オリジナルビーダマン物語 第2話

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爆砕ショット!ビースピリッツ

第2話「入会!仲良しファイトクラブ」

「世界チャンピオンのヒンメル!!道を教えて欲しかったら、この俺に勝ってみせろ!!」
 シュウは、偶然道を訪ねてきた世界チャンピオンに対し、ブレイグを突きつけて啖呵を切った。

「……」
「……」

 しばし、沈黙が流れる。

「あんた……」
 すぅ、と琴音が息を吸った。
「バカじゃないのぉぉ!!!」
 耳がキーンとするくらいの声量で琴音が怒鳴った。

「う、うっせ……バカでかいのはお前の声だろ!」
 耳押さえて非難するシュウ。
「あんたねぇ!話の腰折っただけじゃ飽き足らず、あろう事かヒンメル・フリューゲルに挑戦するなんて……!」
「ビーダーがビーダーにバトルを申し込んで何が悪い?」
 シュウは琴音の剣幕など意に介さずにイケシャアシャアとしている。
「相手はただのビーダーじゃないの!世界チャンピオンなのよ!分かってる!?」
「俺だって、前の町じゃチャンピオンだったんだぜ!ほれ、優勝メダル!」
 ちょっと自慢気に懐からメダルを取り出してみせた。
「規模が全然違う!!」
「チャンピオンである事に変わりはねぇ!!」
 ギャグでもなんでもなく胸を張るシュウに、琴音はそれ以上言葉を失った。
 シュウはヒンメルに向き直って再度問いかけた。
「で、どうする?ヒンメル!」
 シュウに言われ、少し考える素振りをするヒンメル。
「……うん、別に構わないよ。道が分からないままじゃ困るし」
 穏かに笑って、その挑戦を受けた。
「おっしゃぁ!そうこなくっちゃ!!」

 ビーダマンを取り出し、シュウとヒンメルは対峙する。

「ルールはSHB!足に括りつけた紙風船を先に割った方の勝ちだ!フィールドは、この公園内。外に出たら反則!」
「うん、いいよ」
 そして、二人はビーダマンを構える。

「「レディ!ビー・ファイト!」」
 その合図とともに二人はビー玉を発射する。

「いっけぇ!ブレイグ!!」
「エンゲルミハルデン……!」
 ヒンメルのビーダマンは、エンゲルミハルデンというらしい。
 その名の通り、天使のように神々しいデザインのビーダマンだ。

 カンッ!
 初太刀のショットが激突し、互いに弾かれる。

(あれが、世界チャンピオンのビーダマンか……思ったより大した事ないじゃん)
 初太刀は互角だった。チャンピオンだから圧倒的な力を持ってるかとも思ったが、ノーマルショットでのぶつかり合いは引き分けだった。

(案外俺でも世界チャンピオンになれちまうんじゃないか?w)
 密かにほくそ笑むシュウだが、ヒンメルの表情に動揺の色は無い。

「よし、そろそろ体も温まってきたし、いっくぜぇぇぇ!!」
 ギシギシギシ……!
 あらかた相手の技量を見極めたシュウは、これからが本番と言わんばかりにブレイグのコアをシメつける。
「いっけぇぇぇ!!!」
 ドギューーーン!!!
 思いっきり締め付けたコアから発射されたビー玉がヒンメルの紙風船へとぶっ飛んでいく。
「このまま決めてやる!!」
「……」
 ドンッ!
 迎撃するために、ヒンメルもビー玉を撃つ。が、その威力はシュウのショットよりも遥かに弱い。
「へっ!そんなんで俺のショットが撃ち落せるか!!」
 ガキンッ!!
 シュウの言うとおり、ヒンメルの迎撃はあっさりと弾かれてしまう。
 そして、そのままシュウのショットがヒンメルの紙風船へ……!
「な、んだ……?」
 シュウは、眼を疑った。真っ直ぐヒンメルの紙風船へと向かっていたはずのシュウのショットが途中で反れて、外れてしまったのだ。
「そんな、ちゃんと狙ったはずなのに……!」
 確かに、ブレイグの攻撃は紙風船へ当たるラインだったはず。
 ヒンメルは全く動いていなかった。なのに、まるでシュウのショットが自分から避けるみたいに曲がったのだ。
「ぐ、偶然だ!まだまだ行くぜ!」
 気を取り直して、シメ撃ちを放つ。
 ヒンメルもさっきと同様にそれを迎撃する。

 結果は同じだった。ヒンメルの迎撃を弾き飛ばしたシュウのショットが、紙風船に当たる前にカーブしたのだ。
「ど、うなってんだよぉ!!」
「パワーが自慢みたいだけど、それじゃ意味無いね」
「ぐぐ……!」

 その様子を観戦している琴音達。
「すごい……あれが世界チャンピオンの戦い……」
「俺、生で見るの初めてだ……」

 パワーでは圧倒的にシュウが勝っている。なのにシュウは完全に翻弄されていた。
 そんな不可思議な光景に、琴音は身震いした。
「原理は分からないけど、シュウはショットを外してるんじゃない。ヒンメルに『外されてる』んだわ……。火力差ではなく、テクニックだけであそこまで翻弄できるなんて……!」

 シュウはそれからも何度も何度もシメ撃ちをぶっ放すが、その悉くをかわされ攻め疲れでバテバテだ。
「はぁ……はぁ……!」
 息が切れてきた。
 対するミハルデンは、ペースを温存しているため、まだ全然スタミナに余裕がある。
「くっそぉ、ロクにパワーも連射もしないくせに……!」
 ぶつかり合わずに、ただ消耗しあうだけの戦いにイラつくシュウ。
「相手の攻撃は全てかわし、自分は体力を温存しつつスタミナ切れを狙う。
これが、無傷の大天使。ヒンメル・フリューゲルとミハルデンの戦い方……!」
 琴音も、世界チャンピオンの戦いっぷりに戦慄する。

「でも、でもそれじゃ、お前だって勝てないだろ!!」
「……」
「攻めてこいよ!男なら……ビーダーなら、世界チャンピオンなら!真っ向勝負でぶつかって来い!!」
 シュウの挑発に、ヒンメルはクスリと笑う。
「そうだね。そろそろ行こうか、ミハルデン……リングエンゲル!」
 ヒンメルが、ミハルデンに何らかの細工を施した。
(なんだ?何をしたんだ……?)
 そしてヒンメルはビーダマンを空に向ける。
「上に向かって?!」
「はぁぁ!!」
 ドンドンドンッ!!
 ヒンメルは上に向かって何発も何発もビー玉を撃ち出した。
「な、なにを……?」
 全く意味が分からない。ヒンメルを見ても不敵に笑うだけだ。
「何、企んでやがんだ……!」
 しかし、いくら待てども何も起こらない。
「なんだよ、ただのコケ脅しだったみだいだな。驚かせやがって」
 チャキッ……!
 ブレイグを構えなおす。
「もう下手な小細工は通用しねぇぞ!最大パワーで決めてやる!!」

「無駄だよ」
 力を込めるシュウに対し、ヒンメルは冷酷に言い放つ。
「なにぃ!ハッタリを言うな!」
「空に、捕まってる……」
 ボソッと、ヒンメルは呟いた。
「え、なんだって?」
「君はもう、空に捕まってるから」
「は、空?」
 ヒンメルのセリフの意味が分からず、首を傾げる。
「シュウ!上を見て!!」
 琴音の声にハッとして、シュウは空を見上げた。
「なにっ!?」
 先ほどヒンメルが連射したビー玉が空中で弾かれ、四方八方に散らばる。
 そして、散らばったビー玉がシュウの周りに落下していく。
 落下し、地面に接地したビー玉には回転がかけられていたらしい、全てのビー玉が地面を蹴ってシュウの元へと集束していく。
「なっ!」
 全方位からの襲撃!これでは避けようがない!!
「くそっ!」
 必死に迎撃するシュウだが、全てを撃ち落せるわけがなく……!

 バーーーン!!!
 シュウの紙風船は無情にも割られてしまった。

「……嘘だろ。なんだよ、今の技……」
 力抜け、がっくりと膝をつく。
「さて」
 ヒンメルはそんなシュウを無視し、琴音のもとへと歩み寄る。
「約束どおり、教えてくれないかな。セントラルホテルの場所」
「あ、は、はい……!」
 シュウと同様に呆然としていた琴音は、ヒンメルの言葉で我に返った。
 そして、セントラルホテルまでの道のりを懇切丁寧に教えてやると、ヒンメルは笑顔でお礼を言って去っていった。

 その背中を、シュウはただ目で追う。
「……」
 ヒンメルの背中が見えなくなり、シュウは視線を地面に落とした。
「負け……た」
 完敗だった。
 まるで、歯が立たなかった。
 こっちの攻撃は全て通じず、相手の攻撃には全くなすすべもなく。
 ヒンメルは、まるで赤子の手を捻るようにシュウを倒してしまった。

「シュウ……」
 さっきまでの元気な姿を見ているからか、シュウの落ち込みように琴音は同情した。
 肩でも叩いて慰めてやろうと、傍まで来たのだが……。
「ふふ……へへへ……」
 その肩が震えていた。
 最初は泣いているのかとも思ったが、どうも違う。
「へっへっへっへ……!」
「ちょ……あんた笑ってんの?(汗)」
 さすがに気色悪いので引いた。

「ずっと……待ってたんだ……」
「は?」
 シュウは顔を上げ、拳を握り締める。
「この瞬間を……!この、シチュエーションをなぁぁ!!」
「???」

「この町に引っ越して来てよかったぜ!あんなすげぇ奴と戦えるなんてなぁ!!
見てろよヒンメル!次は絶対負けねぇからなぁぁぁ!!」

(って言うか、ヒンメルは別にこの町の住民ってわけじゃないんだけど(汗))
 ヒンメルは、何故かたまたまこの町にやってきただけであって、ここに住んでればまた戦えると言うわけじゃないんだが、多分言っても無駄だろう。
「やってやるぜェえぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」
 シュウは目標ともいえるビーダーの出現に更に闘志を燃やすのだった。

 そして、翌日。
 爆球小学校5年2組。
 朝のHRの時間、児童達は各々の席につき、教卓に立つ先生を凝視している。
 先生は若い男で、大学を卒業したばかりの生鮮たる顔立ちをしている。
 体もなかなかガッチリしており、教師と言うよりスポーツマンのようにも見える。大学時代ペタングでもやっていたのだろう。
「え~、今日は皆に新しい仲間を紹介する事になったぞ!」
 先生が爽やかな笑みを浮かべて声を上げる。
 ざわめきだす児童達をなだめつつ、先生は廊下の外に声をかけた。
「竜崎君、入って良いぞ!」
 先生の声と共に、竜崎と呼ばれた少年……シュウがやや緊張した面持ちで教室に入る。
 その間に、先生は黒板に『竜崎修司』とでっかく書いて前を向いた。
「今日から、皆と一緒に勉強する竜崎修司君だ!仲良くしてやってくれ!!それじゃ、竜崎君。自己紹介を」
 先生に促されてシュウは一礼した。
「えっと、竜崎修司です。前の学校ではシュウって呼ばれてました。
趣味は、ビーダマン。特技は、ビーダマンバトル。そして、夢はでっかくヒンメル打倒!!」
 『ヒンメル打倒!』の言葉に、児童の一人が立ち上がる。
「ヒンメルってあの世界チャンピオンの?そんなの無理に決まってんじゃん!」
 更に別に児童も野次を飛ばす。
「そうそう。俺たちなんてバトルする事すらできねぇよ」
 それらを皮切りに児童達が次々に野次を飛ばす。
「こ、こらこら!みんな、仲良くするように!!」
 慌ててなだめようとする先生を遮って、シュウは口を開く。

「そんなのやってみなくちゃ分からねぇだろ!それに俺、ここに越してきた日、ヒンメルとバトルした事あるんだぜ!!……負けちまったけど」
 シュウの言葉に、更に児童達は騒ぎ出す。

「えぇうっそぉ!」
「なんでドイツ人のヒンメルがこの町に来てんだよ!?」
「あ、そういえばニュースでヒンメルがなんかのイベントのために来日してるって言ってたけど……」
「っつーか、結局負けてんじゃねぇかよ!!」

「あぁもう皆静かに!!」
 見かねた先生が一括すると、児童達は水を割ったように静まった。
「とにかく、そういうわけだ。竜崎君はビーダマンが好きみたいだ。このクラスにもビーダマンファンは結構多いんじゃないか?是非一緒に遊んで絆を深めていってくれ。それじゃ、竜崎君の席は……」
 シュウの席は、窓際の前から3番目の席が空いていたのでそこに決まった。

 シュウが席につくと、隣の男子が声をかけてきた。
「俺は田村。俺もビーダマンやってんだ。今度バトルしようぜ!」
「おう!よろしくな!!」

「それじゃ、朝のHRは以上だ」
 そして、学級委員と思われる女子児童が立ち上がる。
「起立!」
 その合図と共に他の児童も立ち上がる。
「気をつけ、礼!」
 児童達の一礼を見届けてから先生は教室を出て行った。

 ……。
 ………。

 そして、昼休み。
 転校生恒例イベントである質問攻めも、授業合間の小休憩時間を経て随分と収まり。
 昼休みともなれば、結構落ち着いてそこそこ仲の良い奴も出来たりする。
 シュウは、隣の席になった田村、田村の友達の吉川と一緒に談笑していた。

「へぇ、それがお前のビーダマンかぁ。見た事無い型だな」
 シュウは、ブレイグを二人に見せていた。
 二人はブレイグを見て物珍しそうにする。
「そなの?」
「うん、売ってるの見た事ない」
「どこで買ったんだ?」
「ん~、買ったんじゃなくて、前の家の物置の中に置いてあったのを一ヶ月前に見つけたんだ」
「へぇ、じゃあ誰かが作ったオリジナルビーダマンかなぁ?」
 ビーダマンは、基本的に市販品を改造したものを使用するものだが。
 レギュレーションさえクリアしていれば、どんなビーダマンを使っても良い。

 市販品をそのまま組み立てた素組み機
 市販品同士を組み替えたカスタム機。
 市販品のものを加工した改造機。
 一から作り上げたオリジナル機といろいろあるのだ。

 レギュレーションで指定されているのは。
 サイズ、重量、出力、形状……等の制限が主たるものなので、それさえ守っていれば結構自由度が高く。
 改造も楽しいので、バトルよりも改造を主な楽しみにするメカニックマンと呼ばれる人間も増えている。

「ん~、よく分かんねぇや。ま、強けりゃいいのさ強けりゃ」
 両手を後頭部で組み、ナハハと笑っていると。廊下の方から呼ぶ声が聞こえた。

「お~い竜崎!お前に用があるってよ~!」
 同じクラスの男子が呼んでいる。
 転校したばかりのシュウに一体誰が用があると言うのか?もしかして、手続きに不備があったのか?
 どっちにせよ、なんだかめんどくさそうな顔でシュウは立ち上がった。

 呼び出した男子児童は、廊下に立っている男を指した。
 そいつがシュウに用があるのだ。
 そいつは、シュウよりも一回り大きくかなりゴツイ体つきをしている。
 一瞬大人かとも思ったが、顔つきから少々幼さも覗かせる。
 恐らく、6年生だろう。しかし、何故に6年生がシュウを呼び出すのか……。

「お前か。竜崎修司……いや、シュウって奴は」
 6年生は、威圧感のある顔でシュウを見下ろす。声もなんだか渋い。
「あぁ、そうだけど?」
 しかしシュウは全く動じずに普通に返す。
「そうか……お前、こないだ公園で派手に暴れてくれたらしいな?」
「暴れた?……あぁ、あの事か!」
 引っ越した日の事だろう。
 なるほど、そのときにいた誰かがこの男の仲間で、そこから今の用事と繋がっていると言うわけだ。
「あそこにいた奴らは俺の仲間でもある。仲間達がやられたとなっちゃ黙っていられんからな。挨拶に来たってわけだ」
 こいつは、所謂ガキ大将って奴だろうか?
 子分をやられた落とし前でもつけるつもりなのだろう。
「へぇ、そりゃご丁寧に」
 シュウはビビる事無く不敵に笑う。
 腕っ節じゃ負けそうだが、相手もビーダーなら、バトルで勝負を挑んでくるはずだ。
 だった別に怖くない!
 と、思ってると、いきなりガキ大将はシュウの手を掴んできた。
「っ!?」
 さすがに一瞬怯んだが、ガキ大将はニカッと笑って。
「ようこそ!爆球町へ!!」
「……」
 一瞬、思考が止まった。

(なんだよ、ほんとに挨拶に来たのかよ)
 先ほどとは違い、友好的な態度に面食らう。
「俺の名前は守野タケル。この町唯一のビーダマンクラブのリーダーをやっている。
お前のバトルっぷりは仲間から聞いたぜ。なんでもヒンメルとなかなか良い勝負したとか」
「ははは、まぁな!」
 ボロ負けだったけどな。
「そこでだ。うちのクラブでは強いビーダーを募集してる。どうだ?よかったら放課後見学に来ないか?」
「クラブか……」
 シュウは一考する。
 別にフリーで活動してもバトルは出来るし、会費とかめんどくさそうだ。
「クラブに入るメリットはあるぞ。大会の情報はよく入るし、練習のための設備も整っている。クラブに所属してないと参加できない大会とかもあるしな」
「なるほどなぁ……」
「それに、ヒンメルと戦うにしても所属してた方が断然いい」
「なに!?」
 ヒンメルの言葉にシュウは過剰反応する。
「どういうこったよ!?クラブに入ったらヒンメルとまた戦えるのか!?」
「フリーで活動するより、そっちの方が可能性があるって事だ。
ヒンメルは……と言うか、ヒンメルの付き人だな。キチンとした正式なバトルしか許さない主義なんだ。草バトルなんてもってのほか。
この前お前とバトルしたのは恐らくかなり稀な事。たまたまヒンメルの付き人がいなかったんだろう」
「あ、確かに……」
 あの時はヒンメルがたまたま迷子だったからバトルが出来たようなものだ。

「でも、本来はこうはいかない。大事な世界チャンピオン様だからな。得体の知れない奴と戦わせてもしもの事があったら大変だろ。
まぁ、当の本人は、そういう事に無頓着らしいが」
「随分詳しいなぁ……」
「ソースはネットだけどなw」
 世界チャンピオンだから、そういう情報や噂は飛び交っているのだろう。

「って事は、ちゃんとしたクラブに入らないと、ヒンメルとの再戦は出来ないって事か……」
「可能性として、そっちの方が確率が高いってだけだけどな」
 どんだけ強くなれても、戦えなければ意味が無い。
 シュウはすぐに返事した。
「分かった入るぜ!あんたのクラブに!!」
「即決だな。でも、いいのか?会費とか。そういう事聞かなくて」
「あぁ、なんとかなる!!」
「……悪徳業者に騙されるタイプだな」
 タケルはシュウの思い切りの良さに少々将来を心配してやった。

 そして放課後。
 シュウはタケルに連れられてクラブの練習場に案内された。
 少し古びた建物の看板には『仲良しファイトクラブ』と書かれていた。
「ここだ」
「……『仲良しファイトクラブ』?」
「あぁ、うちのクラブの名前だ」
「『仲良し』って……」
 なんだか、ここにきて不安になってきた。

 とりあえず、中に入る二人。
 練習場には、さまざまなトレーニング機器が並べられ、ステージバトル用の台や空間バトル用のリングもある。
「おぉ、すげぇ!!」
 本格的な設備の数々に、シュウは目を輝かせた。
「気に入ったか?」
「入った入った!!」
「んじゃ、とりあえず今日は仮入部扱いだ。この契約書を持って帰って親と相談してからサインして持ってきてくれ。それで入会完了だ」
「おう、分かった!」
 契約書を渡され、ロクに読まずにカバンにしまう。

「ほんと、騙されやすいタイプだろうな、お前……」
「いいだろ、別に。それより、クラブの他のメンバーは?」
 シュウは周りを見回しながらたずねる。
 確かに設備は立派なのだが、他に人が全くいない。
「あー……」
 シュウの疑問に、タケルは罰の悪そうな顔をする。
「?」
「い、いやぁ、ビーダーとしてのメンバーは俺含めて二人だけだったり……」
 コメカミに汗をかきながら、タケルは衝撃の告白をした。
「マ、マジかよ……」
 唖然とするシュウに対し、タケルは慌ててフォローする。
「こ、これでもな!数年前までは結構でっかいクラブだったんだぜ!でも、年々会員が減少してってな……」
「それで転校初日の俺に声をかけてきたのか……」
 額に手を抑えて呆れるシュウ。
「や、やっぱアレか?こんな廃れたクラブじゃ入る気失せるか?」
 シュウの態度に不安を覚えたタケルは下手に出る。
 しかし、タケルの不安は杞憂だったようだ。
「いや、俺としちゃヒンメルと戦えさえすればいいし。設備も気に入ったし、名前はちょっとアレだけど……とりあえず、断る気は無いぜ!」
「ほんとか?」
「あぁ!」
 シュウの返事に、タケルは感激し、シュウの手を両手で握り締める。
「ありがとううう!!久しぶりのメンバーだ!これからよろしくなああああ!!!」
「お、おう、こちらこそ……ってか、いでででで!!!」
 タケルの力はかなりのものらしく、思いっきり握られたシュウの手の骨が軋むほどのものだった。
「あ、すまん」
 タケルは慌てて手を離す。シュウは圧縮されてプックリと腫れ上がった手にフーフーと息を吹きかける。
「ったく……!」
「ははは。あ、そうだ。せっかく仮入会祝いしたんだ。練習がてら、バトルしないか?」
「おう、やるやる!」
「よし、じゃあそうだな……バトルホッケーでもやるか!」

 シュウとタケルは台の前に立った。
 そして、台の中央に三角パックを設置する。

「先に三角パックを相手の陣地に押し込んだ方の勝ちだ」
「おう!」

「「レディ!ビー・ファイト!!」」

 バトルスタート!
「いっけぇ!ストライクブレイグ!!」
「シフトレックス!!」
 タケルのマシンは、レックスと言うらしい。
 ティラノサウルスを模した重厚感のあるボディに赤のカラーリングが施されている。
 みるからにパワー型のマシンだ。

 バーンッ!!
 開始早々三角パック目掛けて猛連射!
 連射を受けて、パックが行ったり来たりする。
「パワーは互角か!?」
「それはどうかな?」
 シュンッ!
 レックスのショットがパックを斜めに動かす。
「っ!」
 そのせいでブレイグのショットが外れる。
「くそっ!」
 慌てて狙いを定めなおすのだが、その隙にまたレックスのショットが決まる。
「あっ!」
「火力だけじゃこのバトルは勝てないぜ!」
「くそっ、バカ力だけかと思ったけど、こいつテクニックもある……!」
「バトルホッケーは総合力の勝負だ。そんな一本調子じゃあ……!」
「負けてたまるかぁ!!」
 ドンッ!!
 シメ撃ちでパックを押し返す。
「っ!」
「男だったら攻撃あるのみ!連射が出来なくたって、コントロールが悪くたって、パワーで押し切る!!それが俺のバトルだ!!」
 再び強烈なパワーショットでパックを撃ちこむ。
「くそっ!」
 タケルも負けじとパワーショットで止めようとするが、押し込まれる。
「っ!俺よりも強力なショットを……!」
 タケルは自分よりも小柄なシュウが放つショットが自分の全力ショットより上回っている事に驚愕した。
(なるほど、こいつ気合い量が半端じゃないのか……気合いを入れれば脳内にアドレナリンが分泌されて、一時的に筋力を増強させる。
基本的な筋力は俺の方が勝ってるが、その分を気合いだけで補ってやがる……なんて奴だ……!)

「おっしゃぁ!このまま攻めるぜ!!」
 どんどんパワーショットを撃ち込んで、パックを押し込んでいくシュウ。
(だが、あの戦い方は……!)
 パックはどんどん押し込まれ、後一歩でシュウの勝ちという所まで迫った。
「これで、トドメだああああ!!!」
 しかし……!

 ベキィ!!
 何かの破裂音が響き渡ったかと思うと、ブレイグから発射されるショットの威力が数段下がった。
「え!?」
「(やっぱりな)やれ、レックス!」
 その隙にレックスのショットがパックを押し込んでいく。
「ブ、ブレイグ!!」
 慌てて押し返そうとするのだが、さっきと違い威力が全然上がらない。
「ど、どうしちまったんだよ。ブレイグ……!」
「勝負あったな」
「何言ってんだ!まだまだこれからだぜ!!」
「気付かなかったのか、あの音に……」
「音?」
 そういえば、何か変な音がしてからブレイグの様子がおかしくなったような……。
「恐らくホルパーが一本欠けたな。そのビーダマンじゃもうパワーショットは撃てない」
「そ、そんなのやってみなくちゃ……!」
 勝負を諦めないシュウだが、パックはどんどん押し込まれていく。
「ぐぐ……!ブレイグ!しっかりしろ!このままじゃ負けちまうぞ!!」
「……」
 なすすべ無く、迫ってくるパック。
「くっそぉ!!撃て!撃てよブレイグ!!!こんなんじゃ、こんなんじゃヒンメルに勝てないだろうが!!!!」
「終わりだ」
「っ!!」
 バーーン!!!
 レックスのパワーショットが決まりパックがシュウの陣地に押し込まれた。
「負けた……」
 肩を落とすシュウ。
「くそ、なんでこんな時に壊れるんだよ……!」
 そんなシュウに対し、タケルは厳しい顔を向けた。
「な、なんだよ…?」
「……シュウ。悪いが、入会の話は無かった事にしてくれ」
「え……?」
 いきなりの交渉決裂にシュウは耳を疑った。
「お前は、うちのチームに必要無い」
 淡々とそう告げると、タケルは踵を返してしまった。
「え、ええええええええ!!!」

      つづく

 次回予告

「ふざけんな!自分から勧誘しといて、俺の事必要ないってどういう事だよ!?
ヒンメルと再戦するためにも、俺は入会しなくちゃいけないのに!!
え、俺はビーダー失格だってぇ!?い、意味分かんねぇよ……!

 次回!『愛機への想い ストライクブレイグVSシフトレックス!』

熱き魂でビー・ファイトォ!!」

 




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