オリジナルビーダマン物語 第4話

Pocket

 

爆砕ショット!ビースピリッツ!!

第4話「佐倉姉妹!天才メカニックと瞬速の狼」

 タケルとの激闘の末、シュウは仲良しファイトクラブへの入会を許可された。
しかし、連戦続きのブレイグはボロボロになっていた。

仲良しファイトクラブ。
タケルが、ブレイグを不憫に思いながら言う。
「とりあえず、お前のブレイグ修理しないとな」
「そ、そうだ。俺、結局ブレイグを直せなくて……」
「安心しろ。クラブ専属のメカニックを紹介してやる。そのくらいの故障ならすぐに直してくれるはずだぜ!」
タケルがポンと胸を叩く。
「メカニック……?」
「あぁ。とりあえず、今日の所はもう遅い。明日の放課後ここに来てくれ。そしたらラボに案内してやるから」
「分かった!」
と言うわけで、今日のところはお開きになった。

シュウの家。
「ただいま~!!」
玄関に入ると、エプロン姿の親父が出迎えてくれた。
「おう、修司おかえり!今日は遅かったな?」
「うん、ちょっとね。いろいろあって」
喜々と喋りながら、いそいそと靴を脱いで部屋に上がる。
そんな様子に親父は顔をほころばせた。
「そうか、早速新しい友達でも出来たんだな!良い事だ!この町でも上手くやっていけそうじゃないか」
「まぁ、そんなとこ。あ、そうだ父さん!これ見て!!」
言って、シュウはカバンからタケルに渡された契約書を取り出した。
「なんだなんだ、学校から貰ったプリントか?」
親父は、興味深そうにそれを受け取って、マジマジと眺める。
「ううん。この街のビーダマンクラブの契約書なんだ。俺、どうしてもそこに入りたいんだ!いいだろ……?」
シュウの声を聴きつつ、親父はプリントを読み進める。
「まぁ、それは構わないが……何々、げぇ、会費かかんのかよ……まぁ、そんなに高くはないか」
ポリポリと渋い表情をする。
「と、父さん……?」
そして、しばらく黙り込んでう~むと唸る。
「ん~……まぁ、いいだろう。これも良い社会経験だ」
「ほんと!?やったぁ、ありがとう父さん!!!」
「その代わり、やるからには最強のビーダーになるんだぞ!」
言って、親父は拳をシュウに向かって突き出した。
「おう、当然だぜ!」
シュウも、その拳に自分の拳をぶつけて答えた。
「んじゃ、後でサインしてやるから。とりあえずカバン置いて飯にしようぜ」
「うん!」

そして、翌日の放課後。
「タケル~!来たぜ~!!」
シュウはクラブの扉を開いた。そこにはタケルが立っていた。
「おう、約束通り来たな。んじゃ、早速行くか」
そう言うと、タケルは扉を開けて外へと歩き出した。
「お、おい!どこ行くんだよ?」
タケルの後をついていきながら、シュウは問う。
「この先に、メカニックマンのラボがあるんだ。そこに案内してやるよ」
「メガ肉マン……?」
デカイ肉まんだろうか?それとも、新しい筋肉マソのキャラ?
「……お前、ほんとにビーダーか?」
「その突っ込み、なんか前にも聞いたな……」
「メカニックマンってのは、ビーダマンの技術面のスペシャリストって事だ。メンテナンスやセッティング、改造やビーダマンの製作だって出来るんだぜ」
「へぇぇぇ!すっげぇなぁ!!」
よく分からないが、なんだかすごそうだ。
「おっ、見えてきたぜ」
タケルの指差す先にボロ屋が見えてきた。
「邪魔するぜ~」
二人は、ボロ屋に入る。

外見はボロボロだが、中はなかなかに整頓されている。
キレイに掃除された床に、壁につけられた机の上には工具類や機械類が整然と置かれている。
でも、逆に生活感がないというか。あまり使われてなさそうな印象も受けた。
「うわぁ、すっげぇぇ!!」
シュウは、棚に飾られたビーダマンを見つけた。
それらは、市販では見たことが無い珍しい形のものばかりだった。
「見たこと無いビーダマンばっかりだ~!強そうだなぁ!!」
「あぁ、ここにあるのは全部メカニックの製作したオリジナルビーダマンだ」
「オリジナルビーダマン!?へぇ~、こんなの作れるんだ……!」
それぞれのビーダマンには札が置かれており、そこにマシン名と製作日、簡単なスペックが記載されていた。
「あ、これとかめっちゃカッコイイ~!!」
シュウが目をつけたのは、数あるビーダマンの中でも特に厳重に保管されている三体のビーダマンだった。
鍵のかけてある棚のなかに、更に透明のケースに保管してある。相当大事なものなのだろう。
緑色のビーダマンが一番前でやや斜め後ろに赤色のビーダマンが並んで立っており、その二つのビーダマンに隠れるようにもう一体ビーダマンがある。
「これは昔のレギュラーメンバーが使ってたビーダマンだ。なかなか高性能で四年前の世界大会にも出場したくらいなんだぜ」
「へぇぇぇ!!このビーダマンが世界大会に…!えっと、ライトニングヴェルディル……?」
シュウは、一番目につきやすい位置にある緑色のビーダマンを見た。
「あぁ、ローラーホルパーに、片手撃ち用のグリップを装備した連射型ビーダマンだ。
使用者は昔の俺の先輩。高橋ヒロトって言う、ビーダーの間じゃそこそこ有名な人なんだが……お前は知ってるわけないか」
世界チャンピオンさえ知らなかったシュウが知っているわけがない。
「うん…ってか、このクラブに有名人がいたんだ……」
「だから、昔は大きなクラブだったって言っただろ」
「う~ん、どうも想像つかないんだよなぁ……あ、こっちの赤いビーダマンもカッコイイな!」
ライトニングヴェルディルの隣に保管されてあるビーダマンにも目をつける。
「それは……」
「なんかこいつ、レックスとよく似てるような……」
「んな事よりシュウ。お前メカニックにブレイグを修理してもらいに来んだろ?見学してる場合じゃないだろが」
シュウの疑問を遮るように博物館感覚で楽しむシュウをタケルは嗜めた。
「あ、そうだった。ってか、誰もいないじゃん」
工房はガランとしていた。
「ん~、今日もここに寄ってないのか。全く、あの人にも困ったもんだ」
タケルが困ったように後頭部を掻いた。
「今日はそのメカニックは休みなのか?」
「いんや。居場所の検討はついてる。悪いけど、ちょっと出るぞ」
タケルはそう言って工房を出る。シュウもその後をついていった。
案内された場所は、シュウもよく知っている場所だった。
「って、ここ公園じゃん」
シュウが引っ越してきて最初にファイトした場所だ。
どう考えても技術屋と結びつくような場所だとは思えないのだが。
「ん~っと……」
タケルは、公園内を見渡す。
「お、いたいた!」
そして、中央のリングが設置されている場所を指差した。

そこでは、一人のセーラー服を着た女性に群がる子供たちの姿があった。
「あやねぇあやねぇ!僕のビーダマン、なんだかビー玉がまっすぐ飛ばないんだ」
小さな男の子が女性にビーダマンを渡す。
女性は、丁寧にそのビーダマンを分解してやる。
「う~ん、トリガーが少しブレてるね……ここを、こうして……はい、これで大丈夫だよ」
優しく微笑みながらビーダマンを返す女性に、男の子は顔を綻ばせる。
「うわぁ、ありがとう!あやねぇ!!」
すると、他の子供たちも我先にとビーダマンを出してくる。
「次は俺の番だぞ!」
「俺のビーダマンも見てよ~!」
そんな子供たちに圧倒されながらも、女性は楽しそうに笑う。
「はいはい、順番順番。ね?」
その顔は、まるで母親のような慈愛に満ちていた。
そこへ、タケルが顔を出した。
「また公園で子供達のビーダマンを見てたんですか?」
女性が顔を上げる。
「あ、守野君……」
少しバツの悪そうな顔になる。
「一応クラブのメンバーなんだから、クラブに関係する活動してて欲しいんだけどな……」
年上だからか、タケルはちょっと遠慮がちに女性を叱った。
「ごめんなさい。私にはあのラボはちょっと息苦しくて……」
「ま、彩音さんらしいっちゃらしいけど。それより、ちょっと見て欲しいビーダマンが」
「?」
「新しくクラブに入ったこいつのビーダマンなんすけど……」
タケルに促される形で、シュウがひょっこり顔を出した。
「こいつのビーダマン、なんか内部のホルパーが破損してるみたいなんで悪いけど修理してやって欲しいんだ」
「あ、ども。竜崎修司です。シュウって呼んでください」
とりあえず自己紹介してみた。
相手は見た目自分より小さいが制服着てるから多分中学生だろう。
だったら年上なので敬語を使った。
しかし、タケルに彩音と呼ばれた女性は、シュウの顔を見たとたん硬直してしまった。
目を見開き、信じられないと言う顔をしている。
「……お兄……ちゃん……?」
小さく開かれた口からは、そんな言葉が漏れた。
(彩音さんも、か)
タケルは、なんとなく彩音のその発言に同情した。
「は?」
しかし、シュウ耳を疑った。
見た目確かにシュウの方が若干大きいが、どう考えても女性のが年上だ。
年上の女性に兄貴呼ばわりされるのも悪い気はしないが、やはり反応に困る。
「あ、ご、ごめんなさい」
我に返った女性は慌てて謝る。
そして、取り繕うように自己紹介をした。
「シュウ君……だっけ?私は佐倉彩音。仲良しファイトクラブのメカニック担当をしてるの。よろしくね」
「おう、こちらこそ!それじゃあ、えっと……あやねぇで」
「?」
「呼び方。年上っぽいから彩姉ぇ」
さっき兄貴呼ばわりされたのがなんとなく気になったので仕返しのつもりで言ってみた。
「うん。子供達にもそう呼ばれてるから、良いよ」
自己紹介も終わったので本題に入る。
「それで、ビーダマンの内部が故障したんだっけ?」
「ああ」
シュウはビーダマンをあやねぇに渡した。
あやねぇは、ボディを外し、コアを開いた。
「うお!?」
「どうした、シュウ?」
「ぶ、分解した……」
「お前、バラした事無いのか?」
「しょ、しょうがねぇだろ。そのビーダマン、最初から完成されてて説明書とかなかったし。まだ始めてから一ヶ月くらいしか経ってないんだから」
「いや、それにしても……って一ヶ月!?」
「ああ」
タケルは、シュウの言葉に戦慄した。
(始めて一ヶ月であそこまでのバトルをするとは……)
そうこうしているうちに、あやねぇのビーダマン診断が終わった。
「う~ん……ホールドパーツの破損は交換すればいいけど。コア自体がかなり消耗してるなぁ。ちゃんとした設備が無いとちょっと難しいかも」
言って、あやねぇは立ち上がった。
「ラボに行きますか?」
タケルが聞く。
「うん、あまり気乗りしないけど」
あやねぇはうなずきながら、悲しそうに微笑んだ。

そんな感じで、シュウ達は再びラボに着いた。
中に入るなり、あやねぇは机の前に座り、機械の中にブレイグを入れる。
そして、隣に設置してあるキーボードを叩く。
なかなか良い手際だ。
「うおっ、な、なにやってんだ、どうなってんだ?!ブレイグは無事なのか!?」
なんだかよく分からないうちに作業が進んでいくので、シュウは落ち着かない。
「落ち着け。彩音さんの腕は確かだ。すぐ元通りになる」
「お、おう……」
とりあえず深呼吸。
「ブレイグ……」
そして、作業に集中するあやねぇの背中をただ見つめ続けた。
数十分後。ようやくあやねぇの顔が上がる。
「ふぅ」
一息つく音が、作業終了の合図だった。
「終わったの?!」
「えぇ。あなたのビーダマンは元通りよ」
言って、機械からブレイグを取り出してシュウに渡す。
「おぉ~、ブレイグ!!」
飛びつくようにそれを受け取り、頬擦りする。
「破損自体は大したこと無かったけど。ちょっとメンテナンス不足が目立ったかな。ちゃんとトリガーのグリスアップとかしてる?」
「グ、グリス……?」
「……知らないの?」
「うん」
タケルがフォローを入れる。
「彩音さん。こいつ、一ヶ月前に始めたばかりで、ロクに分解もした事無いんすよ」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ今度教えてあげるね」
「是非に!」
「ところで、シュウ君。このビーダマンって市販品じゃないよね。どこで手に入れたの?」
「あぁ、これ、何故かウチに置いてあったんだ。どこの誰が作ったのかは俺も全然分らない」
「お前、そんな得体の知れないビーダマン使ってたのかよ!?」
タケルが突っ込む。
「う…だって、父さんがビーダマン買ってくれなかったからさ。
家にあるのを使うしかなかったんだよ……それにさ、なんか不思議なんだけどブレイグは手にした瞬間から凄く手に馴染んだんだ。まるで昔から一緒だったみたいに」
「そうなんだ……。ちょっと分析してみたんだけどね、このビーダマンかなりの完成度よ。フォルム、性能、全てが完璧なバランスで出来てる。
普通のメカニックじゃここまでの物は作れない。このビーダマンを作った人はきっと天才よ」
「へぇぇ」
「それに、この設計思想……どこかで……」
彩音が意味深につぶやくが、小さすぎて二人には聞き取れなかった。
「って、なんでそんなものがシュウの家にあるんだ?!」
「俺が聞きてぇよ」
「何か、心当たりはないの?例えば、親類に技術者がいる、とか」
「う~ん…特に聞いた事無いなぁ」
「そっか……」
彩音はちょっと残念そうにうつむく。
「それよりもさ、天才メカニックって言ったらあやねぇだって凄いじゃん!」
とシュウは棚を指さす。
「え、私?」
「あそこのビーダマンってあやねぇが作ったんだろ?」
「うん、そうだけど……」
あやねぇは、なんだか答えにくそうにうなずいた。
「やっぱりそっかぁ!アレだってすごいじゃん!どれも見た事無いものばっかだし、強そうだし!」
「ふふ、ありがとう」
興奮気味に褒め称えるシュウに対して、彩音は苦笑しながらお礼を言った。
「これとか特にカッコいいなぁ……」
数あるビーダマンの中シュウは特に厳重に保管されている三体に興味を示したようだ。
とりあえず、一番手前で取りやすいヴェルディルに目をつける。
「さっきも見たけど、ライトニングヴェルディルいいなぁ……。ねぇ、取り出してみてもいい??」
「うん、いいよ。はい、鍵」
「やったぁ!」
「ふふ、大事に扱ってね」
「は~い!」
シュウは彩音から鍵を受け取ると、意気揚々と棚からライトニングヴェルディルを取り出す。
「やっぱ、この『ライトニングヴェルディル』は別格だぜ~!ブレイグほどじゃないけど、強そうだなぁ。ねぇ、ちょっと撃ってみても良い?」
「ふふ、そんなに気に入った?じゃあ、ちょっとだけなら良いよ」
「ほどほどにしとけよ。大事な機体だからな」
「分ってるって!」
シュウはヴェルディルを手に持って、ビーダマン練習用の台の前に立った。
そして、台の上に数本のターゲットを置く。
「いっけぇ!!」
ドンッ!ドンッ!!
連射でそのターゲットを倒していく。
「すげぇ、俺連射苦手なのに、めちゃくちゃ撃ちやすい!片手持ち撃ちだから、装填もしやすいし!」
ヴェルディルの操作性にシュウは感動した。
「撃ちながら装填出来るから、玉切れになっても攻撃に隙が出来ない!こりゃいいや~!!」
ドンドンドン!!
途切れることなく撃ちまくる。
「お、おいおいあまり調子に乗りすぎるなよ!」
と、慌ててタケルが忠告する。
「へーきへーき!」
シュンッ!カコンッ!
フィールド内を乱射されたビー玉が、乱反射していく。
「げぇ!!」
そして、反射した玉が、ヴェルディルのサイドにヒットする。
「うわわわ!!」
「だから言わんこっちゃない」
「うぅ、ご、ごめん……」
シュウは申し訳なさそうに彩音にヴェルディルを差し出す。
「あぁ、このくらいなら大丈夫よ。気にしないで。でも、そんなに凄かった?」
彩音は、気落ちしたシュウをフォローするように優しく語りかけた。
「うん!俺は、やっぱブレイグの方が扱いやすいけど。ヴェルディルも凄いビーダマンだった!!」
「ふふ、かなり昔に作ったものだけど、性能は今のビーダマンに勝るとも劣らないはずよ」
かなり昔に……。その言葉を聞いて、シュウは一つ疑問を抱いた。
「あれ、そういえば、ここにあるのって四年前に作ったものばっかりなの……?」
確かタケルが、四年前の世界大会に使ったものだって言ってたし、棚に置いてあるラベルの開発年号にも四年前以前のものしかない。
「新しい奴は別の場所に保管してるの?」
「え……」
シュウの質問に、窮するあやねぇ。
「さ、最近は作ってないの……!」
「えぇ~、もったいない!四年前でコレだけのものができるんだから、今作ったらもっとすごいのができるんじゃないの?!」
「……」
黙りこむあやねぇ。何か訳があるのだろうが、鈍感なシュウはそれに気づかない。
「ほら、特にコレとか、すっげぇいい出来だし!えっと……スパルナ……?」
シュウはヴェルディルを取り出した事で、露出したもう一体のビーダマンに手を伸ばした。
「それはダメ!!」
その瞬間、あやねぇが凄い剣幕で、伸びていくシュウの手を制止した。
「え、あの……?」
突然の事で訳が分からずにキョトンとする。
「ご、ごめんなさい。この子は、特別だから……」
そう言って、彩音は気まずそうにスパルナをもっと奥に仕舞い込んだ。
「ごめん、ね」
申し訳なさそうに謝る彩音を見ていたら、なんだかこっちの方がいたたまれなくなってしまう。
「え、えっと、すみません。俺、何も知らなくて……」
「あ、いいのよ!何も言わなかった私の方が悪いんだから」
二人の間に気まずい空気が流れる。
その時だった。
バンッ!と気まずい空気を切り裂くようにラボの扉が勢い良く開くと同時に元気の良い女の子の声が聞こえてきた。
「お姉ちゃんいる~?預けておいたあたしのビーダマン、もう修理終わった頃だよね?」
一同、扉のほうへ振り向いた。
「あぁ、琴音ちゃん。うん、直ってるよ。すぐ持ってくるね」
そう言って、あやねぇが立ち上がり奥へと行く。
「ありがと、お姉ちゃん」
そして、その女の子はタケルの存在に気づく。
「あ、タケル来てたんだ」
「『来てたんだ』じゃないだろ。またクラブサボりやがって……ほんとにこの姉妹は……」
タケルは呆れたように額を抑える。
「別にいいでしょ。わざわざ律儀にクラブに行って練習する必要ないんだから……って」
そして、シュウの存在にも気づいた。
「あ、あんた!なんでここに?!」
「……誰だっけ?」
シュウの言葉に琴音はズッコケた。
「琴音よ琴音!この間公園でバトルしたでしょ!」
「琴音……」
公園でのバトル?
公園では、ヒンメルとバトルしたんだけど……。
ぁ、そういえばその前に。
「あぁ、薄らぼんやりと思い出してきた」
「う、うすら……」
「ヒンメルとのバトルの前座のビーダーだ」
「なっ……!」
「ぷっ……!」
思わずタケルは吹いた。
「いい加減にしなさいよね……ってかタケル!あんたでしょ!こんな奴クラブに招き入れたのは!!」
「あぁ、なかなか見所がある奴だったからな。早速クラブに入ってもらった」
そのやりとりを見て、シュウはあることに気づいた。
「もしかして、琴音も仲良しファイトクラブのビーダーなのか?」
「もしかしなくてもそうよ」
「琴音は俺と同級生で、彩音さんの妹なんだ」
タケルが簡単に説明する。
「そっか。じゃぁ呼び方はことねぇだな!」
「こと……ねぇ?」
「おう!あやねぇの妹で俺より上級生だから琴姉ぇ!」
「……まぁ、なんでもいいけど。それよりもシュウ!あたしと勝負しなさい!!」
ことねぇはいきなり勝負を仕掛けてきた。
「え、バトルするのはいいけどなんで?」
「散々前座とか言われて黙ってられないわ……!あたしの本当の実力を見せてあげるわよ!」
「実力っつったって、あっさり俺に負けたじゃん」
「アレをあたしの本当の実力と思わないことね……」
ガチャリ……!
タイミングよくあやねぇが戻ってきた。
「お待たせ琴音ちゃん。ビーダマン持って来たよ~」
のんびりとした様子で戻ってきたあやねぇだが、室内の緊迫とした空気に少し戸惑う。
「ありがと、お姉ちゃん」
ビーダマンを受け取ることねぇ。
「ど、どうしたの?」
あやねぇはことねぇとシュウの間に流れる並々ならぬ気迫にたじろいだ。
「うん、ちょっとね」
ことねぇは不敵に笑って、そのビーダマンをシュウに突きつける。
「この間は修理中で市販ビーダマンを使ってたけど。これが本当のあたしのビーダマン……!」
「っ!?」
それは、狼をモチーフにしたようなビーダマンだった。
「瞬速の狼!スパークグルムよ!!」
それを見て、シュウは楽しそうに口元を緩める。
「スパークグルム……か。へへっ、面白くなってきたぜ!」
ギュッとブレイグを持つ手を強めた。
「んじゃ、クラブに戻るか?ここじゃバトルできないだろ」
タケルが言う。
「ん、そうだな」
一同特に異存はなかったので、いったんクラブに戻ることにした。

クラブに戻ったシュウ達。
「ルールはあの時と同じ、SHBだ!先に相手の紙風船を割った方が勝ち!」
タケルがルール説明をする。
「おっけ……だけど、それって屋内で出来るの?」
「あそこにプロレスみたいなリングがあるでしょ?あそこは、オープン系の競技をするためのリングなのよ」
琴音が指差したのは、ロープで囲まれたプロレスするみたいな、正方形のリングだった。
「なるほど!広さもそこそこあるし、面白いじゃん!!」
シュウと琴音がリングに上がった。
「んじゃ、俺がレフリーを務める。両者、レディ…!」
タケルが片手を上げたのを合図にして、シュウとことねぇがビーダマンを構える。
「ビー・ファイトォ!!」
上げた手を勢い良く下ろす。と同時にシュウとことねぇがトリガーを押す指に力を込める
「一気に行くぜ、ブレイ……!」
バチコーンッ!
シュウが撃とうとした瞬間、数々のビー玉が襲いかかってきた。
「うおっ……!」
なんとかパワーショットで全部はじき飛ばすが、おかげで攻撃の体勢が崩れてしまった。
「遅いわよっ!」
再び、グルムの連射がブレイグを襲う。
「グッ!」
威力は無いので、迎撃は簡単なのだが、攻撃に移る事が出来ない。
「な、くっ!これじゃ、攻撃に移る暇が無い……!」
「ふふふっ!」
一撃一撃は軽いのだが、何度も受けているとこっちも疲労が溜まってくる。
「くそっ、あんなに軽そうなショットなのに……こう連射されると……!」
「瞬速の狼って言ったでしょ!連射速度だったら誰にも負けないわ!!あんたには攻撃のチャンスを与えないうちに終わらせてあげる!!」
「ぐ……ふざけんなよ……!」
何も出来ないまま、グルムの高速連射に翻弄されてしまう。
バトルは膠着状態だが、このままではシュウがジリ貧だ。
その様子を観戦しているタケルとあやねぇ。
「シュウの奴、完全に劣勢だな」
「あの子、なかなか筋が良いし、ビーダマンも高性能だと思うんだけど」
「ありゃ、相性が悪すぎだ」
肩をすくめるタケル。
「そうね。ブレイグの特長はパワーだけど。それは攻撃に転じなければ活かせない。
対する琴音ちゃんのグルムは、軽いホールドパーツと片手撃ち用グリップを利用した連射型。
連射速度、装填性、共に優れているから、相手が攻撃に転じる前に連続攻撃で相手の動きを封じつつダメージを与えられる。
しかも、ブレイグは発射までに一瞬のタイムラグがあるから、グルムに翻弄されるまま何も出来ない」
彩音の分析は的確だった。しかし、それに対してタケルはニヤリと笑う。
「確かに、普通の奴だったらこのまま決まっちまうだろうけどな」
「?」
何か含みのある言い方をするタケルに首を傾げる彩音。
「まぁ、黙って見てようぜ。面白いものが見れるかもしれない」

戦況は変わらない。
ブレイグがジリジリと押されている。
「これで決まりね」
琴音が余裕綽々の様子で言う。
「くっ!」
シュウは疲労が溜まってきたようで、迎撃の手も緩んでいる。
このままでは、やられる……!
「負けて……たまるかよ……!」
一瞬、負けそうになった気持ちを奮い立たせる。
「ブレイグ!お前何やってんだ!!」
そしてブレイグに怒鳴る。
「な、なに……?」
いきなり怒鳴ってきたシュウにことねぇはびっくりする。
「せっかく修理したってのに、そんな無様にやられるままで……お前はそんなんじゃねぇだろ!!」
言ってる間にも、グルムとことねぇは攻撃の体制に入る。
「ヒンメルにはボロ負けして、タケルにも負けて、そして、ことねぇにまで……これ以上負けるわけにはいかねぇだろぉがぁぁああああ!!」
シュウの気合に応えたのか。ブレイグの強力なショットがグルムの連射をすべて吹き飛ばす。
「えぇ、風圧で……マジなの!?」
「よし、これで五分と五分だ!」
「甘い!また翻弄してあげるわよ!!」
ズドドドド!
グルムの連射がシュウを襲う。
「くっ……!全然連射が途切れない……!」
その時、シュウはある事に気づいた。
(ん、連射が途切れない……?そう言えば、なんかデジャヴ……)
カンッ!カンッ!!
グルムの連射をフットワークでなんとか交わす。
(そうか!あの機体、ヴェルディルと良く似てるんだ!だとしたら…!)
「いけぇ!!」
再びことねぇの連射が襲う。
一発……二発……三発……それは、シュウを翻弄させるための軌道だ。
(やっぱりそうだ。だったら、チャンスはこのすぐ後!)
何発か撃ったあと、ことねぇは、体勢を変えずに連射したまま左手でビー玉を装填しようとする。
「今だ!!」
「えっ!!」
その瞬間、シュウは素早く琴音の右側のロープに、パワーショットをぶちこんだ。
ショットは、ロープの反動で跳ね返り、琴音の右側に飛んでくる。
「きゃっ!!」
それに対してことねぇは咄嗟に反応できず、紙風船は割られてしまった
「えぇぇ……」
「勝負あり!勝者、シュウ!!」
タケルが勝敗を下した。
「よっしゃああああ!!」
シュウは、ブレイグを掲げて、ガッツポーズする。
「そんな……」
ことねぇは、よろよろとヘタレこむ。
「負けた……」
「油断したな、琴音」
そこに、タケルが声をかける。
「シュウの気合いは半端じゃない。わずかな隙でもチャンスに変えちまう。装填に優れてるお前は体制を変えずにビー玉を装填しようとした。
でもそのせいで、真横からの攻撃に咄嗟に反応できなくなっていたんだ」
通常通り両手撃ちのビーダーがビー玉を装填する場合は、装填速度が遅い事を考慮に入れているので、
速度を上げるよりもむしろ装填している間に攻撃されないように回避に集中する。
しかし片手撃ちで、装填性に優れているビーダーは、装填速度が早い事を自負しているので、連射の手を緩めないように素早く装填する事に意識を集中する。
だが、そのせいで真正面への攻撃の隙は崩れないが、真横からの攻撃に対する回避が一瞬疎かになってしまうのだ。
「……悔しいけど。認めるしかなさそうね」
ことねぇは、潔く負けを認め、リング上で小躍りするシュウに近寄った。
「シュウ」
「おう?」
ことねぇの存在に気付いて小躍りをやめる。
「へっへっへ!どうだ、これがブレイグの力だ!」
シュウは得意気にブレイグを突き出した。
そんなシュウに苦笑しつつ、琴音は潔く負けを認めた。
「えぇ、認めるわ。あたしの負け。でも、次はこうはいかないわよ」
「おう、望むところだぜ!」
シュウはニカッと笑った。
そこへ、タケルもやってくる。
「さて、新メンバーとの友情が深まった所で……」
「なんだ?歓迎会でもやってくれるのか!?」
「ふっふっふ」
と、タケルはどこから取り出したのか、雑巾やら箒やらを取り出してシュウ達に手渡した。
「へ?」
「な、なによ、これ」
「さぁ、今日の練習は終了だ!!これからクラブの大掃除をはじめるぞぉ!!」
「「「ええええええええ」」」
いきなりの掃除宣言に、周りにいた全員が不満の声を出す。
「近頃どうも埃っぽくてなぁ……いつか掃除しよう掃除しようと思ってたんだが。彩音さんも琴音も全然クラブに顔出さないんだもんなぁ。
いやぁ、いい時期にメンバーが増えてくれたぜ!」
(俺が勧誘されたのって、掃除の頭数増やすためかよ……!!)
シュウは、これからのクラブ活動に一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

つづく

次回予告

「た、大変だ!俺達の仲良しファイトクラブに、道場破りがやってきた!
早速挑戦を受けたんだけど、そいつがいきなり変な動きをしたかと思ったら、ビー玉の動きが変化したんだ!?
あ、あいつ、一体どんなビーダーなんだぁ!?

 次回!『卑劣!ブレーキ・オランギル』 

熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」

  

 




オリジナルビーダマン物語 第4話」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: オリジナルビーダマン物語 第3話 | ユージンの競技玩具ライフ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)