普通のビーダーなら、ここで諦めてしまうだろう。しかし……。
「負けて、たまるか……!」
シュウの目は死んではいなかった。
「負けてたまるかああああ!!!!」
ありったけの気合いを込めて叫ぶシュウ。圧倒的ピンチで頼りになるのは己の気合いだけだ。
「いいっけえええええええ!!!!!!」
その姿に、タケルは別人の姿をダブらせた。
「ユウジ……さん……?」
思わず口に出してしまった別人の名前に気づいたタケルは慌てて目をこする。
しかし、そこにいたのは、地面に向けてビー玉を撃ち、その反動で跳び上がったシュウだけだった。
「な、跳んだ!?」
「こうなりゃ、こっちも遠慮はいらねぇ!やらなきゃやられるんだ!いくぞ!!」
バッ!
空中で、パックに狙いを定める。
「ブレイグ!!今から俺の渾身の力をお前に与える!!頼む、少しの間だけ耐えてくれ!!!」
ありったけの気合いを込め、ビー玉を放つ。
「メテオールバスター!!!」
バーーーーーン!!!!
必殺技同士の激突!ほぼ同時にパックに命中し、爆風が巻き起こる。
「ぐっ!!」
爆風が晴れると、パックはややシュウよりの陣地で止まっていた。
必殺技対決は僅かにタケルが制したものの、まだ勝負はついていない。
「決まらなかったか……!」
「よし、まだいけるぞブレイグ……!」
パキィ…!
しかし……先ほどの必殺ショットのせいで、ブレイグのホルパーは完全に砕けてしまった。
「ブレイグ!!」
欠片のせいでコアが詰まってしまい、ビー玉が撃てない。
「くそっ!くそっ!頼むブレイグ!あと一発!あと一発でいいから撃ってくれ……!!」
何度も何度もトリガーを押そうとするのだが、玉は発射できない。
「ブレイグーーーー!!!」
「……シュウ、もういいだろう。決着はついた」
「あ……」
タケルの言うとおりだった。パックはシュウの目の前にある。
そして、ブレイグはもう撃てない。勝敗はもう明白だ。
「……ごめん、ブレイグ。結局、勝てなかった……ごめん……!」
涙を流しながらブレイグに詫びると、シュウは顔を上げてタケルに向き直る。
「すまなかったな。この勝負は俺の負けだ。もう二度とここには立ち寄らない……」
言って、出口へとトボトボと歩いていく。
「待てよ」
その背中をタケルが呼び止める。
「?」
振り向くシュウに、タケルは言った。
「お前、その壊れたビーダマンどうするつもりだ?修理してもらうアテでもあるのか?」
「自分で直すさ。どんなに時間をかけても、必ず」
「それは無理だ。その故障は素人じゃ直せない」
「それでも、直す!こいつは、俺の大切な相棒だから!!」
「大切なら、自分の技量を考えて物を言え。そのままじゃそいつが可哀相だ」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!?」
「ウチのクラブの専属メカニックを紹介してやる。腕はいいからそのくらいの故障ならすぐに修理できる」
「だけど……」
メンバーでもなんでもない、無関係の人間がそんなメカニックの力を借りていいのかどうか。
「まだ仮とは言え、お前はウチのメンバーだからな」
「え……?」
それは思いがけない言葉だった。確かに仮入会扱いは切れてないだろうけど、その言葉をここで聞くとは思わなかった。
「まぁ、正式なメンバーになりたかったら早く帰って契約書を持って来るんだな」
「でも俺は、お前に負けて……!」
「何勘違いしてんだ?別に勝ち負けで入会するかどうか決めてたわけじゃないだろ」
「そりゃ、そうだけどさ」
未だに納得がいかないシュウに、タケルはガシッと肩を叩いた。
「このブレイグを見れば分かる。お前がどれだけこいつの事を考えてセッティングしてきたか」
「……」
「今のお前なら、きっとこのクラブを盛り上げてくれる。俺は歓迎するぜ!」
「タケル……いいのか……?」
「ああ。まぁ、お前にその気があるかどうかだが」
「あ、あるさ!俺はどうしてもクラブに入ってヒンメルと再戦したいんだ!!」
「そうか。なら、決まりだな」
「や、や、やったああああ!!!」
シュウは、両手を上げて快哉を叫んだ。
「ちょっと気は早いが入会おめでとうシュウ!これからよろしくな」
ニカッと笑って、手を差し出すタケル。
シュウもそれをガシッと掴んだ。
「おう!こちらこそ、よろしく頼むぜ!!」
つづく
次回予告
「と、言うわけで俺は無事に仲良しファイトクラブに入会できた!あとは打倒ヒンメルに向けて特訓あるのみだぜ!!
っと、その前に、壊れたブレイグを修理しなきゃなぁ……。
そこでタケルに紹介されたメカニックは、なんと琴音のお姉さんだった!って言うか、琴音もクラブのメンバーだったのか?!
次回!『佐倉姉妹!天才メカニックと瞬速の狼』
熱き魂でビー・ファイトォ!!」
ピンバック: オリジナルビーダマン物語 第2話 | ユージンの競技玩具ライフ