オリジナルビーダマン物語 第5話

Pocket

爆砕ショット!ビースピリッツ!!

第5話「卑劣!ブレーキ・オランギル!!」

 とある朝の爆球小学校。
「おはよう~!」
シュウが欠伸を噛みしめながら、教室に入ると転校初日で仲良くなった田村と吉川が絡んできた。
「おうおう竜崎!聞いたぜ、お前仲良しファイトクラブに入会したんだって?!」
「ん、まぁな」
眠気のせいで二人のテンションに合わせられず、目をこすりつつ生返事する。
「あんなショボくれたクラブに入るなんて、お前も酔狂だなぁ。あ、あれか?守野先輩に脅されたとか?」
田村と吉川がシュウの身の危険を案じるように言うので、シュウは慌ててフォローした。
「そんなんじゃねぇよ。確かに寂れてるし、名前もアレだけど……でも、メンバーはめっちゃ強いし設備もしっかりしてるからさ」
「そうかもしれないけど……」
シュウのフォローを聞いても、イマイチ腑に落ちない様子である。
「それにやっぱ、ヒンメルにリベンジするためにはどっかに所属しないとな!」
シュウの言葉に二人は目を丸くする。
「お前っ、やっぱあれマジだったんだ」
「ヒンメルと再戦する気なのか……!?」
なんだか必要以上に驚愕している二人を疑問に思いながらも、シュウは答える。
「ったり前だろ~!今度戦う時は絶対に負けねぇ!!」
「でも、それはマジでヤバいって!」
「なんでだよ、世界チャンピオンだからってビビる事はねぇ!ようはちょっと強いだけで、同じビーダーだ!」
「同じ、じゃないかもしれないんだよ……」
田村が、ちょっと口ごもる。
「へ?」
「これは、あくまで噂なんだけどな。いや、噂というのもおこがましい、都市伝説のレベルだ」
「なんだよ、良いから言ってくれよ?」
シュウが急かすと、田村は言いづらそうに口を開く。
「ヒンメルと戦うのは、危険かもしれないんだ」
「は……?」
田村の言葉に、シュウはキョトンとする。意味がわからないようだ。
「だから、普段ヒンメルは、かなり力を抑えている。でも本気になった時の力は凄まじく、対戦相手どころか周りのすべてを滅ぼしてしまうらしい」
「一度それで、都市一つを壊滅させたとか、させなかったとか……」
「……」
田村と吉川が教えてくれたヒンメルの情報を聞き、シュウは神妙な顔つきになる。
「ヒンメルが…」
「うん」
「ビーダマンで…」
「うん、うん」
「都市一つ壊滅させた……」
「うん、うん、うん」
「……」
あまりの恐怖の真実に、シュウはうつむいた。よく見ると、小刻みに体が震えている。
「シュウ……」
田村は、やはり言うべきではなかったかと後悔し、シュウの肩に手を置こうとする……。
「くくく……」
が、その瞬間シュウの口から笑いが漏れ出した。
「だーーっはっはっは!!なんだその話~!!ばっからしいい~!!!」
「シュ、シュウ……」
あまりに可笑しかったのか、シュウは腹を抱えて地面に転がる。
「だってさぁ、ビーダマンで都市一つ壊滅とか、どんだけ超人だよ!アニメの世界じゃねぇんだからさ~!!」
転がりながら、地面をバンバンと叩く。よほどツボったらしい。
「そ、そりゃあくまで都市伝説だから、誇張表現はしてるだろうけど」
「火の無い所に煙は立たないっていうだろ」
この反応は予想してなかったのか、二人はちょっとうろたえて弁解する。
さすがにバカにしすぎた事を感じたシュウは、ゆっくりと立ち上がった。
「あのさぁ、俺一回ヒンメルとバトルしてるんだぜ~?でも俺この通りピンピンしてるぜ!
そりゃ、あいつも完璧本気じゃなかっただろうけど、それでも本気出したからってそこまではないだろう~!」
「まぁ、信じる、信じないは勝手だけどさ……」
「とにかく、俺は大丈夫だって!クラブでガシガシ力つけて、大会でヒンメルをぶっ倒してやるぜ、なっはっはっは!」
余裕で高笑いするシュウに、田村と吉川は顔を見合わせることしかできなかった。
「それにしても……ぷっ、くくく……!あははは……!」
やっぱり我慢できなくなったのか、腹を抱え、しゃがみこんで笑いだした。
「ひーーー!ひーーー!腹いてぇぇぇ!!!!」
その時、しゃがみこんだシュウに覆いかぶざるような巨大な影が現れた。
「ほぅ…腹痛なら、保健室に行くか、竜崎?」
影から震えるような声が発せられる。
「あ……」
ビクッとして笑いを止めて見上げると、そこには担任の先生がこめかみをヒクヒクさせながら立っていた。
「もうHRは始まってる時間なんだがなぁ」
周りを見ると、いつの間にか田村も吉川も席についていた。
(う、裏切り者め……!)
シュウは慌てて立ち上がる。
「やべっ、ごめんなさい!腹痛くないです!怒った先生に怒鳴られる前に席につきます!!」
先生の口が開くよりも先に早口でそうつげて足早に自分の席についたのだった。

 そして放課後。
 シュウはHRが終わると同時に学校を飛び出し、仲良しファイトクラブへと足を運んだ。
「こんちゃーっす!」
 勢い良くクラブの扉を開ける。
「あ、シュウ」
 中には、いつものようにラフな服装をした琴音がいた。備え付けのベンチに座って、グルムの手入れをしているようだ。
「あれ、ことねぇ一人?タケルは……?」
  いつもだったら、むしろ琴音の方が留守でタケルが一人で練習してる印象なのだが、今日は逆にタケルが見当たらずに琴音がいる。
「タケルは町内会の集まりで、いま公民館に行ってるの。それであたしが留守番。あんた、まだクラブの鍵持ってないでしょ?」
 琴音はポッケから銀色に光る鍵を取り出すと、指でクルクル回して見せた。
「あ、そういえば」
 クラブに誰もいないとなると鍵をかけざるを得ない。しかし、そうなるとシュウがクラブに入れなくなる。そこで琴音が留守番を頼まれたと言う事だ。
「ハイ、これ合鍵」
「お、おう……」
「それじゃ、あたしはこれで」
 無造作に鍵を渡され、キョトンとしているシュウを置いて琴音はとっとと出ていこうとする。
「って、どこ行くんだよ?!」
 シュウは、慌てて琴音の背中に疑問を投げかける。
「どこって、どこでもいいでしょ?」
 琴音は振り返って、しれっとした顔で言う。
「いや、クラブ活動しないのかよ!?」
「あたし、これから一人でデートなのよ」
「あ、そっかヒトデーか。じゃあしょうがないな」
「そういうわけだから、これで」
 片手を上げて、シレッした態度でシュウの横をすり抜けていこうとする。
「って、ちょっと待て!嘘だろそれ!?」
 シュウが琴音の背中に向かってツッコミを入れると、琴音は振り返ってバツの悪そうに笑った。
「バレたか」
「そりゃその格好見ればバレるわ!どう見ても、運動用の格好じゃんか。それに俺がここに来る前にことねぇは、グルムの手入れをしていた。ヒトデーするんならビーダマンより自分の手入れをするべきだ」
 シュウは、右手をアゴに添えて名探偵バリの推理を披露した。
「おぉ~すごいねぇ、シュウ!なんか名探偵バカヤロウみたい!!」
 名探偵バカヤロウとは、10年以上続いている推理ものの長寿アニメだ。主人公のメガネ少年の口癖が『バカヤロウ』なのが特徴。
「え、いやぁ~。実は子供の頃、ワトソン君に憧れてた時期があってさ~」
「あぁ、誰でも一度はそういう時期ってあるよね~!」
「そうそう、カッコイイもんなぁワトソン君……って話逸すんじゃねぇ!!なんでわざわざ嘘ついてまで外出ようとするんだよ。なんか言えない用事でもあるのか?」
「そういうわけじゃないけど。あたし、クラブで練習するより外で練習した方が好きなんだよね。昔からそうだったし」
「えぇ?!こんなに設備揃ってるのに、外のがいいの!?なんで??」
 初めて仲良しファイトクラブに入ったとき、その設備の充実さに感動したシュウとしては納得がいかないらしい。
 確かに、バトルするなら外の方が楽しくて気持ちいいけど、練習する分には設備が揃っているこの練習場の方が効率が良さそうなのだが。
「特に理由はないよ。言ったでしょ、昔からそうだったからってだけ」
 昔から……その言葉がなんとなく気になった。
 琴音は、前々からこのクラブにいるような感じだ。しかし、昔からクラブで練習してないって事は、最近クラブに入ったって方が自然な感じがする。
 ずっとクラブにいるのに、その設備を使わないのは少々もったいないし。
「ことねぇって、いつから……」
 シュウがその疑問を口にしようとした時、クラブの扉が勢い良く開いた。
「たのもーーーー!!!じゃん!!」
 突然の出来事にビクッとした二人がその扉の方に視線を向けると、そこにいたのはパンクファッションでエアギターのポーズをした少年だった。
「「……」」
 ちょっと予想外な訪問者に一瞬思考停止する二人だったが、我に帰った琴音が遠慮がちに話しかける。
「えっと、あなた誰?うちのクラブに何か用でも……?」
「じゃんじゃんじゃじゃーーーん!!!」
「っ!?」
 質問に、エアギターで答える少年に、琴音は体をこわばらせる。
「オレっちは、ジャンジャンじゃーーん!道場破りに来たんじゃーーん!!」
 奇抜な格好、奇抜な言動の少年が発した答えは、聞き捨てならないものだった。
「道場破り?!」
 目の前の人間が戦う相手だと認識したシュウは、気持ちを戦闘モードに切り替えて身構えた。
「おもしれぇ!道場破りなんて生まれて初めて遭遇した!!やっぱクラブに入ってよかったぁ!」
「って、何面白がってんのよ?!そんな場合じゃないでしょ!?」
「分かってるって!ようは、返り討ちにすればいいんだよ!」
「全く……」
 琴音はノー天気なシュウに対してため息をつくと、じゃんじゃん言ってる少年に向き直った。
「あ~、悪いんだけど。今、ウチのリーダー留守にしてるから。また今度にしてくれない?」
「じゃじゃん!?それは、本当なのかじゃん!?」
 大袈裟に驚きショックを受けたパンク少年は、エアギターを地面に落としてしまった。エアだけど
「そ、ごめんね」
 琴音は、少年の傷心にはお構いなしに、素っ気なくシッシッという風に手で払う仕草をした。
「って、断るのかよ!?」
 琴音の対応を見て、シュウは二人の間に割って入る。
「だって、こんな面倒そうな奴。イチイチ相手にすることないでしょ」
「冗談じゃねぇ!挑戦されたってのに逃げられるかよ!!」
「タケルがいない間にこんな奴と関わって、もしクラブで何か問題起きたら、あんた責任取れる?」
「そ、それは……ええい!勝ちゃ良いんだよ!勝ちゃぁ!!」
 そんな二人のやりとりを聞いてないのか、パンク少年は不服そうな顔で帰り支度をしていた。
「それじゃあ、また今度にするじゃん!それまでせいぜい首を磨いて待ってるじゃん!!」
 踵を返して今にも扉に向かって歩きそうなパンク少年を、シュウが慌てて制止する。
「あああ!待った待った!お前の挑戦受けるぜ!!」
「ちょっ!」
「じゃん!?」
 シュウの言葉を聞いて、パンク少年は嬉々として振り返った。
「そ、それは本当じゃん?」
「ああ!挑戦してきた相手から逃げるなんて男じゃねぇからな!」
「なるほど!と言うことはつまり、あそこにいる女は男失格という事かじゃん?」
 パンク少年が、琴音を指さす。
「そうだな、ことねぇは女だからな!」
「納得じゃん!!」
 会話が謎すぎる……。
「はぁ……もう勝手にしなさいよ。あたしは知らないからね」
 と言いつつ、ベンチに座る琴音。外に出る予定だったが、こうなった以上は成行きを見守る必要があると思ったのだろう。
 そんなわけで、シュウとパンク少年のバトルが成立した。
「よっしゃ、バトルだ!……えっと、まだ名前聞いてなかったな。俺はシュウ!お前は?」
「さっき名乗ったじゃん?」
「え?うそぉ!?」
「名乗ったじゃん!」
「そっか……悪い、覚えてないんだ。もっかい言ってくれ」
「ジャンジャンじゃーーん!」
 少年は気を悪くしたのか、名前を言ってくれない。
「だから、悪かったから!名前教えてくれよ」
「だから、ジャン・ジャンじゃん!!」
「……」
 何度名前を聞いても、じゃんじゃんとしか答えてくれない。
 しかし、シュウは気づいた。
「もしかして、『ジャンジャンじゃん』ってのが名前なの?」
「違うじゃん」
「違うのか……」
「『ジャン・ジャン』が名前じゃん!」
「あぁもう……!」
 じれったい。
「苗字がジャンで名前がジャンなのじゃん!」
「な、なるほど……」
 深く追求するとめんどくさそうだから、納得しておいた。
「と、とにかくルールを決めよう……えっと……」
「あそこに丁度いいリングがあるんだから、シャドウヒットバトルにするじゃん!」
 ジャンは目ざとくクラブに設置してあるリングに目をつけて指差す。
「え、あぁ。俺も好きなルールだからな。いいぜ!」
(にやり、じゃん)
 ルールが決まった途端、ジャンは口元に笑みを浮かべたのだが、シュウはそれに気付かなかった。
 お互いにバトルのためにビーダマンを準備する。
「お前のビーダマン変わってるなぁ~」
 ジャンの取り出したビーダマンは見た事ないものだった。
「ブレーキ・オランギル!オレっちのイカしたオリジナルビーダマンじゃん!」
「へぇ~、面白そうじゃん!」
「マネするなじゃん!」
「してねぇよ!」
「あ~、はいはい。いいから始めるわよ」
足に紙風船を括り付け、二人はリングに上がった。
そして、対角線上の角に行って対峙する。
「それじゃ、バトルを始めるわよ。準備はいい?」
琴音がレフェリーを務めるようだ。
「ああ、いいぜ」
「じゃん!」
二人とも準備はOKだ。
「レディ・ビーファイト!」
琴音の合図とともに二人が動き出す。
「いっけぇ!!」
まずはシュウが先手とばかりにパワーショットを放つ。
「おおっと!」
が、ジャンが間一髪でそれをかわす。
「なかなかパワーは強いようじゃん!だったら、オレっちのショットを受けてみるじゃん!」
ギシギシギシ……!
ジャンが、機体が軋むほどの力でホールドパーツをシメつける。
「あ、あんなにシメ付けて……!きっと、凄いパワーショットがくるに違いないぞ!?」
身構えるシュウ。しかし……
「うりゃああああ!じゃん!!」
ポコンッ!
オランギルから発射されたショットは、パワーショットとは程遠い、弱ショットだった。
「おろっ?」
ヒョロヒョロと飛んできたオランギルのショットが、ポテッと地面に落ちる。
「……なんじゃこりゃ、よえぇぇ~!あんだけシメ付けといてそれかよ~!!」
拍子抜けしたと同時に、シュウは落ちたビー玉を指差して笑い出した。
「シュウ!油断しないで!!」
外からの琴音の言葉にハッとして、ジャンを見る。
ジャンは次のショットの構えに入っていた。
「あいつ、今度はノーマルショットか。シメ撃ちであの程度なんだから、今度は……」
ドンッ!!
しかし、ノーマルショットにも関わらずさっきのシメ撃ちとは違い、普通に威力のあるショットが発射された。
「なにっ!」
油断してたから多少反応が遅れたが、なんとか撃ち落とす。
「な、なんだよ、なんで同じ機体なのにこんなに威力が違うんだ……?」
「まだまだ行くじゃん!」
ジャンが今度は機体をシメ始めた。
「シメ撃ち……って事は、弱いショットが来るのか?」
ドンッ!!
放たれたショットは、シメ撃ちとしてふさわしいパワーショットだった。
「うわわわ!!」
慌ててそのショットを転がりながらよけていくシュウ。
「く、くそぉ……!」
「ぷくく、まだまだオランギルの力の半分も見せてないのに、情けないじゃん!」
「な、なんだとぉ!ふざけやがって…確かにちょっとびっくりしたけど、パワーならこっちの方が上なんだ!喰らえ!!」
ドンッ!!
シュウがパワーショットを発射する。
「よければどうって事ないじゃん!」
「くっそぅ、チョコマカと!!」
逃げ回りだしたジャンをシュウはパワーショットを撃ちながら追いかけ回す。
「単純な奴じゃん!このまま決めるじゃん!!」
「ふざけるなぁ!!」
「ふふふ……じゃん!」
ジャンは不敵に笑ったかと思うと、トントンと足踏みした。
「スキあり!」
そこを、狙いうとうとするシュウだが、ジャンは素早く移動する。
「鬼さんこちら~、じゃん!」
「待ちやがれぇ!!」
ジャンの挑発に乗って、追いかけるシュウ。
そして、さっきまでジャンが立っていた場所に行った瞬間……!
ズルッ!!
「うわっ!!」
ズデーーーン!!
ど派手にすっころんでしまった。
「いってててて……!」
「さて、スキありじゃん」
「げぇ!」
慌てて立ち上がろうとするシュウだが、ジャンのショットの方が早かった。
バーーーン!!
シュウの紙風船が割られてしまった。
「くそっ、負けた……」
シュウはがっくりと項垂れて、リングを降りる。
「ぷくく、オレっちのオランギルは最強じゃん!」
「くっそー!あんなふざけた野郎に負けるなんてえええええ!!!」
悔しさを抑えきれず、頭を抱えて喚く。
「ま、実力の差って奴じゃん!!じゃじゃじゃじゃじゃーーーん!」
ジャンは、エアギターで勝利のファンファーレを鳴らす。エアだけど。
「アホくさ……」
琴音はその様子を、奥のベンチで頬杖付きながら、つまらなそうに眺めていた。
「さてと……それじゃあ、このクラブの看板はいただいていくじゃん!」
「えっ?!」
いきなりのジャンの発言にシュウは面食らう。
「ちょっ!」
さすがに琴音も、この言葉は聞き捨てならなかった。
「ま、まてよ!看板取るなんて、聞いてねぇぞ!?」
「何驚いてるじゃん?最初に道場破りって言ったじゃん。オレっちが勝ったからには、道場を破らせてもらうじゃん!」
「そりゃ、そうだけど……!」
「じゃ、文句ないじゃん」
「ぐぐ……!」
負けた身として、シュウは返す言葉もない。
「待ちなさいよ」
見かねた琴音が、ベンチから立ち上がってこちらにやってきた。
「何かじゃん?」
「シュウはまだこのクラブに入ってまもない新人なの。そんな新人一人に勝ったくらいでクラブを破ったと思わないで欲しいわね」
「ほぅ、じゃあ他に強い奴がいると?」
「あたしがやるわ。少なくとも、シュウよりも大先輩よ」
「面白い!コテンパンにやっつけてやるじゃん!!ちょっとメンテしたいから、5分後に同じルールで勝負じゃん!」
「OK」
それだけ言うと、ジャンはちょっと離れて機体のメンテを始めた。
「ちょっ、大丈夫なのかよことねぇ!お前俺に勝った事無いのに……!」
琴音は、シュウに一度も勝った事がない。そんな琴音がシュウに勝ったジャンに勝てるわけがないのだ。
「はぁ……あんた、実力であいつに負けたと思ってる?」
「へ?」
「あんたは、ハメられたのよ。あいつの卑怯な手に」
「卑怯な、手……?」
「あいつのビーダマンのコアについている爪。アレはダミーの爪よ、シメればシメるほど、ビー玉にブレーキをかけるの」
「あ、そういえば、それでシメ撃ちしたのにスピードが遅かったのか!」
「そうやって相手を油断させて、相手のペースを崩す。それがあいつのやり方」
「うぐぐぐ……セコイ奴だなぁ……!」
「あとそれから」
琴音は、リングに近づくと、シュウが転んだ場所の路面を指で触れた。
そして、その指をシュウの鼻先に近づける。
「これ、嗅いでみて」
「へ?」
いわれるままに、シュウは琴音の指を嗅いだ。
「クンクン……香ばしい。って、これごま油の匂い!?」
「そ、多分あいつ。靴の底にごま油をセットしてたのね。それで、シュウを挑発して追いかけっこさせて、転ばせたと」
「なんじゃそりゃああああ!!」
「本来だったら、ビーダーとしての腕も力も、シュウの方が上。だけど、こんな簡単な手にひっかかってるようじゃ、まだまだね」
「……くそ」
シュウは再びがっくりと項垂れた。

そして、5分後。
 琴音とジャンがリングに上がる。
「それじゃ、はじめるじゃん!」
「いいわよ」
「「レディ、ビーファイト!!」」
 バトル開始の合図とともにジャンが動く。
「いっくじゃーーん!!」
 ギシギシと爪を締め付ける。
「喰らうじゃん!」
 ドンッ!
 シメ撃ちが発射される。
「その手には引っかからないわよ!」
 琴音は、そのショットには見向きもせず、連射攻撃を仕掛ける。
「むむっ!」
 案の定、ジャンのシメ撃ちは威力が弱く。紙風船に届く前に地面に落ちた。
「ブレーキコアの機能に気付いたかじゃん?!」
 琴音の連射をジャンはかわす。
「まぁ、ビーダマンの名前聞いた時点で大体想像はつくわよ」
「ガーーーン!名前でバレてたじゃん!!!」
「油断さえしなければ、ブレーキなんてマイナス要素を持ったビーダマンなんて……」
「ぷくく!ブレーキオランギルは、相手を油断させるためだけのビーダマンじゃないんじゃん!」
「えっ!?」
「今に分かるじゃん!」
 ドンッ!
 ジャンが、あらぬ方向にブレーキショットを放つ。
「ミスショット?」
「勝負は、これからじゃん!!」
 ドキュンッ!!
 あらぬ方向に撃ったブレーキショットに向かって、本物のシメ撃ちを放つ。
「じ、自分のショットに対して!?」
「これが、オレっちの得意技!!」
 ガキンッ!!
 本物のシメ撃ちがブレーキショットに追いつきぶつかり、反射する。
「ブレーキリフレクション!!」
「っ!」
 反射した玉が、琴音のサイドに向かってブッとんで来る!
「そうか、先に撃ったブレーキショットにシメ撃ちをぶつける事で、軌道を変化させたのか!!」
 外野のシュウが分析する。
「はぁぁ!」
 琴音は咄嗟に反応して、それを撃ち落とす。
「なっ、あのショットに反応したのかじゃん?!」
「残念。サイド攻撃は、ちょっと前のバトルで経験済みなのよ!」
 琴音は前のシュウとのバトルを糧に、弱点を克服していたのだ。
(ことねぇは、俺とのバトルで成長した……)
「うぐぐ……もう打つ手がないじゃん……!」
「はやっ!まだバトル始まったばかりじゃない?!」
「ブレーキショットも、ブレーキリフレクションも通じず、ごま油もない……これじゃ勝てるわけないじゃん!」
「そ、それは、どうなんだろう(汗)」
「この勝負はオレっちの負けじゃん……」
 ジャンは、踵を返してとぼとぼとリングを降りる……。
「なーんて、じゃん!」
 と、見せかけて、咄嗟に振り返って強力なシメ撃ちをぶっぱなした!
「な、卑怯よ!」
「油断する方が悪いんじゃん!」
 琴音は、もう勝負がついたと思ってビーダマンを構えていなかった。この状態でシメ撃ち並のショットが来たら対応ができない!
 しかし……。
「あら?」
 ジャンの放ったショットは遅かった。
「あ~~~!!間違ってブレーキショット撃ってたじゃん!!!」
「アホ……」
 琴音はあっさりそのショットを撃ち落とし、ジャンに銃口を向ける。
「あ、あ、いや、ま、待つじゃん!」
「待たないわよ。もう完全決着するまで油断しないわ」
「う、うぅぅ……あ、そうだ!つ、使ってみれば分かります!!」
「それを言うなら、『話せば分かる』でしょうがっ!!」
 ドンッ!!
 止めにと琴音のショットが火を吹き、ジャンの紙風船を撃破する。
「ま、負けた……じゃん」
 バトル終了。
 互いにリングを降りる。
「うぐぐ……今回はオレッチの負けじゃん!でも、次はもっともっとブレーキに磨きをかけて必ずお前らを倒してやるじゃん!」
 ビシッと!人差し指を突き出して、リベンジ宣言する。
「ブレーキに磨きかけてどうすんだよ(汗)」
「それじゃ、覚えていろじゃん!!」
 お決まり捨て台詞を吐いて、ジャンは逃げるように去っていった。
「ふぅ、ほんとにめんどくさい奴だったわね……」
ひと騒動去って、めんどくさそうにため息をつく琴音。しかし、これで一安心だ。
「あのさ、ことねぇ……」
 そんな琴音に、シュウは何か言いたげに声をかけた。
 その時だった。

 ガチャ…!
 クラブの扉が開いた。
「ただいま~っと。シュウいるか~、ビッグニュースだぞ……って」
 タケルが帰ってきたのだ。
「あ、タケル。おかえり」
「琴音?お前、珍しくクラブにいるんだな。何かあったのか?」
「まぁ、ちょっとね」
 首をかしげるタケルに、琴音は苦笑いしながら答えた。
「そっか。まぁいいや。揃ってるなら手間が省ける」
「何か話でもあるのか?」
「あぁ。聞いて喜べぇ……」
 タケルが懐から一枚の紙を取り出す。
「さっきの集会でな、新しい大会の知らせを受けたんだ!」
 それは、大会告知のポスターのようだった。
「た、大会!?」
「しかもな、シュウ!この大会に出れば、ヒンメルと戦えるかもしれないんだ!」
「ヒンメルと!?」
 シュウは、喜びと驚きの混じった声を上げた。
 当然だ。ずっとヒンメルと再戦したくて、それでこのクラブにも入ったんだから、その願いが早くも叶えられようとしているのだ。
「あぁ。一ヵ月後に開かれるビーダマン県大会。
 それは各都道府県の正式登録チームのみが参加出来る大会なんだが、その東京都大会はフリューゲル家がメインスポンサーとして主催しているらしい。
 その名も『ヒンメルカップ』!」
「ヒンメルカップ……そっか、それでヒンメルは来日してきたんだ……」
 琴音はヒンメルがあの日自分達の町に来た理由に合点がいったようだ。
「それってさ、あのヒンメルが東京都大会に出場するって事?」
 シュウの質問に、タケルは首を横に振る。
「いいや。さすがに大会に出場するわけじゃない」
「それじゃ、ヒンメルと戦えるって言うのは……?」
「このヒンメルカップの優勝賞品が、ヒンメルと戦う権利なんだ!」
「優勝賞品……」
「って、じゃあ優勝しなきゃ戦えないんじゃない」
 なんだと琴音は肩を落とす。
「おいおい、最初から優勝する気で無きゃ参加する意味無いだろが」
「それは、そうだけど」
「なぁ、シュウ?お前は当然、優勝する気満々だよな!出場して、絶対にヒンメルと戦おうぜ」
 あまり乗り気でない琴音と同調するのは諦め、タケルはシュウに同意を求めた。
「……」
 が、シュウの返答も鈍い。
「どうした?」
「……あのさ」
 しばらく沈黙した後、シュウが口を開く。
「俺、やっぱ大会に出ない!!」
「そうだろそうだろ!やっぱ大会に出な……ん?」
 勢いでシュウの言葉を肯定しそうになるが、ちょっと冷静に考えると何かおかしい。
「って、はああああああああ!?!?」
 それは、衝撃的な発言だった。

 

      つづく

 次回予告

「東京都正式登録クラブ限定でビーダマン大会が開催されることになった!
しかもその主催者は、ヒンメル!つまり、この大会に出ればヒンメルとまた……!
いや、ダメだ!今の俺じゃ、俺は大会に出ない!!

次回!『打倒ヒンメルへの資格!』

熱き魂で、ビー・ファイトォ!!」 

 




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

JPEG,PNG,GIF形式の画像を投稿できます(投稿時はコメント入力必須)